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転生 フリーダム  作者: 昨日シーサイドライン乗った
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 拷問の行き着くところは



     第二章  成り上がり


 第七十八話  「拷問の行き着くところは」




 淡々と日々を過ごして明日がユーリスとの旅行日。

 詳しい予定は……


 2泊3日のプラン。

 夜に街の外から海沿いに30キロくらいにある、大きな公園で待ち合わせてユーリスを背負って飛ぶ。

 

 朝方に着く予定の場所は、小さな島で王族の島。

 西側には島を管理する人が何人かは住んでいるけど、東側の王族の別荘辺りには誰も住んでない。


 隣にも島があり、こちらは大きな島で観光地として発展してるらしい。


 2日過ごして夕方に帰路につき、日付が変わる前には戻って来る予定。


 その後の俺は1週間でサンカルムに別れを告げて、リバティ国のスーザンという街まで行く。

 そこで土竜族族長ガルフさんと、ナラサージュ王子のキャプトマン立ち会いの元、フォルマップル国に引き渡しが行われる。


 つまり、結局ユーリスにはバレる。


 だから旅行中に言わないと……



 次の日。


 1年最後の試験も終わって数日の休みの後、卒業する3年のために卒業式? のようなイベントの練習、そして卒業をする3年を見送って俺達も1年生を卒業する。

 ただし俺は途中までしか出れない……


 「リュウ君? 最近なんだか元気ないけど大丈夫?」

 「そう? 元気だよ、ミナリ。 ところで最近はカナリもセシルさんも余り近寄って来ないのは何で?」


 弁当も途中から無くなった。 


 「うん、きっともう諦めたんだと思う。 特に大会でリュウ君が大モテしてたって聞いて私もそうだけどガッカリして…… そんな時、私もそうだけど他の男の子から言い寄られたんだよねぇ。 2人も結構モテるでしょ、私もそうだけど」


 私アピール、凄いな……


 「じゃあ、その人達と付き合ってるんだ?」

 「どうだろうね? ちなみにセシルさんの相手は剣術専攻の2年で人間の貴族、背は162センチで顔はまあまあと言えなくもないブサイク。 カナリの相手も2年で貴族で亜人、171センチで顔はリュウ君の顔をラザノフ君が100発くらい殴った後の勘違い色男」


 すんごい興味ある顔だから見てみたい!

 って言うか、ラザノフにそんだけ殴られたら屍だっつうの、それに似てて勘違いするの?


 「ミナリに言い寄って来た奴の特徴は?」

 「ふふ、何で? すっごい気になっちゃった? フフフゥ〜、いいよ、そんなにやきもち焼くなら教えてあげる。 3年で剣術代表、3年で1番カッコいいと噂のオルキン。 ……ってリュウ君も知ってるよね。 それとこのクラスの貴族の2人、アゴとアンジェルート。 槍術専攻からはホルンマニと……」

 「ミナリ、もういいよ。 知ってたけどミナリってモテるんだね、まさかオルキンまで言い寄ってるとはね」


 しかも立場は人間と亜人。


 「ふふ、それでも私は興味ないけどね。 それより気になるんだけどポルカ先生がリュウ君ばっかり見て悲しそうな顔してるの。 …… もしかして、フった?」

 「何でポルカ先生が俺を好きになる! …… 知らないけど先生も発情期になるんじゃない。 発情期に俺の顔を見ると悲しくなるとか」

 「キャハハハ、そんな訳ないでしょ。 カナリなんか発情しててもちっとも悲しい顔なんてしてなかったよ」


 いつだよ、それ?


 「それより何か悩みがあるなら私に言うんだよ、リュウ君。 また私の傷跡、ガン見したくなっちゃった? ……ふふ、見せてもいいけどリュウ君が発情期になっちゃうよ」

 「そしたらミナリを悲しい顔で見るよ……」


 まぁ、見たいって言えば見たいけど…… ミナリって鋭いけど抜けてるな。


 でもミナリと話すと元気になれる、感謝……



 ーーーーー



 夜、風呂の後に出かける。


 海沿いに30キロくらいと言っていたけどその理由は……

 ユーリスは両親に、ラースビーさん達といつもの試験後の旅行と言っているらしく、実際にラースビーさん達はこの前俺も行った旅行先に行く。

 もちろん俺達とは別行動になるけど、帰りも同じ場所、同じ時間くらいに待ち合わせしている。


 下に注意しながら小一時間も飛ぶと、公園が見える。

 グルっと回ると馬車が目立つ…… あそこだ。



 馬車の外にはいつもの2人……ではないけど、見たことのある顔。

 俺に近寄って来た、その人が話す。


 「リュウ様ですよね、何度かお目にかかっておりますがお話しをするのは初めてなのでご挨拶をさせて下さい。 私、ラースビー様の付き人をしておりますハラーと申します。 実はラースビー様からリュウ様への伝言を承り、待っていました」


 ……何らかの理由で遅れてる?


