ハリケーンラン
第二章 成り上がり
第七十話 「ハリケーンラン」
夜の空を1人で飛ぶのは久しぶりだ。
目指すはリシファさんの居る、フェークス。
何故こうなったかと言うと、学校帰りに寄ったギルドでこの前の依頼があったのだ。
鳥人族の人が請け負ったと言っていた依頼が、依頼失敗により緊急依頼コーナーにあったのだ。
当然この前見た依頼料より高くなっていたので、即決して依頼を受けた。
荷物の配達
リバティ国イチカーナ街 タスカータ商店宛
ランク不問 9月10日 報酬 3200トア
ラリィは母ちゃんと離れたくないみたいなので置いて来た。
学校は別に休んでもいいようなので生活を優先させてもらう。
……ってな感じで、飛んでいるのだ。
フェークスまではサンカルムから1,900キロ、そこからイチカーナまでが約400キロだそうだ。
結構遠いので今回は雲に紛れ、昼間も移動する。
空を飛んでいて思うこと、それはいつも空は美しい。
昼は地上の景色を愉しみ、夜は幻想的な空を愉しむ。
しかし…… 今日は久しぶりの1人なので先を急ぐ気持ちが強く景色を愉しめない。 ……だから、ひたすら進む。
予定としては1日半後の朝にフェークスに着く、そこから丸1日休んで次の日にイチカーナまで出発、その日のうちに荷物を届けて朝にフェークスまで戻る、また1日休養してからサンカルムに1日半かけて帰る予定。
なので、フェークスには2日滞在出来る。
1日目にリシファさんを探して見つけて、荷物を届けた後、2日目に1日中リシファさんとデートしたい。
1日目には電撃ハーレムのメンバーも探してみよう……
ーーーーー
少し早めにフェークスに着いた。
リバティ国まではゴールタール国も通過するので、依頼には入国料が支払われている。
カミラさんによると通常の入国料よりもかなり安い入国料を依頼主負担で払っているようだ。 ……なので自由にゴールタール国を満喫出来る権利があるのだ。
と言っても俺は裏の世界の住人、リーブルに勝手に飛んで来て…… ハッ、そう言えばレミアがレイモンから飛んで来た人が、西のビジョンの森にドリアードと共に居ると言っていた。
長く飛べる吸血族の飛行時間は6時間、でも体力を回復する薬を使っても海の滝を越えれるとは思えない。
その他の飛べる種族をそこまで知ってる訳じゃないけど、どんな人が飛んで来たのだろう?
学校でポルカ先生に聞いて見よお〜っと。
今回の楽しみランキングで3位だった、朝市のスープを食す。
……やっぱり凄く魚介の出汁が効いて美味い。
学校の武闘大会の時にラザノフにも食べさせてあげよう。
えっ? ランキングの2位と1位を教えろ!
そこまで聞きまくるなら応えよう。
1位は、リシファさんと会う、だ。
あの子は真面目な堅物…… 全く俺と会わなそうだけど一緒に居る時がやたら合う、つまり凄く楽しい。
会話の間や期待する返事など、期待以上に嬉しい応えをリシファさんはくれるのだ。 …… と言っても貴族の子なのでお互い付き合うとかそんなのはない。
もし、あるとするならもっと会う時間がなければダメだ、そしてその会う時間を今回は俺が作る。
2位は、アイリスさんと話したい、だ。
アイリスさんは貴族と上位亜人との子、と聞いてからアイリスさんと会いたくなった。
少し大会の時の話とかもアイリスさんが嫌じゃなければ話したい。
どうして冒険者になったか? とか、聞いてみたいことが沢山ある。
……結局、上位は女か、と思わないでくれ。
考えてもみてくれ、もしラーメンが醤油味しかなかったら君はどうする?
味噌ちゃんだってそりゃあガッカリするはずだ……
「わ、私に魅力がないから」と自分を卑下するかも知れない。
じゃあ、豚骨君はどうするんだ。
今までブイブイ言わせてきた豚骨君は、所詮は豚の骨なんだ…… と気づいて学校の屋上から飛び降りることだって考えられる。
塩野郎も同じだ。
何にでも合うのは自分……
……えっ、長いけどだから何?
