13、要塞制圧作戦
国王達が、国が民から搾り取った金。それは国の強化や私腹を肥やす為に使われており民からすればふざけるなという話だった。
このアムレート城はまさにそうであり豪華絢爛、作戦会議室も同じように煌びやか。ただかつての主は既に屠っており今は魔王シュウ達率いる魔王軍の物。なので此処の会議室に魔王や選りすぐりの実力者が集っていても不思議ではない。
「さて、では次に攻め落とすターゲットだが……向こうの兵が拠点として利用している場所を狙って落とそうと思う」
「奪ってこちらの拠点にしてしまえばヴァント王国側は相当追い詰められ持久戦も苦しくなる事が想定されます」
シュウの傍らに立つミナは資料を手に作戦が決まれば王国のダメージは大きいと読んだ。これから魔王軍が落とす所は国とは違う、兵士達が戦場の拠点としている場所だ。此処を潰しておけば敵側の補給は厳しくなり大きく後退せざるをえない。
「その拠点というのが此処、ギガント大要塞です。先日偵察に向かわせた者が発見いたしました」
図面の地図を指差したミナ、その場所は今居るアムレートから山を降りた所から離れた森林の中にある場所。連中は秘密基地として拠点にしているようだがミナの指示した調査によってそれは暴かれる事となった。
「秘密基地、だけど大要塞とは大きそうな場所を拠点にしてるのねぇ」
マリアンは背もたれの椅子に背中を預けて呟く。
「森を隠れ蓑にして大きな要塞を作ったらしいです、これで魔王軍に気づかれる事のない拠点となるだろうと…気づかれましたけどね」
人間側は森によって要塞を隠しておけば魔王軍に気づかれないはずだ、そして作るなら大勢の者を集められるぐらいに大きな要塞にして要の拠点とすれば百人力だろう。とミナは計画した人間の心理を代弁し最後にはそれが無駄だったかの如く一言付け足した。
「つまりかなりの兵が居るかもしれない、そういう事か?」
「その想定ではあります」
「ならば俺の軍団が一働きして要塞を見事攻め落としてみせよう!今度は魔王様の手を煩わせる事はありません!」
これにゼッドが立ち上がり自らの軍団がギガント要塞を攻め落とすと意気込んだ、確かに魔王軍随一の力を持ったドラゴン軍団ならばそれも可能なのかもしれない。
「張り切って立候補してくれたのは結構だがゼッド、どうやってドラゴン軍団を山から下ろして行く気かな?空を飛ぶ者に頼るにしてもかなり重量ある竜を運ぶのは相当な手間と労力だ。そんな事してる間に要塞側の方は流石に目立つ竜を山から下ろしていたら気づかれる可能性は100%に近いと思うよ」
「む……う…!」
シュウの言葉にゼッドは黙ってしまった、ドラゴンは確かに強い。だが今は山の上の国に居る。シュウの助けなしだと言うなら移動魔法も無しに自力で山を降りなければならない、だがただでさえ目立つ竜が山から降りれば連中は流石に気づく。そして要塞で迎撃の準備の時間を与え、更には回りに兵を配置する時間の猶予をも与えてしまいかねない。
そうなれば要塞の攻略はかなりの手間へと変わってくる。
「いくらなんでも俺も無理だぜ、ゼッドの旦那抱えて飛ぶなんて腰とかがヤベー事になりそうだしよ…」
バルバもこれには難色を示していた、彼の空の軍団も竜を抱えて飛ぶ事は困難だった。
「移動は困難、ただし手の届く所だったらゼッド。キミは一働き出来る自信はあるかな?」
「!勿論です!」
「だったら簡単だ。移動魔法で軍団丸ごとギガント要塞前まで運ぶ、そして力で持って要塞を制圧、シンプルにして効果的な作戦だね」
鉄壁のアムレートを攻略した時、シュウとマリアンの二人による共同の移動魔法で大軍を運ぶ事に成功した。ギガント要塞の場所の詳細についてはミナ達の調査で明らかとなっており細かい場所へと飛ばす事は可能になっている。
「では作戦終了後にはゼッド達にはそのまま要塞に留まり待機、後に魔王軍本隊もそこに合流。という事でよろしいでしょうか」
「それで良い、というかそれが現時点の最適だろう」
ミナは改めて作戦が終わった後についてシュウへと確認し、シュウは了承。ゼッド達がそのままアムレートに戻るよりも要塞に留まり後にシュウ達と合流した方が効率が良い。
「移動魔法においては魔王様の方が正確なので魔王様にお任せが一番良いかしらね?」
「しかし、それでは結局また魔王様に頼る事に…」
