37、古の話
温泉で身を清めた一行は女王ヘラと共に再び城の方へと戻る道を歩く。
シュウにとってはやや長く感じた温泉の時間、顔が周りと比べて赤くなっていた。もう少し入浴が長引いてたらこうして歩いてはおらず横になってたかもしれない。
城の前まで戻るとディーがエルフの子供達と遊んでいる姿が見えた、子供達はボールをポーンポーンと上に蹴って遊んでいてディーは頭でボールを上へと打ち上げており子供達の見よう見まねでやっている。
これからヘラに話があり、特に帰るという訳ではないのでディーと子供達の遊びに水を差さず此処はもう少し遊ばせようとそのまま城へと向かう。
「お疲れ様です」
門番のエルフの戦士達はヘラの姿を見れば左右へと道を開ける。そこをヘラは通りカリア、シュウ、テシも続いて以前通った事のある通りを再び歩けば玉座のある女王の間はすぐ見えて、ヘラは玉座へと腰掛けた。
「さて、それでは…私に話があるのだったな」
「はい」
玉座へと座れば女王としての威厳が増し、カリアはヘラに問われると頷き話を始める。
「今回再びこちらの里へと訪れたのは、知りたい事があるのです。古の魔物について」
「古の魔物…なるほど、それでか」
カリアの要件を聞くとヘラは納得したように頷いた。長い歴史を生きるエルフ、その中で培われた知識については魔と同じかまたはそれ以上かもしれない。
「その魔物とは?」
「デーモンロード…大陸を消し去る程の想像を絶する力を持った魔族の王と言われる存在です」
「デーモンロード……」
古の怪物、その名をヘラが聞くと何やら考え込んでいた。
「……あの怪物の名を聞くのは一体何時ぶりになるのか、遥か遠い昔…それぐらいは遡らねばならん程もう時は経った」
昔を思い出すようにヘラは語る、遥か遠い昔。永い時を生きるエルフにとってそれはどれくらいの時になるのか、少なくともカリアは確実に生まれてはいないだろうし魔族のシュウや同じエルフのテシも生まれていたかどうか分からない。
「私が見たあれは表現としては怪物、と言うのが正しいだろうな。ただ……」
昔の事を振り返るヘラ、それを思い出すのは苦労しそうであり記憶を引っ張り出すのも一苦労しそうだ。
「見た限りでは、その大陸を消し去る程の力だったか?私の記憶では大陸が消し飛ぶという出来事は無かったと思う」
「無い…?」
言い伝えの方ではデーモンロードは大陸を吹き飛ばす程の恐ろしい力を持つ、シュウもその言い伝えを聞いた事がある。ただヘラからはデーモンロードが実際に大陸を吹き飛ばしている所を見た事は無い、少なくともヘラの記憶ではその出来事は無いらしい。
「ていう事は実際は言い伝え程の力じゃなく案外しょっぼい力止まりかもしれない、そんな感じのオチもありそうですかね?」
「大陸はない、ただ……人の統べる大国を一つ吹き飛ばしたのは見たことがある」
「!大国を…」
実際目にした力、ヘラは見ていた。言い伝えにあった大陸ではないものの大国一つをデーモンロードは吹き飛ばすのを見たと。テシの期待したような実はたいした事が無い力という淡い期待はすぐに消え失せそうだ、少なくともデーモンロードという存在は大国を消す力なら確実に持っている。
「というかヘラ様、そこまでお詳しいのは…ヘラ様もデーモンロードと戦った事があるとかですか?」
「戦った…その表現が正しいかどうかは知らんが、遥か昔に人や魔が共通の脅威に立ち向かった時に力を貸した事があってな。私は前線ではなく後方支援だった」
「え、本当にそうだったんですね…!」
人と魔が共に立ち向かった、それは先程テシがカリアとシュウに聞かせた昔話と同じだ。ヘラが当時その人と魔に助力したというのは話を聞いてる二人よりテシの方が驚いてる様子。
「あのような存在に人も魔もエルフも無い、魔力を限界まで溜め込み放出でもさせればそれこそ言い伝えにあるような大陸を破壊…そういう事も可能だったのかもしれん。そして魔力だけでなく物理的な力においても優れており、何時しかデーモンロードをなんとか出来るのはこの世界を作った創造主……女神ルーヴェルしかいないと嘆く者も少なくなかった」
目を伏せ、ヘラは語り続ける。あまりの常識外れの力を持つデーモンロードにこの世界に強者ではもはや手に負えず女神ルーヴェルぐらいしかその存在に太刀打ち出来る者はいない、当時の世界に住む者達はそんな絶望があったらしい。
