武闘大会 個人戦
第三章 フリーダム
第九十六話 「武闘大会 個人戦」
1回戦。
「さあ、ついに優勝候補同志の対戦です。 前回大会を制したアイスダン選手と最速最年少でA級まで上り詰めたリュウ選手。 この戦い、どう思いますか?」
リズーンの実況は流石にふざけてない。
って言うか、ナラサージュがふざけすぎだろ、パン屋呼んで解説させるなよ。
「僕はね、常日頃から思ってるんだ。 馬車のアシスト機能、あれを考えた人は天才だね。 おかげで魚の仕入れが凄く楽になったし新鮮だね」
「そ、そうですか〜。 それは楽しみな対戦ですね〜。 ……始まります」
……魚屋呼びやがった!
アイスダンと対峙する。
アイスダンの身長は192、3センチ、痩せ型だけど硬そうな筋肉を待つ。
使う武器は横幅の広い木刀、普段は大剣でも使っているのか。
対する俺は左の木刀だけ。
絶対零度対策で盾を使う予定。
試合が始まり様子見のアイスダン。
それならと、ウォーターカッターをアイスダンの長い首辺りを狙って放つ。
シャーっと横に広がりながらアイスダンに向かうウォーターカッター!
しゃがんで避けるアイスダンの肩辺りに一刀! バシッと当たり更にドカッと蹴り上げる。
吹っ飛ぶアイスダンに詰める俺。
しかし上手く体勢を立て直したアイスダンの口元が尖る。
ヒュウゥ〜、っと冷気を感じたので急いで土の盾を出す。
……キン、キンっと徐々に凍っていく土の盾! 俺は横に回るだろうアイスダンを狙う…… が、バリン! っと言う音とともに盾が破壊された!
更に勢いよく大木刀を振るアイスダン! 横っ飛びで避ける!
ブンっと足を掠めて流れる大木刀、が、またアイスダンの口元が尖る。
氷の盾!
……今度はキンキン音が鳴らない、元々凍っているからか。
ガンッと大木刀で氷の盾を破壊しようとするアイスダン、しかし絶対零度で強化された氷の盾は破壊出来ない。
それならと、氷の盾を飛び越えた俺!
一瞬、遅れたアイスダンの頭に、ー斬ー が、ギリギリ大木刀で受けられた。
ザッとそのままアイスダンの足元に着地した俺、バネのように柔らかく膝を使いながら勢いよくジャンプ!
ガシ〜ッと、アイスダンの顎下にまともに当たった頭突き!
フワッとアイスダンの体が浮き上がり、そのまま人形のように地面に堕ちた。
ピクリともしないアイスダン。
完勝!
「おおお〜っと、優勝候補同士の戦いはリュウ選手の圧勝! ……この男は強い!」
ワァーっと盛り上がる会場。
ここにもある、カメラが俺を追う。
近くの観客席の女達の喜びようが凄まじいな、っと思いながら軽く手を上げた。
その行為に反応する女達、何なの?
まぁいい、次の試合に備えて身体を休めよう。
控え室。
ガルフさんとサラノフさんとスエメルさんだけ……
「ガハハハ〜、リュウ君の試合は面白い! ゼブンとの試合を思い出したぞ」
心なし落ち込んでたガルフさんとサラノフさん、でも今は楽しそうだ。
「ラザノフ達はどうしたんですか?」
「女性達に捕まってるわよ。 パーティーに出席したのが良くなかったわね」
ラザノフは分かるけど、ルークは試合に出てないけど…… あっ、貴族チャンプだ。
ん、ユキナは?
