武闘大会 2日目
第二章 成り上がり
第六十七話 「武闘大会 2日目」
大会も2日目に入り、パーティー数が半分以下になって、今日はグランドをフルに使って戦いが行われることになっている。
また昨日と同じようなセレモニーから始まる。
俺も昨日と同じように観客席の知り合いを探す。
この眼だから出来る…… と、アトラスとコーカサスにミナトさんを発見、ラザノフ情報によれば初日はチケットがなかったようだ。
そしてアイリスさんパーティーも発見。
出場者はチケットなしでも見るスペースがある。
他は知ってる顔の女の子達と、知らん女の子達が手を振ってる。
きっと名前の忘れた貴族の子やこの街に暮らす女の子達だろう。
貴族の子と言えば……
リシファさんには俺が羅刹種のクォーターであること、裏から飛んで来たことを話した。
恋人同士のような時間を過ごしたけど、お互いに次がないことを知っていた。
何と言っても貴族と平民、リシファさんにその壁はなくても両親や親戚が壁になるだろう。
やっぱり最後の "サヨナラ" を言う時の目は、何処かリリカのあの時の目に似ていた。
そろそろ俺達の紹介の番か……
『さぁ、このパーティーが今大会最大の台風の目、うっかりさんと配達人のパーティー。 リンパンさん、このパーティーがここまでやる事を予想していましたか?』
な、名前まで呼んでくれない……
まぁ、うっかりさんよりは全然いいけど……
『僕はね〜、見ちゃったんだ、昨日リュウ君が女の子と一緒に買い物してるのを。 ウチの娘にと思っていたのに…… 帰って来〜い!」
何処に?
……って言うか、この大観衆の前で言うなよ、ザワついてるじゃん。 ……別にいいけど。
控え室。
1試合目なので瞑想は出来ない。
「リュウ、作戦は?」
「相手は昨日より強いはず。 どちらかに人数を割いて潰しにかかるだろう。 だから少ない方がなるべく早く倒して助っ人する、くらいしかないね」
「そうでござるな〜。 昨日と同じでござるな」
「いや、昨日はラザノフ、助っ人に来なかったじゃん」
「ガハハハ〜、リュウがやられた後に見事な助っ人をしようとしたでござるよ」
それを人は、見殺しと言う。
まぁ、今回はターレルパーティー。
ユキナレポートでも全員が書かれているくらいの強敵、きっと余裕などないはず。
「リュウ君はやる気に満ちてるね、昨日のデートが良かったのかな」
ユキナが嫌味っぽく言った。
「そうだね。 ラザノフ、そろそろだ、行こう!」
「おう! ……あ、ござる」
サラノフさんによるとラザノフがござるを付け出したのは、俺が現れるひと月前からだったそうだ。
だから安定してないし、ござる忘れも多い。
ーーーーー
ワァーっと言う歓声の前にはターレルパーティー。
雰囲気のある人が多い……
きっとターレル。
175センチ前後の50歳くらい。 黒っぽい緑の頭髪。
浅黒い肌で年輪は刻まれてるが精悍、強そうな雰囲気だ。
そして内股立ちで親指の爪をかじってジトッと俺を見ている気持ち悪い奴がレコだろう。
アイツの中で俺は何をされてるか気になるけど、知りたくはない。
もう1人気になるのはラザノフと睨み合ってる男、名前は忘れたけど棒術の男でコイツも雰囲気がある。
試合が始まると自然と2つのグループに別れた。
今回は3対1の構図で2組。
俺はターレルに息子のルクイ、レコが相手。
ラザノフは棒術の男に魔術師2人。
ターレルが話しかけてくる。
「おう、ちょっといいか、兄ちゃん。 昨日の試合見てたぜ、つぇえな兄ちゃん。 んで、俺っちのメンバーがサシでやりてぇつうんだ。 どうだ、兄ちゃん、やってみるかい⁈」
正直、願ったり叶ったりだ。
それでも何故かレコとだけはやりたくない俺がいた…… だって気持ち悪いんだもん、アイツ。
「いいよ。 勝ち抜きだよね、誰から?」
「ブフッ、俺の後はねぇよ、俺がお前を倒すからな」
ターレルに似てる…… 俺と背は一緒くらいで横幅が俺よりある。
パワーがありそう。
でも、2人程の使い手ではなく感じる。
「そう。 でも時間がないからそっちの人も一緒でいいよ」
やっぱりレコとサシは何故か嫌!
