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転生 フリーダム  作者: 昨日シーサイドライン乗った
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 キャプトマン王子



     第二章  成り上がり


 第七十六話  「キャプトマン王子」




 俺はゲイル。 ……いや、今の名前はポンタ。

 名前を変えろと言われて、リュウとラザノフ君に勝手に付けられた。

 髪の毛も短くカットして緑色に染めて、そして外ではマスクを着用して動いている。


 これでよっぽどの俺の知り合いじゃなければ、俺と認識するのは難しいはず……


 ちなみにシャーラも髪の毛を切って緑に染めている。 ……名前はポンコ。



 俺はサンカルムに来て、本当に良かったと思ってる。

 科学技術や建築技術が発展してないナラサージュでも(リュウにフォルマップルよりはマシと言われるけど)、この街を作った人のセンスがいいのだろう、凄くノスタルジックで水の音が心地良い、美しい街だ。

 そして、この街にはあの人が居る……


 ユキナさんだ……


 初めて見た時に、運命の出会いと思った。

 こんな風に思ったのは俺の人生、後にも先にもユキナさんが初めてだ。 ……と思う。


 ただ難敵がいる…… そう、リュウだ。

 リュウはユキナさんを友達のように思ってそうだが、ユキナさんは分からない。

 思えば、メガネっ子にルイ先輩、スミレスカとリュウに惚れる可愛い子は多い。 

 でも、ユキナさんだけは勘弁して欲しい。


 ヒュ〜っと空っ風が吹く。

 もう直ぐ今年も終わる、寒いはずだ……

 それにしてもリュウとラザノフ君、遅いな……

 

 

 

 今日は2度目のお城からの呼び出し。

 前回は俺とポルカ先生だけだったけど、今回は先生達に俺とラザノフ、そしてユーリスも一緒に事情聴取される。

 お城側の代表は第三王子のキャプトマン王子(フォルマップル担当)だ。


 広い部屋に長いテーブルを向かい合わせて、お城から記録やメモを取る人、偉そうな人、もっと偉そうな人、真ん中の若く清潔そうだけど、ちょっと濃い顔の人がキャプトマン王子だろう。


 俺達の並びは真ん中辺りに先生達、左端がユーリス、反対側がラザノフと俺。



 キャプトマン王子が話し出す。


 「これまでの調査から、ほぼこちらに非はないことは分かっている。 だけど現状フォルマップル国にはリュウの引き渡しとユーリスの花嫁修行先の要求をされている。 問題は1つ、リュウがフォルマップル国の先生を廃人にした事だ。 やり過ぎではなかったかな? ポルカ先生や他の先生方、どう思う?」

 「お兄様、それは私……」


 ユーリスが口を挟もうとするけど、直ぐに遮られる。


 「今は先生達に聞いている。 ユーリスには後で聞くことがあるから待て……」


 ユーリス…… もう泣きそうな顔で俺を見る。

 可愛い人。


 「キャプトマン王子、私から申し上げます。 先日のリュウ対フォルマップル国教師、ヤスザキの勝負は正式な勝負。 勝負を提案したのもゴールタール国の教師ですし、その勝負に敗れてその上やり過ぎと言うのは、私には理解出来ません」


 ポルカ先生…… 本当にカッコいいけど、たまに顔に痣が出来ている。

 

 「いや、しかしアレはやり過ぎだ」


 何だっけ、あの先生?

 名前忘れた。


 「ちょっといいでござるか〜」


 キャプトマン王子が頷く。


 「リュウは二撃入れただけ、相手も二撃の攻撃。 グダグダ騒ぐことでござるかぁ?」


 流石竜族、王子が相手でも物怖じせずハッキリ言う。


 「ハハハ、そうだね、でもフォルマップルの要求を突っぱねる程の力がナラサージュにはないからね、だからあの時、何がリュウをそこまで怒らせたか私は知りたいのだ」


 俺達は言ってないことがある、ユーリスのことだ。

 ユーリスのことを言えば、オルキン達学校内の護衛に何らかの罰が下されるだろう。

 その罰は結構大きな罰のはず、だから誰も話さないのだ。


 「リュ、リュウを引き渡せば良いのでは……」


 だから何だっけ、この先生の名前……


 「な、なりません! リュウ様は…… リュウゥ」


 バッとテーブルに突っ伏して泣いてしまったユーリス。

 後ろのラースビーさんとマインさんも心なしヤバいって顔。

 バレるぞ、その態度。


 「コホン…… リュウはどう思う?」

 「別に俺はどうでも。 好きにして下さい」

 

