31、魔王軍参謀の始まり
ナジャスの街で一泊し、クレイはナジャスに残り修理を続けてカリアとシュウ、そしてディーはアムレートへと戻って行った。
何時までも城の守りをマリアンや治りかけのバルバだけにしておく訳にはいかない、勇者や魔王が少し不在となっていたが城塞都市アムレートに異常は特に無かった。
シュウはアムレート城の王の間にある若干座り慣れてきた玉座へと腰掛ける。
「しかしミナは相当調べ物に苦戦しているのかな、日にちはあれからまあまあ経つけど戻る気配は無い…」
「…まさか、何処かで奇襲に遭ったとか無いだろうな?」
カリアが傍に立ち、ディーがシュウの足元に居るという最近当たり前となっている見慣れたポジション。参謀であるミナは未だ戻らずカリアは何処かで奇襲に遭って戻れないのではと時間のかかる理由について考えていた。
「気配の察知に優れた彼女にそれは考え難いとは思うけどね、単純な実力も中々高いし」
「そうなのか…」
ミナが戦う所をカリアは未だ見た事が無い、なのでその力を知らないがそのカリアより長くミナと居て知っているシュウは実力を知っている。参謀として作戦を立てるのが主に見えて実は実力も高いと彼は語る。
「参謀でお前の右腕だそうだが、何時からの知り合いなんだ?」
「僕が魔王として魔王軍を率い始めて間も無いぐらいになるね。彼女が来るまでは特に作戦も何も立ててない、魔物と魔族の力で押し切る侵攻だった」
何時からの知り合いなのかとカリアに問われ、シュウは当時の記憶を遡り始める。
魔王軍が侵攻を開始した当初、魔王シュウの元に集った優れた魔王軍の戦士達。
彼らはその力を持って戦闘において人間を圧倒していった。だが作戦を細かく決めたりなどをしておらず連携があまりとれておらず部隊がバラバラに動いたり効率の良い進軍は出来ずにいる。
魔王としての圧倒的な力とカリスマが持たずに崩壊し、内部による内輪揉めも起こる可能性まであった。
「てめぇが好き勝手暴れやがるから侵攻が遅れてんじゃねぇかクソ犬が!」
「ああ!?焼き鳥にでもされてぇのか!てめぇこそうろちょろ飛び回って鬱陶しいんだよ!」
当時魔王軍に所属していたガーラン、そしてバルバは互いに好戦的な性格のせいかぶつかり合い言い合いになっている。
「やめんかお前ら!魔王様の前だぞ!」
暴れる二人の間にゼッドが割って入って争いを止める。
「あーあ…この調子で大丈夫なのかしらね?」
「………」
特に二人の争いに関心がなさそうでマリアンは自分の爪の手入れをしており、クレイは俯いたまま無言だった。
魔王軍の長の間でも連携は取れていない、これでは侵攻が遅れてうまくいかないかもしれない。圧倒的な力はあるはずが充分に発揮しきれておらず、連携のとれた人間相手に不覚を取る。いざという時に団結されて意外な力を発揮する可能性が人間にはあると聞いた事があり連携のある軍と無い軍、どちらが優勢かは言うまでもない。
シュウは何か手を考えようかと考え込む。
そこに魔王軍の兵士がシュウの元へとやって来る。
「魔王様!我が魔王軍の兵が……大国ムドを制圧したとの事です!」
「!?」
突然の報告にその場に居た長達が我が耳を疑った、今魔王軍はどの軍も出撃していない。長が全員此処に居る、いくらなんでも大国を長無しで兵士達だけで大国を制圧するなど至難の業のはずだ。
「一体何処の誰がそういう事やりやがったんだ!?」
ガーランが報告に来た兵士へと詰め寄り聞き出そうとしていた。
「それが…その軍を代表するのがミナとかいう魔族の女です…!」
「ミナ…居たか?そのような女が魔王軍に所属しているなどと…」
「うーん、可愛い子の名前は大体分かるけど知らないわねぇ」
ゼッドは記憶の限り思い返してみるがその人物に覚えがなく名前も聞いていない、マリアンの方も同じ魔族の女なら魔王軍にも沢山所属はしてはいるがミナという名前には聞き覚えが無かった。
「そんな知らねぇ女が何でその軍を率いてんだよ!?」
信じられないといった感じでバルバは吠えた。当然彼もミナに心当たりは無い。
「どういう女性なのか興味あるね、連れてこれるかな?」
兵士へとミナという女性を此処に連れてくるようシュウは命じた、此処で論じててもキリが無い。実際に彼女に会う方が手っ取り早いだろうと。
「お初にお目にかかります、ミナと申します」
シュウや長達の前に現れた魔族の女。黒いローブを身に纏っており、そこから銀髪が見えている。彼女が軍を率いて大国を制圧したのだという。
「こいつが軍を率いて大国ぶっ潰したぁ?信じられねぇな、こんな女が…」
疑う目でガーランはミナを見ていた、自分の方が強さとしては上でこの女性に大国を落とす程の力があるようには思えなかった。
「信じられないのでしたらムドへ確認に行ってみてください、もう城は魔王軍の物となっています」
「…!」
ミナはそのガーランを全く見ないまま言葉を返し、視線は真っ直ぐシュウの方へと向いている。