「嫌よ、私は貴方と2人だけでプレイするの」
プツプツっと鳥肌が立つ……
我ながら見事なチキン肌だ。
まぁ、やるのは剣術の試合。
体術なら嫌だけど剣術なら我慢出来る。 ……はず。
ルクイと対峙する。
お互い様子を見るように間合いをはかる。
そしてルクイの息遣いがスゥーっと静かに長く吸い込んでからは、ルクイの攻撃が始まった。
激しい中でも連動性のある動き。
だけど、たまに短い一打が不自然に目立つ。
ユキナレポートでは、ターレルは中位亜人には珍しい肘の関節が伸びる特性があると言っていた。
当然、息子の肘も伸びる、その布石か……
短い一打にも木刀を合わせて捌く、するとルクイは焦ったように剣スピードを速めた。
形的にはルクイのラッシュのように見えるが……
明らかにスタミナを消耗して息が荒いルクイ、短い一打に合わせずに様子を見ると、速攻で肘の関節を伸ばしてきた。
ギュウーンっと伸びて来る木刀…… 伸びはマックスで10センチちょっとか。
ルクイから知り得る情報はこんなものか……
短い一打に木刀を合わせ踏み込む!
バチーンっとお互いにぶつかり1歩後ろに下がったのはルクイ。
ただその足をスッパーンと足掛け!
豪快にすっ転ぶルクイの首元に木刀を寄せる。
「おう! ……終わりだ、兄ちゃん。 レベルが違かったな……」
ターレルの一言で試合が終わる。
ルクイは痛い思いはしてないけど、何も通用しなかったので納得だろう。
次はレコ。
ルクイとの戦い中、膝をモジモジと動かしワカメのように揺らめいていたレコ。
たまにうっとりとした表情が、俺を焦らせた。
俺はルクイと戦っている場合ではないのでは?
早くアイツの中で何かをされてる俺を助けたほうが良いのでは? っと、思ってしまったのだ。
……アイツは本物 (気持ち悪さが) !
そのレコと対峙する。
いい加減、俺を見ながら親指の爪をかじるのはやめて欲しいけど、これがアイツの作戦かも知れない。
ふぅ〜っと、ひと息。
レコの全てを見透かす…… のは止めよう(変な伸び縮み自由な棒が見えたら嫌!)。
俺の戦い方を崩されて始まったこの試合。
鋭い剣先に滑らかな動き、やっぱりレコは強い!
……ただ、泣きそうな顔で打ち込んでくるので気持ち悪い。
だけど人間同士、単純に剣技のみの試合、負ける訳にはいかない。 ……まぁ、俺はスキル持ちだけど。
打ち合いの中、剣技もスピードもパワーも若干上の俺が押し込む!
そして…… 蓮撃!
1セット目 何が起こっているか分からないようだ……
2セット目 反撃出来ないことを理解したのか、うっとりとした表情になる。
3セット目 たまに唇を舐めながら訴えるように俺を見つめるのはやめて欲しい。
4セット目 アハ〜ンとかウフ〜ンと言う声が漏れて来る。
5セット目 飛び散るレコの汗を、蓮撃を止めて避けたいと思ってしまう自分がいる。
6セット目 一撃当たってからは連続で当たる。
グガァ、イイ、デカッ、ブフゥ〜と言う声を漏らしながらレコは倒れた。
何がデカかったのかは知らないけど、大股開きで倒れてるレコには満足感が漂っている。
「お〜っ、つえ〜! 何だその技は⁈ 俺っちにも打ってこい、兄ちゃん」
間髪入れずにもうスタンバってるターレル。
ふぅ、流石に休憩時間まではくれないか…… それとも思いっきりせっかちな人か……
チラッとラザノフを見るとやはり土竜化して苦戦している、魔術師をどう捌くかが鍵になりそう。
「さぁ早くやろうぜ、兄ちゃん、早く、早く〜」
……せっかちでしょ、貴方。
ターレルと対峙する。
静かな立ち上がりから徐々にお互いにスピードを早める。
俺は二刀流なのでだいたいは有利に進むことが多いけど、ターレル相手ではそうならない。
スピードも手数もパワーも俺が上でも剣技がターレルが上なのか⁈ 互角の打ち合いが続く。
しかし、ターレルが……
「おう、打ってこい!」
と、一瞬立ち止まり怒鳴った。
……この間は逃さない!
