大会最終日の夜
第二章 成り上がり
第七十四話 「大会最終日の夜」
大会初日の夜、俺は食後にポルカ先生から呼び出されている。
「ぷふふ、ラザ兄もお姉ちゃんも勝ってサルは4位だったのに、お兄ちゃんは負けただの〜?」
「サルーな、お前、可愛い顔して結構失礼だぞ」
「ラリィね、結構可愛い顔してるの。 ね、サル」
ダメだこりゃ。
「それにしてもまだ外に居るでござるぞ……」
俺に付いて来た宿舎の違う国の子が、外でこっちを見ながら話してる。
「しょうがないよ、噂全ての中心人物が、リュウ君なんだもん」
「フォルマップルの先生を廃人にして、魔術競技では箱だけでなく、全ての人まで吹っ飛ばした、ってやつでござるか」
「うん、優勝した子も、勝因は1回戦でリュウ君と当たらなかったこと、って言ってたよ」
サルーは4位、サルーの従兄弟の姉ちゃんは準優勝だった。
「でも現実は2回戦負け。 この後、ポルカ先生に呼び出されてるし、俺の学生生活はあと少し」
「あっ、さっき、先生が部屋に来てくれるって言ってたよ」
皆んな居るのでちょっと気楽。
「ガハハハハ〜、何回通ったでござるか?」
「何だかんだで結構通ったよ」
まあまあ楽しい学生生活だったさ…… っと物憂げに耽ってみる。
食後にポルカ先生が俺達の部屋に来た。
「残念だったね。 でも、あの魔術は危険過ぎたから使わす訳にはいかなかったの。 ……私なんて10メートルも飛ばされたのよ」
「小っちゃいから……」
「小っちゃくないですぅ、もう! ……でも、リュウ君にちゃんとお礼を言いたかったの、私のために怒ってくれてありがとう」
昨日のことか……
「お兄ちゃんね、天然の女たらしだからね、女なら誰でも怒っちゃうの。 ね、サル」
コイツは年上に対して毒舌過ぎない⁈
「プフフフ、分かるな〜。 でも、嬉しかったよ、リュウ君」
「あんなんでいいならいつでも言ってよ」
この先があるなら、だけど。
「え…… ああ…… そ、そうね……」
ん⁈ 違和感……
「それより先生、リュウ君が学校を辞めるって本当?」
ポルカ先生は少し複雑そうな顔をした。
「貴方達の世代の代表で一番有名な人は誰だか分かる? サルー君」
「うんリュウ君」
雲龍君…… フレンドリーな相撲取り。
「そうね。 ギルドの大会を見た人、学生でもギルドに登録してる人、一部の女生徒からの人気と噂…… 昨日まででも結構知られてはいたわ」
「確かにリュウは最速最年少Aランカー、それにダンジョン攻略成功もあるござる」
あ、新しい使い方……
「う、うん。 そして決定的だったのが昨日の事件、何故か大会中に女の子に声をかけまくるフォルマップルには各国迷惑だと感じていた時、リュウ君が制裁してくれた…… しかも1人で」
「せ、拙者も手伝ったでござる……」
「余り知られてないわね」
「ラザ兄ね、大きいの、アソコも何も大きいだけだの」
土竜族族長、ガルフが次男、アソコが大きいだけの男、ラザノフでござる!
……って、自己紹介どう?