……だ、だからリシファさんが1位でアイリスさんが2位なのだ!
……えっ? ラーメンの例えって関係あるのか?
関係あるかは関係ない! ……俺はラーメンが好きだ〜!
という事で、前回泊まった宿に寄ってから街をぶらつく……
一応闘技場に足を運んで、あわよくばアイリスさん達に会えないかな〜、っと思ったけど誰も居ない。
その後、図書館に行ってリシファさんが来るのを待ったけど来ない……
図書館の人にリシファさんの特徴を言って聞いたけど、最近は見かけないと言われた……
……会えない?
図書館に居ないのなら電撃メンバーを探すしかない。
しかし…… この街は広い、この前の酒場やギルドなどにも寄ってみたけど誰も見つからない。
だけど俺を知る人は居るようで2人に声をかけられた。 ……2人共、サンカルムでの闘技大会を見てたそうだ。
他にもこっちをチラチラ見ていた人も何人か居たので、やっぱり闘技大会を見に来てた人だろう。
夜も酒場を探したけど見つからない……
リシファさんも図書館に居ないのなら、もう俺が探せる範囲はない、これが貴族と平民の壁。
そして翌日、朝早くに出発した俺はイチカーナ街まで行き、依頼を終わらせた……
ここはリバティ国、イチカーナ街。
リバティ国と言えば、土竜族の里や女神レミアの居る森がある。
ただ、イチカーナ街からは結構遠い。
ここで悩む…… レミアに会いたい……
この依頼であわよくばリシファさんやアイリスさんと会えれば、っと思っていたけどもう会える気がしない。
かと言って、レミアにも会える気がしない……
まぁ仕方ない、今回は予定通りフェークスに行ってリシファさん、アイリスさんを探そう。
イチカーナからフェークスに行く途中に考える。
このままフェークスに着いても、夜は酒場くらいしか探せない……
そして次の日の夕方には戻らなければ、次の日の夜にサンカルムに着けない。
次の日はユーリスの稽古もあるし、学校にも出たいから寝れる時間に着きたいのだ……
依頼は上手くいっても他は上手くいってないからか? 少し疲れている。
予定通り進むのは時間だけ、今回も時間通りにフェークスに着いて、予定通りに酒場を探して予想通りに誰も見つけられなかった……
それでも宿屋のベッドで起きた俺は今日の俺。
きっと誰かを見つける、意地でも…… 出来ればリシファさんがいい。
という事で、今日は夕方まで図書館で過ごすつもり。
偶然リシファさんが来るも良し、来なくても飛べる種族について書いてある本でも読もう!
ーーーーー
夕方。
夕方までリシファさんは現れることはなく、図書館で待った俺は飛べる種族について勉強した。
飛べる種族で1番長く飛べる種族は鳥人族の中のベルクログと言う種族で、身体が薄くて翼が大きい特徴を待っている。
飛行時間は9時間というので体力を回復する高回復薬を飲み続ければ、もしかしたら海の滝を越えれるかもしれない。
亜人ではトペカナという中位亜人が長く飛べるらしい、特徴は身体が小さくやはり翼が大きい。
飛行時間は7時間で、この辺りの飛行時間だと海の滝を越えるのは難しいと思う。
2時間の差が数日で大きくなるからだ。
ちなみに俺は14時間飛べる。
凄く長く飛べるように聞こえるが、魔力を回復する高回復薬でも3割しか回復しないので微妙だ。
体力を回復する高回復薬が体力を全回復してくれるならトペカナという中位亜人だって海の滝を越えれる可能性が出てくる。
しかし、俺が飲んだ時は体感で5割程度しか回復しなかった。
本には羅刹種は出て来なかったので、やはりポルカ先生に聞いてみよう。
さぁ、この前の酒場で腹ごしらえをすれば暗くなる時間になるので、そこから長旅の帰路につくか……
そう思って何も期待してなかったけど帰り際に声をかけられた。
「リュウ、だよな…… 何してるんだ、こんなとこで?」
