幸せの裏側
第二章 成り上がり
第八十二話 「幸せの裏側」
6月、幸せを満喫している私にシリーンから手紙が届いた。
【ルイース、久しぶりだね。 カラミージャはどうですか? 短かいようで、もうルイースに3年以上も会っていませんね。 なのでこの夏、ルイースに会いに行きたいとコウシャナス様にお願いしたのです。 そうしたら行っても良いと言われたけど…… その後にカラッチ様まで行くことになってしまったの。 どうしても婚約者のルイースに会いたいし、自分がどういう亜人かも知ってもらいたいって …… もし好きな人と一緒に居るならごめんなさい。 でも、ルイースにはカラッチ様を見てもらうことも大切だと思うの…… 滞在は一週間を予定しています。 その間だけ恋人とは会わずに私達に時間を下さい。 詳しいことが決まったらまた連絡するね】
この手紙を見た時に思ったのは……
一週間もリュウ君に会えないのは嫌だ!!
だった……
私はずっと悩んでる……
初めて本気で好きになった人が、ずっと一緒に居てもいいと言ってくれている…… でも私には一応、婚約者がいる。
もちろん口約束というか、手紙でオーケーしただけなのだけれど、それでも話は進み、後戻り出来ないところまで来ている。
リュウ君と死ぬまで一緒に居たい! そうなれば、私はどれだけ幸せなのだろう……
リュウ君が言う、平民としての生活を我慢出来るのか、なんて全然問題ない。
バットさんの家に食事に招待してもらってからは、私は平民として生きた方が幸せなのかもと思ったくらいだし、チョーとゴンちゃんが懐いてくれて、リュウ君との子供が欲しいと思ってしまった…… 10人くらい…… あっ、それだと妊娠期間ばかりでリュウ君との楽しい時間が減ってしまう…… 子供は2人にしよう。
私達と同じ双子なら一回の妊娠だけで済む。
……後はリュウ君に毎日頑張ってもらえばいいのだ。
貧乏だって…… この人がそばに居てくれるなら、全然大丈夫。
ふふ、妄想はここまで。
リュウ君との逃亡生活で、一番の足枷は私になる…… もし双子が産まれたら、その子達が足枷になるかも。
リュウ君がフォルマップル国に捕まったのは人質交換だったと言う…… つまり知らない人のためにリュウ君は自分の命を犠牲にしようとしたのだ!
もし私や子供達が囚われたら…… 間違いなくリュウ君は自分が犠牲になるよう行動するだろう。
そして、もしリュウ君が死んでしまったら…… 想像するだけで涙が溢れて…… 苦しい……
だいたい…… この人を私が独占して良いの……?
リバティ国へ嫁いだ場合。
多分、不感症は治っている。
リュウ君専用の私。 ……と言いたいけど、楽しくはないだろうけど、シリーンほどお勤めを苦にはしないと思う。
シリーンと毎日会える。
もう1人の私。 ……シリーンがリバティ国へ行ってしまった時が1番、精神が崩壊しそうになった。
双子でいつも一緒。
楽しい時も、悲しい時も、苦しい時も、シリーンが私を支えて、私がシリーンを支えた。
離れている時も、山のように送られた手紙でシリーンと私は繋がっていた。
結婚をオーケーしたのは自暴自棄があったのも事実だけど、シリーンが側に居てくれるのが大きかったから……
カラッチ様はどういう方かは知らない…… いえ、リュウ君の側に居る今、ハッキリ言おう。
どうでも良い。
「……イース、ルイース…… 寝てるのか」
「あっ、ご、ごめんなさい、考え事をしてて……」
ポカポカ陽気の午後。
長い昼休みにバットさんの舟を借りて釣りをしてるけど…… 釣れないから舟で横になってた。
「ふふ、リュウ君、何?」
添い寝をしてるルイースが言った。
「最近、結構ボーっとしてるけど何かあった?」
「う、うん…… 8月に姉のシリーンが訪ねてくるって。 ……私の婚約者と一緒に」
私の婚約者!