 「……はい、何でしょう?」

 「ラースビー様からリュウ様への伝言は、『急遽、ユーリス様の予定が早まり、私達は本日の夕刻よりゴールタール国の首都、フェークスに向かいます。 2年間の滞在を予定しております。 リュウ君と2年後に元気な姿で会えることを私達全員、心より望んでおります。 リュウ君、絶対に無理はしないで』で、ございます」


 そうか…… 何かしらバレたのかもな……

 フォルマップルに行く前の唯一の楽しみが無くなった……


 「もう、ゴールタール国へ向かったのですか?」

 「はい、多分…… 私はラースビー様達が出掛けるより前に、ここに向かって来たので……」


 馬車でもここまで結構時間がかかるのか……


 「分かりました。 ラースビーさんに会った時は、『自分も2年後に会える日を楽しみにしています』と、伝えて下さい」

 「はい。 承りました」


 こうしてユーリスと俺の付き合いは結ばれることなく終わった。

 虚しい気持ちで帰るのも面倒くさい……



 帰り道、虚しい気持ちを振り切るように、海岸線から海に出て沖に行って海に潜る…… そして海面にプカプカ浮いて空を見る。


 この時期に海に浮かび、空を見上げてる変態は俺だけだろう……


 いつかユキナが言っていた星が、更に近くに接近した気がする。


 ユーリス…… 今、お前を追いかければ追いつくだろう。

 そして、追いつけばその場では幸せを感じるに違いない。

 でも…… ユーリスはそれを求めてない。

 もし求めてくれたら、あの星に2人で逃げたって良かったのに……


 分かっていたけど残念な恋の終わりと、この後にある憂鬱なことを思うと脱力感が出て来る。


 今までと違って楽観は出来ない。

 誰だか分からない状況で飛ぶのは有りだけど、俺と認識されているのなら飛びたくない。

 飛ぶのを知るのは完全な味方か、もう会うことのない敵かにしたい。 

 つまり逃げれるからと言って喜んで飛んで逃げることは出来ないのだ。

 しかも、あそこには俺より速く飛べる奴等もいる。

 

 難しい状況になるのは間違いない……



 それからの数日は大人しく過ごした。

 ポルカ先生も問題を抱えているけど、見る限りポルカ先生が傷ついている様はない。

 ただ俺を見て無理に微笑むだけ…… 本当にシスターみたい。


 いつものように明るく振る舞うミナリも何処か違和感を感じているようだ。 


 ラザノフも少し俺に気を使っているのが分かる。

 竜族の癖に優しい男だ。


 そしてラリィは全く変わらない。 ……ただ夜に俺のベッドに来なくなった。

 母ちゃんと地下で寝ているラリィ、それでも母ちゃんと寝ると暑くて寝づらい、と言って体温の低い俺と寝ていた。

 それは父ちゃんと別れてからずっと続いていた事なので仕方ないけど、このタイミングだと何か気づいていると思ってしまう。

 とにかくラリィは1人で寝れるようになった。




 引き渡しが行われる日に向けて出発する。

 今回は王族の船で向かう。


 王族の船は少し他の船と違っていて、前に動力船があり後ろの船が引っ張られている形になる。

 俺達の船とは比べ物にならないくらい大きく、そして速い。

 

 船の中ではキャプトマン王子と話す機会が多く、部屋も豪華な1人部屋だった。

 とても平民に対する対応とは思えないけど、この後の悲惨を思えば妥当な対応か⁈

 何よりキャプトマン王子がとても気を使ってくれたのが逆に不安を煽った。

 そのキャプトマン王子が俺に言った言葉。


 「村人を解放してもらったら全力でリュウの解放を求める。 多方面からも協力してもらう手筈も準備してあるが…… 君は魔術も規格外と聞いた、だから少しでも隙があれば逃げるんだ。 ……その後のことは気にするな、次は僕が上手くやる」

 