声をかけてきたのはトロンとブルージェイズの双子だった。
「依頼の帰りでね、誰か居ないかな〜って思ってたんだ。 ……アイリスさんは?」
2人は悲しそうに顔を見合わせた。
「帰ったよ、親元に…… だから俺達のパーティーは解散さ。 ……最も俺達はメンバーになって1年も経ってないけどな」
アイリスさんの親は上位亜人と貴族と聞いた。
「帰った…… 何処に? 理由は?」
2人は俺の隣に座るとお酒を注文した……
「リバティの離島さ。 結局、パーティーメンバーからはアイリスに誰も選ばれなかった…… 今はな」
リバティ国の離島か…… もしかしたら俺がレイモンから飛んで来る時に通り過ぎた島かも。
「今は、とは?」
「本人が2年後には帰って来るって言ってるのさ。 そしてまた同じメンバーでパーティーを組もうってな」
「そう……」
アイリスさんはきっと何らかの問題のケジメをつけに帰ったに違いない。
だってアイリスさんは…… いい女だから。
その後もトロンさんとブルージェイズさんの愚痴を聞き、帰る頃には夜も更けていた。
ーーーーー
長旅の帰路を乗り越えて、帰って来ました我が家!
只今の時刻、朝の4時前。
丁度、今の時期の朝の稽古時間だ。
ラリィを起こして階段を上がると、習慣になってきたラザノフも2階から降りて来た。
「リュウ、今帰って来たでござるか?」
「うん、なんか疲れたから今日も学校は休むよ」
昨日も一昨日も寝てないし、予定通りに行かなかったから疲れた。
「い、いやリュウ、2回連続で稽古を中止だとユーリス姫が可哀想だ、昨日も今日は大丈夫か何度も聞かれたでござるよ」
確かに大会も近いし可哀想か……
「分かった。 じゃあ、学校で寝ようかな」
「もうすぐ中間テストでござるぞ」
「俺には関係ないよ」
ギルドで結果を出せば良いって言われてるし。
「ダ、ダメでござる、今日くらいは真面目に授業を受けてくれ」
何でラザノフに言われなきゃいけない?
でも、疲れてるし面倒くさいから頷いた……
朝の稽古ではいつになく気合が入っていたラザノフ。
もうすぐ大会だからか?
ー登校ー
久しぶりの学校…… って、まだ1回しか来てないけど。
教室まで来ると色んな子達に囲まれた。 皆んな同じ質問で、どうして休んでいたか? だった。
ギルドの仕事をしていたことを伝えると、納得する子と納得してくれない子も居た。
俺的に驚いたのは貴族の男達(と言っても4人で1人は亜人)も全員集まり、俺に質問したこと。
まぁ、俺を含めて男は8人しか居ない、皆んな肩身が狭い分、仲が良いのだろう。
それに俺は竜族と繋がりがあるので、平民とは言え一目置かれてるのは事実。
「リュウ君、まだ先生が来ないから付き合ってもらうよ」
と言って強引に手を引くのはカナリ。
前回、強引に手を引いたミナリの双子の妹だ。
「ちょっと…… 何、何処行くの?」
「いいから黙って。 ……リュウ君には私の秘密を教えてあげるの」
やな予感しかしない、何をされちゃうの?
またあの部屋まで引っ張ってこられた。
恥ずかしそうに俺を見るカナリ……
カナリ ミナリより濃いピンク色の髪の毛。
目の色もミナリはグリーンだけどカナリはブルー。
ミナリより目が細く気が強そう。
「お姉ちゃんのアレ、ガン見したんだってリュウ君?」
ミナリめ〜! ……でも確かに目に焼き付いてるけど。
「お姉ちゃんのこと好きになっちゃった?」
「あのね…… 好きとか嫌いとかって、この前ミナリやカナリを知ったばかりだよ」
「私達はもっと前から知ってたもん。 ……武闘大会の前から」
「そ、そうなの⁈」
「うん、あの綺麗な家も知ってるし、最近綺麗な人が住み出したのも知ってる。 ……あの人は誰?リュウ君の恋人じゃないよね」
コイツら…… ストーカー?
