表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイブ&ルシファー  作者: イーグル
13/78

12、暗躍の獣

男の職業は騎士。それも世界屈指の騎士団の一人で一つの部隊を統率する小隊長だ。その証として回りの騎士と違う小隊長は黄色いマントを身に付けている。

誇り高き騎士団の部隊を任される任務に男は自然と力が入る。


ヴァント王国を発つ前に兵舎に集結している部隊を前に小隊長は胸を張る。


「聞け!王国騎士団の諸君!偉大なるベーザ国王より任務を預かり我々はこれより戦地へと向かう事となった!」

声を張り上げて鼓舞するように小隊長は言葉を続け、ベーザから魔王軍に滅ぼされた国が今どうなっているのか調査を任された事を説明する。

「既に滅ぼされた国、そこの魔王軍の現状についての調査だが相手は魔王軍!場合によっては戦場となり我々が剣を取り戦う事を避けられない、これを肝に銘じて諸君には今回の任務に当たってもらいたい!ただの調査だからと言って気を緩めるな!各自装備を万全に!補給係も治療薬や食料を余分に用意するように!」

「はっ!」

小隊長の言葉を受けて騎士団達の士気は上がり、皆が気を引き締めてそれぞれ馬へと乗り出発の準備を整える。



「行くぞ!出発だ!」

小隊長の馬が勇ましく駆け出し、それに続いて大勢の馬が走り小隊長を先頭に部隊は平原を移動し駆けて行く。彼らが真っ直ぐ目指すのは魔王軍によって滅ぼされた国、プージ王国だ。

一体どのようにして滅ぼされ、今どうなっているのか。まさか魔王と勇者が手を組んで国を滅ぼしたなどと彼らは夢にも思うまい。



「小隊長殿、我が騎士団……大丈夫なのでしょうか」

「何がだ」

馬を飛ばし移動してる最中に一人の騎士が小隊長へと話しかける。騎士は兜を深く被っていて表情が見えづらいが不安そうではあった、その様子は小隊長にも伝わって来ていた。

「勇者カリアと旅立った王国騎士団の精鋭部隊に騎士団長のベン様の行方が分からない上に魔王軍が未だ健在で侵略を続けているという状況…一度ターウォが魔王軍を退けたとはいえどうなるのか……」

当時、勇者カリアとヴァント騎士団長のベンとその精鋭騎士団が魔王軍討伐に旅立った事は皆が知っている。それから全員が討伐から一切戻って来る気配が無い、魔王軍の侵攻が止まらないのを見れば失敗して最悪の結末としては全滅し全員が命を落としてしまった。そんな事が嫌でも頭をよぎってしまうのだ。

「……確かに何の連絡も無い。今生きているのかどうかさえも分からん、だがもし生きていて囚われているのであるなら救出し王国に戻れば我々にとってはこれ以上無いぐらいの追い風だ。あれほどの強さを持った者達が簡単に朽ち果てるような事は無いと我々が信じずにどうするというのだ」

「はっ…申し訳ありません…!」

「これが偵察でなく戦場真っ只中で萎縮した状態では本来の力を出せず命を落とす、気を引き締め直しておけ」

弱気な騎士に小隊長は注意、何時戦場になるか分からない今この後ろ向きな考えはそれだけで命取りであり希望を持つよう心を強く持たせる。小隊長の言うように行方は分からない。だが彼らが死んだと決まった訳でもない、まだ可能性が残っているのであればそれに賭ける価値は大いにある。

「勇者カリアも女ながら伊達に勇者と呼ばれてはおらん、闘技場で剣を交えた時の事は今でも忘れられない…」

小隊長は過去にヴァント王国で開催された闘技場の大会に出場しておりカリアと当たって試合をした事がある、侮っていたつもりは無かった。本気で倒しに行ったつもりだった。


しかし結果は完敗、彼女の剣の前に歯が立たず敗北しカリアはそのまま勝ち進み大会を制覇した。そして勇者と呼ばれ魔王討伐へと騎士団と共に旅立ったのだ。

「人の希望である勇者の力、おいそれと魔王軍に敗れはしないはずだ」

あの日に直にカリアの剣を見た小隊長からすればいかに魔王軍が強いとはいえカリアは人間の中で最強クラスに強い。加えて王国の精鋭騎士達が付いている、彼らの消息を少しでも掴み城へと情報を持ち帰ればそれだけでも良い収穫だ。



「諸君!そろそろプージ王国は近い、気を引き締めろ!」

プージ王国の領内へともうすぐ入り小隊長は皆へと改めて伝え先頭を走り続ける。

魔王軍の手によって滅ぼされた国は今どうなっているのか、民はどうしたのか。魔物達の手によって惨たらしく殺されたのか、それとも奴隷として馬車馬のように働かされているのか、せめて後者の方であればまだ救出出来るチャンスがあるかもしれない。

