11、制圧後の民の心
鉄壁を誇っていた国の最期は実にあっさりした物だった。
国王や臣下達に騎士団達は皆息絶え、備えてあった大砲も内部に忍び込まれては効果は無かった。魔王軍が誇る竜の軍団、更に勇者カリアと魔王シュウ直々に出陣しており都市内部に潜入した彼らが連中を制圧するのにそう時間はかからなかった。
勇者と魔王を中心とした精鋭軍の前に自慢の守りは粉々に粉砕、城は魔王軍によって制圧されて力の無い女子供は殺さずに生かしておく。
何時もの事だ、抵抗する力ある者さえ始末すれば力の無い者の命まで奪う必要など無い。その分抵抗して向かって来る力ある者には容赦はしなかった。
城を制圧し、王が死んだ今座る者はおらず制圧した軍のトップ。魔王シュウがその玉座へと腰掛けていた。
「流石大国とだけあって、煌びやかなもんだ」
玉座からシュウは王の間の周囲を見る。小国を制圧した時よりも内装が豪華であり色々高価に思える、これにシュウ。そして傍らに立つカリアは一個のパンを得る事にも苦労していた少女の事を思い出す。
「住んでいた国が突然滅び無くなる……おそらく恨まれる、かもしれないか」
「自分の国を悪く言っていたとはいえ、故郷を滅ぼされた。…感謝はまあされないだろうね」
先程まで会っていてパンを譲ったあの少女。彼女は国に対しあまり良い感情を持っていなかった、そこから出た言葉はカリアもシュウも聞いている。
国民から金を吸い上げて自分の国を強化する、それが結果として家や家族を失う事になろうが彼らはそれを改める事は無かった。
その国は滅び、これで金をむしられるような事も無い。確実に金持ちや貴族からは恨まれるだろうがそれはシュウ達の知った事ではない、力を失った連中に最早反撃の牙など無いだろう。
国に苦しめられた者達はその国を無くして何を思うのか、復讐心が生まれていずれ牙となる時が来るのか。あるいは解放された事で新たな希望を抱いて進むのか。
とにかく魔王軍は大国アムレートを攻め落とし大きな拠点を手に入れた。この鉄壁の山脈は国を取り戻しに来るであろう外部の連中にとって大きな壁となる、此処を魔王軍の力で更にカスタマイズし揺るぎない守りにすれば難攻不落の拠点の完成も見えて来る。
「しかし、魔王というのは前線に赴かず部下に任せて自分は本拠地で動かないという印象があったが…お前は例外のようだな」
「まあ魔王と呼ばれる者の中にはそういうのも居たけどね、僕は違う。別に力を振るう事にデメリットは無いしその方が早いならやるさ」
「そのお前以外の魔王というのも興味深いな、聞かせてもらえる事は可能か?」
カリアはシュウ以外の魔王を具体的には知らない。情報は古の書物など主にそこぐらいだ。シュウならば魔族で正確な年は知らないがおそらく子供な外見によらず永く生きている。そうでなければ数々の知識に魔法の底知れぬ力の説明はつかない、いくら魔王と呼ばれようと生まれてすぐにそんな強大な力は持たないはずだ。
「特に秘密という訳じゃないから良いよ」
意外と言うべきかシュウはすんなりと彼以外の魔王について話す事を了承した。するとシュウは玉座から立ち上がりバルコニーへと出る、それにカリアも後に続いて歩く。
「僕の前に魔王という存在はあった、それは魔物、魔族の中から特に優れた者から選ばれる。物理的な力が優れた魔王がいれば魔法に長けた魔王、更には両方を兼ね備えた魔王とかもいたね」
シュウの口から語られる魔王という存在。魔物や魔族からそれは選ばれ、シュウが選ばれたのはおそらく魔法に長けた魔王かとカリアは話を聞いて思った。
「歴代の魔王達も今のお前のように魔族と魔物の自由と平和の為に人間達と戦っていたのか?」
「それはどうだろう、流石に全部を知っている訳じゃない。ただ…大抵は世界を支配とか己の私利私欲でやっていたと思う、魔こそが世界を支配する資格がある。人間など下等な存在だ、ていう理由で滅ぼそうとしたりね」
「…気分の良いものではないなそれは」
全員がシュウのような魔王ばかりではない、むしろシュウのような魔王はレアケースなのかもしれない。歴代の魔王はほとんどが自分のための支配。人間がそれで邪魔だと感じて滅ぼす、カリアにとってそれで滅ぼされたら人間側としてはたまったものではないと歴代の魔王に対して怒りが芽生え始める。
そのようなタイプの魔王であれば共に戦うという事は絶対に無かっただろう。むしろそれこそ全力で滅するように行動をカリアならば起こす。
「前も言ったように魔族や魔物も人間と同じ、良い奴が居るなら悪い奴も居る。それは魔王だって例外じゃない、それだけの事さ」
シュウは以前も話した、人間に良い奴悪い奴が居るならば魔族や魔物もまた同じように2つのタイプは居る。そこまでに留まらず魔王も同じだった。
「まあいずれの魔王も最期は勇者と呼ばれる者に討たれ野望が叶う事は無かった、と言っても聞いただけであって本当に全員がそんな最期だったのか定かではないけど滅んでいるのは確かだからね…」