 魔術を上手く使えば、逃げるチャンスが出てくる⁈

 そんな甘くはないだろう、なんと言っても俺は魔術のレパートリーが少ない。


 でもまあ、この王子様はいい人だ……



 途中、ガルフさんとガルフさんの付き人のルカルスさん達も合流して馬車で進む。


 ガルフさんやルカルスさんもキャプトマン王子と同じようなことを言ってたけど、少し違ったのが氷竜族について。

 氷竜族はホオヒューガ国にあって、竜族の中でも今は1番レベルが高いらしい。

 ルカルスさんでも氷竜族に入ると、3、4番手レベルになるし、トップの人は上位亜人の中でもトップの中のトップレベルらしい。

 フォルマップルも氷竜族は無視できないけど、氷竜族は人間の俺とは繋がりがない。

 だから俺が戻って来たら直ぐにでも氷竜族の里に行こう、と言ってくれて、もしかしたらの場合に氷竜族の里の場所も地図で示してくれた。

 思いっきり逃げるつもりなのでありがたい。



 数日かかって着いた町は、リバティ国スーザン。


 閑散とした田舎町に不釣り合いな審査、フォルマップル国の近くの町はみんなそうなのかも知れない。


 約束の日時は明日の朝なので宿で1日過ごす……



 その日の夕食時に聞いた情報では、拉致された村人は16名、子供や老人まで含むらしい。

 俺との交換で助かるらしいが、俺は難しい。


 俺はここから比較的近いフォルマップル国の首都に連行されて、平民が貴族に逆らった罪を償うけど、学校での問題なので普通は不問だ。

 それでもやり過ぎを見過ごすことが出来ない理由で、フォルマップル国の牢屋に入れられる予定。

 期間は一応あるが、出て来れると思ってる人はここには居ない。


 ちなみに村人の罪状は不当にフォルマップル国の山に入って資源などを盗んだことになっている。



 「リュウ君、済まんな、ワシ等の力が足りなくて…… でも、どういう見通しを考えているのか少し教えて欲しい、情け無いがリュウ君を助けれなくてサラノフが怒っているんだ」


 サラノフさんも心配してくれてる。

 竜族って優しいよね……


 「サラノフさんの教え通り、俺が飛べることは余り知られていません。 いざとなれば飛びます」


 知ってるのは信頼出来る仲間達だけ、と思う。


 「そうか、ワシ達はこの足で氷竜族の里に顔を出してくる。 そこでリュウ君のことを伝えよう。 もし、隠れ場所が必要なら氷竜族の里を使うがいい、あそこなら安心だ」


 派手に逃げた時は氷竜族の里で匿ってもらおう。

 でも、出来るだけ派手じゃなく(人を傷つけずに)逃げたい気持ちはある。

 派手であるほど(フォルマップルの人を何人も殺める)、俺はサンカルムの家に帰れなくなる。

 でも、背に腹はかえられない……




 次の日に実質的な人質交換。

 

 大きな噴水のある広場で立場上は中立のリバティ国の兵士が周りを囲む。

 この国での揉め事は起こさせない、と言った雰囲気だが、土竜族が絡んでいるので仕方なく場所を提供したって感じか。

 その後ろには野次馬達が少しづつ集まって来ている。


 先にキャプトマン王子一行がフォルマップル国の代表者と話している。 

 遠くから見ると、キャプトマン王子が身振り手振りで相手に訴えているのが分かる。 ……何かあった?


 そして戻って来たキャプトマン王子が俺に話しかける。


 「村人16名が14名しか居ない。 理由を尋ねたら持病で2人死んだと言われた」

 

 白々しく持病か?

 どんな拷問したんだ…… って俺もやばい。


 「リュウ、フォルマップルに忍ばせている僕の私兵は忘れてないよな?」


 キャプトマン王子がフォルマップル国の平民街に忍ばせている私兵。

 彼等は毎日18時に"ゴルタイ"という飲み屋に交代で飲みに来ているという。

 なので俺が逃げれた場合、"ゴルタイ"に行けばその後の手引きをしてもらえる手筈だそうだ。

 

 「忘れてないですよ、でも選択肢の一つでしか無いです」


 飛んで逃げるのなら意味がない。


 「ああ、それでいい。 とにかく僕もこの後にリズーンに寄るつもりだ」


 多分、フォルマップル国が唯一逆らえない国リズーン。

 でも、弱小で魔術開発や文化水準の低いナラサージュ国の望み、特に平民の1人を助けるために口添えしてくれることは無いだろう。


 

