32、古の悪魔王
「デーモンロード?」
聞き覚えの無い名であり本当の魔王がそれなのかとカリアにはピンと来ない様子だった。彼女にとっては魔王ときたらシュウ、というのが当たり前となっているせいか。
「…デーモンロードと来たか」
それに対してシュウは何やら心当たりがあるようで納得したという感じで頷いていた。
「私にはよく分からんのだが…それが本当の魔王という奴か?」
「彼らが言う魔王は今の所その可能性が高い、そう判断します」
まだ断定という訳ではない、ただミナはその可能性は高いのだと右手に紙の資料を持つ。ガーラン、アスとこれまで同じ魔族の者と対峙してきた。二人がシュウではない本当の魔王の為に動いている、これまでの襲撃はそれと関係しているのかはわからないが。何しろそのデーモンロードなる者を呼び出す方法が分かっていない状態だ。
「そのデーモンロードというのは何者なんだ?お前達にとっては知っている存在のようだが…」
魔族のシュウ、ミナは知っていて人間であるカリアはその存在について知らず何者なのか分かっていない。なので二人へ教えてもらおうと聞いてみる。
「デーモンロード……その1体だけで大陸一つを吹き飛ばすと言われる古の怪物として我々魔の者に言い伝えられ悪魔の王、そう呼ばれています」
悪魔の王と呼ばれる怪物で大国どころか大陸そのものを吹き飛ばす。そんな事は強大な力を持つドラゴンを持ってしても難しく、今の魔王であるシュウでも出来るのかどうか怪しい。それが可能と言われるのがデーモンロードであり本当だったら規格外過ぎるパワーだ。
「まあ本当に大陸を吹き飛ばせるのかは実際に見た事は無いけどね、そのデーモンロードを実際に見れていないし」
ミナと同じようにシュウもその存在を知ってはいた、ただし見た事は無い。大陸を吹き飛ばす程の力があるのかどうかはあくまで言い伝えだ。
どういう怪物なのか実際にその姿を見た者は同じ魔族でも一人居るかどうかすら怪しい程、無論人間の方でデーモンロードを見た者どころか知る者はおそらくいない。その見た事も無い怪物をガーランとアスは呼び出そうとしている。
「そんな物を呼び出して、奴らは制御出来ると思っているのか?言い伝え通りの力を持っているとしてそれで暴走でもしたら……この世が終わる可能性があるのでは?」
「……その通りだとしたら冗談抜きでそうなる、かもしれないね。大陸を吹き飛ばす力に対抗は正直僕でも無理かもしれない」
カリアはデーモンロードが本当に言い伝え通りの怪物ならば世界が滅ぼされるかもしれない、その可能性を考えていた。そしてシュウも仮にまともに戦おうとすれば怪物の規格外の力の前に魔王の力でも敵わない、言い伝えの強さと想定すればの話ではあるが。
「連中がデーモンロードを呼び出すかもしれない、調べるのはそれで精一杯でした。後はデーモンロードにより詳しい人がいれば具体的に呼ぶ方法を知っているかもしれないですが…」
「より詳しい人…と言っても魔王軍の方では詳しそうなの、特にいないよね」
「該当する者は特に思い当たりません」
色々知識あるミナが調べ物を進めてデーモンロードの事を突き止めた、それだけで収穫だがより詳しいとなるとそのような人物は少なくとも同じ魔王軍にはいない。シュウは他に心当たりないか考えてみる。
「知っていそうな者か……あのエルフの女王はどうだろう?色々な知識を持っていて長い歴史の中を生きてきたと言っていた、もしかしたら女王が当時デーモンロードに会っているかもしれんぞ」
「流石にそこまでは期待出来ないと思うけど、でもそうか。あの女王なら何か知っているかもしれない」
その時カリアが以前会ったエルフの女王ヘラの事を思い出し、長寿のエルフに聞く価値はあるとシュウはその考えに賛成した。
「エルフの女王ヘラは私も考えました。ただ私一人の状態では同盟を結んでいるとはいえ警戒されて里に入れてはもらえないと思い、断念してましたが魔王様と勇者ならば会ってくれると思います」
「一応テシも誘って行こう、その方が確実だろうし。此処の事は任せられるかな?」
「承知しました」
ヘラがデーモンロードについて知っているかもしれない、ミナもそれは考えていたが思いついても単独では会えないだろうと実行は出来なかった。シュウはミナにアムレートの事を任せ、カリアと共にテシを探そうと城の外へと出て来た。
無論ディーもシュウについていく気で共に歩く。
「…とはいえ、テシは今何処に居るのやら」
アムレートの街へと出て来たカリアとシュウとディー、街中では住民達が居て人間と魔物がそれぞれ日常を過ごす光景が見える。これまでの街と同じであり初めて来た時に飢えに苦しむ民の姿というのはもう見られない、城の方で貯め込んでいた食糧を配っており人々は救われて街は活気づきつつある。