どんな悲惨な状況でも心揺らされず強く保て、己にそう言い聞かせる小隊長の馬は飛ばし先頭で領内へと踏み込んでいた。

遠くには城が見えておりプージ王国はもうすぐだ。城を見る限り無残に破壊されているような様子は無い、城はあまり傷をつける事なく魔王軍は制圧したのだろうか。



城下町などは無残に破壊されているかもしれない、騎士達はそのようなイメージを持ちながら馬から降りてプージ王国へと調査に入る。




だが騎士達の前にある光景は事前に思い描いたイメージを吹き飛ばす物だった。





「これは…どういう事だ?」


街は破壊されてはいない、魔王軍の侵攻があったのが嘘のようだ。それどころか人々が何事もなく暮らしており日常がそこにあった。


ただ普段と違うのはそこに魔物や魔族が混じっているという部分だ。

人間と共に魔物達が暮らしている。騎士達にとっては信じられなかった、今まで魔物は敵でしかなく人間に害するだけの存在である。

そのイメージでしか無かった。


しかし今居る魔物達はどうだ、人間を襲う気配など無い。共に街で生活しており商売までしている姿が見えている。

そんな事が有り得るのかと皆が我が目を疑った。



魔物を見かけた時に敵かと剣を抜こうとしたのだが今居る魔物は人間とただ生活をしている、迷惑をかけているようには見えない。

魔物は斬るべき敵、しかしこの魔物達は斬るべきなのかと疑問が生じて剣を取る気になれなかった。


「小隊長殿…発言、よろしいでしょうか」

「!あ、ああ…申してみるがいい」

「私は以前この街に外交の警備で訪れた事があるのですが、その時は王国が民へと重い税金を取り人々の暮らしはお世辞にも良いものではありませんでした。しかし今のこれは…当時より活気があるように思えます」

以前のプージ王国を知る騎士はその時の事を思い出して語る。当時のプージ王国は国が税金を重くして民からむしり取っていて民はそのせいで生活が苦しく、城の方のみ潤っていき街は活気が無くなるばかり。

当然そんな暮らしで心から笑える者は皆無と言ってもいい。


それが今のプージ王国は魔王軍の侵攻を受けて滅びたものかと思えば魔物達と共に暮らして以前よりも活気ある姿を見せている。

まるでこれでは魔王軍に攻め込まれた後の方が民は幸福度が上がっているように思えるのだった。


偵察という身なのであまり目立たず、これ以上騎士の集団が居ては目立つので一度馬を止めている街外れまで小隊長率いる騎士達は引き返す。

「何がどうなっているのだ…!?プージ王国の民は囚われの身どころか魔物や魔族達と何不自由なく暮らしている……人間と魔が、共に暮らせると言うのか…?」

「信じられません……」

「…今見た事をそのまま報告してもおそらくでまかせだと言われるだろう、私自身も今見た事が未だに信じられん!」

今回の任務は偵察、王国の様子は見たが人間と魔物が共に暮らしている。これをそのまま王国へと報告しようにも嘘の報告だと処罰を受ける可能性がある、普段から魔物は敵であるとヴァント王国は思ってきた。それはヴァント王国だけでなく他国でも同じだろう。特に魔王軍の侵攻がある今、その印象は特に強くなっている。

「催眠術の類の魔法でも敵にかけられたのでしょうか?強い反発を避けようと」

「しかし、それを避けたいなら魔王軍は民を皆殺しにする方が早いだろう。住民全員に催眠術をかける手間をかけ魔物達と共に暮らさせる事で何のメリットがあるのだ?」

考えれば考える程に分からなくなる、魔王軍が民を殺さず、かといって囚えもせず普段通りの暮らしをさせている。それをする事で魔王軍の方に何か得する事でも生じるのか、しかしそれがどんな得なのか見当もつかない。


「…移動を開始する、目標はゴート王国!」

小隊長は騎士達に移動の指示を出すと自らは馬へと乗り再び先頭を走り移動を開始する。ゴート王国もプージ王国と同じように魔王軍の侵攻を受けて滅ぼされたと聞いている、まさか他もなのかと思いヴァント王国への報告の前にゴート王国の偵察も行う事にした。







「…………」



ゴート王国まで馬を飛ばし、移動してたどり着いた街に騎士達は再びこっそりと訪れた。そこから見える光景はプージ王国と同様だ、人々が暮らしている中で魔物や魔族が共に居る。監視でもしているのかと見ていたがどうもそんな気配も無い。カフェで茶を飲んだりレストランで食事したり人間と変わらぬ生活をしている。

