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転生 フリーダム  作者: 昨日シーサイドライン乗った
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 ノマノーラ



      第二章  成り上がり


 第六十四話   「ノマノーラ」



 

 朝、陽が昇る前の稽古。

 

 久しぶりにラザノフとの試合稽古をした後、帰る前にラザノフが聞いてきた。


 「リュウ、拙者は強くなってるでござるよな?」

 「なってるね、一皮剥けたと思うよ」

 「じゃあ何故、リュウには通用しない」


 それを俺に聞くか……


 「稽古の絶対量と質の違い、戦い方の違いとか⁈」

 「量と質は分かる。 でも戦い方の違いとは何でござるか?」

 「ラザノフは防御タイプだ。 相手に打たせて隙を狙う。 だからかは分からないけど初太刀がヘタだ」

 「最初の突きでござるか⁈」

 「武器を交換して俺が突くから捌いてみる?」

 「ああ、やるでござる」


 という事で、俺がラザノフに突くと……

 ボッ、ドス…… ボッ、ドスっと面白いように当たる。


 「何故でござるかぁ〜!」

 「ラザノフは相手が突くのを感じることが出来る。 だから、行かないタイミング、を感じさせて行けば当たりやすいんだ」

 「ど、どういう事でござるか?」

 「ラザノフが相手の気配を察知出来るように、相手も察知してるかも知れない、だったら行かない気配を出して行けばいい」

 「な、なるほど…… そうすればリュウに勝てるでござるな」


 だから、俺に聞くな!


 「勝てるかどうかは分からないけど、初太刀で崩されたら厳しくなると思うよ」


 特に間合いの遠い槍が相手なら。


 「何か良い練習方法はないでござるか?」

 「う〜ん…… 例えばこの棒で……」


 

 箸くらいの棒を俺が親指と人差し指で下向きに摘む。

 ラザノフが直ぐ下で棒を握る形でスタンバイ、でも棒に触れてはいけない。

 

 俺が棒を離したら、ラザノフは棒が落ちないように握り締めるだけ。

 棒が落ちなければ合格。

 


 しかし、ラザノフは何度やっても棒が落ちる前にキャッチ出来ない……



 「クッ、どうして出来ない……」

 「相手の呼吸を感じる、自分の呼吸をワザと相手に読ませる。 ラザノフがふと油断する一瞬に俺は棒を離してるだけ」


 距離が近い分、息づかいも感じやすい。

 でも剣に直結するかは知らん。

 


 「お兄ちゃん、ラザ兄、もう帰って支度しよ」

 「ああ、そうだな。 もう明るくなって来たし……」



 今日は初船出の日。

 

 ユキナに船の動かし方を聞きながら船で釣りをしたり遊ぶ予定になっている。


 

 ーーーーー



 ギルドの職員の休みは不規則で日曜だから休みという事はない。

 今日は火曜だけどユキナは休み。


 そんなユキナと俺達は昼頃から船で出発する。



 船…… と言うよりクルーザーって感じ。

 6人乗りらしいけど、8人は余裕で乗れる。

 中に入ると小さいベッドが2つと、そのベッドの間に本当に小さいテーブルが1つある。


 動力は魔法陣に魔力を注いで動くタイプ。

 この世界の船の動力はみな、このタイプらしい。

 満タンで8時間の航海、魔力なら風でも火でも何の属性でもOK。



 魔法陣に触れて魔力を注いでみる……

 

 魔法陣は遠慮なしにグイングイン魔力を俺の身体から奪っていく…… が、直ぐに満タンになったのか、ピカッと光ってからは魔力は奪われなくなった。


 「す、凄い…… 上位亜人ならこの魔法陣を1人で満タンに出来るかも知れないけど、リュウ君の魔力は王族や上位亜人レベルね……」

 「王族も多いんだ?」

 「多いよ。 他の国の王族とかと結婚することも多いし、魔力の多い上級貴族が結婚相手になることもあるみたい。 リュウ君は孤児って言ってたけど、両親が上級貴族、もしくは王族って可能性ってある?」


 奴等は顔で選んでると思ってた……


 「やっぱり気品とか隠せてないよね…… どうしても気品のヤローが出て来やがるんだ。 ……リュウ王子でもいいよ」

 「キャハハハ、リュウ王子! でも本当に王子なら、女の子達が凄いことになりそうだね」


 女の子達が凄いことになる…… どゆこと?


