他国の事情
第二章 成り上がり
第七十一話 「他国の事情」
学校の大会
今回はゴールタール国の首都、フェークスで開催される。
勉強の試験のみ先に受けて、大会の初日に結果発表される。
その他の競技
フル代表戦剣術はトーナメント戦。
7校なので前回大会優勝校がシードになり、2回戦から始まる。
フル代表槍術も同じ、ただし槍術というより剣以外の武器と言った方がいい。
棒やムチなど全て槍術くくり。
フル代表体術も同じ。
後は1年の部、男女。 2年の部、男女。 三年の部女子がある (3年の男子はだいたいフル代表なので、3年男子の部はない ) 。
魔術に戦いはない。
全ての年代の代表、男女一緒に競技に挑む。
動物に見立てた箱を20メートル離れた場所から破壊する。
破壊出来なければ失格、最後の1人になるまで距離を延ばして行く競技。
そして、それぞれのフル代表がパーティーになり戦うパーティー戦が大会の大トリになる。
「モグモグ、つまりデカチンの言った俺の実力を知りたいって本当のことだったの?」
「ぶふふふ! ……凄い名前の友達ね、ラリィに聞かせたくないわ」
長い1日は終わらず、夕食からのスタートとなった。
「リュウ、デカチンじゃなくオルキンでござる。 もう四文字以外は何も合ってないでござるよ」
「最後のンが合ってるじゃん」
「ブハハハ、ちょっとリュウ君! ……ラリィがちょっと下品になったと思ったら、貴方の影響ね!」
「違うよな〜、ラリィ。 ラリィは昔から優しくて下品だもんな」
「グフフ、ラリィね、昔から凄く優しくて下品だの」
6歳児はまだ操れると……
「もう! 帰れなくなるでしょ」
そんなに嬉しそうに言うなら、あの時ラリィと一緒に居るって言えば良かったのに……
「まぁ、帰ったとしても直ぐに遊びに来るといいでござるよ。 このウチは一度泊まった人は永年タダで泊まれるルールがあるでござるから」
なるほど、そんなルールがあるのか。
「ありがとう、ラザノフ君…… ところで家政婦探しは進んでるの?」
「ガッハハ〜、忘れちゃったでござる〜、でへっ」
「ラザノフ、可愛くないし気持ち悪い」
不満そうなラザノフ。
……え、自分で可愛いと思ってたのか?
「母ちゃん、良かったね」
一番嬉しそうな顔をしてるのはラリィ。
正真正銘の可愛い。
「それで大会中なんだけど…… どうしようか?」
ラリィは俺達と稽古や依頼などで外に出る機会が多い、それに影に入れるから安全だ。
しかし、クラルさんはこの家に来てから一歩も外に出てない……
問題はもう1つある。
ブラッドドックのリコのことだ。
リコはラリィが居るからか? 最初から俺達と稽古がてらの散歩に付いて来た。
しかし、最初は家の見えない位置まで来ると、クラルさんが心配なのか? 1匹で家まで帰ってしまっていた。
最近は徐々に距離を伸ばして最後まで一緒に居れるようになったけど、俺達が居ないと運動不足になりそう。
「ラザノフ、ガルフさん達は見に来るんだろ、だったら皆んなで合流出来ないかな?」
「出来ても父者達は昼間大会を観に来るでござるよ、その時はクラル殿は結局一人でござ〜る」
「ギルドの大会2回戦で戦ったパーティーと知り合いって言ったよな、そのパーティの地元はフェークスだし頼んでみようかな」
解散したけどトロンとブルージェイズさんにだったら頼める。
「いいわよ〜、そこまでしなくても。 私はここで待ってるわ」
「母ちゃん行かないならラリィも行かないの」
「ラリィは行ってきなさい」
大会は1日では終わらないし移動を含めると何日かかるか分からない。
一歩も外に出なくても、ここに綺麗な人が住んでるのをミナリやカナリは見つけた。
置いて行くのは危険だけど、フェークスまでは1,900キロもある。
「リュウ、その人達には頼めるのか?」
「ごめん、会えるかさえ分からない」
「だったらリサナーラのパーティーに護衛の依頼を出すでござるか?」
その手があったか…… リサナーラならいち早く危険を察知出来る。
ユキナからカミラさんへ、そしてリサナーラパーティーへは連絡がつく。
