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転生 フリーダム  作者: 昨日シーサイドライン乗った
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 報復


     第二章  成り上がり


 第八十四話   「報復」

 

 


 その日の夕食、また珍しい肉の話題で盛り上がる。


 「この肉は前回と違う肉…… 淡白な味、ワニですね」


 少し美食家の気があるカラッチ様が、得意げに当てようとする。


 「いや…… これは私も分からないのですが、とても珍しい魔獣の肉です。 ある青年が狩って、分けてくれたものです」

 「ある青年……」


 私達はその青年がチャーチル様だと感じた。

 だってあの魔獣を持って帰っていたから。


 そして我が妹の得意げな顔……


 「来た時にも話しましたが、私達が魔獣が襲われた時に青年が助けてくれました。 ひょっとして同じ青年なのでは?」

 「そ、それはどうでしょう? この辺りは意外と青年が多いので……」


 質問の仕方が悪い。

 ドキッとするほどカッコいい青年なのでは?

 っと言えば、そうです、その青年です、としか答えられない。



 あ〜あ〜、ルイースとちょっと産まれてくる順番がズレてればな〜。 

 ……などとルイースを見ながら思っているとルイースと目が合った。


 私達は双子! 今考えてたことはルイースに分られちゃったな…… っと思ってるとルイースに変な顔で睨まれた。


 ふふ、やっぱりバレちゃった。


 ……しかし、この幸せの時間が一瞬で地獄の時間へと変わる。




 「失礼します。 今、玄関にルイースお嬢様のお兄様と言われる方がいらしたのですが…… お通ししてもよろしいでしょうか?」


 えっ! バッとルイースを見るとお互いに目が合った…… そして、絶望的な顔に変わる。


 「お兄様? どうぞ、お通し下さい」


 ベンゼッタ男爵が言った。


 ベンゼッタ男爵もカラッチ様も私達の事情は知らない。

 ただ、住んでいるところの家族に嫌がらせを受けていると、カラッチ様には伝えているだけ。



 何方の兄が来ても最悪でしかない。

 それに私はカラミージャに数日前に来て、直ぐに帰る予定なのに…… やっぱり私は最悪の運の持ち主。


 現れたのはカウキ、何食わぬ顔で皆に挨拶しているが、部屋に入って来てルイースを見つけた時の顔は蛇のようでゾッとした……


 ハッ、でもこの家には部屋がない!


 しかし……


 「私は師団に副長となり、ひと月の休暇をもらったが此処に来るのに半分を使ってしまった。 僅か2日の妹達に会える滞在、出来れば妹達と同じ部屋がいいんだが……」


 この言葉に泣きそうになる…… が。


 「カウキお兄様、無理を言わないでください。 ベッドも1つしかない部屋で数年ぶりに会ったカウキお兄様と一緒の部屋は、私達が嫌なのです」


 ルイース…… はっきりと断ってくれてありがとう。


 「フンッ、ルイース、まだ其方はそういう態度を取るのか。 まあいい、それなら何処か部屋を用意してくれ」

 「いや、すいません。 もう部屋はなく、ベーゼさんなどは物置きに布団を履いて泊まってもらっている有り様で……」


 ギロッと、カウキがベンゼッタ男爵を睨む。


 「これだけ頼んでも出来ないと申すのか? 私は師団の副長でもあるんだぞ!」


 フォルマップルはクズほど出世する国……

 早くルイースをリバティに連れて行かなきゃ……


 ベンゼッタ男爵は階級を気にしたのか、諦めた顔で子供達の部屋を明け渡した。


 その後、誰もが不穏な空間に違和感を感じたのかも知れない。

 口数少なく各自の部屋へ戻った。



 私達も部屋に入り、しっかりと鍵をかけた。

 この2階の部屋には小さな窓しかなく、窓の外は何もないので窓から入られる心配はない。


 「シリーン、アイツは2日だけと言っていた。 絶対に単独行動はしないで鍵をしっかりかけて乗り切ろう!」


 何方がお姉さんか分からなくなる……


 「うん…… ねぇ、あの人に助けてもらうのは?」


 チャーチル様なら……


 「昨日も言ったけどリュウはフォルマップルでは罪人なの。 だから名前を変えてるし、なるべく目立たないようにしてる。 カウキを倒してもカウキが生きてるうちは危険がつきまとう。 それは私だけじゃなく、ベンゼッタ様家族やシリーンにまで及ぶかも知れない」


