フェロモンさん
第二章 成り上がり
第四十五話 「フェロモンさん」
宿に帰ると、ラリィが「お兄ちゃ〜ん」と抱きついてきた。
ラリィの目には少し涙も見える……
きっと留守番中に寂しくなり泣いたのだろう……
やはり早くラリィを身内に返してあげなければ、留守番ばかりさせられるラリィが可哀想だ。
「ごめん、ちょっと予定より遅くなっちゃった。 でも、この後はギルドの職員の人が美味しい食事を奢ってくれるってさ。 昨日買った服で出かけよう」
「うん。 ……もう行くだの?」
「もう少し暗くなったらね」
俺は依頼で怪我をして、服に血がついているのでシャワーを浴びて着替える。
ラリィも着替えさせる……
ラリィの着替えは昨日買った服と帽子に、土竜族の里で貰ったポンチョを羽織る。
夏なので暑いだろうけど褒めておけば問題ない。
「ラリィは可愛いね、何でも似合うって言えば似合うし……」
「お兄ちゃんは褒め方が下手だの、父ちゃんは褒めるの上手だったの」
「……………」
父ちゃんはどんだけ褒めてたんだろう……
「とにかく、そこそこ可愛いからもう行こう」
「いっぱい可愛いだの!」
結局、自分で言っちゃったよ。
今日行くお店は商業区にあるBARのようなお店。
ギルドから近いお店だ。
ラリィと手を繋いで歩いて行く。
ラリィは小さく最初会った時は3歳くらいと思ったけど、冬生まれなのでもうひと季節で5歳になる。
丁度、俺と10歳違いになる。
「お腹空いてる?」
「普通に空いてるだの」
俺は思いっきり空いている。
今日は朝食べたきり何も食べてないし、体力も使っている。
BARの名はミナト。
ミナトの前でカミラさんは待っていてくれた。
外で会うカミラさんは、ギルドで会う時よりフェロモンが3割はアップしている。
もう、フェロモンさんと呼んでもいいくらいだ。
「リュウ君…… こんばんは。 リュウ君はいつも珍しいシャツを着ているね、どこで売ってるの?」
俺の持っている服は全てレイモンの亜人国で買った物、この辺では見かけないデザインではある。
正直に答えられないしな……
「ん…… まぁ、その辺かな…… それよりカミラさんは外で会うと一層綺麗だね」
「えっ、ほ、本当?」
カミラさんは赤くなった……
フェロモンさんには似合わない反応。
「お兄ちゃん、お腹空いただの」
「そ、そうね、中に入ろうか。 この店は副業で冒険者をやっている人のお店よ」
ギルドがある街は、冒険者登録している人が多いのかも知れない。
登録だけしてもお金は取られないし……
BARの中に入り奥まったところの席に案内された。
その人が俺とカミラさんに話しかける……
「また、会ったな冒険者の兄ちゃん、カミラさんが担当か?」
……誰?
「リュウ君、知ってるの?」
「うん、昔、会ったかも。 ……でも俺、記憶力が悪いから……」
この答えが1番無難。
「ハッハ〜、昨日、道場で会ったのさ。 防具をしてたから冒険者の兄ちゃんは俺を分からないのさ」
兜流道場!
