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転生 フリーダム  作者: 昨日シーサイドライン乗った
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 ハグレ



    第三章  フリーダム


 第九十ハ話  「ハグレ」




 6月。


 ポンタが入院してからひと月、ようやく身分証が発行された。


 だけど本人は入院中。




 海の家。


 今日はパミヤとミリアとミナリが遊びに来た。

 

 家に入ると直ぐに俺を見つけてちょこちょこと歩いてくるミリア。

 覚えてくれていることに嬉しくなる。


 抱っこしてるとラザノフが代われと言うが…… ミリアは嫌がる。


 「ふふ、ラザノフ、嫌われているわね」


 スエメルさんは嬉しそうだ。


 「ムム、たまたまでござるよ。 ラリィなんて拙者ばかりに抱っこをねだったでござるからな」


 今はどちらも嫌がられる。


 「まぁ、ラザノフは甘いからね。 ところで2人の予定は?」

 「い、嫌だリュウ君、露骨ね」


 ……何が?


 「拙者達は全く慌ててないでござるよ。 せっかく他の竜族と違う生活が出来るのだからこの生活を楽しむつもりでござる」

 「ふふ、私も凄くラッキーだと思う」


 ラザノフは思う。 


 僅か14歳のリュウの強さは何なのか?

 その答えを土竜族の皆んなは拙者に期待したから拙者は里を出て来れた。

 そしてその答えがユニークな練習にあることも、この前の氷竜族との試合で拙者自ら証明した。

 それでも詰まってるとは思えないリュウとの差。

 

 やはりルーク殿の言うように、リュウはて……


 「こんにちは〜、リュウかラザノフ君、居る〜」


 噂をすればルーク殿。 ……と、ユキナ。


 「おうおう、仲の宜しいことで。 何しに来たの?」

 「つ、冷たいな、リュウは。 普通に遊びに来たんだけどさ。 そこで…… あっ! ユ、ユーリス姫!」


 ん? ユーリスのことは意外と面倒くさい、だからそれぞれ先に会った人がしっかり説明する約束だ。


 「ユキナは説明してないの?」

 「ご、ごめんなさい。 だってルークさんがフルーツが何がいい……」

 「分かった、もういい。 その部屋で説明して来て。 納得するまで出て来ないでね」


 大会前にユキナが泊まった1階の部屋を見て言った。


 「ユキナさん、俺は理解力がないからしばらく2人きりかも……」

 「い、嫌だルークさん。 ふふ、でも私も説明がへ……」

 「お〜い。 もういいからさっさとフルーツ置いて行け」


 2人は喜んで部屋に行った。



 「リュウ君、だから私の相談は?」


 ミナリには説明してある優秀な僕。


 「じゃあ、俺の部屋に行こう。 ここは人口密度が高い」

 「え、2人で」


 ユリア……


 「ユリアも来る? って、ミナリが嫌か」

 「いいよ、別に。 ど〜せ私は友達だし。 でもね、プレゼントの衣装待って来たから着替えさせてよ、リュウ君の部屋で」

 「うん、構わないよ。 あ、そうだ、この前の階段に皆んなで行かない?」

 「あ、それいい〜。 カップル対抗戦なんてどう?」


 俺の相手は誰?


 「俺とパミヤがあぶれてるけど、ミナリはパミヤでいい?」


 流石にユーリスとパミヤの取り合わせはない。


 「ヤダ。 だからさ、1回じゃなく、2回戦にすれば?」

 「2回戦目は俺のパートナーがミナリになるとか?」

 「そうだよ。 それともリュウ君はユリアさんと付き合ってるの?」

 「あのね、俺はミナリでも全然いいんだよ。 でもユリアは初めて会ったばかりのパミヤじゃ嫌でしょ」

 

 ここでユリアが話す。


 「いいよ、私はパミヤ君で。 私の正体も知らない人だし……」

 「2回戦では代わりますね」



 そんな会話をして部屋まで来た。

 

 いつものように外を見ると、玄関の外に変な男がジッとして立っている。

 すると、慌てた感じで兄がラザノフを連れてその男の前まで来た。


 3人で話しながら俺の部屋を見るので俺と目が合った。


 窓を開けてみる……


 「リュウ、このハグレが話があるらしい。 通していいでござるか〜?」


 バグレ⁈


 兄より少し背が高くて銀色の頭髪をオールバックにしている。

 上位亜人?


 何のようだろう…… っと思いながらも上がってもらった。


 コンコンっとドアを叩くハグレ。


 ミナリが開けるとミナリを見て固まった。

 ん…… 何だ?


 「あっ、ああ、す、済まねえな大将、取り組み中……」


 今度はユリアを見て固まった。


 なんだコイツ?


 

 「ちょっとその子の相談があるから後でいい?」

 「あ、ああ、いい、いい」

 「じゃあ、そこら辺で大人しくしてて」


 ハグレは体育座りで座った。



 「それで、相談とは?」

 「衣装着れないんですけど。 ……まあいいか。 え〜と、カナリの彼氏から言い寄られてるの」


 相談とは恋愛相談? 俺に?