 フォルマップル国での罪人幇助…… 絶望的な状況……


 その時、ドンドン、『開けろ』、ドンドン、『開けろ!』っとカウキの声が……


 あたふたする私……


 だけどルイースは……


 「カウキお兄様、今日はシリーンの体調が非常に悪く、お話し出来る体調ではありません。 明日の昼間に皆さんでお話ししましょう」


 やっぱりルイースは優秀だ。

 複雑ではあるけど、それでも嬉しさが多い。


 「お前、お前がどういう態度でいるか分かってるのか? せっかく何日も馬で走って来たのにふざけるな!」


 その時、心の底から嬉しくなる声が聞こえた。


 「おやおや、どうなされたのですかな? シリーン、どうした?」


 カラッチ様! ……良かった、っと鍵を開けようとした時に、ルイースに腕を掴まれた。


 「シリーンは体調が悪く、横になっております。 明日には良くなると思いますので、カラッチ様もカウキお兄様も、お戻りになってくださいませ」

 「そ、そうか、大丈夫なのか?」

 「はい、明日には良くなると思います」


 こうしてカウキが現れた1日目はルイースの機転が利いたが、ドア越しにも分かるカウキの怒りが私には怖くて堪らなかった。


 夜中、目を覚ました私の耳に、ルイースの啜り泣く声が聞こえた……



 次の日、昨日と同じように子供達と動く私とルイース。

 その様子を遠くから不気味な視線で見るカウキ。

 

 それはベンゼッタ男爵とカラッチ様が見えない位置にいる時に起きた。


 いつの間にか近くまで来ていたカウキ、ルイースに話しかける。


 「ルイース、まさかあんなジジィのもとに本気で嫁ぐつもりじゃないよな?」

 「本気ですよ、カウキお兄様」

 「ふざけるな! お前は俺がもらってやる。 さっさと支度してこんな田舎は出るぞ」

 「お兄様…… 私達は兄弟ですよ」


 カウキは完全にルイースに執着している。

 一緒に居る私なんか見もしない。


 「父が同じだけだ。 亜人や獣人との結婚より現実的だ」


 不穏な空気に気づいて、ハミルがさりげなく去った。


 「私が貴方と一緒に居たいとお思いで?」

 「クッ、母親のことなら気にするな」


 全く自分が嫌われているとは思ってない……


 此処でベンゼッタ男爵とカラッチ様がハミルと話しながら現れた。

 ナイス、ハミル!


 「今日はカウキ副長に珍しい肉をお出ししましょう」


 話題をガラッと変えて登場したベンゼッタ男爵。

 私達とカウキに"何か"あるのは、此処に居る人は気づいている。


 「そうか。 ……昨日は夕食後に戻ると言ったが、夜中に戻ることにするぞ」

 「そうですか、そのように準備しましょう」


 カウキの滞在が伸びたけど僅か数時間……


 乗り切れる! その時の私はそう思ったのだ……



 夕食後はさりげなくカラッチ様やハミル達と話しながら、自分達の部屋まで誘導。

 そして、サッと部屋に入り鍵をロック。


 これで鍵さえ開けなければ乗り切れる!



 ホッとした気持ちで私はチャーチル様の話を聞いた。

 ルイースから聞いたのは、チャーチル様がレイモンという裏の世界から海を渡って来たこと、レイモンでの初恋や生活。

 リーブルに着いてからも凄いエピソード。

 にわかには信じがたいけど、私は実際にあの方に命を救われてる。

 だいたいあの魔獣を1人で倒せる人って…… 戦闘系のスキルが多い上位亜人でも難しいのでは⁈



 チャーチル様のことを1番詳しく知ってるのは、『本人公認で私だよ』っと言ったルイースの美しさは、姉の私が見てもドキッとした。


 ただし女関係のことは、『ルイースには話したくない』と言われて、リーブルでの女関係は知らないらしい。


 ……っと言っても、大会で怪しい雰囲気の女は居たらしい。

 ルイースがそう思ったのは、メガネをかけた可愛らしいゴールタールの子とめちゃ美しいナラサージュのお姫様。

 『それはあり得ないよ』っと私は言ったけど、何と言ってもあのチャーチル様。

 お姫様が好きになってもおかしくない。


 でも…… チャーチル様にその事を聞いても応えてくれないらしい。


 それはチャーチル様がルイースを好きだからでは? っと言ったけど、ルイースは……


 「凄く優しい人だから……」


 っと、泣きそうな顔で応えてくれた。


 それでも私は羨ましい!



