日本のカブトムシはカッコいい
第二章 成り上がり
第四十三話 「日本のカブトムシはカッコいい」
冒険者ギルド2階。
ここの階は討伐コーナーや配達コーナーなどに区分けされ、それぞれホワイトボードに依頼の紙が貼ってある。
討伐コーナーで依頼を探してみる……
討伐は報酬が高い。
高い依頼で20,000トアなんてのもある。
どんな魔獣なんだろう?
この前出会った人型のカマキリは…… いや、カマキリの人型はいくらだろう? …… 同じか?
アイツで3,000トアとかなら1人では厳しいか⁈
まぁ、今はやめておこう。
ラザノフが居ないし、ラリィを連れて行くわけにもいかない。
お手伝いコーナーを見てみよう。
お手伝いコーナーはラザノフがやっていた荷物運びや石畳、タイル貼りの手元など、建築関係の仕事が多かった。
でも報酬が安いのでやる気がおきない……
やっぱり配達コーナーに行ってみよう。
しかし、途中にあった護衛コーナーで立ち止まる。
護衛補助 腕試しをしたいのでラスク山まで護衛補助をお願いします
資格 依頼主を守れる
適正ランク 全て 報酬 500トア
期日 9月中、1日
注 パーティー不可
結構報酬も高くランクも不問なのに9月の半ばになってもまだ依頼が残っているのは何故だろう。
ちょっとカミラさんに話だけでも聞いてみよう。
ーーーーー
1階に戻ってさっきの紙を渡す。
カミラさんはチラッとだけ紙を見た。
「どうして適正ランクが、全てなの?」
「依頼主が決めた事よ。 この依頼には裏があるの。 ……って言うか、リュウ君はそんな依頼ばっかりやりたがるわね」
やるとは言ってないけど、裏は気になる。
「この依頼主はまだ少年で、剣術道場の息子さんみたいなの、それで依頼を受けた人を審査してるみたいよ」
「審査って…… 腕を試してるの?」
「そう。 それで自分に負けたら失格にして違約金を貰う。 その紙に書いてある、補助、資格、依頼主を守れる、がミソよ」
「つまり自分より弱いんだから守れないので失格って事?」
「そう。 9月に入り7人の冒険者が失格になって違約金を払っているわ」
「ラスク山は遠いの?」
「えっ、ちょっと、リュウ君。 相手は剣術道場の息子さんよ」
「剣術道場の道長の息子さんでしょ。 剣術道場に息子が居ても、剣術道場でしかない」
「プフフフフ、リュウ君は揚げ足を取るのも上手いわね…… とにかく剣術道場の息子は強いみたいよ。 ちなみにラスク山は此処から1時間くらいね」
それなら半日仕事で500トア……
「やります。 絶対やります。 やらせてください綺麗なカミラさん」
「えっ、あ…… うん。 明日のデートには遅れないでね」
デート……? 飯のことか?
それにしても変な反応をする人だな……
まぁいい、今はこの依頼のことを聞こう。
「これから、その道場に行けばいいの?」
「あ、うん、そうね。 依頼主のコーカサス君に会って来て。 ……依頼を受けたって言って」
「コーカサスね、そいつはいくつなの?」
「15歳よ。 貴方と同じね」
じゃあ、もう少年じゃあないな。
裏では15は戦争に行く年だ。
「工業区の奥に道場はあるわ。 その辺りは治安も悪いから気をつけて」
ラザノフが言うには売春宿みたいな建物もあるらしい。
別に売春宿はいいけど、奴隷を売ってる店があったら我慢出来そうにない。
それなら初めからぶっ潰すと決めておく……
ーーーーー
工業区。
工業区と言うだけあって工場が多い。
建築資材を作ってる工場や、ゴミ処理場などもある。
かと言って工場だけでなく、病院もこの地区にあるようだ。
奥へ進んで行くと、ボロい平屋が立ち並ぶ。
歩いている人も服装的に貧しそう。
でも当然、ラリィ程ではない。
「お兄さん、遊ぼうよ。 お兄さんなら凄く頑張るし、安くするからさ」
声をかけてきたのは薄着の化粧の濃い30半ばの女の人。
