ザ、討伐
第三章 フリーダム
第九十七話 「ザ、討伐」
帰って来てから3日、今は普段通りの生活に戻りつつある。
帰って来てからは主にパーティーに出席させられてた。
大会で優勝したのを祝うパーティーなので、俺が不参加では成り立たなかったのだ。
パーティーでは踊りっぱなしで踊りが上手くなったと思う。
でもサンカルムの女性は顔見知りも多かったので気は楽だった。
ビッシュ王から恩賞も出た。
金一封と装飾された短剣。
短剣は貴族街の家に飾ってある。
学校でも俺は表彰された。
ナラサージュで1番有名かもよ、っと言うポルカ先生はジャンセル先生と付き合いを始めたらしい。
ミナリは相変わらずなので、今日は少しアクションを起こそうと思う。
放課後。
速攻で2年の剣術クラスに来た俺は、パミヤを呼び出してもらおうと女の子に声をかけた。
「このクラスにパミヤって居る? 出来たら呼んでほしいんだけど」
振り返った女の子はコーサだった。
コーサとミラー。
学校の2年生で学校での面識はあまりない。
だけど貴族街の俺の家の近くに住んでいるので、たまにお菓子とか作って持ってきてくれる。
この前のパーティーでも一緒に踊った。
「あっ、リュウ様」
っと近づくコーサ。
「え…… 私ではなくパミヤですか?」
「うん、パミヤ」
「もう! 喜んだのに〜ぃ」
そう言うとパミヤを大きな声で呼んでくれた。
パミヤは思いっきり不審そうな顔で現れた。
「な、何だ? も、もう用はないよ」
「俺があるんだよ。 ちょっと来い」
そう言って中庭に連れて来た。
パミヤは足を引きずって歩いてる。
「お前、足どうしたの?」
気になったので先に聞いた。
「この前のケンカで痛めて、同じところを昨日ぶつけちゃって……」
「どんだけ強くぶつけてんだよ、回復薬も効かないなんて」
「回復薬がないんだよ。 ……俺は貧乏だから」
じゃあ、あれからずっと痛かったのか?
コンコンっと足で合図すると、ニュ、っとラリィが顔を出す。
今日は海の家に行くので影で寝てた。
「回復薬ってある?」
「あるよ。 どうしただの?」
「コイツが足痛いんだって。 日焼け止めは?」
「うん。 塗る」
改良型の試作品2号。
ただ、あまり前回の試作品と変わらない。
「ほら、飲めよ」
回復薬を渡す。
「あ、いいの? あ、ありがとう」
「お前さ、特待生でプユスタール出身なんだろ。 俺のことも知ってたようだし。 ミナリのことも含めてその辺りも聞かせてよ」
パミヤは素直に『はい』と言って喋り始めた。
パミヤは16歳で妹のミリアと孤児院で暮らしてる。
パミヤの母のサーモスは冒険者の仕事をしてパミヤを養っていた。
獣人だった母は双剣術を操る達人でもあったので、パミヤも小さな頃から母に武術を習って育った。
母は優しく強かったが、酒と男にはだらしがなく、パミヤの父親は昔のパーティーの人間としか教えられてなかった。
パミヤは13歳になり冒険者となる。
貧乏でも食べ物に困ることはなかったが、女手ひとつで育ててくれた母にらくをさせてあげたい、と言う思いからだった。
その頃から母の体調が崩れだす。
そんな最悪の体調の中、妊娠が発覚、聞けば先日亡くなった同じパーティーのガーチと言う人間との子らしい。
もちろんパミヤも母がガーチと付き合っているのは知っていたが、子供まで作るとは思わなかった。
その理由は罰金。
結婚しないで他族との子を産むと、両親に多大な罰金がくる。
ほとんどの場合は女が育てるので女は真面目に支払うが、男は逃げることが多い。
これが上位亜人と人間の子が少ない理由でもある。 ……上位亜人はバレやすいのだ。