押し込み、蓮撃!
1セット目 冷静に捌かれる。
2セット目 反撃する気配がない。 ただ淡々と捌いている。
3セット目 変わらず。
4セット目 俺の肩への攻撃に体を仰け反り反撃してきたターレル。
当然、俺の木刀がターレルの左肩に先に当たったけど、右半身で仰け反って打ってきたターレルの木刀は生きている!
喉元に思ったより伸びる木刀を、首を逃しながら避ける!
ズッと、かすったけど何とか避けた……
「よし! その技、破ったぞ〜。 それにしても兄ちゃん、凄え反射神経だ」
……やられた。
蓮撃の弱点を見抜かれ、狙われた。
パターンを読まれた⁈
だけど、終わった訳じゃない!
そのまま攻め込むと…… 押せる!
ターレルは明らかに左肩がおかしい、多分ダメージを負っている!
肉を切らせて骨を断つ、ではなく、肉だけ切らせてしまったターレル。
しかしこちらは3戦目、スタミナをガバガバ吸い込む蓮撃は2回打った、でも勝負どころだから緩めない。
ターレルも怪我を負いスタミナをいつもより消耗している。
右を中心に攻め、ターレルが下がった時に合わせて3回目の蓮撃。
今回は合わせられないように回転をマックスでいく!
1セット目 明らかに焦りながら捌ききる。
2セット目 早くもかすり、ターレルの口から「ちょまっ」と言う声が漏れる。
3セット早々に連続で当たり、ターレルは慌てて "参った" をした。
勝った…… が、疲れが酷い。
怪我の回復薬ではなく、体力の回復薬が欲しい。
でも…… 完勝っと言ってもいいだろう。
ハッ、ラザノフは⁈
『おおっと、同時にターレルとパーフローが倒れ、ステキな変人達がまた奇跡を起こした〜』
ふぅ。 ラザノフも勝ったか…… と思い、チラッとラザノフの方を見ると、ラザノフは膝に手を置き肩で息をしている…… ギリギリの勝利か⁈
それでも勝ちは勝ち、次はブロックの決勝だ!
控え室。
ラザノフの怪我は普通回復薬では治りきらないほどの大怪我だった。
でも、戦うのにそれほど支障がないレベルには回復している。
「リュウは楽勝だったでござるか?」
ラザノフが聞いてくる。
「俺は向こうが1対1でやりたいって言うから助かった。 まとめて来られたら多分負けてたよ」
「いや、それでもリュウが負ける姿は想像出来ないでござる。 怪我もないし、次も万全でござるな」
ラザノフの中で俺への評価…… 高いんだな。
スタミナがマズいけど、昼休みを挟めば回復するだろう。
「ああ、昼はゆっくり休もう。 ユキナ、ガルフさん達以外の面会は断って」
「うん…… リュウ君の恋人はいいの?」
「今朝早くにコーランへ旅立ったよ。 だいたい恋人って訳じゃない」
初めて会った時から、お互いに惹かれてたけど。
「そ、そうなの? ふふ、それじゃあ、リュウ君も私が作った弁当食べていいよ」
恋人だと食べれなかったのか?
まぁいいか…… 早く食べて少し寝よ……
ーーーーー
「……リュウ、リュウ」
ラザノフの声で目が覚めた……
「そろそろでござる」
当然、相手は奴等だろう。
前回優勝パーティーの "同じ穴のムジナ" 。
ムジナは個人戦でも3位の猛者、他もそれぞれの役割をきっちりこなす優れたパーティーメンバーだろう。
「リュウ、自信は?」
それでも俺は……
「負ける気がしないね」
「ガッハハハ〜、拙者もでござる」
勝つのみ!