まぁいい、未だに吐き気と動いたから脇腹がズキズキする、横になろう。
しばらくするとユキナが戻ってきた。
ちょっと怒ってるようだけど、横になってる俺には何も言わなかった。
「……ウ君、リュウ君、もう直ぐ試合だよ」
あ…… また寝てた…… 寝不足でもないのに……
もうラザノフも兄も居る。
さっきと同じように身体を動かす。
「次の相手はパラデス族ハーフで両手両足を硬化することが出来るスキルを持っているよ。 フォルマップル出身だから気をつけて」
フォルマップルだろうが試合ならどうにも出来ないはず……
「さあ、Dブロック二試合目は優勝候補のリュウ選手対アラザエル選手。 解説のチャオンさん、この試合をどう見ますか?」
「流通だったよね、問題は。 大会で人が集まるけど物がない、それではダメだからね。 だからアシスト馬車は凄いよね、考えた人は天才だよ。 そう思うでしょ?」
「そうですか〜、それは面白い試合になりそうですね〜、期待です」
お互い我が道を行ってるな……
アラザエルと対峙する。
175センチ前後の中肉中背。
武器は短い木刀を待つ。
亜人によく見る、顔の入墨のようなマダラが良く似合ってる。
試合が始まる。 ……すると話しかけてきた。
「しぶといやつだな、お前は。 さっさと死んじま……」
クルンと回り射程圏へ。
そして突き上げるように股間を突き上げる!
フングッ、っと鼻息が漏れたアラザエル、今度は目元がブレる。
ビシィ、っと決まった目元への攻撃。
アラザエルは前のめりに倒れた。
今回は少し手加減したから失明まではしないだろう。
ただ送られて来る刺客は覚悟しろ、俺はこのコースが得意だ。
「か、完勝です、チャオンさん!」
「す、凄い…… 天才だよ…… 考えた人は……」
俺のことではなさそうだ。
ワァーっと沸く観客達、カメラも必死に俺を追う。
それなら…… カメラに向かい軽く微笑んで親指を自分に向けた。
フォルマップルに向けての俺なりのメッセージ。
どんどん俺に刺客を送って来い! の意味。
控え室。
今回はユキナも居るけど、また兄とラザノフは会場。
次の試合を見てるのだろう。
「勝った?」
「見てなかったんだ…… 勝ったよ」
ハッ、としたユキナが包帯を取り替えてくれる。
結構深く抉られたのは、言い訳っぽいけど後ろにユキナとラザノフが居たから。
1人ならもう少しは軽傷だったと思う。
いや…… その後の爆破でぶつけたのが悪かったか⁈
「何か話してるように見えたが?」
ガルフさんの質問。
「何か喋り出したけど、聞く義理はないのでチャンスとさせてもらいました」
「プフフフ、怖い子ね。 でも味方だと心強いわ」
「ああ、全く躊躇いがない」
スエメルさんは…… 後ろで軽く微笑んでいるけどやっぱりラザノフが負けたショックを引きずってる。
「ユキナ、次の相手は?」
ドンっとラザノフがドアを開けて帰って来た。
「ユキナ、リュウの相手の不正が見つかったぞ」
ラザノフの報告。
アラザエルを担架で運ぶ時に、腕と足を持った人の手がザックリと切れた。
服をめくると両手両足に刃物を仕込んであった。
「汚い手を使ってくる。 リュウ、知ってたのか?」
「知るも何もアイツは仕込んだだけでしょ。 ただの時間の無駄ってだけ」
お喋りな自分を恨みなさい。
「ふふ、それでもフォルマップルの次回の枠が削られるし、不正をした人の国として何かしらのペナルティもあるかもね」
まぁ、ほぼ国からの指示だろうな。
ラリィさえ居なければ、フォルマップルに暗殺練習に行くのに。 ……残念。
ガタンと音がして見ると、兄が帰って来た。
「ふぅ、毎回疲れる…… リュウ、早く結婚してくれ」
「……はっ? 何、弟にプロポーズしてんの?」
