22、用心棒の過去
「特に魔物の気配とかは無し、人の気配も無さそうだね」
外は猛吹雪、凍てつく天候から一時逃れる為に発見した洞穴に3人は入りシュウは魔物や人の気配を探れば特に誰もいない事を確認した。
「火をおこして身体を温めるか。それでついでに食事にでもしよう」
ホルクは火の準備を進めて此処で暖を取るのと食で英気を養うのを提案、カリアとシュウもそれに賛成しホルクの準備を手伝って最後にシュウが弱めの炎の魔法で火を灯し、3人はそれを囲うように座る。
「僕達はパンと干し肉があるけど、ホルクの方は?」
移動魔法でゴート王国へと来る前にシュウはアムレート城の食料庫を拝借し、元々そこは王族達が贅沢をする為にひたすら食糧を溜め込んでいて今は市民達にも分け与えている。そこで二人分のパンと干し肉をシュウは持って行きカリアにも渡し済みだ。ホルクも同じようにそういうものを用意しているのかとシュウは干し肉を火に近づけながら訪ねた。
火で炙った干し肉は美味そうなのかとちょっとした興味で干し肉を焼き色がつくまで炙りシュウは焼けた肉をひとかじると予想より熱く、シュウは熱そうにしながらも肉を食べる。
「俺は俺で食べるものを所持はしている」
そう言うとホルクは自分の荷物から袋を取り出して開けると袋からパンに肉や野菜が挟んである物が出て来る、それは美味そうなサンドイッチだ。
「パンや干し肉で足りないなら食べるか?腹が減っては戦は出来ん」
食糧は余分に用意してあってシュウとカリアにもサンドイッチを分けられる程の余裕はあるらしい。共にその申し出に甘えさせてもらい二人もサンドイッチをいただく事にした。
「……美味いな、腹が減っていたというのもあるが中々美味い」
カリアがサンドイッチを食すとそれぞれの旨味が味わえてかなり美味しく食べられる、自然と食は進んでいた。
「これは美味しいね。何処の店で買ったやつ?それともひょっとしてキミの手作りだったりとか?」
シュウの口にも合い食べ進めつつこのサンドイッチが何処の店で売ってるのか、まさかホルク自身の手作りかと冗談のつもりで聞いてみる。
「ああ、俺が作った物だぞ」
「本当にホルクの自作だったんだ、それはちょっと驚かされたな」
持ってきた水を飲んだ後にホルクは自分の作った物だと答えシュウは冗談で聞いたのが当たって内心少し驚いた。先程あれだけの剣の実力を持つ男が調理場に立ってサンドイッチを作る姿というのを少し想像しづらく、意外だ。
「食は強靭な肉体を作り上げる上で欠かせない、無論ただ食べるだけでなく鍛錬も欠かさずな」
「同感だな。それに美味い食事ならばモチベーションにもなり辛く苦しい行軍や戦いも乗り越えられるというものだ」
同じ剣を振るう者同士、カリアとホルクの両者が食の重要さを語っていた。それを聞きつつシュウはサンドイッチを食べ進め、平らげる。最初に食べた時は何処の店の美味い物なのかと思ったものだがホルクが作ったのならこれは店に出ていても不自然ではないぐらいに美味い、ターウォを救った英雄は料理が得意でもあるというのが分かった。
「私も冒険者として色々各国を渡り歩き己を鍛えていた時期があったが、ホルク。貴方もそうなのだろうか?」
サンドイッチを食べ終え、暖かいホットミルクで食後の一杯をカリアは味わいつつホルクに聞いてみる。彼はいかに力を身に付けて今に至ったのか興味があった。
「そのようなものだな。様々な国を行き、経験を積み重ねて来た」
同じくホルクもホットミルクを飲んでおり、シュウにもそれは配られて飲むと熱そうにしていて少し冷ましながら飲む姿は魔王ではなく年相応の子供に見える。そんな彼を見つつホルクは語る。
「元々何処かの国で騎士団だったとか、かな?」
「いや、所属した事は無い。俺の親父は騎士団の団長だったがな」
シュウは元々は騎士団に居てそこで基礎を鍛えて旅で更に強くなったのかと思いホットミルクを飲みつつ聞けばホルクは小さく首を横に振る、彼自身は騎士団に在籍した経験は持たず彼の父親が騎士団だったらしい。それも団長とかなりの実力者だ。