対峙するのは "同じ穴のムジナ" 。
ムジナ ひと目でムジナと分かる。 獣人だけど足のくるぶしから下だけが獣人。 その足は太く、鋭い爪がある、まるで虎の足。
他の強そうなのがローランドとコメータだろう。
後は弓使いや魔術師なので強そうには見えない。
魔術師で強そうに見えたのは、今までで兄だけだ。
試合が始まると思ってもない展開が……
何と、俺の前にはムジナだけ、後はラザノフに行ったのだ。
この展開は初めてだけど、ラザノフはキツイはず。
「リュウだっけ? ターレルさんとの試合見てたよ、だから僕もサシでやりたくなってね。 皆んなも君とやりたいって言ってたけど、皆んなにはわがまま言って遠慮してもらったよ」
「そうですか。 俺…… 強いよ」
「ハハハ、知ってる。 だけど…… 僕もだ!」
バッといきなり打ち合う。
回転技の多いムジナ、獣人なのでバランスが良く乱れない。
俺も流れるように回転技を使うけど、それは二刀流だから出来ること。
そう…… ムジナは木刀に蹴り技を絡めて隙がないように動いている。
その蹴りを木刀で捌くと、非常に重く鋭いのが分かる。
しかし、注意するのは爪が絡む前蹴りや、かかと落としみたいな技。
互角の打ち合いの中、1本の矢が視界に入った。
しかし、随分とズレている…… と、思ったらギュワーンっと曲がって俺の方へ向かってくる。
慌てて捌いた時に、ムジナの放つ左ミドルの蹴りを喰らい豪快に吹っ飛ばされた。
吹っ飛ばされながら詰められた時の対処のための姿勢を保つ。
案の定、詰めてきたムジナのラッシュを何とか受けていると…… また矢が視界に入ってきた。
同じ技を…… 舐めるな!
スローに感じるほど神経が研ぎ澄まされている……
一瞬、目の中に赤い血がブァっと広がった気がしたけど直ぐに治った。
曲がって来る矢、自分の動き、自然と言えるほど自然に矢は木刀に当たり、その矢はムジナの足に向かった。
バッと足を引き、矢を避けたムジナ…… が、それが発動条件になる!
ー蓮撃ー
1セット目 捌くのに集中している様子。
セットの終わり頃、弓使いが大きく動き、俺の後ろ方向に弓を放つ。
2セット目 なるべく後ろ方向を見れるパターンに変え、更に回り込むように蓮撃を続ける。
そして矢が来た時、上手く木刀に当てる…… 別に狙ったわけではないが、その矢がムジナの肩に当たった。
当たった矢に勢いはない、だけどリズムを崩されたムジナは蓮撃の餌食となる!
1発、2発、3発と喰らい勝ったと思ったけど……
何とそこから立ち直られた。
3セット目 ダメージがあるはずなのに、それを感じさせないムジナ。 完全に立ち直る。
4セット目 弓使いは完全にラザノフとの戦いに集中している、そもそも味方に不利になるような攻撃は出来ない。 ……そのラザノフが結構被弾しているのを蓮撃中でも分かった。
5セット目 ほぼ無呼吸の蓮撃、だけど薄く息はしている…… でもその息に引っ掛かりがある。
大きく息をしたら咽せるはず…… さっきミドルを喰らった時のダメージか……
早く倒さないと俺もラザノフもマズい。
6セット目 獣人特有の運動神経、反射神経からムジナは時折捌くではなく避けるを選択する時がある。
しかも紙一重で避けてくる…… 更に剣スピードを緩めてみる……
7セット目 緩めた剣スピードにより更に紙一重で避ける割合が高くなったムジナ。
そこで木刀を直前でズラし、持ち手を鉤状の二本指にして木刀をその間に挟むと……
リーチがいきなり伸びて、紙一重で避けようとしていたムジナに思いっきりヒット!