 久しぶりにそんな楽しい話をした夜中、私達に地獄が始まる。


 トントンっと優しくドアを叩く音。


 私達は一瞬、カウキ! っと思ったけど、アイツが優しくドアを叩くはずがない。


 カラッチ様……?


 ドアの前でルイースが対応する。


 「はい……」

 「ルイース、カラッチを助けたいなら一緒に来い」


 多分、ルイースより私の心臓が高鳴った。

 その理由は何日も同じ馬車で旅をしていたから、情がわいている。


 「な、何を言っているのですか?」

 「窓から牧舎の入り口を見ろ。 ……誰にも気づかれないように来い」


 ダッと窓から牧舎の方を見ると……


 横たわるカラッチ様の足が見えた…… 縛られてる⁈


 「カ、カラッチ様……」




 ールイース視点ー


 シリーンは絶望感を隠せない。


 「シリーン、カウキの狙いは私。 シリーンは此処で待っていて」

 「ダ、ダメよ、ルイース。 ベンゼッタ男爵に相談しよう」

 「直ぐに行かないとカラッチ様がどうなるか分からない。 様子を見てカラッチ様を助けよう。 それからベンゼッタ様に助けを求めよう」


 正直、ベンゼッタ様を巻き込みたくない。

 その理由は子供達、特にハミル。


 確かにカウキより、鍛えてるベンゼッタ様の方が強いだろう。

 でも、子供達を人質に取られたら……



 私達は静かに玄関を出て牧舎の方へ。

 作戦を立てる時間などなかったけど、とにかく隙を見てカラッチ様を助ける。



 カウキはカラッチ様の前に仁王立ちで待っていた。

 その手には鉄の棒が握られてる。


 カラッチ様は殴られた跡はあるが目は開いている。

 ただ、口を塞がれて、動けないよう縛られている。


 「カウキお兄様、他国の貴族に対してその狼藉は、軍を解雇させられるかも知れませんよ」

 「普通はな。 だが、この国はフォルマップルだ。 ……いいからこっちへ来い」

 「私が貴方のもとに行くことはない! いいからカラッチ様を放しなさい!」


 リュウ…… 私に勇気をください。


 「ガハハ、やっぱり痛い目に遭わなきゃ素直になれないか」


 そう言って私に勢いよく近づいたカウキは、鉄の重そうな棒で私の足を力一杯に叩いた。


 気が遠くなるほどの痛みに絶叫するが、カウキに口を塞がれる。


 リュウ……


 馬乗りになられて、左目の辺りを思い切って殴られた。

 ガツ〜ンという感覚とゴリッとした嫌な感覚があった。

 

