39、襲撃される大国の砦
「酒でも飲みてぇ~」
ギーガ大陸一の大国ヴァント、その国の城にある兵舎で武術大会の優秀者達はそこで共同生活をしていた。彼らはヴァント王国に雇われた傭兵団であり何時でも国の名の元に出陣出来るようにと王から用意された物だ、元々の騎士であり幼い頃から兵舎に慣れ親しんだアーガスにとっては何の問題も無いが他はそうはいかない。
特に拳闘士のザックは机に突っ伏して暇を持て余し酒を欲し始めていた。
「此処で酒盛りでもしたら酷く酔っ払った時に出撃命令が来て思うように戦えんだろ、報酬の為にも我慢するんだな」
「わぁってるよ、ったく!」
ドルムは大きな体でソファーに横たわりながらザックに我慢するよう言えばザックは食料庫のある部屋へと行き、果実ジュースを引っ張り出して来る。酒が飲めない代わりにこれで妥協し、コルクを開けてグビグビと勢いよく飲む。
「我々は敵でも居なければ全くの出番無しですからな、コール」
「全くだ、スリーカード」
「あっ!くっそー…」
僧侶の身でありながらポーカーを楽しむガンスターの元にローレ、カーロンもポーカーに参加。ローレの方が手札が揃っておりカーロンはこの結果に頭を抱えた。
モーザは無言で武器の手入れをしており、それにアーガスも付き合っていた。
「ほう、モーザ殿。中々良い獲物を持っておられる…」
「お前も悪くないな……」
互いの武器を見てそれぞれじっくり見て互いに良い武器だと褒め合う。
「zzz」
ウィザはベッドで眠り熟睡中。それぞれが自由に時間を過ごし、共同生活を続けていた。
当時はむさ苦しい男達だけで兵舎に住んで生活などやってられないと渋る者も居たが、高額な報酬の為と最終的には報酬で我慢して生活を始めたのだ。
国王ベーザの狙いとしては猛者達を自分達の手元に置いておき、この強者達はヴァント王国の所属だと各国へアピールする。そういった思惑があるのだろう、魔王軍を倒して世を清めるのも大国としての威厳を保つのもどちらも国にとって大事であり両方の条件を満たせるのが合同生活だった。
ただ一つ不満があった。
「(こんな時何であのドラゴンライダーだけは免除されて合同じゃねえんだよ…どんだけ特別扱いされてやがんだ、気に入らねぇ!)」
この場に彼らと同じ傭兵団として参加しているはずのドラゴンライダー、アード。その人物の姿は兵舎の何処にも見当たらない、当然だ。この合同生活には参加していないのだから。
それを不満に思いザックは果実ジュースをラッパ飲み、あっという間に瓶は空っぽになった。
武術大会に参加せず、体を張ってもいない者が自分達と同じ団に加わる。いかにドラゴンライダーが特別でも気に入らなかった、此処に本人でも居たら文句の一つでも言ったりしていたのかもしれない。
彼らが兵舎で出番あるまで日常を過ごしていた時だった。
「おい傭兵団!出番だ!砦に居る騎士団が魔物の襲撃に遭っている!」
「!?」
一人の騎士が慌ただしい様子でドタドタと兵舎へと駆けつけ、傭兵達の出撃を告げる。
時を遡りヴァント王国から南にある元々は農村の地、今は此処に前線の砦が建設され頻繁に騎士達が出入りしている姿が見える。
「しっかり此処の守りを固めておけよ!敵はあのギガント要塞を制圧する程の力を持つ、此処が落とされればヴァント王国の危機と認識し励め!」
働く兵士達に自らも働いて汗を流す騎士隊長。ギガント要塞が落とされたという知らせを受け、ヴァント王国に近い前線の砦の守備を強化して強固な砦として魔王軍を迎え撃つ準備を進める、此処に攻めて来なければそれに越したことはないが万が一の為だった。
王国騎士団要の要塞だったはずのギガント要塞、それをあっさりと制圧されて今や敵の手に落ちている。つまりそれ程の魔王軍の力だと前線で戦う騎士達に伝わる、準備を怠って守りに綻びでも生じるものならばあっという間に崩れ落ちてしまうかもしれない。
大砲を取り付け、火力を高めたりと砦の強化に皆努めていた。何時来るか分からない敵に備えて。
そしてそれは急に訪れた。
ドガァーーーーンッ
「うおお!?」
急に砦に衝撃音がその場に居る全員の聴覚を刺激する、何事かと思う暇なく砦の壁に穴が空いていた。これは砲弾の類か、どちらにしても穏やかな問題ではない。
「敵だ!敵襲だーーー!魔物達だーー!」
外の見張りをしていた兵士が騒ぐ中、魔物の集団が砦へと攻め込んで来ていた。大柄な豚の魔物で棍棒や剣に斧、そして軽装の鎧を装備している。彼らはオークと呼ばれる種族の魔物達だ。そしてその先頭に重量感のある厚手の鎧と兜を装備し大剣を持った他のオークと雰囲気の違うオークが居る。おそらくリーダー格と見て間違いは無い。
「好きに暴れて良いって言われたんだ野郎ども、思う存分人間をぶっ殺せー!」
「ウォォォーーーーーー!!」
リーダー格のオークは大剣の切っ先をあの砦へと向けて叫ぶと手下のオーク達も叫ぶ、そして1体のオークは魔法を唱えた。
「ダーク・ボム!」
両手から大きな黒い玉を作り出し、砦へと向けて撃つ。先程砦の壁に穴を開けた正体はこの闇の攻撃魔法によるものだった。
更に空からは大きな鳥の魔物であるブラッドバード。血のように赤い色をした鳥が空から相手を強襲しに向かい、一人の騎士を前足で掴み上げると空へと持ち上げた。
「ひっ!?うわああああーーーーー!」
ブラッドバードは騎士を掴み持ち上げれば空高く飛び、そして空から騎士を手放し騎士は地上へ真っ逆さまに落下。
騎士は高い空から落とされ地上に激突し無残に命を散らしていく…。
「ぐおお!」
「ぐふぅ……」
騎士達はリーダー格のオークを狙って突撃し、剣を振りかざしていた。どんな強大な力のある部隊も指揮官を倒せば機能はしなくなる、全体の士気にも関わる。一つの兵法として教わった事を実行するが…今回は相手が悪かった。
リーダー格のオークの大剣の前に鎧ごと身体をたたっ切られ、血しぶきが舞う。
「雑魚雑魚雑魚!このオークキングである俺、バガス様に叶う訳が無い!」
大剣についた騎士の血を剣が吸い、バガスというオークを束ねる王はニヤリと笑っていた。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、視点は傭兵団とヴァント王国の方へ。カリアやシュウ達が動いてる間に彼らの方も色々動きあったという事で。
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