 ガタンっと音がして、ユーリスが部屋を飛び出してしまった…… 自由な人。


 「フォルマップルが納得するなら平民のリュウを引き渡したほ……」

 「ちょっと待て。 ユーリスを連れて来てくれ」


 ちょっと怒った顔で聞いていたラースビーさんとマインさんがハッとなり、ユーリスを追いかける。


 「僕がフォルマップル国から聞いているのは、リュウがフォルマップル国の生徒と喧嘩をして、平民のリュウが相手の貴族に対して気絶するほどの一撃を入れた。 その事をポルカ先生、貴方に言うと、貴方は『学校内では身分差はない』と言って突っぱねたので揉み合いになりフォルマップル国の先生、ヤスザキが貴方を傷つけてしまう。 そこにリュウが現れてヤスザキに正式な勝負を申し込んだ。 確かに正式でもヤスザキは両目を失明、男として生きるには悲しい身体にされてしまった…… これだけ聞いたらやり過ぎと思わないかい? ラザノフ君、本当にリュウは二撃だけだったのかい?」

 「ヤスザキの命はあと1時間だったでござるよ。 拙者が高回復薬を飲ませ助けた、ガッハハハ〜、恐ろしい〜」

 「………………」


 ここでラースビーさん達に支えられ、ユーリスが戻る。 


 「ユーリス、僕もバカじゃない、力がなくても不条理を許す気もない」


 どういう意味だ?


 「……僕はゴールタール国まで行ってラムザクール教頭に話を聞いて来たよ、酷い目にあったね。 リュウ、ユーリスを助けてくれてありがとう。 ラノーン教頭、貴方にはガッカリだ。 そしてユーリスを守れない学校内での護衛にもガッカリだが…… 皆が庇おうとしてるんだ、普段の仕事はしっかりしているのだろう、だが罰は与える」


 自分でゴールタール国まで行って話を聞いて来たのか…… 行動力のある人だ、往復で8日はかかるのに。


 「でも、どこまで抑えられるかは分からないけどね。 リュウ、充分気をつけてくれ」


 暗殺者が来る予想ですか?


 「ラザノフ、次は止めるなよ」

 「ガッハハ〜、面白恐ろしい〜。 早く来〜い」


 揉め事大好きラザノフ君。


 まぁ、オルキン達もそこまで酷い罰とはならないだろう。

 それにしても結構話の分かる王子だな、覚えておこう。

 キャプトマン王子、覚えやすい名前だ。



 

 帰りの馬車の中、俺とラザノフはポルカ先生と一緒の馬車に乗っていた。


 「リュウ君、何でオルキン君達を庇ったの? 自分がフォルマップルに引き渡されても良かったの?」

 「先生、俺が飛べることを知る人は少ない。 ペラペラ喋っちゃうのはラリィくらいだ。 だか……」


 ラリィがニュ、っと出て来て反論する。


 「ラリィが小っちゃい時だからだの! 今は喋らないだの! ね、ラザ兄」

 「えっ? あ、ああ、そうだ。 今はちょっとしか喋らないでござるよ。 な、ラリィ」

 「え、うん…… え、ちょっとも喋らないだの!」

 「ガッハハ〜、そうだった〜」


 ふふ、っと笑うポルカ先生……


 「先生、そんな事より何かあるなら俺に相談してね、俺はいつでも先生の味方だよ」

 「ふふ、嬉しいけど自分を犠牲にするようなことをしたらダメよ。 ふふ、でも君がモテるのが分かるよ、でも何だっけ、ラリィちゃん」

 「お兄ちゃん天然のたらしだの。 多分、計算してやってるの」


 コイツ、人聞き悪いっちゅ〜に!

