15、元魔王軍の狂犬
「先程ギガント要塞からテシの報告が入りました、ゼッド達によって要塞の敵は全滅し制圧に成功したようです」
アムレートの城にある王の間、元の王が生前の頃は当たり前のように座っていたその姿は今は無く代わりに座っているのは小さな魔王の少年シュウ。その傍らにはカリアも居て、二人は魔王軍の参謀ミナからギガント要塞の戦いの報告を受けていた。
「流石と言うべきか、こんな短時間で要塞を落とすとは竜の力という物はやはり凄まじいね」
魔王軍の要である竜の軍団。その力はこれまで何度も見てきており分かっていた事だ、魔物の中でもドラゴンはトップクラスの力を誇る。それが軍団ともなれば屈強な騎士団とはいえ人間が抗うのは難しい、仮に同じ魔物でも彼らに真っ向から対抗するのは至難の業だろう。
今更ながらシュウはゼッド率いる竜の軍団を改めて頼もしく感じた。
「制圧した後のギガント要塞の守りですがエルフの者達が適任と思われます」
「ああ、要塞は森に囲まれた場所にある。森の戦に最も長けているエルフ達なら安心だ」
ミナはシュウへと要塞を制圧した守備についてエルフ達に任せるべきだと進言、シュウもそれに反対は無かった。
向こうも大人しく何時までも要塞を取られたままでは終わらない、チャンスがあれば取り戻しに来るだろうと読んでおり要塞の守りと自然の守りを今度は魔王軍が有効活用する。それも騎士団達よりも効率的なので本当に取り戻そうと攻め込んで来たとしてもかつて自らが築き上げた要塞の守りに自らが苦しめられる事になるだろう。
「それと気になるのが一つ」
「何かな?」
要塞の戦果、その報告を終えようとしていた時にミナがまだ何か報告が残っているようでありシュウは気になる事について聞いてみる。
「我々魔王軍とは違う別の魔物の集団が騎士団達と交戦していた、という情報を空の者から聞きまして」
「別の魔物?魔王軍ではない…?」
ミナの報告に反応したのはシュウではなくカリアの方だった。魔物ならば魔王軍の者、と思うのが自然だろうが魔物は魔王軍に所属してはいないらしい。
「…まさか、ヤツらか?」
「確証はありませんがおそらくは」
シュウは何やら別の魔物について心当たりがあるようでミナも同じだ、分からないのはつい最近シュウ達と同行するようになったカリアぐらいだった。
「どういう事だ、その魔物というのは魔王軍とは違うのか?」
「魔王軍だよ。正確には「元」魔王軍だけどね」
「元?」
「以前はもう少し魔王軍の数は多かった、けど…全員が僕についてきてくれるという訳じゃなかったんだ」
昔を振り返るようにシュウはゆっくりと視線を天井の方へと向けて過去についての話を始めた。シャンデリアの眩しさも今は気になりはしない。
「ハーハハハハ!脆い!脆すぎるぜぇ!薄汚ねぇ人間共が!」
小さな街が業火によって焼かれ、逃げ惑う人間の住民達。魔物の襲撃によってこのような状態にまで陥り街を守る自警団は居たのだが無残にも魔物の前に命を散らし、ある者は無残に切り裂かれ、ある者は獰猛な獣に肉を食われて骨のみにされ、ある者は全身を焼かれて骨も残らず消し去られた。そして今度は力の無い住民達が襲われて次々と無残に殺されていく。
その中心に居るのは剣を振り回す軽装の鎧を纏った人と狼のハーフ、ワーウルフだ。
彼らは魔王軍に所属する魔物達。元々は王国へと攻め込んでいたのだが王国は既に滅ぼし、それだけに留まらず近辺の村までも魔物達によって滅ぼされたのだった。
ワーウルフ、ガーラン。魔王軍の獣達を中心に編成された獣の軍団を率いる長を務める。
獰猛にして残虐な戦いで派手に活躍をしているが、彼は必要以上に相手を、そして国を滅ぼし過ぎている。力のある者だけでなく戦う術を持たない者まで皆殺しにしている。
それが魔王軍でも問題となっていたのだった。
その証拠に今ガーランは魔王シュウに呼び出され、彼の前に来ていた。
「ガーラン、キミの力による活躍は良い。ただ必要の無い村の根絶やしに皆殺し、そこまでやれと言った覚えは無いぞ」
玉座に座るシュウの目は真っ直ぐガーランへと向いている。最近のガーラン率いる獣の軍団は必要以上に人間を滅ぼし過ぎている、魔王軍の侵攻。それで国を滅ぼし制圧しているのは他の者もやっている事だが村や街を滅ぼし住民達を始末する事はガーラン達ぐらいしかやっていない。
「しかし魔王様!人間は俺達の敵ですぜ!?俺達魔物や魔族は奴らのせいで大っぴらに表で活動出来ねぇ、だったら奴らを丸ごと滅ぼしてやった方が俺達は暮らしやすいはず!」
ガーランは魔族や魔物の為に皆殺しにしたと主張、人間が居ては何時まで経っても自分達が表舞台に立つ事は出来ない。だから人間達を葬っているのだと。
