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転生 フリーダム  作者: 昨日シーサイドライン乗った
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 新しい生活



     第二章  成り上がり


 第七十九話   「新しい生活」




 ベッドからムクッと裸の女が起き上がる。

 彼女は学校があるので朝が早い。


 「リュウ様、昨日の手筈通り…… いえ、やっぱり今日は休みます」



  ー昨日ー


 何の確信もないまま俺を呼ぶ女の部屋に入った俺は、高回復薬を飲ませてもらい、部屋にあるシャワー室に女と入った。

 血で固まった髪の毛や肌を優しく洗う女に、死を覚悟した時に起きる子孫を残そうとする力…… つまり、下半身の暴れん坊将軍が暴れる方向に動きだしたのだ。

 もちろん女もそのつもりだったのか、やる気を助長させる態度を取り続けた。


 そして、あっという間に朝が来たので俺達は一睡もしてない。



 「いや、大丈夫。 いつもと同じ行動をして」

 「ふふ、リュウ様……」


 この人の距離感は独特だ…… やたら近いのだ。

 キスをしながらそう思う……


 「ふふ、もうこんなになって…… ステキ」

 「お、お互い服を着よう」

 「絶対ダメです」

 「パ、パンツも?」

 


 彼女の名はリーカ・テムズ・ルイース。

 相変わらず貴族の名は長くてどっちが名前か苗字か分からないけど、本人がルイースと読んでほしいと言うのでルイースが名前だろう。

 ……って言うか、付き合っていたリシファさんやユーリスとは結ばれなくて、ほとんど知らないルイースとあっさりと結ばれたのか。 ……つくづく人の縁とはタイミングだと思う。



 ルイースに言われたのは1つ。

 ルイースが学校に行くと部屋の掃除に家の使用人? が数人部屋に入って来て掃除をしに来る。

 なのでその時に見つからない場所(下から見えない屋根裏の隙間、もしくはベッドの下)に隠れてる。

 出来ればそこで隠れていてほしい、と言われた。


 そして昨日は途切れ途切れの話になったけど、ジーンライネの学校では俺が捕まることを皆んな知っていたと言う。

 フォルマップルに逆らった者は絶対に許さないと言うことを、学生の時から実感させるのだろう。

 

 ところで、ルイースは信用出来るのか?

 俺への愛がある今は信用出来るかも知れないけど、ルイース自体に危険が訪れた時、早めに俺を売るのか、それとも自分を犠牲にするかは分からない。

 ルイースを信用できる時間を共有してないだけに信用し過ぎることは危険だ。


 2、3日、ここで休んだら一気に飛んで逃げるのがベストか。

 何故、2、3日かと言うと……

 高回復薬を飲んでも、肩の関節と腰の関節に違和感がある、特に腰は治りきってない。

 引き回しで肩や腰を痛打し過ぎたか。

 ほぼ何も食べずに拷問を受けていたので、体重があり得ないほど落ちている。

 体力も少しは回復させたい。


 

 ルイースの言った通りに家政婦だかメイドだかがルイースの部屋に入って掃除している。


 昨日は余り喋れなかったけど、ルイースは母が小さな頃に亡くなったので、この家の母親とは血が繋がって無いらしい。

 少し含みのある話し方だったので、彼女も色々とあるのだろう。


 などと考えながら屋根裏の大きな柱に座ってる。

 今日はルイースが帰って来るまでここに居よう。

 使用人達がどういう動きをするか分からないだけに堂々とベッドの下で寝るわけにはいかない。

 