 

 まぁ王子はさておき、シスターが魔力が多いと貴族の妾にされると言っていた気がする。

  

 僕の貞操を守るために魔力を隠すか、もしくは鉄の鍵付きパンツを特注した方が良さそうだ。

 履いた時にペトッてくっつかないやつ……



 ーーーーー



 沖まで出てきてのんびりと釣り。

 でも何も釣れません!


 「あっ、そう言えばリュウ君とラザノフ君に一応聞きたいことがあったんだ。 あのね、リュウ君、ラザノフ君、ギルドのパーティー戦、出たい?」


 パーティー戦⁈


 「ユキナ、もうふた月を切った大会で代表パーティーが決まってなかったでござるか〜」

 「違うの、決まってたけどその代表パーティーのメンバーの2人が討伐で大袈裟しちゃったの。 だから代わりのパーティーを探してたんだけど、イマイチって感じのパーティーばかりで…… だったら強い土竜族のラザノフ君が居るパーティーは? ってなって…… ラッキーが重なったとしてもダンジョン攻略もしてるし…… どう?」


 僕は? ……イナイコデスカ?


 「出たい! ウッホ〜、父者と母者を連れてきてあげよ〜っと。 ござるぅ〜」

 「本当! あ…… リュウ君は? って何脱いでるの!」

 「全然釣れないから海に潜ってくる。 大会は好きにして」


 パンツ一丁でザブーンと飛び込んだ……



 そのままジェットで深くまで潜る。


 久しぶりの海の中。

 レイモンの死海と違い魚が見える……

 でも海の透明度はレイモンが上の気がする。


 結構深くまで潜っても下に着かない……


 耳抜きをする回数から、ここはもう水深100メートルは超えてるはず……

 それが証拠にこの眼でも光を感じることが出来ない。


 ただただ、暗黒の世界。

 眼を閉じると上も下も横も分からなくなる。

 広大な宇宙に投げ出された感覚。 ……そう、前世で死んでからの感覚と似ている。


 今だって俺を飲み込もうとする魚がいるかも知れない。

 集中する……

 徐々に五感が鋭くなるのを感じる。


 ……どこか騒がしい?



 ブクブクっと息を吐くと泡が横に流れて行った……

 あっちが海面方向……


 ジェットを使うと、ジェットから出る泡も一斉に海面に向かう。

 そして泡を追いかけ、追い越すころには海面からの光が感じられた……


 海面に近づくにつれ騒がしくなるのは、ラザノフとユキナが海に向かい俺の名を叫んでいたから……



 そのまま一気に海中から飛び出し、船に飛び乗る。


 「リュ、リュウ…… 無事でござったか……」

 「あれ? ラザノフが心配してくれたの?」

 「い、いや。 リュウが居ないとパーティー戦に出られなくなるからでござる」


 いや、絶対心配してたな。

 ユキナは…… 目元が濡れてる……


 「ごめん、心配させちゃったね。 俺は海の中で20分近くは息を止めてられるんだ。 ……ユキナ、後で空に連れてくから許して」

 「うん、いいよ…… でもどうしたらそうなれるの? 人間…… だよね?」

 「小さな頃から続けてきたこと、適正が高かったこと、海の中が好きなこと、これがあれば誰でも出来ると断言するよ」


 実際、兄も結構潜れていた。

 鍵は息の出来ない苦しさと上手く向き合わないこと、つまり苦しさを忘れること。

 ただし、自分の限界はしっかり把握しておかなければ危険だ。


 「とりあえず着替えて来るよ」


 と言って、船の中に……


 

 ベッドの下には着替えなどが置いてある。

 そしてここにはラリィが居る。


 「お兄ちゃん、大丈夫だの?」


 顔を覗き込むようにラリィが聞く……


 「大丈夫、陽が暮れたら飛ぶだろ」

 「うんだのぉ〜」


 昼間動けない特性まで遺伝してしまったラリィ。 

 どうにか出来ないものか……




 そして陽が暮れてからはラリィの出番。

  