気持ち悪い。
「ち、違うよ! 会場に行くと貴族の娘からリュウを紹介しろって、毎回帰って来れないくらいに来るんだよ」
「拙者も同じでござる。 昨日のパーティーが良くなかった」
「私にまで来るからさ、恋人か? とか。 違うって言うと紹介してって言うしさ」
「あんなカメラ目線でカッコつけるからいけないでござるよ」
そんな意味に思われちゃう訳ね。
「ふぅ〜。 ユキナ、次の相手は?」
「思いっきり流すのね。 まぁいいけど、次が最後だし。 次はメオン族ハーフ、やっぱりスキルを受け継いでいるよ。 スキルは擬態化、普通の人間は見えないわね」
またちょっと機嫌が悪いな……
俺が普通じゃないって言いたそうだし。
「リュウ、メオン族は覚えてるでござるよな」
覚えるも何も初耳だっちゅーの。
でも、知ってるフリをする。
「ああ、擬人化する」
「擬態化な。 何を擬人化するって話になるからな。 メオンは刺客で拙者が戦った種族でござるよ」
あ〜、アイツか。
ふ〜ん、それなら……
「さあ、本日最後の試合のCブロック、Dブロックの決勝。 注目はDブロックのリュウ選手対ナニーニ選手。 おおーっと、リュウ選手は何も武器を持っていません。 これでどう戦う気ですかね〜チャオンさん」
「結局、詰まるところスピードが命なんだ」
おっ、まともっぽい。
「スピードが上がれば鮮度も上がる。 そう言った意味でもアシスト馬車ね。 あれを考えた人は天才だよ〜」
「た、確かにリュウ選手はスピードも武器としております。 消える男にどう立ち向かうか、注目です」
それっぽくまとめたな。
って言うか、どんだけアシスト馬車を褒めるかな〜。
試合が始まる。
二、三歩下がって仕込んでいたウォーターカッターを両手から放つ!
シャーっと横に広がりながらナニーニに向かう!
2発放ったのはジャンプもしゃがむことも出来なくさせるため。
慌てたナニーニは姿を消すが……
ビュルル〜っとウォーターカッターが絡みつき、ナニーニを飛ばした(消えた意味ってありました?)。
追いかけて追撃のストレート。
顎先を狙ったストレートが綺麗に決まってナニーニは気を失った。
またもや完勝!
ナニーニの敗因は…… ってどうやったって負けないでしょ、気配も感じるし。
ワァーと言う歓声としつこいカメラ。
俺は俯き足早に会場を去った……
控え室。
今回は全員揃ってる。
「リュウ、勝ったでござるよな? 拙者達は貴族街のルーク殿が予約した店に先に行ってるでござるよ」
誰も見てなかったのか?
「何で、俺も一緒に行くよ」
「リュウ君、あんな俯いた表情は不味かったわね。 女性達が母性本能がくすぐられるって盛り上がっていたわよ」
サラノフさん…… 見てくれてたのか。
今日の教訓。
貴族女は何をやっても盛り上がる
ーフノウ・リュウー
「リュウはしばらくここに居てからこっそりと出た方がいい。 ルーク殿がリュウと一緒に来ると言うから拙者達は先に行くでござるよ」
あ〜、好きにしてください。
俺も少し身体を休めたい……
それから2時間、ブロック優勝のセレモニーも爆破で怪我してるからと出なかった。
ザワザワ聞こえてた音も今は聞こえない。
「リュウ、少しいいか?」
「うん。 もう行く?」
「いや、そうじゃなくてユキナさんのことだ」
ユキナ…… まさか…… 貴族街の宿屋に泊まれなくなったとか?
「どうしたの?」
「俺、ユキナさんに惚れたみたいだ」
え…… ポンタと三角関係じゃん。
「リュウはユキナさんをどう思う?」
「世話になってるからね、ネガティブな感情はないよ」
「そうじゃない…… まぁそうだよな…… じゃあ、告白してもいいよな」
何で俺に聞くのか?