 柱の上で睡魔と戦い待つこと数時間、卒業間近で帰りの早いルイースが帰って来た。


 「リュウ様…… リュウ様!」


 キョロキョロしながら最初は弱く、最後は強く呼んだルイース、俺の隠れてる場所は下から完全に見えない。


 スッと音を立てないように飛び降りる……


 「い、居なくなっちゃったと思ったぁ〜」


 と言って、抱きつくルイース。

 まぁ、あと3日で出て行くつもりだけど。


 「今日は夜遅くじゃないから、下にもちょくちょく行かなきゃ…… 怪しまれちゃう」


 下の階には育ての母が住んでいる。


 「今日は私の生い立ちと今後を話すね。 リュウ様の今後、予定されてることも話してね」

 「そうだね。 それと俺の名は「リュウ」でいいから」

 「ふふ、リュウよりリュウ君がいいな…… ダメ?」

 「いや、別にいい、好きに呼んで」

 「うん!」 


 っと元気に返事をしたルイースだが、その後に神妙な面持ちになって自分のことを話し始めた。



 ルイースは中級貴族の人間、父がリズーンの正妻を娶ったので下級貴族からの格上げになった。

 そのリズーンから来た正妻との子は男だけで4名、でも家督を継げるのは1人なので息子達の仲はよろしくない。


 2番目の妻は今いる家の育ての母。

 その母も成人して家を出た2人の息子が居た。

 2人の息子はこの国で決められた兵役制度により、約5年、軍に所属している。


 ルイースは3番目の妻の子で双子の妹。

 母は姉妹が13歳の時に自らの命を断ち、亡くなった。

 姉はリバティ国の中級の富豪貴族に気に入られて、7番目の嫁として15歳でこの国を出た。



 「じゃあ、この家に13歳からお姉さんとお世話になってたの?」

 「……うん。 当時は大変だったけど、今はまだマシかな……」


 当時は大変か…… 聞いてみたいけど、話してくれない気がする。


 「この家の母親とは上手くやってるの?」

 「どうかなぁ…… 他が分からないからなんて言えばいいか分からない」


 上手くやってれば、そんな言い方はしないだろう。

 触れてはいけないことが多い気がする…… 少なくとも今の俺達の関係では。


 「それよりさ、これからの事を話していい?」

 「うん、俺も話すよ」


 俺のこれからはほとぼりが冷めるまで、氷竜族、もしくは何処かの国で二、三年過ごす、その後にサンカルムの家に戻りたいと思ってる。

 流石に氷竜族の里に二、三年もお世話にはなれないので、ラリィの故郷なんかも候補になる。



 「私はね、姉のシリーンの嫁いだ親戚の人に嫁ぐことが決まっているんだ。 姉が可愛いから双子の妹も可愛いはずだって…… 59歳の人で家督を子供に譲ってて、余生を自分の好きな酪農をしながら自給自足の生活をしたいんだって。 ……私と2人で」


 ルイースにとってはたまった者じゃ無い、迷惑な話だ。


 「家督を譲ってるんだったらただの人でしょ、断ることも出来るんじゃない?」

 「フォルマップルは軍事費ばかりにお金をかけるから、お金の無い国でもあるの。 私がお嫁に行くことで沢山の祝い金が向こうの貴族から入ってくる…… そのお金を親戚一同があてにしちゃってるの…… リュウ君が貴族ならもう一度お願いするのに」

 「何番目でもいいから嫁にしろって? でも平民でも奪いに来いって手紙くれたじゃん」

 「うん…… 自分のことだけ考えればね。 でも、シリーンの立場を考えるとやっぱり無責任かな? って。 それに相手の人も自然と動物を愛する人で、いい人の可能性もあるでしょ」


 立場の弱い者を強引に嫁にしようとしてる時点で、いい人とは思えない。

 だいたい、もう直ぐ60の初老が18歳の他国の娘を娶るって……


 「奪おうか?」


 今なら別に奪ってもいい。


 「……うん、ありがとう。 でも、他にお願いがあるから、遠慮しようかな」

 「他のお願いとは?」



 ルイースは学校を卒業したら直ぐにリバティ国の中級貴族に嫁ぐ予定だった。

 しかし、ルイースがあまりにも嫌がったため、親戚はルイースの亡命を危惧。

 実際、ルイースは亡命するつもりで大会の代表になれるように頑張った、そして代表になれたのだが……

 そこでリュウに出会い一目惚れ。 

 作戦を変更して一番最後の末席でもリュウのお嫁さんになりたいと思った。

 でもリュウが貴族ではないと知り、一旦は諦めたが…… それでも全てを捨ててリュウに付いて行きたい気持ちを捨てられなかった。

 そんな気持ちのまま大会が終わってしまったが……

 


