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ブレイブ&ルシファー  作者: イーグル
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20、少年王の訪問

アムレート城の入口で魔王軍の者達から一斉に視線を浴びる人間の姿がある、その中でも特に目立つのが二人。一人は青を基調とした上質な服を身に纏う少年。もう一人は銀色の鎧を身に付け少年を守る騎士のように傍らに立つ長身の男。

そして10人程の騎士団を引き連れており、いざという時に主を守るため警戒は怠らない。


海上都市ターウォ王国のレオンが魔王軍の占領するアムレートへと遠路はるばる訪問しに来た事に魔王軍の兵士達の間でざわつきが起こり始めていた。バルバを一度打ち破った王国の者が一体何の用で来たか、アムレートが魔王軍によって制圧された事を知らずに来たとも思えない。もしくは魔王軍をこの少数で滅ぼしに来たのかと考える者も居るがいくら腕がどれだけあろうがこの程度の人数でゼッドの竜の軍団が不在といえど魔王の居る本隊に対してそれは無謀と言える。

バルバ達に勝利して調子に乗ってそのような策で来たのだとしたらこの大勢の魔王軍の軍勢は即刻八つ裂きにせんと襲いかかる事は確実だ。



「てめぇぇ!どのツラ下げて此処にノコノコと出て来やがったんだああ!!?」

このターウォ王国の訪問に特に穏やかではいられない者が一人居た、彼らの前に一度敗北し自らも負傷で退却に追い込まれたバルバが銀色の鎧騎士、ホルクへと真っ直ぐ睨みつけ今にも襲いかかりそうだった。これを見て護衛の騎士団達が前に立つがホルクは彼らを片手で制してどかす。

「今日は此処で争いに来た訳ではない、話に来ただけだ」

「てめえら人間と話す事なんざねぇ!」

「こっちもお前と話を、とは言っていない。魔王へ直接話がある」

「何だと!?よりによって魔王様へ話だぁ!?絶対に騙し討ちで殺ろうって魂胆だろうが!」

かつてホルクに負けた事を思い出しバルバの顔はかなり苛立って冷静ではない、シュウへ話があるという言葉を全く信用しておらず彼らは魔王を呼び出して不意打ちで消そうと思い込んでいた。そう考えるのはバルバだけではない、他の魔王軍兵士達も狙いがそれだと思う者は少なくないだろう。

「それは決してしない、女神ルーヴェルに誓って」

ホルクは真っ直ぐバルバを見てこの世界に加護を与えている女神ルーヴェルの名を口にし、その女神に誓って不意打ちのような真似はしないと言い切った。

「信じられるかよ!言葉だけなら何とでも言えらぁ!」

それにもバルバは信じようとはしない、その場は最早一触即発となりつつある。



「バルバ、そこまでにしておこうか」

「!」

頭に血が上っていたバルバの耳にもしっかり届くその声、先程までホルクに対して突っかかっていた彼の動きが止まる。今のバルバを止められるのは今の魔王軍に一人しかいない、魔王シュウだ。彼はカリアと共に入口の扉から現れ一同の元まで歩いてやって来る。

「魔王様…」

「あれが、魔王?」

バルバの呟くような言葉がそれまで黙っていたターウォの現王であるレオンが反応する、彼だけでなくターウォの者達全員が魔王の姿が信じられないといった様子だ。それもそのはず、レオンと同じように小柄な少年でありとても見た感じでは魔王軍の頂点に君臨する者とは到底思えない。護衛の騎士団の方にもざわつきが起こり始めていた。

「貴方が魔王、で間違いは無いか?」

「何も間違いではないね。そういうそちらが、今のターウォ王国の王で間違いは無いかな?」

「こっちも合ってる。俺がターウォの現王レオンだ、会えて光栄だよ…魔王」

お互いを見る少年二人、これが互いのトップである事は何も知らない者からすればすぐには信じられる事ではない。ターウォ側の方は見た目は立派な銀の鎧を身に付ける長身の男ホルクが国のトップだと思われやすい、その傍に居るレオンがその補佐だろうと、しかし実際はレオンが王でありホルクは用心棒だ。この少年が今は亡き前王の父から王位を継承し現王に君臨し国を立て直してバルバの強襲を跳ね返している。幼いながらその手腕は侮れないと見て間違いは無いだろう。


一方の魔王であるシュウをターウォの騎士団達は改めて見てみる、各国へと侵攻し次々と国を滅ぼし制圧している魔王軍の頂点に居る魔王。どんな恐ろしい姿をしているのかと身構えていたがレオンと同年代ぐらいの小柄な少年でありこれがあの世間が恐れる魔王なのかと信じられない気持ちだった。