マリアンの移動魔法、それよりもシュウの方が正確に移動させる事は出来る。そこは魔力の質と量でマリアンは確かにシュウにも匹敵する驚異的な魔力の持ち主だ、しかしそれを上回るのが魔王であるシュウ。確実に作戦を成功させるなら移動魔法はそちらに任せた方がいい、それはゼッドとて分かっている。しかし此処最近の戦は魔王頼りとなってしまっており己の力だけで片付けられないのを情けなく感じていた。
「ゼッド、何も魔王に頼るな。己の力だけで戦を制して来い、などというルールなんか何処にも存在しない。戦いで使える有効な手段と力はどんどん使うべきであると僕は思う、無論後先の事を考えた上でね」
そんなゼッドに対して魔王に頼る事は恥ではない。一番有効な手段であれば使うのは当然であると用意された果実ジュース入りのグラスを持ち、クイっと飲み干す。
「今回私は暴れなくていいのか?」
腕を組み壁によりかかって会議を聞いていたカリア、此処で勇者である彼女が口を開いた。それにシュウの視線はカリアへと向けられる。
「ゼッドがやる気のようでね、…勇者の助力は必要かな?」
「不要です!」
ただでさえ魔王の力を借りる事になるのに勇者の力まで借りては戦士としてのプライドが傷つき許されなかった。勇猛果敢なドラゴニュート、彼の戦いに今回は任せた方が良いだろうとシュウは今回の戦は全面的にゼッドへと託す事にする。
「僕の石人形は…?」
「いらん!お前はアムレートの守りを固める事に専念すればいい」
「やった…好きなだけ新たな機械に触れられる…」
クレイ自慢の石人形、それの提供を一応尋ねればゼッドはそれも不要と言い切る。クレイはこれでその仕事をする必要はなくなりアムレートで機械弄りを好きに続けられる事にこっそり喜んだ。
ギガント要塞の攻略は最早シンプルにして単純、シュウが移動魔法でゼッド達を送り込み彼らが要塞に攻め込んで制圧。ただそれだけだ。
そのシンプルな作戦をシュウはこれから迷いなしで実行しようとしてる。魔王軍の並の兵士ではまず無謀過ぎる、要塞に居るであろう大勢の敵を相手する事は到底無理だろう。
だが並外れた力を持つゼッド、そしてドラゴン達ならばその無謀を通せる。竜の本気の戦い、それは他が水を差すような真似はしない方がいい。助力はむしろ彼らの力を削ぐ事になる、なので他の戦力は一切無い。
こうしてゼッド率いるドラゴン軍団のみ敵地へと一瞬で送られて行く。
山の上にある城塞都市アムレート、その山を下り草原へと出て馬を飛ばしても結構な距離と時間がかかる。その先に広がる大森林、その自然の中にギガント要塞は作られていた。
茶色や緑の2つを主に色使って森と同化するかのように極力見つかりにくく建設され、大勢の兵士がそこに出入りしている姿が見える。
「急げ!迎撃準備を整えるんだ!敵はあの城塞都市をも落としており想像以上の力を持つ!完璧な準備無しでは太刀打ち出来ないと思え!」
要塞を任されているのはヴァント王国からやってきた将軍、数々の武勲を立てており噂では騎士団長だったベンの跡を継いで騎士団長となる。それぐらい噂される程の男で40歳半ばの髭を蓄えていた。彼がこの要塞に配属された騎士達を指揮し、アムレートを落とした後は此処を通る事が予測されており迎撃の準備を整えている。
要塞の回りには大砲があり高い攻撃力を持つ。これで魔王軍の大軍を一網打尽にしようと張り切って取り付けた物だ、しかし此処の自然ある場でそんな火薬の必要な物を使えば火災は免れない。それでも魔王軍を倒す為に多少の自然破壊はやむを得ないと思ったのか彼らは武器を取り付けた。
そんな彼らにこれから強襲する、この時準備に追われていた要塞の人間達はそれを考える余裕は無かったかもしれない。
「よし!突撃だ!ギガント要塞を制圧しろ!」
シュウの移動魔法によってゼッド率いるドラゴン軍団は要塞の目の前に出現、これに見張りの兵二人が居たのだがいきなり竜の大軍が現れた事にぎょっと驚いていた。
「カァァーーーーーーーー!」
ドガシャァッ
「ぐああ!」
「がはっ!」
一匹の大型ドラゴンの長い尻尾が振り回され、兵達の身体を吹っ飛ばし要塞の壁へと激突。強靭な竜の尾を身に受けて鎧の上からでも関係なく人体へと深刻なダメージを容赦なく与え兵士二人は一撃で戦闘不能に陥っていた。