「さっき僕も見てきたよ、確かにムドは魔王軍によって制圧されていた。長の力も無しで兵士達の力だけで大国を攻略するとは驚かされたね」
自身の移動魔法によってシュウはムド王国へと飛んで自分の目で確認に行っていた、それが真実なのかどうか。結果は本当に魔王軍がムドを制圧したという事だ、そこに居た魔王軍の兵士が居て突然の魔王訪問に慌てて敬礼してきた時に聞き出した。
「向こうが万全の体勢で迎撃準備が整う前に隙をつきました、夜襲で敵の指揮官を落とし士気を乱し前線を突破。その混乱に乗じて…ほんの初歩的な奇襲です、今までの魔王軍は力で強引に突破してきたと向こうが思っていた。思い込みがあった分上手く行きまして、その点で言うと無駄に暴れていた方々の功績でもありました」
「む、無駄に暴れてただと!?」
「こいつハッキリ言いやがる…!」
暴れていたガーランにバルバ、他の魔王軍の者が今まで力だけで押し切っていて魔王軍は力押しだけで侵略してくる。そんなイメージが人々に知らぬ間に伝わり、ミナはそれを利用して奇襲の策で大国を攻略してみせたのだった。言われた二人は揃ってミナを睨んでいる。
「うーん、中々優秀な子じゃない。それによく見れば可愛い♪」
同じ女性の活躍にミナが可愛い顔をしているというのもあってマリアンは機嫌良さそうにミナの顔を見ていた。
「ミナ、と言ったね。我が魔王軍に所属していないキミがそこまでした理由は何?」
シュウは正面に居るミナへ理由について訪ねた、彼女は魔王軍に所属していない。にも関わらず魔王軍に協力し大国を制圧してみせた、それをするミナの目的は何なのか。シュウから視線を外さないミナはそのまま口を開く。
「魔王シュウ様、貴方のお力となり貴方の願いを実現させる為です」
そう言うとミナは片膝をつく、シュウへと忠誠を誓うように。
「僕の力となって願いを?……それは、キミの願いと一致していると考えてもいいのかな?」
「はい、私の願いも同じですので」
シュウの願いと言えば魔の者達が暮らしやすい世の中にする、ミナの願いはそれと同じだから力を貸した。それがあの大国の攻略だ。
それは上辺の言葉だけではない、それだけでそこまでするとは思えない。ただシュウはミナを面白いと思った、魔王軍では見ないタイプだ。シュウは少し考える仕草を見せた後に再びミナを見る。
「ミナは策とか作戦を考えるのは得意な方かな?」
「得意かどうかは知りませんが、嫌いではありません」
自分では得意とはミナは言わない。大国を落とすぐらいなのだから言ってもいいのだが謙虚なのか、どうも読み切れない所がある。
「では、今日から我が魔王軍の参謀として入ってほしい」
「はい」
シュウはミナを参謀として魔王軍に迎え入れる、魔王軍の参謀が誕生した瞬間だった。
この日から力だけの魔王軍が変わった
ミナの策により効率的に人間達の拠点を発見し、潰したり制圧して侵攻の速度は増していった。元々力で人間より勝っていたのが更に作戦によって力を発揮出来るようになったのだ。
彼女はバラバラになりかけていた魔王軍を救った救世主なのかもしれない。
「そういった作戦は何でも出来そうなお前がこなすものなのかと思ったが」
話を聞いていたカリアは当時の魔王軍がそこまで力任せで策を特に使わなかったのが意外だと思った、シュウならそれも得意そうだと思ったが。
「内部もバラバラになりかけててね、強力とはいえ急造の軍だ。急に仲良く連携、という訳には行かなかった、策とか考える余裕はあまり無かったよ」
当時は連携とあまり縁がなかった魔王軍、策も特別考える事も無く侵攻の効率は悪かった。それを思えば参謀としてのミナの活躍はかなり大きな物だ。
「ただいま戻りました」
シュウとカリアが話していると、王の間の扉の方から声がして扉が開かれる。その声は聞き覚えがあった。
「やあ、ミナ。丁度キミの武勇伝について話していた所だよ、大国を制圧したのを手土産で魔王軍に入った話を」
噂をすればと言うべきか、彼女の話をしていた時に本人が帰って来た。ミナは特に変わらない様子でシュウ達の前に戻り、変わらず冷静沈着だ。
「調べ物に時間がかかりまして、戻るのが遅くなりました」
ミナは戻るのが遅くなった事をシュウへと詫びた、調べ物とはガーランの言った本当の魔王についてだろう。
「何か分かった?」
その調べた結果についてシュウは真っ直ぐ彼女を見て問う。それにミナは小さく頷いた後に話し始める。
「本当の魔王……それをこの現世に呼び出すという術で条件が一致しているのが一つ、それは……デーモンロードの可能性が高いと思われます」
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、参謀ミナが魔王軍へ加入した過去でした。
書いてみるとガーランとバルバ似た者野郎同士だなぁ……。
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