姉妹の絆
第二章 「成り上がり」
第八十三話 「姉妹の絆」
コトコトと馬車が走る音……
私達は船を乗り継ぎ、馬車で何日もかけてようやくカラミージャに到着する。
ルイース…… やっと会えるよ!
「ふふ、そわそわしてるなシリーン。 それほど妹に会えるのは嬉しいか?」
この人はルイースの婚約者のカラッチ様。
もう直ぐ60歳になるとは思えないほど若い。
元々、亜人は人間より20年は長生きするので、やはり人間の60歳とは違う。
「それは楽しみですよ〜。 カラッチ様だってそうですよね」
悪戯っぽく聞いてみた。
だってカラッチ様は最初の奥様を亡くしてから5年、周囲の薦めでやっと2人目の奥様をもらったのに……
その奥様も僅か4年で他界、それから10年の月日が経って、ようやく新しい奥様をもらう決心をなさった…… ふふ、私の妹だけど。
「正直、年甲斐もなくドキドキしてるよ。 君もあまり妹を褒めないでくれ、僕の期待もその都度上がってしまう」
「ふふふ、あの子は大人になるに連れどんどん綺麗になると思ってましたよ。 あれから3年、どう変わってるか私も楽しみなのです」
あの頃だってルイースを見つける人は何人も居た。
言いたくないけどカウキなんて異常と思えるほどルイースに執着していた。
「そうか。 シリーンは本当に妹が好きなんだな」
「ふふ、もちろん!」
朝の5時過ぎなので昼にはルイースにあえ……
ガタンッと馬車が傾き、馬の悲鳴と運転手の慌てる声が響いた!
しばらく続いた悲鳴が止む……
傾いたまま、シーンと静まるキャビン…… 外で何かあったのは分かる。
だって大型魔獣の呻き声がするから……
普通、大型魔獣は馬車が通る道などには出てこない。
出てくれば、その地方が優先的に対処するからだ。
それでも対処出来なければ、もっと大きな規模(国とか)で対処する。
この魔獣は初めて馬車が通るような道に出て来たのだろうか? それならとても私達は運が悪い。
「わ、私が見てきましょう」
そう言ったのはカラッチ様の今回の旅の付き人のシンジさん。
昔は剣術道場の師範代までしていた人だ。
バッと、キャビンから帆を上げて飛び出したシンジさん。
外を歩いているまでは感じたけど……
「ゔ、ゔぅわ〜! に、逃げろ〜!」
と言って逃げたのだと思う……
だけど多分、捕まったのだろう、遠くから悲鳴が聞こえた。
私でも分かるくらいの強い魔獣が戻ってきて、きっと馬を食べている……
静かな唸り声と咀嚼音が、それを物語っている。
ルイース…… 私達は今までの人生、本当についてなかったね……
今回の旅も、最悪の形で終わりそうだよ……
「わ、私が行きます」
「べ、ベーゼ、ダメよ」
「いいえ、私が引きつけるのでお二人は隙を見てお逃げ下さい」
そう小声で話したベーゼ……
ベーゼはコウシャナス様が私に付けてくれた護衛兼付き人。
リバティ、第3の都市にある剣術専門学校で次席で卒業した優秀な女の人。
タラ〜っとベーゼの頬に汗が流れる……
緊張が私達にまで伝染する。
意を決したベーゼが外に出て数秒、直ぐに悲鳴が……
「逃げて〜! いや〜! い、痛い、痛い、痛い、や、やめて〜!」
ゴクッとカラッチ様が唾を飲むのが聞こえた。
「行くぞ」
っと、カラッチ様が私の手を取り、帆をめくって馬車を降りて走る!