 だいたい計算してやってたら天然じゃねえし。


 「ラリィ、ハウスに戻りなさい。 早く、ハウス!」

 「ガッハハ〜、クラル殿に怒られてるリコみたいでござるな〜」

 「お兄ちゃん、ボケェ〜!」


 ラリィはハウスに戻った……

 ……って言うか本当に口が悪くなってるな、アイツ。




 この後はゲイルを含めた討伐の依頼。


 討伐依頼   ガラントゥーゾの群れ

 場所     オオギク領 ホワソ山付近

 適正ランク  B以上パーティー

 成功報酬   ガラントゥーゾ10匹以上の討伐で成功とする。 ガラントゥーゾ1匹につき400トア。



 という依頼。

 単価も高く群れなのでポンタも誘った。


 

 今は5時、約束の時間は過ぎているけど、噴水前にはユキナとニコニコで話すポンタが待っていた。



 ユキナ。

 クラルさんが家に居るようになっても、ユキナはラリィの魔術の先生を続けている。

 だからポンタを知っているし、ある程度の事情も知っている。



 「あっ、リュウ君。 今から討伐に行くんだってね。 ガラントゥーゾは何度も言うように噛まれると痺れて動けなくなるからね、絶対に無理しないでね」

 「うん、何度も言うように分かってる。 俺は多分、大丈夫だけど……」


 チラッとラザノフとポンタを見る……


 「ふふ、もちろんラザノフ君も無理しちゃダメだよ」

 「お、俺は……?」

 「えっ、ゲイル君も行くの?」

 「そう言えばユキナにはまだ言ってなかったね。 ゲイルはポンタに名前を変えたんだ」

 「そう…… 色々事情があるもんね…… ポンタ君も気を付けてね」


 ポンタは満足そうに頷いた。



 家に戻って夕食を食べてから出発する。

 ポンタ達はもうこの家には住んでないけど、今日は夜行性の魔獣なのでポンコさんにはこの家で待っててもらう。


 ちなみにポンコさんは、ミナリの父親の会社の事務をしている。



 食事中、クラルさんが俺に話しかける。


 「リュウ君、ラリィじゃなくて私が行くわ」

 「大丈夫。 ラリィはソナーで調べてもらったら影に入っててもらうから」

 「でも、私だって空で待機出来るから安全よ」


 それでも荷物は持ってくれない。


 「母ちゃん、大丈夫だの。 ラリィね、お兄ちゃんとラザ兄の役に立ちたいの」


 あ…… っと言う顔をして、クラルさんは黙った……

 ラリィはこんなに小さくても俺達に恩を感じてる。

 だから依頼に付いて来たがるし、魔術の勉強とかも頑張っている。


 「まぁ、とりあえず俺だけでも明日帰って来るから待っててよ」


 俺だけの場合はまだ討伐出来てない場合のみ。

 その場合、ラリィは家においてまた俺は現場に向かう予定だ。


 「うん、気をつけて……」


 と言う、心配顔の母親達……



 家を出て左の小道を20分ほど上って行くと広場に出る、もうこの辺りに家はない。

 更に広場から上って行く道があり、今度は5分くらいでこの山のほぼ天辺にある墓地に出る。


 暗くなった墓地に人影も気配もない。

 ここから出発するが、各自の武器をラリィに預ける。


 俺は2本の素晴らしい刀、ラザノフは太くて長い槍、ポンタは短刀をラリィの影に預ける。


 「リュウの刀の不気味さやべぇな。 ラザノフ君の槍はやたらデカいし」


 魔術師は主に力を溜めることの出来る特殊な宝石を付けた杖か短刀が武器になる。

 ただ、杖は高価なのでだいたいの人は短刀だ。


 「ポンタは何で俺はリュウで、ラザノフはラザノフ君なの?」

 「だってラザノフ君は歳上じゃん」

 「ガッハハ〜、そうでござるぞ〜、拙者の方が歳上なのだ〜、リュウもラザノフ君と呼べ」

 「ラザノフ君、ちゅき」

 「き、気持ち悪! やっぱりいい」


 失礼な……

 