「クッ、ラリィ…… それがどれだけ羨ましいことか、女のラリィには分からんでござる、な、サルー」
何を6歳児に言ってるんだか……
っつうか、サルーをイジメるな。
「ナラサージュのリュウ。 これがこの世代の圧倒的な強者でありアイドル、そんなリュウ君をナラサージュの学校がクビにするかしら?」
「僕はアソコは小さいけど…… 良かったね、リュウ君」
完全にいじけてるな。
でも、公表しなくていいんだぞ。
「でも、平民という事も知れ渡った。 なのに何で貴族女まで外に居るの?」
「平民になっても貴方ならいいと思ってるんじゃない? それに魔力狙いもあるかもね」
豪快に吹っ飛ばし過ぎたか……
「でも、私は楽観はしてないの。 フォルマップルはきっとリュウ君に仕返しをする…… ナラサージュに圧力をかけるかもね」
今日の敗因は虎鉄改を使えなかった事と、もう1つ。
後ろにいるゲイル対策をしなければならなかった事だ。
アイス何とかを両手に作り、1つだけを飛ばした。
もし、2つ撃っていたら箱は壊せてた。 ……しかし、後ろから殺気立つゲイル対策として、1つしかアイス何とかは撃てなかったのだ……
「ポルカ殿はナラサージュはフォルマップルの圧力に屈するかも知れない、と思ってるでござるな」
「分からないわ。 キーは王様よりも3人の王子の気がする。 でもリュウ君、私はいつでも貴方の味方、それだけは信じてね」
「分かってるよ、ありがとう」
シスターに似てるので初めから味方感がある。
「何故3人の王子がキーか聞かせてくれござる」
新しい使い方、気に入ってるようだ……
「外交は3人がやってるの。 でも、フォルマップルとは上手くいってないでしょうね」
フォルマップルがいい顔をしてる国はきっと、フォルマップルより軍事力が高い国だけ。
「担当とかはあるの?」
ナラサージュの王子の外交担当。
第一王子 ゴールタール国、コーラン国。
隣接する国で元々仲は悪くない。
ただ、コーラン国には下に見られ、対等な関係ではない。
第二王子 ホオヒューガ国、リバティ国。
唯一の友好国というか、同レベル国のホオヒューガ。
リバティ国とも土竜族のおかげで最近は良好な関係。
第三王子 リズーン国、フォルマップル国。
第三だけに難しい国を残された。
フォルマップル国に意見することなど出来ない。
リズーン国には相手さえしてもらえない現状。
「こんな感じね。 でも、この大会でナラサージュが1位なら…… きっと何かが変わるわ」
それなら今日の俺の負けは痛い。
特に優勝したのがリズーンの子だけに……
「リュウ! 拙者が優勝の仕方を教えてやる、見とけぇい、ござる」
色々試したいお年頃。
「ああ、頑張れ。 でも俺はお姫様を見たい。 何と言っても綺麗な人だよな、サルー」
「う、うん。 小さくてもいいなら…… 僕も見たい」
完全に卑屈になってるな。
まぁ、大会が終わればしばらく学校を休んでもいい。
俺が直接フォルマップルに乗り込む手もある。
でも、とりあえずは王子がどう捌くかを見守るか……
体育館。
普通の学校の倍はある体育館で決勝戦は行われる。
コートは6面で、3面づつ男女に別れて試合が行われる。
試合の進み方は男女共にそれぞれの代表の1年から始まり、3年女子とフル代表戦が最後になる。
先ずはそれぞれの代表の1年の部。
全ての決勝にナラサージュの代表は居ない。
目立つのはやはりリズーン、決勝に4人も残っている。
他は、リバティとフォルマップルとゴールタールが2人づつに、コーランとホオヒューガが1人づつ。
男子の剣術の試合に注目する。
リズーンと地元ゴールタールの試合。
リズーンは人間という事だけど、腕の吸盤みたいのが見覚えある。
ライミット族とのハーフかも。
対するゴールタールは亜人。
顔に赤のラインがカッコいい。
試合が始まると互角の打ち合い…… レベルは低くない。
ライミット族のスキルは継承されなかったのか、と思った時、少ない吸盤からしなるムチが出てきた。
分かっていた、とでも言いたげに捌くゴールタールの1年だが、徐々に追い詰められて胴に被弾。
その後も挽回出来ないまま試合が終わり、リズーンの1年が優勝した。
1年の試合が終わり、2年の試合に移行する。
ここでも注目は何と言っても槍術の女子。
2年での唯一のナラサージュ代表で俺も知っている人。
いつかお城で会ったユーリス似の女の子、名はサーラ何とかさん。
船や宿舎でも顔を合わせるけど、俺の顔をジッと見つめるだけで話はしていない。
持つ武器は槍っぽいけど先端が反っている、薙刀か。
試合が始まると互角の打ち合い。 ……レベルは低くない。
中盤も互角。 ……レベルは高くもない。
後半、疲れの見える相手を押し始めたところで終了。