その点、中位亜人とは罰金もなく、血を喜ばれるだけなので中位亜人との子が多くなる。
ちなみにラリィの両親はしっかり結婚をしたので、それはまた別の罰金だ。
「へ〜、だから貧乏だったの?」
「そうだと思う。 俺の借金は何とか俺が12歳の時に支払い終わったって言ってたけど……」
そんだけ冒険者をしてればA級だろうし、真面目に働けば貧乏にはならないしな。
ガーチの忘形見を産みたい、という母の思いは強く、体調の悪いまま出産。
しかし、僅か半年で母も帰らぬ人となる。
借金はパミヤに受け継がれ、パミヤは高額の依頼を積極的に受けた。
しかし依頼を失敗することが多くなる。
そんな時、担当職員のカミラさんは事情を知っていることもあり、違約金を肩代わりしてくれることもあった。
その頃にリュウと言う名の少年の噂を聞く。
あっと言う間にCランクまで上がり、仕事のほとんどでスピード解決による加点がある。
竜族の男と同等の力があって、パレッツェンも僅か2人で倒したという噂まで。
偶然にも同じカミラさんが担当職員だったのでカミラさんに尋ねたけど、彼は特殊で参考にはならない、と言う少ない応えしかもらえなかった。
そのカミラさんの推薦でナラサージュの学校へ通えることになった。
カミラさんが教えてくれた学校に通うことの理。
自分と幼い妹はサンカルムの孤児院で暮らせる。
借金は消えないけど、卒業までの支払いは待ってもらえる。
また学校を卒業すれば、良いところへの就職が期待できる。
何よりその3年間で妹のミリアが大きく成長してくれる。
「だから俺が人生で一番感謝してるのがカミラさんだ」
そりゃそうだろ。
あの頃のカミラさん、本当に素敵だったな。
「孤児院は飯とかしっかり食えるの?」
「少ないけどね…… 俺、手伝いがあるからもう帰らなきゃ」
メインのミナリの話を聞いてない。
「お兄ちゃん、ラリィね、ミリアに会いたいの」
コイツ…… 居たんだった。
「じゃあ、歩きながら話の続きを聞かせてよ」
「えっ、一緒に行くんですか?」
「ミリアに会いに行くって言ったじゃん」
「あ、はい」
何でいきなり敬語になってるんだ?
歩き出すと、パミヤは痛くない……と呟いた。
ーー ーー
ある日のお昼、弁当までは持てないパミヤはさっきまで居た中庭で腰を掛けて座っていた。
そこに上級生がお弁当を食べに来て、その上級生に話しかけられる。
「お弁当忘れちゃったの?」
「えっ、うん、そんな感じです」
見るととても可愛い先輩……
「良かったら食べる? 2つ持ってるんだ」
「あ…… で、でも悪いから」
「そう?」
先輩はそう言って話を打ち切り、弁当を食べようとした。
「あの、やっぱりいります、ください、お願いします」
「え…… ふふ、遠慮しなくていいのに」
それからたまに弁当をもらえるようになった。
ーー ーー
「こんな感じです」
「餌付けされて惚れたのか」
分かりやすい始まりだな。
「え…… 惚れた?」
ミナリの勘違いか……
だよな、種族違いで多額の借金背負ってる人間が、亜人を好きにならないよな、普通。
「あ、いや、こっちの勘違い。 俺に怒ったのはミナリへの義理があったからって感じか?」
「それも1つ。 やっぱり1歳しか違わないのに先輩は色々と恵まれてるから……」
「ふ〜ん。 色々って言ってみろよ」
「え…… あの、竜族と繋がってるし、それでパレッツェンとか倒して直ぐにAになってるでしょ。 それにお金持ちだし、強いから貴族にまでなってるし、ウチのクラスの女まで惚れちゃってるし。 ……そんな感じです」
「お兄ちゃんね〜、自然だの。 自然にたらしちゃうの」
お前は黙ってろ!