ルイースは俺を好きなはずなのに、俺とずっと過ごして行きたいとは言ってくれない…… やっぱりこれが華妖の眼の限界か。
「ふ〜ん。 じゃあ、その間は会えないんだ?」
「ずっとそれを考えてたの…… リュウ君、1時から4時までなら誰にも気付かれずに会えるから、その時間だけでも会いたい」
「いや、その間にバットさんの仕事を手伝おうかな…… たまに手伝うつもりだったけど、ルイースの仕事と被っちゃって最初の数日しか手伝ってないし……」
それでもよく夕食に招待してくれるし、食材なんかはしょっちゅう届けてくれる。
「えっ、そ、そう…… ううぅ…… なんか今から辛くなってきた……」
俺達の生活は、朝の3時にルイースを向かいに行って俺ん家で飯食って5時までにベンゼッタさん家まで戻る、そこでルイースは仕事を覚えながら17時くらいまで働く。
その後はウチに来たり、バットさん家の食事に呼ばれたり、逆に俺がベンゼッタさん家の食事に呼ばれることもある。
本当に四六時中ルイースと一緒だけど楽しそうに過ごすルイースを見て、俺だって楽しくない訳がない。
だから一週間とは言え会えないのは辛い、でもそんな態度は取れない。
「大丈夫、たった一週間。 婚約者がどういう奴かしっかり見極めて今後に生かせばいい」
嫌な奴なら断ることもあり、と思ってほしい。
もちろん、俺と茨の道に行くなら全力で守らせてもらう。
「うん…… ごめんなさい…… でもシリーンに会えるのは凄く嬉しい…… リュウ君にも紹介したいけどカラッチ様が一緒では無理だよね」
俺も見てみたいとは思う。
ルイースのお姉さんもそうだけど、ルイースの婚約者って言うカラッチって奴も。
それでもルイースの婚約者とお姉さんは、もしかしたらルイースをもうリバティ国に連れて行きたいのかも知れない。
まぁ、どちらにせよルイースの判断次第、どちらにせよ俺は受け入れるだけ。
モヤっとした気持ちで仕事を終えたこの日、いつものようにジャゴムを探しながらの夕方の稽古中、おびただしい量の血と食い散らかした肉片を発見する。
血だらけの辺り…… 何とも言えない不気味な気配が漂う。
寒気はするが魔獣の気配はない……
毛の付いた部分の肉片を持ち帰った俺は、次の日にベンゼッタさんに確認してもらったところ……
やはり肉片に付いた毛色から、限りなくジャゴムと推測された。
つまり、ジャゴムより強い魔獣がもうこの近くにいると言うことだ。
……ちなみに俺の武器は2本の削り出して作った木刀。
短剣はルイースに返したけど、この木刀は試合用とかではなく、初めから魔獣退治用に鋭く作っているので殺傷能力が高い。
次の日からの護衛の仕事は大工仕事に変わった。
しかも、爺さんも連れて来たので手伝ってもらう。
ちなみに爺さんは当然ベンゼッタさんと面識がある。
貴族と平民の関係だけど爺さんは「ベンゼッタ」と呼び捨てにして、ベンゼッタさんは爺さんを「ヤグモさん」(爺さんの名前)とさん付けで呼んでいる。
これだけ地方の田舎だと平民と貴族の関係も緩いのかも知れない。
ちなみにルイースは平民と学校以外では殆ど接触がなかったらしい。
元々、平民の街と貴族の街で区切られているので、限られた環境の人しか交流がない。
牧舎を中心に魔獣が入って来れないようにする。
帰り道、足の遅い爺さんに合わせて歩く。
「爺さん、悪いね、手伝ってもらって」
「全然構わん、土産ももらったしな。 ターナ、今日は飯を食いに来い。 チョーとゴンバリメタスがお前に会いたがっててな」
俺もターナだ、チャーチルだ、ユーキオーだ、色々な名があるけどゴンバリメタスも多い。
親はメタって呼んでるし、ルイースはゴンちゃんって呼んでる。
「だったらルイースも連れて来てあげれば良かったね。 ルイースはゴンバーとチョーに会いたがってる」
「ハハハ、可愛いからな〜、ワシの孫は。 いいぞ、戻ってお嬢様も連れて来い」