「別にいいんじゃない。 ただ平民と貴族とかって別れ方はしないでくれる? 俺は平民、ユキナの味方だからね」
「ああ、もちろん。 ……付き合えたらだけど」
やっぱりユキナはモテる。
でも兄はフットワークが軽いな。
予約してる高級レストラン。
俺と兄が着くと、奥まった部屋に案内された。
そこに居たのはキャプトマン王子とトゥルフ王子、そしてガルフさんとラザノフだった。
それぞれの王子の護衛が後ろに立つ。
他の人は別の部屋で食事してるようだ。
「流石だな。 圧勝続きだ」
トゥルフ王子の言葉。
「怪我は大丈夫なのか?」
これはキャプトマン王子。
「あと2試合くらいは問題ないですよ」
傷口から中に何か入り込んだかも。
少し違和感のある突起がある。
「まあ、座ってくれ。 タムリーン、始めるように言ってくれ」
テーブルにはワインのようなお酒。
軽く飲んで待っててくれたか。
「先ずは報告だ、自爆攻撃で死んだ男2人の宿帳からリバティ国出身とあった。 だがリバティにそんな男は居ないと言う。 まあ、フォルマップルだろうがな」
死人に口なしか。
「道中は大丈夫だったのか、ルーク?」
ニヤついてトゥルフ王子が言った。
「怪我をしてるからと諦めてもらいましたが、納得はしてないようでしたね」
「フハハハ、そうか。 リュウ、リズーンから1人、嫁をとれ」
さっきまで付いてきた貴族女のことを言っていたのか、それにしても……
めんどくさ。
「すいません、まだ学生なので」
静香チンという嫁が居る僕。
「ルークこそどうだ? ナラサージュから」
キャプトマン王子が言った。
「いえ、若輩者の自分にはまだ…… やりたいこともあるので」
「だが嫁は4人は取ってくれよ、その魔力量は国の宝だ」
4人って…… 王子と同じじゃん。
「夢が叶って良かったね、ルーク。 ところで魔力量っていくつ?」
「夢にしてないし! って言うかお前はいくつあるんだよ」
「ほとんど忘れた。 でも風がマックスに火が24、でも闇は9しかなかったな」
マ、マックス!! っと誰かが叫んだ。
「凄いな…… あの技をコピー出来ない訳だ…… あ、俺は火と水と闇が16で他は全て17」
ザワッとする……
全部足してもらって良いですか?
まぁ俺も、ポルカ先生が平均すると17とか16だとか言ってたから同じくらいだろう。
「ラザノフ君、話を」
キャプトマン王子がラザノフに言う。
「リュウ、拙者が負けた男、旅の初めに会った盗賊、鬼族と白い男。 覚えてるでござるか?」
「もちろん。 遊ばれたからね、んで、どっちに負けたの?」
「リュウの相手の白い男だ」
なるほど…… それなら納得だ。
「何度か見たが上位亜人ではないはずだ。 ただラザノフが言うにはスキルが2つ以上あると言うのが本当なら、上位亜人かも知れん」
ガルフさんでも知らない? そんな事あるの。
「2つはあった。 スピードアップにパワーアップ。 もう1つあるはずでござるよな、リュウ」
ラザノフもある程度は善戦してたのか⁈
「ああ。 そうなると、次が不気味だな」
3つ目のスキルは要注意。
「どの道あの人には今度は負けない。 リベンジするよ」
「お前が負けたとか…… 信じられないな……」
(負けてない逃げただけ)そっと心の中で呟く。
ルークが言って、頷くガルフさんや王子達。
あれから2年、剣術の腕は上がっている。
同じ相手に何度も負けてたまるか!
……いや待て、逃げただけだ。
言い直すと……
同じ相手に何度も逃げてたまるか!
……これだと最悪の負け犬みたいだな、別にいいけど。
先に宿屋に戻って来た。
食事中も気になるくらいに痛んだ傷口、明日の朝に高回復薬を飲んでも治らなかった時は、サンカルムに戻ってから病院に行こう。
シャワー中に触っても異物っぽい固さがある。
それにしてもあの犯人…… 一瞬だけ目があったけど若かった。
俺より歳下……?
