ダンジョン攻略 3
第二章 成り上がり
第六十話 「ダンジョン攻略 3」
狭くて暗い階段を下りて来た先にあったのが……
雪の積もる森? だった。
雪に埋もれてるので森だか何だか分からない……
どっから雪が降ってるんだよ…… と思っても、実際に雪が降っている……
「リュウ、寒いけど、どうするでござるか?」
ここは階段を下りた先にある穴の出口。
覗くと下には積もった雪、上にはシンシンと降る雪。
「ラザノフはここで待ってて、俺がこの階層を見てくるから」
「分かった。 頼むでござる」
何故、地下なのに雪が降っているか……
単純に上に飛べば分かる。
しかし……
上空に行くにつれ気温が低くなり、これ以上は凍えてしまう。
だいたい上の階からこんなに下りて来てない。
なんなの…… ダンジョンって……
気を取り直して高度を下げて見回る。
どうなっているかは知らないけど、この階は寒くてゆっくりしていられない。
なるべく早く下の階への降り口を見つけなければ……
しばらく飛んでいると、遠くの壁に大きな穴が開いているのが見えた…… 近づく。
壁に約10メートルの横穴、縦は雪で埋もれているので分からないけど、雪の上、3メートルは開いてる。
ここから見える限りはゆったりと段々になって下へと通じてそう。
行ってみる。
それは、穴に入る直前だった……
雪の中から真っ白なクジラのような魔獣が飛び出し、噛みついてきた。
スローモーションのように映る……
一瞬で完全には避けられないことを悟った俺は、せめて滑らすように体を丸めた……
ドンッとぶつかり腕から背中にかけて激痛が疾る。
そのままの勢いで穴に飛ばされ、段々を転がった。
シ〜ンと静寂……
一瞬だと思うけど、気絶していたかも知れない。
色んなところが痛い…… ラリィに回復薬を……
しかし……
声が出ない……
ゲリールで応急処置をすると、だいぶ楽になった……
これが無詠唱のありがたいところだ……
声が出ない時でも魔力の動きを再現すれば、魔術を発動させられる。
「ラリィ、ラリィ! 回復薬を取ってくれ」
ラリィを呼び出すと……
「お、お兄ちゃん! 血だらけ…… 大丈夫だの?」
「ああ、高回復薬なら治ると思う」
高回復薬を飲む……
ラリィが取ってくれた服を着る。
また新しい傷が付いてしまった……
アイツは何なのか? サメとクジラの中間のような魔獣。
大きさは3メートルくらいだった……
ふぅ〜っと1息ついて、現状を把握する。
この階段は1段が高さ1メートルはある。
幅は10メートル、奥行きは5メートル、簡単に言えば巨人用の階段だ。
下まで見えないので、何段あるかは分からない。
そして、白クジラ…… 雪の中から出れないのか、それとも、あの階層から出れないのか……
とにかく、追って来なかった。
ラザノフが待っている……
階段の上まで上がると、やはり雪がこっちに入って来ない。
穴は縦も横も10メートルの四角形。
ただ縦は7メートル雪が埋まってる。
気配はビンビンするけど、こっちには来れないみたいだ。
ジェットを使って雪を溶かす。
穴の周りの雪は全て溶かし、バッと飛び立つ。
……今度は狙われなかったけど、気配はあった。
高度を上げてラザノフを迎えに行く。
ラザノフは震えながら待っていた。
「お、遅かったでござるな、う〜、さぶっ」
「ああ、魔獣に襲われて高回復薬でやっと治る怪我をさせられた」
「マ、マジでござるか!」
それからラザノフに、俺に起こった事を説明した。
ラザノフも、白いクジラの魔獣は知らないらしい。
「ここからが重要だ、ラザノフ。 また襲われる可能性がある。 しかも今度は俺の自由は効かない」
「それなら拙者が槍で対応しよう」
「無理だ。 多分、魔獣は300キロはある。 それに勢いよく突っ込まれ、ラザノフが槍を突き刺した場合、俺達が雪の中に引きずり込まれると思う」
「じゃあどうすればいいでござるか?」
「槍で捌いてほしい。 魔獣を流す感じで……」
「でも、一瞬だし右から来るか、左から来るか分からんでござるよ」
「ラザノフ、それはラザノフの課題でもある。 気配を感じ見極めるんだ。 集中だ、ラザノフ。 俺とラリィの命はラザノフが握っている」
「あ…… や、分かった…… コツとかある?」
こんな時でもアドバイスを求めるとは……
それでもラザノフは末っ子気質で憎めないところがある。
「ラザノフや俺が気配を消そうとも、心臓は止めれない。 魔獣は気配を消そうともしていない。 五感を研ぎ澄まし生を感じるんだ」
「分かった、やってみるでござる……」
ラザノフをおんぶして紐を結ぶ。
ラザノフは槍を中心に持つ、丁度、十の形だ。
高度を上げて飛んで行く。
寒さより、2人乗りでどう交わすか気になる。
穴が開いている壁までは10分……
高度を下げて魔獣がどのくらいの高さで襲ってくるかを調べたいけど、一度の失敗で俺達は雪の中、余りに危険すぎるか……
ぶっつけでやるしかない。
壁が見える……
「ラザノフ、行くぞ!」
「…………」
後ろからピリピリとした集中力を感じる……
突っ込む!