「それが抵抗する術を持たない者達まで手にかけた言い訳と?」
「今は力を持たずともいずれは魔王様を、俺達を脅かす力になるかもしれない。だからその可能性を根こそぎ焼き払ってるんですよ!むしろ評価されるべきと思いますぜ!?」
「……そう言って本当は自分が殺しを楽しみたいだけだろ?部下にもその人間を喰わせてしつけてるそうじゃないか」
「!?」
自分のやっている事を正当化しようと説明を続けていたガーラン、それにシュウは気付いていた。ガーランはそういう事を考えてやってる訳ではなくただ弱いものをいたぶって楽しんでいるだけだと。
「………………」
顔を俯かせるガーラン、その姿を無言で見続けるシュウ。その場が沈黙で支配されていた。
「何だよ…魔王のくせに村を滅ぼすなとか人間を皆殺しにするなとか意味分かんねぇよ!」
突然顔を上げたかと思えばガーランは怒りの形相でシュウにこれまでの不満を一気にぶちまけるかのように吠える。
「魔王軍だって国に攻め込んでるじゃねぇか!人間殺してるじゃねぇか!俺らのやる事と変わってねぇだろ!なのに何でそうなっちまうんだ!?」
「……ガーラン、僕の考えに不満持ったまま魔王軍で戦ってたんだな」
「てめえの考えなんざ知るかクソガキ!何でてめえみてぇな甘っちょろいチビが魔王になれるのかマジで理解出来ねぇ!」
そう言うとガーランは背を向けて歩いて行く、そして乱暴に扉を開けた後にシュウへと振り向くと。
「こんな魔王について行けるかよ!俺は俺で勝手にやらせてもらう!」
その日にガーランは魔王軍を脱退、彼の率いる軍団もガーランに続いて抜けて行った。
「殺しを楽しみ弱い奴を痛めつけて楽しむ、魔王軍では優秀ではあった。が、ああいうのはいずれはこちらにも牙を剥く。魔族達が過ごしやすい世にするには彼は不向きだったという訳だ」
ガーランとの過去を振り返り終えたシュウは現実へ戻りカリアに視線を向けて話す。国を攻め落とすのは良いが力の無い村人達まで手にかける、それはシュウの目指す世界ではない。人間を完全に滅ぼす事が目的ではない、世界を支配するのが目的ではない。ただ魔物や魔族が暮らしやすい世の中にする。
「ただ…結局我ら魔王軍も結局は力ある者にとはいえ人間を消しているところでは同じ。だからガーランは最初は共感して付いて来てくれたのかもしれない、人間が支配するのに対して分からせるには話し合いでは無意味。力で分からせるしか無いと…」
「人間を丸ごと滅ぼしては我々が今後食べていく食糧にも影響が及び効率的ではありません、なのでガーランのやっていた事は非効率と判断します」
力の無い者は手にかけない、そんなシュウのやり方でも力ある騎士団など歯向かう者には容赦せず結局はガーランと同じ殺し合いをやっていた。話し合いで解決出来るものならとっくにやっていた、しかし権力を持つ人間は自分勝手ばかり。魔族とまともに話し合うという望みはあまりに薄いものだ。
なので彼らは力で自分達の暮らしを勝ち取る道を選んだ、それで分からせるしか無いと。
「……」
そんな事は無い、他にも道はある。と少し前、魔王討伐の時のカリアならば言っていたかもしれないが国の人間達に裏切られた今となっては人間が話し合いに応じるというのは簡単には信じられなくなっていた。なので勇者という立場ながら魔王が正しいと考えてしまう。
裏切られて肩を持つ気など更々無い。
「まあそんな僕や魔王軍に反感のある魔物も居るという事だ、敵は王国の騎士団だけじゃない。同じ魔族や魔物もひょっとしたら敵になる…」
ガーランの自分に見せたあの態度、それを思えばシュウはガーランが自分へと直接牙を剥く可能性はあると考えている。魔王と認めず甘い奴と言って去った、そんな彼がこのまま大人しくしているとは考え難い。別の魔物と騎士団が交戦していたのがガーランなら有り得るはずだ。
アムレートの街では人々が魔族や魔物の食糧配布に助けられ、更に宿を開放して衣食住の面倒を見てもらっており元々国によってそれを失っていた者にとってはありがたく日々を暮らせていた。
その様子をはるか上空から見下ろす存在があった。
「ケッ、人間と魔物が共存……有り得ねぇだろ」
翼竜ワイバーンの背に乗っているワーウルフ、元魔王軍のガーランはその様子に舌打ちしていた。彼にとっては信じられなく、面白くない光景だった。
「魔王のクソガキ、てめぇに魔王の資格なんざ無ぇ事を身体で教えてぶっ殺してやる!」
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、魔王軍の方にも全員が良い奴とは限らずこういう奴も居るという回でした。
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