若いやつに自爆攻撃をさせるとは、本当にどうしようもない国フォルマップル。
……ラリィだけは守らなければ。
コンコンっとドアを叩く音。
今日の部屋は1人部屋にしてもらってる。
少し離れて『誰?』っと聞くと……
「ユキナ。 ……少し話があるの」
ドアを開けるとコーラン国で買った民族衣装を着たユキナが居た。
ラリィのような子供は可愛らしい衣装だけど、ユキナのような大人にはセクシー系の衣装に見える。
「どうかな…… スカート短いし、変?」
何気にスカートを見た時にトクンっという感覚が……
ありがたい、治るかもと思わせてくれた。
「めちゃ似合ってる、可愛い」
「え…… 本当? う、嬉し〜い、ありがとう。 少し外でいい?」
うん、っと付いて行く。
ユキナは10分くらい歩いたところで話し出した。
「さっきね、ルークさんから告白されちゃった」
フットワーク、軽すぎ!
ポンタなんて1年以上想いを言えずにいるのに……
「俺もさっきユキナに惚れてるって聞いたよ」
ユキナはジッと俺を見る。
「私ね、ずっとリュウ君が好きだった。 でも言えなくてさ、歳上だから。 ……ルークさんと付き合った方が良い?」
ユキナ…… さっき兄から気持ちを聞いて初めに思ったのは、俺の方が早く出会ったのに…… だった。
それでもこだわるほどの気持ちではなかったのだろう。
そして何より俺は静香チンという錘がとても重いのだ。
「付き合うのはユキナが決めてほしい」
「うん…… リュウ君は彼女居るもんね、ごめんね、変なこと言って」
サーラのことを言っている……
否定するか…… いや、どちらにしても俺は誰とも付き合うつもりはない。
ユーリスにさえ…… 俺のためにフォルマップルに乗り込もうとしたユーリスにさえ付き合わないと言ったのだから。
ユキナ、付き合うかはユキナ次第。
でも兄は俺が思う1番のいい男。
選んでも良いはずだよ。 ……でも言葉には出さないズルい僕。
大会2日目。
今日は準決勝に勝てば決勝、負ければ3位決定戦がある。
準決勝の相手はムジナさん。
娘がどうとか言ってたけど、2年前より強くなった俺を証明したい。
「セレモニーの時間よ」
大会の概要から始まって、今までの歴史に関係者紹介、そして最後に選手紹介となる。
ぶっちゃけ最後しか盛り上がらないから初めから『ムジナ、リュウ、ゼウス、もう1人』、これでいい。
所要時間5秒なので効率がいい。
「さあ、次はコーラン国出身の謎の男、ゼウス〜! 1回戦以外は圧勝で決勝トーナメントまで来ました。 今日はどうなるか〜」
……さっき目が合っても変わらぬ無表情の能面。
2年も前だし、数十分の出来事は覚えてなさそうだ。
「次は突如として現れた男、ナラサージュ貴族、フノウ・リュウ〜! 2年前のパーティー戦で活躍したリュウとは別人と言うことですが…… 大人の事情があるのでしょう。 完勝続きがいつまで続くか、注目だ〜」
大人の事情って言ったらダメでしょ。
まぁ…… それにしても女の声援が凄いな…… 俺が静香チンとも知らずに。
準決勝、ムジナ戦。
ムジナは180センチの筋肉質の痩せ型。
普通の木刀を待つ。
「俺より大きくなってないか?」
2年前…… いや、何処かの町で飯を奢ってもらったな……
「大きくなるのは背だけですよ」
??って顔したムジナさんだが、試合開始だ。
相変わらず獣人特有の鋭い踏み込みと、得意の足技を絡めて攻めるムジナさん。
前回より足技の鋭さが増しているように感じる。
だけど今の俺には余裕がある!
右上段から流れるように左中段への回転技。
受けたムジナさんが宙に浮くほど俺のパワーは増している。
そのまま押し込み、ー蓮撃ー
1セット目
ある程度は予想してたのか、始まったって感じで受けている。
そのまま6セット、受けに徹するムジナさんに仕掛ける。
ブッ、っと口から魔術のファイヤースネークをお腹目掛けて打つ!