 「ところでポンタはジェットをコピー出来た?」

 「うん。 リュウに送ってもらった後、『練習しとけ』って言われたから練習してんだけど…… 体勢を保つのにも疲れるし5メートルを過ぎると恐ろしいしで上手くいってないんだ」


 大会のあの夜からもうふた月経っているのにか……

 やっぱり兄はセンスの塊だ、あのジェットで数キロは飛んでた…… 変な格好で。


 「じゃあ、夏が来たら海で鍛えてやるよ」


 海なら堕ちても死なないだろ。


 「リュウ、せ、拙者もいいか?」


 ジェット持ちじゃないくせに……

 ただ、遊びたいだけ。


 「いいよ、ユキナとか世話になってる人も誘って行こう」

 「えっ、ユキナさん! クゥ〜、ユキナさんの水着姿〜!」


 そう言えばコイツは分かりやすいスケベだったな。


 まぁいい、ミナリやカナリ、セシルさんはたまに弁当を作ってくれるから誘おう、サルーもラリィのお気に入りだから呼ぼう。


 

 

 ホワソ山近くの大きな川沿い。

 先ずラザノフを連れて来てからポンタも連れて来た。

 片道2時間程度だけど、往復だからもう2時近い……


 ラリィを空高くで呼ぶ。


 「ラリィ、さっきも言ったけどリコと同じような魔獣でいっぱいだ」

 「うん、やってみるだの」


 ラリィがソナーを発動。

 何もおこらないけど、一瞬だけ俺の中の魔力が震えた気がする。


 こっちには居ない、っと言いながら数回目のソナーでリコと同じ犬型の魔獣、複数を感知。

 ラリィを影に戻し近くまでジェット、そして徒歩で近づく。



 先程から降り出した雨の勢いが増す、これは計算外。

 緩やかな登り坂の平原…… これも計算外。

 ここでは足元が滑るし、群れに囲まれたら逃げ場がない。


 一応、近くに逃げ場を探しながら進む……


 「ラザノフ…… 来たぞ」


 遠くに気配…… 俺達は段取り通りの配置に付く。

 ラザノフは1人で槍を振り回せるスペースを、俺とポンタは背中合わせでお互いを守る。


 1匹、2匹と見えるが、襲っては来ない。

 しかし、20数匹ほど集まってから近づいてきた。


 

 ガラントゥーゾ

 2メートル弱の犬型の魔獣。 

 緑色の針金のような毛。

 噛まれるとしばらく痺れて動けなくなる。



 唸り声をあげて近づくガラントゥーゾ。

 数が数だけに凄い迫力。

 その迫力にポンタが負けてしまう。


 いきなり出鱈目にポンタの得意魔術、ランザマイノールを振り回す! しかしガラントゥーゾは素早く動き当たらない。

 俺とポンタの間に入ろうとするガラントゥーゾを俺の刀が襲うが、雨で滑って致命傷にはならない。


 一気に攻めてくるガラントゥーゾ、その圧に負けて動いてしまうポンタ。

 あっという間にポンタが飲み込まれ悲鳴を出す。


 「痛い、痛い、リュウ! 助けて助けて」


 チッ、段取り通りにやれよ…… っと思っても、助けない訳にはいかない。

 ジェットで近づき、ガラントゥーゾを蹴散らしながらポンタを掴み、空へ。


 下を見ると、今は呆気に取られてるガラントゥーゾだが、きっとラザノフのところに全て集まってしまう、急がねば!


 避難場所の、大きな木の上の枝分かれしている場所にポンタを降ろしてゲリールをかける……


 「これも覚えとけ、ラザノフを連れて来る」

 

 と言って、ラザノフの元へ。



 ラザノフは逞しく戦っていた。

 足場は悪いはずなのに、どっしりと地につき槍を振り回している。

 しかし数が数、結構噛まれてそう…… って、ケツに噛み付かれてるじゃん!