しかしターウォを一度強襲してきて先程までホルクへと斬り掛からんとした血の気の多い感じがするバルバがシュウの出現で動きにブレーキがかかったように突っかかるのを止めている、つまりそうさせる程の者であるのは間違い無い。

「此処から遠いであろう海上都市からわざわざ此処まで来る、というのは単純に遊びに来たという訳ではなさそうだよね」

「気軽に遊びに行けるような距離ではない事は分かっているだろ?我々ターウォは魔王軍に喧嘩を売りに来たんじゃない、むしろその逆と言ってもいい」

「逆…?」

シュウ達魔王軍を討ちに来た訳ではない、当然ながら遊びという線も有り得ない。しかし彼らはあの海上都市ターウォから気軽ではないであろう距離の此処アムレートまで来ている。

「興味深いね、遠路はるばる来た客に立ち話させるのもなんだから城の中で続きを聞かせてもらおうか。案内よろしく」

レオン達が此処に現れシュウへの要件、それについて強く興味を持ったシュウは外での立ち話で聞くよりも城の中で聞きたくなって兵士達に場内の案内を頼んだ後にカリアと共に一足先に城の中へと戻って行った。



「なあ、今魔王の子供の傍に居た女って…」

「ん?美人で良いなって言いたいのかお前」

「違ぇよ…!お前だろう、そう思ってんのはよ…!」

後ろから護衛の為についていくターウォの騎士達が声を潜めて話しているのはシュウの傍に居たカリアの事だ、普段は鎧を身に付け戦場に出ているが今さっき見た彼女は半袖の黒い布の服で兜も被っておらず美しく凛々しい顔はハッキリと見えていた。

「おい、魔王軍に今我々は囲まれている状態だ。無駄な私語は控えた方がいい」

その話し声が聞こえていたホルクは騎士達に注意する。



「お前も気になるのか?あの女性が」

注意していたホルクに歩きながらレオンは声をかける、先程まで騎士に注意していたのに主がそうしては示しがつかないがなるべく小声で話していた。

「何の事でしょう…?」

「視線が魔王よりもそっちに行ってた気がしてね」

「………中々の実力者、と思って見ていただけです」

ホルクも最低限の会話と声量でレオンと話し、カリアの方を見ていた事に関しては認め彼女がかなりの実力者だから気になって見ていただけだと説明を終わらせれば二人は会話を止めて魔王軍の兵士の案内について行く事に専念する。



通された場所は先程までカリアとシュウがお茶をしていた食堂、急に来客があると部下から告げられて急遽向かったのでテーブルにはクッキーの乗った皿と冷めてきている若干飲みかけの紅茶が入ったティーカップが置かれている。紅茶のティーカップはシュウの飲んでいた物でシュウは戻ってきてそれを再び手にして紅茶を一口飲む。

「そこにあるの食べたいなら自由にどうぞ、別に毒は無いし人間にとって害になるような物も特に無い」

「クッキーは大好きではあるが今は結構だ」

席について紅茶を飲みながら紅茶のお供であるクッキーを勧めるシュウに対してレオンは断った、そしてシュウと向かい合う形でレオンは席へと座る。

カリアがシュウの傍に立っており、バルバはドア付近の壁に寄りかかりターウォの者達を、主にホルクを睨みつけつつ何かしでかさないかと用心深く見張っている。

「それで一国の若き王自らこの魔王軍に乗り込んだ理由をそろそろ教えてもらってもいいかな?」

誰も食べる気配が無いのでクッキーを一つ手にとってシュウは食べつつ要件を伺う。

「回りくどい事は好まない、単刀直入に言わせてもらう」

一呼吸置いた後にレオンは口を開く。








「我がターウォ王国は魔王軍との同盟を結ぶ事を望む」




レオンの言った言葉は魔王軍側を大きくざわつかせ、どよめかせるのに充分だった。


ターウォを代表する若き王の持ちかけた要件は人間側を裏切るような内容なのだから。




「人間の国が魔王軍に同盟を持ちかけるだ…?」

「同じ人間を裏切るようなものじゃないのか?」

「どうなってんだよ…」

魔王軍の兵士達はどういう事だと戸惑う声が多数上がっている、それも当然だ。今まで人間の国が魔王軍に対して同盟を結ぶというのを持ちかけて来た事など無い。それが今初めてターウォの者が行っている、それもその国の王直々にだ。


「この前そちらの国へと攻め込んだはずだけど、それを水に流しての同盟と受け取っていいのかな?」

そんな中でシュウは動揺を見せず口元に微かに笑みを浮かべてレオンへと問いかける。ターウォとはこの前に一戦交えたばかりだ、それにも関わらずターウォはヴァント王国といった人間側の方を裏切り魔王軍側につこうとしている。