何とナラサージュ初の優勝がサーラさんとなった。
大喜びでこちらの応援席に投げキスするサーラさんは可愛い。
きっと、ここら辺にいる男はサーラさんの虜になっただろう。
「僕…… 姫様もいいけど、サーラさんに決めたよ」
何を勝手に決めたか知らないけど、サルーも虜になったようだ。
そして最後は3年女子とフル代表戦。
当然、ラザノフとユーリスの試合を同時に見る。
そう、この目なら容易いが、ちょっとだけ頭が痛くなる。
さあ、そのユーリス。
相手はリズーンの獣人で背が高い。
ユーリスも高いのでまるで男子の試合のようだ。
一方、ラザノフの相手はフォルマップルの知らない顔のやつ。
午後にもパーティー戦があるので俺だったら全治3ヶ月コースで相手を壊す。
試合が始まる。
ユーリスの試合もラザノフの試合も似ている展開になる。
ユーリスもラザノフも静かに相手を見て、相手はスピードに任せてどんどん攻めてくる試合運び。
ただ大きく違うのが実力、ラザノフには中々攻めるのが難しそう。
ラザノフ…… 知らない間に雰囲気が出てきた。
客観的に見ると、まるでルカルスさんのよう。
ユーリスは相手と実力が拮抗している。
相手の速い攻めにカウンターを合わせようとするが相手も上手くそれを交わしてる。
獣人特有の柔らかさとスピードで、攻めではユーリスを圧倒してる。
ユーリスはたまに合わせるカウンターも読まれているので少し苦しいか。
一方のラザノフは相手が戯れて出たところを突きで脇腹を抉り、更に相手の側頭部に回転技で綺麗に入れた。
高回復薬で治ったとしても、相手はもうラザノフの相手はしたくないはずだ。
ラザノフの完勝。
そしてユーリス。
お互い決め手を欠いたまま終了となる。
疲労困憊の2人だけど、清々しい態度でお互いをたたえ合う。
これこそ学生の大会の素晴らしさであり、具現化。
俺とフォルマップルの関係のようにギスギスのドロドロではない美しさに俺は…… 眠くなった。
ちなみに優勝はリズーンの獣人の子だった。
午後のパーティー戦はグランドで行われる。
その前に一旦宿舎に戻り昼飯にする。
とりあえず俺は部屋に戻りラリィを影から呼ぶ。
一応、ラリィが影に入れることはサルーしか知らない。
ニュ、っと出てきて「お昼だのぉ?」とにこやかに話すラリィ、もう学生達にも人気だ。
食堂で待つラザノフの元まで行くと、ラザノフはユーリスと話していた。
「あっ、リュウ様…… 少しラザノフ様とお話ししたいのでご一緒によろしいでしょうか?」
茶番。
もう平民のサルーの姿はない。
「どうぞ」
素っ気なく了承する。
今日のワタクシのお食事は長いパンの中にクリーミーなチーズやベーコンを埋め込んだものと野菜のスープでござるます、オーホホホ。
「また、お兄ちゃんと被っただの」
ワタクシと食べたい物が被るとはやる子でござるます、オーホホホ。
「リュウ様、私の試合をご覧になられ、何か足りなかったことはございましたか?」
「無いです。 素晴らしい試合だったし、特に最後の対戦相手との交流は美しかったです。 自分もこの前の相手とやりたかったけど、相手が気絶して痙攣してたので出来なかったのが悔しいでござるます、オーホホホ」
「ガハハハ〜、何じゃそりゃ? でも、その相手の学校と午後イチで勝負でござる。 どう戦う?」
「俺の担当は魔術代表の男。 アイツにはいきなり殴られてるし後ろから狙われたりしてる…… ただでは済まさないよ」
「止めろ! お前はフォルマップルと喧嘩をしたいのか? 前も言ったけど余り追い込むな」
いつものように後ろで立ってるオルキンが口を挟む。
「まぁ、オルキン君も代表だ、座れよ」
すると俺も体術代表だ、っと言って手を上げた男(名はテツマニ)も座ってもらう。
「俺は喧嘩を売る気はない、でもやられて許す気もない」
ポルカ先生とユーリスのあんな姿を思い出すと、今だに怒りで身体が震える。
「自分の彼女がナンパされたからか? そのくらい許してやれ、お前はモテるだろ」
ユ、ユーリスの前で…… コイツ……
「その事じゃない、姫と先生の事だよ!」
「でも、ソイツはお前が廃人にしただろ。 それでも不満か?」
「お前は許せるのか? 自分より階級の下の貴族にやられて?」
「ウグッ。 ……俺の手を撃った奴は許せない」
「ガハハハ〜、許せないけど2回戦で負けてたでござるよなぁ」
フル代表の2回戦か……
「じゃあ、オルキンはリベンジしろよ。 俺は魔術代表、ラザノフは体術のフル代表で優勝してた奴、オルキンはリベンジでケツマニアは槍術代表の奴。 これでいいんじゃない?」
「ちょっと待った〜! 俺はテツマニ、ケツマニアじゃない。 ……ここに誓おう、俺はケツマニアになるほどケツは好きじゃな…… ん〜、ふぅ、 はぁぁあ。 ……ない」
絶対好きだろ!