「その騎士団というのは?」
「ああ…ヴァント王国だ」
今の言葉にカリアとシュウは互いの顔を見た、ホルクの父親がカリアにとって因縁のある大国の騎士。ただカリア、それにシュウも此処で気になった点が一つある。
「ホルク、貴方の父親…その騎士団長の名前は?」
カリアが真っ直ぐホルクの目を見て尋ねる、思い浮かんだのはカリアとシュウを亡き者にしようと企んだ業火使いのあの男の顔だ。ヴァント王国の騎士団長となると。
「ホースト、それが父の名だ」
「……ホースト?」
ホルクの口から出た名前はカリア、シュウの予想とは違っていた。二人の知るヴァント王国の騎士団長だった男の名はベン、てっきりベンがホルクの父親なのかと二人とも思ってしまっていたようだ。するとホーストはベンの前の騎士団長という事になる。
「どんな人なのか、聞いても?話したくないなら話さなくてもいいけど」
「構わん。特に秘密という訳ではないが……人に話すのは初めてだ、ずっと自分の中でしまっていただけに留まっていた…」
己の中の騎士団長だった父ホーストについてホルクは揺らめく火を見ながら話し始める。
ホルクの幼い頃、父親はヴァント王国の騎士団長となって王国のために力を尽くしていた。
剣の腕が滅法立ち高い統率力も兼ね備え周りの信頼は厚く彼の居る騎士団は歴代最強だという声もある程だった。
自分もその最強である父のようになりたい、父であり偉大なる騎士へと子供心ながら憧れを抱くのは自然な流れだ。しかし騎士を目指すにはその時のホルクはまだまだ幼すぎる、剣を持つ機会などはその年では当然無い。なので成長を待つしかなかった。
彼が剣を握れる程になったら剣を教わる、父ホーストもそのつもりでその時を楽しみにしていた。剣を教わり自分も父のような立派な騎士になりたい。
だがその思いは無残にも途絶える事となってしまう。
ある日ホルクが深夜に眠っていると焦げるような臭いが鼻に伝わり身体に熱さまで感じて来ていた、この妙な感じに身を起こすと自分の家が燃えて火事になっている事に気づく。必死に自分の部屋を出て逃げるホルク、何がどうなっているのか分からない。頭の中で理解が追いついていかない、それでも身体の方は逃げなければいけないと動いていた。
そして逃げている途中で彼は見てしまった。燃えて崩れ落ちた天井の下敷きになっているホーストの姿を。
ホルクは必死でホーストの名を叫ぶように呼ぶもホーストはピクリとも動かない、その時に救助へとやって来た街の自警団によってホルクは運ばれ、動かぬ父を目にしたまま家の外へと出された。
彼らの家は全体に燃え広がり消火活動が開始される、しかし予想以上に炎は激しく中々消えず家は崩れ落ちていくばかりだ。
その様子を幼きホルクは呆然と見つめる事しか出来なかった。
炎が消えた頃には家は全焼して無くなりホーストらしき焼死体が発見され、ヴァント王国の騎士団長を思わぬ所で失ってしまったのだった…。
「火事…それは事故なのか、それとも誰かが?」
当時のホルクの家の火事、それを聞いてシュウは事故なのか誰かが故意に起こした物なのか気になった。
「後で知ったがその当時ヴァント王国の方で放火魔による火災がいくつか起こっていた、俺の時のような大火事では無かったが奴の仕業だろうと王国はそいつを指名手配して全力で捕まえたようだ」
「…それが無ければ今もホースト殿はヴァント王国騎士団の団長を務めていただろうな」
カリアはホルクの父ホーストとは当然ながら面識は無い、ホーストが生きており騎士団長のままだったら彼と共にもしかしたら魔王討伐へと向かっていてシュウに会っていたかもしれない。ベンの時は裏切られたがホーストだったらまた違った道になっていただろうか。
「(そんな腕の立つ騎士団長も放火魔による不意の放火には対応出来ず命を落としたのか…)」