一瞬、目を見開いたムジナさん、それでも何もしない選択をして蓮撃を受ける。
7セット目
この人の強さは根性があるところだ。 容量が少ないとは言え中級の魔術を喰らって何もなかったように蓮撃を受けている、強い人だ。
8セット目 更に口から魔術のウインドカッターを仕込む。
そして今回は受ける木刀を狙ってブッと吐く。
シュルル〜っと疾ったウインドカッター、見事にムジナさんの木刀を絡め取った。
ムジナさんの足をすくうような一刀で倒し、そして喉に木刀を押し当てた。
「ハァ、ハァ、ハァ…… 参った」
口から魔術のファイヤースネークで麻痺した感覚の後にウインドカッターで木刀を絡め取る。
少しは魔術の使い方が上手くなってるか⁈
「おおーっと、また圧勝の貴族リュウ! どうして貴族の武闘大会に出なかったのかは、大人の事情があったのでしょ〜う」
……余計なことを言うなっつうの。
とにかく、完勝!
控え室。
昨日よりは体調が良いし、決勝戦は午後からと時間的な余裕がある。
朝飲んだ高回復薬は効いてる感じじゃないけど、昨日よりは全然いい。
「早めのお昼ごはんにする?」
ジッと見つめて話すユキナ。
何か大切なものを俺は失うのだろうな……
「うん。 少し食べるよ」
ーーーーー
食後はボーッとしてる。
スエメルさんと目を輝かせて話すラザノフ、ガルフさん達も嬉しそうだ。
ユキナと話すルーク、ユキナの笑顔が楽しそう、きっと付き合うんだろう。
そんなユキナが何かに気がつきドアを開けた。
そこには、ムジナさんと娘さん? が居た。
部屋に入ってもらう。
何の用だろう?
「どうしてもさっきのお礼を言いたくてね。 おかげで3位になれた、ありがとう」
俺はあの時、蓮撃を止めてムジナさんを転ばす選択をした。
この人は根性があるので蓮撃の攻撃を耐えに耐えて倒れると思ったからだ。
少なくとも前回のパーティー戦ではそうだった。
選手として尊敬出来る人なので、ああいう選択をした。
「俺、強くなってました?」
これが答えになる。
「ああ。 だがパーティー戦ではまだ何とか出来ると思ってる。 2年後、面白い勝負をしよう」
頷くが……
2年後、俺だけじゃなくラザノフも強くなってるぞ。
「それはそうと私の2番目の娘のミコトだ。 剣術を教えてるから君に憧れててね。 ミコト、挨拶しなさい」
「ミ、ミコトです。 15歳です。 私は、一途ってよく言われます、キャー」
最後の意味がよく分からなかったけど猫顔の可愛い娘、ムジナさんが大切にしているのが分かる。
ムジナさんはパーティー戦で会おう、と言って部屋を出て行った。
さぁ。決勝だ。
決勝戦、相手は白い男。
「さあ、ついに決勝戦、予想通りの決勝になりました、チャオンさん」
「そうですね、初めからいいと決まっていたのですよ、アシスト機能は」
「やはり予想してましたか〜、流石です。 僕の喋りもアシストしてほし〜い、まもなく開始です」
集中力を削がれる実況だけど、大会の実況はこれが定番なのかも知れない。
だって前回だっ……
「ハハ、大きくなったな」
突然、話しかけてきた白い能面。
確かに前に戦った時は背が同じくらいだった。
「だが同じこと。 今回は逃げれないよ」
クッ、そこだけ忘れろ。
「そっちこそ今日は仲間は助けてくれないぜ」
目一杯に強がってみました。
「ハハ、本当にムカついたよ、蹴り殺そうかと思ったもん。 まぁ、止められたけどな」
もう直ぐ試合の合図……
「ゼウスだ……」
「……リュウ」
ゼウス 175センチの中肉中背。
武器は棒術で使う六尺棒のような武器。
特徴は額の3つの目と白い肌。
目はスキルを発動すると開く。
試合が始まる。
横に少し回りながら様子見をするゼウス。
それならとこちらから攻め立てる。
カン、カン、カン、と乾いた木のぶつかる音がする。
スピードは若干ゼウスが上、これは2年前と変わらない。
俺の成長で唯一あまり伸びてないのがスピード。
だけど瞬発力は上がってる。
激しい打ち合いでも俺の方がパワーも剣技も上、押している!