売春宿の人だろう。
「ごめん。 今俺は、この街1番の貧乏って自信がある。 それで仕事しに来たんだ。 剣術道場ってこの辺にない?」
「ハハ、それなら付いて来な。 ウチらの宿の隣が道場だよ」
と言うことで、その女の人に付いて行く。
「仕事でお金が入ったらさぁ、遊びに来なよ。 ねっ」
「ありがとう、そのうちね」
なんて会話をしているうちに、直ぐに着いた。
剣術道場…… 懐かしい雰囲気がある。
俺も古武術道場の孫として育ったから……
道場の看板には兜流と書いてある。
早速、すいませ〜ん、と声をかけた。
ドカドカっと現れたのは、剣道の防具のような物を被った3人、性別さえ分からない。
「コーカサス君は居ますか? ギルドの依頼を受けました」
3人のうちの差の低い1人が、ダダッと道場の中に戻る。
「今、呼びに行ったから待ってろ」
と言って被り物を脱ぐと、普通のおっさん顔が出てきた。
そして、直ぐにコーカサスとさっきの背の低い子が来た。 ……背の低い子は女の子だった。
「俺がコーカサスだ。 依頼の内容は分かっているよな?」
コーカサス…… 顔はカブトムシっぽくはない。 多分、人間。
俺と同じ年って聞いたけど、俺の方が背が10センチくらい高い。 ……と言ってもこの世界の人間の平均身長くらいだろう。
「ああ、君の護衛だろ。 それで、出来れば明日にでもラスク山に行きたいんだけど……」
道場に居た連中もゾロゾロ集まっている。
「その資格があるならな。 もうギルドで聞いてると思うけど、俺に勝てない奴に俺を守れるはずがない。 だから勝負してもらうぞ」
「分かった。 勝負の方法は?」
「純粋な剣術勝負だ」
「いいよ。 木刀を貸してくれ」
「ふっ。 冗談だろ? 対戦相手に道具を借りるなよ」
「純粋な剣術勝負じゃなかったの? まぁいい、それならこっちは体術でやる」
「舐めるんじゃねぇぞ! 素直に降参すれば痛い目に合わねぇのに、馬鹿な野郎だぜ」
素直に降参して払う違約金があれば、さっきの姐さんに道案内のお礼として渡した方がいい。
道場の中でコーカサスと対峙する。
俺は無手だけど、コーカサスは防具を着込んで来た。
防具をしたままの道場生が周りを囲む。
試合の始まりと同時に、グッと身体を伸ばすように突きを打つコーカサス。
難なく交わす……
この兜流剣術の特徴は、さっきの突きと防具だろう。
スポーツでもなく戦争でもないなら防具の必要性はどうかと思うけど、結構わけの分からない剣術道場は前世でもあったので俺は何も言わない。
防具がある事で相手からの攻撃を軽減出来るけど、防具の着てる分、動きが遅く視界が狭い。
そして5分も勝負をしていると息が上がってくる……
虎峰を仕込み、相手の突きに合わせ打つ!
スッパーンっといつもの音がしてコーカサスの木刀が吹っ飛ぶ。
防具は打撃には強いけど投げ技には弱い。
腕を取り、後ろに絞り上げたまま覆い被さるように腰投げ。
うつ伏せ状態で床にドッカーンと叩きつかれるコーカサス、腕も決まっているので全治は1ヶ月って感じか?
この世界には回復薬があるので明日の山登りには問題ない。
呆気なく終わったので皆んなびっくりしている。
もちろん、勝った俺も呆気なくてびっくりだ。
「ア、アトラス…… ク、クスリ……」
「は、はい」
さっきの背の低い子…… 妹だったか。
コーカサスにアトラスか……
俺は日本のカブトムシが好きだ……
遠い昔、俺の住む近くの山でカブトムシが沢山捕れた。
俺はカブトムシを沢山捕ったけど、不思議とオスが少なかった。
しかもそのオス達は身体が小さく、ツノも短かったり曲がったりのオスばかり……
それでも考えてみてくれ。
君達以外はメスばかり、つまりハーレムなのだ!
思えば、ツノ小っちぇえな〜、身体もツノも小っちゃいという事はアソコも小っちゃいんじゃな〜い、とか言われた虫生だった。 ……に違いない!
