41、空を制する竜使い
ガシィンッ ガシィィンッ
金属同士が激しくぶつかり合う音が戦場と化した元農村の前線砦で響く、ドルムの大剣とバガスの大剣が激突し両者共に巨体とあって迫力が回りとは違う。
文字通りの力自慢同士の力と力のぶつかり合いだ。
「(さっきのオーク達と比べて歯ごたえが違う…やっぱこいつが親玉と見て間違い無いな)」
数度ぐらい剣を交えたドルムはこのバガスが魔物の軍団を率いるボスである事に改めて確信、自分が斬ってきたオークの連中とは明らかにレベルが違っていた。
重装備であるにも関わらずバガスは想像よりも素早く、剣の腕も中々のもの。こいつは強敵とドルムは剣を構え直し気を引き締める。
「ハハハハ!人間の雑魚にしてはやるじゃねぇか。この俺の剣とパワーを正面から受け止める奴がまさか人間の中に居たとはな!」
バガスは一度ドルムから離れ距離を取ると大いに愉快そうに高笑いをした。
「だが、魔族であるこの俺とは所詮相手にはならねぇ!単純なパワーだけじゃないんだぜ俺はよ!」
そう言うと右手に剣を持ったままバガスは左手に力を込める、するとそこに発生する黒い弾。それはオークが使うダークボムよりも強い魔力が込められた物だ。
「ダークボム!」
「っ!」
ヒュッ
左手がドルムへと向けられ魔法を撃つと黒い弾は真っ直ぐドルムへと向かって飛んで行く、オークの放った物よりも強いだけではない。より速いスピードで唸りを上げていた、同じ魔法でも力技に近い魔法だった。
それにドルムは簡単に当たる訳にはいかず素早い反応を見せ、右へと少し移動してダークボムを躱した。
ドガァァーーーンッ
「ぐわあああーーー!」
「!」
ドルムが避けた後に後ろで爆発が起こり、人の悲鳴が上がった。それは仲間の騎士達へと当たったものだ、それだけでなくバガスの仲間であるはずのオークまで巻き添えにして吹き飛ばしている。
近くにまで吹き飛ばされてきた騎士は鎧を破壊されて額から血を流しぐったりとした状態だ。
「!おいガンスター!怪我人の治療頼んだ!」
僧侶で回復魔法が使用出来るガンスターへとドルムは大声で呼んだ。
「はーははは!今ので何人の人間が死んだかな!?」
「おいおい、てめえの仲間も巻き添えにしてくたばっただろうに。よく笑ってられんな?」
「此処は戦場だぜ?仲間気遣って仲良しこよしやってるような甘い奴が真っ先に死ぬもんだろ!それに仲間?あれは俺の手駒だってんだよ!駒を好きに使って何が悪い!?」
仲間をその手にかけようがバガスは知った事ではないといった風だった、それでもドルムにとって一部は同意出来る。戦場で甘さは禁物、時に甘い考えがその命を危険にさらす事がある。それは長年戦場で戦ってきたので分かるが、バガスのもう一部は同意する気など無い。
「そいつは一時の戦いでなら有利だけどよ、この先の戦になればてめぇの首をてめぇで締める事になる…と。魔物なんぞにこんなお節介はいらねぇか。どうせ聞きそうにねぇ馬鹿野郎だからな」
「馬鹿?この俺に馬鹿っつったか?力の無ぇ雑魚の人間の分際で!」
お節介の中に挑発の入ったドルムの言葉に対しバガスの顔が笑いから怒りへと変わる、自分の事を侮辱されたと感じてドルムへの強い怒りが分かりやすく現れていた。
「遊びは終わりだ!来い!」
ピィィッ
バガスは懐から小さな笛を取り出し、吹く。何かの合図なのかとドルムは警戒し剣を構えてバガスから目をそらさない。
「ギィィアァァァーーーー!」
その時恐るべき雄叫びが聞こえて来る。それは空から聞こえた物だ、空は確か多くのブラッドバードが居たはずでありドルムは空の方へ視線を向ける。
ブラッドバードよりも明らかに巨大な影、広げた翼だけでも相当な大きさ。そしてブラッドバードは横に避けて道を開けているようにも見えた。その光景にこれから現れるのは明らかに格上の者だというのが伝わって来た。
「あれは、ワイバーン…!?」
影が姿を見せ、ドルムの目に見えたのは翼竜ワイバーン。しかしそれは通常の個体よりも大きく更に身体が毒々しい紫、通常ならば緑や青に赤といった身体の色がワイバーンの一般的な色ではあるがこの紫というのはドルムの経験上見た事も聞いた事も無い。
「そいつは特別だ!特殊な魔法薬の実験によって強化されたワイバーンなんだからよ!」
「なんだと!?」
得意げにバガスはワイバーンを自慢するよに語った。紫のワイバーンは魔法薬の実験にされて強化され、通常のワイバーンを遥かに超える力を持っている。