という事で、戻ってルイースを連れて来る。
ただ、その前に聞きたいことがある。
「そのルイースのことなんだけどさ。 俺と出会ってとっくに半年過ぎたのに、熱が冷めないのは何で?」
「華妖の眼、関係なしに惚れとるからだろう」
と言って爺さんは、地面に山を書いた。
「これが普通の異性に対する感情だとする。 段々と山を登るように相手を好きになり、やがて山を下るように気持ちは落ちてくる。 ただ、その時には愛情以外の感情も育ってるから愛情だか何だか分からなくなっとる。 ワシと婆さんがそうだ。 好きと聞かれれば当然だが昔ほどの気持ちはない。 だけど昔より婆さんが大事になっとるのも事実。 華妖の眼は人によっては出会った時に山の山頂付近、つまり一目惚れに近い状態から入る、その代わり飽きられるのも早い。 もちろんお嬢様のように気持ちが落ちてこない人もいるだろう」
なるほど…… 特殊な過去の人だし特殊な形で結ばれたから⁈
山頂だと思っても、もっともっと山は高かったとか⁈
それでもその先は断崖絶壁なんて事もある⁈
まぁ、1つの結論としては華妖の眼を気にする必要などないってことだ。
「分かった、ありがとう。 じゃあ、その愛情深いお嬢様を連れてくるよ」
「ガハハ〜、喜ぶぞ」
その後、やはりルイースは喜んだ。
俺に抱きつき中々離れないくらいに……
バットさん家はしょっちゅう娘さん夫婦が来てる。
当然、チョーとゴンバーも付いてくる。
いつも暖かい感じの夕食時、ルイースはこの感じがとても好きと言っていた。
「ガハハ、チョーは綺麗なお嬢様にベッタリだなぁ」
ルイースの膝に座るチョーを見て、バットさんが言った。
「そしてゴンバーはチャーチルのいつもの席」
俺の膝に座るゴンバーを見て、サラーラさんが言う。
ちなみにサラーラさんがゴンバーって言ってるので、俺もゴンバーと呼んでいる。
「2人の子みたいだね」
そんなセリフを誰かが言った時、ルイースは嬉しそうに俺を見て、何故か頬を赤めて恥ずかしそうに微笑んだ。
ずっと一緒にいるけどこの笑顔は今までで一番の笑顔、正直、ドキッとした……
「散歩行きたい」
チョーが言った。
俺とルイースはバットさん家で食事をした後は、チョーとゴンバーを散歩に連れて行くのがパターンになってる。
「リュウ君、早めに行こう」
まぁ、魔獣の一件もあるし早めに行くか……
湖沿いを歩く。
湖沿いにある村なので魔獣が入って来る可能性は低い。
ゴンバーは初めから俺が抱っこ、チョーはルイースと手を繋いで歩く。
月夜が美しい夜、水面に映る月が幻想的だ。
「リュウ君、私は幸せだよ……」
突然そう言ったルイース。
でも、奪ってくれとは言ってない。
「それは俺だって同じだよ」
「ふふ、嬉しすぎるよ。 でも私はね、未だにドキドキが止まらないんだよ」
そ、それは……
さっきからずっと頬が赤く、俺を見る目がしっとりしてる。
「もしかして早めに来たのって、後で俺ん家に寄ろうとしてる?」
「うん、してる……」
は、発情モード〜! って、いつもか。
ーーーーー
次の日の朝。
いつものようにいつもの時間にルイースを向かいに行く、いつもと変わらない朝と思ったのだが……
ベンゼッタさん家に近づくにつれ、ルイースの叫ぶ声。
「来ないで〜! 来ちゃダメ〜!」
と大きな声で言っている。
昨日は出会ってから一番? と思えるほど情熱的に求めてきたルイース。
しかし、1日も経たずに来るなと言っている…… 断崖絶壁⁈
……が、悍ましい気配がその考えを否定した。
魔獣! ベンゼッタさん家の牧舎の周りに数匹。
速い動きに犬型にしては大きい。
離れていてもその気配で強いのが分かる。
よく聞くとルイースだけじゃなく、他の人の叫び声も聞こえる……
だけど、魔獣が出るかもと思っていたので俺は昨日からフル装備で動いている。
まぁ…… 木刀2本とナイフだけだけど。
ハッとしたのは魔獣の姿を見た時。
恐竜型の魔獣。