魔物達が人間と同じように茶を飲んだり飯を食べる、それが騎士達には衝撃だ。てっきり人そのものを食ってそれを食料としているものなのかと、そういうイメージが強かった。


騎士達は一旦街を出る。







「…やはり、魔王軍が侵攻したにも関わらず城の者達の生死は不明だが街の者達は生きている。それも不自由なく生活をして…」

「これは魔王の策略なのでしょうか?やはりそれをしてどういう得があるのか不明のままですが…」

街外れに出た騎士達は頭を悩ませていた、住民達を殺さず普段通りに生活させて魔物達も街で生活をする。これが強要されたり操られたりしてそうなっているのかと疑いもするが何故そうしているのか分からない。

「プージ王国に続きゴート王国もこの状態、この分だと他の攻め込まれた国もこうなっている可能性は高いと言ってもいいだろうな」

この2つの国が特別扱いになってもいない限りこれまで魔王軍が侵略し滅ぼしたとされる国も見てきた2つと同じ人間と魔物が共存して暮らしている、そういう状態になっていると考えても良さそうだった。




「それで、これからどうしましょう?強要や洗脳の可能性はありますが強引に連れ帰って下手に騒ぎ立てて魔王軍に感づかれては非常に厄介でしょうから…」

「ひとまず見てきた事を報告するしかあるまい、信じられない事ではあるが…人と魔物が今同じ街で生活している事はこの目で我々がしかと見たのだ。諸君、ヴァント王国へ引き上げるぞ」

「はっ」



小隊長の指示で一斉に馬を走らせヴァント王国へ騎士達は戻って行く。



「そいつは困るなぁ」

「!?」

不意に聞こえてきた不気味な声に騎士達は一斉に馬を止める。この場の誰の声でもない、何者かの声。一体何処に居るのかと小隊長は辺りを見回す。



「キシャァァーーーー!」

「なっ!?うわああ!」

頭上に影を感じ、上を騎士が見れば翼竜ワイバーンが空から翼を広げて強襲。突然の敵に騎士達の間に動揺が走る。

「落ち着けぇ!陣形を乱すな!戦場になる事は覚悟していたはずだ!竜一匹程度に怯むなぁ!」

小隊長は声を張り上げ、剣を抜き取りワイバーンへと斬りかかる。

「誰が一匹だけだって?」

「え…!?」



ピシャーーーンッ


「ギャアアアーーーー!!」

騎士達数人の頭上に雷が落ちて馬もろとも黒焦げとなってそれぞれが絶命。今のは雷の攻撃魔法だ。



「頑丈な鎧が命取りになっちまったなぁ?おかげで電気がよく通って助かる」

姿を現したのは軽装の鎧に身を包んだ剣を持った魔物、人間と狼のハーフであるワーウルフだ。

「お前ら、狩りの時間だ。好きなだけ暴れな!」

「ウォーーーーー!」

物陰から飛び出して来る他のワーウルフ達、更に空のワイバーンの数は増えて地上と空。双方から騎士団は包囲された形となる。


「ま、魔物達…!?貴様ら魔王軍の手の者か!我々を消しに来たか!?」

「ああ?魔王軍………あんなガキの軍と一緒にすんじゃねぇよ」

「なに!?」

小隊長はこのワーウルフとワイバーン達が魔王軍の手の者なのかと思ったのだがリーダー格のワーウルフは魔王軍である事を否定、どういう事なのかと。それを考える暇を彼らは与えられなかった。



「とりあえず、俺らの為に死んでくれや人間」

そう言うとワーウルフは一斉攻撃の合図を出す、それと共にワーウルフとワイバーンの集団は騎士達へと一斉に襲いかかる。



「ぐああ!」

「ぐふぅっ…」

「が…はぁ…」



ワーウルフの剣や槍、斧によって倒され更にワイバーンの餌となって食われて騎士団はその数をどんどんと減らされて最後に残った小隊長は……。


「あ、ああ……!」

「恐ろしいか?いいねいいねぇ、せいぜい恐怖しな!そぉら!」



ザンっ



リーダー格のワーウルフの剣によって小隊長は命を絶たれ、国に戻る事は永久になくなった。



「お前らと魔王にはせいぜい争ってもらわなきゃならねぇんだよ、混戦になってもらって……あのクソガキの魔王をぶち殺してその座から引きずり下ろしてやる!」

牙を剥き出しにすると共に殺気も剥き出しとなり獣としての本能を全面に出してワーウルフは空へと向かって吠えたのだった。

まずは此処まで見ていただきありがとうございます、偉い騎士に諸君とか言わせたくてこの話書いてました(


この話が良いなと思ったらブクマと評価よろしくお願いします。評価方法はページ下にある☆☆☆☆☆をタップです、こういう評価が執筆のモチベに繋がったりします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