 亡命をさせないように親戚がルイースに与えたのは、高校を卒業してから1年間の自由。

 相手の貴族への名目は、酪農や農業の知識を得るためにルイースには実際にジャーラ地方のカラミージャと言う小さな村で酪農や農業の勉強をする、とのことだが、この土地は下級貴族が管理しているので、実際そこでは中級貴族のルイースはお嬢様扱いされて自由に出来るのだ。



 「自由に出来ると言っても、苦し紛れの1年だとしか思えなかった…… でもそこにリュウ君が現れた。 私のお世話になるカラミージャの酪農を管理する下級貴族の娘は、学校の後輩で良く話をするの、その子の話だと、あの辺りは酪農家だけじゃなく、農家も林業も漁師も人手不足みたいなの。 だから、私の知り合いにカラミージャで働きたい人が居る、って言えば紹介状を書いてくれると思う。 だからリュウ君、貴方の1年を私にください、キャ」


 つまり、俺もカラミージャで1年過ごせって言うのか……

 どうせ行く宛はないけど、危険はないのか?


 「バレる可能性は?」

 「あるよ、普通に。 でも、私は覚悟を決めてるし、リュウ君は逃げれば済むでしょ。 ……でも、凄い田舎だから大丈夫だと思うよ」


 まぁいいか……


 「分かった。 さっき断られたけど、もし1年で気が変わったら直ぐに言ってな。 奪われる権利はルイースにあるからさ」

 「ふふ、初めから好きだし、今はもっと好き。 ……だから、ね」


 気づかないうちにルイースは俺との距離をゼロに詰めている。

 そして絡める指に舌……



 ルイース

 

 154センチと俺の知り合いの女の子の中では小柄。

 肩より少し伸びたストレートのしっとりとした金髪。

 地味目な目元に高くも低くもない鼻と口、それでも配置がいいのか飽きのこない美人。

 ……きっと、クラスの最初のうちは目立たないけど最後の方は1番モテてそうなタイプの顔。

 間違いなくエッチ好きで服を脱いだらそのままの裸族。

 



 これからの計画。


 ルイースによれば地下にある下水道を通れば街の外に出られるらしいが、飛べる手段が奪われるので地下には行きたくない。

 やっぱり夜中に警戒しながら進む計画にする。


 実行日は日を見て決めよう……

 幸いにこの部屋に育ての母は入って来ないし、基本、この家は静かにしていれば安全だ。



 「リュウ君……」


 俺を呼ぶルイース……

 まさか夕飯前にもう一回⁈


 「使って欲しい物があるの、持って来るね」


 まさか、エッチなアイテムでは…… と、思ったけど違かった。

 裸のままのルイースが持って来たのは、"ルイース"と名前が彫ってある、少し長めの短剣だった。


 「お母さんが自殺する少し前に、私と姉にそれぞれ名前入りの短剣をくれたの。 ……リュウ君はどっちが欲しい?」


 自分と短剣を指して、ジッと俺を見つめる……


 スレンダーで胸はそれほど大きくはないが、綺麗な形で全体的なシルエットが良い。

 もちろん、答えなど決まっている。

 生身の人間に勝てる物はない、ルイースを引き寄せる。


 「リュ、リュウ君…… 嬉しいよ…… デ、デカっ」


 何がデカいのかはさて置き、やっぱり夕飯前にもう一回。

 ルイースは本当にコレが大好きだ。

 俺? 俺は普通だ…… ただ、この前に死を感じるほどの拷問を受けたから下半身が暴れたがってるだけだ。

 だから、俺、個人としては普通なのだ。


 「リュウ君って絶倫? 夜も楽しみだなぁ〜」

 「………………」



 拷問から俺の下半身はスケベモードから抜け出せなくなっている。

 ユーリスと別れたばっかりなのに、もうユーリスへの想いが薄れているのが分かる…… と言っても、ルイースへ特別な想いはない。

 あるのは感謝で、もしルイースが俺を求めるなら、これからずっとルイースを守ろうと思う。

 それくらい今回は助かった。

 