やはり雪が波打っている、さっきは何で気づかなかったのか……
そして、ザブッと飛びかかって来る!
飛び込んで来る白クジラにラザノフが即座に反応する!
サッと槍を長めに持ち、白クジラを押し込むように流す。
上手い、っと思った時、更に両側から白クジラが……
そのまま、右側の白クジラを捌くラザノフ。
しかし、左側は捌ききれない……
俺が出来ることはジェットのスピードを増すことだけ……
ドンッと白クジラはラザノフに当たり、衝撃でバランスを崩し、階段を転がった。
俺は階段を転がっている時に助かったと思ったんだ……
ーーーーー
パチッ、パチッと、焚き火の音で気がついた……
「お兄ちゃん、お兄ちゃん……」
目を開けた俺に気付き、ラリィが声を上げた。
「おお、リュウ。 気づいたでござるか」
ラザノフ……
ハッ、俺はあの時、猛スピードで階段をラザノフと転げ落ちた。
そして、俺だけ気絶した?
「ラザノフ…… 大丈夫なの?」
「拙者? 拙者は大丈夫でござるよ〜、一応回復薬も飲んだし。 でもリュウは回復薬を飲んだばかりだったから、自然に任せるしかなかったでござるよ」
回復薬は連続で飲んでも、1回目に飲んだ時だけしか効かない。
1日は空けた方がいいと一般的には言われてる。
ゲリールをかける……
回復魔術も似ている。
でも、回復薬程は効かない分、数時間空ければ多少は効くようになる。
ここは階段、その途中で休憩してたようだ。
「お兄ちゃん、何か食べる?」
と言って、取ってくれたパンをかじる。 ……そして思う。
人間は脆い。
ラザノフと体術の乱取りでいつも思うことだ。
もし俺が竜族なら、いつもラザノフを圧勝出来ると思う。
でも、いつも耐えられて、そして一撃で形勢を逆転されてしまうのだ……
時計を見ると夜中の3時、丁度、昨日始動した時間と同じか……
「ラザノフは寝たの?」
「いや、ここが安全とは言えんから、起きてたでござるよ」
「それなら俺が起きてるから寝てくれ。 初見の魔獣に寝不足じゃ危険すぎる」
「確かにそうでござるな。 ふぁ〜、あ〜、眠い…… それじゃあ甘えさせてもらうでござ……
……グガァ〜、スピィ〜、グガァ〜、スピィ〜」
相変わらず早いな。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんももう少し寝て。 ラリィが見張って何かあったらすぐ起こすから」
「大丈夫、危険だしいいよ。 ありがとう、ラリィ」
「違うの、ラリィも役に立ちたいだの。 ラリィは沢山寝てるから大丈夫」
まぁ、その気持ちは分かる。
ラリィの気持ちに甘えるか……
「じゃあ少しだけ。 少しでも何かあったら起こすんだよ」
と言って、俺も寝た……
……グガァ〜、スピィ〜、フゴゴゴゴ…… フシュルルル…… グギャアオオ〜、グギャギャギャ……
余りにもうるさくて目が覚めた……
それにしてもラリィ…… ラザノフに負けてないイビキだ……
魔獣の叫びも混じってるだろ……
時計を見ると、3時半。
ラリィの奴、偉そうなこと言って速攻で寝やがった。
でも、このイビキなら魔獣も寄って来ないだろう。
俺ももう少し寝よう……
次に目が覚めた時は15時だった。
体は多少痛みがあるけど、問題ない。
それよりたっぷり寝れてよかった……
「布団持ってきてよかったでござるな」
布団というよりタオルケットや毛布と言った方がいいかも……
でも、そのおかげで寝過ぎてしまうけど。
飯を食べて出発。
