18、お茶会で明かされた事
身なりの良い青年がワイバーンに襲われていたのを救ったカリアとシュウ、と言ってもシュウが干し肉をワイバーンに食べさせてお腹を空かせていたワイバーンがそれで満たされて満足して帰って行っただけなのだが。二人はそのお礼にと言われて青年の家へと招待される。家と言ってもそこは別荘という事らしく家はまた別の所にある、との事だった。
別荘を持つ程の者で良い服を着ているというのを考えると貴族辺りの者なのかもしれない。
青年の別荘は思ったよりも立派であり屋敷と言っても良い程の大きさを誇る建物、何人かの女性のメイド姿が見えてワイバーンとの戦いで傷ついた騎士達の治療にあたり一人のメイドはカリアとシュウが席に座るテーブルにティーカップを置いた、上品な良い香りが伝わりティーカップに入っているのは紅茶だ。
シュウが目の前にあるカップを手に取ると紅茶を一口飲む。香りを確かめながら舌に伝わる紅茶の美味しさと最後に残るほんのりとした甘味、良い味であり周囲の環境もあってかなりの良い紅茶ではないかと思われる。
「先程は危ない所を助けてくれてありがとう、おかげで助かったよ」
別荘の主である青年が再び二人の前に現れて向かい合う形で席へ座る。先程はワイバーンに襲われていたので観察する余裕など無かったので改めて青年を見れば顔立ちは幼さが残っており髪は紫色の短髪、身長は170ぐらいは行ってて20代にはまだ届いておらず成人はしていないかもしれない。少年と青年の中間といった所か。緑を基調としたスーツを着て良い生地を使っていそうだ。
「僕は此処の主であるリオンだ、よろしく………ん?」
リオンと名乗ると彼はその時正面から見たカリアに気づく。
「なんだろうか?」
「いや、貴女の顔は何処かで見た事が……あ!ヴァント王国の大会で優勝して勇者となった女性騎士の…!」
ようやく点と点が結びついたらしくリオンは声を上げる、カリアは過去にヴァント王国の主催する武術大会に出ていた。そこでは魔王討伐の強者を探す為に開催されており圧倒的な強さで優勝したカリアは勇者と認められて崇められる存在となったのだ。
「貴女が勇者カリア様だったとは、手厚いもてなしが出来なくてこの程度になってしまい申し訳ないです」
「リオン殿…そんな気にする事ではない。私はそんなたいしたものじゃないのですから」
首を横に振り謙遜するような言葉を言うカリア。リオンは知らないであろう、今のカリアは人間の崇める勇者として戦ってはいない。魔王軍と同じく各国の人間達を敵に回して戦っている、そんな事を言うものならショックを受ける事は目に見えているので此処では言わないで伏せているが。
「ご謙遜を、それではこちらの子供は勇者様のお仲間でしょうか?」
「うむ。先程ワイバーンを手懐けて無事に済ませたのを見れば分かると思うがこう見えて頼りになる者だ」
シュウへと目を向けたリオンは勇者カリアの仲間かと尋ねればそうだとカリアも答えておく、少なくとも嘘は言っていない。此処で魔王だと言えば今のカリアの立場以上に驚かれて余計なトラブルが生まれる確率が高い。その事実だけ黙っておき、頼れる仲間というのはそれは嘘偽りなく本当の事だ。
「なるほど。強さとはヴァント王国のような屈強な騎士、そういう者かと思ってましたが彼みたいな強さもあるのですね」
「それでリオン殿、私をヴァント王国で見かけたという事は貴公はヴァント王国の者なのだろうか?」
納得したように頷くリオンにカリアはお茶菓子として用意してもらったクッキーを一つ食べた後に尋ねる、ヴァント王国の大会を存じて見ているという事は彼は王国の者なのかもしれないと。
「ええ、父が……ヴァント王国の国王ですから」
「!?」
思わぬリオンの言葉にカリアは驚く。ヴァント王国の国王、つまりベーザの子供でありリオンは王子にあたる事になる。
「しかし、あの時の大会でベーザ国王が見ていた時に貴方の姿は見かけなかったと記憶しているが…」
「父…国王達の主賓席ではなく一般席の方に居ました、正直……父の傍にあまりいない方が良いと思って」
あの時の記憶をカリアは思い出してみると武術大会は多くの一般客が座る席、貴族達が座る特別席、そして王族達の座る主賓席があった。戦いに集中していたという事もあって誰か座っていた事を鮮明に思い出すのは難しいがリオンの姿が主賓席に居たという事は少なくともカリアの記憶では居なかった。
騎士団長のベンに命じて魔王共々勇者カリアの抹殺を企んだ国王ベーザ、裏切られたカリアからすれば忌々しい存在。その息子であるリオン、まさか助けた者が国王の子だとは思っていなかった。
リオンは何やら自分の父親ベーザに対して思う所があるようで顔を伏せている。
「国王の子、という事は王子なんだよね。王子様は普通は城に居るようなイメージあるけど何でこんなヴァント王国から離れた場所に?」
口を閉じていたシュウが此処でリオンへと尋ねる、紅茶の方はカリアより一足先に飲み干していた。メイドからおかわりの1杯を聞かれるとシュウは貰う事にする、振舞ってくれる紅茶が中々気に入ったらしい。リオンは伏せていた顔を上げて再び話し始める。
「正直言うと………分からなくなりました」
「?何がですか?」
「父は国を統べる国王、それも世界最大の強国の王で各国が集う会議でも長を務める程の立場で魔王軍を倒し平和を取り戻すのに必死で働いてると思ってました、でも…」
「…」
カリアは黙ってリオンの次の言葉を待ち、隣に座るシュウも新たに注いでもらった紅茶を飲みながら無言でリオンを見ている。