 「え〜と、だから?」

 「だからリュウ君が何とかしてよ。 それが相談」

 「ごめん、思いっきり苦手。 パミヤの方がいいと思うよ」


 アイツは俺に喧嘩を売るくらいにミナリに対して感謝をしている。


 「ハッハ〜、そんなの簡単」


 口を出したのは体育座りのハグレ。


 「どう簡単なのかは知らないけど、ハグレさんの話って何?」



 ハグレ  銀髪オールバックの髪の毛の中に太い針金みたいな髪の毛が混ざってる。

 上位亜人なら年齢は分からないが、見た目は30歳弱に見える。

 昔のアメリカの俳優のようなニヒルな感じで古臭さも感じるが、かなりモテそう。



 「ハッハ〜、俺の用事は簡単。 大将のパーティーに入れてほしい」


 大将って俺のことだったのか。

 

 「募集してない。 ……ミナリはソイツのことどう思ってるの?」

 「何で、気になる? ふふ、そんなに気にするなら教えてあげる。 別にどうでもいい人」

 「ちょ、ちょっと待ってくれ。 い、今の返事で終わり? コーランから来たんだけどさ……」

 「募集してません。 だったら自分で言えばいいんじゃないの?」

 「言ってもさ〜、リュウ君を諦めるって知っちゃったんだよね〜、カナリが言うから」

 「わ、分かった。 その問題、俺が簡単に解決しよう。 そうしたら大将、ちゃんと話を聞いてくれる?」


 ちゃんと……? 聞いたよな、今。


 ハッキリと言うよ。 弱いメンバーは懲り懲りしてる。 この前だって……

 と言いたいけど、弱いメンバーのナンバーワンがこの部屋に居るから言えません。


 「分かった。 話だけは聞くよ、出来るだけパーティーメンバーで」


 ハグレは頷き、その後にミナリを見た。


 「じょ、じょ、嬢ちゃん、詳しい話をいいか?」

 「え〜、リュウ君がいい〜。 じゃあさ、リュウ君デートしようよ、ね」


 どうなってんの、コレ?


 「皆んなで階段に行く時に先に行こうか、この前の海に。 それでいい?」

 「あっ…… いいかもそれ。 うん、その時にリュウ君が私のために買った衣装を着るね。 ふふ、その日が早く来ないかな〜」


 ミナリ…… やっぱり可愛い…… けど、皆んなに買った衣装だけどね。

 それでもミナリに似合いそうな衣装だ。

 

 ……って、殺気! ユリアか。


 

 とりあえずこんな話があった。


 そして階段に行く話はパミヤは無理で、兄の都合もあったので1週間後となった。



 そして、その前の日の夕方。


 ハグレが来て報告をしたいと訪ねて来た。


 兄も居るのでリビングで4人で聞く。



 ハグレの報告。

 

 カナリの彼氏はミナリが大将を諦めたと聞いて焦っていた。

 前にお姉ちゃんが居なければ私は絶対にリュウ君を諦めないと言っていたからだ。


 やはり、思った通りカナリは大将の話ばかりするようになった。

 極めつけは海での大将との思い出。

 カナリは何度も秘密の場所を見られたと楽しそうに話したのだ。


 カナリが好きでも、気が狂うほどの嫉妬心からカナリの姉のミナリに言い寄ってしまった。


 

 「と、言う話ですぜ、大将。 ハッハ〜、でも羨ましいぜ、大将。 あんな可愛い子の妹の大事なところを何度も何度も見てるとは」

 「偶然チラッと胸を見ただけな。 その言い方は皆んなが誤解する」


 つまり、カナリへの当てつけか。



 しかし、最近は姉が大将とのデートの約束を自慢しているので、カナリの大将の話題が減って、平穏が訪れている。


 

 「って感じで、鼻血を出して泣きながら喋ってたから本当だと思うぜ、大将」


 結局、ぶっ飛ばして話させたのか……


 

 「分かった、約束通りハグレさんの話を聞こう。 ラザノフにルーク、この人がパーティーに入りたいって言うんだ、どう思う?」

 

 不機嫌そうなラザノフが喋る。


 「拙者は反対でござる。 裏切るやつは何度でも裏切る」


 裏切る……


 「ラザノフ君、裏切るってどう言うこと?」


 俺も聞きたい。


 「コイツはハグレでござるよ。 つまり里を捨てた上位亜人」


 ハグレって名前じゃなかったのか。

 でも、それなら何かしらの理由があるはず。

 レイモンでは里に結婚相手が居ない理由で男達が里を出てると言ってた。



 台所ではユリアとユキナ、そして誰よりも注意深くスエメルさんが聞いている。



 ラザノフの反対意見の時もジッとしていたハグレ(仮名)、ジワジワと涙が浮いてきた。


 「ラ、ラザノフ…… 泣かしちゃったよ…… 本当にラザノフは極悪人だな……」

 「理由があるなら聞こうよ、その上で批判しよう」


 兄と俺の言ったことに違いはない。

 とにかく聞こうよ、っと言う意味だ。



 ハグレ(仮名)の言い訳。


 俺には幼馴染が居た。

 小さな頃から俺のあとをいつも付いてくる可愛い妹のような存在、その時はそう思っていた。

 