ー蓮撃ー
1セット目 額の左右の目がカッと開くが遅い、もう手遅れだ!
2セット目 反撃の隙を狙っているのが分かるが、それが出来ないように作った技なのだ。
3セット目 ウインドカッターを仕込むために魔力を集めてる時にそれはおきた。
カッと真ん中の最後の目が開いた、と思った時、俺の眼の魔法陣も開いた。
腹への激痛が脇腹にも広がる。
追うゼウスをウインドカッターで足止め出来たのはラッキーだった。
ふんっと腹に力を入れて立ち上がる。
絡まるウインドカッターを強引に抜けたゼウス、最後の真ん中の目からは血が流れてる…… もう少なくとも今は使えないはず。
さっきの場面、ゼウスは普通に蓮撃の受け体勢だったのに、もう六尺棒が俺の腹にめり込んでいた。
瞬間移動、これが最後のスキルか。
少しニヤついて右手を振りながら近づくゼウス。
右手は瞬間移動の時、身体が勝手に反応して左の柄の先で叩いてた。
まぁ、直ぐに吹っ飛ばされたけど。
もう一度、仕切り直し。
スピードはゼウス、パワーも若干ゼウス、でも互角なのは剣技が俺の方が上という証拠。
それでも互角、一進一退の攻防が続いたが、少しづつゼウスが有利な体勢が多くなる。
腹に力が入らないのだ……
ーー ーー
「ラザノフ君、リュウ君が……」
リュウの脇腹からの出血が多い。
元々、今回のリュウの動きは少し変だった。
実力差があるので楽勝ばかりだったのに、疲れて寝てばかりいた。
さっきも虚な目でボーっとしてたけど、そんな姿を見たのは初めてだ。
想像以上にあの脇腹の状態が悪いはず。
ーー ーー
何もしなくても限界は近い。
持って5分…… それならこの技に全てかける!
石飛礫を右手に仕込んで木刀を捨ててゼウスの顔に目掛けて発射。
いくつもの小さな石が狙うのはゼウスの4つの目!
ゼウスがしゃがんで避けるところに目一杯の左の一刀!
六尺棒で受けるゼウスだが、体が一瞬宙に浮く。
ブッ、っと至近距離で氷の矢をゼウスの顔面へ。
ゼウスが顔を窄めて避けた時、六尺棒は顔の上。 ……つまり、腹がガラ空き。
ー虎峰ー
スッパーンとゼウスが吹っ飛ぶが、ジェットで追う。
フラっと四つん這いで起きあがろうとした時に木刀を頭にあてがう。
胸を抑えて虚な目で見るゼウス。
「ハハ…… 参ったよ」
何とか勝った……
速いし訳の分からないスキルはあるし、めちゃくちゃタフだし絶対上位亜人だろ。
でも、勝った。
「勝負あった〜! 勝ったのはやはりリュウ! あっ、フノウ・リュウ! 大人の事情を忘れ……」
ーーーーー
目が覚めた時は病院のベッドだった。
あれから3日、病院の先生が言うには傷口から混入した錆びた鉄が内臓を傷つけ汚したらしい。
動けたこと自体が不思議だったらしい。
4日目、無事を確認したラザノフ達がサンカルムに帰る。
俺はひと月の入院。
5日目 貴族病院なので貴族娘に見つかる。
6日目、貴族娘がお見舞いに来だす。
8日目、収集がつかなくなり病室を個室にして面会謝絶とする。
残っててくれた兄も帰る。
9日目、感覚では治ったのでアレの練習をする。
アレとは瞬間移動だ。
瞬間移動。
ゼロからイチ以上の移動をする。
必要なのはあり得ないほどの瞬発力。
練習方法。
病院のベッドで寝ている俺に、看護婦さんが鼻の穴に髪の毛をちょこちょこと入れてくすぐる。
俺は限界まで我慢……
しかし…… 『ブァックション!!』とくしゃみをして、吹っ飛ぶタンや鼻水が病院の天井を突き抜けるくらいの勢いでビタンッとひっつく。
するとどうだ、くしゃみの瞬間、寝ていた自分が何もしてないのに5センチは宙に浮いたのだ。
恐るべき瞬間的な力、眠れる能力。
何の初動動作もなしに寝てる状態から宙に浮く、これを磨けば瞬間移動が出来る!