 船の端から羽ばたき、船の周りを飛ぶラリィ。  

 ……絵になる。


 「ユキナも行く?」

 「うん、でも前を向いてがいいな……」

 「それだと高く上がるだけだけど、いい?」

 「うん、それがいい」


 という事で、土竜族の子供達と同じように軽く紐を結び高く上がって行くと……

 さっき沈んだばかりの太陽がまた見える。


 「綺麗…… あの太陽が向かう先にリュウ君の故郷があるのね……」


 カミラさんに聞いたか……


 「うん。 知り合いは少ないけど、その分大切な人達が生きてる…… いつか戻るよ」

 「えっ、何で? こっちの世界…… 嫌い?」

 「あっ、いや、そうじゃなくて、里帰りしてまた戻ってくるよ」

 「そう…… リュウ君はモテるからこっちでいい人見つけなよ」


 リリカとカミラさんには惚れてもらえた。

 今度は自分から惚れたい⁈


 「それよりユキナに聞きたい。 あの星ってぶつかるんじゃない?」


 この星に異常接近している星。

 また近くなった気がする。


 「キャハ、大丈夫。 あの星は300年周期にスペルティに異常接近するノマノーラと言う星で、前回はスペルティの裏、今回はリーブルの正面に最接近するんだよ」


 スペルティの裏とは、俺の故郷レイモンのことだ。


 「何か影響とかないの?」

 「聞いたことないな〜。 大丈夫、ぶつかることはないから」


 ふと見上げて思う……

 飛んで行ける⁈


 「ノマノーラは人とか住んでるの?」

 「知らないけど生きていけないって言われてるよ。 理由は太陽に接近し過ぎることと、逆に太陽から離れ過ぎることもあって暑さと寒さが人族が生きれる環境ではないんだって」


 太陽の周りを楕円形に回ってるのか……


 「3年後の秋だったと思う…… 最接近するのは。 ふふ、興味ある?」

 「まぁね。 飛び移れそうだし」

 

 俺は前世でも宇宙に興味があったのだ。


 「キャハハ、無重力で宇宙を彷徨っちゃうよ」


 いや…… 俺にはジェットがある……



 ってな会話のあった初船出だった。




 時は流れ……


 家の引き渡しも終わり、今日から宿ではなくこの家で暮らすことになる。




 白い家  


 この辺りは白い家しかないのでこの家も白い。

 2階から見る海を含んだ景色は飽きることなく見ていられる。 

 ラリィは地下のやたら広い部屋を、ラザノフは階段を上がった先の端の部屋、俺は階段から遠い方の端の部屋を選んだ。


 ちなみにこの部屋を選んだ理由は、俺的に一番見える景色が好きだったからだ。




 その日の夕食。


 ユキナが夕食を作りに来てくれて、その夕食中……


 「リュウ、拙者はこの家に両親を招待したい。 出来れば大会後まで泊まってもらいたいでござるが……」

 「別にいいよ。 連れてくれば?」


 ラザノフの両親には俺も散々世話になってる。

 少しでも恩返し出来るか⁈


 「そうでござるが、船の燃料が拙者では足りないでござるよ。 だからリュウも一緒に帰って欲しいでござる」


 魔力燃料が足りないのか……


 あっ、そうだ!

 俺は土竜族の里には行かず、レミアの砂浜に行ってレミアと会おう!


 「いいよ、俺も向こうでやりたいことがあるから。 いつ行くの?」

 「早速、明日には出たいでござる」


 そ、それだとレミアに着てもらうはずの水着を買いに行けない!


 「昼過ぎでもいい? ちょっと買いたいものがあるから」

 「ござるでオッケー!」


 今はもう5月。

 それでもまだ海に入るとレミアは寒いかも。

 でも暖めてあげればいいか。

 

 もちろんいやらしい気持ちはゼロだ。

 ただ、想像するだけでハッピーでヒッピーな俺がいるだけだ。



 ーーーーー



 土竜族の里まではここから3,000キロ。

 船の速度は遅いけど、昼夜進めることは大きい。


 昼はラザノフが運転をして、夜は俺がラリィに運転を教えながら進む。


 ちなみに魔力燃料は、俺の魔力の三分の一程度魔力を使う。

 しかしその燃料で船は8時間進んでくれるので、その間に魔力はほぼ回復する。


 