 でも、この短剣は貰えないな。


 「この短剣は親の形見だろ? 貰えないよ」

 「そんなたいそうな物じゃないよ。 その短剣はきっとお母さんが自分と一緒に私達も自殺させようとして送った物。 ……って姉のシリーンが言ってたよ」

 「でも、俺が持つことでルイースは危険だよ。 この国の拷問はルイースじゃあ1日だって耐えられないと思うよ」

 

 俺がやられたら名前付きのこの短剣で、ルイースは反逆罪の罪に問われる。


 「分かってる…… じゃあ短剣はカラミージャで返してよ、必ずカラミージャで会えるって証拠品ってことで。 なんか凄く楽しみで仕方ないな〜。 ヨシ!絶対に悔いのない1年に……」


 と、その時にドアから"コンコン"っと音がした。


 ルイースが食事を摂るジェスチャーをしながら、「はい?」と答える。


 「お嬢様、お食事のご用意が出来ております」


 ルイースはチラッと時計を見て、「はい、直ぐ行きます」と言った。


 ササっと着替える途中にルイースは俺にアイコンタクト。

 俺はマイポジションの屋根裏の柱へと移動する。



 ルイースは食事中。


 シーンと静まる部屋にポツポツと音が聞こえる。

 いつの間にか雨が降り出した。

 雨は逃げるチャンスではある。

 でもまだ警戒中だろうし、俺の体力も体調も戻ってない。

 

 などと考えていると、下で扉の開く音がした。

 でもまだルイースは食事に行ったばかりだ。

 そっと下を覗くと……

 使用人の1人がドアから顔だけ出して部屋の中をグルっと見渡した。

 

 もしかしたら声が外に漏れてたかも知れない、ルイースに伝えなければ……




 ルイースは食料を持って帰って来た。


 俺は口の前に指を1本立て、シッ、っとする。

 そして小声で話す。


 「さっき使用人が不思議そうに部屋を覗いてた。 今は扉の前に気配はないけど、気をつけた方がいい」

 「うん…… リュウ君、夜遅くまで勉強するからって夜食を作って貰ったよ、偉い?」

 