「ゲアァァァーーーーーーーーーー!!」
ゴォォォーーーーーーーーーッ
「!?むおおおお!!」
上空のワイバーンは口から青白い炎を地上めがけて吐き出した、モーザは駆け出して前へと出ると盾を構えて自らがワイバーンの放たれたブレスを受け止める。通常ならば青い業火のブレスをまともに浴びれば人間はひとたまりも無いだろうが、モーザの鉄壁を誇る鎧、そして自身の体力で耐え凌ぐ。
「モーザ!」
「ちっ!鎧野郎が邪魔をしやがって、だが何処まで持つかな?すぐ焼き尽くされて砦もろとも消え失せな!」
騎士団や砦を纏めてワイバーンの炎で焼き尽くすつもりだったバガスはその計算が狂って舌打ちするがモーザがそう長くは持たず散るのは時間の問題と思えばすぐにニヤリと笑う。
「この!」
カーロンは弓矢を構えると上空のワイバーンの翼を射貫こうと狙いを定める、だがそこにブラッドバードが多く立ち塞がり1体はカーロンへと急降下して来る。
「っ!」
ザンッ
カーロンへと飛んで来たブラッドバードはアーガスの剣にひと振りによって身体を真っ二つにし、彼の危機を救う。
「助かった!けど、これじゃあ空の紫のヤツは狙えねぇよ!」
アーガスへ礼を言いつつも上空を見ればブラッドバードがワイバーンを守るように多く立ち塞がっており弓矢で狙い撃ちが困難となってしまっている。鬱陶しそうにカーロンは多くのブラッドバードを睨んでいた。
他の傭兵達もそれぞれ戦って混戦状態でありモーザの助けに向かう事が出来ない、ドルムは自分でなんとしてもやるしかないかと判断し作戦を瞬時に決めようとする。
その時
ドスッ
「ゲア!」
いきなり上空から急降下でワイバーンへと巨大な影が降り注ぎ、ブラッドバードやワイバーンが気づく前にその刹那だった。ワイバーンの翼が槍で貫かれ、翼を傷つけられ激痛が走るとブレスは止まり上空に留まる事が出来ず落下していった。
「!あいつ…アード…!」
ドルムは奇襲を仕掛けて来た者が誰なのか分かった、紫のワイバーンとほぼ同じ巨体を誇る赤いドラゴン。その背に乗るドラゴンライダーのアード。
「カーーーー!」
これを見てブラッドバードがアードへと大勢が襲いかかる。
ピシッ
ブォンッ ドガガァッ
「キアァァ!!」
アードは握られているドラゴンの手綱で軽くドラゴンの身体を叩くと、ドラゴンは長い尻尾を鞭のように振り回してブラッドバード達へと纏めて叩きつける。
強烈なドラゴンの尻尾の一撃を喰らい次々と地面に落下していった。
「ど、ドラゴン…!?何者だ、ドラゴンの背に乗るなんてそんな事…!」
突然現れたアードによって自慢のワイバーンを叩き落とされ、更に大量のブラッドバードをも倒されバガスの表情は明らかに動揺が生まれていた。
それをベテランの戦士であるドルムが見逃す訳が無い。
「悪く思うなよ、隙作ったお前が悪いんだからな!」
ドシュッ
「ガアッ!」
バガスは確かに白兵戦において強い、しかしどんな強者も明らかに隙だらけで無防備な所を狙われれば無事では済まない。今最大の隙が目の前にある。ドルムは上段に構えて剣を振り下ろし、最も威力ある斬撃を繰り出す。
通常のバガスなら喰らってはいなかっただろうが今色々と動揺している状態なら話は別だった。分厚い鎧ごと大剣で切り裂かれ、身体から血が吹き出しバガスは自らが作った血溜まりの池に仰向けで倒れ息絶えた。
ザンッ
同じ頃、アードは紫のワイバーンに剣でとどめを刺していた。翼を貫かれ地面に落下はしたが生きてはいる、そのまま生かして再びあのブレスを吐かれて大惨事というのだけは避けようと確実に仕留めておく、そう判断しての追撃だった。
「ウ……」
「まだやるか?俺は構わないぞ、お前達が死を恐れず戦い続けたいなら付き合ってやる。ほら、戦いたい奴から来い」
残ったオーク達は恐れつつも武器を構えていた、それを見てアードはワイバーンの血がついた剣をオーク達へと向ける。それを見たオーク達は恐怖し戦意を喪失したのか逃げ出す。
本能的に獣以上に、魔物以上にアードを恐ろしいと感じたせいか…。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、傭兵団の戦いにドラゴンライダーの登場。とりあえず悩んだのは名前とかですね。毎回これは悩む…。
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