28、魔王に匹敵する存在
「じゃ、ナジャス王国の様子を見て来ようか」
「ガウー」
「はいはい、ディーも連れてくから。置いてけぼりにはしないって」
アムレート城の外へと出て来たシュウ、そしてカリア。更にシュウの足元にはディーも居て共に行くつもりのようだ。カリアは勿論シュウの護衛として同行、ディーは護衛という訳でなくただついて行きたいというだけ。生まれたばかりの竜の赤子のお守りは制圧後の王国へ移動でも続きそうだった。
ナジャスの街は今頃クレイの不死の軍団が街の守りに兵士を立てて万全の体勢を取っている頃、クレイが自分で出迎えるようなタイプではない事は理解している。多分石人形かスケルトン辺りが出迎えてくれるだろう。
シュウは移動魔法によって自らの身と共にカリア、ディーをアムレートからナジャスへと移動する。
ナジャス王国の近くにある浜辺へとシュウ、カリア、ディーは現れた。二人が着地したのに対してディーだけ着地失敗し転んで地面に横になっている、その後に元気に飛び上がり走り回っている辺り傷の心配とかそういった事は無さそうだ。
そこは小さいとはいえ流石ドラゴン族だった。
「!おい、あれは…!」
カリアがナジャス王国の城を見つけると、火の手が上がっている。制圧して間も無いからなのか戦闘が終わったばかりでまだ爪跡が残ったままなのかと思ったものだが、次に見た時シュウはその目で目撃する事になる。
身体の大きな石人形が互いに殴り合い、同士討ちをしている。その2体だけでなく他でも争いが起こっている、制圧したという報告を受け戦いは終わったはずだ。それなのに彼らは狂ったように暴れている、クレイがそんな命令を下したとも思えない。
「どういう事だ!?行こう!」
シュウがその場から駆け出し、カリアもそれに続いてディーもドタドタと走って追い掛ける。
ただならぬナジャス王国の様子、情報では魔法の類を使うような事は無く腕利きの騎士団が揃っていると聞いておりクレイの不死の軍団ならば時間をかけてじっくり攻めれば問題なく勝てると見ていた。それが今何故同士討ちという事が起こってしまっているのか?
クレイを探して彼に詳しい事を聞くしか無い。
「プロテクトウォール!」
街中へとクレイは城からミニゴーレムと共になんとか逃れて来たが暴走した石人形達は彼らを追撃しようと迫って来ている、その攻撃を止めようとクレイは守りの魔法を詠唱。自らとミニゴーレムの周囲に透明の壁が出現し、石人形の放ったパンチは透明にして硬い壁が代わりに受け止めた。
ゴンッ ゴンッ ゴンッ
「うう…!」
しかし石人形達が複数でその壁を次々と殴りに行き、壁は押され始めて少しずつヒビが入って来た。
戦いを終えたばかりのクレイの魔力は万全ではない。消費した状態でこの石人形達の相手は長くは持たない、普段は頼りになるはずの彼らに今は自らにその力を振るって来ている。どうしてこんな事になったのか未だ信じられない、ただ言える事は自分達は確実に危ない。それを理解出来るぐらいだった。
自分の魔力が尽きたらまさに万事休す。
「(ヤバい、ヤバい!どうしよう……!)」
クレイは内心焦っていた、この暴走する石人形達を一人でなんとかする事が出来ない。それどころか石人形に殺されるかもしれない。この展開している魔法の守りが無くなったらどうすればいいのか。
誰か助けてほしい、クレイは助けを求めて祈った。
「うおおお!!」
ザンッ
石人形達がクレイの守りを破ろうとしていた時、カリアの大剣が振り下ろされ一体の石人形を真っ二つに斬る。
更に横薙ぎで剣を振るい、もう一体の石人形を切り裂き更に速い切り返しで3体目の石人形の身体も斬る。カリアの剣が3体の石人形をあっという間に斬ってクレイの危機を救ったのだった。
「クレイ!大丈夫か!?」
「魔王……さま……」
シュウがクレイへと駆け寄るとクレイは魔王である彼の姿を見て安心したのか防御魔法は解かれ崩れ落ちるように倒れ、その身体はディーが受け止めた。