そのまま当て続ける…… しかし、何も無かったかのように立ち直ろうとするムジナ。
それでも剣スピードを上げて打ち込んでいくと……
血まみれになりながら必死に立ち直ろうとするムジナ。
だけど、8セット途中でムジナは力尽きた。
我慢出来ず大きくハァハァと息をすると、やはり咳き込み口から血がガハッと出た…… ふぅ、ひ弱な身体だぜ。
回復薬を飲む……
『おおっと、ボコボコに被弾してたラザノフ君、審判から負けを宣告された〜! ……っと、何とムジナ君も倒れている! どうなってるんだ〜!」
ラザノフがやられた……?
ラザノフを見ると、膝をつき頭を抱え地面に突っ伏している。
その姿を見た時に俺の中の何かが弾けた!
待て! 今は冷静に行かないとあの人数だ、やられる!
そう思っても走り出した自分は止まらなかった。
走って近づく俺に魔術や矢が雨のように襲いかかる!
木刀で弾きながら狙いを弓使いに絞る。
すると直ぐに気づいた棒使いのコメータ、遅れてローランドが弓使いを守ろうとする。
走りながら左の木刀を思いっきりコメータの足元に投げつける!
バウンドした木刀がバコーンっと当たって痛がるコメータ、ローランドはまだ後ろ。
至近距離で放たれる弓矢をギリギリで交わし、虎峰! スッパーンっといつもの音がして弓使いは吹っ飛んだ。
ガッ、っとローランドの上段を受け、そのままローランドの腹に前蹴り。
ローランドも後ろに吹っ飛び一瞬の静寂。
弓使い、ムジナは倒した。 ……残り、5人。
全ての敵を目視出来る位置、そこに5人の敵。
広がった左右にブツクサ詠唱を唱えてる魔術師。
腹蹴りで吹っ飛んだローランドはもう立ち上がっている。
そしてコメータは回復魔術を受け、今俺に詰め寄って来る。
ドゴーンっと放たれたファイヤーボール系の魔術を合図に、コメータ、ローランドが俺に襲いかかる。
2人の攻めを右回りで捌き、狙いを右側の魔術師にする。
理由はさっき投げた木刀が右の魔術師の後ろにあるからだ。
しかし、魔術師も察知したのか俺との距離を取ろうとする…… けど勝負所、ジェットを使い一気に詰める!
バスッと背中に熱い感覚を感じたけど、もう魔術師は目の前!
最後の足掻きで放たれたファイヤーボール系の魔術は右肩に被弾したけど、突き出した魔術師の右腕を取り、巻き込むように一本背負い!そのまま腕を離さずゴロゴロと一緒に転がり、バッと俺だけジャンプして立ち上がった。
起き上がる時を狙ってたコメータとローランドも何も出来ない。
近くにある木刀をゆっくり拾い敵を見る……
一様に俺を見る目が半笑いで引きつっている。
その目はバケモノを見る目だぞ…… 失礼な。
二刀流に戻った俺はコメータとローランド相手でも押せると思っていたが……
背中の痛みは大したことはない、ドロっとした感覚から血は流れているけど軽傷だ。
しかし、右肩の動きが良くない……
これでは剣技のみで2人を倒すのは不可能……
ビュッ、っと飛んで来た3本の氷の矢を左の木刀で捌いている時に、バチーンっという音と右手に熱い感覚…… バッと振り返るとコメータの、やったぞって顔。
右の木刀が吹っ飛んだ……
勢いづくローランドとコメータの攻撃を交わしながら右手に虎峰を仕込もうとするが…… 上手く魔力が集まっているかが分からない。
……もう、右手は役に立たない。
また飛んで来る3本の氷の矢の内1本を、右足太股辺りに被弾!
それでも狙っているコメータとローランドの攻撃は左だけで捌ききる。
……やはり、魔術師が邪魔!
誰もが大きく息をしている……
観客も固唾を飲み、静かだ……
もう、何処が痛いのかも分からない。
ただ、色んなところでズキズキと痛みが疾る。
魔術師と俺との間にコメータとローランドを挟む。
しかし、魔術師は右に行ったり左に行ったり俺に魔術を打てるスペースを探す。
その都度、俺もコントロールしてコメータとローランドを挟む。
そして業を煮やした魔術師が大きくコメータの横に出て来た時に狙い打つ!