   ーラリィの魔力についてー


 突然だがラリィの魔力について話したい。

 ラリィは魔力の多い吸血族のハーフだが、その吸血族に負けないくらいの魔力量だとラザノフが言った。


 何故分かったかと言うと……


 この船の魔力燃料の必要値に27、とある。

 土竜族の魔力量は13〜20くらい。

 吸血族の魔力量は25〜35くらい。

 つまり、魔力量の少ない吸血族の人だとこの船の燃料を満タンにすることは出来ない。


 それが…… ラリィはあっさり出来たのだ。

 まだ余力がありそうなので、魔力の多い吸血族の人くらいありそうだ。


 そしてその魔力を生かす魔術の勉強を、この前からユキナに教わっている。

 ユキナは学校の専攻を魔術で卒業しているので家庭教師としてはうってつけだ。


 あとラリィのことで言うならば、ラリィはラザノフの影響か、少し下品なところがある。

 俺に影響されれば気品のあるお嬢様オホホ、になれるのに残念な子だ。

 その辺りの教育も必要かも。

 

 

 陸から5キロほど離れた海の上を進み続ける船。

 6日目の夜中に土竜族の里の近くの船着場に着いた。

 一応、土竜族の船も何隻か置いてある。


 「じゃあ、2日後の昼くらいにこの船で待ち合わせでいいでござるな」

 「ああ、いいよ。 ラリィはお兄ちゃんと離れて寂しい?」

 「ラリィね、寂しくないだの。 ラリィ平気なの」


 ウソだな……

  本当にそうならラリィの返事は単純に『全然』で終わるはず。


 「さぁ早く行こう、後2時間もすれば太陽が出てくるでござるぞ」


 ここから土竜族の里はちょうど2時間くらいらしい。



 ーーーーー



 俺がリーブル初上陸した小さな砂浜を目指して飛んでいる。

 俺の持ち物の中にはレミアに買った水着がある。

 サイズだけ見て逃げるように買ってきた。

 どうしてもこれを着てもらいたいのだ……

 


 あの砂浜での1コマ

 

 ハハハハ〜  ふふふ〜  早く来いよ〜

 待ってよ〜 リュウさ〜ん


 グハハハ、想像するだけで楽しい。


 

 ちょっと想像するだけで、直ぐに砂浜まで着いてしまった。

 もうちょっと想像したかったのに……


 とりあえず、あの時と同じようにサンダーで魚を捕ろう……

     


 ドゴッーンっと光の後から聞こえる轟音で、辺りはビリビリっと震える。

 きっと歩いてるラザノフ達にも聞こえてるはず。


 ジェットで見回ると……

 光の堕ちた岩場近くの海には、運悪く海面近くにいた魚が数匹浮かんでいる。

 魚を2匹拾い、下処理だけして森へと入った。



 暗い夜道をあの時と同じように魚を抱えて歩く。

 なるべくあの時と同じにすれば、レミアと会える気がしたからだ……

 

 しかし、あの時作った小屋がない…… 朽ちてしまったのだ。

 確かに土で固めただけの小屋、あれから10か月近く経っているので仕方ない。


 俺はレミアの気配を気にしながら新しい小屋を作ることにした。


 明るくなる頃には小屋を作ることが出来た。

 あれから何度も作ってきたのだ、出来もスピードも上がってる。


 そして魚を焼く。

 レミア……

 やっぱり絶望的な感覚が襲う。

 レミアは会いに来て、会える人じゃない……


 それでも探すしかない。

 友達になったし、また会うと約束したのだ。

 魚を食べながら今日探すルートを思い浮かべていた……

 

 その日、俺はレミアに会えなかった。


 朝、小屋の中で目覚めた俺は、レミアが居ないことにガッカリしていた。

 もしかしたらあの時と同じように、レミアが目の前に居るかもしれないと寝たからだ……


 明日の昼には俺は戻らなければならない。

 何としても今日は見つける!



 今日は寝る前に作戦を練ったので実行する。

 その作戦とは…… 飛んで探す、である。

 飛んで探す意味は、当然俺がレミアを感じて見つける範囲が広がるのと、レミアにも俺の気配を感じて欲しいのだ。


 レミアは自分の森に人が居ることを感じることが出来る、と言っていた。

 でも、目視しないと誰かは分からない。

 それでも人族で単独でフラフラ飛んでいるのだ、俺かもと思ってくれても不思議じゃない。

 昼間飛ぶことは避けてきたけど仕方ない、今日しかないのだ。



 低く飛んで小動物の気配を探りながら行く。

 

 広大な森、豊かな自然、レイモンの砂漠とは大違い。

 ……って言うかレイモンは砂漠さえ何とかすれば、戦争は終わるんじゃないのか?