確かテシは最初此処で食糧を配っていたと思うが今はその時間ではなく、街をざっと見てその姿は見えない。
「テシの好む所か…あいつは酒などを好むから酒場の可能性はある、一応行ってみよう」
シュウと会う前にテシと交流があり自身の武具に祝福を与えてくれている。カリアは好みをある程度ぐらいは把握しており、酒や賑やかな場所を好む傾向があってそこに居る可能性はある。
好む物がエルフのイメージとはだいぶ違うものではあるが、テシは特別だと分けておいた方がいいかもしれない。
一度は偵察の時に訪れた酒場、場所は覚えており迷う事はなかった。カリアとシュウはアムレートの酒場へとやってきて店の中に入って行く。
まさか今回はデーモンロードなる化物の関係で来るとは全く思っていなかったが。
店内は明るい時間帯にも関わらず酒を楽しむ者が居てそれは人や魔問わずであり、マスターは人間と魔族。それぞれ二人が担当していた。人間には人間の酒、魔族には魔族の酒とスムーズに酒や飯を提供出来るようにとの事でこれはアムレートに限らず魔王軍が制圧した街の酒場、そしてレストランで全部そのスタイルとなっている。最近は人も魔も美味しく味わえる酒や飯をメニューに増やしてそのレパートリーを追加しようと日夜考えられているらしい。
「んぐっ、んぐっ、ぷは~~。美味いねぇー、流石アムレート産の19年物ワイン!」
「それワイン飲む感じじゃないし。ジョッキで酒飲む雰囲気だったよ?」
「美味けりゃいいでしょー!」
カリアとシュウはテシが何処に居るのかと酒場内を見回して探していると聞き覚えある女性の声が聞こえる。声がした方へ向けばエルフの女性達3人が酒を飲む姿が見えた。
その一人は覚えがある、テシだ。
「やはり此処だったかテシ」
「おー、カリアに魔王様。わざわざ会いに来たなんてモテる女はつらいってやつー?」
何やらテシは少し酔っている様子。酒の匂いを漂わせており、こういう時の絡み酒の面倒さは以前から交流あるカリアは知っておりシュウもあまり近づかない方がいいのかもと距離は少し取っていた。
「テシ。実は女王ヘラにお会いしたくてね、それでキミが来てくれると助かる。同盟になってくれたとはいえ僕とカリアだけではまだスムーズに会えるか分からないし里に入れてくれるかさえ怪しいからね」
「ええー?考えすぎでしょ。もう勇者と魔王の二人で会いに行けば歓迎されると思うけどなぁー」
「念のためだ、とにかく女王と会って話を聞きたい」
テシは二人だけでも会ってもらえると言うがエルフの案内無しで里に入れてもらえるか分からない、なのでテシに来てもらって確実に訪問出来る方が好ましい。
「しょうがないなぁー、ていうかどうせ確実に行きたいなら手土産の一つでも持って行ってあげなよー!」
「手土産?あの女王が物貰って嬉しいと喜ぶ姿が何か想像しづらいような…」
手土産でも持ってけとテシは空になったワイングラスを手にして二人へ指差すように突きつけながら言う、おそらくだが相当酔っている。シュウの会ったあのヘラを思うと彼女は物を貰って喜ぶ、そんな感じの女性には見えなかった。
「見た目で判断ダメ!手土産ちゃんと用意する、いいね!?」
「あ、ああ…」
「ガウ…」
酔った勢いでテシに迫られてカリアもシュウも頷くしかなかった。ディーは酒の匂いがあまり好きじゃないのか、顔をそらした。
「用意すると言ってもあの女王の好きなものなんか分からないよ、カリア分かったりする?」
「分かる訳が無いだろう」
ヘラに手土産と言っても互いにエルフの女王が好む物が何なのか、この前会って話しただけでこれが好きなんだというのは分かる訳が無かった。
「綺麗なインテリアとか好きだと思うからそれで!」
「そうなのか?」
「…………ぐー」
「寝てるよこれ」
インテリアが良い、それだけ言ってテシは眠りに落ちてしまう。これから案内してもらおうと思ったらこれなのでカリアとシュウは互いの顔を見た。
「とりあえず、エルフ達にお世話になってるし…あの女王様に土産を持って挨拶も良いかな」
「お前は変に律儀な奴だな。どちらにしてもあれではテシはしばらく動けはしないだろう、時間潰しでその店でも行くとしようか」
結局シュウはヘラへの手土産を用意する事にしてインテリア物の何かを探す事を決めると、そんなシュウの姿を見てカリアは律儀な魔王だと言いつつも共に手土産を探しに一緒に歩き出すのだった。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、深刻な古の怪物からの酒場にて酔っ払いからの頼み(?)でした。うん、無茶苦茶ですね!
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