ジェットを使い一気に魔術師に向かう俺にコメータが棒を構えて立ちはだかる。
棒での突きを捌きながらジャンプ一番、余り背の高くないコメータを前宙で飛び越える!
そして魔術師を狙うが…… 魔術師は後ろを向いて逃げている……
それでも俺からは逃げれない!
左の木刀を思いっきり投げる!
ヒュンヒュンと音を立てて飛んだ木刀は後ろ姿の魔術師の後頭部にパコーンっと当たる!
急ブレーキで振り返り、追いかけて突いてくるコメータの棒を半身で流してカウンターのストレート!
ガッ、っとコメータの顎先に当たり、コメータは膝から崩れた。
そこにローランドの上段が俺を襲う!
まだ右も腕は壊れてない!
右腕を上げて更に左腕も添える。
しかし…… 俺の左右の腕は魔術に弾かれた。
ここからはスローモーションのように感じた……
まだ起き上がれない魔術師……
白目を剥き倒れるコメータ……
迫り来るローランドの木刀……
その後ろで震えながら右手を突き出してる若い男……
回復役だけって訳じゃなかったのか……
またさっきのように赤い模様が目に映る……
そして頭に衝撃が疾り、俺の記憶が途絶えた……
それでも何故か、ラリィの「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん」……と何度も呼ぶ声が聞こえた気がした……
ーーーーー
お、重い……
そう思って目を開けたら、ラリィの顔がドアップであった。
コイツ…… 相変わらず寝相が悪いな、と思ってると、ラリィが『大丈夫だの?』と聞いてきた。
しかも、よく見ればラリィには泣いた跡がある。
ガバッと起きて、ハッ、そうだ試合! っと思って見渡すと、色々な人達……
何故かムジナパーティーまでいる。
「お兄ちゃん、目に小っちゃい赤があるだの。 さっきはもっと大きかったの」
何となく今、理解した。
俺はあの時負けて、心配して皆んな来てくれたのだ。
それに目も俺にも見えている。
目の中に今まで無かった赤い魔法陣……
打たれる直前は大きく膨らんだ。
これで俺の目は昔の大魔導士と呼ばれた人が残した遺産であることが分かった。
ただ、良く見えるというだけでその他の特典はない。
しかも、短命らしい。
ムニュ、っという手の感覚でそちらを見ると、何とお姫様が涙目で俺の手を握ってた。
驚いたのでバッと手を引いた…… 痛っ!
な、何この人…… 怖いんですけど……
「リュウ…… 大丈夫かい?」
いえ、驚いたので大丈夫じゃないです。 ……と言いたいくらいだけど、ムジナさんには真面目に答える。
「大丈夫です。 右手は少し時間がかかるかもしれませんが他は大丈夫そうです」
「す、済まん。 あそこを逃したら確実にやられると思ったので目一杯打ち込んでしまった……」
ローランドさんが言った。
「試合なのでやる覚悟もやられる覚悟もあったので気にしないで下さい。 それより明日の決勝トーナメント、頑張って下さい、応援してます」
「いや、僕らも明日は戦えない。 僕の怪我も今日、明日治るって訳じゃないし、ローランドは中指の骨折、ラニーの肩の脱臼も重症、何よりナンナンが肋骨を2本折ってしばらく病院のベッドだ」
中指骨折はラザノフが削っていたのだろう。
確かにコメータさんより動きが悪かったし……
ナンナンは虎峰をまともに受けた人だ。
「そうですか。 ……逆にすいませんでした」
「いや、僕等は満足だ。 君は個人戦ならこれから10連覇しても僕は驚かない。 そんな君に偶然とはいえ勝てたんだ、これから自慢出来るよ」
っと、ローランドさんが言った。
評価が高いのは嬉しいけど、偶然?