「いいね、それで行こう」
「ありがとう、でも無理ね。 私はリコとの契約が切れてるから夜の6時間しか飛べないの。 現実的にフェークスに行くには1週間くらいかかるし、昼間はその都度身を隠す場所も必要になる…… だったらジルベッタを呼んだらどうかしら?」
ジルベッタさん1人が護衛……
「だったらジルベッタさんとクラルさんの護衛にリサナーラ達を雇おう」
「お〜、それがいいでござるな、そうしよう」
「ラリィはどうする?」
「やっぱりお兄ちゃんとラザ兄と行く」
こんな感じで留守中のことが決まった。
ー学校ー
魔術クラスでも体術の授業はある。
守られる存在ではなく戦力として考えてもらうには、自分の身くらい自分で守れる力は身につけて欲しい、という概念だ。
今日の授業は詠唱中に乱戦になり、敵 (ハテール先生とリプリア先生) に襲われそうになったところから始まる。
選択肢は3つで合格も3つ。
1つ目は体術で戦い勝利する。
2つ目は合格ラインまで逃げる。
3つ目は詠唱を続行して魔術を当てる。
順序よく進み、俺の番……
ここまでの合格者は3人。
サルーが魔術を当て、ミナリとカナリは逃げ切った。
ミナリとカナリ
160センチのスレンダーで陸上部に居そうなタイプ。
走ってる姿から運動神経の良さが分かる。
サルーの魔術
サルーの種族のオリジナル言語で魔術を発動する。
やたら早くてびっくりするレベル。
ちなみに猿族は多種あり、人族認定されてない種族まであると言う。
その為、謎が多い種族とも言える。
さぁ、俺の番っと思ったけど、ハテール先生が近づいて来ない……
でも、リプリア先生は突っ込んで来た!
ブッ、っと出力の低い口から魔術で石飛礫をリプリア先生の足に当てた。
「痛っ!」と言いながら転んでしまったリプリア先生…… ハテール先生は遠くで様子を見てる。
近づき、話しかけてみる。
「大丈夫ですか?」
「ダメみたい……」
「俺は合格でいいんですよね」
「まだハテール先生が居るから…… 私を抱えて合格ラインまで行けば合格よ」
仕方ない……
リプリア先生を抱えて合格ラインまで歩く、それでもハテール先生は近づいて来ない。
「リュウ君さっきの魔術は口から出てたね。 だから私はリュウ君は年上のお姉さんと結婚した方がいいと思う。 ……23歳くらいの」
ん⁈ っと思いリプリア先生を見てみると真っ赤な顔をしていた。
リプリア先生
170センチくらいの大柄な女性。
整った顔をしているが少し小太り。
ポルカ先生より年下って言ってたから、22か23歳くらいか。
合格ラインまで来たので合格…… って、またミナリを先頭に並んでる。
ハァ、面倒くさい……
リプリア先生を降ろす。
「ミナリ、もうそのアトラクションは終わりました」
「今やってたじゃん。 ……私1人でもいいから〜、それで皆んな納得するからぁ」
する訳ねぇじゃん、特にアンタの妹。
「リュウ様、3人目までお願いします」
セシルさん…… 安定の3人目。
「ハァ、じゃあ3人だけね……」
何が楽しいんだか……
「ちょっと待ってよ! 急いで並んだ私はどうすればいいの?」
ハァ、この流れは全員か……
でも、聞き覚えの声。
チラッと見るとリプリア先生だった。
何故、並び直してる!
後から聞いた話では、ハテール先生は昔タツタ流に入門して3ヶ月で辞めたらしい。
だから武闘大会でタツタ流に勝った俺とラザノフには苦手意識があるようだ。
その後、ハテール先生は "逃げるが勝ち" を皆んなに見せたかったと釈明している。
放課後、約束のポルカ先生との会合。
「リュウ君、君が無詠唱という事はクラスでは内緒にするよう言っているけど、もう学校の中では有名ね。 それで大会なんだけど、詠唱をするフリをしたらどうかしら?」
「その意味は?」
「無詠唱種族の羅刹種は500年も前に絶滅した、それなのに何でリュウ君は無詠唱なの? 答えを知っていて消そうとする国があったとしても不思議じゃないわ」
きな臭い国フォルマップル、果たして羅刹種は生きているのか?