とりあえず、こんな感じになった。
ドヨ〜ンといった雰囲気の食堂のテーブル。
竜族はやはり強かった。
「俺はゲイルとリュウに行かせてもらう。 もう竜族は嫌だ……」
俺も観戦してたけど、この先何回やっても勝てないと思う。
「ダメだ、3人ならいける! とりあえずは3人で攻めようぜ、なっ」
自分としてもジャンカ先輩は邪魔だ。
俺は無詠唱を解放する。 ……だけど、他の人にはバレないように解放したい。
それだけ俺の立場はヤバい。
何とかリュウを倒して、更に約束だった無詠唱を秘密にする事を守ったと言えば貴重なサンプルでもある俺だ…… そのまま貴族でいれるはず。
「わ、分かったけど、どうにもならなそうなら他の奴と戦うぜ。 ……元々、竜族の相手はお前達で俺じゃない」
ジャンカ先輩の側頭部はまだ痛みがあるらしい。
回復薬を飲んでも治らない見事な一発を喰らい、ジャンカ先輩は心が折れている。
簡単に心が折れる先輩…… 本当に情けない。
あっという間に昼休みが終わり、俺達の出番は前回にナラサージュが最下位のおかげで1試合目。
そんな弱いナラサージュにビビっているのはあの男と竜族のせい。
噂を聞けば最速のAランカーでパレッツェンまで1人で倒した噂まである。
更に僅か2人で現代のダンジョンを攻略したと言うから、あの自信のある態度も頷ける。
しかし、どこまで本当かは疑問が残る。
最速でも人に手伝ってもらえば可能だし、モテるアイツは貴婦人の夜の相手をしてランクを上げた可能性が高い。
その証拠にアイツは貴族に対して臆さない。
貴婦人の味方が各国に居たって不思議じゃないくらいに奴はモテやがる。
証拠は他にもある。
メガネっ子にルイ先輩にスミレスカ、と、奴はピッチピチのギャルを選ぶ。 ……きっとオバ様の相手ばかりでフラストレーションが溜まってるに違いない。
だから、美形のピッチピチを選ぶのだ。
え…… 学生だから、皆んなピッチピチ⁈
それは断じて違う!
バッチバチもモッチモチも居るしブックブクもガッリガリも居るのだ。
その中でピッチピチを選び続けるリュウは許さん!
これがフォルマップルの男子全員の総意だ(本当)。
試合が始まり、俺は予定通りリュウを誘った。
目で合図してサシで向かうでやろう、と合図した。
リュウも軽く頷き、皆んなから離れる。
これで無詠唱で戦ってもリュウ以外には分からないはず。
そのリュウが無詠唱スキルを知ってても知らなくても、負けた言い訳は通用しない。
リュウと対峙する。
魔術師の癖に木刀を左手に持っている。
パーティー戦は武器の持ち込み自由だが、魔術師としてのプライドが低い男だ。
きっと、あの魔術を投げれば直ぐに終わるとでも思っているだろうが、俺はあの魔術を見てる。
水の魔術、ウォーターキャノンで押し戻せば問題ない。
少し長めの射程から俺の得意魔術、ランザマイノールを出す。
ランザマイノールは拳大の鉄の塊が水に押され飛んでいく魔術。
水が俺に繋がっているうちは自由に方向を変えれるので、側から見るとムチを操っているように見える。
その水は5メートルまで繋げれる。
その射程内に堂々と入って来るリュウ!
鉄の塊を必要最低限の捌きで進んでくる。
そして、あり得ないスピードで迫って来た!
一瞬、魔術? っと思ったけど、俺の魔力は右にランザマイノール、そして左にもコールドサイクスを仕込んでいるから分からない。 ……ただ詠唱してないっぽかったので魔術ではないだろう。
コールドサイクス
サイクス氏が作った魔術。
丸太のような氷による打撃。
俺の手から出たり入ったりする。
「コールドサイクス!」
近くに来られたらこの魔術が効く! ……が、あっさりバックステップしながら木刀で破壊される。
それなら両方の魔術で……
バコーンと額に衝撃!
木刀を投げてきやがった……
ガッ、っと投げられ転ばされる。
そして、馬乗りで殴られる。
しかし俺は無詠唱、手さえ無事なら…… が、またしても激痛。
かざした手をあっさり捻られ、ボキッとした音と気の遠くなるような痛みで自然と涙が出る。
それでも俺は両手で魔術を操れる! そして、ほぼ同時にかざしていた!