 ファイヤーボールで蹴散らしてラザノフを掴んで空へ、そしてポンタが居る木の上で俺達も一旦待機。


 ザーッ、っと雨量が増し遠くでカミナリも光る……


 「ラザノフ、噛まれてたけど大丈夫なの?」

 「いや、痺れが酷いでござるよ」


 その割には動けていた……

 竜族の体ってすげぇな……


 「ポンタ、さっきの出せる?」

 「ま、まだ痺れてるし無理……」


 仕方ない…… 俺がゲリールをかける。



 この大雨が邪魔で斬っても滑ってる……

 ラザノフの突きでさえ滑っていた。


 「リュウ、これを見ろ」


 ラザノフの槍の先端にはグリースのような油の塊が……

 ハッ、俺の刀は…… やはり、同じ。

 ガラントゥーゾの毛はグリースのような油の塊で覆われている、だから滑りやすい。



 「リュウ、ダ、ダメだ、帰ろう」


 雨でビチャビチャに濡れて震える、ポンタが言った。

 

 ゴゴ、ゴゴゴ〜ッ、っと大音量の雷音。

 木の下に集まるガラントゥーゾ……



 ふぅ、久しぶりにアレやるか……


 「少し俺だけにやらせてくれ」


 不思議そうな顔の2人を無視して集中する。

 今は自然に全てが揃ってる、時間はかからないはず……



 「リュウ、す、少し光ってる……」


 カミナリの電力を拝借して体内に蓄電する。

 電流付きの一撃なら、間違いなく効くはず。

 バッ、っと木から降りて木を背中にガラントゥーゾを斬る!




 5分…… 6分と見惚れるしかない自分に恥ずかしくなる。

 リュウとの差は、あの眼が開眼してから更に開いたかも知れない……


 青白い光を纏い、綺麗に刀からの電流でガラントゥーゾを撃つリュウは、幻想的に美しい。

 2本の刀の軌跡が複雑に、そして規則的に絡み合う。

 ただ、見ることしか出来ない自分……



 どのくらい経ったのか。

 雨が上がり辺りが薄く明るくなった頃、ガラントゥーゾは1匹、また1匹と逃げて行った。

 倒れてるガラントゥーゾは14匹、討伐は成功だ。


 ラザノフとポンタに手伝ってもらいガラントゥーゾの顎を斬り落とす。

 そして袋に入れてラリィの影へ…… っと思ったけどラリィに、『気持ち悪いからヤダッ!』と拒否された。

 仕方ないのでラザノフに持ってもらう。


 ここから依頼主の町まではジェットで数分でも、徒歩だと2時間。

 それでもこの明るさでは飛ばない。

 皆んなで歩く。



 ーーーーー



 ミジュールという小さな町。


 依頼主の町長に魔獣の上顎を渡してコインとサインをもらう、後は帰って下顎を渡して報告すれば完了。

 

 昼はとっくに過ぎてるので遅めの昼飯。

 小さな定食屋さんには、昼を過ぎてるので俺達だけが客。

 俺が頼んだのは麻婆茄子っぽいやつ、辛くて美味しい。

 ラリィは辛くない野菜炒めにした…… ラリィの必殺技が発動中、美味いのか!



 「約束通り今回の報酬は1人530トア、残りはこの食事代とする」

 