全長は4メートル、体高は1.8メートルってところか。
小型だがこの型の魔獣は強い。
ダンジョンで戦った恐竜型。
ラザノフと連携して何とか勝てたが、俺もラザノフも大怪我をしてる。
小型と言っても3匹も見えている。
勝てるか? いや、勝てるかどうかではない。
この魔獣は危険だし、ベンゼッタさん家には子供もいる。
そして何より俺は、ルイースに対する危険を排除する役目だ。
ベンゼッタさんの母屋の横にある牧舎、ベンゼッタさん家を通り過ぎる時に2階から叫ばれる。
逃げろ〜、から、逃げなさ〜い、逃げて〜、っと逃げ関係のオンパレード。
2階を見るとベンゼッタさん家族にルイース、そして唯一のお手伝いさんの人まで幾つかある狭い窓から顔を出して叫んでいる。
「何匹〜!」
大声で聞いてみた。
「いいから逃げて〜!」
「そっちはダメ〜!」
「3匹だ〜、逃げろ〜!」
っと、幾つかある声から魔獣の情報を拾った。
後はうるさいから無視して牧舎の方へ。
牧舎では鉤爪で破壊したのかバスケットボールくらいの穴が開いている。
そこに首を突っ込んで中にいる家畜のラスターを見てるのが1匹。
必死で自分も穴を開けようと、鉤爪を振るもう1匹。
最後の1匹が近づく俺を見つけた……
タタッと俺に近づき、いきなりガブッと噛みつこうとするラプトル(仮名)。
それは舐め過ぎだろうと思いながら、右の木刀でラプトルの頭を払いながら左に交わして、思いっきり左の木刀を振り下ろす!
ガスッと頭にヒットして、一瞬フラフラ〜っとしたラプトルだが、直ぐに持ち直し『グギャアア』っと叫んだ。
何と、その叫びを聞いた2匹が近づく!
近づく2匹のうちの1匹は最初のラプトルと同じようにいきなり噛みついてくる。
こちらの対応も同じ、さっきと同じように左を思いっきり振った。
ガスッと当たり今回は頭部の皮膚が裂け、血がドバッと出たラプトルだが、致命傷にはならず……
その後のラプトルは無闇に噛みついて来ようとはせず、力強い脚力を活かして鉤爪での攻撃にシフト、3匹の攻撃に、俺はなす術がなく防戦一方となる。
まともに受けずに流しながら捌く俺、しかし、この木刀では致命傷は与えられない。
俺の持ってる魔術で1番強いのは虎徹改。
しかし、何かをぶつけなければ発動しない。
ここで爆発させるのはベンゼッタさん家の母屋、牧舎も破壊するかも知れないのでNG。
ラプトルの口の中に入れても爆発しない……
どうする…… っと思った時に左のラプトルの突進鉤爪を交わしたが……
背中への衝撃と鼻がツーンとなる感覚。
そして、地と空が反転……
ドカッとぶつかり目が覚めた……
背中辺りに激痛…… ラプトルの跳び蹴りを背中に喰らったか。
ガラッと扉が開いて直ぐに閉まった。
中からはお嬢様がベンゼッタさん達と言い争う声が……
泣き声と私も一緒に、だとかは聞こえた。
でも、俺がほしいのはソレじゃない。
15メートルはふっ飛ばされたのか、俺は母屋の玄関から近い位置にいる。
それを確認したラプトル3匹は牧舎の方から走り寄る。
ゲリールを掛けながら思う、ぶつからなければ餌だったと。
コイツ等は頭のいい魔獣だ。
最初の噛みつき攻撃が無駄だと分かると、もうして来ないし、3匹で連携っぽい動きもする。
さっきは最初に攻撃を仕掛けた奴の真後ろに隠れ、横からの強攻撃に俺が必死に対応してる時に後ろに回られたと思う。
前に戦った恐竜型よりは弱い、けれど知性と素早さはコイツ等が上。
ラプトルが来る前に2階から見える位置まで移動して、途中、『短剣』っと玄関前に居るはずのルイースに言った。
ラプトルが近づき、ピョンピョンとフットワークを効かせながら鉤爪による攻撃、そして隙あらば背後に回ろうとする。
久しぶりの痺れる感覚、死を感じるほどの強敵に俺は心のどこかで喜びさえある。
ラザノフとラリィと攻略したダンジョンが懐かしい……
「リュウ〜!」
ルイースの叫び声!