「なるほどね。 ちなみに強いのは誰より努力をしてきたからと俺は思ってるよ。 パレッツェンは1人…… ラリィと倒したな、ラリィ」
「ラリィね、あの時ね、クラクラして堕ちちゃったの。 だけどお兄ちゃんがね、バッて、それでヒューってね、お兄ちゃん」
「ああ、助けてくれてありがとう」
ラリィは満面の笑みで『グフフ』っと口元を押さえた。
「俺も孤児院の出身で、俺の孤児院はまともに飯がなかったから大変だったよ。 まぁ俺も、運が良かったとは思うけど」
「そ、そうなんですか…… 何も知らないのに生意気言ってすいませんでした」
まぁ、そんなのはいいんだけどね。
ここはサンカルムの東側の山側。
結構、山を登った先にボロい建物があった。
外で遊んでいた数人の子供の中から、小さな女の子がパミヤに向かって走って来た。
パミヤがその子を抱き上げる。
「ミリアです」
優しい笑みでパミヤが言った。
「何歳なの?」
分かるかな? ミリアに向かって聞いてみた。
「もう直ぐ3歳になります」
「そうか、可愛いな」
そんな会話をしていると、建物の中から女の人が出て来た。
「パミヤ君、遅い〜。 ちゃんと手伝ってくれないと困る…… あっ、パ、パミヤ君のお友達? ヤダ、こんな格好で…… あっ、中にお上がりください、お茶を入れます」
こっちの世界はシスターじゃなくて、普通の人? 資格とかいるのかな……
「いえ、お構いなく。 自分は外で子供達と遊んでいるので。 パミヤ、仕事してこいよ」
っと言ってミリアをパミヤから奪った。
小っちゃくて可愛い……
「あっ、はい……」
不思議そうに俺とミリアを見たパミヤだったけど、孤児院の仕事をしに中に入った。
それからは孤児院の子供達と遊んだ。
ラリィは珍しいって言うのもあると思うけど、やっぱり人気がある。
翼があって顔は可愛いくて、額の宝石やアイラインなどひと目で特別だと分かる。
本人も心得ているのか、ちょっと飛んだりして皆んなを盛り上げていた。
ミリアの笑顔も見れたので来て良かった。
「あの、食事もご一緒にどうですか?」
この人はさっと違う職員の人。
ちょっと小太りな三十代くらいの女の人。
「いえ、ありがとうございます。 もうお暇するので」
「あの! 是非食べていってください」
この人はさっきの人。
二十代の女の人。
孤児院で食料が沢山あるとは思えない、事実、パミヤは昼飯はいつも抜きのようだ。
「お兄ちゃん、食べて行こうよ」
遊びに夢中なラリィが言う。
「分かりました。 ご馳走様になってもいいですか?」
「はい、もちろん」
2人とも同時に言った……
食事は質素な食材でも美味しく調理されていた。
これで俺はこの孤児院に一食の借りができた。
この孤児院の一食は、俺の百食にも相当するもの。
なので食後に援助を申し出た。
2人の職員に貴族と打ち明けて言ったので、しっかり活用してくれるだろう。
帰り。
庭の外までミリアを抱っこして見送ってくれるパミヤ。
「本当に今日はありがとうございます」
「別にいい。 それより俺の海の家にミリアを連れて遊びに来なよ。 人も多いし歓迎してくれると思うよ」
「……はい。 ありがとうございます」
「ミリアは言葉は理解してる?」
「多分、してません……」
この子は喋れない。
それに音を認識してないように思えた。
「ミリアは俺にしか抱っこされないんですよ。 最初は俺だって抱っこ出来なかったのに……」
だからさっき不思議そうに見てたのか。
ハーフはやはり可哀想。
種族を守りたい気持ちは分かるけど、生まれた子にも負担がかかってる。
カミラさんとリョーキさんはお互いしっかりしてるから子供も幸せになると思うけど、リョーキさんは親と縁を切ったとも聞いた。
難しい問題だけど、リリカが初恋だったように俺も他人事ではない。
海の家。
久しぶりの下町の海の家。
だけどこの前のパーティーにラザノフ達も参加してるから会ってはいる。
ラザノフとスエメルさんが近寄る。
「済まんでござるな、呼び出して」
「ああ、別にいいよ。 そんで何?」
ラザノフがスエメルさんを見る。
「この家で暮らさせてもらうね、リュウ君。 リュウ君が私の兄さんに勝ったから実現出来たんだよ」
確かにラザノフは勝ってないからおかしいな、とは思ってた。
「ええ、楽しんでください。 ただ危険がない訳じゃないので気をつけて」
クラルさんは貴族街での生活がメインになる。
あそこはリコも暮らしやすいし、何より安全だ。
でも、それだとスエメルさんが昼間に1人になってしまう時がある。
ラザノフは卒業したけど仕事もある。
「うん、ありがとう。 でも私だって竜族の女よ」
「ああ、なんと言ってもゴルゾフ殿の妹、そこらの男には負けんでござるぞ」
それでも多人数には勝てない。