上手く発動したコールドサイクス。
リュウに向かったけど、あり得ない反射で回転して避けられた。
その流れで木刀を振るリュウ。
狙いは最後の俺の手だった…… ビッシィ、っとした音と熱さから、一瞬、俺の手はこの先治るのだろうか? と思った。
両手を壊されてもう何も出来ない……
恐怖…… もう貴族だ何だと言ってられない程の恐怖が襲う。
コイツは頭がおかしい、早く参ったをしよう!
「まい……」
途中で口の中に激痛とお決まりの熱い感覚……
歯が何本も飛んでいくのが一瞬だけど、スローモーションのように見えた……
また馬乗りになられる……
口の中に溜まった血が逆流して気道に詰まり、早く下を向かないと……
ゴホッ、ゴホッ、ゴホホォッ…… 口や鼻、目の中にも血が逆流してくる……
シャ、シャーラ…… もう、悪いことはしない、だから助けて……
シャーラ、助けて……
バコッと殴られるけど、もう余り痛みは感じない…… 全て麻痺してるようだ……
俺はリュウに殺される……
分かっていたし、こうなる覚悟だってあった……
でも、お願いします……
「ごめ…… 助けて…… おねが……い」
血の涙を流しての懇願。
あの時のヤスザキの姿が頭に浮かぶ……
「見つけたぞ、羅刹種」
……リュウから思いがけない言葉。
でも俺は……
「ちが…… う… らせ…… がう」
ろれつが回らない……
「今日の夜中、俺の部屋に来い。 分かったら頷け」
助かった…… もうその後のことなどいい……
また自然と涙が溢れてきた……
頷きながら思う。
俺はもう少し、生きていられる……
でも……
育ててくれた母親とは、離れ離れになるだろう……
ーーーーー
羅刹種が生きてることが判明した。
無詠唱でバンバン魔術を繰り出してきた男、ゲイル。
今日の夜中に部屋に来るように言ったけど、来るかは分からない。
まぁ来なければ、いつかフォルマップルに行って約束を反故した罰を受けさせよう。
それにしても観客の俺への歓声が変わった……
アイドルのようだった歓声から、悪役に向けるような視線と歓声……
実は俺にはこれの方がしっくりくる。
俺はアイドルは、嫌なんだぁ〜!
さあ他の人は?
ラザノフは2人を倒している……
剣術の男と体術の男、まぁ団体の戦いは作戦通り上手くいくとは限らない。
槍術の男はケツマニアと戦っている。
ここは予定通り。
しかし、ここから予定と違うことになる。
ケツマニアを倒したフォルマップルの槍術代表が降参したのだ。
でも、コイツは午前中にラザノフに実力差を思い知らされている。
なので予定通り⁈ かも知れない。
予定通り、初戦突破!
宿舎の食堂。
ラザノフとラリィとで食事、もう試合のないユーリスはラースビーさん達とフェークスのお城へ挨拶に行き、サルーは後から来るオルキン達に遠慮して他のテーブルで食事してる。
「リュウ、何故あそこまで追い込んだ? リュウの評判が一気に下がったぞ。 ……まぁでも、色んな子から何かもらってたでござるな」
それぞれの子の国にある、自分の家の地図と奪いに来てくださいという手紙。
評判も落ちたし女の子からの人気も下がった(帰りに付いてくる子の数が明らかに減った)けど、それをチャンスと思われたか。
「ポルカ先生によれば俺はフォルマップルから何かされるって話だったろ、だったら先にきな臭いフォルマップルを調べようとしたのさ。 ……アイツは無詠唱だった、その辺の秘密を含めて今日の夜中にアイツを呼び出してある」
少し驚きながらもラザノフが続く。
「だからポルカ先生に言ってたでござるな」
夜中に3階に上がって来る他校の生徒は、当然ナラサージュの先生に呼び止められる。
だから初めからゲイルが来るとポルカ先生に言っておいたのだ。
先生も自分も同席ならと了承したけど、それでも先生には口を挟むなら出て行ってもらう、と言ってある。
「来ると思う?」
「ガハハハ〜、来なければリュウはどうするつもりでござるか?」
「いつか約束を破った罰を受けてもらうさ」
ラザノフは思う。
絶対、秒で忘れると……
だけどもし偶然でもリュウとゲイルが会って、リュウがそれを思い出したら…… 怖いことになる。
「済まん、少し遅れた」
と言って来たのはオルキンとケツマニア。
一応、明日の対策を話す。
「明日の対策、それとそれぞれの役割を明確にしておこう」
皆んな大人しく頷く。
俺がバカでも戦いでは少しは認められてるか⁈
「準決勝はゴールタール。 体術の奴がフル代表戦で決勝まで行ってたけど、ラザノフが優勝した奴を倒してる。 他は特に要注意人物は居ない、だから作戦はなしでいいと思う」
皆んな頷く。
「オルキン、決勝は?」
「リズーンだろう。 剣術で優勝したライザーは上位亜人のライミット族とのハーフ、腕からのムチが厄介だ。 1回戦でテツマニを破っているハカルも弱くない。 槍術は2回戦でラザノフ君が撃破、魔術はリュウ、どんな感じだ?」
ライミットハーフは1年で優勝した奴の兄貴か?