名はミナトだよな……
ミナトオオカブトかミナトクワガタ…… 有りそうだな…… 知らんけど。
「ああ、あの依頼ね。 リュウ君、怪我しなかった? 違約金は任せて、ふふふ、他の人には内緒ね。 贔屓しているって言われちゃうから、ハハハ」
「ハハハ、じゃなくて。 ……今日、その依頼は終わらせたよ。 少しは信用してもらえると嬉しいけどね」
ちょっと嫌味っぽく言ってみた。
「あ、ら、え?」
「ハハ〜、カミラさんは知らねえのか、リュウ君だっけ? 凄く強いぞ」
「お兄ちゃん、お腹空いただの」
話がゴチャゴチャになってる……
とりあえず注文しよう。
「ミナトさん、おススメで色々持ってきて」
「あっ、私はいつものカクテル…… リュウ君も飲めるでしょ」
この世界で酒を飲むのは自由だ。
ラザノフは12歳から飲んでいると言っていたし、土竜族の里では毎日飲まされた。
「いや、今日はやめておくよ」
「え〜、何で? リュウ君と飲みたかったのに…… じゃあ、今度は?」
「うん、暇な時に飲みに行こう」
ガタッとカミラさんは立ち上がり、小声で、やった〜と言ってから座った……
もうフェロモンさんじゃない、失格。
何故飲まないかと言うと、今日、この後にラリィの飛行訓練をしたいからだ。
飛行訓練は感覚的な部分が大きい。
だから余り日にちを開けたくない。
「ラリィちゃんだっけ? 可愛い格好をしてるのね」
前回、カミラさんがラリィを見たのが奴隷服姿、今回は新しい服だ。
「昨日、お兄ちゃんが買ってくれただの、ね、お兄ちゃん」
「そうだね、ラリィの服ばかりね」
「うん、お兄ちゃん大好きだの」
ラリィが大人になったら、貢いでくれた順に好きになりそうだな。
ここで、飲み物と食べ物が運ばれてきた。
1品目は「若鶏のホロホロ煮」。
もし、ボロボロ煮だったら誰も頼まないはず。
「リュウ君、貴方には聞きたいことが沢山あるの。 聞いていい?」
「え〜と、答えられるやつはね」
「そう、じゃあ、ズバリ、貴方は飛べるのね!」
もう、カミラさんの中では確定してるのに、俺から言って欲しいのかな⁈
でも秘密は秘密。
「ラリィもお兄ちゃんに飛ぶの教わってるの。 ね、お兄ちゃん」
コ、コイツ…… 余計なことを。
「余り大っぴらには飛ぶなって言われててさ、俺は翼で飛ぶわけじゃないし…… だからカミラさんと俺の秘密ってことで」
「あ、うん、約束…… って言っても貴方は目立つから、やっぱり約束は出来ないわ」
チラッとラリィを見ると、美味しい物の時だけに見せる高速箸捌きでホロホロ煮を食べてる。
高速で口に運ばれるホロホロ煮は、ラリィの頬っぺたに一旦ストックされる…… 丁度、リスがドングリを食べている時のようだ。
ここで2品目「香草リカルとニャキィのパラパラ炒め」がきた。
ニャキィが何かは知らないけど、人族ではないことを祈ろう。
バラバラ炒めなら怖すぎる。
「まぁ、ここに居れば色んな噂が聞こえてくるさ。竜族の少年がこの街に来た、その少年は従者の人間の少年を連れている…… その人間の少年が昨日、俺達の道場に来た…… そんな噂だ」
2品目を持ってきたミナトさんが、話に入る。
「あってないね、俺は従者じゃない。 ラザノフは友達」
「だから謎なのよ。 普通、上位亜人は里を出ない、しかも竜族よ…… そして貴方。 強烈に危ない雰囲気なのに、子供に好かれる不思議な子」
カミラさんの中では、俺は危ない雰囲気なんだな……
「そして驚くほど強く、道場の女どもは色めきだった……」
「ギルドの若い子もそうよ、担当変わってって何人にも言われたわ」
いつの間にか、ミナトさんは3品目を持ってきていた。
いつ作っているんだ……
3品目は「ネバネバチーズのホンデュ」
ラリィの箸捌きが更に回転を上げた。
確かに…… これは美味しい!
「それにその子、ラリィちゃん…… 聞いていい?」
「ラリィね、お兄ちゃんとラザ兄に拾われちゃっただの。 ……ね、お兄ちゃん」
ラリィが無理してる⁈
「ラリィのことは絶対に秘密で。 それとそれ以上の詮索もしないで」
世話になるガルフさん達以外には、ラリィの素性も過去も誰にも話さない。
俺はバカなので、初めからそう決めている。
「わ、分かったわ。 でも貴方のことなら少しはいいでしょ」
ミナトさん…… 他の客のとこに行きなさい!
