24、暴走する竜との戦い
巨大な山の如く立ち塞がる青いドラゴン、巨体を活かした物理攻撃に全てを凍てつかさんとする冷気のブレスにカリアやホルクの剣は中々近づいて攻撃が出来ずに攻めあぐねていた。
しかし仮に近づけたとしても鋼の鎧のように硬い竜の皮膚が剣を跳ね返す、仕留めるなら急所を正確に突いての一撃を決めるぐらいしか道は無いかもしれない。
「闇雲に斬りつけても倒す事は不可能、かと言ってこのまま長期戦では我々の方が持たないかもしれん」
一撃の隙を伺うも中々チャンスが巡って来ず竜を見据えた状態でホルクは二人へと話す。
「頭を狙っても弾き返される…何処が弱点だ…?」
巨大な竜の相手をするのはこれが初めてではない、カリアも過去にドラゴンは倒しているがこのような巨大で強靭な鱗を持つ竜は見た事が無い。大抵の竜は頭を狙えば深く斬りつけられてそれが致命傷で倒せる事もあった、今回の青いドラゴンにはそれが通じず頭以外の弱点を探さなければならない。
「弱点は探さなくていい」
「何?」
「とりあえず戦えない状態にまで追い込む、弱らせておけば良い。二人はもう少しあの青いドラゴンを相手していてほしい、さっきのあの強烈なブレスが来るまでは」
シュウは弱点は探さず二人は守りに専念して青いドラゴンの相手を引き付けるように頼んだ、彼なりに何か作戦でも浮かんだのだろうか。カリアはその話を聞くと視線は上へと向く、その先には巨大な青いドラゴンが再び暴れ始める姿が見える。
「分かった、どちらにしろ有効打は無い状態だ。此処はお前の作戦に乗るとしよう!」
そう言った直後に青いドラゴンの爪が振り下ろされるが、カリアは右へと横っ飛びで回避して直撃を免れる。地面へと青いドラゴンの腕が当たれば多くの雪が飛び散っていく。
「引きつけておけば良いのなら弱点を探って攻撃よりは難易度は下がる、任せておけ!」
ホルクはわざと青いドラゴンの視界に入るように走り、注意を自らへと向けさせる。青いドラゴンはそのホルクの姿を見れば彼めがけて尻尾を振り回すが、これをホルクは後ろへと跳んで躱し注意を引き付ける事に成功している。
「(後は、あの攻撃が来るのを待つ…暴れ回れないぐらいの体力を奪う)」
カリアとホルクが青いドラゴンの相手をしている間にシュウはその時を待つ。二人の剣で急所を突いて倒すよりもまだ手間は少なく、あのドラゴンを殺さずに抵抗出来ないぐらいに弱らせられる。
ドラゴンは苦しんで暴れているように見える、まるで狂っているように。
仕留めるだけなら簡単ではあるがそれでは何故狂ったように暴れたのかその原因が分からなくなるかもしれない、なのでなるべく生かして原因を調べる必要がある。
しかしカリアとホルク、二人の勇者と戦士はあの巨大なドラゴン相手によくあれだけの時間持ちこたえて戦ってくれている。鍛え上げた騎士達でも竜の攻撃をあそこまで凌ぎ続けるというのは無理な話だ、常人離れの強さを持つ二人が前線を務めてくれるおかげでシュウに攻撃は来なくて様子見に専念出来ている。
後は青いドラゴンの行動次第だ。
「カァァァーーーーーーー!」
カリアとホルクが青いドラゴンの攻撃を引き付け、守り続けていると青いドラゴンは突然雄叫びを上げた。
スゥゥーーーーー
「!(此処だ!)」
その時青いドラゴンが大きく息を吸い込んだ姿を見るとシュウは瞬時に反応し、移動魔法でその場から消えて空中で止まった状態で竜の目の前に現れる。大きく息を吸い込んだ後に飛んで来るブレス、そのパターンを一度見ている。
これが知恵ある相手ならば同じパターンで来る事など確実に決まると確信でも無い限り攻撃は飛んで来ないかもしれないが、相手は狂ったように暴走している様子。わざわざパターンを変えるような事をするような頭が今は回らない状態のはずだ。
そして息を吸い込んだ後に再び冷気のブレスが吐かれる、その口が開いた瞬間
「ヘルブレイズ!」
シュウが杖を青いドラゴンへと先端を向けると青白い火球が発生、直径にして20センチぐらいの大きさであり発生した火球はブレスが吐かれる前に猛スピードでドラゴンの口へと放り込まれる。
ボォォォーーーーーーーーーッ
「ガァァァーーーーーーー!」
炎はドラゴンの全身へと燃え広がり青白い炎に巨体は包まれ、のたうち回る。いかに頑丈な鱗を持とうが身体の内部から焼かれては効果が無いなど有り得ない。そして冷気を扱う竜に高熱の炎は最も効くようだ、しかしシュウはこれで終わりにはしない。竜の抵抗が無い今、どうして狂ったのか原因を探ろうと魔力を感じ取ってみる。
「……(ん?何か強力な魔法がかけられている………これは、凶暴化!)」
そこにドラゴンから感じる魔力以外に一つ異質な魔力をシュウは感じ、これで確信した。この竜は操られている、ならばやる事は一つだ。
「ウォォォ……」
「手荒な真似して悪かった、今…苦しみから解き放ってあげるよ」
苦しみながら横倒しの状態となっており、このままシュウの炎で燃え尽きるかもしれない。しかしそうはさせない、シュウは魔法を詠唱する。
