35、エルフの里再び
一行が次に姿を現して目にした光景は街中にある建物から一変し、緑豊かな森が何処までも続いていた。
以前テシの案内でエルフの里の付近まで来ていてシュウはその場所を覚えている、移動魔法は使用者が過去にその場所に行った事があり、その場所をハッキリイメージ出来る事が条件でそれを満たし高い集中力と魔力を持ってして初めて成功する。
本当は一人移動するだけでも至難の業であるのだがシュウは複数や大勢での移動を可能としている、彼が当たり前のようにやっているおかげで手軽に見えるだけで実は高難度の魔法だ。
「ガウ!ガウガウ!」
緑に囲まれた森を見てディーが飛び跳ねて辺りを走り回っている、それは喜んでいるように見えていて街とか城よりもこういった大自然に囲まれた環境の方が好みなのかもしれない。
そう思うとシュウは拠点にディー専用の自然ある場を作った方が良さそうと考えていた。
「さあさあ、里に行くよー」
テシを先頭にカリアとシュウは彼女についていき、それを見たディーもシュウの足元まで走りそのまま共について歩く。
此処はエルフ達が縄張りにしている森であり、先程のマード山脈の山賊が根城にしていて荒らし回るような事は無い。つまり此処は賊が現れるような心配無しで進める、ただ現れたとしても勇者と魔王にとっては障害にすらならないが。
小鳥が飛び回り野うさぎが食事をしている森の日常が見える中で森を進むのはのどかな光景であり、この後にエルフの里へと行って女王ヘラにデーモンロードについて話す等という異次元な話をしに行くというのは彼らに知る由もない。
ただミナから聞かされたデーモンロードの規格外の力、大国どころか大陸そのものを吹き飛ばす程の力を持つと。そんな事が実際起こればこういうのどかな景色も一瞬にして消え去り地獄と化すのだろう。それはなんとしても避けたい。
大陸を消されれば人と魔が共存して暮らす世界どころではないのだから。
「そういえばヘラ様に一体どういう用事?まさかただ遊びに行く訳じゃないよね?」
歩きながらテシはくるっと振り返り後ろを歩くカリアやシュウを見てヘラに何の用事があるのか聞く。そういえば具体的な用事についてはまだテシには話していなかった、どちらにしてもヘラに話すならテシもその話を聞く事になるはずだ。なら遅かれ早かれ知る事に変わりは無い。
それにテシもひょっとしたらデーモンロードについて何か知っているのかもしれない、ならば話すかとカリアの方から口を開いた。
「テシ、お前はデーモンロードというのを聞いた事はあるか?」
「デーモン…ロード?」
カリアに聞かれるとテシはその言葉に対して考える仕草をする。
「ああ、悪魔の王とか言われているやつね」
「!知っているのか」
「って言っても会った事は無いよ?物凄い力を持っていて世界を混沌へ陥れ、後に封印されたとか昔話で知った程度のもんだから」
テシはデーモンロードについては知ってはいたが昔話として聞いた程度であり、ただ今話した部分にミナからも聞かされていなかった部分が聞けたのをカリアは見逃さなかった。
「封印された?デーモンロードがか?」
「え?うん、昔話で聞いたんだけどね。デーモンロードの力に対抗するべく世界から強者が集って討伐に向かったけどいずれも敗れ去った…デーモンロードの破壊は繰り返され、生き物が暮らせる環境は失われるばかり、そこで人と魔が協力して封印したんだって」
昔話をテシは思い出しながら話す、昔話では圧倒的な力をもってしてデーモンロードは破壊を繰り返していた。
勇者や英雄と呼ばれし者達も討伐へと向かったが誰も太刀打ち出来ず、滅びを待つしかないと誰もが思った時に人と魔が協力してデーモンロードを封じ込める事に成功。それがテシの聞いた昔話の内容だった。
「人と魔が……」
「なんか今のカリアと魔王様みたいだよね?まあデーモンロードのような滅茶苦茶強いのとやり合ってはいないだろうけどさ」
カリアはシュウを、シュウはカリアをそれぞれ互いに見た。人と魔が協力して当時に脅威となっていた存在に立ち向かい、それを封印。本当だとしたら古の時代は人と魔は手を取り合い共存した世界だったのだろうか、今の二人が実現を目指すその世界のよう。
「そうなると人と魔が共に暮らして行く世界、それは実現は可能っていう事だよね?昔の人と魔に出来て今の僕達に出来ないはずないだろうし」