チラッとミナトさんを見て、他の客の方を見る……
…… ダメだ、目が爛々と輝いている、聞く気だ。
「生まれた時から両親が居ない、でも兄は居る。 孤児院で育って1年前まではそこに居た。 それからは転々として、最近、ラザノフと知り合って竜族の里に2週間くらいかな⁈ 世話になった。 そして旅立つ時に、ラザノフも一緒に行くと言った。 こんな感じかな」
「うん。 ……両親は何方かが亜人?」
「兄は、2人とも人間だったと言ってた」
「…………」
飛ぶスキルについて聞きたいんだろうけど、ミナトさんが聞いている。
「あのさ、俺達のパーティーが討伐を受けたら、助っ人で来てくれるかい?」
「すいません、無理です。 でもラザノフなら行くかも…… 紹介するよ」
俺はランクを上げたいと思っている、でも助っ人ではポイントが貯まらない。
でもラザノフなら……
この店は料理が上手い、今度、ラザノフも連れて来よう。
「本当か? 頼む」
と、ミナトさんは言うと、どっか行った。
「それで貴方達はこの街で暮らすの? それなら移住区の方が安いわよ」
「いや、サンカルムだっけ? そこに行こうと思っているよ」
「えっ……? それなら私の担当から外れちゃう…… それで、いつ行くの?」
「お金が貯まったらかな…… 決めてないけど。 この街も気に入ってるんだ。 何と言っても料理のレベルが高い」
「ふふ、そうかもね。 でもサンカルムかぁ、私の母校がある場所で、とてもいい街よ」
学校まであるのか……
「他にサンカルムの情報は?」
「妹が居るわ。 ふふ、同じギルドの職員よ。 後は…… そうね、来年の武闘大会の開催地ね」
妹も職員なのか…… 優秀な姉妹なんだな……
大会は高ランクパーティーじゃないと関係ないだろう。
「ところで、この街を奴隷を売ってる場所ってあるの?」
「貴族街にあるわ。 ……だって貴族しか買わないでしょ」
後で場所を教えてもらおう。
ラリィが居なくなったら、真っ先に疑う場所だ。
ミナトさんが離れているので、カミラさんがまたさっきの話題に戻る。
「亜人の血は入ってなくて、どうやって飛べるの?」
「ラザノフの父ちゃんが言うには、祖父母が亜人だった可能性があるってさ」
「スキルを継承するには、随分と薄い確率だったと思うけど…… 少なくとも知り合いに、そんな人はいなかったわ。 もちろん学校でも…… お兄さんは?」
「うん、同じだったよ」
「じゃあ、やっぱり、お父さんかお母さんさんが亜人だったのよ。 リュウ君は背も高いし亜人の血が近いと思うわ」
「そうなのかな……?」
「そう。 そしてお兄さんには、何らかの理由で人間と偽っていた」
でも、その意味はあるのか⁈
謎が深まるばかり…… やっぱり1番のカギはシスター。
「その遺伝したスキルは何?」
「無詠唱」
「む、無詠唱!! うそ…… そんなはずない…… だって、その上位亜人は500年前に絶滅したと言われているわ!」
500年前?
レイモンではもっと近かったような…… 忘れたけど。
「ちょっと待って…… やっぱり変だわ…… 無詠唱で風を吹かせても飛べるはずがない…… もし飛べるなら、考えられないほどの魔力量が必要になる……」
魔力量は兄が調べた時に、皆んなびっくりしていたと聞いた。
俺も同じくらいだろう。
「カミラさん、深く考えるな、俺が飛べるのは事実だ。 それに無詠唱も事実、それなら詳しい人って知らない?」
「ナラサージュのサンカルムには詳しい人が沢山いると思うわ。 特に貴族が詳しいかもね」
「何故、貴族?」
「貴族だけが閲覧出来る書や、情報機関、上位亜人に関しての専門家などは、皆んな貴族の人よ」
「そうなんだ…… 俺、貴族、嫌いなんだけど」
「プフッ、イメージ通りで笑えるわ。 じゃあ、リュウ君も学校に通えば? 先生はだいたい下級貴族だし、詳しい人もいると思うわよ」
「字の読み書き…… 出来ます。 でも何年もかかりました。 そんな奴でも学校に行けるの?」
行けません! 行けません! 行けません!
「プフフフッ、ちょっと難しいわね」
ヨシ!
「イメージ通りで笑えた?」
「プフッ、ちょっとね。 でもラザノフ君なら貴族街に行って貴族と話せるわよ。 だって立場的には貴族より上位亜人の方が上だもん」
まぁ、貴族なんて自分の祖先が運が良かっただけで、その運に未だにぶら下がっているだけの奴等だろ。
その点、上位亜人は実際に色々と凄い。
そして、俺とラリィは人間の中の最底辺、逆に嬉しいね。
でも、無詠唱のカギと何処かに入る亜人の血の秘密を、サンカルムに行けば分かるかも……