 そんな事を思いながら飛んでいた。

 小動物の気配を感じる度にその周りをグルグルして、レミアが姿を見せてくれるのを待った。

 でも…… レミアは見つからなかった。



 最後の望みと思って寄った果物の生る木にもレミアは居なくて、もう飛ぶ気にもなれず小屋までの道を歩いていた。


 そこに後ろから小動物の気配が……

 まさかね、と思い振り返ると……


 ……レミア!


 走って向かい、ガシッと抱きしめた。


 ……ハッ、つい嬉しくて抱きしめてしまった。

 でも…… レミアが嫌がるまで離すのやめよっと。


 「リュウさん」


 早っ、速攻で嫌がられてしまった。


 「あっ、ごめん、レミア。 もうあんまりしないから」


 もう絶対しないとは言えなかった…… 良かった、言わなくて。


 「ふふ、何がですか⁈ リュウさん、久しぶりですね。 お元気でしたか?」

 「うん。 レミアは?」

 「私達には病気はないので……」


 そうだった。

 いつでも同じ元気か。


 「それよりリュウさん、会いに来てくれたのですか?」

 「うん。 昨日からずっと探してたよ。 本当に会えて良かった」

 「気配を感じて急いで帰って来たのですよ。 良かった、本当にリュウさんで……」


 目視するまで誰だか分からないなら、レミアにとって俺は危険の素かも……


 「レミア、会えたけど危険があるなら……」

 「ふふ、大丈夫ですよ。 それより久しぶりにお魚が食べたいです」



 ーーーーー



 小屋の前で魚を焼いている。

 10ヶ月前と同じ、だけど俺はその間に色々あった。


 「リュウさん、少し背が伸びましたか?」

 「うん。 分かるんだ」


 一緒に過ごした期間は少ない。


 「えっ、あの…… さっき抱きしめられた時、思っちゃいました」


 少し顔を赤らめ、レミアはニコッと笑った。


 か、か、可愛すぎる〜。

 ……そんで何だっけ?



 「リュウさん、明日は何をして遊びますか?」

 「ごめん、レミア。 明日の昼に待ち合わせてるから帰らなきゃいけないんだ」

 「え…… ダ、ダメです。 せっかく久しぶりに会えたのに、少しの時間だけなんて……」


 確かにこれから先もレミアに会える保証はない。

 でも約束…… ハッ、土竜族の里はこの近く、日にちを伸ばしてもらえるかも。


 「レミア、もしかしたら大丈夫かも。 いまから友達に言ってくるよ!」


 と言ってジェットを起動しようとすると、レミアが『私も行きます!』と言った。



 レミアを抱えて飛ぶ。

 レミアは堕ちても飛べるので紐はなし。

 片手でも余裕なのはレミアの体重が軽いから。

 だけど至近距離で目が合うと、可愛い過ぎて思考が停止してしまうので要注意。


 1時間も飛ぶと里が見えて来たので下に降りる。

 

 「レミア、ここで待っててくれる?」

 「はい、待ってます」

 「消えて待っててくれる?」

 「ふふ、分かりました」


 レミアが消えたので走って土竜族の里に向かう。

 

 

 里に向かう坂を必死で走り切ると門があって、その前に門番のリッケさんが居た。


 「おお〜、リュウか〜。 ラザノフか? ラザノフなら家に居るぞ」


 話が早い。

 でも、もっと早い方法がある。


 「リッケさん、久しぶりです。 ラザノフに言付けを頼みたいんですがいいですか?」

 「ん⁈ いいけど上がっていかないのか?」

 「人を待たせているので……」


 と言って、船への集合を明日ではなく明後日の昼に変えてくれ、と言付けた。



 ダッシュで戻る。

 

 レミア…… あんな危険なところに1人で待たせてごめん。

 ……今、帰るから無事で居てくれ!


 そこ! 小動物の気配!