「じゃあ、適当にブツブツ言ってから魔術を発動するよ」
「うん。 ……ポルカ先生可愛い、リプリア先生ウザい、ハテール先生ビビリすぎ、ファイヤーボール!なんてどう?」
「いいね。 でも、ポルカ先生小さすぎ、リプリア先生並びすぎ、ハテール先生遠すぎ、アイス何とか!がいいと思う」
「ふふ、私は小さくないけどね、意外とあるのよ、コレでも。 ……見たい?」
腕を狭めて胸を強調しております。 ……どんな先生だよ。
「じゃあ、そのうち見せてもらうね。 ところで俺の出身は分かった?」
「ふふ、年下とは思えないほど余裕ね、女としての尊厳がちょっぴり傷つくわ。 ……出身はフォルマップルの隣のホオヒューガかリバティ」
「ハズレ。 最後にどうやってフェークスに行くか教えて」
「えっ、う、うん。 ゴールタールから来たけどゴールタールじゃない…… ここでもないしホオヒューガでもリバティでもフォルマップルでもない、そうなるとリズーンとコーラン国しかない…… リズーン?」
「今日はもう答えない。 ヒントだけあげるよ、ほぼ二択になったね。 ……で、どうやって行くの?」
「ヒントになってないわよ⁈ 」
二択にほぼ、はない。
つまり二択以外の三択目まで広げれば答えに辿り着くかも。
「代表と引率の先生で船で行くわ。 フェークスの割と近くに大きな川があって船で登って行けるの。 だから4日もあれば着くはずよ」
4日か…… 船の中は暇そうだしラリィも居るしな……
「俺とラザノフの妹も居るんだけど、連れてっていいの?」
「一応、知ってるわよ。 2人が行くなら当然来ると思ってたけど」
よし、それなら問題ない。
「明日は魔術代表、各年代の顔合わせがあるから是非来てね」
それなら明日は休んでも大丈夫。
次の日。
予定通り学校を休んだ俺は山に来ていた。
ここならオリジナルの魔術を撃っても誰も居ない。
オリジナル魔術のイメージは、虎峰とハリケーンランを混ぜた感じ。
どちらも高回転で風を回す、までは同じで、虎峰はその後圧縮と回転を俺が出来る限界まで行い、出す腕に細長く待機させる(口からは出来ない)。
ハリケーンランは魔力を外に出しながら大きく膨らませ、浮力と重力を操り動かす魔術。
そして、体内で高濃度に圧縮した小型の竜巻を出したり、ハリケーンランを出して横向きにしたりしたけど、今日は上手くいかなかった……
ーーーーー
リズーン国。
「勝負あり!」
首都レクションにある、学校内での魔術勝負。
「クッ、これほどまでとは……」
「ブハハハ〜、前回大会、ハルメルが出場してたら優勝だったな」
ハルメルと言う中位亜人の女の子に負けた俺は、ストローマと言う中位亜人だ。
俺は学校のOBで前回大会リズーン魔術代表として出場して優勝している。
学校内で三連覇している強い子が居る、と先生から聞いて学校まで来た。
「クッ、ちょっと揉んでやろうと思って来たが、揉まれたのは俺の方とは…… ハルメル、詠唱が早いし魔力も豊富そうだけど、血筋か?」
「あっ、はい。 私達の種族のスキルが"喉で奏でる"なのですけど、そこに詠唱を乗せてます。 それに…… 父も祖父も居ません」
ハッ、っとした……
つまり父も祖父も上位亜人で、スキルは継承出来ないけど魔力量は増えていった、って事だろう。
「ひとりっ子ってやつ?」
「あ、はい…… もちろん……」
たまたま恋した相手が上位亜人だったのか、それとも狙って上位亜人の血が欲しかったのかは分からない、それでもハルメルの種族のスキルとあの魔力量はマッチしている。
少し幼い感じがするが、カエル似のなかなか可愛い子だ。
これなら今大会も優勝出来ると思うし、俺達は優勝者同士という事になる。
……恋の予感!
