優しさと狂気
第二章 成り上がり
第五十四話 「優しさと狂気」
ラリィと出窓から部屋に戻ると、ラリィの母ちゃんのクラルと、誘拐の黒幕のガイスが居ない。
逃げたとしてもラリィの母ちゃんが戻ってくれば、吸血族のソナーで探すことが出来るだろう。
ラザノフさえ居なければあっという間に終わる仕事でも、順を追って処刑する理由を説明しなければきっとラザノフは邪魔するだろう。
どっちの味方だよ……
面倒くさい……
ガチャっと扉が開いて、ラリィの母ちゃんとガイスが戻ってきた。
ガイスは項垂れ、もう抵抗する気はなさそうだ。
ラザノフが俺を見て話し出す。
「リュウ、ラリィの事は済まなかった。 拙者がもっと早く解決していれば…… 本当にラリィにもリュウにも悪いことをしたでござる」
ラザノフは余裕がない時は、『ござる』を付けない。
今は余裕が出てきたのか?
「俺はいい。 でもラリィは今だって高所から落とされて殺されるところだった」
「なっ! ラ、ラリィ、大丈夫か? 怪我してないか?」
ラリィが頷き、ニカッと笑った。
「あ、貴方がラリィに飛行を教えたの? でもラリィはまだ5歳、危険すぎるわ」
後から聞いた話だと、吸血族の子供は8歳から飛行訓練を始めるらしい。
その理由としては、いくら血を吸えば回復すると言っても、空からの転落はほぼ即死を意味するからだ。
「俺は翼で飛ぶわけじゃない。 だから空中でも着地の時でも、ラリィが危なければいつでも支えられる」
今のラリィの着地方法は緊急時の着地なので、この着地をスキルアップさせていけば、将来的にも役立つはずだ。
急に天候が変わり風が強くなったり台風になったとしても、あの着地方法なら対処出来る。
「それよりラザノフ。 この場は俺のルールで裁かせてもらう。 今日までラザノフに任せてきたんだ、いいよな」
「だ、駄目だ。 だいたいリュウのルールってなんだ?」
「裏のルール。 レイモンのルールだ」
ほとんどの奴は、えっ、っという顔をした。
「レ、レイモン…… レイモンから来た? ラ、ラザノフ君、本当か?」
話したのは上級貴族の…… 何だっけ?
ラザノフは上級貴族を見て頷く。
「裏では奴隷制度は廃止になった。 それでもコソコソと取引する貴族が後を絶たなくて、厳罰化していった…… 最終的には打ち首になり、その執行人をしてたのが俺だ」
皆んな俺のウソに絶望感を募らせている。
あ〜、気持ちい〜い。
「リュウ! そんな事は聞いてない!」
「そんな事言えるか。 安心しろ、俺の打ち首は少し熱く感じるだけで痛くないと評判だった」
他人事のように聞いていた護衛達も、もしかして俺達も? という雰囲気になってきた。
……そう、君達もです。
「ちょっと待て、リュウ。 どうして評判になる? 誰が痛くなかったと言ってたんだ?」
あっ…… 死んじゃうから、感想言えなかったんだ……
「知るか。 枕元で誰かが誰かと話してるのさ、しょっちゅうだ。 誰なんだ? 奴等は……」
「リュ、リュウ、それは……」
ラザノフは思う……
亡霊だ!!
「とにかく逃げようと思っても無駄だ。 俺は裏に行けるほど飛行能力が高くスピードもある。 ちなみに時計……」
と言って、壁の上の方に掛けてある時計にクナイを投げる。
バリンッと、時計にクナイが突き刺さる……
「こんな事も出来る。 それでも逃げようとする奴は……」
スタスタとガイスに近づき、当たり前のように刀を振る。
ー斬ー
ウギャアア〜!っとガイスの叫び。
ガイスの右膝から下は吹っ飛んだ。
「なっ! こんのぉ〜!」
と言って、突っ込んで来るガイス兄、でも計算に入ってる。
さっきと同じ、仕込んでいた虎峰を喰らわす。
ドヒュ〜ンと吹っ飛んで、壁にぶつかり気絶した。
……これは計算外、後で起こそう。
「リュウ〜!」
と言って、ラザノフも突っ込んで来る。
これも計算内、両手ジェットで目一杯ふかす。
ドゴォー!っと炎が吹き荒れ、ラザノフや近くに居た人達は悲鳴をあげて大きく下がった。
また、リュウ〜!とラザノフが怒鳴ってるけど聞かない。
そう、俺は人の恐怖を喰らう、サイコヤロー。
「言ったろラザノフ、俺のやり方でやる。 今度邪魔しようとするなら、この家ごと燃やすぞ……」
シ〜ンとする部屋に泣き声……
ラリィの母ちゃんがガイスの足を繋げて、自分の手を傷つけ、血をガイスに飲ませている。
「私のせいでごめんなさい」を、涙を流して連呼している。
これも、計算外。
「お兄ちゃん、もう嫌い! 母ちゃんをイジメないで!」
当然、計算外。
「というように、逃げようとする奴は死より痛い目にあう。 諦めて呼ばれたら来い。 ……先ずは奴隷商の元締め。 ラザノフが連れて来た奴」
「わ、分かった」
聞き分けのいい貴族だ。
「ちょっと待ってくれ…… キンブレ様は悪くない、せめて、せめてキンブレ様より先に殺ってくれ」
護衛か? 使用人か? とにかく気になる言い方……
「何故お前が、悪いか悪くないか判断出来る?」
「お、俺が親に売られた奴隷だったからだ」
奴隷が奴隷商を悪くないと言う?