 これじゃ、会えない…… リュウ……


 その後も、ゴツッ、ゴツッ、っと殴られる。

 唇辺りが切れて、前歯が折れたのを感じた。


 リュウに会えないのは…… ヤダよ……


 しかし、突然カウキが何かを叫び立ち上がった。


 向かった先にはカラッチ様に縛られた紐を解こうとするシリーンが……


 左目が見えない……


 勢いよくシリーンのお腹辺りを蹴ったカウキ、この男は女の子の身体を何だと思っているのだろう……

 とにかく逃げなきゃ、っと思っても立てない⁈


 またカウキに馬乗りになられて、首を絞められる。


 リュウ…… 何もなかった私の世界で強く光続けた人……

 あの日、初めて貴方を見た時のこと、私は一生忘れない。

 竜族の人と話しながら階段を降りてきたリュウ…… ふふ、貴方に魅せられたのは私だけじゃなかったけど……



 ググっと服を剥がされそうになった時に、ハッと気づき、自分でも驚くほどの大きな声が出た。


 「私は貴方のものじゃないぃぃ!」


 そう…… 私はリュウのものだった……

 でも…… この姿じゃ、会えない……


 ドカッ、ドカッ、っと何処かを蹴られるが、もう痛みを感じ……


 「止めろ〜!!」


 一瞬、リュウと思ったけど……

 ぼやけて見える姿と声からベンゼッタ様と分かった。


 「それ以上やるなら私が許さん!」

 「クッ、下級貴族が剣を構えて何をする? まさか俺に向けてるわけじゃないよな!」

 「他国の貴族に対しての狼藉、何より私が預かったお嬢様への暴力は私が許さん! 来い!」


 本気のベンゼッタ様。

 でも、この国ではどうなるか分からない。


 「クソッ! 自分より上級に対してのその態度、覚悟しておけ!」


 そう言ってカウキは馬で走り去る。



 「シマン、高回復薬を!」


 ベンゼッタ様が慌てた様子でお手伝いさんに言った。

 そしてハミルとコートニーも一緒に薬を持ってきた……

 


 リュウ…… 今、決心したよ。

 私の怪我は完全には戻らない。

 だから、リュウには一番綺麗な姿だった、あの日々の私を思いだしてほしい。

 そして直ぐにナラサージュに帰って、この状況を打破してほしい…… ごめんね、あの時に戻してあげられなくて……




 私達の部屋まで連れられて、私はベッドに寝せられた。


 高回復薬が効いているのが分かる……


 「わ、私は大丈夫です」


 回復薬を飲むことを拒否したシリーンが続ける。


 「カウキお兄…… あの男はどうするつもりですか?」 

 「きっと町に行って自警団を数人連れて来る、もしくは数人の男を金で雇って来るつもりでしょう」


 絶望感がまた募る……


 「ルイースは?」


 ベンゼッタ様が私の左目を開き、覗き込む。


 「左目は分かりません、後で医者に見せましょう。 脚は…… 立てますか、ルイースお嬢様」


 立ち上がろうとすると激痛が疾る。 ……けど、立つことは出来た。


 「顔もまだ腫れていますが、時間が経てば治ると思います」


 それより今はあの男のことだ。


 「ベンゼッタ様、助けていただきありがとうございました。 でも、あの男は戻って来る…… どうしましょう?」

 「大丈夫、私が命をかけて、お守りします」


 ベンゼッタ様は強い。

 だけど、家族や私達全てを守るのは……


 「旦那様、ハミルちゃんとコートニー君が……」


 その言葉に急いで窓の外を覗くベンゼッタ様。


 「だ、大丈夫…… むしろ人質にされる可能性だってある。 あそこなら安全だ……」


 ハミルとコートニーはリュウのところに行った……?


 『それは何処ですか』というシリーンの質問にはベンゼッタ様は応えなかった……



 ーーーーー



 風の強い日、これじゃ仕事はないな……


 そう思っていると案の定、バットさんが海老を持って中止を伝えに来てくれた。


 ちなみに海老はバットさんが持って帰った。

 何で持ってきたの?


 暇だから寝ようかな、っと思っている時にドアが叩かれ、ハミルとコートニーが入って来た。

 この時間に慌てた様子の2人……


 何があったんだ……



 ーーーーー


 

 ハミルとコートニーに全てを聞いた時、俺は吐き気を覚えるような怒りと、自分への情けなさに震えた。


 自分の女が襲われているのに助けてやれないなんて……


 「怪我の具合は?」

 「目と足が凄く痛がってた!」


 興奮してコートニーが言う。


 「って言うか、お前達はベンゼッタさんにちゃんと言って来たの?」

 「あ、いえ…… でも窓から見るお父様と目が合いました」

 

 答えになってる?

 でも、俺は2人と仲がいい、だからベンゼッタさんも察するはず。


 「それで2人は俺に何をしてほしいの?」


 馬なら直ぐに追いつく。


 「父様達が、あの人が味方を連れてまた来るって。 だからユーキ兄ちゃん、待ち伏せして倒して!」


 待ち伏せ……


 「それだとアイツが生きてる限りベンゼッタさんの立場がマズい。 ……もし今、ソイツが町に着く前に盗賊に遭ってボコボコにされた場合、誰も疑られない」

 「で、でも、あの人は馬で……」

 「大丈夫、俺を信じろ」


 タオルを頭に巻いて、顔にもタオルを巻いた。

 これで目しか見えない。


 「これで俺だと思わないだろ」

 「……ユーキ兄ちゃん」

 「……ユーキお兄様。 だってユーキお兄様の目は特徴があるから……」

 「く、暗闇なら行けるでしょ。 とにかく2人は鍵をかけて待っててくれ」


 っと言った感じで走って舟のところまで来て、そこからジェットでかなりの上空へ。


 「ウオォォォ!!」


  大声で叫んだ。


 気が狂いそうなくらいの怒り。

 子供達じゃなければ当たり散らしてたかも知れないほどの怒り。


 ただじゃ殺さない……


 