 そんな妹、サーファも成長するに連れ男達の視線を集めるようになった。

 可愛い顔にスレンダーな身体は誰が見ても美しく、明るい性格と相まってとても人気があった。


 そんなサーファを狙う男、コーキチは俺と同じ歳で最低なやつだった。


 サーファの下着を盗んで別の犯人を仕立てたことを俺は知ってるし、男にサーファを襲わせてコーキチが助けた時も、後からその男にコーキチがお金を渡したのを俺は見ている。


 ある日、そんなサーファとコーキチの結婚が決まった……


 俺達の里のルールは親の権力がものを言う。

 母親しか居ない俺は、全く権力がなく全てを受けいるしか出来ない里。

 逆にコーキチの父は元自警団の役職をしていた人物で、やはり母親しか居なかったサーファが断ることなど出来ない立場であった。


 そんな時に転機が訪れる。


 サーファが一緒に里を出ようと言って来たのだ。


 「シータ、私は昔から貴方のお嫁さんになるって決めていたの! あんな変態ズル男なんて絶対に嫌、一緒に逃げて!」


 これが今思えば本当の転機だったのだ。

 俺もこの頃には自分の気持ちに気づいていたが、上位亜人としての誇りを忘れてはいけないと思っていたのだ……


 「ごめん…… 里は裏切れない」


 この時のサーファの絶望する目を俺は今も忘れてない。



 それから数年、狭い里でもコーキチとサーファを避けるように暮らして来た俺は、久しぶりにサーファを見かけた。


 遠くからでも分かるお腹…… 彼女は妊娠していたのだ。


 それは実は知っていた。

 数年前にシーファが妊娠したと風の噂で…… ん、あれは2年前だ。

 ハッ! 2回目の妊娠!


 まさかと思いシーファの後を付けた俺が見たのは、赤子を抱くコーキチに『遅い』と怒鳴られているサーファ。

 その時にサーファがチラッと俺を見た……

 その目は正気を失い虚で無気力、とてもあのサーファとは思えず俺は決意する。


 サーファを奪い、里を出ると!


 

 チャンスは次の日に早速来た。

 昨日と同じように1人で買い物に来たサーファに、俺はありったけの思いをぶつけた。


 妹のように思っていた幼少期、いつの間にか愛情へと変わっていた少年期、そして後悔だらけの今。


 産まれる子供は俺達で育てようと説得して里を出た……


 里を出てからの半年が、俺の人生の1番の幸せを感じた時間だ。


 しかし……


 上位亜人が僅か3年の間に2回目の出産。

 当たり前に耐えられるはずもなくサーファは帰らぬ人となった。


 そして更に2年、身体の弱かった俺達の子がサーファを追いかけるように亡くなった……



 それから更に数年、やっと前を向けるようになりつつあった俺がある噂を耳にした。


 前回優勝パーティーを僅か2人で苦しめたパーティー。

 

 そのパーティーなら俺に何か新しい世界を見せてくれるかも、と思い、俺はコーラン国を出て来た。



 「っと、こんな感じだ……」


 ……台所では女達が座り込んで泣いている。

 ラザノフは上を向いて歯を食いしばって涙を堪えている…… けど流れ出した。

 兄は下を向いてるけど泣いてない。 ……流石に我が兄と言ったところか。


 ふぅ。 ……とりあえず皆んなにティッシュを配る。

 もちろんラザノフの趣味で我が家のティシュは柔らかスコッティだ。



 「それでもう一度聞く。 ラザノフ、この人をパーティーに入れる?」

 「ガハ〜ァ、辛かったなぁハグレ…… じゃなくてシータだっけ、とにかく拙者は歓迎でござる〜、あぁ〜」


 何だコイツ…… ござる〜、あぁ〜、言ってる場合じゃないよ。


 「ルークは?」

 「うん。 俺は選べる立場じゃないな。 決めるのはリュウとラザノフ君、これがこのパーティー全てだ。 リュウはどう思ったんだ?」


 カッコいい男だぜ、我が兄は。


 「先ずは腕を見たい。 悪いけど弱いパーティーメンバーは要らない」

 「流石大将。 俺も腕も見ないで入れたら、大丈夫かよ、このパーティーって思っちまうぜ」

 「言った通り弱いパーティーメンバーは要らない。 ラザノフ、相手してやってくれる?」

 「ちょ、ちょっとキツイな〜、竜族は。 大将…… も強そうだし…… 兄さんもなかなかだろうしな……」


 少しは分かるのか。


 「分かった、俺が手加減して相手しよう」

 「ちょ、大将! 俺だって上位亜人だ、手加減は要らねえ!」

 

 ここで涙を拭いたスエメルさんがお茶を出してくれた。

 そして……

  

 「彼は武闘大会個人戦の優勝者で竜族最強の男とも互角の男。 多分、貴方はあっという間に廃人になるわ」


 と言った。



 「あっ…… 出来れば3割程度の力でお願いします」


 それだと弱いやつだから要らないってなるぞ⁈



 ーー ーー


 

 墓地の下にある広場まで来た。


 ここでシータの腕を見る。


 「武器は何を使う?」

 「俺は体術にスキルや魔術で戦うスタイルだ」


 ふ〜ん、それだと兄と並んでの中衛、欲しいポジションではある。

 最低限、ポンタより強ければ、ポンタは回復役の後衛として使える。


 「魔術を使うから皆んな少し離れて」


 皆んなを下がらせたので、気になっていたことを聞いてみる。


 「ミナリは誰かに似てた?」


 ギョッと目を見開いたシータ。 

 直ぐに俯いてポロポロっと涙が溢れた。


 まぁ、この反応ならサーファとか言う幼馴染だろうな。


 「驚いたよ…… サーファが16歳の時にそっくりだ」


 16歳限定? それとも16歳の時のサーファの印象が強いのか?


