33、勇者と魔王の土産探し
女王ヘラに会いにいくつもりが案内人のテシが酒に酔い潰れダウンし、回復してくれるのを待つ時間を有効に使おうとカリア、シュウ、ディーはヘラの手土産でも用意しようとアムレートの街を散策して回る。
「インテリア……カリア、同じ女性の意見としてどういうのが好みか教えてもらってもいい?」
「そうは言ってもな…私はむしろそういった事は疎い方だぞ」
お洒落で綺麗なインテリアが喜ぶような事をテシは言っていたが具体的にどういうのが好まれるかシュウは知らない、カリアに尋ねるもカリアの方もそういった事とはあまり縁がなく一つの拠点のような物をそもそも持たず各国を旅して回る身だったので同じ女性でもインテリアには正直疎い。
「あの女王の事を考えるとあからさまな派手に綺麗な物とかそういった物は好みそうな感じではないと思うが…いや、見た目そうでも実は意外に好むかもしれんか」
テシと違ってヘラは気品ある女王というイメージ、実際会ってカリアもその印象が強かった。なのでそういった女性に派手な物は喜ばれないかもしれない。
とりあえずどういう物があるのかアムレートにあるインテリアの店を発見、此処は元々の人間による個人経営のようだ。
カリアとシュウは店の中へ入り、ディーも後に続く。
「うーん…」
店内には流石インテリア専門店と言うべきか、様々なインテリア品が置かれており綺麗な物は勿論子供向けなのかユニークな物も置いてある。
あの木の城に少なくとも子供向けの物は合わないはずだ。なのでユニーク品は選択肢から外してもいいだろうが、それでもまだまだ沢山の品があってシュウはその中でどれが良いかインテリア品をじぃっと見ている。
「ガウー」
「こら、勝手に動き回って品を壊すとかは無しだぞ」
ディーが動き出したのを見てカリアは素早くディーを捕まえ、店の品を壊す可能性をいち早く潰していた。そんな事になれば余計な出費は避けられないだろう。
とりあえず狙いとしては美しく綺麗な品に定めて拝見し、考えてみる。木の城、つまり自然で作られた建物で街のような建物とは違う。なら自然の物は自然と合うのではないかと思い、シュウはそこで思いついたものが一つあった。
シュウの視線の先にあるのは茶色いツボだ、そちらへとシュウは近づき考える。
「………よし、これにしよ」
「それか?」
カリアはどういう物を選ぶのかと思って見ていたらシュウが選んだのは地味な茶色いツボだった、ただシュウは構わず店員にこれが欲しいというのを伝えると代金を支払ってツボを購入した。
それから店へと出るとシュウはそのまま戻るかと思えば…。
「これと合う花が確か…マード山脈の方にあるんだよね」
「何?此処で何故マード山脈が出て来るんだ?」
この城塞都市アムレートと地上を繋ぐ山であるマード山脈、当時はアムレートに攻め込む時はこのマード山脈を超える事が難関だと言われていた。それが花の事で何故シュウが持ち出したのかカリアは問う。
「ナジャスの宿屋に一泊した時にその宿屋の一室で良い香りがしたんだ」
「ああ、そういえばそうだな…とてもリラックス出来てよく眠れた」
ナジャス王国がアスの奇襲に遭って危機を救い、街の皆に感謝されてカリアとシュウ達はそこで宴をしてもらい一泊してゆっくり休んでいて、その時に泊まったそこの宿屋の一室に飾ってあったツボに入った花。それが良い香りでありリラックス効果があってカリアはよく眠れたという。後で知った話ではそれが宿屋の売りとしていて評判の良い宿屋として知られている。
「その花が何処の物なのか宿屋の人に聞いたんだ、それはマード山脈に咲く花だって。それでツボを見て思ったんだよね、これなら邪魔にならず喜ぶかもしれないって」
「なるほど…下手なアクセサリーやインテリアより良いかもしれん、これでエルフはその匂いが苦手というのが無ければいいが」