「まぁ、そうでも気をつけて。 それでラザノフ、ポンタの件は?」
「今、申請中でござる。 それともう1つ、明日ユーリス姫が来る」
こちらがメインの呼び出し理由か。
「リュウは気持ちはないと言ったが、ユーリス姫はまだ気持ちが残ってる。 リュウ、それでもユーリス姫は来年には嫁に行く」
「分かってる。 もう付き合わないよ」
誰ともね……
本日の学校は社会奉仕活動。
特に魔術専攻は多いらしい(俺は3年にして初めて)。
魔術専攻と言ってもファイヤーボールのような攻撃系の技は少なくて、一般に役に立つ魔術の方が多い。
今回は郊外の畑の多い田園地帯でそれぞれのグループに別れて雨を降らす。
最近は雨が少なかったので学校に依頼があったようだ。
俺にグループはない、グループになる要素が1つもない。 ……っと思っていたが要素はあるらしい。
クラスメイトとの交流だって。
ポルカ先生が最近の俺とミナリを見て気を使ってくれたみたいだ。
メンバーはミナリとサルー。
その効果は直ぐに現れる。
「リュウ君、プレゼントありがとう」
コーラン国で買った衣装をパミヤ経由で渡した。
「パミヤ君のことも聞いたよ……」
「そう。 今度パミヤに遊びに来いって言ったけど、ミナリも一緒に来なよ」
「うん…… ごめんね、リュウ君。 もう貴方を追いかけないからいつまでも友達でいてね」
本当にタイミングが悪い。
好みの顔や性格でも上手く時間が重なり合わなかった。
「もちろん、ミナリ。 ミナリは学校で出来た1番の友達だ」
少し微笑んだミナリ、少し悲しく見える。
「リュ、リュウ君、僕は?」
サルー……
「じゃあ、2番で」
「じゃあって何だよ〜」
プフッと笑ったミナリ、結局これで良かったのだ。
帰り道、今日はユーリスが来ると言っていたけど上手くいったのだろうか。
ラースビーさんとマインさんは仕込むのが得意だし、もしかしたら2人の親も…… いや、それはないな、リスクが高すぎる。
まぁ、俺が心配することではない。
俺がすることはこの1年、何がなんでもユーリスを無事で2人に返すことだ。
仕込みで俺が心配しても仕方ないのだ。
などと考えて家に帰ると玄関に沢山の靴が…… 居る!
リビングにユーリスは居た。
いつもよりずっと可愛いく見えたのは、腰まであった髪の毛が肩までしかない髪型になっていたからだ。
「バッサリ切ったね。 でも凄く似合ってる」
久しぶりに出会ってのひと言目としてはどうかと思うけど、本当にそう思った。
「美人でござるからな〜、ユーリ…… ユリアは」
ユーリ・ユリアって…… 本名初めて知ったんですけど。
「ありがとうございます。 ラザノフ様にリュウ…… でいいよね」
「当たり前だろ。 ユーリユリア」
「違う、ユリアだけでござる」
「プフフ、初めから話そうか」
ここにラースビーさんとマインさんは居ない、もうラースビーさんの故郷へと旅立ったからだ。
冒険者登録を架空の人物を作り、そして登録。
その名前をユリアにした。
自由な期間は来年の3月まで。
それまでには結婚相手も決まるらしい。
ラースビーさん達との連絡はギルドを通して行う。
「全て順調にいったんだね。 2人には感謝しなきゃね、ユーリス」
「うん…… ユリアね」
あ、そうだった。
「お姉ちゃんすっごい可愛いね」
「ふふふ、ラリィちゃんも可愛いよ」
「グフフ、知ってるだの」
ラリィもユーリスと面識がある。
大会の朝の稽古が一緒で、美味しいスープを一緒に食べてた。
「一気に賑やかになったでござるな〜」
スエメルさんは台所で何か作ってる。
「明日は戻るけどね」
クラルさんは貴族街の家に居てもらってる。
長く海の家に戻る時だけは一緒に戻る予定。
「リュウ、私ね、討伐がしたい」
討伐か……
「多分、この近くに討伐はない。 俺は学校も貴族の仕事もあるからそこまで時間もない」
「休みの日はどうでござるか? まだ兵団の仕事をしてるでござるか?」
休みの日か…… って言うか、その期待度マックスな視線をやめてほしい!
「ギルドに見に行って来るよ。 ……ラザノフも来て」
ラザノフは頷いた。
「さぁ、ご飯を食べましょう」
氷竜族料理自体も美味しいけど、スエメルさんはめちゃ料理上手だ。
クラルさん? ……は普通。
スエメルさんの部屋はラザノフの部屋の隣。
ユーリスの選んだ部屋はその隣の真ん中の部屋だった。
海側の2階で残っているのは俺の隣の部屋だけ。
次の日、学校帰りにギルドへ。
もうギルドで待っていたラザノフが依頼書を見せてくれる。
チヌールの討伐 Cランク以上
報酬 1800トア 場所 グラガマ連峰
期間 6月末まで 依頼主 サッドン湖組合
「サッドン湖はナラサージュの北西の位置にある湖でござるよ」
Cランク依頼か……
出来ればD、Eランク依頼がいいと思っていたけど、それでもCならいけるか?