 「ユリアは?」

 「……普通にびっくりするほど綺麗な人だ」


 びっくりしただけか。

 更に聞く。


 「さっきの話は何処まで本当だ?」


 またギョッとしたシータ。

 目をそらす、瞬きが多い……

 

 確信があった訳ではない。

 ただ俺も嘘をつくので、上手くまとまった時は特に安堵してしまうのだ。

 それと余りに自分を良く見せようとする話だったのが、皆んなと違って泣けなかった理由だ。


 「と、途中までは本当なんだ。 ……俺はサーファを見捨てて里を出た」


 それだとシータにとってはケジメが全くついてない。

 ずっと中途半端なままか……


 「分かった。 そのことはちゃんと後で皆んなに言ってくれ。 少し厳しくいく」


 ジロッと睨んだのは上位亜人としてのプライドか。



 

 シータと対峙する。


 シータのスキルは針のような髪の毛を飛ばすスキル。

 シータの上空に3本の太い針が飛んでいる。


 普通に歩いてシータに近づく……


 予想通り針が俺を襲う! が1本目を土の盾で防ぐ。

 そして2本目も早めに土の盾でカバー…… っとすり抜けて俺に向かう!

 バシッと素手で受け止めて、グニャっと曲げて投げ捨てた。


 ハエのように俺の周りを飛んでいる2本…… いや、新しい針も含めて3本の針。

 更に俺の中の魔力が動いてバチバチと電流が流れるムチが飛んで来た。


 これは当たったらマズいやつか? ……避ける。



 土の盾を2つ出して回しながら避けている俺…… でも盾に当たる音的にはそれほどの威力を感じない。


 中距離での攻撃はこんな感じか……


 

 更に近づき近距離へ。

 

 詠唱を中断してハイキックをしてきたシータ。

 左前腕部で受けて、同時に右フックを放つ!

 ガスッと当たってシータの顔に恐怖の色が浮かぶ。


 それでも苦し紛れの右ストレートを打つシータ。


 近距離ではこんなもんか……


 その右ストレートに合わせてクロスカウンターの左フック!


 ガスッと綺麗に当たってシータは膝から人形のように崩れた。



 「リュウ! やり過ぎでござる!」


 駆け寄り回復薬を飲まそうとするラザノフ。

 それを静止して、バチーンとビンタをしてシータの目を覚ました。


 最初のフックで鼻血が出ているシータを立たせる。


 「ラザノフ、どう思った?」

 「やり過ぎでござる。 リュウはこ……」

 「俺のことはいい。 シータの強さで俺達のパーティーに必要か?」


 ラザノフは口籠る。


 「ルークは?」

 「正直、物足りなく感じたけど、戦ったリュウの意見は?」


 俺の意見か……


 俺なら針を2本だけにして1本は近距離用で使う。

 それにせっかく夕日が出てるのだから針に夕日を背負わせる。


 センスもイマイチかな……


 「針は3本が限界?」

 「いや…… 昔は4本を操れた」

 

 堕落した生活か……


 「中距離ではポンタ以下、近距離ではパミヤ以下。 まぁ、パミヤはメンバーじゃないけど」

 「でも針を飛ばせるスキルは役に立つんじゃない?」

 「そ、そうでござるよ。 パーティー戦では役に立つ」


 そう…… パーティー戦ではの話。

 討伐などでは威力が足りない。


 「威力はどうなの?」

 「スピードは上がると思う。 やっぱり昔は今より速かった……」


 俺はハッキリ言って、俺とラザノフと兄で最強だと思ってる。

 誰かを入れるたびに弱くなると思うが、数の力で押された時はメンバーが多い方が良い。

 

 「分かった。 ラザノフとルーク、俺はシータをメンバーに入れてもいいと思ってる。 ただ堕落した生活をしてたみたいなので俺が直接鍛える。 かなり厳しく鍛えようと思ってるけど、シータは耐えられる?」

 「も、もちろんだ、大将!」

 「そう。 それなら普段はラリィのお母さんの護衛の仕事、俺と2人の討伐、朝夕とは別に特訓もするから今の仕事があるなら辞めてきて」

 「わ、分かった、大将」


 貴族街で暮らす証明書が必要だな……


 「あ、ラリィの母ちゃんに手を出したら殺すから」

 「ゴクン…… タ、タイプじゃねえ」


 会ってないだろ。

 まぁ、クラルさんは面食いではない。

 むしろ、小っちゃくて愛らしいパミヤみたいなのがタイプと思う。


 「リュウ、それより拙者もその特訓を受けたいでござる」

 「いいけど、貴族街でやる予定だから通うの大変だよ」


 湖の横の広場でやる予定。


 「それなら今少しやろう。 それで自分でも継続してやってみる」


 まだメニューさえ考えてないんですけど……



 シータのスキルはイメージにあると言う。

 イメージ通りに針が動くが、2本、3本と増えるに連れてコントロールが難しくなる。


 何より必要なのは、集中力。



 「シータの特訓はまた別に考えるけど、今日は瞬発力を鍛える練習をしよう。 皆んなも知っての通り大会での決勝、相手は白い三つ目の人、ゼウス。 最後のスキルは瞬間移動だったと思う。 究極の瞬発力が瞬間移動なら、その道に繋がる…… かも知れない練習をしよう」



