38、古の話2
「ホワイトドラゴン?」
カリアには聞き覚えの無いドラゴンの名前だった。ドラゴンに関しては過去に色々戦っており魔王軍の方でも何体かの竜を見てきている、ついこの間は地域を豪雪化させる程の力を持つ青いドラゴンとも戦った。
「あれは、存在するかどうかも分からない伝説の存在のはず…まさか実在していた?」
「どういう事だ?」
「ホワイトドラゴンは女神ルーヴェルの使いと言われる伝説の聖竜、と言ってもこれは言い伝えでしか聞いてなくてね…誰も見た事が無くて、姿は山のように大きな竜と言われたり、実は人間の女性と変わらない姿と言われたりと、実はドラゴンではないとか、色々な説があり過ぎてね…正直女神ルーヴェルの使いというのも本当なのかどうか分からない」
シュウは知っているようでカリアに伝説のドラゴンについて教えるが有力な説という物が無く、少なくともホワイトドラゴンという名は言い伝えにあるようだが誰も姿を見ておらず具体的なホワイトドラゴンの姿は何が真実なのか分からない状態だ。
「確かあたしが聞いたのだと、ごっついバードマンの騎士とか」
「…私の知らん間に様々な言い伝えが存在するようになったのだな」
テシも全く別のホワイトドラゴンに関する言い伝えを聞いており、ヘラはいずれの言い伝えを聞かされ軽く息をついた。
「デーモンロードの時代よりも更に昔……魔王と呼ばれた者が世界を支配しようと魔の軍勢を率いて各大陸へと侵略していた」
「それは、今のシュウのような…!?いや、すまん。お前は支配ではないな」
「いいよ。結局やってる事は目的が違えど他の魔王とは変わりはしない、人々からすれば突然の侵略だ」
ヘラから語られたのは先程話した脅威より更に時は遡り、シュウではない魔王が世界を支配しようとしていた。
シュウと違ってその魔王は魔の暮らしやすい世の中ではなく世界を支配せんと破壊の限りを尽くす、それこそ人々の恐れる魔王そのものだった。
「デーモンロード程ではないとはいえその魔王も力と魔力、両方を兼ね備えた大悪魔だったそうだ。その魔王を中心とした軍勢により人々は追い詰められていった…そこに現れたのが1体の白き竜」
「白き竜…それが、ホワイトドラゴン?」
「私自身見た訳ではない。ただ魔王と共に言い伝えとして残っていたのが白き竜…誰が何時の間に名づけられたかホワイトドラゴンと呼ばれる存在が現れた、そしてその竜が一人の人間を選び後に勇者と呼ばれ竜に認められた力ある者は竜の力を持って軍勢を打ち破り最後に魔王をも倒した…」
ヘラの話にカリアやテシは集中して聞いている、大昔の魔王と勇者の戦いに白き竜。これがヘラの聞いた言い伝えであるが同じく聞いていたシュウはそこで口を開く。
「その魔王はおそらく…僕より2代前の魔王になるかな。名はバルーザ、女王の言うように力と魔力を兼ね備えて歴代の魔王でも屈指の実力者と言われていた、勇者に倒されたとは聞いてるけどホワイトドラゴンの力もあったんだね」
魔王に関する情報については同じ魔王であるシュウが持っており当時はバルーザという名の魔王が世界征服を狙っていた、力は歴代の魔王でも屈指と語られていたがホワイトドラゴンの力添えはそれをも凌駕して魔王を倒している。
「ようするにぃ、白い竜ことホワイトドラゴンに認められればデーモンロードに対抗出来るかもしれないと、そういう事ですよね!?」
「対抗出来るかどうかはあくまで可能性だがな。それに2つの壁がある」
テシは話を纏めるとそういう事なのかなという感じでヘラの顔を見上げた。そのヘラの顔の表情は対抗の可能性を語った後に険しい顔を浮かべる、2つの大きな壁について語られようとしているせいか。
「聖竜ホワイトドラゴンを見つけられるかどうか、更にホワイトドラゴンに認められる事が出来るのかだ」
「やっぱり…そうなるか。認められる前に何処に居るのか見つけないと話にならない…」
シュウは見つけられる方が最大の壁と考えていた。まずホワイトドラゴンが実在するにしろ何処に居るのか未だ不明のままだ、そもそも白い竜の真の姿も分かっていない状態で闇雲に探したとて見つけられる可能性は限りなく低い。せめて有力な場所が分かればまだ良いのだが。