 たかが1時間程度前の馬での移動、行き先も見当がつく、そしてこの時間が目印となる。


 湖が一望出来るほどの高さ、この目を凝らして見れば動いてる灯りくらいは分かる。

 

 見渡すと右斜め上に動いてる光、そのずっと先に街明かり、他に怪しい動きはない。


 ほぼ確定であの灯り!


 ジェットで下りながら一直線に追う。

 ジェットのスピードと馬のスピードにそれほどのスピード差はなくても、最短距離で常時スピードマックスで飛べるジェットは、馬とは比べ物にならないくらい速い。


 15分も掛からずにターゲットを捕捉。


 やっぱりあの男……


 

 気づかれないように後ろからジェットで近づいて、馬の後ろ脚をすくうように一振り!

 ガッと脚がすくわれ、馬は転倒、男も馬から投げ出される。


 何が起きたか分からないと言った感じで倒れてる男に歩いて近づく。


 「盗賊で〜す。 さっさと金を出せ!」


 まだこの状況を理解中のクズ男。


 「なっ、俺はこの国の師団の副長だぞ!」

 「だから? おい、全額置いてけば許してやる。 ……断る場合はお前の未来は笑えるぞ」


 クズ男が準備出来るよう、ゆっくりと歩く。


 リュック型の入れ物から鉄の棒を取り出したクズ男、これで君の未来は笑える。


 「はっ、木刀? チッ、どいつもこいつも舐めやがって…… お前は殺す!」


 不用意に近づくと、鉄の棒を振り下ろすクズ男!


 右の木刀で流しながら左に周り、左の木刀を振り下ろす!

 これはラプトルとの戦いで使った技。

 よりスムーズに出せているが、まともには当てない。


 耳を掠めるように当て、耳を引きちぎる。


 『痛え』っと鉄の棒を離して耳を押さえる男。

 人に痛みを与えるのは得意でも、与えられるのはとても苦手そうだ。


 カチ上げるように男の股間の玉を掠めるように破壊する!


 『グッギャ〜ア〜!』 っと、なかなかの声音の悲鳴、中腰で股間を押さえる男の手をなぶるように何回も打つ。


 「痛い、痛い、嫌、止めて」


 っと、言うクズオ。


 肩や腕と違って指は痛い。

 特に親指は神経がいっぱい通っているのでクソ痛いのだ。

 その親指をしつこく狙う。


 それでも男の嵯峨なのか、股間を泣きながら守るクズオ。


 「止めてほしい?」


 ちょっとヒントを与えよう。


 「や、止めろ〜」

 「お前、小便漏らして汚ねぇよ。 ……俺はな、フォルマップルに凄く恨みがあるんだ。 特に貴族」

 「カ、カネはやるからぁ」


 こんなのに俺のルイースが暴力を振るわれた。


 ……笑える未来は近いぞ。



 「お前、言葉使いが悪いな…… 俺は平民だぞ」


 っと言って、ビッシィ〜っと手をカチ上げた。


 「イタアアア!!」


 大絶叫だけど、この田舎の道には人は居ません。


 「んで? 何?」

 「こ、こ、こ、こめんまさい。 た、助けて、助けてくだはい」

 「ヤダ」


 本命の、股間の伸び縮み自由な棒を…… 真っ二つに裂くように、ー斬ー ぶった斬る。


 あ…… っと小さく呟き、死を覚悟した目になったクズオの目元に横一線!


 一瞬だけ両目の眼球が横にズレて、ピピピッと血が横に吹き飛んだ。


 今度は呻きも悲鳴も上げるでもなく、ザッと膝を地面につけ、そのまま顔から地面に倒れた。


 ルイースは足もやられたって言ってたな……


 

 仰向けにして、ベンゼッタさんからもらった最後の高回復薬を口の中に放り込む、そして思いっきり膝の皿を破壊! 