「人や魔の力ではデーモンロードに及ばなかったのでしょうか…?」
「人に私が認めた者に武具へ祝福を与え立ち向かって行き、魔は強大な力を結集させて軍勢としては当時の世界ではおそらく最強に最も近い…それぐらいの強さを誇っていた」
カリアがその者達が力を合わせても全く歯が立たないのかと尋ねれば人は限られたヘラが認めた者のみに武具の祝福が与えられ強くなっていた。それはテシがカリアに祝福を与えたのと同じだ、そして魔の方も純粋な力という点においては人間を凌駕する力を持つ。それが結集され、更に人との協力による軍勢ともなればそれこそ世界最強を思わせる。
「力を極限まで高めはしたが、それでも仕留めるまでには行かない。そこで…封印の出番だ」
「封印…人と魔が協力してデーモンロードを封じ込めたあの昔話の?」
「当時、人間で最高の魔法使いであり賢者とまで呼ばれたキュートスと魔族随一の魔力を誇っていたケイオス。その二人の全魔力、そして文字通りの命を賭けて二人は決死の封印魔法を編み出した」
昔話では封印されたという事までであり具体的に誰なのかはテシから聞かされておらず、そのテシの聞いた昔話も名前までは聞かされてなかったようだ。賢者キュートスと魔族ケイオス、世界最高の魔力を持つ二人の力を合わせた封印魔法が誕生した。当時を知るヘラから聞かされなければずっと明かされなかったかもしれない。
「世界の精鋭達がデーモンロードへと挑み、長き戦いの末デーモンロードが弱まった所にキュートスとケイオスは封印魔法を唱えた……そして悪魔の王は封印され、脅威は去ったのだ」
キュートスとケイオスの封印、集いし強者達が必死で戦ってデーモンロードを弱らせた所に封印魔法を発動。これでデーモンロードは封印された、というのがヘラの知る部分だった。これは昔話には無い、当時を知る者にしか分からない事だ。
「だが、代償が無かった訳ではない。キュートスとケイオスは……封印魔法で魔力と命を使い果たしデーモンロードを封印した後に命を落とした…」
「…余程の大魔法だった訳だね、悪魔の王を封じ込める程の物だから」
強力な魔法になればなる程に魔力の消費は激しくなる、当時最高の魔力を誇っていた二人が命を落とす。シュウはそれ程の大魔法だったのが伝わって来た、使用する魔法自体が消費が凄まじいのに加えデーモンロードという恐るべき悪魔を封印するのに更に必要な魔力が上乗せされ己の命まで削らなければ足りない程になってしまって結果大きな代償となってしまったのかもしれない。
文字通りその二人の人間キュートスと魔族のケイオス、その二人が自分の命に変えてもデーモンロードの脅威から世界を守ったのだった。
「それはつまり、デーモンロードが蘇り再びその脅威が来るのであれば…二人の使った封印魔法を使用する以外に方法は無いという事か…?」
「……倒せるならそっちの方法をとってたと思うから、そうせざるを得なかったのかもしれない」
ガーランやアスといった魔族がデーモンロードを目覚めさせようとしている現在、考えたくないが万が一デーモンロードが復活してしまえば古の脅威が再び世界を混沌へと陥れる。今度はその封印魔法を使えるのかどうかも分からない状態で。
「急にデーモンロードの事を聞いて何かと思っていたが、そうか…この現世に目覚めさせようとしている者っ達がいたとは。その恐ろしさを知らずにか、それとも知っていてなのかは定かではないが」
「目覚めたら二人が命懸けで行った結界魔法…それをやるしかデーモンロードをなんとかする方法はないのでしょうか」
結界魔法以外に何か対策は無いのかと、目覚めさせないのが一番大事ではあるが最悪を想定しカリアはヘラに聞く。
「うむ………………ひょっとしたら、だが」
考え込んでいたヘラは顔を俯かせるとやがて顔を上げると再び一行の方を見た。
「匹敵するぐらいに迫るかもしれない、聖竜と言われるホワイトドラゴンの協力を得られればな」
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、前回の話から一転しての一気にシリアス展開となりました。
デーモンロード、ホワイトドラゴン、とりあえず自分の頭だと捻った名前出ずに結局王道寄りという。
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