亜人の日本人
第一章 旅立ち
第ハ話 「亜人の日本人」
ー蓮撃ー
一度発動すると相手は反撃する隙がない。
つまり発動すれば実質、俺の勝ちが確定する技。
でも、そんなに甘くはない。
ほぼ無酸素なので疲れがすぐにたまり、思考を鈍らせ次の手がわからなくなり、グダグダになる。
今はまだ3セット完走出来ない。
未だ未完成の技。
いつもの剣術練習場。 ……と言うか海岸近くの広場。
相変わらずマシェリとローチェは仲良く木の下でお喋り。
本当に木の下が似合う女の子達だ。
俺と兄は自主練。
いつもいつもは試合出来ない。
何故? 結構、怪我するから……。
そろそろお昼…… 最近はお昼ご飯を食べられる。
今は兄とマシェリとローチェと俺しかいないから。
……と、丁度シスターが呼びに来てくれた。
「マシェリ、早く帰って。 貴方達も家に戻って」
ん…… いつもと違う。 何かあった?
皆んなで戻って来ると、院の前に馬車が停まっていた。
誰だろう、と思いながら中へ入ると、マシェリが男の人に抱きしめられた。
「マシェリ!」
「お父さん! …… 戦争が終わったんだね」
家の中にいたのはマシェリのお父さん、ケビン、リチャードの3人だった……。
マシェリのお父さん
マシェリからは戦争に行ってると聞いていた。 マシェリはお母さんを亡くしている為、お父さんが帰って来るまで孤児院に預けられているんだ、とマシェリは皆に話していた。
ケビン
この前、泣きながら王都に行ったばかり。 得意技は鼻ほじり。
リチャード
たまに物資を持って帰って来る。
孤児院時代は俺は余り覚えてない。
「終わった訳じゃないよ。 休戦になったんだ」
リチャードが言った。
戦争が休戦になった⁈
リチャードとマシェリのお父さんは、バンデクスという地に歩兵隊として配属されていた。
バンデクスは人間国と獣人国の国境にあり、更に少し北へ行くと亜人国があるという、何とも微妙な戦闘区であった。
そんな戦闘区で大小幾つかの戦闘もあった。
しかし、ひと月前から隊の隊長、モーリスから戦闘の一時的な停止を言い渡された。
どうやらこの隊だけでなく、全ての隊に通達されたようだ。
と言っても、獣人は分からない。
いきなり攻めて来るかも知れないと、隊の誰もが警戒した。
しかし獣人が攻めて来る事はなく、時間だけが過ぎていく……。
2週間が過ぎ、3週間が過ぎた。
多分、皆んなが考える事は同じだ。
リチャードもこんな事を考えていた。
この3週間があれば、急いでシスターに会いに行って、そしてこっそり戻って来れたのに……
誰もがこの3週間があれば家族に会えに行けたのにと思っていた。
そんな皆んなの思いが通じたのか?
戦争の休戦が決まった。
皆んな喜んだ。 涙を流して喜んだ。
『もっと早く決めろよー』と言う奴までいた。
そしてそれぞれの家族の元へ。
リチャードはマシェリのお父さんに声をかけられ、一緒に孤児院に帰る(でも初めからシスターに会いに帰るつもりだった)事になる。
ケビンは戦地に行ってない。 見習いだからだ。
その日の演習後に教官から休戦を聞いた。
どうすればいいか分からず街を歩いている時に『お前、ケビンか?』とリチャードに声をかけられた。
「休戦って、どのくらいの期間?」
兄が聞いた。
兄は12歳。
休戦の期間によっては来年戦争に行かなくてよくなる。
「5年と聞いたよ。 ルーク、今までマシェリと仲良くしてくれてありがとう」
マシェリのお父さんが言った。
やっぱり今日はマシェリとの突然の別れの日。
俺達は間違いなく兄弟だった。
特に兄とマシェリは同じ歳。
俺も最初の方はマシェリは俺の本当の姉だと勘違いしてた時もある。
でも、長年マシェリが望んでいた事だ、快く見送ってあげたい。
「お父さん、何でだろう…… 嬉しいけど皆んなと別れたくない。 お父さん……」
マシェリは兄を見ながら涙を浮かべる。
助けを求めているようにも見える……
ローチェも口元を抑え、声を出さないように泣いている。
「マシェリ、お父さんが無事で良かったね。 でもルークはどうなるのかしら?」
シスターが皆んなを見て言った。
リチャードが応える。
「ルークはまだ12歳だよなぁ、だったら4年後に王都に行くんじゃないかな」
それは歩兵の場合だ
「俺は魔術師になる予定なんだ… 俺の予想は3年後に徴兵されて、通常の研修期間2年を過ごして、5年後に戦地に行くと思う」
「来年って事は…… ない?」
マシェリが泣きながら聞いた。
「来年行っても研修出来ないんじゃない? 皆んなそれぞれで家族と過ごす人もいるだろうし。 それに何年も研修して無駄飯食わすとは思わないな」
確かに……
「そうだな。 俺とケビンはまだ独身だから軍に呼ばれる事もあるみたいだけど、マーチスさんは基本は自由でしょ」
「そうだと思う。 でも、もしかしたら呼び出される時もあるかもって隊長が言ってたよ」
何はともあれ良かった。
マシェリとは寂しいけどこの孤児院にいる以上、別れはいつもついて来る。
帰って来た3人は、それぞれお土産を買ってきてくれていた。
それを3人は一斉に広げる。
お菓子に缶詰、衣類や生活必需品、勉強道具(俺はいらない)まで……。
多種多様な中に俺の目を釘付けにする物が混じっていた。
食い入るように見つめる視線に気付かれた。
「ハハ、リュウ。 それはルークに買ってきたんだ。 ルークは剣の腕が凄く立つからな」
なっ、な、なにぅぃ〜!!