そんな顔に気づいたのか、ムジナさんが補足する。
「ピーニーに君の腕を狙って魔術を当てれる精度はないよ」
何と! 適当に打った魔術がピンポイントで俺の腕を弾いたのか……
ピーニーは照れ臭そうに頭をポリポリと掻いている……
「それでも負けは負け。 機会があればまたやりましょう」
ムジナパーティー全員が頷き、そして人口密度の高い部屋から帰って行った。
「それで、何、この手は?」
お姫様から引き離した手を握る子が……
「ふふ、私の方がいいのかなって思って……」
アトラスだ。
「わざわざ来てもらって嬉しいけど、この右手は痛い方だから離してくれる?」
「あ、あの! ……その子が彼女なのですか?」
お姫様の質問。
パン屋のおっさんが余計なことを言うから……
「違います。 それよりコーカサスにミナトさん、今日はウチに泊まっていきなよ」
「ああ、リサナーラから聞いてる。 今日は久しぶりに俺のチーズ料理を食べてくれ」
作ってくれるのか?
「私は凄く大きくなったんですよ、色々と。 後で見せますね……」
「アトラス! 親父達に言うぞ! それにリュウは彼女がいる!」
勘違いしてる…… でも面倒だから黙っておこう。
「そんなの知ってるよ! でも私は最終的に選ばれれば良いんです〜。 ……バカ兄貴」
「バ、バカ兄貴だと〜! ちょっと前は素直で可愛い妹だったのに!」
「人の恋路を邪魔する人はパカパカ兄貴と呼ばれます」
「パカパカ走らすな〜!」
これがこの世界の夫婦漫才か?
って言うか、お姫様と付き人2人は何でここにいるの?
ーーーーー
帰り道。
ゾロゾロと歩く集団にお姫様…… 何故に?
仕方ないのでガルフさんに聞いた。
「なんか大事な話が付き人からあるらしい。 それに昨日の祝勝会に主役の1人が居なかったから、今日は主役2人を囲んでやろうと言ってたんだ。 ……まぁ負けたけどな、ガッハハ〜」
主役の1人の昨日は最高だったな〜。
あんな真面目そうなのにリシファさん、いきなりキスしてくるなんて…… 合格!
でも本当は負けた時は1人でゆっくり考えたい…… 今、振り返ろう。
戦い方としては良かったと思う。
自分を失う時間もあったけどそれでも自分の戦い方は出来た…… 残念なのは全く魔術を使わなかったことだ。
精鋭とは言え、たかが7人、魔術を上手く組み込めば絶対に勝てたはず。
何と言っても俺は無詠唱という宝持ちなのだから。
クソッ、戦いのセンスは自信があったのに……
もしかしたら兄の方がセンスがあるのかも……
その兄…… センスは戦いだけでなく、色んなこ……
「……ウ様、リュウ様」
ふぅ。 ……考え事も出来ないな。
「何ですか? ユーリス姫」
「いえ、とても険しいお顔をしてらっしゃったので……」
ハァ…… やっぱり気を使う相手は疲れる。
だったら放っておいて欲しいよ……
「今日を振り返ってました。 クッソ弱い自分に腹を立ててたところです」
「リュウ様。 ユーリス姫にそのような言葉は使わないようお願いします」
ユーリス姫の後ろにはいつも2人の付き人 (護衛?) が居る、その内の1人、年は30半ばくらいの短髪の女の人が言った。
ちなみにこの人の足捌きから、結構長い期間剣術の修行をしてるのが分かる。
ユーリス姫も少し雰囲気が似てるのでこの人に剣術を習っている⁈
「クッソすいません」
ピクっと短髪女の眉が動いた。……
「フハハハ、ごめんなさいね、この子はこういう子なの、でも面白いでしょ。 それに近づいてるのはこの子じゃないわ」
サラノフさんの仲裁⁈
「は、いえ…… 出過ぎた言葉でした……」
竜族には逆らえず。
まぁ、何かトラブルがあると嫌だから、なるべくお姫様からは離れておこう。
家に帰って来ると、早速お姫様の付き人からお話しを聞く。
今回は広いのでラリィの部屋を借りて聞くことにした。
部屋にはラザノフと俺とお姫様に付き人2人。
「リュウ様とは初めての会話なので自己紹介させていただきます。 私はラースビー エナ トゥレフと申します。 ユーリス姫の付き人兼護衛を、12年しております」