それにしても兄弟で40%の壁を乗り越えるとは、運のいい兄弟だ。
「魔術で優勝した女の子は魔力も多く詠唱スピードも速い、なので厄介だ。 出来ればオルキンとケツマニアで倒してほしい。 その間に俺とラザノフで3人を倒す」
「お、俺はテツマニだ。 でもリュウが負けるほどの魔術師、強いんだろ? な、何かアドバイスはあるか? 例えば自分が戦うとしたら……」
詠唱が速いと言っても限度がある。
「とにかく最初の魔術だけは避けろ、もしくはまともに当たるな。 ……それさえ出来れば2人で連携すれば楽だと思うよ」
「その子は…… か、可愛いのか?」
それって関係ある?
「カエルっぽいけど、愛嬌のある可愛い子だった気がする」
「お、お尻の形は?」
ケ、ケツマニア〜!!
夜中、コンコンと優しくドアが叩かれた。
ドアを開けるとポルカ先生とゲイルが居る……
夜中の2時半。
俺が夜中に来いと言ったのは、誰にも言わずに見つからずに来い、という意味でもある。
ゲイルにも一応立場はあるだろうから、俺なりの配慮だ。
「無視せずよく来たなゲイル。 一応、その先生も同席するけど助けてもらえるとは思うな。 俺に嘘や隠し事をするならお前が…… いや、ここに居る人が気づかないうちにお前の首を落とす自信がある」
コンコンっと足で合図する……
すると影からニュ、っと刀が出て来る。
「これが俺の武器。 刀って言うんだ…… カッコいいだろ?」
「リュウ君…… それは私が許しません」
静かな決意を感じさせるポルカ先生。
大方、身を挺してでも守ろうとしてるんだろう。
「許すも何も気づかないから大丈夫」
後から慌てて下さい。
「いや、それでいい…… 俺も色々考えて来た…… 知ってることは話すから、後で俺の話も聞いてくれ」
ゲイルも覚悟を感じさせる雰囲気……
高回復薬でも木刀で打たれた左手は包帯が巻いてある。
そして折れた歯が少しだけ再生してる……
驚きだ…… 普通、地球人の大人が歯を折ると再生しない。
でも、この星の人は再生するのか……
サメみたいだな。
「それではゲイル君、君は羅刹種? それともハーフ?」
「俺はクォーターだ」
クォーター! 多分、俺と同じ。
「じゃあ、羅刹種はまだフォルマップルに居るでござるな?」
「わ、分からない…… 本当だ……」
そこからゲイルの身の上話が始まった。
ゲイルが物心がつく頃に住んでいたのは孤児院だった。
そしてその孤児院が隔離された孤児院であり、母親が自分を産んで直ぐに亡くなったことを知らされた。
父親は生きているらしいが、まだ会ったことはない。
孤児院では8歳から魔術練習が始まるが、ゲイルは直ぐに人と違うことに気づく。
"無詠唱スキル" このスキルがあることを孤児院のシスターが凄く喜んでくれたのを、今もゲイルは覚えている。
そこからはシャーラという学校の魔術の先生と一緒に暮らした。
シャーラから聞いた話では、あの孤児院に居る子は何処かしらに羅刹種の血が入った子達だと言う。
そしてシャーラも同じ孤児院の出身で羅刹種ハーフの父が居る。
父親とは会ったことはなく、スキルも受け継がなかったようだ。
平民と貴族の違い。
まともな教育を受けれない、付ける仕事が限定される、等あるが、1番違うのは税収だろう。
貴族は〜10%、平民は30〜60%の税収を払う。
高位貴族は逆に数%の取り分がある。
シャーラの場合は平民でも、父が貴族で母自身は平民でも良家の出だったので教員になれた。
それから数年、何の教育を受けて来なかったゲイルも、シャーラから教わって学校へ通えるまでになった。
そして、シャーラも俺も平民から貴族へと格上げとなった。
気になることが2つ。
1つはゲイルの境遇が俺に似てるという事。