俺はまた意識だけになったようだ。
集中治療室に戻れてうら…
「……ウ、リュウ! いいよ。 お前がもらえ」
に、にいちゃ〜ん! なんていい兄なんだ!
チャンプだ! 兄のチャンピオンだ〜!
「リチャード、リュウはもう俺より剣の腕前は上だ」
と、会話中悪いが、早速それの前に飛んできた。
や、やはりこれは……
「ちょっと待ってリュウ。 リチャードはね、今までも物資を送ってくれたり、わざわざ……」
「ありがとう、リチャード」
長そうなのでカットさせてもらった。
やはりこれは…… 鞘からソレを抜く。
「ちょっとリュウ! 最後まで言わせてよ。 わざわざ……」
「ありがとう、シスター」
やはりこれは、刀!
「もう! ざわざわ…… じゃない、わざわざ…… 何だっけ? 忘れたじゃない! もう!リュウのバカ!」
確かに勉強出来ないけど!
刀 軟鉄と硬鉄を組み合わせ、焼き入れすると波紋という日本刀独特の模様がでる。
こんなもん、この世界の奴に作れないでしょ。
だってファイアーボール(深い意味はありません)だよ。
「リチャード、本当にありがとう。 これは何処で買ってきたの? 誰が作ったなんてわからないよね?」
「ほ、本当にルークよりリュウの方が腕がたつのか…… し、信じられん。 あっ、いや、それか? それはクモンという亜人国に近い町だ。 何でも闇市で亜人国から流れてきたらしい。 ……でも片刄で使いづらいぞ」
この世界は両刃の剣が主流だ。
それにしても、それだと亜人が作ったという事になる。
亜人の日本人か…… 絶対会いに行く!
「リチャードもケビンもこの刀の情報があれば教えて、俺は会いに行くから」
亜人
人族で1番強いらしい。
スキルがあって…… スキルって何?
ー遅咲きの秀才 リュウ調べー
刻一刻とマシェリとの別れが近づく。
マシェリは俺達の誰かを見ては涙する、を繰り返していた。
「マシェリ、今日起きた時は今日がお別れなんて思わなかったね。 でも良かったね」
シスターはいつも誰かと別れている。
この人は幸せなのだろうか?
「うん。 もう寂しくて仕方ないよ。 ローチェはこの孤児院で唯一の女の子の友達だし、リュウはめちゃくちゃ自分勝手な弟だと思ってたし、ルークは同じ歳だけど凄く尊敬してたし……」
ん〜、俺だけ微妙な評価だな。
でも、この先マシェリに会える事はないかも知れない。
マシェリがお父さんと住むところは、この孤児院からかなり遠いようだ。
そして別れの時。
俯き、馬車に乗り込もうとするマシェリを兄が呼びとめた。
何か兄が必死に言っている。
マシェリはまた涙を流し、そのまま兄に抱きついた。
そして馬車に乗り込む時にはマシェリは笑顔を見せていた……。
女の扱いも上手いな…… 聞いとくか。
……しかし、兄は何を言ったのかは教えてくれなかった。
今日はリチャードとケビンは泊まっていく。
でもマシェリが抜けた穴は、俺達にとっては大きい。
「リュウ、タガミナさん家にお裾分けをしたいの。付き合ってくれる?」
タガミナさん この孤児院から西に20分程度行くとタガミナさん家がある。
この辺りでは貴重なご近所さん。
畑も何とか維持していて、たまに採れた野菜を持ってきてくれる。
荷物を持って歩きだす。
シスターはいつの間にか兄より背が低くなってる。
俺もその内、抜かすだろう。
「マシェリまでいなくなって寂しくなるわね……」
「うん。 最終的に俺とローチェがいなくなったらシスターはどうするの?」
「そうね、貴方がいなくなる事は考えたくないの。 だから分からない」
やっぱり俺の母ちゃんだろ
「ふふ 冗談よ。 でもどうしようかなぁ」
「まぁ、この孤児院が俺達が出て行くまで、持つか分からないけどね」
「持つわよ、貴方達の魔力は高いもの」
「にいちゃんが言ってたけど、魔力の高い人は権威が高いんでしょ。 将来的に俺達はどうなるの?」
「そうね〜、女なら妾ね」
め、妾。 兄は妾になるのか。
「でもごめんなさい。 貴方は魔力量を誤魔化しちゃったから…」
「俺はそんなのになりたくないから。 シスター、本当にありがとう」
「ふふ 貴方はモテるから大忙しだったかもよ」
どうしてモテると忙しくなるんだ? って言うかモテたためしないし!
でも兄はモテるだろう。
妾は女だから、男は種馬。
馬じゃないから種人。
あ、兄はタネヒトになる。
ルーク 種人
前世での日本人と外人のハーフみたいな名前だ……