 ちょくちょく食料を運んでくれる。

 そして、見返りも要求する。


 「ありがとう、昨日と同じでいい?」

 「ふふ、いい。 あんまりくすぐって笑わせないでね、気づかれちゃうから」

 「どうしようかな? 我慢すれば?」

 「ふふ、エッチ」


 お風呂での洗いっこ。

 ちなみにルイースは俺が初めてではない。

 でも、それを聞くほど俺達の関係は深くはない……



 また今日も、ほとんど寝ずにルイースを抱いていた。

 そして寝不足のままマイポジション、柱の上。


 昨日はあまりにも楽しそうに抱かれるルイースに、「ルイースはエッチが好きだね」と言ってしまった。

 その後のルイースの言葉は耳を疑った。


 「何度も死のうと思うほど大嫌いなこと。 シリーンとタイミングがズレなければとっくに死んでるよ」


 含みのある言葉だったのでその先も聞いた。

 ルイースは絶対に自分を嫌いにならないで、との約束でその先を話してくれた。


 シリーンとルイースがこの家に来てから半年、この家の息子達に無理矢理弄ばれた。

 3ヶ月ほどで長男が入隊してからは主に次男が2人を抱いた。

 しかし、その次男も1年後に入隊してからは平穏が続いてる。


 シリーンが死のうと思った時とルイースの死のうと思った時がズレたので、今、2人は生きている。


 「でも好きな人とはこんなに楽しいことって今知ったよ。 ……変な過去がある汚れた女だからって嫌いにならないでね」

 「なるわけないだろ、それに汚れてもない。 よく我慢したね、お姉さんもルイースも……」

 「……ずっと、生きるのも辛かったよ」


 不幸すぎる姉妹…… 未来はどうなる……



 なんて、話をした。

 思えばルイースはどこか投げやりなところがあった。

 その話を聞いた後では、むしろ死に場所を探しているような気さえしてくる。


 この命はルイースが救ってくれた…… もちろん普通に逃げれた可能性だってある。

 しかし夜空を飛ぶジェットは、青白く薄い炎があがるので、中途半端な高さだと目立つのだ。

 見つかれば無手で動くのだってやっとの状態では捕まってた可能性の方が高い。

 今度はもっと酷い、手っ取り早く殺すための拷問が待っていただろう。 

 だから命を救ってくれたルイースが求める物の全てを与えよう。

 それが俺に出来る恩返しだ。




 それから2日。


 充分に注意してこの部屋で体力は回復してきた。

 そして、好都合が重なり合う。


 ルイースの学校での情報。

 リュウが逃げたとの噂が流れていたが、今日は逃げたリュウが捕まったとの噂が出ていた。

 きっと軍から流れた情報操作、今後はナラサージュを疑いながら俺を探すつもりだろう。

 つまり、この街には俺はもう居ないという判断だと思う。


 雨が降り続いている。

 雨足を早めながら降り続ける雨。

 情報では俺の捜索は国外に移しつつある。

 特に、まだ貴族街にいるとは思ってないだろう。


 最後は今日ルイースが持ってきた紹介状。

 学校の先輩で身元のしっかりしたいい人なので、安心して雇用出来ます、みたいな事が書いてある。

 


 条件が揃った。


 「ルイース、俺は今日の夜中に出るよ」

 「えっ、ヤダ…… まだダメだよ」

 「ルイースが居ない時にこの部屋を使用人がしらみ潰しに何かを探してる、もちろん俺の痕跡だろう」


 特にベッドのシーツとかを匂っているのには驚いた。


 「大丈夫、しっかり掃除してるもん…… リュウ君、私の人生で今が一番幸せな時って気づいちゃったの、だって帰ってきたら好きな人が部屋に居て、何度も何度も私を求めてくれるのよ…… 最高過ぎるよ」

 「え〜と、求めてるのはルイースも同じくらいじゃない? って言うか終わったら服を着よう」


 ルイースはこの部屋ではほぼ裸。

 

 「ふふ、まだまだ見て欲しい。 1年間で飽きられるのが私の目標。 だから今のペースで抱いて」

 「ルイースがいいなら問題ない。 でも1年で飽きるのは難しい」

 「リュウ君……」


 という事で、盛りのついたメス猫のように身体を擦り寄せてくるルイース。

 瞳も潤んでいるのでこの攻撃を交わすのは無理……

 

 本当に暇さえあればルイースを抱いているので俺達の親密になる速度が早い。

 本気で感じて本気で求めてくるルイースを愛おしく思える自分がいる。

 絶望としか思えない俺達の未来を、今だけはどうでもいいと思えるのだ……



 結局、もう1日だけ部屋で忍んで、夜中に部屋を出た。

 雨のピークは過ぎたが、それでも降ったり止んだりを繰り返している。



 

 シーンと静まる辺り……

 

 いくら短剣を持っているとしても争いはせずに静かに街を出たい。

 身体の状態は未だに腰に痛みがあるけど、短剣さえ持っていれば飛べる種に追いつかれても負ける気はしない。 ……もちろん相手が何人でも。

 それくらい小さな頃からの練習量、戦いに勝つことを考えた時間の多さがある。

 繊細に、しかし大胆に進む。



 記憶を頼りに下級貴族が住むエリアまで来た。

 途中、何人かが歩いていたけど隠れてやり過ごす。

 似たような道だけど、この辺りはもう下級貴族が暮らしている家だと思う、一気に貧乏くさい平屋の家になるからだ。

 

 いつかラリィと歩いた道、ほんの数ヶ月前でも何年も前のように感じる。

 ユーリスと言うとびきり綺麗なお姫様と別れ、ラザノフやラリィとも別れなくてはならなくなる未来しか想像出来ない……

 

 今回のことは自分のことだったので拷問を受けてもそれほど怒りはなかった。 ……だけど、もしリーブルに住めなくなるならその時はこの街に戻って来て、あの城に居る奴等をぶった斬りにしよう。

 何と言っても全裸での街中引き回しは、恥ずかしいと思う暇もなく、ただ激痛との戦いだった。

 骨が見えそうなくらいの深い擦り傷を救ってくれたのが、我がアイドルのレミアが教えてくれた回復魔術と父方から受け継がれた無詠唱スキルのおかげ。

 これが無かったら間違いなく出血多量で死んでただろう。


 そうだ…… レミア……

 

 まだ未来は流動的だけどレミアの守り人をしてもいい。 ……って言うか、是非したい!