もう1つは…… ギルドの仕事。
ギルドの仕事は依頼主、ギルド、請負人で10%づつ払っている。
平民の仕事としては最も税率の低い職業の1つらしい。
「それじゃあ本題に行こうか、何でお前達はナンパばっかりしてるの?」
「他国との結びつきはやはり婚姻が手っ取り早い。 まぁ、ていのいい人質さ。 リズーンとリバティの人質が価値が高い、もちろん高位のね」
そこまでは誰かが言ってた気がする。
他の国の貴族の子を嫁にして(もしくは嫁に出して)コネを作る。
でも、これはどの国も多かれ少なかれやってる事。
「そこまでするのは戦争でも考えてんの?」
「いや、そこまでは知らないんだ…… でも、少しでも自分が気に入ってる子と結ばれたいから皆んな必死なんだ……」
「ガハハハ、だからリュウが気に入らなかったでござるな」
「…………」
何かあるのは間違いない。
それが何かは、高位の大人の貴族しか知らないだろう。
「羅刹種のハーフ以降を増やそうとしてる理由は?」
「無詠唱だと思う。 だけど実験は失敗で、本来より低い5%を切ったと聞いたことがある……」
「貴方の魔力の総量は?」
ポルカ先生が聞いた。
「71ある。 1番多いのは水で17ある」
ポルカ先生と顔を見合わせる……
同じ孫世代なのに俺の方が多いのは何故?
って言うか、俺はいくつあったっけ?
まぁいい、話が逸れてる。
無詠唱スキル保持者を増やそうとしてる理由はやっぱり戦争? でも、無詠唱だからと言って強い訳じゃない……
それなら狙いは別にある?
「羅刹種のスキルは他に何があるの?」
「お、俺は知らない ……」
「私も知らない……」
羅刹種はきっと生きている、でも表舞台からは見えないようにしてるのは何故か?
羅刹種の女が居れば問題なく無詠唱は増える。 ……女は居ないのか?
何故、継承しやすいハーフではなく孫世代なのか?
謎が深まるだけで、結局何も分からない。
「ゲイル、そっちの話は何?」
「俺は育ての母親と離されて、多分貴族じゃなくなる。 あの国で平民として生きるのは辛い…… だから母…… シャーラと亡命したいんだ、その手引きをして欲しい」
ゲイルの話ではフォルマップル国の平民は、他の国とは比べ物にならないくらいの税収を納め、また貴族と平民格差も激しいと言う。
「でも平民は何処も同じよ。 貴方が亡命しても平民の、更に身分証が必要のないような仕事しか出来ないわよ」
「だから…… 身元保証人になって欲しい……」
「フォルマップル国とナラサージュ国の関係では無理ね。 もし亡命するならリズーンが最適だと思うけど……」
コネがないか……
「平民へ格下げと言ったがそんな直ぐに格下げするでござるかな?」
「ああ、確かに。 ゲイルは貴重なスキルを継承した奇跡の男。 俺に勝てないのはあの先生も同じだし、明日全ての国の奴も勝てないことを知ると思うよ」
ゲイルは思う。
確かに誰がリュウに勝てると言うんだ!
勝つ奴を想像すら出来ない。
「あの…… ふ、2人はどっちが強いの?」
「言いたくないが武器を持っての戦いなら、まだ1回も勝ててないでござる」
……やっぱり俺に勝ち目はなかった。
「私も格下げはないと思う。 ただシャーラさんとは離れ離れになるかも」
「うん、それが1番嫌なんだ」
俺にとってのシスターか……
「俺が一肌脱いでやってもいいぞ。 その代わり安くはないけど」
「リュウ君! 止めて、お願い……」
まだ内容を言ってないのに……
本当にシスターに被るからシスターに…… ローチェにも会いたくなっちゃったよ……
「な、何でもする! リュ、リュウの子分になってもいい!」
「気持ち悪いからいらない。 でも、俺が死ねと言ったら死ね」
ゲイルは思う。
子分じゃん!