このデカい階段を下って行くと……
大きな池にぶつかった。
池はとにかく広い、強いて言うなら東京ドームくらいか……
じゃあ、東京ドームはどのくらいの広さだ? と言われても困る。
そんな事を知ってる奴はいないからだ。
それでも言うなら東京ドームじゃなくて、札幌ドームにする。
札幌ドーム1つ分の広さの池の真ん中辺りに少しだけ陸地がある、周りは切り立つ崖。
「リュウ、ここで終わりの可能性があるでござるな」
地下7階だからか……
「だとしたら希少鉱石はあの真ん中の陸地だろう。 でも、何があるか分からない。 先ず、俺が先に様子見して来るよ」
見える限り階段は2段水に浸かってる。
つまり最低2メートルの深さがあるという事。
また、クジラ…… 居ないよな……
なるべく水面より高く飛ぶ…… って、上を見ると、巨大ムカデに羽が生えているのがウヨウヨ壁にひっついている。
マズい、そう思って低く飛ぶが…… 気づいた2匹が追いかけて来た。
巨大ムカデ
5メートル前後 足と同じく羽も沢山生えている。
慌てて逃げる…… が、俺の方が速そう。
それならと、追いかけられながらでも真ん中の陸地を探ると……
希少鉱石ではなく、階段が見えた……
チラッとラザノフを見ると、槍を構えている。
それならと、階段までフルパワーで戻ってきた。
2人でムカデを迎え撃つ!
ブオォ〜っと、上手くラザノフと俺の方に別れて向かって来る巨大ムカデ。
俺は避けながら刀を横に出しただけ……
それだけで、ブッシャーっと斬れていく。
間違いなく皮膚が柔らかい。
ラザノフは……
ラザノフも上手く叩けているが、何せ相手はムカデ。
生命力が凄く、ここでは狭すぎる。
ラザノフに近づき、合図する……
ラザノフがパッと後ろにしがみついたので、ジェットで逃げる。
2匹のムカデも狭い階段で柔らかい体を反転させて俺達を追うが……
1匹の傷は深く、そのまま池に堕ちた……
すると、池に堕ちたムカデの体が溶け出した……
硫酸のような水の池?
とにかく、真ん中の陸地を目指してフルパワーで飛ばす。
そして……
追い付かれるギリギリのところで階段に逃げ込み、巨大ムカデは体を唸らせ上へと向かった……
階段。
階段とスロープの道をどんどん下りていく。
少し湿気があり、ジメジメしてる。
「次は8階、もしまた希少鉱石がなかったらキツイでござるな」
まともに戦える相手じゃない。
俺達は2人のうち1人がやられたらゲームオーバー。
せめて、有利な条件で戦わないといけない。
「ラザノフ、戻る選択肢はないの?」
「拙者が言い出したこと。 拙者がやられたらリュウは帰ってくれ」
ラリィだけは守らなければならない……
「分かった、そうさせてもらうよ」
はっきり言って帰れない理由はある。
経費がかかり過ぎているのだ。
特に怪我を治す高回復薬は大量に買った。
体力の回復薬、魔力の回復薬も少し買ったし、食料も影にまだまだしまってある。
次がラストならいいが……
地下8階。
荒野のような雰囲気の階層。
どんな魔獣がいるのか。
いつものように俺が偵察する。
この階層はかなり広そう。
基本的には、壁に囲まれているのだけど、この階層は俺達が出て来た壁が横にあるだけで、他には見えない。
それでも壁伝に進んで行く……
壁伝に進んで1周に1時間かかった。
ジェットで1時間はかなり広い。 ……階段見つかるの?
魔獣の確認も階段の確認もまだしてないので、今度は真ん中辺りを探す……
探して直ぐに第一魔獣発見!