「カナリ…… どうしてそんなの知ってるの? もしかしてウチの近所に知り合いが居るとか?」
「キャハハ、そんなわけないじゃ〜ん。 こっそり付けたに決まってるでしょ」
堂々とストーカー宣言しております。
しかし…… 気をつけないとユーリスに稽古を付けてるのもバレてしまう。
ユーリスとの事は基本、全て秘密になっている。
「リュウ君…… 私は…… いっぱい見ていいよ……」
スカートをまくり、足の付け根部分を見せるカナリ、パンツ丸見えだけど別にパンツに興味はない。
「この怪我のせいで水着を着るのも嫌なの。 やっぱりこんな怪我のある女は嫌だよね…… って言うかリュウ君近くで見過ぎ!」
し、失礼な…… いっぱい見ろって言ったくせに。
「もしかして、ちょっと爪で跡を付けたような傷跡?」
「ねぇ、酷いでしょ! ……やっぱりこんな股の女、嫌だよね……」
どんな股の女だよ…… 変な姉妹。
「大丈夫だよ、カナリ。 俺なんかほら、この肩の傷なんて凄いでしょ」
と言って少しボタンを外して傷跡を見せた。
「す、凄い傷跡…… リュウ君、触るよ」
えっ? このパターンは……
ガラッとドアが開いてポルカ先生が『貴方達、何をやっているの!』っと大きな声で言った。
その後ろにはユーリスと取り巻き達が通り過ぎる……
何故、朝のこの時間にこの校舎に居る!
「リュウ君! 君は無断欠席も含めてたっぷり後で話を聞くからね! カナリは昼休みに職員室に来なさい」
そんな朝の出来事があったこの日、意外と長い1日になる。
ー授業ー
今日は久しぶりに皆様の子守唄 (詠唱) 付きで寝れる、と思ったけどポルカ先生が俺を見ながら喋りだす。
「今日は予定を変更して、ハリケーンランの実技をします」
実技…… 寝れないけどやってみたい。
「先生〜、その魔術は3年で覚えるやつでしょ〜、何で今日なの?」
女の子の1人が言った。
「だって今日は問題…… 特待生が来てるでしょ、貴方達も見てみたくない? 問題児…… じゃなくて特待生の実力。 見せてもらってもいいよね、問題児君」
クソッ、どうせなら初めから問題児で良いっつうの。
「リュウ様、魔術も出来るのですか!」
「キャハハ〜、出来ません! 私達は昔からリュウ君を付け回してきたけど、1回も魔術を使ってるところ見たことないもん、ね、カナリ」
「うん…… でも、今日のリュウ君なら出来るかも…… カナリがさっきリュウ君を色々と元気にしたから…… ね、リュウ君」
確かに目に焼き付いてるけど!
ふ〜、この姉妹、くせ者だ。
「フン、モテるね〜、問題児。 ……この魔術は風の魔力を使います、グループ分けするので風の魔力がある子は廊下側に集まって下さい」
風の魔力は結構一般的なのか、4人1組が3グループ、5人1組が2グループ出来た。
そこから校庭に移動した俺達、そこに他の先生2人が加わった。
ポルカ先生は1つのグループを連れて前に行く。
「この魔術は魔力20以上で発動する上級魔術、危ないから皆んなは私達の離れた後ろに居て。 でもリュウ君はその中間に居てね」
俺を中間に配置する理由は詠唱を聞かせるためか。
先生が最初のグループに注意事項を言っている。
聞こえる限りは、発動後が難しいので詠唱を間違わないようにしてください、って言ってる。
発動後?
ポルカ先生が詠唱を始める…… その後に生徒達が詠唱をなぞる。
少しづつ風が吹いてくるけど…… 遅い!