 説明。


 先ず最初にそれぞれの50メートルのタイムを計る。


 その後、立ったままの瞑想を20分してもらう。

 その途中。


 「ピクリとでも動くなよ。 それでも脚は動きたくて仕方ない、だから脳から命令を出すんだ、20分経ったら爆発的に動け、動いていいんだと……」


 その後も声をかけ続ける。


 「そろそろ15分、まだあと5分も待たなきゃならない。 もう足だって腕だって動きたくて仕方ないだろ。 だからその時に爆発させて走ってくれ」


 こうして待たなきゃならない動いてはならないフラストレーションを溜めて、それを全開放するように言葉で誘導する。


 

 結果。


 ラザノフとルークは同じ結果となる。

 50メートルでのタイムは大差なし。

 だけど25メートルまでが大きく短縮していた。

 つまり、25メートル以降は遅くなっていると言うこと。


 特徴としては2人ともに叫ぶようにスタートしたこと。



 シータに関しては20分耐えたことで俺的には合格。

 走りは10メートルも進まず転んだ。



 「ハァ、ハァ、ハァ、リュウ、お前はこんな練習までしてたの?」

 「してないよ。 でも時間のある試合前にやると効果が高いよ。 皮膚がヒリヒリするくらいに追い込んで、そして爆発させる」


 欠点は試合前に精神的に疲れるところ。

 一長一短ありだけど、1試合しかないとか早く試合を終わらせたい時は有効だ。


 「面白い…… あの時の瞑想でござるな」


 前回大会のパーティー戦、覚えていたか。


 「そろそろ帰りましょう。 シータさんも明日は行くんでしょ」

 

 こうして俺達のパーティーにまた新メンバーが誕生した。


 ちなみにユリアは臨時のメンバーで、討伐はラザノフと兄とでDランク以下の依頼をする予定。



 

 次の日、ミナリを迎えに行くとプレゼントで渡した民族衣装とこの前に買ってあげた髪飾りを挿していた。


 「ふふ、どう、リュウ君?」


 正直、めちゃくちゃ可愛い。

 でも、もう少し明るいところで見たい。


 「うん。 その髪飾りにその衣装は反則的に可愛いよ。 ただその格好で階段下りをするの?」


 パンツ丸見えになるはず。


 「一応、着替えも持ってきたよ。 リュウ君以外には見せないから安心して」


 俺にはいつ見せてくれるのか、聞いていい?


 「それなら安心だ。 さ、行こうぜ」


 俺とミナリ以外はもう船で出発している。




 そして飛ぶこと2分、まだ出発したばかりの船を追い越す。


 そしてあっという間にこの前の海を過ぎて、階段の上の広場で降りた。


 予定通り。

 もう少しすれば日が昇るはず。



 階段の1番上に座って日の出を見る。

 ここからなら東の海が一望出来る。


 「皆んなはどのくらいで着くかな?」

 「分からない。 歩いて来るなら3時間はかかると思うけど、馬車も出てるでしょ? 俺達は歩いたけどさ」


 この前は歩いて2時間くらいかかった。

 ただミナリと俺なので歩くのが速い。


 「船は見えるかなぁ」

 「見えるかもね」



 次第に明るくなると徐々に太陽が顔を出す。

 日の出だ。


 「リュウ君、私は諦めるのを諦めたよ。 今、決心した……」


 横を見ると、日の出を真剣に見てるミナリが居た。


 「ふふ、ウソだよ……」


 ……ウソか。


 「本当は諦めようとしただけ。 もう半年だけだしいいよね……」


 卒業まであと半年か……


 「それは嬉しいよ。 今のままなら俺は誰とも付き合わないけどね」

 「え…… それって……」

 「船が来るか見ててよ。 俺は今日はここで朝の稽古するからさ」


 本当はいつもは必ず出かける前に稽古をする習慣だけど、今日はここで稽古をした方が気分がいいはずと思ったのだ。



 軽くジョギングから柔軟、体幹トレに指先の強化トレとやることは昔から変わらない。



 「リュウ君、船が見えるの、あれかな?」


 本来は剣を振るけど今日は持ってきてない。

 時間が余るな…… と思いながらミナリの元に。

 

 「ああ、あれだね。 でも少し時間がかかるけど下に降りる?」


 皆んなが到着するまでだ。


 「リュウ君、私も体幹トレーニングがしたい」

 「いいよ、ゆっくりやってから降りようか」


 しかし…… ミナリはセクシー衣装だった。


 チラチラ見えるパンツに興味はないはずなのに、目が行ってしまうのは男のサガか。

 静香チンの癖にと思うけど、これまで失ったら全てを諦めなきゃいけなくなる。


 俺だっていつかは自分の子だって欲しいのだ!