 残りの10トアじゃ食えないけど。


 「いや、俺はただ足手纏いになっただけだ…… 10トアの価値もないよ……」

 「それを言うなら拙者もだ…… 結局、助けられただけでござる……」


 チラッとラリィを見ると、目が合った……

 相変わらず口の周りは汚れてるが、ニカッと笑顔のラリィは可愛い。


 「そんなのはパーティーなら当たり前じゃないの? 誰かが活躍して活躍出来ない奴も居る、でも皆んなの頑張りは同じくらいだ」


 うん、うん、と頷くラリィ。

 喋らなければ可愛い。


 「それでも酷かったよ…… 俺は……」

 「せ、拙者も……」


 確かにポンタは予定と違う動きをした。

 予定では、危なくなったら余裕を持ってジェットで空中へ避難する、が出来なかった。

 まぁ、予定は予定だけど。


 「それじゃあ、全員100トア、残りをラリィのソナー代金とする、いいか?」


 2人が不思議そうに頷く……


 「お、お兄ちゃん、ラリィはお金、いらないの。 お兄ちゃんもラザ兄もラリィにいっぱいお金使ってくれてるの、だからいらないの」

 「ラリィ、そろそろ父ちゃんのお墓を買ってあげよう。 丁度母ちゃんも居るし、今回だけじゃなく今までお前が働いた分だ」


 ブァ〜っとラリィの瞳に涙が浮かぶ……


 ラザノフもポンタも頷き納得してくれている……


 「お兄ちゃん…… やっぱり1番手に浮上しただの……」


 ……何の?  

 って言うか、2番手は誰?



 それから数週間。


 家の上の墓地には父ちゃんの墓がある。

 夕方、暗くなり始めに皆んなで(リコ含む)墓参りするのが日課になった。



 

 学校では同じクラスの生徒はだいたい同じ属性を持っている。

 でも、全て同じという訳ではない。

 属性が2つしかない人も居れば、5つ持ってる人も居る。


 「どお? リュウ君、私の弁当」


 ミナリ  

 160センチのスレンダー体型の亜人。

 運動神経が良い。

 顔的にはユキナと並び俺のタイプ。


 「うん、美味しいよ。 でも俺が学校に来るってよく分かるね」


 休む日も多い。


 「その時はクラスの人にあげたりしてるよ。 リュウ君は知らないけど、私はモテるんだよ」


 前まではカナリもセシルさんも作ってくれてた弁当、でも俺が来ない日は無駄になるからか、今ではミナリだけしか作って来ない。

 そんなミナリの弁当を俺が来ない日に食べるのは、きっとクラスの男達。

 自分のために作った訳じゃない、って分かっていても、ミナリを気にかける奴は多い。


 「知ってるよ。 ミナリばっかり見てる奴も多いし、俺への視線も何かね……」


 嫉妬な視線?


 「でもミナリは亜人で俺は人間じゃん、弁当を俺に作ってるって両親とか知ってるの?」

 「知ってるよ。 この前ポンコさんを連れて来た時もリュウ君を見てるし、大会でも私達はお父さんと見てたんだよ」

 「ふ〜ん」


 自由な家庭なのかな⁈


 「私かカナリ、どっちかだったらリュウ君ならお嫁に行ってもいいってさ。 リュウ君もお金持ちだし、ウチだってそこそこはお金持ちなんだよ。 だから障がいはないの」


 種族違いの違約金だっけ⁈

 でも、ミナリって友達感が凄く強いんだよな……


 「リュウ君も知ってるけど、私はカナリより胸が大きいし形も最高。 しかもスレンダーだからお尻の形まで最高。 それにカナリと違って尽くすタイプだし性格も最高。 どう、リュウ君」

 「自分で言っちゃうところが最高」


 でも、確かに大きくはなかったけどいい形だった……


 「ところでミナリのスキルは?」

 「え〜と、そんなにいいスキルじゃないよ。 自分の近くの物を少しだけ動かせるの。 キャハハ、でも手を伸ばせば直ぐだから意味ないの〜」


 マジシャンになるなら…… 最高。




 放課後、ユーリスの稽古日。


 もう大会が終わったので、俺達は2人で演舞を1から作ってる。

 そして出来上がったらラースビーさん達に評価してもらう予定。


 コレが中々面白い。

 ユーリスに合わせて一刀でやってるけど、ビシッと合った時などは気持ちいい。

 終わった後にユーリスがはしゃいで飛びついて来たりする時もある…… 可愛い姫様だ。


 そんな日々を送ってたせいか……

 俺に変化が……


 「リュ、リュウ?」


 飛びついて来たユーリスを離したくなかったのだ……

 もう少し…… っと思ったが、ユーリスが熱い。

 一瞬、あの日のローチェが頭に浮かんだ! 