初めてルイースが俺を呼び捨てにした。
だけど、ここではユーキだろ。
ラプトルの攻撃を交わしながらルイースを見れる位置まで行く……
ルイースは短剣を掲げ、俺に投げようとしている。 ……って、凄え顔してるな、アイツ。
ルイースは顔中、涙だらけで口をへの字に曲げてプルプルと震えてる。
ハッキリ言おう! いや、止めておこう。
よく言えば、ルイースはブサ可愛い。
悪く言えば…… プフッ、言いません!
そんなブサちゃんが短剣を投げた時、俺の眼の魔法陣が広がった。
驚くほど次の行動が研ぎ澄まされる。
ジャンプしてジェットで下がりながら右の木刀をラプトルの近くでバウンドさせるように投げる。
怯んだ2匹と俺を追いかける1匹。
クルンクルンと回りながら落ちてくる短剣を流れるようにキャッチして、鉤爪で攻撃しようとしているラプトルに、ー斬ー 一瞬早く短剣を振る!
ビッシィ〜っと刀より大きな手応えでラプトルの腕が飛ぶ。
そのままの流れでラプトルの喉元へ、ブスッと木刀で突き刺した。
木刀を引き抜くと喉元から血がドバッと出てくるが、ラプトルは倒れない…… が、鼻から血が吹き出してようやくラプトルは倒れた。
柔らかい場所への"突き"ならば、致命傷を与えられるのを確認。 ……まぁ、3匹相手じゃその隙はないけど。
「ユーキオー!」
この声の主はベンゼッタさん!
見ると剣を俺に投げようとしている。
ラプトルは…… 倒れたラプトルを労るように鼻で押している。
その隙に剣を取った俺は無敵の二刀流となる。
「グッギャャ!」
怒り狂う2匹のラプトル。
仲間の死でギアを一段上げたラプトル。
剣での二刀流でも防御主体となる。
だけど、このペースが続くとは思えない。
恐ろしく速いフットワークで攻撃してくるラプトル、全然ペースが落ちない。
それならと、右手にウォーターカッターを仕込む。
ウォーターカッター
水による衝撃波。
打つ時は横に30センチくらいだが、飛んで行くにつれ横に広がっていく。
ウォーターカッターの魔力を集めたところで左のラプトルの腹辺りに短剣を投げる。
そして、右のラプトルには"ウォーターカッター"。
ドヒューンとラプトルに絡みつくが、流石ラプトル、踏ん張っている。
しかし…… 動けない。
短剣をのけぞりながら鉤爪ではたき落としたラプトル、その脚に剣を振る!
バッと脚を引き回避するラプトルの反対側の脚に、口から魔術の"ファイヤースネーク"。
バランスを崩しながらも何とか鉤爪ではたき落としたラプトル、だが、目線が下に行き過ぎだ!
ー斬ー 振りかぶって頭部への一撃!