ここで俺が初めてサンダーを1人で発動した時を思い出す。
魔力を操作するのに苦労しながらも、5分程度で発動出来た。 ……ちなみに今は半分の時間で発動出来る。
そして、この詠唱…… とっくに5分は過ぎている。
俺の中の魔力は動くが…… ハッキリ言って、無駄が多い。
考えられる理由は俺の中では1つ、詠唱に無駄な言葉が多いから、だ。
詠唱で驚いたのは吸血族のファイヤースネークという魔術。
詠唱から発動も早かったけど、無詠唱だともっと早い、時間にして数秒。
ファイヤースネークは初めての時も今も変わらない数秒、詠唱で動いたのをそのまま再現してるだけ。
つまり、ファイヤースネークは必要な言葉だけを並べた無駄のない詠唱。
でも、サンダーは違う。
無駄を省いて時短することで半分の時間で発動出来らようになっている。
この魔術も使いながら無駄を省いて行くことになりそうだ。
30分…… もう悲鳴のような詠唱が微かに聞こえるだけで、あとは風にかき消されてる。
俺の後ろに沢山の生徒、前にはポルカ先生を含めた5人の生徒、その前に竜巻が起きている。
他の校舎からグランドを見ている奴も、しっかり窓は閉めている。
そしてポルカ先生の怒鳴り声のような詠唱と共に、竜巻は前に動き、そして上空に消えて行った……
「ハァ、ハァ、ハァ…… ハテール先生…… 次、お願いします……」
と言ったポルカ先生、高回復薬を飲む。
ハテール先生に連れられて次のグループが前に出る、そして長い詠唱……
この繰り返しで次のグループがリプリアという女の先生に連れられてハリケーンランを発動、そして魔力を回復させたポルカ先生が次のグループ、最後のグループがまたハテール先生に連れられて詠唱中だ。
その詠唱中……
「リュウ君、再現出来そう?」
「うん。 ……結構飽きるほど魔力が変な動きしてるからね」
今で5回目。
「そう、この魔術は発動後にキチンと動かせるかが問題なの、私達の魔力の残りでは難しくて……」
前に動かして上空に放って消す、までは分かった。
後は右へ動かしたり自由に動かせれば良いのだろう。
「それと、この魔術で気付いたことある?」
「うん、竜巻の規模が大きくなってるね」
「ふふ、貴方は本当に鋭いのね、なのにあのテストの点数は納得出来ないわ。 ……ああ、答え合わせね、リュウ君が言う通り最初のグループの風の総魔力が20、その次のグループが21と段々魔力が多くなってるの、そして最後のこのグループの総魔力量が25、20と比べると扱いが格段に難しくなって……」
ポルカ先生が話している時に風が強くなり、ハテール先生が慌てて『暴走した、逃げろ〜!』と言った。
制御されてない竜巻、強風が俺とポルカ先生、後ろの生徒達に吹かれ、逃げることもままならない。
ポルカ先生が庇うように俺の前に出る…… でも今にも吹っ飛びそう。
「何やってんの先生? 先生は特別小っちゃいんだから俺にしがみついてて!」
「と、特別ではないもん! ……って、リュウ君は何するつもり?」
「……再現」
単純に分かるような無駄は省いて再現する。
それでも数分はかかるので移動しながら再現してみる。
ポルカ先生を抱えて後ろの生徒達の方へゆっくり移動する。
前に竜巻っぽいのが出て来ると、その竜巻を避けるように最後のグループが作った竜巻が校舎の方へ逸れた。
これでとりあえずは人的被害はなし。
「リュウ君、校舎の窓ガラスが割れたら危ない! リュウ君のハリケーンランで絡め取って!」
なるほど…… 簡単に言ってくれる。
だけど俺の風の魔力量はマックス、つまり26以上が確定しているのだ!