10日目、先生から回復具合が早いことを驚かれる。
11日目、先生から練習は自分の家でやってくれと注意される。
確かに天井が汚れまくってる。
13日目、退院日が明後日に決まる。
15日目、退院。
夜まで待って飛ぶ…… だけど途中で思いとどまった。
レミアに会いたい。
そして、約束のプレゼントを渡したい。
俺はいつも指輪を持ち歩いている。
盗まれるのが嫌だし、いつ自分が渡しに行こうと思うか分からないからだ。
幸い、退院が早かったので3日は探せる。
そう思った俺はレミアの森へと急いだ。
朝方に着いた小さな砂浜。
あの時の思い出が甦る。
水着姿の女神様、人生で出会った圧倒的一番の笑顔。
早く会いたいが……
俺は移動しない選択をした。
前回は動きまくったけど、レミアは自分の森なら気配を感じることが出来るので、この位置で待ってるのが一番。
だから待つけどやりたいこともある。
ハリケーンランに炎を纏わす。
これの練習は進めてるけど、まだ完璧には出来てないので練習する。
パチパチと焚き火の音がする。
魔術練習をして、その後に小屋を作ったけど、肝心のレミアの姿はない。
魔術練習の時に獲れた魚を焼く。
レミア…… もう貴族になったから俺はレミアの守り人にはなれなくなったよ。
自由ではなくなったのだ……
だから、必ず今回は会いたい。
2日目。
朝起きてもレミアの姿はなし。
海岸で魔術練習と久しぶりの素潜り。
動き回って20分なので、今回は動かないと何分だろうと思い、動かずにジッとしていた。
結果は正確には分からない、時計を待って来なかったからだ。
それでも体感的には35分。
とりあえず20分以上は確実だ。
魔術練習もする。
ゼウス戦で使った石飛礫。
避けられただけだったけど、威力もスピードもイマイチな魔術だ。
虎鉄改を送るのに使った名もない魔術を組み合わせる。
ハリケーンを細くして横向きにすることで虎鉄改を送ったが、虎鉄改の代わりに石飛礫を同時に出してみる。
結果、同時に出すのは無理だけど、細い横向きのハリケーンの後に速攻で石飛礫を出せば行ける。
また両手を使えば同時に出せる。
威力は散弾銃を少し弱くした感じ。
それでも充分な威力。
今日はこれで終わり。
レミアは現れず。
最終日。
もう待っていられない。
ひと目でいい、レミアの笑顔を見たい!
俺は思い出の場所を必死に探した。
レミアの気配があればそれを必死で追いかけた。 ……犯人はウサギとリスだった。
もう無理……
そう思ってトボトボと歩いた。
何故か涙が滲む…… もう会えないという絶望感、そんな時に奇跡がおきた。
遠くに気配…… 直ぐに駆け寄ると向こうも駆け寄って来た!
しかし…… レミアではなくお爺さんだった。
「小僧、こんなところで何をしてる?」
ちょっと口の悪い爺さんだ。
「別に。 もしかして迷った?」
「余計なお世話じゃ。 用もないならこんなところでウロチョロするな」
親切で言ったのに……
「そう。 それならサヨナラ」
「ふんっ。 ガキが! 紛らわしい」
俺は子供、年寄り、女、知り合いの男の順で大切にしてきた。
でもこれからは、子供、女、年寄り、知り合いの男の順にしよう。
それにしてもジジイとは言え、森をうろつくやつが居るならやっぱりレミアは危険だ。
もう一度会ったら完全な約束をして会うことにしよう。
例えば来年の夏に砂浜に必ず行く、みたいにすれば危険は少なく会えるだろう。
ただ、次回会うのが難しいんだよな……