そこからはスローモーションのように鮮明に覚えている。
まだ薄暗い空、絡みつく草木、血の匂いと無惨な運転手の姿…… 後ろを振り向くと、恐竜型の魔獣がベーゼの肩あたりに噛みついている。
苦悶の表情のベーゼ……
が、その時、視界の外から飛ぶように現れた赤い眼の男の人。
あの魔獣と…… 戦っている……
「ハァ、ハァ、ハァ、ま、待ってくださいカラッチ様」
誰かが来て、魔獣と戦っていた…… そして、魔獣が見えなくなったのだ。
「ハァ、ハァ、まだここじゃ危ない。 君まで殺られたらコウシャナスに合わせる顔がない」
「で、でも…… 魔獣が倒れているのです」
遠いので確かではないけど、助けに来てくれた人は立って歩いている。
戻った私達が見たのは、ベーゼに回復薬を飲ませている男の人と倒れてる魔獣。
ベーゼが男の人を、今まで見たことのない熱い眼差しで見ている。
そして、その人が振り返った時、私に電流が流れた。
鋭いけど優しさを秘めた目…… 赤じゃない⁈
背が高く、均整のとれた肉体。 ……何より痺れるくらいカッコいい!
コウシャナス様…… ごめんなさい。
私は生まれて初めて一目惚れをしてしまいました。
「た、た、助けてくれて、あ、ありがとう」
カラッチ様がどもるのは、相手に魅力を感じてる時とコウシャナス様から聞いたことがある。
事実、最初の奥様とは5日以上も普通に話せなかったと言う。
でも…… 男の人にも感じちゃうんだ。
「いえ、コイツは狙ってた魔獣なので…… むしろ申し訳ないです」
カッコいい、喋った! じゃなくて、その人は運転手をチラッと見て言った。
「それでは俺はここで…… 仕事中なので」
仕事熱心でステキ! じゃなくて、ベーゼがお礼を言う。
「待ってください。 わ、私は高回復薬まで飲ませてもらいました。 だから、その…… なんて言うか、私は貴方のものになりました。 だ、だから一緒に連れてってください」
私も連れてって! じゃなくて、ベーゼはどういう理屈でそう言っているか分からない!
だいたい雇用主の前で何を言ってるの?
「高回復薬の効能にそんなのはありません。 それにその怪我は高回復薬でも治ってないはず、病院へ行くか、帰ってしっかり固定するかをした方がいい。 ……魔獣は俺が倒したので、もらっていきます」
ベーゼに向かい男の人は言った。
「べ、ベーゼと申します。 そ、そこまで考えて下さり、ありがとうございますき」
男の人は魔獣の尻尾を持って引きずりながら去ろうとする。
ん? 今、どさくさに紛れて変なこと言ってなかった?
「あっ、あの! お、お名前を教えてください」
初恋の人との初会話、私だって負けていられない!
「え〜と、じゃあ、チャーチルで」
チャーチル様! ……素敵な名前。
「ま、また、会えますか!」
コウシャナス様…… いとこのカラッチ様の前で貴方を裏切ってしまいました。
チャーチル様は軽く私に微笑んで、そして去った。
か、かっちょいい〜!