 15分ほど様子を見る。

 

 

 男は生きている。


 目は…… 多分、両目失明。

 膝は…… 松葉杖確定。

 耳は…… 変な形になっただけ。

 手は…… ドラえもんの手。

 おチンは…… 確認したくない。


 これはフォルマップル国への俺なりの挑発。


 見る人が見れば、ヤスザキと同じようなやられかたをしてるのに気づくはず。

 しかも、ヒントも散りばめた。



 さぁ、ここからが得意じゃない。


 盗賊を気取っているので奴のリュックから金を取る…… 900トアちょっとと、なかなかの金額。


 そしてクズオを背負い、町の近くへ飛ぶ。


 町の近くの街道で下ろし、虎鉄改を仕込む……


 そして出来た虎鉄改を遠くに投げて、アイス何とかをぶつけて爆発させる。


 ドッカーン! っと結構な大音量の爆発。


 そして木の影で隠れて待つこと20分。


 大きな音を聞きつけてゾロゾロと現れた町人の1人がクズオを発見……

 その町人がクズオを脈を調べてるのを確認。



 これでクズオは死なないだろう。

 奴の発言権も軍の除隊で多分なくなる。


 その後のクズオの人生は、楽しいものではないはずだ。




 途中、湖に奴から奪った金を上空からばら撒いた。

 下から見れば、またこの星に近づいて来てる月をバックになかなかの絵になるはず…… でも、俺の気分は最悪だ。

 


 帰って来たのは5時過ぎ、なんだかんだで時間がかかった。


 家に着くとハミルとコートニーは寝ていた……

 俺も眠いので少しだけ寝る……



 「……兄ちゃん、ユーキ兄ちゃん」


 コートニー? 

 そうか、夢じゃなかったんだな……


 「ユーキお兄様、あの人は?」


 少し前に起きたのか、眠そうな顔でハミルが聞いてくる。


 「大丈夫、アイツが現れることはない。 多分、奴はしばらく病院のベッドだろう」

 「ほ、本当?」

 「ああ、ここからが大切だ。 奴は必ず軍をクビにさせられて権力を失う。 でも、今は奴の言葉が届くかも知れない。 だから昨日は何も起こらずに奴は去ったことにした方がいい。 皆んなに都合のいいシナリオを作るんだ。 そうすればお父さんの無礼もなかったことに出来る」


 奴は1人の物取りに無様にやられた。

 そして、1人で何も出来ない奴に権力を与える国じゃないのが、フォルマップル。


 「そ、そうすればお父様は許されるの?」

 「ああ、そもそも調べも来ないかもしれないけど、一応、口裏は合わせておいた方がいい」


 コクンっと頷くハミルとコートニー。


 「お父さんには、奴は盗賊に襲われて瀕死の重体になったのを見た人が居た、とでも言えばいい。 とにかく奴は、放っておけば死ぬくらいには痛めつけた。 だけど、それを知るのはこの3人だけ、だから3人の秘密な」


 コートニーは目を爛々と輝かせて頷く……

 ハミルは…… ポ〜っとしてる……



 途中まで2人を送って行く。

 あまり上までは行けないな…… っと思っていると、ベンゼッタさんが上から降りて来た。


 「じゃあな、ハミル、コートニー」


 うん、っと走り出す2人。

 俺はベンゼッタさんと話すことなく戻った……


 