そんな君達に、俺からのプレゼント。
ザ、ハーレム。
そんなある日、俺の父さんがコーカサスオオカブトを買ってきた。
だけどそれを見た母さんが次の日にアトラスオオカブトを買ってきたのだ。
父さんも母さんも俺には余り興味がなかったに違いない…… 俺は喜んでないでしょ!
思った通り、箱の中ではアトラスとコーカサスの天下になった。
「フハハ〜、日本のメスも中々ね、次は身体の小っちゃい君とするのね」
「や、やめて〜、ぼ、僕は、男だぁ〜!」
という会話があったに違いない。
「それはそれで燃えるのね、日本だけね、男だ女だ言うのは。 外国は性別なんて関係ないのね」
「や、やめろぉ〜」
クソッ、性別が関係ないなんて進んでるぜ……
はっ、そう言えばソマルさんは外人…… 次会う時は鉄製のパンツ重ね……
「次は俺がやる」
えっ…… 昔を思い出しているうちに、次に誰がやるか決めてたらしい。
「アンタは誰?」
「この道場の師範、名はミヤマ」
クワガタでもいいのか……
でも、触ったらすぐ死にそうだな……
「いいけど、俺が負けたらどうなるの? コーカサス君?」
「クッ、負けたら契約はなし、失格だ」
「それなら俺は500トア以上の金額をこの試合に賭けることになる。 ミヤマさんも当然、同じ金額をベットしてくれんでしょ」
「えっ? そ、それは……」
「賭けれないならやる理由はない。 コーカサス、明日の朝向かいに来る、用意しておけ!」
「クソッ! ミヤマさん、俺が払う。 頼む勝ってくれ」
「わ、分かった…… 俺も500トア、ベットしよう」
「報酬が500、違約金が150、俺が賭けてるのは650トアだけど?」
ミヤマはチラッとコーカサスを見る………
コーカサスは俯き、プルプルと震えている。
今まで7人の冒険者が失格になったと聞いた。
つまり、1000トア以上の違約金を貰っているはず……
「分かった…… 650トア出す…… ソイツは体術師だ…… 剣術なら必ず勝てる!」
兜流、師範代ミヤマと対峙する。
俺は二刀ではなく一刀で戦う。
構えずにやや前屈みの姿勢で、ミヤマの動きを制圧する。
兜流は先を取る、流派でもあると思う。
突きで崩して仕留める、もしくは突きだけで仕留める。
きっとあの突きは、達人が打てば、かなり厄介な突きだろう。
つまり、ミヤマの突きはかなり厄介という事。
でも、コーカサスがさっき突きを見せてくれたので、その辺りは俺が有利。
しかし、ミヤマは突いてこない、それは俺が先の後を狙っているのが分かっているから……
ジリジリと推すのは俺の方……
お互いの射程に入っているので集中力の勝負でもある。
いくら先の後を狙っているのが分かっていても俺が先に手を出さないという保証はない。
防具越しの緊張が見ている人にも伝わる……
ギシッと床がきしむ……
そして痺れを切らしたミヤマの突き!
思った通り、鋭く速い突き! でも予想はしていた!
ガスっとカウンターで防具がない脇腹に一線!
その後も流れるように打ち込む!
途中、足を掛けてすっ転ばし、防具のない眼に木刀を突き刺……
「参った!」
ピタリと眼の上で木刀を止める。
剣スピードを緩め、参ったを言う隙は与えた。
「ふぅ、ギリギリ間に合ったね。 あと少し遅れてたら眼から脳まで木刀が突き刺さってたよ」
ザッとミヤマから離れ、軽く頭を下げた。
もしかしたらこの人数を相手にしなければならなくなる。
だからミヤマとの戦いで圧倒する必要があった。
次、俺とやりたいと言う奴は、お金と命を賭けなければならない。
「さぁ、約束だ、コーカサス。 650は今払え」
「あ、ああ…… アトラス、俺の部屋から持ってきてくれ」
ダダっと直ぐに動く妹……
そして憧れの人でも見るように、俺にお金を渡してくれた……
「明日の朝、7時に向かいに来る。 コーカサス君、支度しといてくれ」
「わ、分かった……」
という事で思わぬ臨時収入を得た俺は、約束通りラリィの服を買い、美味しい食事を奢ってあげた……