 そうなれば毎日あの人と一緒に居られる……

 なんだろう、この嬉しさ。

 ルイースとの1年を過ごしたら東の森へ行こう!

 


 俺はその決意を胸に、この街を後にした。

 


 

 「リュウ君が目指す町はジャーラ地方のカラミージャ。 近くにあるホッテン湖はリーブルで1番大きい湖なの。 なんとその大きさは約10万平方キロメートルもあるのよ、だから南にあるホッテン湖を目指せば着けると思う。 とにかくホッテン湖にカラミージャ村だけ忘れないで。 私は1週間遅れで向かう予定だから。 ふふ、追い越しちゃうかもね」


 と言ってたルイース。

 ルイースは俺が飛べるとは言ってないので道中のメシ代などをもらった。

 ここからは千キロ以上あるらしい……


 実際にリーブルで1番大きい湖、ホッテン湖。 

 でも、10万平方メートルと言われても全くピンとこない。

 やっぱり日本人なら東京ドームで例えてほしい。


 「ふふ、ホッテン湖は東京ドーム20個分の大きさがあるのよ」


 と言われたら……


 わ…… 分からん!


 とにかくデカい沼とでも覚えておこう。




 ジェットで出発する。


 飛べる種の対策として考えたのは、とにかく真っ直ぐ上昇する、という事。

 翼で羽ばたく種は、そのまま上昇する時のスピードは遅い。

 柔らかに円を描きながら上昇する方が速いけど無駄が多い。 ……ラリィがそうだった。

 だから面倒くさそうな時はひたすら上昇しよう。



 幸いなのかこの国の今の時期はどんよりと曇っている時間が多いらしい、ジェットで飛んで行っても問題なさそう。

 ただ南方面としか分からないと言うので、距離だけを合わせて人に尋ねながら行くしかない。

 


 ルイースの友達の手紙には俺は準貴族の末っ子と言う設定になっている。

 フォルマップルだけにある準貴族。

 準貴族とは何らかの功績をあげれば直ぐに下級貴族になれるし、反対に少しの失敗で直ぐに平民にされる。

 貴族ではなく平民でもない、あやふやな立場の貴族。

 貴族からは平民と思われ、平民からは貴族と思われるという立場の末っ子。

 末っ子なので行く行くは平民確定の立場だけど、今はまだ準貴族だ。

 えっ、何で平民確定なのか?

 それは貴族の女が準貴族の男と結婚するはずがないからだ。

 まぁ、婿とかならいけそうな気がするけど、基本的に貴族の女は自分で相手を選べない。

 自分達の階級を気にする貴族に、ほぼ平民の準貴族の末っ子を婿に向かい入れるはずがない、特にフォルマップルという国では。


 そんな絶妙に微妙な立場の俺は、学校には通ってないけどルイースの友達の友達で、ルイースとも面識がある。

 ルイースの友達はカラミージャを管理する下級貴族の三女で名はミハラナ、俺の友達で同じ歳設定。

 ちなみに俺の名はターナカ・ユーキオー。

 貴族の名前だから適当に長くした昔の友達の名前を付けた。



 ひたすらジェットで飛んで来た。

 ジェットの速度と時間を計って来たけど、ここら辺が千キロくらい……

 今は夜の7時、下を見ると遠くに光が多数ある。

 あそこは何処かの町だろう。

 丁度、町へ続く街道があるので降りて歩いて町を目指すことにした。

 いつものように草木が並ぶ小さな森に降りた。

 そして、街道へ……


 そう思って歩き出して5分も経たずに、下から登って来た6人組と鉢合わせた。

 その6人組の1番容姿がいい男が俺に話しかけた。 

 

 「ハァ、ハァ…… 今、この山に何か落ちて来なかったか?」


 ……前に刺客として襲ってきた血を操る奴と赤い目と腕の引っ掻き傷がそっくりだ。

 フォルマップルに居る上位亜人?