フォルマップル国。
「ゲイル、今日は何食べたい?」
「学校では普通の生徒だろ、恥ずかしいから話しかけんなよ」
俺には両親が居ない。
父は亜人とのハーフで、何処かで生きてるらしいがまだ会ったことがない。
母は人間で俺を産んで1年で死んだらしい。
そこから孤児院を挟んで、途中から学校の先生でもあるシャーラに育てられた。
「貴方ねぇ、評判が良くないわよ、生意気だって。 3年のヅッダ君と喧嘩して怪我までさせて」
「それはアイツが悪いって言ったろ。 魔術のフル代表を俺に取られたからって友達使って襲って来たんだぞ」
「その魔術は使わずに殴ったんでしょ。 私はゲイルにそんな事を教えて来た訳じゃない!」
面倒くせ〜親代わりの女……
今だって監視の目はあるっつうのに……
この国は、いい奴は生きていけない。
人を利用して上に立ち、暴力で黙らせる男が出世する。
事実、この前の喧嘩ではシャーラ以外の先生には褒められたくらいだ。
俺が良い子ちゃんにでもなったら、速攻でシャーラとは離れ離れにされるはず……
俺は貴重な実験体、無詠唱を引き継いだ最後の孫世代。
無詠唱を引き継いだのはたった2人、俺と二十歳年上のハマンと言う人だけ。
何で軍事力を上げようとしているかは分からないけど、無詠唱に関する実験は大失敗だ。
しかも他国には無詠唱は極秘事項なので、大会では詠唱して魔術を発動しなければならない。
その上、他国の貴族の女とコネを作り、いい関係にならなきゃならない大会でもある。
もし無理なら他国の貴族の売れ残りのブスと結婚させられる可能性だってある。
だから少ないチャンスは逃せない。
本当、面倒くせぇ大会だぜ……
そんな他国の事情などつゆ知らず、今日はユーリスと試合稽古をしていた。
手加減や隙を見せながらの稽古でも、実力差がありすぎる……
それでも何故か、打たれるユーリスは少し嬉しそう。
稽古が終わるとユーリスが嬉しそうに話す。
「ねぇリュウ、グラスアザーには今の時期、27種類も花が咲いてるんだって、登りながら数えて行こうよ〜」
稽古中も心はグラスアザーだったな……
「ユーリス、今の試合稽古で気付いたことは?」
「え…… う、うん。 リュウの剣は側から見ると美しいけど遅く感じる…… でも、実際に受けると凄く速い…… 秘密はバランスね」
まとまりのあるバランス良い動きは、側から見るとイメージ通りの動きなため遅く感じる。
でも、実際は側から見てもインパクトの瞬間だけは全く見えないでござ〜るってラザノフが言ってた。
「まぁ、最近はユーリスも素振りに少し残像が見えるようになってきたよ」
「本当? じゃあ、私も少しはバランスのいい動きが出来るようになったのかな」
と言って、ユーリスは腰に手をあて胸を張った。
ユーリスはリプリア先生より背が高いけど大柄に見えない。
それはバランスの良いメリハリのある身体に小顔だからだと思う。
「ユーリスは卒業したらどうするの?」
お姫様ってどうなるの?
「私はね…… 他国に2年預けられて、そこで花婿を決められると思う」
やばい…… 軽い質問のつもりが、めちゃ重い話題だった。
でも、聞きたくなった。
「何処の国かは決まってるの?」
「ううん、まだ…… 幸なのかな? 何国かに来て欲しいって言われてるみたい……」
こんだけ美しい人なら何処も来て欲しいだろう。
「私は4番目の嫁の子だからね、お姉さんもお兄さんも政治の道具だったから私だって覚悟くらいあるよ」
他国との結び付きは、弱小のナラサージュには必須。
戦争はしてないけど各国のパワーバランスは存在していて、例えばホオヒューガ国はフォルマップル国から人攫いや資源の強奪をされても、弱いホオヒューガ国は結局泣き寝入りするしかない。
「でも、フォルマップル国だけは嫌だなぁ」
「えっ、フォルマップルからも来てくれって言われてるの?」
「うん、そうみたい。 ま、好きな人と結ばれないのは同じだからいいか……」
俺は大きく誤解していた。
良いもの食って、偉そうにして贅沢三昧、人に食事まで世話させる、それが王族だと思ってた。
でも、違ったようだ。
特に今年のユーリスは忙しいようだ。
2年の花嫁修行の前に、ナラサージュの姫として恥ずかしくないような知識と教養、社交と大忙しらしい。
だから試験休みの旅行を楽しみにしているのか……
ナラサージュの王様。
基本、4人の妻を娶る。
だいたい2人目までを自分で選び、3、4人目は他国との結び付きやしがらみで選ばれることが多い。
王子は3人。
生まれた子供達の中で、王子を名乗れるのは王様に指名された3人だけ。
その3人の内の1人が次期王様になる。