魔力量25で作った竜巻より明らかに大きい俺の竜巻、絡ませるように接触させ俺の竜巻ごと空に放り投げた。
空では踊るような風が吹き溢れ、校舎の窓ガラスにビッ、ビビッと亀裂が疾った。
ふぅ、これなら被害はないはず。
って、ミナリが目の前に…… その後ろにはカナリやセシルさんが並び、他の女の子も並びに来る……
「先生、いつまでリュウ君に抱っこされてるつもりですか? か、顔までリュウ君の胸に埋めて…… ズルい……」
ミナリのひと言にポルカ先生を見ると、至近距離で目が合った。
照れたような表情のポルカ先生…… 可愛い。
ポルカ先生を降ろすと更にミナリが近づき、バンザイのポーズをした。
「な、何やってんの?」
「だって順番だもん」
コイツら抱っこ待ちで並んでんのかよ。
「そんなアトラクションはやってません!」
「ズルいよ〜、ポルカ先生だけ! 待っていたんだからやってよ〜、私だけでもやれば私は満足するから!」
当たり前のように自分勝手言ってるな……
「リュウ様、3人目までお願いします」
セシルさんが言った……
ハァ、仕方ない……
「それじゃ、時間ないからセシルさんまでね」
ヨシ! っと喜び合うカナリとセシルさん……
「ちょっと、それじゃあ4人目の私はどうすれば良いの? せっかく走って来たのに……」
このパターンは全員か…… と思って見ると……
4人目はリプリア先生だった。
何故、先生が抱っこ待ちで並んでる!
お昼ご飯はクラルさんが作って持たせてくれる。
クラルさんは吸血族でも、人間の夫を持っていたので完全に夜型という訳ではない。
もちろんラリィも昼間も寝るが夜も寝る。
「リュウ君、明日も学校に来るなら私が弁当作って来ていい?」
当然のように隣で弁当を広げてるミナリが言った。
「ごめん、来るか分からないから気持ちだけもらっておくよ」
ミナリにオーケー出したらカナリも絶対作って来る。
そして俺は豚になる。
「いいよ、それでも。 一応作って来るね」
「お姉ちゃん、それは迷惑だよ〜。 私が作るからお姉ちゃんは何も弁当持って来なければいいんじゃない? そうすればリュウ君が居なかったらお姉ちゃんが食べて、リュウ君が居れば私の愛妻弁当をリュウ君が食べればいいでしょ」
「ちょっとカナリ、それだと私はお昼抜きの可能性が高いじゃない。 だいたいカナリは料理出来ないでしょ!」
「お姉ちゃんもじゃん」
「今日帰ってからお母さんに教わりますぅ。 カナリはお父さんから教わるの? プフフ」
「いいじゃんお父さんだってぇ。 豪快に肉を焼いてバ〜ンとご飯を入れた弁当、リュウ君好きだよね〜」
嫌いじゃないけど、毎日はちょっと……
って思っている時に、ラザノフと数人の男が教室に入って来た。
「おう、リュウだったな、俺は剣術フル代表のオルキンだ、何回か会ってるから知ってるよな」
前に城で因縁をつけてきた男の1人、そして学校の中でのユーリスの取り巻きの1人。
「ああ、知ってる。 ラザノフも含めて何の用?」
「リュウ、こちらがリュウが魔術代表にならなければ代表になっていたコリバー殿だ。 だが訳がわからず代表から外されたコリバー殿がリュウに挑戦したいと言っている。 ……そして槍のフル代表の拙者、剣のフル代表のオルキン殿もコリバー殿の助太刀をすることになったでござる」
「えーと、挑戦は受けてもいいけど普通は1対1じゃない?」
「言い訳はするな! 上級貴族の俺が頭を下げているんだぞ。 やる気がないなら代表を辞退しろ!」
頭…… 下げてないし、俺は言い訳してないし。
「偉そうにしないでよ! 1人じゃ何も出来ないくせに!」
ミナリ…… い〜ぞ〜、もっと言ってやれ!