刀ほどの切れ味はないけど、頭蓋骨を粉砕した、ゴリッとした手応え。
ラプトルは最後に『ムギャア……』っと小さく囁き、倒れ落ちた。
さぁ、残り1匹。
ウォーターカッターを2、3歩下がるだけで踏ん張ったラプトル。 ……が、えっ? 逃げている。
一瞬、呆然としてしまったが危険過ぎる魔獣、追いかけたいが……
人の目があり、ジェットが使えない……
それでも仕方ない、奴は危険過ぎる。
ジェットを起動……
「リュウ〜!」
ルイースが玄関から飛び出して飛びついてきた……
嗚咽混じりに泣きじゃくるルイース、もうこれではジェットは使えない……
ジルベッタさん家の居間。
大人だけでの話し合い。
「ユーキオー君、君のおかげで私は首を吊るのを免れた、本当に有り難う」
確かに家畜を全部やられたら、この国では何があるのか分からない。
「いえ、自分は子供達とルイースのためにしたに過ぎません。 だから、結果的に助けただけです」
コレ、本当。
「それでも本当に助かった、それに子供達は僕の子だ。 改めて言わせてもらう、有り難う」
「いえ…… 残念ながら危険を全て排除とはなりませんでした。 逃げた魔獣…… 戻ってきますかね?」
「う〜ん、あれだけやられれば近づいて来ないとは思うが…… それでも厳重注意ですごそう」
俺も来ないと思う。
その理由は、とても頭の良い魔獣だったから。
「あの…… ジルベッタ様とリュ…… ユーキ様にお願いがあります」
ルイースが喋る。
でも…… 俺とジルベッタさん?
「姉がここに来るまで、私はユーキ様とひと時も離れたくありません。 もちろん酪農の仕事は今まで通り覚えていくつもりです。 だからユーキ様の家で一緒に暮らさせてください」
まぁ…… ここは寝てるだけで、起きてる時はほぼ俺と一緒。
寝てる時も一緒に居たいの?
「その提案は正直、賛成です。 さっき逃げた魔獣が危険ですし何よりユーキオー君の側なら安心でしょう。 ……君はあれだけの剣の腕を持ち、しかも王都に住んでいた。 我が国の上の連中の見る目がないことには、ほとほと呆れたよ。 準貴族だなんて、冗談としか思えない」
確かに本当にこの国に生まれ育っていたら、俺は悪リュウになり、それなりの地位を得ていたかも知れない。
……良かった、裏の世界で生まれて。
「リューキは…… いい?」
混ざってるぞ。
「ああ、あそこで良ければいいよ」
ルイースは俺の家に今でも沢山の荷物を置いている。
特にスキンケア関係が多い。
「仕事の方も次のステップへ進もう。 ルイースお嬢様、お昼くらいに来れば良いですよ」
肉の加工とかを教えるのか?