 交換はスムーズに行われた。


 元々、この場では逃げる気などない、交換がしっかりと終わらないと約束そのものを反故される可能性がある。


 チラッと見る村人達は、皆どこかしらに痣がある。

 女、子供関係なしだ……



 俺は罪人のように背後手で手枷をされて馬車に乗せられた。

 俺を取り囲むように4人の屈強な男達が監視する。


 今は逃げれるか? ……と聞かれたら「無理」と答える。

 理由は背後手で手枷をされてるから。

 前で手枷ならジェットを浴びさせて口から魔術を織り交ぜれば、馬車の外に出ることも出来るかも知れない。

 でも背後手に手枷では無理、チャンスを待とう。



 「お前はいい男だなぁ。 でも数日後には見る影もなくなってるだろうな、ガッハハハ、残念なバカだぜ」


 嬉しそうに隣のブサイクな男が言った。

 他の3人もニヤニヤしてる……


 俺は何も応えない、ただ今なら逃げれるか? を自問するだけ。 ……でも答えはNOだ。


 当然、この男達は何かしらの武術をしている。

 それは分かるけど強いかどうかは分からない。

 強引に仕掛けて失敗して、今後に厳しい体制とされるよりは今は我慢してチャンスを伺おう……



 旅はそれほど長くはならなかったけど俺に飯は無し、腹減った。


 着いた場所ももう城の中だったので、高く飛び逃げる手も出来ず……

 城の中から2階に上がって渡り廊下を歩いて別館に連れて来られた。

 そこで看守のような制服の男達に引き渡され、乱暴に引っ張られて部屋に連れて来られた。


 その部屋は上からロープが下がっていて、俺の背後手にはめてある手枷とロープを結んで更に絞る。

 背後にある手枷が上に引っ張られて、俺は前のめりになって後ろにある手が上に引っ張られている状態になる。

 普通ならかなり苦しい体勢だけど、俺の身体は小さな頃からの鍛錬により軟体動物のように柔らかい。 ……それでも苦しそうにしておく。


 

 ここにいる看守は5人、2人は椅子に座ってテーブルにある書類とノートを見ている。

 他の3人はのうち1人は、テーブルから少し離れたところで椅子に座って残りの2人と談笑してる。

 残りの2人は竹刀のような棒を持っているので、この2人が俺に体罰を与える係だろう。


 更に2人の男が入って来たところで皆の動きが止まる…… 1人はフォルマップル国の教師だ、見たことがある。


 「ミガー、これがリュウで間違いないな」

 「はい、確かにナラサージュ国の平民、リュウです」


 ふんっ、って感じで喋ってた豪華な服を着た男(初老)が紙を広げて俺に話す。


 「学校内では身分差がないなどと謳っていても、それは同国内でのこと。 国の違う平民に我が国の貴族の教師が廃人にされたことを黙っているフォルマップル国ではない! 特にナラサージュ国など観光以外に何もない国の平民なら尚更だ」


 じゃあ校則に書いとけよ、と言いたいけど喋らない。


 「よってお前の処分は打首! ……と言いたいところだが、余りにもナラサージュの何とかマンとか言う王子がうるさいからな……」


 初老は罰を考えているフリをする……


 「ブハハ、明日の朝から3日、街中引き回し。 これよりひと月、棒打ち50回。 永遠の強制労働とする。 ……何か異論はあるか、リュウよ」


 俺の体勢は前屈みなので下だけ見て何も応えない。

 

 「ブハハハ、調子に乗りすぎたな、今はショックで喋ることも出来ないか⁈」


 何とでも言え……


 しかし、気になるのが罰を言った時の他の奴等の顔、一瞬、嫌な笑みをした……



 この体罰を切り抜ければ強制労働が待っている。

 飛ぶことを知られてない俺は逃げれるが……

 体罰が重すぎる…… 耐えられるか?