 「リュウ君…… さっきから視線を感じるんですけど……」

 「うん、ミナリの足は綺麗だ」


 長くて程よい筋肉、素晴らしい。


 「あの…… 本当は狙ってた。 だから嬉しいよ」


 それでも静香チンは…… 未だに静香チン。



 ゆっくりと進めて時間を潰したので階段を降りて行く。


 約束通り、俺だけにパンチラしてくれたミナリは着替えている。


 階段を下の方まで下がって行くと、『リュウ』っと呼んでくれた。

 丁度良かったか。



 それから皆んなで朝飯、それぞれのカップルの男が支払う。


 ミナリは午前中は俺で午後はシータ。


 ユリアは午前中がシータで午後が俺。


 ユキナは終日ルーク。


 スエメルさんも終日ラザノフ。


 おまけでラリィ。



 「リュウの昔やっていた稽古でござるよな」

 「そう。 それを賭け対象としてやろう」

 「それだと大将が有利じゃねえか?」

 「ハンデを付けるよ」

 「どうやって階段で稽古してたの?」

 「ルークも知ってると思うけど、俺の蓮撃は大抵が頭の回転不足で詰まってたんだ。 3までの数字を5個並べて、それぞれ違うパターンで攻めて、受けられたら次の数字を5個並べて…… ってやってくと、振らなきゃならないパターンと数字と疲れとで訳が分からなくなってた。 だから階段下りで5個並べて降りてって、蓮撃と同じようにやってたんだ」

 「それが稽古になったでござるか?」

 「なるよ。 先ずスピードが乗るから危険で最初の頃はボロボロになるくらい転んだけど、最後の方は余裕で降りれたし蓮撃も飛躍的に伸びたよ」

 「せ、拙者達にもプラスになるでござるか?」

 「やり続ければね。 瞬時の判断と反応速度なんて変わるかもよ」

 「リュ、リュウはどれくらいやってたの?」

 「亜人国でほぼ毎日で9ヶ月だね」


 ギロッと睨んだのはユリア。

 ユリアはリリカのことを知っている。


 「ハァ、やっぱり変わったことをする。 しかもいい練習に思えるよ。 それで注意することは?」

 「スピードが乗るから気をつけて。 少しでも膝が痛くなったら回復薬を飲んだほうがいい」


 ちなみに俺の関節は柔軟性があるので痛くなったことはない。


 「それでカップルにして何をするの?」

 「カップル対抗戦。 午前中の敗者は昼飯を奢る。 午後の敗者は夕食を奢る」

 「やっぱり大将が有利じゃねえか」

 「だからハンデやるって。 ……ルールを決めよう」


 

 ルール。


 1番上から次の踊り場までの約230段を女だけで競う、踊り場には男が待機。

 女にタッチしてもらった順に男はスタート、次の踊り場がゴール。


 ハンデ  男  リュウ、プラス60段  ラザノフ、マイナス10段  ルーク、プラス10段  シータ、マイナス20段


 女  ユキナ、マイナス40段



 「ルールは簡単でしょ。 ハンデは分からないからこれでいい?」

 「拙者の体重を考えるともう少しハンデが欲しいでござる」

 「確かにね。 でもパートナーがさ、速いんじゃない?」

 「わ、私? ふふ、皆んながどのくらい速いか分からないから何とも言えないわ」


 ゴルゾフさんの妹だからな……


 「分かった。 ラザノフはシータと同じマイナス20段で、スエメルさんは悪いけどプラス20段にしよう」

 「ハッハ〜、それはいい。 素直に従ってれば良かったな、ラザノフ」

 「クッ、シータの癖に……」


 あ、それ地味に傷つくやつだ。

 俺もシスターにリュウの癖にってよく…… いや、口癖のように言われたな。


 「じゃあこれでいいね。 ラリィ、昼飯は何が食べたい?」

 「血の滴る高い肉を貪り食いたいだの」


 流石吸血族ハーフ。


 「という事で、昼は負けたカップル持ちで高い肉ね」




 階段を1番上まで上がってそれぞれの位置で待機する。


 シータは上がって来ただけで疲労が激しいのでハンデをマイナス40段とした。


 一応、思い思いの練習をしてする。

 

 そしてスタートの時間。


 女達がてっぺんで並ぶが、ユキナだけは40段下がった階段でスタートを待つ。


 ルークは踊り場から10段、俺は60段上がったところで、それぞれのパートナーが踊り場に着いたらスタートする。


 ラザノフは踊り場から20段下がってるけどスエメルさんのハンデが20段あるから、スエメルさんはラザノフのところまで行かないとラザノフはスタートが出来ない。


 シータはラザノフから更に20段下がって待機、ユリアが踊り場まで着けばスタートを切る。




 そして…… ゴール地点で待つ、ラリィの合図でスタート!



 スタートは横一線! ……が、徐々にスエメルさんが前に出る! 次にミナリ、離されずにユリアが喰らいつく。


 残り80段を過ぎた頃に早くもユキナがスエメルさんに追い越される! そしてユキナが俺の横を通る時、ミナリもユキナを追い越そうとしていた。


 美しいフォームで駆け降りるミナリ。

 いつか見たカモシカのようにしなやかで美しい。 ……チラッと目が合い、ユキナをパス。


 そして少し遅れてユリアが通る。

 ユキナは花嫁修行で体を動かしてなかったのだろう。

 俺の知るユーリスとは動きが違う。



 早くもスエメルさんが踊り場に到着、40段遅れてミナリ、更に10段遅れてユキナとユリアが並ぶ。


 やはりスエメルさんが断トツで速かった。

 あのミナリをここまで離すとは……


 スエメルさん、ラザノフにタッチ!