「どういう事だ?」
コメリと名乗った男は8歳で親に売られて一旦、奴隷商に預けられた。
管理するのはラザノフが連れて来た上級貴族、何とか・リー・キンブレ。 ……今聞いても覚えられない。
そして充分な奴隷としての教育を受け、ホオヒューガ国のラトランと言う貴族に売られた。
売られた先の貴族は下級貴族だったが、毎月お小遣い程度の給料が出るし無茶をさせない、いい人だった。
だけどよく聞くと、キンブレの顧客は信用のある人物しか入れないことを聞いた。
そして奴隷は基本、売られた先で奴隷としての教育を受けるようだ……
それから15年。
キンブレがラトランの屋敷に遊びに来て、直ぐに帰って行った。
後から聞いた話だと、キンブレは顧客に売った奴隷が乱雑に扱われてないか、不条理なことをされてないかを各国に見て回っているとの事。
その時からコメリは自分自身を買い取り、キンブレの為に働きたいという夢が芽生えた。
更に15年。
やっと自分を買い取り、自由な身となったコメリはキンブレを訪ねた……
「……それからキンブレ様の屋敷の使用人をしてる。 まだ1年しか経っていないけど夢のように幸せな時間だった…… キンブレ様、ありがとうございました。 でも、あんなに給料をもらっても、使い方が分からなかったです……」
「コ、コメリ…… ワ、ワシは親父からこの仕事を引き継いで本当に嫌だったんだ〜。 でも、今は…… 今は良かったと思っておる〜ぅ、ああ〜」
男2人で、ワンワン泣いております。
何か、俺が悪者みたいじゃん……
いや、悪者だけど!
ラリィを助けに来た、悪者お兄ちゃん。
どう思われたっていい。
俺が求めるのは、次が無いこと、そして……
「分かった。 キンブレと付き人2人は特別に許そう。 ラザノフ、もう1人の貴族はどうだ?」
「リュウ、相手は貴族だ。 リュウが裁くべきではない。 拙者達に任せてくれ」
まぁいいか。
正直、もう面倒くさい。
「分かった、そいつは任せる。 だけど主犯のラリィの父ちゃんを殺したガイスだっけ? コイツは手足ぶった斬ってから殺していいよな。 また兄貴が向かって来たらついでに兄貴も。 まだ寝てるから、寝てるうちに殺るか……」
ガイスの絶望感、半端ないな……
「あ、あ、あぁ〜、俺のせいで兄貴まで〜。 こんな、こんな狂った奴が居るとは思わなかったぁあぁ〜。 ラザ、ラザノフゥ〜、もうしない、もうしないから、兄貴だけでも助けてぇ〜。 俺、俺はいいからぁ〜、兄貴、兄貴ぃ〜」
よし! 完璧に恐怖を植え付けた。
もう、少なくともここに居る奴等は、俺からラリィを奪おうとは思えないはず……
「お兄ちゃん、もう止めて! もういいから許してあげて!」
「コイツはお前と父ちゃんを陥れた。 父ちゃんは死んでお前は奴隷だぞ…… それを俺とラザノフが救った。 でも、また攫われた…… 完全に俺とラザノフは舐められてる。 おい! メイド服の女! さっきから何気配消してる! 速攻でソイツを起こせ。 出来なきゃ刀、口に突っ込んで、ガチャガチャにするぞ」
空気のように気配を消していたメイド女が、急いでガイス兄の元まで走り、必死で『起きて!起きて〜!』とガイス兄の胸辺りを叩いた。
そして、ガイス兄が気絶から覚める。
ガイスの服の襟を掴んで、引きずって兄の元まで連れて行く。
ラリィの母ちゃんが涙目ですがるように俺を見るが今は無視する。
まともに立てない兄の元に弟のガイスを連れて来て、俺もしゃがんで2人に静かに問いかけた……
「種族の未来のためには女は必要か?」
2人は何も言わない……
「種族の未来のためには女は必要か?」
同じ質問をする。
2人の目には恐怖の色がある。
しかし、兄が振り切るように答える。
「ああ、絶対に必要だ」
さっきからラザノフが大人しい。
俺の本意に気づいたか?