「何があったんだ!?石人形やスケルトンが同士討ちを始めるなんて…」
「……分からない……いきなり皆暴れだして……僕の指示も……全然聞かずに………駄目かと……」
「分かった、キミは休んでてくれ」
ずっとナジャス王国との長期戦を戦ってきて魔力が万全ではない所に石人形やスケルトンの暴走、クレイは逃げるので精一杯だった。シュウ達が王国に様子を見に来なかったら手遅れになっていた可能性もあったのかもしれない。
そしてクレイは気絶、この瞬間にミニゴーレムは動かなくなり暴走していた兵達も止まる。制御が効かなくなっていたとはいえ元々はクレイの魔力によって動いていたのだから彼の魔力が断たれれば彼らも自然と動かなくなるのは当然だった。
ひとまずこれでクレイは助けられて幸い街の被害も壁の一部が壊されたぐらいで修繕は充分に可能、住民の死傷者もおらず負傷者も出てはいない。それが不幸中の幸いと言うべきか。
「フッ、上手く行けば魔王軍の長を一人仕留められるチャンスでしたが魔王様が直々にいらっしゃるとはねぇ」
「!」
シュウの背後から声がし、シュウは振り返ってカリアも剣を構える。
声の主は男。そして姿が見える、格好は貴族が着るような上質の黒い礼服。身長は180cmぐらいで細身、耳が白髪で隠れており肌が異常な程に白い、その肌から察するに彼は人間ではない。見た感じだけでなくシュウがその男から感じる魔力、それが人間の持つ物とは異質であるからだ。
「お前は……魔族の者か」
「ええ、魔王シュウ様。魔族の頂点に立つ貴方の名と活躍は耳にしております、まさかそこの女勇者であるカリアと手を組むとは歴代の魔王では真似出来ないような事をやったのは流石の私も驚かされましたよ!」
大げさに驚くような仕草を見せる魔族の男、カリアの事も勇者と分かっているようだ。
「我が名はアス、貴方が魔物や魔族の王ならば私は吸血鬼の頂点に君臨する王…と言っておきましょうか」
吸血鬼の王、自らをそう名乗るアスという男は紳士のように優雅にカリアやシュウへと一礼して挨拶した。
「吸血鬼……ヴァンパイアロードとこんな所で会うとはね」
「ヴァンパイアロード?」
「魔族の中でも吸血鬼は上位の実力者でね、特に王と呼ばれる一族を統べる者は魔王に匹敵する魔力を持つと言われているらしい」
カリアは吸血鬼と呼ばれる魔族と会うのはこれが初めてだった。それについてシュウは特徴を軽く伝える、彼らは上級魔族であり実力が高い者ばかりであり、その中で王と呼ばれるヴァンパイアロードがその一族の頂点に立ち、力としては魔王に匹敵するとまで言われる程という。
「そう、つまり魔王様ならともかく貴女のような人間如きでは気安く会う事も叶わないのですよ。しかし今こうして私と会う事が出来ている、せいぜい己の強運に感謝する事ですねぇ」
人間の事を見下す傾向があるようでアスはカリアに対して不敵に笑って言い放っていた。
「この騒ぎ、改めて聞くけどアスとか言ったか。これはキミの仕業と見て間違い無いかな?わざわざ姿を見せておいてやったのは自分じゃなくクレイが自滅しただけ、なんてくだらない言い訳を並べる気なんか無いよね?」
シュウは冷静にアスへと話しかける、改めてこの騒動はアスのやった事なのかと。自分から姿を見せて挑発的な事を言っておいてクレイの自滅と言うつもりは無いだろうが、そうだったら吸血鬼の王の品性を疑うものだ。
「フッ…わざわざ私がこうして出て来てあげたのです。教えて差し上げますよ、私にかかれば石人形を暴走させるくらい可能というもの」
アスは隠す気は無い、石人形やスケルトンを暴走させたのは自分であると自分で認めた。
「少なくとも、貴様は魔王軍…シュウのやろうとしている事には反対。敵という事で良いのだな?」
剣を構えた状態でカリアはアスへと問いかける。
「そこの魔王様がやろうとしている事は人と魔の共存でしょう?それは困りますねぇ、非常に困りますねぇ!人間と仲良くするなど…」
「正直虫唾が走りますね、下等で我々の餌にしか過ぎない人間ごときと対等に手と手を取り合うなどと」