ーーーーー
ズルズルとラプトル(仮名)を引きずって舟に戻る。 ……重さは意外と軽く、80キロってところか。
「なっ、チャ、チャーチル…… その魔獣は……」
俺はバットさんと仕事中にラプトルの叫び声を聞いたので、舟を降ろしてもらったのだ。
何か知らないけどコイツが倒れてたと適当に説明した。
「ま、またか」
前回も同じような説明でラプトルを運んだ俺。
バットさんは疑わないのがいい。
肉の味はヤゴットほどの肉肉しさはなく、淡白な味。
それでもなかなか美味かったので楽しみだ。
「それにしてもラッキーだ、その肉は絶品だからなぁ。 もう少し早ければお嬢様にも食べさせてあげたのになぁ」
ー2日前ー
ルイースの姉がリバティ国を出発したと聞いてから11日、船を使って来るなら最速で明日着いてもおかしくない。
「リュウ…… 私は明日の朝に帰るね。 だから今日は久しぶりに1日中この格好でいるね。 鍵も掛けれるし……」
最近では何故か恥ずかしがることが多くなってきたルイース。
裸族を止めたと思っていたけど…… スルスルと全部脱ぎやがった。
「それだと若い俺には刺激が強すぎる。 せめてパンツは履いて」
「ふふ、ヤダ! 明日から会えないんだから私を目に焼き付けて。 今の私は正真正銘、身も心もリュウが全てだから」
ルイースはカラミージャに来てから俺に綺麗な姿を見せようと必死で努力している。
風呂上がりには全身に何か塗って、体操したりマッサージしたりを2時間はしている。
だからとは言わないが、彼女は綺麗だ。
「え〜と、早くも我慢出来ません。 ……こっちにおいでよ」
嬉しそうに頬を赤らめて近づくルイース。
「ふふ、今日はずっとくっついてるからね」
俺達は覚えたてのサルのように身体を合わせてきた。
たまに擦れて痛い時はゲリールまでかけて……
全然飽きてないんですけど…… これって普通?
ーーーーー
ハァ、ハァ、流石に1日中、馬に乗るのは疲れたし馬もへばってる。
それでもこの町では馬の交換が出来るので、明日からもペースを落とさずに行ける。
ひと月の休みから移動だけで12日、往復で24日。
実家に帰るのにも4日かかったので残りは2日だけ。
それでもこのペースならカラミージャで2日過ごせるし、その間ルイースを抱ける。
子を身込ませれば婚約は無しになるだろうし、そうなればルイースを俺の住む町に連れて来ればいい。
ふらふら〜っとして、ドンっと誰かにぶつかった。
その時にカラーンと薬が落ちた……
ずっと馬に乗っていたのでフラつくな…… でも薬の瓶が割れなくて良かった。
「あら、ごめんなさいね」
と言って瓶を拾った夫人。
「ふふ、いい子が産まれるといいね」
と言って、瓶を見つめてる。
この世界の子供の作り方
魔力は病気等を受け付けないが(俺は16年間で風邪1回)子も産まれなくする。
魔力の少ない平民同士なら稀に子が出来ることもあるらしいが、貴族レベルの魔力があると魔力が邪魔して子は出来ない。
子を産みたいなら魔力を一時的に消す薬を使う。
とても高価なものだけど、この世界の子供達は全て、両親が合意の元で産まれてきたことになる。 ……って、リリカとカミラさんが言ってた。
ージロー系 リュウ調べー
「余計なお世話だ、早く返せ」
バッと、夫人から薬を取る。
クッ、このクソババァ…… ゴシューに似てやがる……
ゴシューにルイースの居場所を聞きに行ったあの夜、なかなか歯切れ悪く、教えようとしない態度に俺はブチ切れた。
ゴシューに蹴りを入れて数発殴り倒す。
馬乗りで殴っている時に、俺の下半身が反応した。
久しぶりの女! ルイースに会えると思って我慢してきたのでムラムラがピークだ。
ゴシューの服を剥ぎ取り、首を絞めながら犯す。
久しぶりの感覚に我を忘れた俺は、何度もゴシューを殴り、犯した。 ……が、途中ゴシューの娘が飛びかかってきたので娘も同じ目にあわせる……
まぁ、最後は使用人に回復薬を飲ませておけって言ってきたし、死にはしないだろう。
どうせ俺はもう、あの家には帰らない。
軍での出世を選んだ男だからな!
ーーーーー
夕方にベンゼッタ男爵家に着いて、挨拶をした時に3年ぶりにルイースを見た。
溢れ出る涙と驚き…… ルイースは私が思っている以上に綺麗になっていた。
そして……
お互い溢れ出る涙を拭こうともせずに、ガシッと抱きしめ合った。
「シリーン…… 半年前まではずっと寂しかった……」
ん? っと思ったけど流す。
「私も寂しかったよ、ルイース…… 綺麗になったね」
「ふふ、シリーンだって」
キャハハ、っとお互い笑い合う。
3年離れてても、私達は変わらない。
「あ、わ、わ、私は、あの、何だ? いや、ドーバ・キョウル・カラッチです。 あ、会えて嬉しいよ」
そりゃあ、ルイースを初めて見ればそうなるよ。
どう、私の妹は?