 「さて? 知らないな」


 ジェットの光を見て追いかけて来たか。


 「お前はこの山で何してる?」


 今度はガタイのいい、デカい男が聞いてきた。


 「別に…… 用を足しに来ただけ」



 ーーーーー



 この男は怪しい。

 ただ者じゃない雰囲気と俺達パーティーに囲まれても余裕の態度…… 絶対何か知っている!

 痛めつけてから話させる!

 アイコンタクトでパターンCの合図を送ると、待ってましたとばかりに口からブッ、っと糸の網を男の上空に吐くコバーン。


 コバーンは中位亜人だが、スキルで口から糸の網を出せる、素手では抜けれない網目だ。


 男の逃げ道を奪うようにゾルタとミゲルが男に襲いかかる。


 双子の兄弟ゾルタとミゲルは小柄だが寝技が得意。

 コバーンの糸に絡んだ相手を2人の寝技で破壊するのがパターンC。

 ちなみに肉の鎧と言えば聞こえはいいが、ゾルタとミゲルは小太りだ。 

 当然、汗っかきの2人の寝技の練習は…… 何か気持ち悪い。

 

 

 しかし、先に怪しい男に辿り着いたミゲルが"スッパーン"という音と共に、体をくの字にして吹っ飛び、怪しい男はありえない速さでバックステップでコバーンの網を交わした。

 後ろに走り込もうとしている鬼族ハーフのオーマイも間に合わない。

 それなら俺のブラッドアローでで仕留める!

 

 ビュ、ビュ、っと連続で技を出すが男に交わされる。

 その男が小さな小石? をふんわりと投げてきたのでブラッドアローで弾く……

 その瞬間、ドッカーンと爆発があり、俺達全員が吹っ飛ばされた。


 パラパラと落ちてくる小石、辺りは土埃で何も見えない……

 ドロっと額から流れる血…… 吹っ飛んだ時に何処かにぶつけたか。


 「サジ! 何処だ、サジ!」


 オーマイの声……


 「ここだ、オーマイ。 それより何がおきた」


 土埃が徐々に消えて、吹っ飛ばされた仲間達もそれぞれ集まったが、それほどの重症者は居ない。

 だが…… 怪しい男から変な打撃を受けたミゲルだけは肋骨の骨が何本かやられて重症だ……

 当然、怪しい男は形跡さえなく消えている。


 俺達はフォルマップルの代表に選ばれるくらいに強いパーティーだ。


 いったいアイツは何者……?



 ーーーーー




 フォルマップル国の南に位置する"アガイヤサン"と言う小さな町。


 肉と野菜を特製のタレを絡めて炒めたものを食べながら思う、美味いと。

 さっきの奴等とこの町で鉢合わせる可能性はあるけど、もう俺の用事は終わった。


 用事、1  ホッテン湖の位置を誰かに聞く。

 ホッテン湖はここから西へ約100キロ、そしてカラミージャ村は湖の南側。


 余裕があれば 用事、2  食事をする(今、してる)。


 

 ここから100キロなら2時間も飛べば余裕で着ける。

 問題は働き場所。


 ルイースは俺に自分の護衛の仕事をさせる気だけど、そうなると住む場所がない。

 ルイースは酪農を営む下級貴族の家に泊まり込みで1年過ごす予定だが、俺まで泊まることは出来ない。

 近くの借家を借りるしかないけど、ルイースからの給料では無理そう。

 空いてる時間で働ければいいが……


 などと考えているうちに湖の南側に着いた。


 

 小高い丘には緑の絨毯が履かれているように草花が生っている。

 上にはポツリポツリと酪農をしている家? があり、下の湖のほとりに家が沢山建てられている。

 

 きっとここがカラミージャ、俺が1年過ごす場所。

 

 

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