この人も30半ばくらいの女の人、髪の毛は長め。
そしてさっきの短髪の女の人はマイン何とかって言ってた。
「早速、本題に入ります……」
と言って話し出したラースビーさん。
ラースビーさんのお父さんがサンカルムの学校の校長でマインさんの叔父さんが理事長。 ぜひ、お姫様が在学中に他の国より優秀なことをアピールしたかったようだけど、お姫様が最終学年になっても未だ他の国より劣っていることばかり……
やはりナラサージュは観光だけの国と他の国には揶揄されてる現状。
だからラザノフと俺に学校へ通ってもらい、学校同士の大会に出て優秀な成績を残して欲しいと言った。
「拙者とリュウが通っても、代表はもう決まっているでござるよな」
「いえ、夏休み前に決まるので、まだ決まってないはずです」
「ナラサージュの現状とは?」
貴族の大会でも、近年我が国の出身者は目立つ成績を収めていない。
新しい魔術の発表会でも、評価の低い発表ばかり。
科学技術やその他の発表会でも同じ。
科学技術ランク 軍事ランク
1 コーラン リズーン
2 リズーン リバティ
3 ゴールタール フォルマップル
4 リバティ コーラン
5 ナラサージュ ゴールタール
6 ホオヒューガ ナラサージュ
7 フォルマップル ホオヒューガ
と、なっている。
前回の学校の武闘大会と試験結果
1 リズーン
2 コーラン
3 リバティ
4 ゴールタール
5 フォルマップル
6 ナラサージュ
7 ホオヒューガ
つまり、ナラサージュは未来にかけても明るい材料はない。
「今年は各国が集う3年に1回の大会の年、是非ナラサージュの底力を見せたいのです!」
……と言っても、俺達はたまたまこの国を選んだに過ぎない。
「拙者はリバティ出身だが?」
「この都市で働き税金を納めているうちはナラサージュのラザノフ君です」
俺はもっとこの都市の人間ではない…… そもそもリーブルの人間でさえない。
「リュウ、拙者は屈辱の武闘大会のリベンジがしたい!」
ラザノフは帰り道、俺に謝りに来た。
自分が1人も倒せずに負けたことで、俺も負けたと謝罪したのだ。
しかし、負けたのは俺が弱かったから。
土竜族の強さはむしろあそこからなのだから……
そして俺の反省点とも学校は合致する。
魔術の勉強…… ではなく魔術の練習に自分の血の中に入る羅刹種のこと、学校に入れば色々分かると思う。
でも、1つだけ不安がある。
「リュウ様、ラザノフ様。 学校へは特待生としてお通い下さい。 特待生は簡単な筆記試験だけでなく、学費も免除、それに単位さえ取れば学校を休んで何しても自由です。 優秀なリュウ様なら直ぐに剣術クラスの単位を取り、ギルドの仕事をすることも可能でしょう」
お姫様…… 簡単に言ってくれる……
「もし通うなら、いつ頃からになるでござるか?」
「そうですね…… 今の時期だと夏休み明けになると思います」
「夏休み前に代表が決まるんじゃなかったでござるか?」
「もし受けていただけるなら、剣、槍共に代表は空けておきます。 それだけの実力を今日、見せていただきましたから」
校長の娘に理事長の姪か……
当然、その人達からの言葉と思っていいのか?
「それとリュウ様、私に剣術指南を!」
人に教えるという事は技術の復習をするという事。
決して悪いことではない。
でも、それ以上に時間を有効に使うことも出来る。
「分かりました。 条件として学校へ通えたら、の場合のみ。 学校へ通えないなら自分はやりません」
学校へ通えたら学校にある王族の稽古場で、学校帰りに指導すれば良い。
でも、簡単な試験に落ちた場合、俺は学校に近づくのも嫌だろう。
「ほ、本当ですか⁈ リュウ様!」
と、ユーリス姫は興奮して俺の両手を握った。
ズキンっと痛みが疾る。
この女…… 怪我してるって知ってるよな?
でも痛い顔はせず、さりげなく手を振りほどき……
「さっきも言ったように、自分が学校へ通えたらの場合のみ、です」
と、言った。
俺には確信がある……
俺は学校へは通えない。 ……だって俺の脳みそのシワ、少ないもん。