話を聞く限りホーストはかなり腕の立つ騎士とシュウのイメージではそれが出来上がっていた、その騎士団長にもなった男を突然の火事で命を奪う放火魔。一体どのようにしてそうなったのか、居たら色々聞いてみたいものだった。
「そしてホースト殿のように立派な騎士になる為に各国を、世界を渡り歩き己を鍛えた訳か」
カリアとはまた違う目的でホルクも旅をし心身共に鍛え上げている。計り知れないショックからそこに至るのは相当苦労があったのかもしれない、それは孤児院の仲間達を失ったカリアもそうだったのだから。
「それもあるが…もう一つ目的がある」
「目的?」
ホルクが自分を鍛えて世界を旅する理由はホーストを目指す他にも目的があり、それが何なのかシュウは次の言葉を待つ。
「あの火事の後に行方が分からなくなった母、そして生まれたばかりの妹を探す事だ」
「母親と妹…火事場から逃げてそのまま何処かに行ってしまったのか?」
「ああ、俺は突然の火事で頭が混乱して探す暇は無かった。自警団の者も焼けた家からは父の遺体しか発見しておらず遺体やそれらしき物も何も無く火事場から逃げ出した、としか考えられない」
ホルクの母と妹、その二人も当時家に居て火事に巻き込まれたはずでありホーストは焼死体となって発見されたが母と妹は何処にもおらず遺体もホーストだけだった。つまりあの日に母と妹は火事場から消えて失踪したのだ。
「消えた……まるで移動魔法でも使ったみたいだな」
火事場から消えて逃れる、それは最近世話になっているシュウの移動魔法のようだとカリアは僅かに残っていた自分のホットミルクを飲み干して呟く。
「話すと意外な事が分かるものだね、ターウォを守った英雄が実はヴァント王国の先代騎士団長の子で行方のわからなくなった母と妹を探していると」
シュウにとって最初のホルクの印象はターウォを守りし英雄でバルバに勝利した男、それぐらいだったのがまさかこのような事情があったとは思っていなかった。ターウォの英雄ホルク、彼にも戦い旅する理由はあってそれは話を聞かなければ決して知る事は出来なかっただろう。
「良ければ二人の名前を聞かせてもらってもいいかな?ひょっとしたらこちらの方で会う事があるかもしれない」
ホルクからシュウはその母と妹の名前について聞く、容姿に関しては当時から時は経過していて色々変化があるだろうからあまり参考にはならないだろう。特に生まれたばかりという妹は大きく変わっているはずだ。
「母はアイリという名前だ、妹の方は……」
「……分からん」
「え?」
ホルクの母はアイリという名前の女性と分かった、だが妹の名前はホルクは分からないと言った。それがシュウ、そしてカリアも予想外であり一瞬呆気にとられる。
「分からないって、妹だろう?」
「本当に分からないんだ。…生まれたばかりで名前はまだ決まっていなかった、その名前が決まる前にあの火事だ」
妹の方が姿だけでなく名前も分からない。そうなると手がかりは全く無い、母親であるアイリならば何か知っているかまたは共に居る可能性も考えられる。
「妙な物だ、どうもお前達を前にすると自分のことをペラペラと喋ってしまう」
「うん。おかげで色々聞けた」
火事で父を失い更に母と妹が失踪、ホルクが過酷な人生を歩みながら強くなったというのは充分伝わった。彼が何故あれだけ強いのか納得だ。
外の吹雪はまだ収まる気配は無く、今語られたホルクの辛い過去を表現するように冷たく吹雪続けていた…。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、寒さはもう去って暑さがやってきましたね。こういう時に味わうアイスは美味い。常に執筆のお供にしたいぐらいです。
この話が良いなと思ったらブクマと評価よろしくお願いします。評価方法はページ下にある☆☆☆☆☆をタップです、こういう評価が執筆のモチベに繋がったりします!