この言葉でアスは完全にシュウの目指す世界とは全く違う思考と分かった。この男は確実に敵だ。
「その思考、まるでガーラン…我が魔王軍に居た狂犬と似てるよ」
「はは、ご冗談を。彼は確かに同志ではありますが同類と思わないでいただきたい!あんな美しくない獣などと一緒にされては迷惑です」
「へえ…同志って事は今協力関係なんだね」
「おっと、この私とした事が口を滑らせてしまいました」
ついこの間シュウ達魔王軍に強襲を仕掛けて来たガーラン、かつての魔王軍の者とこのヴァンパイアロードは今同志として繋がっている。仲間としての連携はあまりよろしくはないようだが、アスは美しさに拘っているのが会話していて分かった。
「そのガーランも何か言ってたね、本当の魔王が目覚めたらこっちをひねり潰して地獄送りだとか。つまりキミ達が動いているのはその本当の魔王と関係しているという事かな?」
「あの獣はそんな事を喋ってたのですか?全くこれだから血の気ばかりの獣は知性という物も無くて困ったものです」
ガーランとアスは同志、そしてガーランは本当の魔王と言っており彼はおそらく本当の魔王なる者の為に行動していると見て確率は高いかもしれない。それを思えばアスもわざわざ騒ぎを起こしたのは同じように本当の魔王と関係しているのかとシュウは彼と会話する中でそう読んでいた。
「私はそこまでサービスはしませんよ、今日はただのご挨拶というだけでこの顔を見せてあげただけですので。まあ挨拶がわりにそこの人形使いの少年でも仕留められたら儲けものと思ってはいましたがね」
流石に相手も馬鹿ではなく、そこまでご丁寧に目的をベラベラ言うつもりなど無い。そしてアスは不死の軍団の一部を操って混乱の真っ只中にクレイを倒す事を狙っていたようだ。
「ガウゥ……!」
アスに対してディーが唸るような声で睨んでいる、明らかにアスへの敵意が見える。
「ん?その赤子のドラゴンは…ああ、あの青いドラゴンの。操られつつも子を産んでたのですかね」
あの青いドラゴンについて知っているようでアスはディーが青いドラゴンの子と分かれば納得したように頷いた。
「…青いドラゴン、まさか操っていたのか?石人形と同じように」
カリアは切っ先を向けるのを止めない、何時アスが襲いかかって来ても対応出来るように構えている。挨拶だけという言葉をそのまま鵜呑みにする気は無かった。
「ええ、私の凶暴化魔法の実験台になってもらいましたよ。狂い踊りながらダイヤモンドダストを発生させているその姿は獣にしては中々の美しさがありましたねぇ、そしてその赤子が居てドラゴンの事を知っているという事は魔王様達が倒してしまったのでしょうね」
凶暴化させていたのはアスの仕業だった、あの青いドラゴンの暴走。そして地方に猛吹雪が発生していたのはアスがやった事だ。
ただしアスは知らないようだ、青いドラゴンの子供がそこに居るという事は魔王達が青いドラゴンを殺してしまったと思っているようだが本当はシュウが洗脳を解いてドラゴンは生きて飛び立って行った。その事に彼は気付いていない様子。
「では、魔王様。そして勇者、またお会いできる時を楽しみにしてますよ」
そう言うとアスは移動魔法を使ったのかその場から消え去った。彼も高い魔力を誇るので移動魔法も可能のようだ。
「……いけ好かない男だったな」
構えを解いてカリアは剣を収めると不機嫌そうに言葉を放った。
「ヴァンパイアロード…魔王に匹敵する魔力……ね」
アスの去った後にその彼が立っていた場所から目をそらさず見ているシュウは小さく呟く、心では何を思うのか。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、とりあえずいけ好かない感じの敵として登場したアスでした。紳士的ですが格下は見下すという性格ですね。これは友達おらんタイプです(
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