それにしてもルイース…… このタイミングで俺と一緒に暮らしたいと言うとは考えてなかった。
理由はラプトル(仮名)との戦いで、俺の死を感じたから…… それとも婚約者と姉が来るので暫く会えなくなるから⁈
どちらにしろ、俺のこの1年はルイースにあげる約束、問題ない。
最後にベンゼッタさんは"お礼"と言って高回復薬を2本くれた。
ベンゼッタは思う。
冗談のような準貴族…… もし彼が中級以上の貴族なら、7月に行われる貴族の武闘大会にフォルマップル国代表として、きっと圧倒的な強さで優勝するに違いない。
ギルドの武闘大会より、上位亜人、上位亜人ハーフが出てこないのでレベルは低いが、世界に向けてのアピールは貴族の武闘大会が上。
上層部が何をしようとしてるかは知らないが、貴族の大会で本気で優勝を狙っているのは間違いなく我が国が1番のはず。
学校にさえ通わせてないなんて、何を見てるんだ……
注 ジロー系色男の僕はレイモンの人間国出身です。
ーーーーー
それからの俺はバットさんの仕事を手伝いながら過ごす…… ルイースは毎日サラーラさんに料理を教わって、俺の帰りを待った。
それはルイースに得意料理(適当に色々な食材を入れて煮たら奇跡的に美味かった)という物が生まれた次の日のことだった。
コンコンとドアをノックする音がしたので開けてみると……
そこには知った顔があった。
「キャプトマン王子の……」
「ああ、随分と探したよ。 本当に随分とね……」
キャプトマン王子の私兵
フォルマップル国の首都、ジーンライネの平民街に潜伏していた。
あれから4ヶ月くらい……
ずっと探してた⁈
中に上がってもらい話を聞こうとすると、その前に俺のあれからを聞きたいと言うので話す。
「あの日、夜の拷問に何とか耐えて脱走しました。 でも、拷問による傷が酷く、それに体力もなかった俺は住宅街で隠れてどうするか悩んでいました。 その時に偶然、俺を見つけたこの子、ルイースが自分の部屋に匿ってくれました。 そして体力を回復させてあの街を離れたって感じです」
「私はリーカ・テムズ・ルイースと申します。 リュウとは学校の大会で会い、そこで一目惚れしました。 リュウは偶然と言いましたが、私はあの日、必ずリュウが現れると思って何時間も外を見てたのですよ」
恐竜型魔獣の一件以降、ルイースは俺をリュウと呼んでいる。
それにしても…… やっぱりルイースは俺の命の恩人だな……
「う、美しい…… ハッ、そ、そうですか、それからこの村で隠れているのですね…… 私もあの後からをお話ししましょう」
最近のルイースは本当に美しい。
間違いなく出会った頃より……
ーーーーー
私の名前はザッカー。
あの日、平民街を馬で引きずられるリュウ様を見た時にリュウ様の死を覚悟しました。
キャプトマン王子への定時報告であと一日耐えられるか…… っと報告したのを覚えてます。
しかし、夜中に貴族街で騒ぎがあり、次の日の情報収集でリュウ様の脱走を知りました。
その日から私達は朝から交代で“ゴルタイ“に24時間体制で見張っていました。
しかし……
リュウ様が捕まったとの情報が……
私達のそれぞれの見解から、フォルマップル国によるガセネタの可能性あり、という結論になり見張りを続行。
それから数日、フォルマップル国からナラサージュに使者が来て、リュウ様の脱走を幇助した者、匿った者の永遠の引き渡しを要求(この時点でリュウ様が捕まっていないことが確定)。
ナラサージュはそれを受諾する。
ただし、平民リュウに関してはナラサージュ国とは無関係と宣言する。
6月、各国にリュウ様を探す人員を大量投入。
ラザノフ様のアドバイスから海の見える場所を中心に調べるが見つからず……
私達の情報網に不思議な光が飛んで行った先に、恐ろしく強い美青年が居たとの情報あり。
近くの街から半径を広げて探すと……
海ではないが、海と間違うほどの湖があり。
「そこで私は湖の周りの町や村を探っていました。 そして市場でリュウ様と酷似している青年を知っているという情報を得て、この村に来たのです」
なるほど…… 優秀な人だ。
「そうですか、ご苦労様でした。 腑に落ちない点があるので聞きたい。 何故、ナラサージュは無関係を宣言しておいて俺を探してるんですか?」