「ああ、こちらとしても魔王軍の優秀な者を負傷させてしまった事もある。それに今の人側を正直信用してないんでな、連中は国を統べるような器じゃない。なのに国の王なんかを務める、そのせいで表面は平和に見えても実際は不満ある世の中だ」

レオンは各国の王を信用せず彼らを裏切り魔王軍の方に味方する、その方が平和への近道だと考えての事らしい。それが人間側を裏切るような行為だと言われようが彼の知った事ではない。

「おいおいおいそれで「はいそうですか、良いですよ」て都合の良い答えを期待してんじゃねぇだろうな?ふざけんなよ!魔王軍がそんな都合良く同盟を受けてやるとでも…!」

そこに聞いていたバルバが横から口を挟む、彼からすれば都合が良すぎて信じられない話であり他の魔王軍の兵士の中にはバルバと同じような考えを持つ者も数多く居る。





「良いよ、ターウォとの同盟を結ぼう」

「!?」

しかしこれにシュウの方が何故かあっさりと同盟の件を受け入れた、これにバルバの表情は怒りから驚きへと変わる。

「魔王様!何で!」

「海が広い庭同然のように得意とする彼らが味方になるのは実に心強いじゃないか、せっかくの申し出だ。受け入れるべきと僕は判断させてもらった」

ターウォの者達は海での戦闘や活動を非常に得意とし、専用の大型船や軍艦まで所持していると聞く。そんな海戦に特化した者達が味方となってくれるのは魔王軍にとって大いにプラスだ、それはバルバとて分かっているのだがシュウの早すぎる決断にいささか考え無さ過ぎではないのかと思えてくる。

ターウォの前にはかつて敗れており、そのターウォが同盟となって魔王軍側についてくれる。人間側の戦力を減らすどころかこちらの大きな力となって人間側の不利は目に見えて明らかだ。

「ターウォの皆さん、そしてレオン王。こちらは歓迎するよ、皆さんとの同盟を」

「それはこちらも同じだ。よろしく頼む魔王よ」





その場での同盟が成立し、魔王軍がターウォと同盟を結ぶというのは魔王軍の方で広まるのに時間はそう必要ではなかった。

レオン達はシュウ達と別れ国へと帰還、これからは同盟関係という事で敵対の必要は無くなった。

「やけにあっさり決めたな、バルバではないが私もあれは少し慎重に考えるべき問題かと思ったが…」

レオンとシュウの会話の時は黙って立っていたカリアだったが食堂でシュウと二人の状態となって自分のティーカップを持って紅茶を飲んだ後にシュウへと先程の事について話した。

「バルバとしては因縁の相手とそうなって面白くない展開だろうけど、こちらにとっては有益な方が大きい。それなら受け入れてみようってね」

「そうか」

シュウは鼻歌でも歌いそうな感じで楽しげな様子だった、これに何かカリアはシュウなりに考えでもあるのかと思いあまり深くは追求する事は無かった。











「まずは作戦通り、か。魔王があんな子供というのには驚かされた…まあだからこそすんなりと同盟組めたと思っておけば良しか」

アムレートを離れ、もう周りに魔王軍が居る気配の無い山中を移動していくレオン達、ホルクはその傍らで警戒を怠らない。

「後は機会を待って魔王軍だけでなく王国軍を纏めて亡き者にすれば…誰も邪魔者はいない」

レオンはあの会議でベーザ達にわざと魔王軍の軍門に下る事は伝えている、そして予定通り事は運べた。この時点でターウォは表面上は人間側を裏切っているが実は裏切っていない。だが最終的には裏切るつもりであり、それは魔王軍も同時に裏切るという事だった。

各国の王からはその年でえげつない策を考えると言われるがそれがまさか魔王軍どころか王国軍も纏めて裏切り排除するというのに向こうは未だ気付いていないだろう。

「まずはヴァント王国に伝えるんだ、作戦通り魔王軍の軍門に下ったと」



「………」

レオンが立ち止まり部下へと指示を出している所にホルクは一人アムレート城のある方向を改めて一人静かに見ていた…。

まずは此処まで見ていただきありがとうございます、ブレイブ&ルシファーも20話目の投稿を迎えました!まだまだ話は続き、書いて行くと思いますので応援とご贔屓いただけたらなと思っております。



この話が良いなと思ったらブクマと評価よろしくお願いします。評価方法はページ下にある☆☆☆☆☆をタップです、こういう評価が執筆のモチベに繋がったりします!

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