「シリーンの双子の妹のルイースです。 わざわざ遠いところに来て下さり、ありがとうございます」
「あっ、う、うん」
カラッチ様は私を頼るように見た。
完全に一目惚れね……
「本当に遠いところご苦労様でした。 しかし、手紙に書いたように我が家には泊まる部屋が1つしかありません。 どうすれば良いのか考えたのですが……」
っと言ったベンゼッタ男爵がルイースを見たので、その先はルイースが説明した。
「シリーンは私と同じ部屋で。 カラッチ様は1人で部屋を使って、ベーゼさんは狭いですが急きょお部屋を作りましたので、そこをお使いください」
物置きか何かを部屋にしたのかしら⁈
でも、仕方ないわね。
この旅を考えると、布団で寝れるのは天国に感じるはず。
「私はそれで充分です」
ベーゼが納得してくれたので、部屋割りは終わった。
そして、久しぶりのまともな夕食。
下級貴族、しかもフォルマップル国という事で全く期待してなかった食事だけど、お肉がとても美味しい。
「ベンゼッタ殿、この肉はとても美味しいですね。 何の肉ですか?」
「ヤゴットと言って、この辺りでしか獲れない魔獣です」
「ほう…… それは羨ましい」
「いえ、この魔獣は獲るのが本当に難しい。 私も10数年ぶりに口にしたくらいです」
この時に見せたルイースの笑顔が印象に残っている。
誇らしいものを褒めてもらった、そんな笑顔だったのだ。
それから部屋に戻って、2人だけのお喋り。
「ルイース、あのね、先ずカラッチ様のことを聞きたいんだけどぉ…… その前に私のことで聞いてほしいことが出来ました〜!」
「わ〜、ぱちぱちぱちぃ、いいよ、シリーン、どうぞ〜」
ルイースが手を叩きながら薦めてくれた。
「ふふ、何と私はこの旅で、一目惚れした人がいます〜! コウシャナス様には内緒だけど、めっちゃ強くてカッコいいよ!」
「えっ? ……何かその話、ヤダ」
「な、何でよ〜! じゃあ、ルイースの相手のことを教えてよ」
パァ〜っと明るい表情になったルイース。
やっぱり凄く好きなのね……
「私達は学校の大会で出会ったの。 全ての国のこの世代のアイドルで凄く強くて…… あ…… 何かおかしいよね……」
ルイースの瞳に涙が…… そんなに好きなの? ……でも、大袈裟よ。
「もう別れたの?」
涙が物語っている……
「グスン…… 別れてないけど、昨日も会ってないし、明日も会えない〜、リュウ……」
「ちょっと! 少し会えないくらい我慢しなさいよ。 私達は3年ぶりに会ったのよ! ……でもそうか、リュウって名前なんだ」
ルイースは涙を拭いて、コクンと頷いた。
「そう…… カラッチ様のことはどう思った?」
「ごめん、印象がない…… 悪く言えばね。 よく言えば、邪魔にならない。 ……つまり害のなさそうな人かな」
よく言っても悪く言っても、あまり変わりはないのね。
「それってルイースにとってどうなの?」
「正直、とてもいいと思う。 何年か前の理想の人かも」
特殊な状況の特殊な理想だね……
「そんなに好きなんだ、リュウって人を……」
「あの人が死ぬなら私も死にたい。 あの人の生きてない世界に私の世界はない」