「そ、それは…… 私達はもう10ヶ月近くナラサージュに帰っていません。 つまり私達にまで詳しい事情が流れてきてはいないのです。 ただ、リュウ様を見つけて早急にナラサージュに戻すようにとの指令です。 私達も理由は分かりませんが、キャプトマン王子が貴方のためを思って行動しているのは間違いありません」
確かに…… ラザノフまで協力してるなら何かあるのかも。
「リュ、リュウ…… 少し早くなっちゃったね…… も、戻って……」
ルイースを見ると、またあの時と同じように口をへの字に曲げてプルプル震え、大量の涙が溢れてる。 ……ブサイース。
「自分は戻るつもりはありません。 ……少なくとも今は」
「そ、そんな…… な、何故?」
「彼女、ルイースを最優先します。 ……これはもう決まっていることです」
「リュ、リュウ〜。 わ、私は大丈夫だからぁ〜」
「ルイース、決まっていることって言ったよな、これを曲げるつもりはない。 ルイースの事情以外でこれが覆ることはない」
わぁ〜! っと外に飛び出したルイース。
別に危険はないので放っておく。
「私もリュウ様がフォルマップル国に不当に囚われた村人を救うために犠牲になったことは知っております。 しかし、今回はそのような事情ではないのでは……」
同じ事情だったら俺だって次回は断るよ。
だって凄え〜痛いしムカつくし腹減るし、終わった後は下半身がバカになるし……
「事情がどうかは知らないが、俺自身が決めたこと。 それでも一度は必ずナラサージュに戻ります。 理由は王子のこともそうですが、妹のこと、ラザノフのこと、先生との約束のこと、とにかくナラサージュに戻る理由は沢山あるので、ザッカーさんはナラサージュで待っててください」
「いつ頃かなどは分かりませんか? おおよそでも良いので……」
「間違いなく1年以内には一度、戻ります」
ルイース次第だけど、ナラサージュには1年以内に戻ろう。
「分かりました、キャプトマン王子にはそのように伝えましょう」
……といった事があった。
さぁ、ルイースを迎えに行かなければ……
歩いてバットさん家まで行くと、外に居たバットさんが俺を見つけ寄ってくる。
「チャーチル、あんな綺麗なお嬢様を泣かすな!」
綺麗じゃなければいいのかよ……
「ケンカじゃないよ」
バットさん家に入ると、ルイースはサラーラさんに抱かれて泣いてた。
「コラッ、チャーチル! こんな綺麗な子を泣かすな!」
夫婦で同じこと言ってるよ。
「ケンカじゃないよ。 ……ルイース、帰るぞ」
ルイースは俺の声を聞いてピタッと動きを止めて…… そして勢いよく飛びついて来た。
後は抱きついて、『リュウ、リュウ』泣くだけ。
「……チャーチル、アンタいくつ名前があるの?」
……俺も知りたい。
ーーーーー
久しぶりの我が家、やっぱり1番喜ぶのはお袋だろうか…… いや、きっとルイースが1番喜ぶのに決まっている。
腹違いの兄弟なので結婚は無理だが子を産ますことは可能だ。
だから今回は凄く高かったけど薬を買って来た。
ルイースは喜ぶだろうな……
家に入ると予期してなかったのか、使用人達が驚いた様子でお袋を呼んで来た。
「カウキ…… アンタ、お勤めはどうしたの?」
「ハハ、俺は第128師団の副長にまでなった、僅か3年でな。 副長は3年に一度、ひと月の休暇を取れる、だから帰って来たのさ。 それよりルイースは上?」
兄は学校にまでいって、未だにただの1兵。
跡取りだって俺になるんじゃねえ⁈
「貴方、大きくなってない? ところでヨウキはどうした?」
「知らね、上に行ってくるわ」
ダダっと階段を登ってルイースの部屋に……
しかし、もぬけの殻……
「お袋! ルイースは!」
「ハァ、あの子もお嫁に行ったよ。 ……ああ、その前にカラミージャに行ってるんだったね」
「なっ! こんのクソババァ! なんてことしやかる!」
ガスッ、ボグッ、っと殴りながら思う。
このババァがルイースに意地悪だから俺まで意地悪だと思われるんだ!
「がっ、やめ、わた、私じゃない! ゴシュー、ゴシューが……」
ゴシュー? クソ! あの便所女! 殺す、殺す、殺す、殺す……
「カ、カウキ様〜! そ、それ以上は奥様が〜!」
使用人が何を慌ててるんだと思い、下を見てみると……
ぐったりしてるお袋が居た……
やり過ぎたとは思わない。
コイツのせいでルイースは俺に素直になれなかったのだから。
ゴシュー!
俺からルイースを奪ったクソ女!