 スッとレミアが姿を現す。


 ガシッと抱きしめて思う。 ……俺、レミアの気配分かるようになったかも。


 ハッ! つい勢いで抱きしめてしまった。

 バッと離れて言い訳をしてみる。


 「こ、これは違うんだ。 なっ、手が、手が痒かっただけなんだ〜」


 アレ…… これ誰かの言い訳と似てる……


 「ふふ、何がですか? ……それより、どうでしたか?」

 

 良かった、怒ってない。 ……次も手が痒くなろお〜っと。


 「大丈夫。 明後日に変えてもらったよ」

 「え…… それではダメです。 明明後日に変えてもらってください」


 その手があったか!


 「分かった。 行って来るから消えて待ってて」

 「ふふ、はい」


 レミアが消えたのを確認してからダッシュで里に向かう。

 そして坂を登ったけど、門の前には誰も居ない……

 

 まぁ2回目だ…… ちゃんと挨拶して行こう。


 走ってガルフさん家まで向かう。

 俺を見た里の人が『リュウ』とか『リュウ君〜』とか言うけど、時間がないので軽く手を振って対応した。

 それにしても土竜族の里…… 広いな。



 ガルフさん家まで着いた。

 軽く息を整えて、ガラッと扉を開けて『すいませ〜ん』と声をかけた。


 直ぐにサラノフさんが来てくれた。


 「久しぶりです、サラノフさん。 ……ラザノフ、居ますか?」

 「本当に久しぶりね、リュウ君。 さっ、上がって。 ラザノフとラリィちゃんは中よ」


 お邪魔しま〜す、と声をかけて上がると、声を聞いたラリィが飛びついて来た。

 ……抱き上げる。


 「やっぱり寂しかった?」

 「ラリィね、全然寂しくなかったの。 ムジカとか友達と遊んでたんだ〜」


 前回ラリィを紹介しにここに来ているので、里の子供達とも面識がある。

 ムジカか…… 俺も会って空を飛んであげたいな〜。



 居間ではラザノフとガルフさんが飲んでいた。


 「おお、リュウ君。 今も話してたんだがワシとサラノフがしばらく厄介になるぞ」

 「はい。 居たいだけ居てください。 それとガルフさん、身元保証の件、ありがとうございました」

 「ああ、そんなのはいい。 それより座って飲みなさい」


 ヤバい、それだと長くなってしまう。


 「リュウ、さっきリッケ殿から待ち合わせを明後日にしてくれって伝言を受けたでござるが?」

 「あっ、それの続きなんだけど、明後日じゃなくて明明後日にしてくれない?」

 「いいでござるが、それを言いに来たでござるか?」

 「そうなんだ。 ちょっと急いでいるのでもう行くけど、ガルフさん、サラノフさん、向こうに行ったら色々なお店に飲みに行きましょう」

 「ふふ、竜族って言うか上位亜人の女はほぼ里から出ないから楽しみだな〜。 リュウ君、よろしくね」


 レイモンのライミット族のサランさんやラリィの母ちゃんで分かっていたけど、上位亜人の女の人は不憫だな……


 「それじゃあ、明明後日に会いましょう」


 っと言って出て、またダッシュ。



 レミア…… あんな危険なところで待たせてごめん。

 ハァ、ハァ、無事で居てくれ……


 レミアは…… こっちの方向!

 動くなって言ったのに……

 レミアッ! っと見たらウサギが逃げてった……

 どうやらレミアの気配はやっぱり小動物!


 元居た場所まで戻るとレミアは居た。

 今後は衝動的には抱きしめない、それが通用するのは2回までだ、それ以上するなら裁判で立証が必要になる。


 「ハァ、ハァ、お待たせ。 明明後日にしてもらったよ」

 「ふふ、リュウさん疲れてますね。 何で飛んで行かなかったのですか」

 

 ハッ! そうだ、俺は飛べるんだった……

 必死だとすぐ忘れるな。


 「俺は修行中、人生は修行だ」

 「ふふ、リュウさんカッコいい」


 ガシッと抱きしめた、もう離さない。


 ……ハッ、またやっちまった。

 バッと離したけど、レミアは真っ赤だ……

 や、やらかしちまった……


 怒ったところなど見たことない、あの レミアが怒りで真っ赤。

 もう俺なんか生きてる資格なんてない…… いっそラザノフの突きでブスッと……


 「ウさん…… リュウさん、お〜い、聞こえてますか〜」

 「あ、うん。 もちろん反省してるし、もう少ししかしない」


 よし! 何気にあと少し出来ることにしたぞ。


 「ふふ、何がですか? もう、聞いてないのですね。 あ・し・た、何します?」


 明日…… アレだ!