「フンッ、亜人の下級貴族が上級貴族の俺様に楯突くのか?」
「お姉ちゃん…… マズいよ……」
ミナリとカナリも貴族だったのか……
「別にいいよ、その代わり手加減はしないから。 特にオルキンとラザノフは覚悟しておけ、大会なんか出れなくしてやる」
ギロッと2人を睨む……
ピリッとした空気に耐えられないように、元魔術代表のコリバーが誤魔化すように喋る。
「ち、違うんだ、僕はべ、別にいいんだ、ただオルキンとラザノフが戦いたいって……」
そうか…… 勝つ確率を上げるための今日なのか。
だったら朝のラザノフには納得だ。
しっかり仕込むのも戦術、ラザノフに足りない部分ではあった。
「オルキン、真剣でいいぞ。 ……ラザノフ、大会は諦めろよ」
何故なら君はその時は、病院のベッドだから。
「リュウ、拙者達は殺し合いがしたいんじゃない。 お前と真剣勝負がしたいんだ、しかも魔術を使うお前とな」
「そ、そうだ。 お、俺達は同じ代表の腕を見たいだけなんだ」
「うるせえ、トーンダウンしてるんじゃねぇよ。 ラザノフ、俺は一度口にしたことは必ず果たして来た、お前達に大会はない……!」
オルキンの後悔だらけの表情とは違い、流石竜族、ラザノフに焦りはなさそう。
「リュウ…… お、恐ろしいでござる〜ぅ。 放課後、剣術練習場で待つ!」
やっぱりラザノフはステキな変人だ。
ユキナは良く見てる……
午後の授業
「ハリケーンランの詠唱はとても長いので3つのパートに分けました。 今回は前半パートだけでも覚えましょう。 ……あっ、リュウ君、寝る前に言っておくね、起きたら職員室まで来てください」
俺も羅刹種の飛行時間を知りたい。
裏の亜人国の元王様は、リーブルから飛んで来た無詠唱の人である事は判明している。
羅刹種が長く飛べるなら、元王様は羅刹種だったのだろう。 ……でも、長く飛べないなら羅刹種以外の無詠唱種族になる。
「それでは行きます。 ……風よ吹け吹け、風よ吹け」
『風よ吹け吹け、風よ吹け〜』
「ちょっと、そこ伸ばさないで」
詠唱をこれだけ区切ると俺の魔力もピクリとも動かない。
それにしても出だしから無駄の多そうな詠唱だ……
「吹かなきゃお父さん、怒っちゃうぞぉ」
『吹かなきゃお父さん、怒っちゃうぞぉ』
何だ、この詠唱……
「そう、小っちゃい、ぉは大事よ」
「先生〜、何でお父さんなんですか? お母さんじゃダメなんですか?」
「それは…… お母さん…… 迫力が…… そこはかとなく……」
グガァ〜…… スピ〜……
グガァ〜…… スピピ〜。
ーーーーー
「リュウ君、授業が終わったよ」
ン…… 顔を上げると心配そうなクラスメイト達が……
何かに気づいたセシルさんが前に出て…… 俺の口元をハンカチで拭いた。
ヨダレか…… 至れり尽くせりだけど、皆んなの前では嬉しくない。
「リュウ様、頑張ってください」
「リュウ君、私も一緒に行くよ!」
何言ってんだ、ミナリは……
「大丈夫、行ってくるよ」
そう言って職員室まで来た俺は、いつものようにポルカ先生とあの部屋に来た。
「先生、悪いんだけど今日はあまり時間がないんだ、だから手短にね」
「うん、いいけど明日も学校に来る? ……って言うか来なさい」
と言ってポルカ先生は、無詠唱の魔力がどう動くかなどを質問してきた。
「……つまりその魔力に、何らかの付加を付けるのも可能ってことなの?」
「多分、出来ると思う」
「ま、まさか、ハリケーンランにも?」
風だけの上級魔術、出来たら凄そう。
でも、今の会話でヒントはもらった。
大会では何かオリジナル魔術を作って行こう!
「理論上は出来るけど、20以上の風の魔力を使っている時に他の魔力を混ぜるからね…… かなり難しいと思うよ」
「そう…… 本当に魔力を感じるのは宝物ね、正直羨ましいわ」
とりあえず先生の質問には答えた、今度はこちらの番。
「先生、羅刹種の飛行時間って知ってる?」
「ごめんなさい、それは知らないわ…… でも羅刹の由来が飛行形態の時の容姿を指しているの、それがヒントだとすると……」
リシファさんの話では、羅刹種は普段は人間に似ていると言う…… つまり、変身するって事?