「その魔王達から見ればシュウ、お前は相当な変わり者なのかもしれないな。人間の少女にパンを与えたり勇者と手を組んで魔の自由の為に戦っている…私利私欲で戦ってきた魔王達からすれば有り得ない、と思われるだろう」
「いいやカリア、僕も私利私欲でやってるようなもんだ。支配するより自由に暮らせた方が楽しい、それで人間達と争っているんだから結局やっている事は歴代の魔王と同じさ。戦いに綺麗も汚いも無い」
「……そうだな」
シュウは他の魔王とは違う、しかし彼は結局人間を敵に回して多くの国へと侵略し滅ぼしている。動機は違えど人間を敵に回し滅ぼす。
やっている事は歴代の魔王と変わってはいなかった。そこに本来なら最大の敵であるはずの勇者という存在と共に戦うというのは例外中の例外となりそうだが。
「お呼びでしょうか魔王様」
王の間に現れる魔族の男、魔王シュウの前に跪き言葉を待つ。
「城の食料庫にある食料、その一部を市民へと届けて来い。女子供優先で、道端にうずくまる者にも忘れずにな」
「はっ」
シュウは部下の魔族へとこの城にある食料を市民へ分け与えるよう指示を出すと魔族は迅速に行動へと移したのかその場からフッと姿を消した。
アムレート城にある食料庫には豊富に食料があった、これをあの少女をはじめとした貧しい者達に届ける。
「(元の人間達は自分達の贅沢しか考えず食料をあまり分け与えていかなかった。それを魔王であるシュウがする…か、なんというか魔王である彼の方が人間らしい…侵略者ではあるが)」
シュウのこの行動、判断にカリアは元のこの城の主よりも彼の方が善人に思えてきている。多くの国を侵略し滅ぼす魔王ではあるがただ侵略していくだけではない、彼は力の無い者の命を奪わないどころか移住食の面倒を見ている。
これまで色々な国を攻め落として居るがその度に力無き民を保護する、それは今回も変わらない。
「ほあ~、凄い…!」
アムレートを攻め落とした後に魔王軍達は次々と合流し、そこにはクレイの姿もあって彼は興味津々という感じで城に取り付けていた大砲や機械仕掛けの物に目を輝かせていた。暗い彼にしては珍しい一面だ。
「これとかこうすれば何か使えそう、良い……これは良い」
「何かクレイの坊や、珍しく目を輝かせてるぜ…」
「ああ、あの子って機械弄りとか好きだからねぇ」
そのクレイの姿を見ていたバルバとマリアン、バルバは負傷していて今回の戦は不参加で魔王軍が勝利してから皆と共にアムレート城へとやってきた。マリアンはシュウと共に多くの魔王軍を移動魔法で運ぶ役目を努め、今回の功労者と言っても良いだろう。
「アムレートは機械技術も取り入れていたんだ。これを魔王軍でも活用すれば魔王様にとって大いに役立ちそう…うん、よし」
クレイは目を輝かせたまま機械類を見ており魔王軍で取り入れれば大きな+となると考えており、自分流に機械を弄り始めていた。
「まずは船に活かそうかなぁ、それか空を飛ぶ機械とかやって空飛ぶ要塞ていうのも……」
「いきなり規模でけぇなおい」
ちょっとした役立つ物でも作るのだと思ってたバルバの予想を裏切りクレイは機械技術を活かしての戦艦や要塞を考えている。実際作るとなるとかなりの手と時間が必要になりそうだが。
どちらにしてもアムレートの機械がクレイの意欲に火をつけた事に間違いは無い。
「はいはーい、並んで並んでー。まだまだご飯はあるから慌てないでいいよー」
その頃、街ではシュウの言いつけ通りに魔王軍の配下達による民への食料配布が開始されていた。そこにテシの姿もあって子供へとパンを配っている。
「美味い!」「美味しい…!」
普段満足に食事が出来てない者にとっては天国であり、ふわふわで柔らかなパンにかぶりつく。皆美味しそうに食べており心から食事を楽しんでいた。
「魔王軍が攻め込んで来てアムレートを滅ぼされて終わると思ったけど、こんな手厚い扱い受けられるなんて…!」
「むしろ王国より魔王軍の支配の方がずっと幸せじゃないか俺達って?」
「うんうん、王国じゃ全然こんなの出されたりとか無かったし。私は魔王軍の方がいいね」
王国での暮らしに不満あった者達からは普段から思ってた事を此処で発散させていった。恵まれない暮らしで国の事を良くは思っていなかった、その中には魔王軍が国を滅ぼしてくれて感謝するような者まで出て来ている。
国を滅ぼされて感謝はされないと思っていたが、全くいない訳ではなかった。そしてその数は増えていっていた。
王が国を統べるよりも魔王軍による支配の方が自分達にとってはずっと幸せであると…。
まずは此処まで見ていただきありがとうございます、此処ではどういうのを書くべきなのか考えておりますが…むしろどういうの書いてほしいとかあったら教えていただけたら幸いです。
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