そして更に運良く会えたとしても伝説の聖竜が認めてくれて力を貸してくれるのかも分からない。
「詳しい場所は私も分からない、それに現れたのは遥か昔の話。この現世でホワイトドラゴンが今も居るのかどうか…その子孫が居る可能性ならあるかもしれんが」
ホワイトドラゴンが現れたというのは遥か昔、永き時を生きるヘラですら見た事が無い伝説の存在。エルフと同じ長寿なのか、短命ならば今の世界で出会える可能性は限りなく0で望みとしてはホワイトドラゴンが子孫を残している事。それもか細い望みではあるが。
勿論カリアやシュウ、テシも居場所に心当たりなどあるはずも無い。ホワイトドラゴン探しはいきなり大きな壁が立ち塞がっていた。
するとヘラは玉座から立ち上がり、玉座の奥にある部屋へと向かう。
「少し待て」
それだけ言うと部屋の中へとヘラは消えていった。
少し待て、その言葉を受けて3人はその場で待っているとヘラが部屋から出て来た。両手に縦長の木箱を持っており先程までは持っていなかった、あの部屋にあった物なのだろう。
「我々エルフが持っていたが…お前達が持つ方が活用出来るかもしれない」
「これは?」
「開けてみよ」
カリアが木箱をヘラから受け取ると何か尋ねるより開けた方が早いとヘラはそう言うとカリアの手は木箱へとかけられ、蓋を開ける。
木箱の中には剣があった。それは相当古い物であり錆びている、少なくとも戦いでは使えそうに無い。
「それは当時ホワイトドラゴンが力を与えた勇者が使っていたと言われる剣だ、戦いが終わり勇者はこの剣をエルフへと預けたらしく…以来我々が持っていた」
「そんな大事な剣をよろしいのですか?」
「このまま里で朽ちてしまうのは剣とて本意ではあるまい、ホワイトドラゴンを求めるのであれば持っていた方が良い」
「……分かりました」
カリアはヘラから剣を受け取る、古の勇者がホワイトドラゴンの力を授かり使っていたとされる剣。時代を超えて古の勇者から現在の勇者であるカリアへ剣が渡った、カリアが剣を持つと特に変化は無い。勇者とはいえ持てば変化し剣が使えるようになる、という都合の良い事は無かったようで結局錆びた剣に変わりは無かった。
「帰ったら宝物庫にでも預けとこうか?」
「いや、いい。このまま私が持とう、何時この剣が必要になるか分からん。大事な時に剣が無くて何も出来ない、などという事を避ける為にな。後でこの剣用の鞘を用意せねば」
荷物が増えてカリアの負担が増えそうでシュウは預けた方が良いと提案するがカリアはそれに首を横に振る、たいした重量でもないというのもあり常に持っている事を決めた。
「あ、そうだ。思い出した…!」
その時シュウが何かを思い出すと荷物を取り出す。そこにはツボに花を生けた物があり、花からはリラックス効果のある香りがする。マード山脈からとってきた花をアムレートのインテリア店で買ったツボへと飾った物だ。
テシから手土産に持っていけと言われていたが色々あって忘れかけていて危うく手土産を渡さず持ち帰る所だった。
「ほう、中々良い香りの花だ。これは?」
「剣のお礼という訳じゃなく、手ぶらで来るのも失礼と思いプレゼントを用意して持ってきてみたのだけど。気に入らないならこのまま持ち帰るよ?」
「本当にお前は律儀な魔王だ。古の魔王バルーザ、だったか。そういった魔王の者達とは全く違う、その品はありがたく受け取らせてもらおう」
シュウからの土産の花をヘラは受け取った後にシュウ、そしてカリアをそれぞれ見た。
「(もしかしたら私は、この者達に最初会うと思ったのも同盟を結んだのも期待しているのかもしれない。新たな時代の勇者と魔王、二人を中心に再び人と魔が手を取り合い良い世界を築き上げて行く事を)」
密かなる女王の期待。それはカリアとシュウに明かす事はせず、ヘラは二人が城から出た後に花を大事に飾った。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、マードの花の香りは人間や魔族やエルフ問わず動物にも良い香りと好まれたりします。
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