34、酒はほどほどに
マード山脈に咲く花、それはマードの花と呼ばれる。
心地良い香りはリラックス効果をもたらしナジャスの宿屋ではその花を飾って宿泊客に心地良い一泊を提供し評判になったという。
その花を手に入れ、シュウは移動魔法を唱えてカリアとディーを連れて山中から一気にアムレートの城、王の間まで戻って来た。シュウの手にはしっかりと戦利品であるマードの花を持っており、これをツボに入れて飾ればちょっとしたインテリアとなって更に心地良い香りでリラックスしてもらえる。木の城に同じ自然である花を添えるのがおそらくベストだろう、シュウとしてはそう考えていた。
「だいぶ回り道をしたけどテシの所行こうか。酔いっぱなしで会話にならない、なんて事にならなきゃいいけどね…」
「その時は水をたっぷり飲ませてでも酔いを覚まさせてやる」
このままテシに振り回されてたまるかとカリアはまだテシが会った時酔っているのであれば水を沢山飲ませて目覚めさせると固く決意し、シュウはその様子に苦笑する。
通い慣れたアムレートの街、その道を歩き進み酒場に辿り着くまでそんなに時間は必要無かった。
酒場の店内へ入り、テシ達の居る席へと行くと彼女達は居た。
「あー、カリアに魔王様。どうかした?」
「どうかしたって…覚えてないのかお前」
「へ?何か言ったっけ?」
さっき酒場で会った時と違う、その時の事をテシは覚えてなさそうだった。
「あれから酔って寝ちゃったから水飲まして酔い覚ましに休ませてたんだけど…酔ってる時の記憶ブッ飛んでるみたいね」
仲間の女性エルフ達がテシを休ませていたようで今のテシは酔いが覚めた状態。なので酔ってる時に言った事を覚えていなかった、結局酒に酔ったテシの言葉にカリアとシュウは山脈までわざわざ向かい花を取りに行ってしまったのだ。
「何かもうキミが女王ヘラにインテリアの手土産でも用意すれば喜ぶというのを言ったのも綺麗さっぱり忘れてそうだね…」
「ん?ヘラ様に手土産?って何か良い香りしない?」
「ああ、これだ。マード山脈でとってきたマードの花だが、エルフにとっても良い香りなんだな」
酔いが覚めたばかりのテシの鼻に伝わる香り、カリアとシュウの二人がマードの花をテシ達へと見せる。当初はエルフにも同じように花の香りが良いものなのかそれとも不快となってしまうのかという心配事が一つあったのだがテシや他のエルフの反応を見る限り不快という事は無さそうだ。
という事は女王ヘラにとっても良い香りと思ってくれるはず。
「これをツボに入れてあの木の城に合うインテリアになるかなと考えて調達してきたんだよ、女王の趣味に合うのかどうかは知らないけどね」
「良いと思うよ、ヘラ様もこういう良い香り嫌いじゃないはずだし。というか手土産ちゃんと用意するなんて子供だけど紳士的な所あるじゃーん♪」
これを考えたシュウに対してテシは明るく笑ってシュウの背中をバシバシと叩く、今更ながら魔王に対する態度ではない。これが魔王軍直属の兵士だったら問題になりそうだがテシは同盟を結んだエルフでありカリアの友人、シュウに対して特別かしこまる必要も無い。
「手土産用意しないとダメみたいな事を言ったのはテシだった気がするんだけど…」
「え、あたし?言ったっけー?」
「言ったよ」
「言ったな」
「言った」
「ガウ」
テシが手土産は用意するべき、それはこの場に居る全員が覚えており証人である。挙句の果てにはディーまで言ったとばかりに吠えた。
「それでえーと…あ、ヘラ様の所行くんだっけか!じゃあ善は急げって事で行こうか!」
話を逸らそうとしてテシは二人がヘラの所に行きたいという希望を叶えようと自分が案内人を引き受け、張り切ってヘラの居る里へと案内する為勢いよく席を立つ。
カリアとしては此処で少し腹ごしらえしようか、そういう考えも微かにあったのだが酒場に留まっては何時またテシが酒を飲み始めるか分からない。あの酒が好きなエルフならそういう行動をやりかねないからだ、なので腹ごしらえの考えは捨てて一刻も早くテシをエルフの里へと連れて行った方がいいだろう。
飲みたいのであればせめて案内が終わった後にしてもらいたいものである。
「あんなお酒好きだったんだねテシって」
「ああ、飯より酒な奴だ。私は逆だがな」
酒に酔った時のテシを思い出し、シュウは余程酒好きで飲みまくってあの状態になったのかとテシが席を立った後の空になったジョッキを見ていた。
そのテシと交流のあるカリアはテシと何回か共に食事をしており、美味そうにワインを飲んでいた姿を覚えている。酒を勧められもしたがカリアの場合は酒は飲まず飲み物は果実ジュースの方を飲んでいた、成人しておりカリアも飲める年ではあるが酒の味があまり好きになれず好んでは飲まない。
「これであの女王がテシみたいに酒好きだったらそれこそ驚くよ」
以前会った時の気品ある女王の姿をシュウは思い浮かべていた、ヘラに対するイメージはまさにそれでありテシみたいな酒好きだったらそのイメージは一気に崩れ去る事だろう。
「ほらー!何やってんの魔王様、早く移動魔法で里行くよー」
「ああ、今行くから」
テシに急かされて現実世界へ思考を戻されたシュウは酒場の外へと出て、テシがいち早くシュウに近づきカリアとディーも傍まで移動する。
これで準備は出来た、シュウは移動魔法を唱えるとその瞬間3人と1匹の姿はフッと消えて一行を里の方まで一気に運んで行くのだった…。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、酒好きで飲むと止まらなくなりそうですが程々に…という話でした(?)
ちなみに作者は酒一切飲めません。
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