「冗談だよ。 内容はお前を亡命させてシャーラをフォルマップルから奪って来る、そんな感じだ」
「リュウ君、バカなことは言わないで。 貴方がいくら強くても囲まれたら終わりでしょ、ギルドの大会を思い出して!」
見てたのか話を聞いたのか知らないけど、あの時と今の俺は違う。
「先生、心配してくれてありがとう、でも口出さない約束でしょ。 ラザノフ、無理だと思う?」
「顔を覆う布、つまりマスクが必要でござるな」
「大会で俺が出なくても勝てる?」
「ガハハハ〜、マジで勝ちにいく!」
ござる無し……
「最後にゲイルに聞く。 ……シャーラは亡命を望んでいるの?」
例えばシスターに俺が待っているから亡命して欲しいと誰かが迎えに行っても、シスターは亡命しないと思う。
シスターにはシスターの生活基盤があり、俺以外との結びつきも沢山あるのだ。
「よく、平民になってもいいからこの国を出れたらって話をしてた。 俺…… シャーラに手紙を書くよ」
「内容は確認するけど、どんな内容?」
「シャーラが来ないならフォルマップルに戻ること、まだ親孝行してないからさせて欲しいことを書いてみるつもりだ」
亡命した奴が国に戻ればただでは済まない。
ある意味シャーラにとって脅しと同じ。
「分かった、煮詰めよう。 もう今からゲイルにはナラサージュに向かってもらう、金は後で渡す。 俺は明日の昼にフォルマップルに旅立つ。 細かい地図、目印、距離、シャーラへの手紙もそうだけど、信頼してもらえる合言葉を教えてくれ。 段取りは午前中の試合中にラザノフの攻撃を誤って受けてしまう、それによる怪我で午後の決勝は俺は不出場、シャーラを奪ったのは俺とは疑われないはず。 他に何かある? ラザノフ」
「そうでござるな…… 朝の稽古で誤って打つ場面を想定して練習しておこう。 だけどリュウ、別に明日の昼じゃなくていいんじゃないでござるか?」
「だって俺は狙われるんでしょ、フォルマップルに。 だったらそんなに強くないところも見せておきたい」
刺客を送ってくる可能性だってある。
出来ればゲイル程度でお願いしたい。
「ちょっと待って、2人で訳の分からない…… フォルマップルに行くって、フォルマップルに帰る船に乗り込むつもりかもしれないけど、そんな簡単じゃないわよ。 強引に乗り込むのは通用しないんだから!」
「先生、俺の出身はレイモンの人間国ってところ」
「えっ?」
「あのっ、リュウ。 お、俺も一緒に行ったらダメか?」
「お前、飛べるの?」
「えっ、だってリュウだって飛べないだろ?」
「俺は裏の世界のレイモンから来たって言ったろ。 学校に通ってんだったらもう少し勉強しとけ」
ポルカは思う。
れ、0点…… 特待生で魔術代表まで決まっていたのに0点だった…… だいたい"スケベな豚属性"って何なの?
7点…… あれから数ヶ月経ったけど7点…… 合っていた答えは全て3択問題、もう一度リュウ君に同じ問題を出したら……
それでも人には勉強しとけって言うのね⁈
それにしてもレイモンから飛んで来たって面白すぎる子…… あの子が学校に来ている時は楽しい。
だから、あの子達が嫉妬しているのかも……
「リ、リュウは一体何者なの?」
ポルカ先生も俺の答えを待つ。
「お前と同じ羅刹種の孫、多分ね。 兄が居て裏の世界へ行く事を薦められたんだ、レイモンは長年戦争中だからね」
「飛ぶって、どうやって?」
「オリジナル魔術を足の裏から出して、ってもう時間がない、質問は終わり」
念入りに計画すべきことをこの場で決めている。
その意味は時間がないから。
この大会の最終日には、過去の大会でほぼ平民だけど亡命する奴が結構居たという。
特にフォルマップルやホオヒューガは抜けたがる奴が多い。
それだけに先生達は大会最終日は目を光らせている。
その目を掻い潜って抜けるのは、難しい。
「ラザノフ、お金はいくら持ってる?」
「200トアくらいでござるぞ」
「じゃあ、それをゲイルに渡して。 ポルカ先生はゲイルが目立たずにナラサージュ入り出来るルートを、ゲイルは手紙や地図を書け、それぞれ10分以内でやってくれ」
俺はリシファさんとデートしたりで、残り金は80トアしかない。
これからフォルマップルへの長旅では少し心許ない。
「リュウは何するでござるか?」
「俺は下の様子を伺ってくる」
ラザノフはハッとなり、頷いた。
今の時間は各階の先生がまだ巡回してる可能性が高い。
出来るならポルカ先生以外には見つからず、ゲイルを外に出したい。
そして、それぞれ10分を使った……
ポルカ先生が決めたルートは小さな町を馬車を使いながら進む、当然徒歩も多いし時間もかかる。
だけど、俺が途中まで送って行けば問題ない。
それから屋上まで来た俺とゲイルは、おんぶ紐でお互いを結んで、途中の町の"カイルマーゼ"まで向かった。