「せめて飛行形態の時の羅刹種の姿絵があれば、だいたいの予測はつくのだけれど……」
確かにそれがあればある程度の予測は出来た。
俺が調べた長く飛べるベルクロクやトペカナと言う種族は、俺が見ても飛ぶのに有効な体型をしていた。
でも、無い以上は憶測でしかない。
結局、闇は闇のまま……
急いで稽古場まで走って行く。
途中、いつもの門の前にマインさんが居て声をかけて来る。
「リュウ君、久しぶり、ユーリス様はもう待っているわよ。 ……それと、後で話があるからお邪魔するわね」
何の用事だろう、と思いながら頷いた。
道場に入るとユーリスが正座で待っていた。
俺を真っ直ぐ見る目が何かを訴えているようだ。
「リュウ様、裸で触れ合うのが友達なら、私も脱ぎます」
いきなり何を、と思ったけど、ミナリやカナリとのことをユーリスは見ている。
「ユーリス、本当にあれは誤解だから、彼女達はこの傷跡を見てただけなんだ」
と言ってパッツァンに噛まれた傷跡を見せた。
「す、凄い傷跡…… 触っていい?」
こ、このパターンは…… っと思ったけど、流石にここは誰も来ない。
傷跡を触るユーリス…… さっき脱ぎかけた道着がはだけてる……
美しい顔に神がかったスタイル…… そして、手入れされた髪から香る魅惑的な匂い。
つい、髪の毛を触ってしまった……
「え…… リュウ……」
ガラッと扉が開いてラースビーさんとマインさんが道場に入りかけて、固まった……
ご、誤解です〜!
誤解は何とか解けた。
「コホン…… ふ、2人が仲が良いのはいい事です。 でも、節度をわきまえるように…… リュウ君、話と言うのは毎年この時期のテスト休みに行っている私の故郷のことなんだけど……」
ラースビーさんのお父さんが持っている領地は、ここから馬車で1日で行ける。
綺麗な山で有名なグラスアザーという大きな山があり、そこから流れる川も綺麗で美味しい水としても有名らしい。
もうすぐ始まるテストが終わると日曜含めて3日の休みがあり、毎年ユーリス達はテストが終わる日にそのままラースビーさんの領地の別荘で休息を取るのだそうだ。
「今年はリュウ君もどうかな? 1日目にユーリス様とグラスアザーに登山、2日目に麓のお祭りに参加してみてはどうですか?」
祭り…… ドンドンという太鼓の音、長い階段を下った先にある別れ、手に伝わる悲しみ……
今だに振り切れてない想い、トラウマ、停滞、上書き……
……行ってみよう!
「行きたいですね、でも、いいんですか?」
「もちろん。 2人共テストの疲れをとって、新たに大会に向かって欲しいな」
それからラースビーさんのお父さんが持つ領地のチルムネッタという地がどんな所か、などを話した後に稽古をしたので、今日はすっかり遅くなってしまった……
ちなみに我が家の夕食の時間は今の時期は8時で、寒い時期になると7時くらいになる。
なんとか夕食に間に合う時間に家に着くと、ラザノフが仁王立ちで待ち構えてた。
「リュウ! 何故来なかった!」
……あっ、忘れてた。
「ごめん、忘れちゃった、てへっ」
「か、可愛くないでござる〜、ユキナの真似するな!」
「オナキンだっけ⁈ 怒ってた?」
「その間違い方だけは止めてくれ、オルキンでござる。 オルキンは用が出来たからと言って来なかったでござる」
「じゃあ、明日でもいいじゃん」
「いや、オルキンは明らかにビビって来なかった。 きっと明日も用事が出来るでござるよ」
「それじゃあ、一件落着だね」
「拙者は3時間も待ってたでござるぞ〜」
「だってラザノフがお姫様の稽古を見てやれって言ってたじゃん」
「うぐっ、い、言ってた?」
何とか上手く丸め込んだ俺は、長い1日を終えた。