 「あの、俺はさ、海で泳ぐのが好きなんだよね。 だからレミアも一緒に泳がない? もちろん水着は用意してきたから」

 「私の水着ですか……?」

 

 ダメか……


 「いや、ごめん、忘れて。 レミアは何かしたい事ある?」

 「ふふ、泳ぎたいです。 でも水着は恥ずかしいな……」

 「だ、大丈夫! 普通の水着だし、絶対似合うとお墨付きまで出てるから」

 「ふふふ、誰のお墨付きですか? ……私、水着も着たことないし、泳いだこともないので教えてください」

 「分かった、任せて」


 これで俺の夢が叶う。

 リーブルに3人しかいないと言うドリアード。

 そんなドリアードのレミアと海で遊べるのだ。

 俺が海で遊んだのは恋人だったリリカだけ、レミアは人族ですらないけど特別なのは変わらない。

 レミアは俺にとってのアイドルだ。



 次の日。


 天気は曇りだけど俺もレミアもそれは気にしない。

 って言うかそれどころじゃない。

 だってレミアが水着に着替え中……



 ここからはスローモーションで……


 小屋から水着で出て来るレミア……

 ふ、ふつくしい……

 サインをねだる俺…… 困った顔のレミア……


 仕方ないので俺も着替える。

 それを見て赤面するレミア……



 えっ、何でアイドルの前でフルチンになって着替えるのか?


 ……だってどうせ去年、見られてるもん。



 その日、俺達は1日中海で遊んだ。

 レミアは水に浮いてしまうので海の中に入ることが出来ない、つまり泳ぐことは出来なかった。

 それでも、俺が貝を捕ったり2人で砂浜で遊んだりした。


 

 その日の夜。


 焚き火を囲んでさっき捕った魚や貝を焼いている。

 あっという間の1日、残り1日半。


 「リュウさん、お願いがあります。 私の森の洞窟の中に、綺麗な鉱石を見つけたのですけど、それをリュウさんが取って私にプレゼントしてもらえないでしょうか?」


 プレゼント……

 俺は何てバカなんだ! 普通、女の人へのプレゼントはネックレスとか首飾りだろ…… 同じか? 

 とにかくそういう物を用意するものだ。

 俺が用意した物は水着…… グヘヘ、バカで良かった。


 「もちろんいいよ。 夜は飛べるから、今から行く?」

 「いえ、遠いので明日にしましょう。 ふふ、あれからリュウさんに何があったのか詳しく聞きたいし…… それに私と繋がっていればリュウさんも消えるので昼間でも大丈夫ですよ」

 「えっ、俺も消えるの? 昨日飛んだ時も?」

 「いえ、昨日はスキルを使ってません。 使った時だけです」


 このスキルを使うと妖精達が見えるらしい。

 でも妖精達はとても怖がりなので、空を飛んでいる時だけ使いたいようだ。

 レミアの友達は妖精達だけなので、驚かせたくないらしい。


 その日は寝ずに話をしていた……



 そして次の日の朝。


 今回はおんぶして紐をしっかり結ぶ。

 そして右か左を飛んでる時に指示してもらう。


 飛び立つと直ぐにレミアは消えるスキルを使ったみたいだ。

 自分自身に違和感はない、でも鳥がモザイクがかかったように飛んでいたので、これがレミアが消えている時に見えてる景色なんだ、と思った。

 確かにこれでは俺を認識出来ないだろう。


 レミアの指示で3時間くらい飛んだ。

 俺のジェットで3時間ならレミアの浮遊だと何日かかるのか?