「まぁ、地図で見ないと何とも言えないね。 それに連峰じゃあ魔獣を見つけるのに時間がかかるんじゃないの?」
「ラリィに頼めば見つけられるでござるよ」
「魔獣を見たこともなければ無理だろ」
そんな会話をしたけど、とりあえずユキナに魔獣の特徴と場所を確認することにした。
「先ずは報告と確認ね。 私ね、ルークさんとお付き合いさせてもらうことになったの」
ラザノフと顔を見合わす…… 何か複雑。
「そ、そうでござるか。 確かにルーク殿は爽やか爽やかイケメン、お似合いでござるよ」
俺を見ながら爽やかを強調しやがった。
「ハァ、良かったね」
「ふふ、ありがと。 それとユリアさん。 私は面識があるからビックリしたよ。 リュウ君と同じ、大人の事情ね」
あの実況、最後までしつこく言ってたな。
「ああ、でもずっとじゃないから内緒で頼むでござるよ。 ウチに居るからユキナも来るといいでござるよ」
「うん、どうせラリィちゃんの魔術練習があるから行くけど…… ラザノフ君の婚約者も紹介してね」
ラザノフはニカッとして頷いた。
「さあ…… これが地図で、ここがグラガマ連峰」
サッドン湖の近くにあるグラガマ連峰、海の近くなので船で行けば1日くらいか。
「魔獣は?」
「これが姿絵ね。 大きな個体だと2メートルを超えるし5〜10のハーレムを作っているわよ」
猪型の魔獣で2メートル超えか。
それだと300キロくらいの体重がありそうだ……
猪は小さな個体でも人間よりも強い。
ましてや2メートルって、ラザノフでも無理じゃね。
絶対に、ユーリスに手に負える魔獣ではない。
「何をして討伐の成功とするでござるか?」
「ラザノフ、無理だろ。 ラザノフだって勝てるの?」
ラザノフとの相性は悪い魔獣だ。
「大丈夫だ、リュウも居るしポンタも連れてく」
お〜い、人任せ〜っ。
まぁ、俺は相性のいい方の魔獣だ。
それと行きやすいのもいいか。
「ふふ、もちろんハーレムの解体だけど、群れのオスの討伐だけでも成功よ」
「湖の組合が依頼を出してるのはなんで?」
「薬の原料が湖と山にある木から取れるの。 取った原料をセットで加工して卸してるみたいだけど、チヌールがその木を荒らしちゃうみたい」
なるほどね。
「柵を突き破って入り込んだ個体だから大きいって言う話だよ、気をつけて」
結局この依頼を受けることにした。
俺だけで受けるなら割がいいけど、4人で受けたら割は悪い。
それでもユーリスのための討伐と思えばいいか……
終わったので今日は貴族街の家に戻る。
「じゃあね、ラザノフ」
「ちょっと待つでござるよ、リュウ」
何の用だ?
「ユーリス姫の武器がない。 だからリュウの切れ味鋭いかた……」
「絶対にヤダ! 俺の命の刀は大切に使ってきてるんだ。 刃こぼれしてもまともに怖くて修理出来ないよ、俺の腕じゃ。 そうなったらレイモンまで行ってソマルさんに修理してもらわなきゃいけない。 正直、命懸けだしキッツイ……」
「分かった、分かったでござるよ…… 変なこと言って済まん。 でもユーリス姫にも武器がないといけないな……」
買ってあげたいけどこのところの金の消費が多くて、ハッキリ言って俺の財布は極軽だ。
「好みを聞いて買うしかないね。 俺は忙しいし、ラザノフかポンタでやってよ」
ユーリスは無闇に出歩くの禁止中。
「そうでござるな。 ユーリス姫…… そう言えばユリアだった。 金も結構持ってきたらしいでござるよ、家賃を払うって言ってたし」
「まぁ、その辺はラザノフに任せるよ」
全く慣れないユリアと言う名前。
そのうち慣れるのか……
そのままサートゥランとミュランを迎えに行くと、恰幅の良い男の人、第二王子のカージナルが居た。
178センチほどで小太り、とても大柄に見えるけど俺と並ぶと5センチくらいの差がある。
学校は主席で卒業したようなので頭がいいのだろう。
ちなみにどの王子と仲良くするか? の派閥はある。
だけど結局は王様の独断で次の王を決める仕組みなので、どの貴族も殺伐とした雰囲気ではない。
俺は一応キャプトマン王子派ってことになっていて、先日のギルドの大会での優勝はキャプトマン王子にとってもアピールポイントにはなるが、それでも貴族の常識が全く効かない扱いづらい男と陰では言われてるようだ。
そしてこの第二王子が今は次の王様に最も近いと言われてる。
その第二王子が手に何か待ってこっちに来た。
「君が新しい剣術を教える男か。 ギルドの大会を怪我を押して優勝したらしいな」
初めて…… いや、パーティーには居たから顔は覚えてた。
手に持ってたのはフルーツ。
「フノウ・リュウと申します」
キャプトマン王子も寄ってくる。