「その女の娘の、5歳の女の子をドン底まで落として、更に殺そうとするくらいの優先順位で?」
実際、谷のドン底で必死で父ちゃんを川から引き上げようとしてた。
あの姿は今でも俺の目に焼きついている。
「それは…… 確かに弟がした事は許されることじゃない。でも、俺達はそれだけ切羽詰まってるんだ……」
ふぅ〜、と立ち上がる。
弟はそれだけで、ビクッとする……
「ラザノフ、俺が吸血族を絶滅させれると思う?」
「そ、そんな事は許さん! だが…… もし本気でリュウが動けば、1年もかからないだろう」
1年…… 里が何処にあるか分かれば直ぐ終わる。
でも、絶滅は出来ない。
理由は沢山ある……
「おい! 未来ばっかり見て足元見ないと、俺が吸血族を消すぞ…… ラリィの母ちゃんはラリィに返せ、いいな?」
その瞬間、ラザノフに衝撃が疾った。
これを引き出すために、あの暴挙をしていた……
でも…… 目的のためには手段を選ばない、危険な男。
「クッ…… 分かった…… 族長にも、エンリケさんにも俺から説明しておこう…… そして、吸血族は2度とクラルとその娘には近づかない」
よし!
引き出すことが出来た!
しかし……
思わぬところから異議があがる。
「お兄ちゃん、ラリィはもうお兄ちゃんとラザ兄が居るから大丈夫だの」
と、俺とラザノフを見て言った。
そしてクラルの方を向き……
「……母ちゃ〜ん、父ちゃんと、父ちゃんと3人で暮らした頃に、戻りたいよぉ〜。 でも、ラリィは…… ラリィは大丈夫だからぁ〜」
と言って、泣き崩れた。
クラルが走ってラリィの元まで行き、強く抱きしめた。
クラルも大泣きしながら、ごめんなさいを連呼している……
上位亜人と人間との恋…… 俺とリリカの恋とは比較出来ないほど、障がいだらけだ……
こっちまで涙が出てきた……
でも、もう一踏ん張り。
「それならラリィの母ちゃんがたまにラリィに会うことを許して欲しい。 もし許してくれるなら、俺はアンタ等の処分に対して何も口出ししない」
実質、ガイスの処分はお咎めなしになる。
「あ、ああ、それは構わない。 クラル…… それでいいか?」
クラルは涙でべちょべちょになった顔で俺の方に振り向き、「ありがとう」と言った。
ラリィは吸血族ハーフなので危険は排除出来ない。
それでも、1番危険な根本的な問題は解決した。
でも、無茶しすぎたか?
「それとキンブレさん、もしアンタ等のルールで、俺を不敬だ何だ言うなら明日以降にしてくれ。 ラザノフに聞けば居場所も分かる」
大人しく捕まってあげるかは、その時の気分次第だけど。
「き、君は自分の立場を知らないのか⁈ 君もラザノフ君と同じ人が身元保証していると聞いたが……」
……なるほど!
上位亜人は貴族以上の立場と誰かが言っていた。
俺も、一応上位亜人と同じ⁈
「あ、あの…… せ、せめて今日はラリィと居たいの…… ダメかしら……」
母ちゃんが俺とガイス兄を見て言った。
「も、もちろんだ、クラル。 明日の夜まで一緒に過ごすがいい」
「それなら俺達の部屋の隣が空いてる。 鍵はメイド女が持ってる…… よな、メイド女」
メイド女は俺が言い終わる頃には、もう鍵をクラルに渡していた……
気配の消し方といい、その後の動きといい、有能なメイドそうだ。
「では、俺は先に失礼する。 この騒ぎのせいで夕方の稽古をしてないからな。 ラザノフ、後は任せた。 ラリィはラザノフと母ちゃんで帰って来い」
えっ、えっ、って感じでラザノフは2体の死体を見た。
「お兄ちゃん、ラリィ、母ちゃんと飛びたい」
「……分かった。 それじゃあ先に帰ろう」
と言って、出窓から先に飛び立ち下で待機。
そして、ラリィが出窓から飛び立つ時に下からブァ〜っと風を送り、飛び立つのをアシストする。
ラリィの母ちゃんも飛び立つ。
寄り添うように飛んでいる2人は美しい。
月のような大きく近い星に重なる2人は、写真に収めたくなるくらいに。
俺は邪魔しないように付いて行った……
一方、ラザノフはリュウが斬った死体を処理していた……
クソ〜、リュウの奴〜、後片付けしてから帰れっての!