 ドカドカと地響きを鳴らして降りるラザノフ。 ……意外と速い!


 ミナリが踊り場に到着、俺がスタート!


 今回は余裕がありそうなので蓮撃降り、更に数字を4まで増やして降りて行く。


 

 ユリアが到着、シータがスタート!

 しかしラザノフはもうシータと並んでいる。


 ユキナが到着、ルークがスタート。

 俺とは20段差だ。


 その、ルークが速い! 逆に俺との差が開いてる⁈



 ビリの俺が踊り場に着く。

 それぞれの順位は……


 1位  ラザノフ  残り140段

 2位  シータ   残り150段

 3位  ルーク   残り195段

 4位  リュウ   残り230段



 踊り場でミナリと軽くタッチして進む。


 蓮撃降りはどうしても1段が入るので、その度にブレーキがかかってしまう。

 余裕もなくなったので5段飛びに変える。


 階段下りは何よりリズム、そしてバランスが大切に思う。

 今は開いてる差も、後半は皆んなのバランスが崩れるはず。

 狙うのは1着!



 残り100段、ようやくルークを射程に捉えた!

 気配を感じたルークがチラッと後ろを振り返った時、俺はルークをパス! ビリはルークカップル濃厚か。


 ラザノフは残り30段、シータは60段の位置に居る。


 

 ラリィがぴょんぴょん跳ねながら手を振っているのは俺! ……の後ろ?

 

 ル、ルークだとぉ〜! クッ、この怒りをスピードに変換する!


 

 ラザノフがゴ〜ル〜! スエメルさんもラザノフも思ったより速かった。


 そして俺は残り10段でようやくシータをパス。

 ハンデ的にはいい感じだった。



 俺が2位でゴ〜ル。

 初めから5段飛びならラザノフといい勝負だったはず。


 ビリはルークか…… っと振り返った時、ラリィの喜ぶ顔が見えた。


 バッと後ろを見ると、最後の一歩でシータを交わしたルークが居た……



 3位、ルーク。


 ビリはシータとユリアとなった。



 ルークは俺に抜かれる前に少しペースダウンした。

 今思えば、ルークは俺の後ろに付けて飛び方を真似したのだろう。

 その結果で3位に入ったのだから良い判断だった。



 女子と合流、俺が2位までは分かったみたいだけど、3位争いはどちらが勝ったか分かってない。


 「ルークさん…… 私が遅かったから…… ごめんなさい」

 「え? でもユキナさんが頑張ったからビリじゃないよ」

 「そ、そうなの? ルークさん……」


 ユキナはルークの手を取り見つめ合った。


 何この甘ったるい展開。


 「ルークさ、そう言うのは端っこでやってくれる? 堂々と皆んなの真ん中でいちゃつきやがって……」


 パッと離れた2人…… ユキナの顔が赤い。


 「負けたのはユリアとシータペアだね。 悪いけど昼飯代を出してもらうよ」

 「うん。 でも色々と悔しい……」



 ユリア…… 名前を変えるとユーリスとちょっとイメージが変わるな………

 それとも1年がユーリスを変えて、俺を変えたのか?




 昼食。


 肉の滴る…… だっけ? ラリィの要望は肉の美味い店だったけど、この町には肉の専門店はなく、円形のテーブルの中華料理のような店になった。


 味の方はイマイチだけど会話はさっきの勝負で盛り上がっている。



 「上から見たらリュウ君とルークさんはバッタみたいを見えたわよ」


 スエメルさんが言った…… しかしバッタって……


 「前には追いつけないと思ったしリュウに抜かれそうだったので、早めに抜かれて飛び方を真似しようと思いました」


 やっぱり…… その判断といい、しっかりコピーするところといいセンスがある。


 「最初は似てないと思ったけどやっぱり兄弟、よく見ると似てますね。 ふふ、でもルークさんの方が優しそうかな」


 隣に座るユリアが言った。


 「実際に優しいのは俺だけどね」

 「プフフ、何張り合ってるの? それじゃあルークさんの方が誠実そうね」

 「『優しさと誠実さと心強さとリュウ』って歌を出そうと思ってるんだ…… ラザノフが」

 「そんな歌は知らん!」


 ラザノフ…… 合わせなさいよ。


 「プフフフ、歌が出たら買うね。 でもルークさんは頭が良さそうに見えるなぁ」


 ルークを見ながらミナリが言った。


 「ミナリには教えるけど、実は本気を出せば俺の方が頭がいいのは有名な話だ」

 「リュウ君、もう3年生だよ。 そろそろ本気を出しなさい」

 「リュウは入学試験で見事な0点って言ってたけど、今のテストの点数は?」


 ユリア…… そこは掘り下げないで。


 「まぁ、最高は2桁と言っておこう。 何もないところからそこまで来たことを本にしようと思ってるやつが居る。 ……ラザノフだ」

 「ガハハハ〜、そこまで上げたでござるか〜。 何点?」

 「いや、そこは…… 2桁」

 「何で、ちゃんと教えてよ〜」


 ユ、ユリア……


 「さ、最高は11点、数字を揃えてみました」


 ブッハハ〜っと皆んなに笑われた……


 やな予感はしたけどさ……

 

 

 