ユーリス。
ユーリスは4人目の妻の末っ子。
女でも指名されれば王子だけど、ユーリスが産まれた時には王子枠はもう無かった。
王様にとってもユーリスは最後の子供で、容姿も美しい自慢の子で、子供達の中で1番可愛がっている。
ユーリスには甘い王様。
トラーリーン王子。
1人目の妻との長男で49歳。
痩せ型で背が低いが、一番ビッシュ王に似ている。
次期王様の本命⁈
カージナル王子。
1人目の妻との4番子で40歳。
恰幅の良い体型で学校では成績トップだった。
年齢的にもカージナルが次期王様と見る人も多い。
キャプトマン王子。
3人目の妻との2番子で29歳。
通常、3番目の妻や4番目の妻からは選ばれないが指名された。
行動力と先見の明があると言われている。
その、先見の明で次期王様レースで有利になるような功績が欲しい。
「ふ〜ん、ユーリスは王子と仲良いの?」
一応、腹違いの兄弟。
「キャプトマン王子には可愛がってもらったよ、母同士が仲が良いから」
しがらみで何処かの国から嫁いできた母同士か……
「他はどうなるの?」
「王子は皆んな王族に残るけど、私達は他の国の王族に入るか、上級貴族になるしかないかな〜」
なるほど……
俺の中の王族や貴族のイメージが壊れていく……
だってポルカ先生やミナリやカナリだって貴族なんだよ…… ん? でも、ミナリやカナリは平民の街によく居るみたいだけど…… 今度、その理由らを聞いてみよう。
ーーーーー
そして時は流れ、試験を終える。
試験を終えた日の午後、クラスメイトのサルーが話しかけてきた。
……えっ? 試験の出来を聞かせろ?
今回はなかなか出来た。 ……俺の良くは当たらない予想では70点。
「リュウ君、休み明けはとうとう学校同士の大会だね」
「ああ、サルー達は普通に学校に通うの?」
「え、僕も一応、1年の代表なんだけど……」
「そうなの⁈ じゃあ、一緒に行くんだ」
「うん、よろしくね、リュウ君」
「ああ、サルー。 ……あのさ、リュウ君じゃなくてリュウでいいよ」
「うん、分かった、リュウ君」
分かってねぇじゃん!
まぁ、サルーは詠唱がやたら早かった。
魔術は制限時間内に遠くにある障害物を破壊する競技、速さと正確さと威力が求められる。
1年生でも3年生でも使う魔力が自由なら、ハンデ差は余りない。
「リュウ君、一緒に帰ろうよ」
「はぁ? リュウ君は私と一緒に帰るんだけど」
カナリが割ってくる。
「私達、でしょ。 いいよ、サルーも一緒に帰ろう」
今度はミナリが入ってくる。
こんな感じで4人で帰ることになる……
サルーはギルドの前のお惣菜屋さんが実家。
でも、ミナリとカナリは貴族って聞いたけど……
「ミナリとカナリの家は何処なの?」
っと聞いても、貴族街は馬車の中で通っただけなので分からないだろう……
「私達の家は闘技場の奥だよ、ありがとう」
ありがとうって…… 送って行けってことか?
「俺は貴族門は通れないよ」
「えっ、私達の家は下町の方だよ」
ミナリとカナリの父親は林業の組合長。 会社を一代で築き上げて林業を発展させた功績で、ミナリとカナリが小さな頃に下級貴族になった。
なので住む家は下町で、貴族としての意識は薄い。
「それにしても代表じゃないとリュウ君と旅行にも行けないなんて酷いよね。 来年は私も代表を狙うよ」
「お姉ちゃん、リュウ君は私と旅行に行きたいの。 だって傷跡を舐めるように見てたし」
「わ、私の傷跡なんかリュウ君の鼻息で疼いちゃったんだよ〜。 ここに鼻息だよ、ここ!」
ありえない場所を指しております。
だいたい旅行じゃないし大会は3年に一度だっつうの。
「サルーは兄弟は?」
「うん、居ないけど、親戚のお姉ちゃんは居るよ。 リバティの魔術代表」
なるほど…… 魔術師としては優秀な種族なのかも知れない。
それにしても俺のオリジナル魔術、未だに未完成……
ミナリとカナリのとにかく広い敷地の家まで送り届けた俺は、一旦、夜中まで仮眠をとる。
そして起きてからはチムルネッタを目指して飛ぶ。
距離的には300キロ弱と言っていたので4時間も飛べば着くけど、その手前の湖の横の街道で馬車に拾ってもらう予定。
ラースビーさんに教えられた距離別の目印を頼りに湖の街道まで来た。
辺りはまだ暗い…… 途中、見えた馬車がユーリス達が乗っているなら、後1時間くらいは待ちそう。
少し早いけど朝の稽古をしておこう。
軽く身体をほぐし柔軟から体幹トレ、指先の強化トレをしてから今日もオリジナル魔術の開発。
虎峰を真似た魔術を作ろうとしてたけど、上手くいかなかった。 ……だったら虎鉄だろう!