 この日、1日目の棒打ちが行われた。


 始めから同じくらいの強さで打つ看守。

 ただ、痛みを耐えるだけの時間……

 俺に考えれるのは、あと何回耐えれば終わるのかと、今すぐ仕掛ければ逃げれるか? の自問だけ。

 それでも答えはいつも同じ、まだ無理だ。


 棒打ちの回数が40回を過ぎた頃、看守達は俺の頭を必要に打ってきた。

 そして、40数回目、俺の意識が刈り取られた……

 



 ボーっとする意識のまま目が覚める……

 何処かの部屋に移されたが手枷は背後手ではめられたまま。

 棒で打たれた頭から流れた血は自然と止まったみたいだが、顔中血のりが付いているのが分かる。

 体勢の辛さと、食べてないから体力も減っているのにも気づく。


 それでも時間は来る。



 街中、引き回しの刑とは。


 グルグルにロープを巻かれて馬に引きずられる。

 当然、衣服はボロボロになって吹き飛び、地肌は地面に擦られぶつかる。

 最後は衣服などほぼ無い状態で、全身、血だらけになって戻って来る。


 

 こんな拷問を3日も受けたら確実に死ぬ……


 

 それでも引きずられながら少しだけ分かったこともある。

 それは、キャプトマン王子の私兵が平民街に居た。

 引きずられる俺に必死で自分の胸を叩いて、まるで『俺だ、俺だ』と言っているようだった。

 一度だけど会っているので間違いない。


 もう1つは貴族街に知ってる顔が居たこと。

 全員がこの前の大会で会った奴だろうけど、その反応はさまざま。

 男はだいたいがニヤつき、『ざま〜見ろ!』って感じだったけど、女は哀れんだ感じだった。

 中でも1人、俺に攫って欲しいと手紙をくれた子は膝から崩れ落ちて止めどなく涙を流していた。

 こんなことでフォルマップルに来るのではなく、あの子を奪いにここに来ていたら良かったのに…… などと思いながら俺は裸で引きずられていた。



 未だに背後手で手枷をはめられて、地下にある牢屋に入れられた。

 全身から噴き出る血は、さっきゲリールをかけてやっと止まった…… が、また透明の液体と共に染みる。


 何日かぶりになる食事も、とてもじゃないけど食べれる状態にはない。


 幸い骨折は無さそうだけど全身打撲に裂傷、特に関節の痛みが酷い。

 少しでも動かすだけで激痛が襲うので、明日の引き回しでは気を失う可能性がある。

 気を失えば受け身も取れなくなり、運が悪ければ首の骨を折って死ぬだろう。

 まぁ、気を失わなくても致死量を超える血が流れる可能性大だ。


 それでも明日のことなど考えてはいられない。

 今日の夜には棒打ちが待っている……



 夜、地下牢から2階の拷問部屋まで来た。

 部屋にはテーブルで書類を広げる人の姿はなく、体罰を実行する3人だけ。

 部屋はロープが下がっている後ろに横幅10センチ、縦幅5センチの小さな空気穴みたいのが空いている。

 多分、拷問中に漏らしたり吐いたりした物を排除する穴だろう。



 「流石にタフだなぁ。 引き回しで歩けるくらいにピンピンしてるのを見たのは初めてだ」

 「ああ、でも引き回しに棒打ちのセットで2日目に入った奴って居たかな?」

 「半狂乱になって次の日に死んだ奴は居たな。 コイツも明日にはそうなるさ」


 いつか仕返しに来る、いつか仕返しに来る、いつか仕返しに来る。 ……そのためには逃げなきゃいけない。

 でも…… チャンスがない。



 手慣れた感じで棒打ちは始まった。

 どんなに相手がボロボロだろうと棒を打つ強さは変わらない。

 悲鳴を上げたくなるくらいの痛みだが、悲鳴自体をどうやって上げればいいのかを知らないので悲鳴は上げれない。 ……と、心に言い聞かせて我慢する。

 我慢するほどに脂汗が悲鳴を上げろと訴えているように流れる。


 今日は進みがやたら遅く感じるのは、一発一発がやたら痛いからだろう…… でも意識だけは繋げておきたい。

 やはり今回も40回を過ぎてから頭を必要に打ってくる……

 ここで意識は刈り取らせない! 強い意志が功を奏したか、何とか意識がある状態で棒打ちを終えた。


 ここで内緒でゲリールをかける……


 しかし、ゲリールくらいで治る怪我ではなく、まだあちこちで痛みがある…… が、気休め程度には楽になった。


 ここが多分、最初で最後のチャンス。

 体力もほぼ無い、傷つき息をするだけで激痛を伴う身体だけど、無駄に余ってる魔力だけはある!


 

 奴等は俺が気絶していると思っているのか、3人で世間話をしている……


 背後手には虎鉄改を、口にはファイヤーボールを仕込む。

 そっと、虎鉄改を小さな空気穴の方に転がし、そして急いでアイスシールドを作り、「ブッ!」っとファイヤーボールを虎鉄改に当てる!