「だってルイースはカラッチ様と結婚するんじゃないの?」
「しないなんて言ってないでしょ」
「だってそんなに好きなのに別れられるの?」
「そのつもりだよ。 だって私は足手纏いだし、もう手遅れなくらいに迷惑かけてるもん」
ールイース視点ー
ルイースは思う。
この前に訪ねてきた人は早急にナラサージュに戻ってほしいと言ってきた。
多分、すぐに戻ればリュウにとって事態が好転したはず……
私はリュウに別れを告げたけど、心では絶対に離れたくない、私を優先してほしい、って思っていた。
そして、優しいリュウに甘えてしまったのだ……
「ちょっと、ほら、涙くらい拭きなよ…… そのリュウって人は他国の人なの? 階級は?」
「ナラサージュの平民だよ」
「へ、平民? 貴方に貧乏は無理だよ!」
貴族の人はとても貧乏を嫌がる。
実際にフォルマップル国の中級貴族より、リュウの方が何倍もお金持ちなのに。
「ただの平民じゃないよ。 ナラサージュの王子がリュウのために動くくらいだし、リュウの保証人は土竜族の族長だし」
ナラサージュではリュウを平民扱いしてない。
大会中、リュウはナラサージュのお姫様の護衛の人達に命令していたし、言葉使いも乱暴だった。
それに王子の私兵の人だって、リュウ様って言ってたもん。
「そんな人が居るんだ…… 深そうな話ね。 それは後々聞くとして、私の初恋を話したいと思いま〜す」
「あのね、嫌な予感がするんだけど、その人に会ったのはいつ?」
「えっ、今日の朝だよ」
「強くてカッコいいんだよね? この辺りじゃ、リュウ以外いないでしょ」
って言うか、この星ではと言いたい。
「ざ、ざんね〜ん。 私のあの人は貴族でチャーチルって名前で〜す。 きっとベーゼも同じだよ」
リュウ…… 私は悲しい。
「リュウだね。 あの人はこの地方ではチャーチル、ターナ、ユーキ、ユーキオー、ナカユキって名前を使い分けてるし、服は私が買ったやつだから」
貴族設定なので、貴族の服を着せてます。
ー通い妻 ルイース談ー
「そ、そんな! ズルい…… 私だって、私だってチャーチル様と恋がしたい〜! は、初めて恋をしたのにぃ〜」
ハァ、双子だからきっとリュウを私と同じように好きになるとは思ったけど……
ベーゼさんまでそうなら双子は関係ないな……
それにしてもリュウ、会いたくて死にそうだよ……
次の日からはベンゼッタ男爵の酪農の仕事を手伝う。
カラッチ様もリバティ国で同じことをしてるので、お互いに楽しそうに情報交換している。
私はルイースと同じことをする。
ベンゼッタ男爵の子供のハミルとコートニーも一緒に動いていく。
私は興味があったので、カラッチ様が遠くにいる時に2人に質問してみた。
「ねぇ、ねぇ、ルイースの恋人って見たことある?」
2人はチラッとカラッチ様の方を見て答える。
……2人も事情は知っていそうね。
「はい、知っています。 お父様がびっくりするくらい強くてカッコいい人です。 私の理想のタイプでもあるのですよ、ふふふ」
……ベーゼは36歳、この子は12歳、守備範囲が広くない?