「ムシャムシャ、ん、酸っぱいな、これ。 んん、この子は私の5番目の子、チチッパーだ。 再来年に世話になる」
見るとそっくりの体型の男の子が居た。
「お前が僕に教えるの?」
「先生な。 再来年に厳しく教えるぞ」
「な、何で敬語使わないの〜、パパ〜」
パパを見て言った。
「い、一応、王族だからな。 敬語を使おうか」
「子供には使いません。 ましてや上下関係が逆で教えても、馬鹿にしてやらなくなります。 俺は俺のやり方があるので」
額を押さえるキャプトマン王子……
「こ、このお兄ちゃんは怖いんだ。 な、相当な危ない人だから怒らすな」
失礼な……
「見学して行きますか? チチッパーも参加しても良いですよ」
「僕ここで何か食べてる〜」
「参加しないと再来年は地獄の毎日になるぞ」
「じゃ、じゃあ僕はケーキ持っていく」
ケーキは却下して連れて来た。
第二王子のカージナルもその後ろの付き人もオロオロするだけ。
俺の噂と実績、竜族の後ろ盾は上級貴族では盾はつけない。
稽古場でラリィを呼んで稽古を始める。
……が、最初の軽いジョギングでチチッパーは脱落。
「ハァ、ハァ、ハァ、やっぱり、ケーキ、持って、ハァ、くれ……」
「いいから行こう」
ラリィが戻って手を差し伸べてくれた。
すると…… うおおおぉ〜っとダッシュして1番で帰って来た。
「ハア、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、どうハア、ハァ、ハァ、ハァ」
ラリィを見て何か言ってたけど、ラリィも意味が分からなかったようだ。
誤魔化すようにラリィはニカっと笑った。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、やったハァ、ハァ、ハァ」
ラリィを気に入ったようだ。
サートゥランのライバル登場。
次の柔軟に体幹トレーニングは、チチッパーはまだ小さいからか、身体はとても柔らかくてラリィにアピールしてたけど、体幹はボロボロだった。
これが将来、俺以来の剣の天才と謳われる男の初稽古だ。
ただ、そのことを書く予定はない。
それから数日、先に船で向かったラザノフ達とは違い、俺とラリィは夜中に出て行けばいい。
早めに夕食を取って早めに就寝する。
「ルーク君の塗り薬があるから、生まれて初めて昼間に買い物したわ」
「それは良かったけど、クラルさんを護衛する人がほしくなるね」
「大丈夫よ、この辺は治安がいいし、リコが居るから誰も近づいて来ないわ」
まあ、人攫いなどは貴族街に入って来れないし、大元の貴族でも上位亜人を狙ってバレたら自分の家系が飛ぶ。
何より、リコの存在は大きい。
そんな夕食時の会話をしてから就寝。
夜中。
ラリィは影で寝かせて出発。
海沿いを登るように西側に向かう。
目的地までは300キロ弱、4時間を過ぎたら船を探そう。
ちなみに貴族街は基本的には飛べない。
どの国も貴族街で飛ぶと問題になる。
まぁ、フォルマップルでは飛んだけど。
3時間を過ぎた頃から俺達の船を探しながら来たけど、ようやく停泊してる船を発見。
だけど他の停泊してる船に人影がチラホラ見えた。 ……仕方ない。
離れた場所から海に潜ってジェットを使って近づく。
そして船の下まで来たら一気にジェットを使って飛び乗った。
「おおっ! な! 何だ…… リュウか」
ラザノフは驚き、ポンタは腰抜かしてる。 ……笑えるやつだ。
「着替えるわ、ユーリスは中?」
「ユリアでござるぞ。 ……ユリアは中でござる」
船室に入るとユリアはベッドで横になっていた、だけど起きている。
「リュウ…… ずぶ濡れ以外は予定通りなのかな……」
「ああ、もう始動する時間だよ」
船室にある服に着替えながら言った。
「あの人が居るとは思わなかったよ……」
ポンタのことだ。
「まぁ、フォルマップルで育ったんだ、性格も捻くれるさ。 だけど今はやり直そうとしてる。 だから少し待とうぜ」
「リュウだってキツい思いをしたのに…… でもやっぱりあの人のイヤらしい視線は嫌だな」
「アイツは根っからのスケベだからな。 ユーリスは格好の餌みたいなものだろう」
「ちょっとやめてくれる? それにユリアって呼んでよ」
ユリア、ユリア、ユリア、もう間違わない。
「その剣は買ってきてもらったの?」
「……そうね。 それは感謝するけどさぁ」
ポンタが買ってきたのか⁈
「さぁ、行こうぜ」
これからは馬車で行く。
船を停泊してる港から出る朝一の馬車に乗って1時間でサッドン湖に着いて、そこからは徒歩で山に入って行く。
この辺りは魔獣退治が終わるまでは立ち入り禁止となっていて、俺達はサッドン組合に寄って許可をもらってから入っている。