「ダークヒーリング」
シュウの右手を青いドラゴンにそっと当てる、皮膚は焼け焦げているが次の瞬間右手が黒く光る。これは魔族や魔物にしか効果が無いが効果は人間の使う回復魔法を遥かに凌ぐ、そして使い手が絶大な魔力を持つ魔王のシュウであれば瀕死の重傷からでも回復は可能。黒く光る右手は焼け焦げたドラゴンの皮膚を元通りに回復させていき更にシュウは左手に杖を持って先端を青いドラゴンへと当てると…
「レスト!」
回復を行いながら同時にシュウは暴走する魔法がかけられていたドラゴンに解除魔法を施す。星のマークが描かれた魔法陣がドラゴンの頭上にまで移動し、それが頭の中へと入ると緑色の光に包まれる。
体力と傷の回復、そして状態以上を引き起こす魔法の解除。それらをシュウが一人で同時に行っていた、これもまた魔王の魔力だからこそ可能な離れ業だ。
「どういう事だ…?仕留めたと思えば回復させている」
シュウがあの青いドラゴンの口へと放り込んだ炎で倒したのかと思えばその後に治療を行っている、ドラゴンを倒す為に放ったのではないのかとホルクはその光景を不思議そうに眺めていた。
「…とにかくこの場は彼に任せてみよう」
何か考えがあってやっている、そう思いカリアは黙ってシュウのやる事を剣を収めて見守る。巨大なワイバーンが襲いかかって来た時もシュウの力をもってすれば倒す事は容易だったが彼はそうせず空腹だったのを見抜き食べ物を分け与え解決した。
今回も彼は青いドラゴンを倒さず助けようと行動している。
「グ………」
光が収まると青いドラゴンはその身を起こして立ち上がる、再び襲いかかって来るのかとホルクは身構える。
「気分はどうかな?」
「………」
先程まで暴れまわっていた時と違い青いドラゴンが暴れ始める様子は無い、シュウはそんな竜を見上げて問いかける。
「オォォォーーーー!」
青いドラゴンは空へと向かって吠え、大きな翼を広げる。苦しそうな様子は無い、かけられた魔法は解かれ体力は完全回復。これが本来の竜の雄叫び、周囲に吹雪は発生していなかった。
「(まるで…シュウに礼を言っているようにも思えるな、気のせいかもしれんが)」
竜の雄叫び、それを聞いて本来の竜の姿を見たカリアの目からは青いドラゴンなりの礼なのかもしれない。根拠は無いがそう映った気がした。
そして竜は翼を羽ばたかせると空へと飛び、空に消えて去って行った。
「すっかり吹雪は無くなったな、やはりあのドラゴンによる物…それがいなくなったという事はもう天候の荒れる心配は消えたと見て良いのか」
「そうだね、あの狼達も住み心地悪くなって此処を立ち去るだろうし。この地方の心配事はひとまず無くなったよ」
吹き荒れる吹雪は無い、あるのは心地良いそよ風のみ。その風を受けながらホルクは飛び去った青いドラゴンの向かった方向を見ておりシュウも同じ方向を向いていた。
「(ただ、誰が凶暴化をかけたのかは分からない…自分でそうなる事は無いだろうし、その魔法をかけた誰かが居るはず)」
解決はしたがシュウの中で謎は残ったままだ、あの青いドラゴンをあの狂った状態にして追い詰めた魔法をかけた者が存在するはず。そこまでは流石にシュウがいくら凄い魔法の使い手だろうが分からなかった。
「では、問題は片付いたという事で俺はこれで失礼する」
「途中まで送ろうか?移動魔法ならすぐだよ」
「結構だ、その気持ちだけ貰っておく」
原因が解決したのでホルクは一足先にターウォへと戻る事にし、シュウの申し出も断り一人でその場から去って行った。
今回の共闘でホルクの実力の高さが分かり、頼もしい戦士だと確認する事が出来たのも収穫だろう。
嵐の去った雪原にこれで残ったのはカリアとシュウの二人だけだ。
「じゃ、帰ろう…ん?」
シュウはカリアへ帰る事を伝えようとしていた、その時に青いドラゴンが居た場所に雪に混じって何か白い物体が落ちているのが見えた。
「それは…タマゴか?随分と大きいが…少なくとも鶏のタマゴとかではあるまい」
近づいてシュウが拾い上げて見るとカリアも近づき、それがタマゴである事が分かった。鳥のタマゴと比べてもだいぶ大きい、シュウが先程出した炎の弾と同じぐらいかそれよりも少し大きいぐらいだ。
ピシッ
「!?」
するとタマゴから急にヒビが入り始め、シュウもカリアもそれに驚いた表情になる。シュウとしては丁重にタマゴを扱ったつもりだったが想像以上にデリケート過ぎて割ってしまったのかと思った。
タマゴはどんどんと割れて来てやがて中身が明らかとなる。
「ギャウー!」
タマゴから何やら雄叫びと共に出て来た、それは子犬ぐらいの小さな青いドラゴンだった……。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、元に戻すのに滅茶苦茶手荒すぎる方法を使うあたりは流石魔王という事で…。
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