「な、なんだ!?」
「竜だ!竜が攻め込んで来たぞー!」
今の騒ぎで入口付近にて作業していた兵士達が気付き要塞中の兵達へ敵襲を知らせて迎撃準備をしていたのが不意を突かれ全員が戦闘へ入るのに遅れが生じている、そしてそれを律儀に待ってやる程ゼッド達は甘くはない。
「フン!」
「うわああ!!」
巨大な両手持ちの戦斧をゼッドは軽々と振り回し数人がかりの騎士達を纏めて粉砕し、屠っていく。鍛え上げられた騎士とはいえ百戦錬磨のドラゴニュートにとっては相手にならない。他の竜達も自慢の爪と牙と尾を持ってして要塞の兵を次々と葬り去る、本気で暴れる竜達を止める事は至難の業だ。
本当ならば要塞の兵器を準備が整い次第迫り来る魔王軍へ撃つつもりだった、だがこの不意打ちによって要塞の兵器は意味の無い物で終わろうとしている。どんなに威力があろうが内部へと侵入されて外へと取り付けている大砲を活かす事は無理だ。
しかも今暴れているのは竜、これに近距離まで攻め込まれては絶望と言ってもいいのかもしれない。
「(こ、こんな……我々の自慢のギガント要塞がこんなあっさりと滅ぶと言うのか…?悪夢だ!こんな事が有り得るのか!?)」
一人、また一人と倒れて騎士の数は減るばかりであり要塞を任された将軍に明らかに焦りの色が出ていた。並の魔物相手ならともかくいきなり竜が出現して要塞を襲撃、魔王の助力無しでは有り得ないシンプルにして一番効果ある作戦を前に何の指示も出せずにいた。
「に、逃げろ!これは無理だー!」
勝てる見込みが無いと判断したのか一人の騎士は要塞から外へと逃げ出した。
「な!?敵を前に逃げるとは貴様らそれでも誇り高き騎士か!」
将軍として逃げる兵へと一喝したが効果は無い、実力差があり叶わずこのまま命を散らす事に恐怖する者が出て来て逃げる兵士は増えていった。
「お、おい!」
再び呼び止めようとしていると将軍に巨大な影が覆った。目の前には斧を構えたゼッドが立っている。
「これで、終わりだな」
将軍へとゼッドの斧が振り下ろされる、それはこの要塞の戦いに決着をつける一撃となる。
「はあっ、はあ、はあ…!此処まで来れば……」
要塞から脱出した逃げ出した騎士達、自分の剣の腕に自信があったつもりだった。要塞の守りもあり魔物を返り討ちにしてやろうと意気込んでいたが竜の力を骨の髄まで思い知らされ命がおしく恐怖して要塞を捨てて来た。
今頃将軍や同僚の騎士達は竜の餌食になっているかもしれない、とりあえず今は逃げて逃げて逃げ切るしかないと騎士達は再び移動を開始しようとしていた。
ドスッ
「うっ!?」
そこに一本の矢が飛んで来て一人の騎士の腹を貫き、崩れ落ちるように騎士は倒れる。
「悪いけど逃がすつもり、無いからね?余計な生き残りが希望を灯すって事が無いように…さ」
「!!」
遠くから再び矢が飛んで来る、それも今度は一本ではない。何本、いや、何十本もの矢が雨のように飛ぶ。
矢を放っているのはテシと彼女と同じエルフの戦士達、此処の要塞を発見したのは森をテリトリーとしているエルフ達によるものであり森での活動や戦闘は得意としている。
そんな森の戦士から命からがら逃げ出した騎士達に抗う術などあるはずが無かった。
「ぎゃああ!」
「ぐあ!」
「がああ!」
それぞれが矢によって身体を貫かれ絶命、要塞の中で死ぬ事は無かったが彼らは代りに森の中で命を落としたのだった。
「美しい森の中に自然破壊しかねない物を作った愚かな人間にきつーい裁きありってね?」
自然と共に暮らすエルフにとっては森を破壊しかねないような要塞を作った事は許しがたいようでテシはエルフの気持ちを代表するように倒れた騎士達へと言い放ってから仲間のエルフ達と共にその場を去って行った。
要塞の方は将軍が既に戦死、残りの兵達も竜の餌食となり要塞での戦いは決着。逃亡者も仕留め、魔王軍がアムレートに続いてギガント要塞も短期間で制圧する事に成功した…。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、急な暑さでその季節が苦手な自分としてはしんどい日々になってまいりましたが更新は可能な限りやっていこうと思ってます。
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