山に入って10分、コンコンっとラリィに合図する。
ニュ、っと顔を出すと初めて見る人はびっくりする。
「やっと出番だの?」
「頼むでござるよ、ラリィ」
バサァ〜っと飛び出すラリィ、俺はその後ろを飛ぶ。
ラリィの何度目かのソナーに引っかかったリコと同じくらいの魔獣が10匹くらい。
俺が確認すると……
チムール
猪型の魔獣で額にもツノがある。
黄色と黒のマダラ模様の毛並み。
ボスチムールが圧倒的に大きい。
それに子も居るので気が立って攻撃的になるかも。
バサァ〜っとラリィが俺に近寄る……
「お兄ちゃん、ラリィもう疲れた。 入っていい?」
「……うん。 ありがとな」
ラリィは影に入ったが……
この距離でボスチムールに気づかれた。
ずっとこっちを見るボスチムール、嫌な予感がする。
戻って報告。
「見つかったけど、ここから歩くと4時間はかかりそう。 その間にまた何処か行っちゃうからまた探して…… どうする?」
この人数じゃ、割が悪いし時間ばかりかかりそうな依頼だ。
「リュウ、悪いが運んでくれ」
「運ぶのはいいけど、ラザノフが1人で勝てるような魔獣じゃないよ」
「そんな強い魔獣でござるか?」
「3メートル、300キロクラスの大物。 山道でもユキナが50キロで走るって言ってたよ」
突進して噛みついて、しかも素早い。
ボスチヌールに関しては、とてもCランクの魔獣じゃない。
「リュウは? 勝てる?」
「俺は飛べるからね」
俺と兄とポンタはジェット持ちだけどそれぞれが違う。
ポンタは空に待避だけ。
兄は口から魔術で攻撃も出来るけど、容量不足で大した効果は期待できない、また多少の移動も出来るので逃げることも可能か⁈
俺は自由だ。
だからこそ空での訓練を怠ってない。
空での刀を待っての戦い、魔術を駆使しての戦い、空対地上の敵の場合も同じ。
シミュレートは昔からやってる初歩練習。
「分かった。 それならポンタから運ぼう。 少し離れたところで降ろすから、見つかって向かって来られたら上空に避難すればいい」
という事でポンタを運ぶ。
会話もなく着いて、不安そうなポンタは後に、飛ぶ。
そして急いでラザノフの元へ。
ラザノフを運ぶ…… 途中、ラザノフが話す。
「今回は拙者が鍵でござるな」
当たり。
俺はユリアのお守りがメインになる。
「なるべく魔術でアシストする」
今回、俺が出来るのは後方支援だけ。
ユリアを支援してラザノフを支援する。
だけど、決めるところは決めてくれないと大怪我するのは本人、それはユリアも含めて。
ポンタはまだ下に居る、つまり魔獣に襲われてない。
ラザノフも降ろしてユリアを迎えに行く。
ユリアは不安そうに待っていた。
「何かごめんね、リュウばっかり仕事させちゃって……」
「いいよ。 それより本番だ、気合い入れて行けよ」
ユリアは俺をジッと見て頷いた。
俺もユーリスを色々見て頷き返す。
「リュウ…… ふふ、エッチな視線だよぉ」
このポンタとの反応の違い……
良かった、ポンタじゃなくて。
「ごめん、名前を覚えるのに必要だったから」
「ん? 何で胸見て名前を覚えるの?」
「え〜と、髪の毛が長くて胸が大きいのがユーリスで、髪の毛が短くて胸がデッケェのがユリア」
「…………最低!」
この軽蔑の眼差し……
良かった、ポンタと同じで。
ユリアを連れて行くと、まだチヌールは来てないようだった。
ラザノフが話す。
「ラリィ、聞こえるかラリィ」
ニュ、っと影から顔を出すラリィ。
「ラリィ、魔獣が何処か行ったようでござる。 もう一度ソナーを使ってくれ」
「ラリィね、ちょっと頭が痛いから1回しか出来ないだの」
俺が知る限りソナーは5回使って調べている……
限界を超えたら大変だ。
「ラリィ、やらなくていいよ、休んでな」
「リュウ、魔力回復薬を飲めば問題ないでござるぞ」
「誰が? 子供に余計な薬は飲ませたくないよ。 俺が空から誘導するから皆んな走ってよ」
「そうね、私達は何もしてないから走りましょう」
流石にやる気があるな、ユリア。
上空高く上がって集中して見る。
すると群れなので直ぐに見つかった。
ラザノフ達とは100メートルも離れてない。
方向を指して移動させる。
走って登って何も考えずに進む一行、直ぐにチヌールに追いついて気づかれる。
コイツら…… 最悪だ。
登り坂でチヌールと対峙したラザノフ達。
チヌール相手でそこでまともに戦えるのはジェット持ちの俺だけ。
まぁ、ゆっくり行けの合図を決めてなかったとは言えラザノフはBランク、もう少し素早い指示と繊細な動きをしてほしかった。
もう俺はユリアを守るのを最優先するしかない。
ユリアの上で待機。
子供を守ろうとした母チヌールが1番先に動く!