 でも直ぐにレミアから「あの山です」と声がかかった。


 大きな山…… しかし、真ん中から真っ二つに裂けている。

 裂けている亀裂の上の方は5メートルほどの幅も、下に行くにつれてどんどん狭くなる……

 


 早速、レミアと上から亀裂の中を下がって行く。

 どんどん狭くなるので圧迫感がハンパない。

 そしてもう下がれない、っというところで右側の壁に大きな穴が空いていた。


 その穴に入ると洞窟が……

 洞窟内を探索する。

 レミアの指示で上に登ったり下に下がったりでジェットがないと厳しそうな道のり。

 それでも狭い通路をレミアを下ろして四つん這いで抜けた先は、キラキラと光る壁の綺麗な場所に着いた。

 

 「ふふ、ここですよ」


 とレミアが言うと、俺の手を取り1番大きく光る鉱石の前まで来た。

 それを俺が取り、レミアに渡した。

 ……って言うか、こんなのプレゼントあげたことにはならない!


 まだ鉱石は沢山あるので良さげな光の鉱石を俺が見つけて、レミアに渡した。


 「ありがとうございます、リュウさん」

 「いや、俺は何もしてない…… これをプレゼントって言っていいの?」

 「はい。 リュウさんからプレゼントもらいました」


 ガシッと抱きしめた。

 またやっちまった…… でも……


 「レミア、レミアはこんな危険なところに1人で来てるの?」

 「あの…… たまたまです……」

 「それでもなんか俺は、レミアが危険なのやだな……」


 何俺は、レミアの行動を制限するようなことを言っているのだろう。

 コレって束縛?


 それでもレミアも俺をギュっと抱きしめ返した。


 「大丈夫ですよ、私は…… 大丈夫……」


 会った時から感じる、儚さ……



 500年も生きる人とは思えない。

  


 ーーーーー



 パチパチと音を立てる焚き火。

 最後の夜となってもいつも俺達は、このスタイルでお喋りをしている。


 レミアは取って来た鉱石を眺めてニコニコしている。

 本当に可愛い人だ。


 レミアが見つけた鉱石は透明なピンク色。

 俺が見つけた方は透明で濃い紫色。

 でもどちらもゴツゴツした石。


 「レミア、良かったらその鉱石、加工してもらおうか?」

 「えっ、いいのですか?」

 「当たり前だよ。 何にしてもらいたい?」


 これでやっとプレゼントっぽくなってきた。


 「え、あの…… ふふふ、指輪がいいです」


 と、ニコッと笑いながら言って、ピンク鉱石を俺に渡した。


 「そっちは?」

 「コレは次回リュウさんと会うまでに考えておきますね」


 次回…… 指輪が出来たら速攻で来よ。


 いや…… 待て。

 西のドリアードはレイモンから来た人と一緒にいると言っていた。

 つまりその人が西のドリアードを守っているという事。

 それほどこの世界で重要な役割のドリアード、このまま放っておいて良いのか?

 もしかして、俺がレイモンから来た理由はレミアを守るため⁈


 「レミア、1人で寂しくない? もしレミアが良ければ俺が側に居ようか? もちろん俺は人間だからあと数十年で死んじゃうけど……」


 レミアは驚いている……


 「ふふ、嬉しいな、リュウさん。 でもラリィちゃんはどうするのですか? お友達は? ふふ、大会で優勝するのではないのですか? リュウさんはリュウさんの人生を全うしてください」


 昨日、レミアと別れてからの事を全部話した。

 話さなければ良かったか⁈


 「リュウさん、その代わり、また歌を教えてください」


 歌…… 俺はあまり歌を知らない。

 やっぱり前世の歌になってしまう。


 「分かった。 朝に娘達が歌う歌を教えるよ」



  ーおじさんブギー


 貴方が近づいて来ると分かります おじさん!

 近くに居るだけで主張が強いですね おじさん!


 首元の匂い〜グットです

 脇の匂いはグッドネス〜

 足の匂いはフィットネス


 中毒性が強いですね  おじさん!

 

           作詞/作曲  四駆



 「ぷふふふふ、変な歌ですねぇ」


 確かに変な歌だ、でも大ヒットした歌なのだ。


 「レミア、一緒に歌おう」

 「はい!」


 歌ってて思う……

 いつかこの人に足の匂いを嗅がせたい、と。

 そして臭いと笑われたい。



 そんな楽しい時間もあっという間に過ぎ……


 別れの時。


 「じゃあ、指輪が出来たら来るから」

 「はい。 約束ですよ、リュウさん」



 実際、これ以降レミアとはしばらく会えない。

 そして次に会う時レミアがあんな姿になってるとは、この時の俺は知らない……



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