見覚えのある魔獣…… チンスコージ君だ。
ただ、この前のチンスコージと色が違う…… 今回は黄色ベースの色。
アイツは強いからな〜、と思いながら、空の上から余裕で降り口を探す(アイツは空は飛べない)。
広い荒野の降り口を見つけるまでに見たチンスコージは7匹。
降り口は祠のような建物の中に確認した。
後はラザノフを連れて来るだけ。
この階層は魔獣と戦うことなくスルーしよう……
いつもしてるじゃん、というツッコミは無しだ。
帰り道、上空の俺を見つけて追いかけて来るチンスコが1匹。
……追いつくとでも思っているのか?
気にせずラザノフの元へ。
ラザノフの元へ着いて、軽くこの階層にいる魔獣や降り口の説明をした。
「そうか…… まだ続くでござるな……」
ガッカリしてるラザノフを見て分かった。
本当は戻りたい、でも、引くに引けなくなっているのだ。
仕方ない…… 俺も絶対に希少鉱石を手に入れる、というモードに入ろう。
「それにしても、黄色のチンスコージは不気味でござるな」
「ラザノフはチンスコ知ってんの」
「チンスコ…… ガハハ、知ってるでござるよ。 でも黄色は聞いたことがない。 多分、亜種でござるよ」
あしゅ…… 何だそれ?
「ラザノフ、あしゅは臭い?」
「あ、亜種は臭くないでござる。 亜種とは簡単に言えば、ちょっと普通と違う形態。 でも、魔獣の場合は厄介な場合が多いでござる」
「臭くなければそれでいい。 どうせ戦…… ラザノフ、気を付けろ!」
ズザザーッ、っと勢いよくチンスコが現れた。
あそこから追いかけて来たのか。
「リュウ! 逃げよう!」
ラザノフが叫び、俺の後ろへ回る。
「ラザノフ、俺はコイツに借りがある。 俺にやらせてくれ」
「まっ、ダメだ! チンスコージ自体、竜族だって数人がかりで相手する魔獣、ましてや亜種でござるぞ!」
「ラザノフ、俺は…… 強い!」
足でコンコンっと合図すると、影から刀が出て来る。
俺がリリカに作ってもらった腰袋に挿す1刀と合わせ、今回は二刀流で戦う。
チンスコはあの距離を走って来たからか、いきなり襲って来る事なく、息を整えている。
しかし、俺が刀を構えると、チンスコも頭のムチのような触覚を立てて、メラッと触覚に炎を纏った。
アトラスと一緒に出会したチンスコと違い、炎を纏うのか…… っと思っていると、そのムチが飛んでくる。
キン、キ〜ンっと金属音が鳴る。
しかし、前回と違うのは熱を凄く感じることと、俺の捌きの方が速いという事か。
徐々に押して刀で数回斬るが、やはり皮膚が異常に硬く致命傷にはならない。
ヒューゥっと口から魔術で冷気を流す……
恐ろしく集中出来ている……
蓮撃じゃないけど、俺の攻撃に防戦一方のチンスコージ、でも、電流も流し始めた。
苦し紛れの技。 ……だいたい俺に電流は効かない。
いくら硬くても痛みは感じてるようで、キュ、キュっと言う声が漏れ出した。
最後はあの時に見た、顎の下にある口へ刀を突き刺して勝負を決めた。
圧勝!
ラザノフが近づいて来る。
「リュウ、拙者もチンスコージと戦うでござる。 そこまで連れて行ってくれ」
「ダメだ。 ラザノフ、目的はチンスコージじゃない。 この先にはきっとチンスコージより強い魔獣がいる。 怪我をされたら困る」
「怪我……? リュウが無傷で圧勝した魔獣に拙者が怪我をするとでも言うのか?」
「そうじゃない…… ふぅ。 希少鉱石を持って帰るのが目的じゃないなら、ラザノフがチンスコージと戦ったらもう帰ろう」
ここまで、1歩間違えれば死んでいたという事が数回あった。
それはそのままラリィの危機でもある。
「……分かった、下へ進もう。 それ代わり次は拙者がやるでござる…… いいな?」
「ああ…… 分かった」
ラザノフの俺へのライバル意識が強い……
これが不幸なことに変わらなければいいが……