 私達は守られやすいように、一番大きなベンゼッタ様の部屋で全員が集まっていた。


 もう10時近い…… 最短で早朝には戻れるカウキが、まだ戻って来ない。

 人集めに苦労しているのだろう…… っと思っている時に子供達が帰って来て、新しい情報を持っていると言うので皆で集まった。


 ハミルとコートニーが何処に行っていたかは私やベンゼッタ様の家の方なら分かる。

 そう、リュウの家だ。


 長い昼休みにユーキお兄様の家に行きたいと言うので、何回かリュウの家で皆んなで昼食を食べた。


 きっとカウキとカウキが雇った人は、リュウに倒されたのだろう。

 でも…… リュウはもう、カラミージャに居れなくなり、ベンゼッタ様は罪に問われるだろう。

 これがフォルマップル国の現実……

 その現実をベンゼッタ様も知っている、だから血の気が引いた顔をしているのだろう。


 ハミルが立ち上がり、ハキハキと話す。


 「あの人は盗賊に遭って殺されかけたそうです。 その情報は信頼できる私達の友達、ナカユキ様から聞きました」


 ナカユキ…… 最初の方にリュウがちょこっとだけ使ってた偽名、あの頃に帰ってナカユキと恋がしたい……


 「こちらに来る時ですか? それとも町に向かっている時ですか?」


 カラッチ様が言った。


 そう、ここが重要だ。

 町に向かう時ならカウキはベンゼッタ様の狼藉を誰にも話してない。

 でも、ここに向かう時なら喋った後だ。


 「町に向かっている時です」

 「それはハミル、おかしい」


 ベンゼッタ様が言った……



 そう…… ベンゼッタ様がおかしいと言う理由は1つ。

 リュウが飛べるのを知らないから。


 いくらリュウの足が速くても、1時間の時間差で馬に追いつくはずがない。 

 ……飛ばなければ。



 「お父様、私を信じられませんか? ふふ、私はナカユキ様を信じていますよ、うふふ


 ベンゼッタ様の複雑な心情が顔に出てる……

 私だって複雑だ…… だってハミルの初恋の相手はリュウってハミルの顔に書いてあるのだから。

 本当に12歳とは思えないほど魅力的な笑顔だった……


 「そ、そうか…… それで、そのユーキ…… ナカユキ君は他に何か言ってたか?」

 「あの人は軍をクビになり発言権を失う。 だから皆んなに都合のいいシナリオを作れ、だそうです」

 「そ、そんなに酷い状態なのか……」


 リュウは優しく、そして怖い。

 ヤスザキやゲイルから見れば、きっとリュウにトラウマレベルの恐怖を持っていると思う。


 「と、とにかく悪いことをしたらバチが当たる。 まさかこんな展開になるなんて……」


 カラッチ様が言った。 ……でも、私はハミル達がリュウの側に行ったことで、もしかしたらとは思っていた。


 私のために怒ってくれた……


 「ルイース、今回のことは私のために痛い思いをさせて申し訳なかった。 もし、そのナカユキ君の言うことが本当でも、いつまでも病院に入院してるわけではない。 退院した時、あの男はまたここに来る…… ルイース、今度は必ず私が守る、酪農の仕事もしなくて良い…… だから…… この国を私とシリーンと抜けよう」


 これで私の夢のような生活は終わり。


 早くなっちゃったけど、前歯は抜けて眼帯をしている私をリュウに見せないで済む……

 そして、リュウにはもっと大きな世界で自由に生きてほしい、きっとリュウならいつかは叶うはず。


 「も、もう少し考えさせてくださいぃ〜」


 何故……? 分かりました、と言おうとしたのに……

 制御の効かない涙に、私は取り乱して泣いた。



 ーーーーー


 

 部屋まで戻ってきたシリーンが心配そうに覗き込む、そして……


 「ルイース、リュウ様と生きて…… わ、私は貴方に会えなくなっても、だ、大丈夫」

 「シリーン、“リュウの輝ける未来”に、私じゃ導いてあげられない。 初めから分かっていたことなの……」


 だから、1年だけと制約を付けた。 

 でも、半分になって良かったかもね……


 「でも、皆んながそれを望んでいるわ」


 さっき、取り乱して泣いたルイース。

 そして、ベンゼッタ男爵一家も皆、泣いていた……

 カラッチ様だけは、僅か数ヶ月でこんなにもこの家族に溶け込んでいたなんて…… と、見当違いのことを言ってたけど……


 「この情けない姿をリュウに見られたくない。 笑った時なんて…… うぅぅ…… 凄く間抜けだよ……」


 ルイースは笑ってない。

 ただ、鏡の前で色々な顔をしている……

 会えないと言っても、会った時に綺麗に見える表情を探しているのだ。


 「ごめん、シリーン。 私はもう決心したんだ。 リュウにもらった強さだよ。 ……でも、シリーンに手紙を届けてほしい…… リュウへの……」

 「……いいの?」

 「うん、最後はかっこよく去るよ。 あの人の恋人だったんだもん、私は……」

 「そう…… じゃあ、ゆっくり手紙を書いて」



 その後、私達は少しルイースが良くなるまで滞在を延ばした。


 そして明日、9月の半ば。


 私達姉妹とカラッチ様は、リバティ国へ向かう。

 

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