という事で、虎鉄の体積だけ大きくして手の前まで出す。
とても危険なので起爆させる水の魔力は使ってない。
起爆には投げてぶつける衝撃でいいだろう。
早速、やってみよう。
魔術の競技は離れた障害物を破壊する。
そしてクリアすると、もっと遠くの障害物を破壊するようになると聞いた。
なので今回は湖の50メートルくらい先にある、岩場にぶつけてみよう。
ビー玉くらいの体積にした虎鉄を投げる。 ……が、届くはずがない。
そこでハリケーンランを改造した横向きの細長い竜巻で絡ませるように送る。
そのまま岩場までぶつかった虎鉄改は、大きな爆発と衝撃で、ここまでグラっとするほどの威力!
岩場が…… 無い!
まぁ、ちょっと危険な感じはするけど、これだったら優勝出来るだろう……
オリジナル魔術、完成。
コトコトという音と「リュウ君〜」というラースビーさんの声で、モヤのかかった街道を馬車が近づくのが分かった。
「リュウ君、今凄い音がしなかった?」
俺の前に馬車が止まり、運転手の隣に座るラースビーさんが話しかける。
「したかな?」
「したよ、馬もびっくりしてたよ。 予定通りだけど待った?」
「いや、丁度良かったかな」
朝の稽古も予定通り出来たし、オリジナル魔術も完成した。
「ふふ、じゃあ乗って、後1時間ちょっとで着くよ」
別にやましい事をしてる訳じゃないけど、当然初めから一緒に乗って来ることは出来ない。
馬車に乗り込むと対面式の片側4人は乗れる座席で、マインさんが馬車の1番後ろの右側の席に座り、ユーリスは同じ右側の前目の席に座っていた。
「リュ、リュウ様、お、おはよう。 あの…… ここに座ってください」
ユーリスが指したのは、自分の隣の凄く狭い右側。
「え〜と、そこだとケツが半分くらいしか入らないんだけど……」
左側の席には誰も居ませんぞ!
え? って顔のユーリスが少しだけ左にズレた。
やっぱりそこに座らないとダメなの? って顔でマインさんを見ると、ニヤッとしながら左側の席を指した。
不満そうなユーリスを後目に左側の席に座る。
ふと思う、王族の馬車にしては豪華じゃないし、狭いと……
ただ理由は何となく分かる。
お忍びでの旅行、出来るだけ目立たないようにしてるのだろう。
「リュウ、着いたら早速山登りだね」
「グラスアザーだっけ? さっき空から見たけど綺麗な山そうだね」
暗いのでハッキリとは見えなかった。
「うん、数年前に一度登ったけど、8時間くらいかかったかな……」
まだ早い時間だけど、着いてから山登りの支度してから行くと、今日だけでは帰って来れなくなる。
「リュウ君、夕方の6時までには必ずユーリス様を連れて帰って来て下さい」
「分かりました。 時間を見て進みます」
「リュウ、その時計、素敵だね。 ……もしかして裏の世界で買ったの?」
コレはカミラさんからのプレゼント……
「いや、前のギルドの担当からもらった」
「………女?」
「そうだよ。 ……でも、ラザノフは正装服をプレゼントされてたよ」
「ふ〜ん、いい担当の人だったんだね」
いい人でいい女だった。
リョーキが帰って来なければ、サンカルムの家にはカミラさんが住んでいたかも知れない。
そんな話をしているうちに馬車が止まった……
大きな門を抜けた先にある大きな屋敷。
お出迎えする十数人の使用人。
上級貴族とは自分の領地では王族と同じように扱われるのかも知れない。
……別にど〜でもいいけど。
屋敷の中は1階に食堂や風呂などがあり、2階、3階は部屋が並んでいる。
俺は2階の奥の部屋、ユーリスは3階の手前の部屋に泊まることになった。
朝食を頂いたり、少し旅の疲れを取るためにまったりして山登りは10時から始めることにした。
そして山の麓までは馬車で送るという言葉を振り切り、俺とユーリスは屋敷から山の山頂を目指すことにした。 ……と言っても、ここ自体が山の麓と言ってもいいくらいだけど。