と思いながらも、メイドやこの屋敷の使用人達と動く。
「ラザノフ、あの男は誰なんだ? 裏の世界からやって来たと言うが、それは何なんだ?」
この人はガイスの兄のジルベッタ。
「海を越えるとあるらしいでござる。 長老や父者の話では、1000年に1人、海を超えて来る人物が現れるらしい」
「1000年…… う、裏には吸血族は居るのか?」
「リュウは無詠唱種族のスキルが奇跡的に遺伝した人間でござる。 亜人には詳しくないが、いつか戻って知り合いに会い、そしてまた戻って来ると言うので調べてもらうと良いでござる。 つまり、アイツを味方に付けた方がいい、何かと、でござる」
「ほ、本当に種族を絶滅させる力があるのか?」
「拙者の兄、ルカルスが対峙して互角だった。 でもリュウは魔術を使ってない。 しかもリュウはまだあの時は、14歳だったでござるぞ」
竜族の強さは他の上位亜人達も一目置いている。
兄、ルカルスは兵団長で、族長の父者が上位亜人同士の会合で出掛ける時は護衛として付いて行くので上位亜人の中では有名だ。
「ル、ルカルスが! ほ、本当か…… 」
確かに、さっきラウルの護衛が斬られた時、何が起きたか分からなかった。
ただ勢いよくリュウと言う人物に向かって行ったのに、急にゆっくりになり、2つに裂けた……
「普段はいい奴でござる。 でも仲間や知り合いが不条理な目にあえば、今日のように悪魔にもなる。 上位亜人の都合など一切考えない」
……そして、リュウはまだ、変な技を隠し持っていた。
さっきは口から魔術を発動していた。
もちろん、見たことも聞いたこともない。
そして、その魔術は吸血族のオリジナル。
一瞬でコピーしたのだ……
他には…… 無いよな?
「わ、分かった。 吸血族は未だにきな臭い話がある…… もし彼が味方してくれたら……」
「自由度の高い戦いでは、もうこの世界でトップクラスだと思うでござる」
フィールドの広さ自由、使う武器自由だと、飛べるリュウの負けはない。
「そ、そんなに…… それなら自由度の低い戦いは? ラザノフは勝てる?」
「拙者は今はまだ無理でござる。 拙者のターゲットは兄、ルカルスでござる。 その後にリュウを越える…… 自由度の低い戦いでは、リュウより強い奴は何人かは知ってるでござるよ」
それでも、リュウが兄者と戦った、あの時点での話になる。
兄者と互角なら兄者より強い他竜族の男達がいる。
「それでも今は、の話。 3年後…… いや、2年後はどうなっているか…… とにかく敵に回さない方がいい。 どの上位亜人にとっても敵に回したら最高の脅威になる」
リュウは常識的な知識や数字への苦手意識など、一瞬、バカかコイツ…… と思う時がある。
だが稽古の仕方も含め、戦いに関することは紛う事なき天才。
「そ、そうか。 出会いは最悪でも、クラルやラリィで繋がりはある。 クラルがラリィに会いに来る時は俺も護衛として付いて来よう。 ラザノフ、協力してくれ」
ラザノフは頷く……
今回の騒動、リュウは貴族や上位亜人関係なく、拙者、ラリィ、クラルを残し、全ての人を殺そうとしていた。
結果、自分がお尋ね者になるが、リュウは飛べるので捕まらない。 ……でも、リーブルでは暮らせなくなるだろう。
しかし、ラリィはクラルと暮らせてたかも知れなかった。
優しさと狂気……
これがリュウの強さの秘密か⁈
でも、キンブレ殿がいい人と分かると直ぐに態度を軟化させ、吸血族にクラルを諦めさせることにシフトした。
……だけどあの時、ジルベッタ殿がクラルを諦めると言わなければ……
「それなら、お前の弟の命は頂く」
バスッ!
「ガ、、ガイス〜!」
それか……
「それならお望み通り吸血族を消そう。 恨むんなら最終決定をした自分を恨むんだな」
バスッ! バスッ!
「ジ、ジルベッタ殿〜、ガイス殿〜、ござる〜」
こんな感じか……
拙者の求める強さではない…… が、リュウを倒すには、拙者にも必要か……