「その時はもう謝るしかないね」
とりあえず今の有力な手土産としてはマード山脈の花、しかし誰でもその香りが好きとは限らない。もしかしたらエルフにとっては不快な匂いになるのかもしれない、その時は悪かったと謝るとシュウはその時はそうしようと言い切ったのだった。
一度シュウとカリア、そしてディーは城の方へと戻ると魔王軍の兵である翼竜ワイバーンの居る所までやってきた。ガーランが魔王軍から離れ、彼と共に多くのワイバーンも離れたが数少ない魔王軍側のワイバーンも残っていてくれている。
シュウは干し肉をワイバーンへと食べさせ、手懐けると2人はワイバーンの背へと乗る。それにディーも勿論ついて行く。
「跳べ!」
シュウの掛け声でワイバーンは翼を羽ばたかせ、空へと飛び立つ。二人と一匹を背に乗せてもワイバーンは全く問題無しで空を飛んでおり、下にはマード山脈が見えている。此処の何処かにナジャスの宿屋にあった花があるはずだが山脈を探すとなると中々骨が折れそうな話だ。
「登山は厳しいから空から探そうと思ったけど、これは…わかりづらいね」
「花畑とかだったら分かり易いが、そういった物ではなく何処に生えているものなのか…匂いで辿っていければいいのだがな」
山脈の上空を飛び回るワイバーン、その背からカリアとシュウは下を見下ろし花を探してみるがそれらしき花は此処からでは見えない。もう少し高度を下げてもらって探りはすれど結果は変わらずだ、とりあえず適当な所で降りて探そうとワイバーンは地上に降り立つ。
とりあえず翼竜の出番は此処までとし、城へと帰らせる。戻る時はシュウの移動魔法があるので問題は無いだろう。
山脈はかなりの高度があるせいか寒さがきつい、アムレートに居た時は分からなかったがこれが本来のマード山脈の厳しさで訪れた者の体力を過酷な登山や凍てつく風により容赦なく体力を奪いに来る。勇者カリアや魔王シュウでなければ山の洗礼を浴びていた事だろう。
だが凍りつくような風は青いドラゴンによって起こしていた猛吹雪で慣れている、更にカリアの体力は並外れており辛い山道もどうという事はなく鎧を付けているにも関わらず山道を平気で歩く。そしてシュウの方は厳しい山道に対して魔法を自身に使って身体を少し浮かせる事によって空中を移動する。その魔法はディーにもかけ、ディーの身体もシュウと共に浮かび空を歩いている状態だ。
「カリアにも魔法かけて空の移動出来るけど、いいの?歩きで?」
「構わん、良い足腰の鍛錬になる」
シュウの誘いにカリアは断って自ら歩きの選択をしており空を移動するシュウとディーに対しカリアは何も魔法を使わず山道を歩くのは自らの鍛錬も兼ねての事だった。
こういう時でも己を高めようとしているカリア、同じ重い鎧を装備する重装騎士の男などが行軍するのと同じような条件で歩いてるようなもので楽という事は決して無いはず。
それでも進む彼女は今の強さに満足はしていないとばかりに更に高みを目指さんと歩みを止めない。
「ガウ!」
「どうしたディー?」
山道を移動して少し経つとディーがいきなり吠え始めた。腹でも減ったのかと思い、シュウはディーを見るが何やらその方向へと向かって吠えているように見える。
「ひょっとして……花の香りがして、向こうからそれが伝わったとか?」
「そうなのか?私には何の匂いも伝わって来ないぞ」
「僕もだよ、でもドラゴンの嗅覚は人や魔族と違うはず。僕達には分からない匂いがディーには伝わった可能性がある…闇雲にこのまま歩くよりディーの感覚に頼ってみよう」
花の香りがディーの鼻に伝わったのかもしれない、カリアやシュウには何の匂いも伝わって来ないがディーの、ドラゴンの並外れた嗅覚に頼るという判断に賭けてディーの吠える方向へと二人は進んで行った。