「リュウ君、分かっていると思うけど、ユーリス様を本当にお願いします。 私達はリュウ君を信用してユーリス様を預けます」
凄くプレッシャーをかけるのね……
「分かりました。 命を賭けて守るつもりで行きますよ」
ポ〜っと見つめるユーリス…… でも俺は女なら誰でも命を賭けて守ろうとする男だ。
「ふふ、貴方以上にユーリス様を守れる人は居ないでしょう。 気をつけていってらっしゃい」
こんな感じで俺達はグラスアザーに向かった。
少し下ると川にぶつかり、そこの川沿いにある緩やかな坂を歩いて行くと直ぐに、グラスアザーの登山口がある。
ユーリス姫と2人というのは少し違和感があるけど、今回は招待された旅行を楽しむだけだ。
もちろんユーリスも卒業前、何処かの国へ花嫁修行に行く前に、この旅行が楽しいものだったと思って欲しい。
「ハァ、ハァ、リュウ。 ……少しペースが早いよ」
「ユーリス、俺はグラスアザーを登り切るつもりだ。 ユーリスと一緒なら嬉しいけど、ユーリスの言う通りにするよ、どうする?」
「ハァ、ハァ、ハァ…… が、頑張ってみる」
出発からペースを早めたのは、この後にペースを落とすから。
そしてゆっくりなペースに落とすと、少し余裕が出てきたユーリスが話し始める。
「ふふ、リュウ。 私ね、もう18種類の花を見つけてるよ。 ……でも、リュウは馬鹿らしいか。 だって空を飛べば一瞬だもんね」
近くにあった花を一つ摘み、話す。
「そんな事はないよ。 この花は同じ種類はあってもこの花自体は世界に一つ、飛んでたら気づけないでしょ」
「じゃあ、無闇に花を摘むのはやめましょう。 お花だって生きてるんだよ」
トンボだ〜って、お花だ〜ってぇ、アメンボさんだって〜ぇ、みんなみんなぁ、生きているんじゃ、友達なんじゃ〜、って歌、あるよね?
「ごめん、俺は友達になんて事をしてしまったんだ。 帰って来い〜、ラザノフ〜!」
「と、言いつつお花のラザノフ様を雑に捨てないで。 次、そんな事したらお弁当あげないからね。 ……ふふ、やっぱり私がリュウのために作ったから食べてください」
……ん⁈ さっきのまったりした時間中に作ったのか?
「お姫様って料理の勉強もするの?」
「ふふ、そんなのはしないよ、私の場合は振り向いてくれない好きな人を振り向かせるために頑張りました」
ドキッとする。
お姫様じゃなくて普通の女だったら惚れてるかも。
「ありがとう、何よりラースビーさんとマインさんに感謝だね」
「うん……」
ユーリスの自由はラースビーさんとマインさんが信頼されてる、そして末っ子で王様がユーリスに甘いという事が大きい。
もちろんユーリス自身が信頼されてるのもある。
だけど、やっぱり命を賭けて平民の俺との恋の思い出を作ろうとしてくれてる2人の動きには、ユーリスだけでなく俺だって感心するし感謝もする。
それも後、半年だけど……
半年経てばユーリスは何処かの国へ花嫁修行に行き、そこで誰かに気に入られて結婚するのだろう。
これはどうにも出来ない未来。
俺とユーリスが付き合っていても変えることの出来ない未来。
どんどん登ってお腹が減りだした頃、前方に休憩の出来るお茶屋が見えた。
登山を楽しむ人達が休憩してるけど……
「端っこの方の席が空いてるね。 あそこでお弁当を食べようよ」
「でも、ユーリスを知る人も居るんじゃない?」
何と言ってもこの人は、この国のお姫様。
「ふふ、全然大丈夫。 むしろリュウの方が有名なんじゃない?」
確かにゴールタールで声をかけられたけど、この地ではチラ見をされる事もない。
「じゃあ、お昼と少し休憩しよう」
そんな感じで端っこの席で休憩する事にした。
お姫様と言っても、サンカルムや他の大都市の一部の貴族くらいしかユーリスを知らないのかも知れない。
しかしこれだけ美しい人なので、一度覚えられたら忘れないだろう。