 チラッとこっちを見た奴も居たが、もう遅い!


 ドッカーンという音と爆風で、俺を繋いでいたロープは切れて吹っ飛ぶ! しかしこうなると分かっていた俺はアイスシールドで背中を庇いながら踏ん張った。


 シーンとした静寂と冷たい空気……

 煙が充満してこの目でも良くは見えないけど、冷たい空気が入ってくる方は、壁に大きく穴が開いているのが分かる。

 ……ゴソゴソっと動く物体。


 「ゴホッ、な、何があった……」


 ぐるんと背中ではめられた手枷ごと前に持ってくる。

 何度も言うが、俺の関節は小さな頃からの鍛錬により驚くほど柔らかい。

 それでも、こんなことはした事がないので出来るかは分からなかった。

 まぁ、そのチャンスも無かったけど。


 両手でファイヤースネークを作る……

 起き上がる看守の1人にファイヤースネーク!

 ガブッとぶつかり、看守はまた倒れた。


 ファイヤースネークは毒付きの魔術。

 両手での大魔力だったので暫くは動けないはず。

 他の2人の看守は飛ばされた時の打ちどころが悪かったのか動かない……



 ここからはスピード勝負、俺の身体、動いてくれ!


 急いで穴が大きくなった隙間から飛び降りる。

 飛び降りると言っても、ジェットで補助しないと危険な高さだ。

 そして闇に紛れながら走る。

 途中、口から魔術のウインドカッターで手枷に当てる。

 やはりこの世界の鉄は粗悪で、僅か2回のウインドカッターで手枷は切れた。


 ポルカ先生…… ありがとう。



 

 フォルマップル国、首都、ジーンライネ。


 ついこの前にシャーラさんを連れ出したので、ある程度は知ってる街だ。

 この."ある程度"が実はデカい。

 右も左も分からない状態ではなく、直ぐにイメージのある方向に行ける。

 高く飛んで見たおかげだ……


 しかし、遠くから人影が……


 バッと茂みに潜むと走って城の別館方向へ向かう3人組が……


 「別館で爆発音! ナラサージュの攻撃の可能性がある。 容疑者が逃げたなら平民街だ! 空からも警戒しろ!」


 反応が早く、洞察力も鋭い。

 

 でも、俺は最終的に飛ぶつもりなのでむしろ静かな住宅街の方に向かっている。

 空も警戒しながら進む。


 20分ほど走ったろうか? 疲れと痛みで住宅街の窪みでひと呼吸する。

 身体のあちこちが悲鳴を上げて、汚い服に血が染みている……

 ゲリールでかさぶたになっていた傷が、激しく動いたことで取れたのだ……

 

 血を見て決心する。


 ここが勝負所、飛んで一気に逃げるが、フォルマップルに居る飛べる種に見つかれば追いつかれる。

 そこでこの身体で、僅か20分で限界にくる体力で勝てるのか? …… と、思うが行くしかない。


 ふ〜っ、と一息……


 

 「……様? ……ウ様?」


 ん⁈ 見ると2軒先の家の2階からこっちを見てる女が……


 どうする? ……他に見ている奴は居ない。



 近づいて見ると、大会で俺に嫁にしてくれって言った女、朝に俺を見て泣き崩れていた女でもある。


 「こっち」


 っと、小さな声と手招きで指示する女。


 本当にどうするか……

 いや、朝の涙を信じよう!



 最後の力を振り絞るように音を立てないよう2階までよじ登ると、女は窓から部屋に入るよう指示した。

 そして部屋に入ると窓の外をキョロキョロと見渡して窓を閉めた。

 俺を豪華なベッドの裏まで連れて来て、抱きしめて泣く、そして……


 「リュウ様は絶対に抜け出して来る! そう思って何時間も外を見ていました。 だって…… グスン…… あんなに強いんですもん…… 負けないって……」


 俺を見つめて涙を流して訴える女…… 距離が近い。

 それにしても、この夜中まで来るはずのない俺を探していた⁈

 

 すんごく可愛く思えるのは、この状況だからと分かってはいる。


 「凄く恐ろしい顔してない? 俺……」


 ゲリールはかけたけど、自分でも分かるほど顔が腫れている、そして…… ボロボロで血が滲んでる囚人服。

 この人が俺と会った時とは、体重も10キロ以上は減ってるはず。


 「ふふ、私は気になりません……」


 だから距離が近いんだって……


 俺は名も知らない女とキスをした……



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