「む……?何やら覚えのある香りがしてきたな」
「僕も、これは……ナジャスの宿の時と同じだ」
進んで行くうちにカリア、シュウの鼻にもその匂いが伝わって来ていた。それは確かにナジャスの宿屋の時にあったあの花の匂いと似ている。
だとするとディーの感覚は正しかった、花はこの先にあると二人は急いでその場へと向かう。
「……!」
「カリア、気付いた?」
「ああ、人の気配…数人か」
その時にカリアは気付いた。自分達以外の者の気配に、それはシュウも気付いていてその場で止まる。数人の気配、それは気のせいではなくやがて向こうから姿を見せて来る。
「へへ、思ったとおり花の匂いに釣られて獲物がやってきやがったぜ」
姿を見せたのは厚着の上に軽装の鎧を纏う武器を持った男達、察するにこの辺りを根城としている山賊辺りといった所だろうか。
「最近はあのマードの花目当てで商売人とか来るし、金の稼ぎ時は此処だろうと睨んで大正解!鎧着た奴に何か魔法使いっぽいガキに……何だ?赤子のドラゴンとか珍しいじゃねえか!」
「マジか!捕まえりゃ高く売れそうだぜ!」
男達はディーの方へと狙いを定めていた、赤子のドラゴンが高く売れると見てその欲望がハッキリと見えている。
「おい、ガキ共!そのドラゴンをよこしな。そうすりゃお前らは見逃してやるよ」
「……言いたい事はそれだけか?」
「多分もう言い尽くしちゃっただろうね」
言われたカリアとシュウは従う様子など全く無い、二人にディーを渡すという選択肢というものは存在していないからだ。
「なんだ?舐めてんのかガキが…!従わないなら容赦なく痛めつけてから奪うぜ!」
「痛めつける………殺すとか言わないんだ?」
「ああ?」
剣を構える男に対してシュウは口元に笑みを浮かべており、それに男は自分達を恐れない様子に気味悪さを覚え始める。
男達は知らない、この二人が勇者であり魔王であるという事を。
ズガッ
「ぐは!」
「この…ぐわぁ!」
カリアの剣の柄が男の腹へと食い込み、男は腹を抑えて仰向けに倒れて立ち上がれず。更にそこに襲いかかって来た別の男には峰打ちを打ち込み気絶させる。
ヒュオーーーッ
「ぎゃーーー!」
「うわあああ!」
シュウは軽く突風を発生させ、男達はその突風の前に吹き飛ばされる。これでも手加減しており、本気だったら男達はとっくに死んでいる事だろう。
「殺さずに痛めつけるつもりみたいだったからこっちも殺さないでおくね」
向こうはこっちを殺すという発言をしてなかった、ならシュウ達も加減して痛めつける程度に留める。
あまりに強すぎる、全く歯が立たないと男達は圧倒的過ぎる実力差を感じつつ意識を手放したのだった。
「とりあえず全員気絶させたけど、彼らどうする?」
「此処を根城にしているんだ。此処で放置しても死にはしないだろう、それよりあれだ」
山賊達は全員倒れ、もう向かって来る様子は無い。カリアとシュウにとってはウォーミングアップにもならない軽い相手だ。言うまでもなくディーも無事であり、これで花探しを再会出来る。
すると山賊達が倒れている傍にその花はあった。多分彼らがこれを餌にして追い剥ぎをしていた、といった所か。ただ今回はその相手が悪すぎたのだが。
「やっと見つけた…本来の目的を忘れそうになるよ」
思わぬ登山の旅に山賊の襲撃と色々あった、花を探すだけだったはずが少しの冒険となってしまった。
忘れそうになるが忘れてはならない、本来の目的は古の化物であるデーモンロードについて知る事なのだから。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、土産探しの話が何故か過酷な山脈まで行って山賊ぶっ倒してのプチ冒険でした。
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