向かった先はポンタ。
ポンタは充分引きつけて、得意魔術のコールドサイクス!
チヌール相手にはこの魔術はとても有効になる。
バンッ、と弾いてよろめいたチヌールにすかさずラザノフの槍が刺さる。
見事な連携、だけどボスがラザノフに突進する!
まともに突きに行けば吹っ飛ばされるのはラザノフの方だ、それが分かっているラザノフはちょこんと槍でいなす。
が…… いなされたボスがポンタに向かう!
避けようとしたポンタだが間に合わず……
ドカン! っとぶつかり、人形のように吹っ飛んだ。
降りてた俺はとりあえずユリアを木の上に退避させる。
その後もボス以外のチヌールからアタックされるポンタ、それを涙目で助けに入るラザノフ。
ボスはUターンしてラザノフに向かうがその姿に余裕がある。 ……油断している。
空から狙う!
ジェットを切って空中からボスチヌール目掛けて凄いスピードで迫る!
バスッとボスチヌールの首を捉えた刀だが、あのクラスの魔獣には浅いか⁈
そのまま坂道を転がるが、ジェットを使って上手く止まる。
ボスチヌールは首から血が噴き出たままラザノフに向かうが、勢いの削がれたボスチヌールにラザノフの槍が突き刺さる!
更に、追う俺の刀がボスチヌールの肛門に突き刺さると、ボスチヌールの後ろ脚が硬直してそのまま倒れた。
ボスチヌールが倒れて、パニックになって逃げるメスチヌールに子チヌール。
追おうとするラザノフを静止してポンタに高回復薬を飲ますよう指示した。
俺は木の上で泣いてるユリアを降ろす。
ポンタは足の大腿骨辺りが大きく抉れて血が噴き出ている、それに変な方向に曲がっている。
出血多量で死も覚悟しなきゃならない大怪我だ。
「ポンタ…… 済まん、拙者のせいだ……」
意識が戻らないポンタに謝罪するラザノフ。
「今はそんな事を言ってる場合じゃない。 出血が治まり次第に俺が背負って飛ぶ。 出来ればサンカルムに行きたいが……」
サンカルムは下町にもいくつか大きな病院があるし、貴族専門の病院だっていくつかある。
でも、3時間以上かかっては……
「リ、リンガルが近い。 リンガルが1番近い大きな都市よ、リュウ!」
そう言われても俺は知らない。
「明確な目印ってある? 迷ってる時間なんてないぞ」
「この山脈を越えればそう遠くないはずなの。 地図で見なかった?」
「そんなとこまで見てないよ。 まぁいい、高く飛んで注意して行くよ」
「お城がある街だから分かるはず、リュウ、助けて!」
俺が助けるんじゃないっての。
こうしてユリアの初討伐は終わった。
結果、ポンタは頭部外傷による一時的な記憶喪失、大腿骨の骨折によりしばらくの松葉杖の使用を余儀なくされる事となった。
ちなみに退院には2ヶ月かかる。
ユリアはこの討伐で何もしてない。
ただ現実を見ただけの討伐だった。
ラザノフは今回一番落ち込んだかもしれない。
船の魔力燃料の不安でポンタを誘ったけど、ユリアが居る以上(王族なので魔力量が多い)、ポンタは必要なかった。
少なくとも身分証が発行されるまでは誘うべきではなかった。
もし俺が平民のままだったら、ポンタは治療も受けられず死んでいたかもしれない。
それでも討伐は成功した。
成功報酬はポンタの治療費で大きく赤字となったけど、これが普通の冒険者の現実なのかもしれない。