 午後はほとんどの人が筋肉痛(特にシータ)というのでラリィと俺のエキシビジョンマッチで帰ることになった。


 ルールは俺がこの階段の半分の位置の踊り場から降りて行く。

 ラリィは1番上から飛んで下まで下って、更に上まで戻ってまた下まで降りたところがゴール。

 つまり俺は2回抜かされなければ勝ちが確定する。


 ラザノフが話す。


 「夕食は賭けないでござるか?」


 どう考えても俺が不利過ぎる設定だろ。

 460段、バッタみたいに飛びっぱなしだぞ。


 「ラザノフはどっちに賭けるつもりなの?」

 「ガハハハ〜、可愛い妹に賭けない訳にはいかないでござるよ〜」


 ふ〜ん、ムカつく。


 「ミナリは俺だよな」


 彼女はお金を持ってないので、オーナーの俺一択。


 「もちろん!」


 次は……


 「スエメルさんは?」

 「私はね…… リュウ君。 だってお兄さんにまで勝ったんだもん」


 その通り。 ……ラザノフは勝ってません。

 チラッとユリアと目が合った。


 「俺だよな、ユリア」


 ここではユーリスと聞きたかった。


 「ラリィちゃん。 だってその条件ではリュウは不利でしょ」


 ユリアはいいや。 

 でも、ユーリスなら俺と言って欲しかった。


 「ハッハ〜、大将、フラれたな。 俺もラリィだ」


 やっと歩いて来た癖に……


 「私もラリィちゃんかな。 家庭教師としても」


 ラリィが1番慕ってる女子のユキナが言った。


 「俺はリュウだ」


 これだけ不利な条件でも、兄は俺を信頼している。

 勝負事で俺が負けると思ってないのだ。

 ただ…… 悲しそうなラリィを見つけたら別だ。


 「やっぱりラリィだ。 ラリィ、まだ大丈夫?」

 「うん。 まだ大丈夫」


 優しい男だ。


 


 さぁ、それぞれが指名したのでスタート位置にスタンバイする。

 ただ1番上には誰も行きたがらなかったので、スタートの合図は真ん中の踊り場に居る俺がする。


 一応、後ろを向いて手をあげて、ラリィがスタートをしたのを見届けてから俺もスタートした。


 今回は6段飛ばしで下りていく。

 だいぶ膝に負担がかかるのでクッションを利かせて進む。


 何度も言ってるが、階段下りはリズムが……


 ピューンっとラリィに抜かされた。

 流石に下りは飛んでれば速いよ。


 ラリィは下まで行って、Uターン。

 また俺とすれ違う。


 俺の進んだ距離は次の踊り場まで半分の位置、ラリィの上りの時に差を広げなければ……

 チラッとラリィを確認しながら進むと、ラリィが早くもUターンしてる。


 でも、そこはまだテッペンではないはずだ!

 アイツ…… 余裕があるのにズルしやがった…… まぁ、人を配置してない大人が悪い? けど。


 さぁ、そろそろ踊り場、残り半分! っというところでラリィに抜かれた。


 後はゴールのラザノフの胸に飛び込むだけ…… っと油断したのか、一度グルッとラザノフの上で旋回した……

 そこでジェットを使った俺と一瞬、目が合った! 焦った目のラリィ。


 遅い! 


 そのままゴールしてたら勝てなかったこの試合、慌ててゴールしたラリィより、ほんの少し俺の方が早くゴールした。


 勝った〜!


 

 「リュウ! ズルいぞ」


 ラザノフ君……


 「お兄ちゃん、ズルしたからラリィの勝ちなの」


 お前もやってるけどな、と心の中で言った。


 「ラリィ、何か欲しいものを買ってあげよう」

 「えっ……」


 ラリィは分かりやすくミナリの頭に飾られてる髪飾りを見た。


 「グフフ、ミナリお姉ちゃんと同じ髪飾りが欲しいの」


 しかし…… アレは目ん玉が飛び出るほどお高い一品。


 「わ、分かった、直ぐに買いに行こう。 ……お兄ちゃんの勝ちだよな?」

 「お兄ちゃんの勝ちだの。 ……早く買いに行こ」


 よっしゃ〜、完全勝利!


 が……


 「ズルいでござるぞ、リュウ!」

 「そうだ! お前は昔からそう言うところがあったけど、まだ直してないのか!」

 「き、汚ねえ〜、大人の汚さが詰まってる…… 嬢ちゃん達、これが大将の本質だ〜、目を覚ますんだ〜」


 相変わらず男から人気ないな……

 別にいいけど。


 「何言ってんの、皆んなは? 何が何でも勝つ! それでも負けそうになったら一緒に逃げる! どんな時でも見捨てない人だから諦められないんじゃん! こんなに優しくてズルい人、他に居ないよ!」


 ミナリは涙を浮かべて抱きついて来た。


 最後はちょっと腑に落ちないけど、ヨシヨシと頭をさする。

 

 

 でも、ミナリのこのひと言はそれぞれの男の心に響いたようで、皆が神妙な顔つきになった……


 

 その後、ラリィに髪飾り(ミナリと同じ品はなかった)を買ったり、お土産を買ったりして帰宅。

 店にはユリアが居たので断念して、買い物だけして家で飲み食いをした。


 何処に響いたかは分からないミナリの言葉。

 

 特にシータは目に見えて落ち込んでいた……

 

 

 

 

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