 「風邪ひいてたの?」


 えっ? って顔のユーリス。


 「ひ、ひいてないよ…… 好きな人に抱きしめられたら、熱くなっ……」


 至近距離で目が合った……


 と、止まらん……


 俺達は初めてキスをした。



 気まずいまま、壁にもたれて時間までいつものおしゃべり。


 「キ、キスならわ、私はいつでもいいよな、慣れてるか、ら」


 絶対ウソだろ!


 「じゃあ、お言葉に甘えて」



 至近距離で見るお姫様は美しく、そしていい匂いがする。

 麻薬のような匂いを断ち切るように、ダラァ〜っとヨダレ付きの唇を離した。


 廃人のようなお姫様…… 慣れてねぇじゃん!


 ユーリスはそのままボーっとしてたけど、ハッとなり、いきなり泣き出した。


 「リュウウ…… 行きたくないよ〜! 他の国なんか嫌だぁ〜」


 あと数ヶ月後に迫った花嫁修行。

 ユーリスは何処の国に行くのだろう?



 しばらく泣いてたユーリス、でももう直ぐ時間でラースビーさん達が入って来る。


 「ふぅ、目が赤いけど仕方ないよね。 リュウ、あと数ヶ月だけど、私と付き合って下さい」


 俺ももうユーリスに惚れている。

 しっかりと惚れたのはリリカ以来だ。


 「もちろん。 それまで楽しい時間を過ごそう」


 こうやって俺達は付き合うことになったが……

 プライベートで会える時はない。




 ヒュ〜、っと冷たい風が吹く。

 傷んだタイルの修復作業、これもリュウが請け負った仕事……

 いつになったら俺の保証人になってくれる人が見つかるのか? このままではギルド登録も出来ない。


 「ほら若いの、手が動いてねぇぞ」


 タイル屋さんの親方、もう何度も手伝ってるのにまだ「若いの」。


 もう直ぐ5時、リュウが来たら一緒にギルドに付いて行くのだけが楽しみの毎日…… ユ、ユキナさん。

 

 それでもフォルマップルに居た時より生活の質が向上してる。

 シャーラ…… じゃなくてポンコも今の方が給料が高いって言ってたし俺の稼ぎもある。

 でも俺は早く冒険者登録して、毎日ユキナさんと会って話したり、イチャイチャしたり、ブチュブチュしたりしたいのだ〜!

 うぅ、こんな風に思ったのは初めてなのに、リュウと一緒だとユキナさんはリュウとばかり話そうとする。

 まぁ俺は冒険者じゃないし、ましてやユキナさんが担当でもない。



 フとその時に何気に見たのは知ってる顔達。

 1人と目が合った……

 マズいっと下を向いたが気付かれたか……

 いや、今はこの容姿…… 気づかれないはず。

 近づいて来る奴等…… しかし、そのまますれ違う。


 奴等はフォルマップルの貴族お抱えの裏冒険者3人組。

 ヤバい案件しか動かない奴等……

 一度だけ奴等の仕事を手伝ったことがある。

 貴族に逆らった平民達を追い詰める時の見張り役、5人居た平民が2人になり、その2人も無惨な姿になってたのを覚えてる。

 リュウに教えたいが…… 見つかったらこっちがマズい。


 ドンッ、っと腰辺りに痛みが疾る……


 「お前、フォルマップル抜けた貴族じゃ〜ん」


 やっぱり、気づかれていた……

 ボタボタボタっと血が吹き出す。


 「なっ、おい! 何やってる! おい、若いの、おい、大丈夫か!」


 崩れる俺を心配してくれる親方……

 

 バチーンっと親方の頭の上からレンガがぶつかり、俺は親方の目が飛び出そうになるのを見た……

 ぼやける視界に映ったのは遠くからスキルでレンガを操る裏冒険者。


 「ゲリール」


 何度も再現に失敗したけど、今はもう使えるようになった。

 普通のヒールより効き目が高く、毒消し効果もあるらしい……


 巻き添いを食らわせてごめんよ、親方……



 