「ユーキ兄ちゃんのことだよね。 たまに僕も素振りとか教えてもらってるんだ」
目を細めて聞くルイース。
確かにチャーチル様がリュウ様なら、手紙に書いてあったことは頷ける。
その後も4人でお喋りして楽しく仕事をこなす。
でも、たまにルイースがボーっとして一点を見つめていたのが気になったので聞いてみた。
「何かそこにあるの?」
「うん…… いつもあそこから私を見てくれていたんだ」
ルイースの護衛仕事という名目で来たと聞いた……
「ふ、ふ〜ん。 でも、私達が去ればまた会えるんでしょ。 そんなに寂しがらないでよ〜。 それで? チャーチル様は他にどんな事をしていたの?」
それからルイースは、あっちの景色をよく見てたとか、あそこで素振りをしてたとか色々と細かく説明してくれた。
そして村を一望出来る場所まで私を引っ張って来て……
「あそこの緑の屋根の手前、家は見えないけど、あそこに住んでるんだよ」
っと、言った……
悲しい目のルイース。 でも、事情は昨日聞いたので可哀想とは思わない。
むしろ、羨ましいとか運が良いとかと思ってしまう。
私だって昨日からあまりにチャーチル様の話を聞いて、会いたくて仕方ないのだから……
ーーーーー
いつもトレーニングはベンゼッタさん家の上に登って行くけど、ルイースの関係者と会ったらマズいから他の場所に来ている。
そこにある大きな木の枝にぶら下がる木の実、バットさんによると、この木の実の中は甘いオイルが入っているらしい。
そのオイルを沸騰させて煮詰めた後に冷やすと、高級品のレベルマーカシーという甘い油の塊になるようだ。
用途は油として料理に使ってもいいし、匂いの良いロウソク…… の事をなんて言うの、ラザノフ? っていねぇ〜よ、ラザノフゥ、使えん。
とにかく高級品らしい。
でも、何で誰も取らないか? それはこの木が油まみれで登れないから。
しかも高い位置に木の実があって、木の実自体が脆いので、下から棒で落としたり突っついたりするわけにもいかない。
それでも俺にはジェットがある。
……っと思ったけど、ここは魔術練習も兼ねて狙ってみる。
俺の隠し技の1つ、口から魔術。
出せるのは下級魔術で、しかも容量が少ないので威力は弱い。
それでも中級クラスのファイヤースネークは出せる。
そしてウインドカッターも出来た。
それならウォーターカッターはどうか? 練習すればいけるんじゃね。
集中してウォーターカッターの魔力を口に集め…… ゴホッ、ゴホッと咳き込み、鼻から焦げた匂いとブクブクっと水が溢れた……
失敗か。
ファイヤースネークやウインドカッターの時にも少し感じる喉への違和感。
下級魔術との違いはスピードと掻き集める魔力量。
ファイヤースネークや風だけのウインドカッターは下級魔術と同等のスピードで出せるが、ウォーターカッターは無理だ。
確かにウォーターカッターはウインドカッターを改造したオリジナル魔術。
なので中級ですらない。
……という事で口から魔術は諦めて、手からの普通のウォーターカッターで木の実を狙った。
その日、バットさんと仕事を終えた後、昼前に寝た。
「リュウ、リュウ…… 起きてよ」
ん、ルイース…… 何故に全裸!
「私ね、シリーンと一緒に行くことにしたから」
この前にラプトルから救った貴族達、最後に話した子がルイースのお姉さんだろう。
「ふふ、それじゃあね、リュウ。 凄く楽しかったよ」
ルイ、ルイース〜! ケツ丸出しだぞ〜!
ハッ、っと目覚める……
また寝汗をかくほど嫌な夢……
着替えて外に出る。
ルイースが戻って6日、ただルイースのお姉さんを救ってから4日しか経ってない。
ルイースの夢を見たからか、ルイースに会いたい……
そんな事を思って湖の横の道を歩いていると、馬に乗る男に声をかけられた。
「おい、そこの男、ん、貴族か? まあいい、ベンゼッタ男爵の家を知らぬか?」
「ああ、知ってるよ」
「ん? 何処かで見た顔…… まあいい、それで何処だ?」
俺はこの国ではお尋ね者。
軍関係者は大会で撮ったモニターのビデオで俺の顔を知っててもおかしくない。
「そこの上の黄色の家」
性格の悪さが顔に出てるな…… っと思いながら指を指す。
その男は、フンッと言ってお礼も言わずに馬を進めた。
この前、魔獣に馬を食われたから馬を届けに来たのか?
この時はそんな事しか思わなかった。