「そういう時代が元々あった…今の王国の連中からすれば到底信じられない話だな」
過去の人と魔が出来た、それなら現在の自分達も可能だろうとシュウは人と魔の共存の実現により前向きになれた。その時代があった事をカリアは知らなかった、そして王国の連中達を思えば彼らはもっと信じそうには無いはず。魔物や魔族は人間にとって討伐対象となっている、それが当たり前であり覆る事はあるのだろうか。
「っと、話している間にエルフの里着くよー」
テシを先頭に森の中を歩きながら今の話をしていると気づけばエルフの里の間近まで来ており近い事を二人へと伝える。ディーはしっかりとはぐれないようについて行っている。
一度は女王から呼ばれエルフとの同盟を結んだ時、そして今2度目。今度はデーモンロードについて尋ねるため再びエルフだけが暮らす神聖なる里へとカリア、シュウは再び足を踏み入れようとしている。
「ああ、この一本道覚えてるね」
シュウは周りが薄暗く先が一本だけの道に覚えがあった。確かこの道を真っ直ぐ行けばエルフの里だったはず、前に行った時の記憶ではそうだ。
「前回は猪を仕留めて手土産にしていたそうだが今回はいいのか?」
此処に来る前テシは初めて案内した時に途中で猪を弓矢で射抜き、それを里の皆への土産としていた。
「無いと思ったらちゃーんとあるんだなこれがー、アムレート産の焼き菓子だよ♪」
得意げにテシは自分の荷物から袋を取り出して二人へと見せる、前回が肉だったので今日は女性や子供向けの甘いものを土産に選んだらしい。
「それは良いな、あの街の菓子は美味い。土産としては実に良いと思うぞ」
アムレートの焼き菓子はカリアも食べており気に入っている様子。
「でしょうー?さあさあお菓子の美味しいうちに里へゴーゴー♪」
テシはカリアとシュウの後ろへ回ると急かすように二人の背中をグイグイ押していく。その光景をディーは見上げながら歩き続けていた。
光が見えてきて一本続く道も終わりが近い、前もそれで覚えている。
その一本道を抜けると木で出来た建物があり耳の尖って者達が暮らす姿、今回も問題なくエルフの里にたどり着いた。
「あ、テシだ。お帰りー」
少年や少女のエルフ達がテシの姿を見つければ皆が寄って来ていた。
「皆いい子にしてたかなー?テシお姉さんから土産だよー♪」
「美味しそうな匂い……お菓子だー!」
テシは子供達がくればすかさずお菓子の袋を取り出し皆へと土産としてあげる。エルフの子達はお菓子の袋を開けると皆が喜び、焼き菓子をそれぞれ美味しく食べる姿が見れた。
「喧嘩せず仲良く食べるんだよー、これテシお姉さんとの約束ね?」
「はーい」
エルフの子達に焼き菓子をあげ終えてテシは再び一行と共に行動し、真っ直ぐそのまま女王ヘラの居る城を目指して里を歩く。
「ついこの間に女王から呼ばれて一度来たけど、何か久しぶりな気がするね。この里もあの城も」
シュウの目の前には女王ヘラが居るであろう木の城。入口に居るエルフの騎士二人が変わらず守っており、初めて里を訪れてから色々な事があったせいか久々という感覚になっていた。
「ガウー」
ディーは正直エルフの里に入れてくれるのかという問題が当初はあったのだがテシが大丈夫とあっさり言い切り、テシだけでなく他のエルフにも聞いたりしたが同じく大丈夫という返答が来たので今回も同行出来ている。
1匹だけ里の外で待つという事はひとまず避ける事が出来て何よりだ。
「ご苦労さまですー♪ヘラ様にお会いしたいんですけどー」
何時も通りテシは明るい感じで門番のエルフ二人へと声をかけ、ヘラに会いに来た事を伝える。
「テシ、今は駄目だ。ヘラ様はこれから……」
門番は駄目だと言いかけた時…。
「此処では見ない珍しい顔があるな。幼き竜まで居るとは」
門番の後ろから声がし、その声に反応した門番が左右へと道を開けるとそこに立っている気品ある長身の女性。
女王ヘラが玉座から立ち上がり木の城から出る姿に偶然にも遭遇したのだった。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、久々のエルフの里。そして再び女王ヘラの登場となりました。
美女は何回も登場させたい(
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