「…その為に自国や同盟の小国の税金を上げて民を苦しめて武器を取るやり方を続けて本当に真の平和は訪れるのかと」
重い口をリオンは開いた。おそらく間違っているのではと疑問を感じても言い出す事が出来ず国王である親に対して今まで何も言えず今に至るのだろう、それが今カリアとシュウの前でその本音が語られていく。
プージ王国や城塞都市アムレートといった今まで攻め込んだ国についてカリアは思い出していた、いずれも城は豊かではあったが民や街の方に活気というものは無くパン一つ満足に食べられない少女も居るぐらいだった。
それらは国の重い税金がそうさせていたという。
「それに、重い税金については魔王軍の侵攻以前からあったらしくて…平和な時にそんな事をする必要があるのかと父に以前訪ねた事があります」
「それで返事は?」
「………「王には王の考えがある、お前は黙って見ていれば良い」としか」
ベーザからリオンへの返答は到底満足の出来るものではなかった、ベーザの考えと言ってもカリアをシュウと共に亡き者にして自国の評価を上げようと企んで部下にやらせるような者の考えなど深い物ではない可能性の方が高い。
「民からの不満の声は前々から上がっていた、でもそれを王族達は握り潰して聞かずに贅沢な暮らしを続け改善は一切しなかった…。いずれは暴動が起こってもおかしくない、でもそうなったら騎士団達が力を持って彼らを制圧する。…こんな事、正しいとは思えません」
税金が魔王軍を打倒する為の資金でやむを得ない、という物ではなく魔王軍の侵攻以前にあった物でありこれが民を苦しめていた。それも自分達が贅沢するという目的で、カリアは以前にシュウが言った魔王軍が進軍する以前から既に人間達が自らこの世界を汚している。それも国を統べる者がその立場を利用して弱いものから取っていく。
「それで、僕は理由をつけて父から離れ自分の目で世間を見て回るようになりました。今みたいな危ない事もあって信頼出来る騎士達に護衛してもらったりと…」
ベーザが間違っているとはいえ、魔物の居る外の世界が危ない事に変わりは無く先程のように魔物に襲われる事もある。そういう事も承知の上でリオンは安全であろうヴァント王国から出て行ったのだ。
「魔王軍は国を滅ぼす悪い存在、でもだからと言ってその国も正しくない……正直分からなくなりました、何が正しいのか…」
「……」
魔王軍が侵攻し国を制圧しているのは事実、だが絶対に悪いとリオンは言い切れなかった。何故ならその国も正しくないからだ、一体何が正解なのかリオンは分からなくなってきたようだ。
「少なくとも、僕は王子様の考えの方がまともだと思うよ。親である国王よりもね」
そこに声をかけたのはシュウの方だった。
「何が正解なのか、何が正しいのか見つけるよりとりあえず…自分で本当に納得出来て周囲の人も自然と同意出来るのを見つけるのが一番の近道かなって思う。具体的にどうすればいいのかは分からないけどね」
「たいしたもてなしも出来ずに申し訳ないです、本当だったら食事に泊まりの用意とかも…」
「そこまで一国の王子にしてもらうのはこちらこそ悪い。気持ちだけで充分です」
カリア、シュウの二人はティータイムをそこそこにして日が沈む時間帯を迎えて屋敷の外へと出て来る。屋敷の前までリオンは見送りに出て来ていた。
「そうそう、土産もらっちゃったからね」
「お前何時の間に…」
シュウの手にはクッキーが入った袋、メイド達から持たせてもらったようで紅茶の茶葉と共にいただいていたのだ。知らぬ間にとカリアは小さくため息をつく、時々魔王とは思えない子供と変わらない所がシュウにはあった。
「僕なりの答えを考える良い切欠を作ってくれて本当に感謝しています、二人と会えて良かった…お二人がもし何か困った時には出来る限り力になる事をお約束します!」
これからヴァント王国へと攻め込むかもしれない勇者と魔王、その敵国の王子。それを知らぬままとはいえリオンは二人へと力になるのを固く約束した。
リオンと別れ、屋敷から歩いて離れカリアとシュウが二人になったタイミングでシュウは口を開く。
「正しくない父親と国、それを滅ぼしたら彼は恨むのかどうするのか…」
「…力になると言ってくれたが実際は…そうならないだろうな」
結局彼は知らないままだった。シュウが魔王軍を率いて各国し侵攻する魔王、カリアが勇者でありながら魔王と同盟を結んでいるという事を。
「ただ、あの国王にああいう王子が居るというのが意外だった」
「そうだね。あと良い紅茶を用意してくれたりクッキーを焼いてくれて良いメイドさんが居てくれたりと」
紅茶をご馳走になりクッキーを土産に貰う魔王、こういう姿を歴代の魔王などが見たらどういう反応を見せるのかとカリアは少し反応に興味があった。そしてあのベーザからあのような子供が生まれている事が意外だった。
そして王族の中にはリオンのような者も居るという事を知り、権力ある者も全員が全員自分の事しか考えない、とは限らないと知る機会となった日。
勇者と魔王の休日はこうして終わろうとしていた…。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、お茶菓子と来たらクッキーが自分の中の定番だったりします。チョコチップだったら最高!
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