一生懸命に作ってくれたお弁当。
殆ど寝てないはずなのに頑張ってくれたんだ、不味いわけがない。
それにしてもどうして俺なんかに惚れたのか⁈
しかも一目惚れって言ってた、それはリリカやカミラさんも同じだ……
ん…… 気づくとユーリスが俺の肩に頭を乗せてウトウトしてる。
やっぱり余り寝てないのだろう、ここで少し寝させてあげよう。
ハッ、俺までウトウトしてしまった……
俺の膝に頭を乗せて寝ているユーリスの鼻から口あたりが濡れている。
絶対、俺のヨダレだろう。
そして、俺のヨダレで溺れそうになったユーリスが目を覚ます。
「ハァ、ね、寝ちゃったみたい…… な、何か鼻らへんがベチョベチョに濡れてる……」
「疲れたんだ、誰だってヨダレくらいは垂らすさ」
「ヤ、ヤダ! リュウに見られたくなかったぁ〜」
「ハハ、俺はヨダレを垂らす人の方がいいと思う。 それだけ頑張ってる証みたいなものさ」
まぁ、僕のヨダレで、僕もちょっと頑張ったって事だけど。
「で、でも…… いつもはヨダレなんて垂らさないのに……」
俺はユーリスのヨダレとは言ってない。 ……ただ、俺のヨダレとも言わない。
それにしても俺のヨダレ…… この国のお姫様を溺れそうにさせるとは、粘り強くて凄いやつ。
それから俺達はまた登りだす。
どんどん登って山頂が見えるけど、もう半分の4時間は過ぎている…… 帰る時間を考えるとここまでか。
「ハァ、ハァ、リュウ…… 残念だけど戻ろうか……」
「花は何種類見つけたの?」
「24種類。 でも、後の3種類はもっと上にしかないから…… いつか…… ムリか……」
いつか見ることも諦める未来しかないのか……
「ユーリス、俺達に無理はない、進もう」
「え、でも帰らなきゃ、もうラースビー達に応援してもらえない」
「大丈夫、行く?」
と手を差し出すと、ユーリスは嬉しそうに手を繋いだ。
ユーリスの手を引き少しペースを上げて登る。
途中、見れないはずだった花を見つけながら登ること4時間、俺達は山頂に着いた。
陽が落ち始めた山頂、雲の上の景色、他の人はまばら。
「ユーリス、もう約束の時間は過ぎている、だけど、少しだ……」
と言ってユーリスを抱き抱える。
またポーッと見つめるユーリスは、美人というより可愛く見える……
人の少ない岩場からユーリスを抱えてダイブする。
ユーリスが小さく「キャ」と言うのは想定内。
だけど、後ろから『うぉ〜い!』と言う声がしたのは想定外、誰かに見られてたのだろう。
しかし、雲に紛れて降下する俺達を見つけるのは難しいはず、そのままラースビーさんの屋敷を目指す。
来た道のりは8時間以上、だけど帰りは5分程度って…… やっぱりジェットは凄い魔術!
屋敷の門の外にラースビーさんとマインさんが居るのが見える、きっと心配で待っているのだろう。
2人の前に、そのまま堂々と降りる……
驚く2人の前でユーリスを下ろすと、マインさんが口を開いた。
「ユーリス様、リュウ君…… 無事のようね…… でも、約束の時間は過ぎているわよ」
俺が進む判断をしたので謝ろう。
「すいま……」
「リュウ。 今一瞬、私は自由を感じた…… 自由なリュウが私に自由を教えてくれるの!」
俺の謝罪に被せるように言うユーリス。
確かにお姫様は、生まれた時から自由が遠そうだ。
ユーリスが楽しかったのが分かったのか、マインさんは満足そうに俺に頷いた……
その後の夕食。
嬉しそうに今日の出来事をラースビーさんとマインさんに話すユーリス。
その様子を目を細めて聞く2人……
来年ユーリスが行く花嫁修行の何処かの国に、2人はついて行く。
ユーリスが言うには2人も結婚相手を見つける場になる可能性があるようだ。
お姫様の護衛とは、ほぼ一生の永年契約と同じ意味。
ユーリスも2人にも、いい出会いがあるようにと思わずにはいられない。