 夕方、学校帰りにポンタの仕事場でポンタが仕事をしっかりしたかを確認。

 そしてタイル屋の親方ジルさんにサインとコインをもらってからギルドに行く。

 

 タイル屋の仕事は何回かしてるので、気に入られればギルドを通さなくても雇ってもらえるかも…… と思ったけど、ポンタは結構人見知りが激しいので無理か……

 などと考えながら歩いて行くと騒がしい。


 数人が固まって倒れてる男を囲んでいる…… ポンタだ。

 ポンタが倒れ、タイル屋の職方が取り囲んでいた。


 「おう、リュウ君、済まねぇ…… 変な奴等に俺とポンタがいきなり襲われて、ポンタは俺に回復魔術をかけてから気を失ったんだ」

 

 親方のジルさんの服にも血がたっぷり付いている。

 ジルさん自体も傷は深かったのだろう。


 とりあえずポンタに俺の持ってる高回復薬を飲ます、が、時間が経ち過ぎてるし失った血は戻らない。

 病院……


 「変な奴等の特徴は? それと今日は家に帰って出ない方がいい」

 

 きっと俺狙いのフォルマップルからの刺客、その途中でゲイルを知る奴が居たか。


 「ああ…… 分かった。 3人組だ、不気味な3人組、それしか思い出せねぇ」

 「分かった。 探してみます」

 

 と言ってポンタを抱えて病院へ走る。



 俺への刺客で間違いないだろう。


 俺はこの街で結構有名人になってる。

 それなら家を突き止められるのは時間の問題。

 今はクラルさん、ラリィ、リコ、多分ラザノフも帰ってるはず。

 俺がターゲットなら、わざわざ危険な竜族ラザノフとは戦わないはず。

 そして真っ先に奴等を感知するのはリコ。

 


 病院に連れて来たポンタは緊急に輸血する。

 腰を抉られてるけど、臓器のある場所じゃないので死にはしないだろう。

 狙いがポンタじゃない証拠に親方達に騒がれて本来の仕事(俺の殺害)に支障がでると思ったか。


 病院の屋上に上がる、もう充分暗くなっている。

 しかし、堂々と飛ぶのはリスクが高い。


 俺が飛べることは出来るだけ秘密にしたい。

 例えばフォルマップル国に引き渡されても、飛べることがバレてなければ暴れるだけ暴れてレイモンに帰ることだって可能なのだ。

 やっぱり、この街で俺が飛べる噂を流すのは良くない……

 走って帰る。



 色んな気配を探りながら家まで着いたけど、別段変わったことはなかった。


 ラザノフに今日のことを話す。


 「そうか…… ポンタが…… 運が悪いでござるな」


 確かに…… せっかく別の家に引っ越したのに……


 「多分、奴等が来るのは時間の問題だ。 俺は波止場の広場で待ち伏せしようと思う」

 「ああ、ギッタギッタにぶちのめそう」


 ん……⁈


 「いや、この家を守らないのはマズいよ。 クラルさんとラリィが居るし」


 レアもんの吸血族の女に、まだ6歳の吸血族ハーフの女の子。

 奴隷商が知れば、ラザノフと俺が守っていると知ってても狙いにくるかも。


 「リュウ、だが相手は3人だろう? それにここは上からは来ないでござる」


 でも北側から天辺の墓地まで登って、海側へ降りて来る地元の人は居る。 ……近道だから。


 「リュウ君、リュウ君。 だったらさ、私とラリィは船で海に出れば? それでも危険なら私達は海の上を飛べるし」

 「おお〜、完璧でござる。 ラリィは運転出来るし」


 なるほど…… 相手に船を使われて追い詰められても最後は飛んで逃げれる。 

 それに、そもそも狙いは2人じゃない。


 「それで行こう。 もちろん危険察知の早いリコも連れて」


 ポンタには悪いけど、ポンタが犠牲になったことで俺達のリスクが随分と減った。

 何より、刺客が来たことを知って向かい打てるのはデカい。


 ジルさんの話ではポンタと相手の血が繋がっていたと言っていたが、意味が分からない。



 亜人のスキルか……


 

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