飛行訓練2
第二章 成り上がり
第四十二話 「飛行訓練2」
依頼の半分を終えた俺は、ラリィに翼を広げてもらい土竜族の里を目指す。
しかし、早々に夜中から起きているラリィが眠気を訴えてきたのでリュックへと戻す。
それからは厚い雲の上を飛ぶ。
人が空を見上げても俺は見えないだろうけど、俺も下の目印だった川は見えない。
なので敢えて左に逸れて飛び、下に海がチラリとでも見えたら高度を下げて海沿いを右に飛べば、レミアと会った小さな砂浜があるはず。
そこから土竜族の里は近い。
レミアに会ってから…… というより、レイモンを出発してからまだ2ヶ月程しか経ってない。
でもその2ヶ月で色々ありすぎて、もうレミアの事さえ遠い昔のことのようだ。
大切な人達との思い出を頭の中で思い浮かべる……
兄 試合稽古の時が思い浮かんだ…… 色々と、色んなところから魔術を使ってくる強い男。
顔は…… 何故か鼻水が噴き出ている…… 何で?
ローチェ 布団の中で涙を流して「おかえり」と言ってくれた時が浮かんだ。
薬を取りに行った日か……
シスター 『大体アンタはねぇ』、『やってって頼んだのに、何で貴方だけやらないの!』、『また1人で勝手に行動する! 危ないからやめてって言ったでしょ!』、『貴方だってきっと字を読めるようになるはず…… 多分』
ヤバい…… 説教しか思い出せない。
それにしても最後の、「多分」は要らないだろ!
それでも…… シスターは俺のことを本当の息子のように見ていた…… が! この思い出通りならかなりガッカリな息子だったんだろうな……
リリカ 最後のサヨナラの場面がいつも頭から離れない。 会いたいな…… リリカ。
ソマルさん 夏の暑い日に、タンクトップ姿でハンマーを振るソマルさん……
脇からほのかに香る、酸っぱい匂い付きで思い浮かんだ。
ラザノフ ござる。
ラリィ ガーガーと寝ております。
レミア 笑顔と、ふと寂しそうな表情が浮かんだ。
ハッ! そんな事を考えていたらレミアの森の砂浜にいた。
俺はいつ空から降りてきたっていうんだ…… まぁでもこうなったら仕方ない、小屋まで行ってみよう。
ザッ、ザッ、ザッ、グゴッ、スピー、フングッという、俺の足音とラリィのイビキが混ざり合う。
歩きながら願ってみる……
レミア、もしあの小屋の近くに居てくれたら今度はお菓子を持ってきてあげるよ、だから居てくれ〜!
しかし小屋はひっそりとたたずみ、辺りの静けさと相まり俺は本能的にレミアに会えないことを悟った。
シャパー、フゴゴゴ、シュルルルルっと、静かな森にラリィのイビキだけが鳴り響く。
ふぅ、今は7時くらいだろう。
あんまり土竜族の里を訪ねるのが遅くなると迷惑かも知れない、何より夕飯に間に合わなくなる。
レミア、俺は貴方に会いたい。
俺は本当に貴方ともう一度会えるのだろうか?
何年後、何十年後? ……もし会えたとしてもきっと貴方は変わらぬ姿で微笑み、俺をドキドキさせるのだろう。
でも、俺はヨボヨボのお爺さんになってる可能性もある……
今決めた!
来年の夏にレミアを探しに来よう。
お土産にお菓子ではなく、水着を買ってきてあげよう。
えっ、何でお土産が水着なんだって?
それはお菓子では居なかったからだ。
前世の日本では、お菓子で駄目なら水着だろ、という格言があった。
推して駄目なら引いてみろ、と同じような意味だった気がする。
もちろんやらしい気持ちなんてこれっぽっちもない。
ただ、想像するだけでニヤけちゃう俺がいるだけだ!
レミアには会えなかった。
それでも俺は固い決意と緩んだ口元のまま、ジェットを起動した……
土竜族の里には直ぐに着いた。
前回は遠くから歩いたけど、今回は里の上空からゆっくり降りていく……
里の人も集まり、俺を認識しているようだ。
これで、いきなり槍を投げられることも無いはず。
下に降りると、ルカルスさんが声をかけて来る。
「リュウ、どうした?」
「久しぶりです、ルカルスさん。 ガルフさんに頼みがあって来ました」
「おお、そうか。 それなら俺も聞こう」
という事で、ガルフさん家へ。
ガルフさん家に入ると、前と同じように大きなテーブルに皆んな集まった。
ラザノフが居ないだけで、皆んな前と同じ椅子に腰を掛けた。
ちなみにまだラリィはリュックの中、イビキは聞こえないので起きたか⁈
「久しぶりね、ラザノフはどのしたの?」
サラノフさんが聞いてくる。
「俺達はプユスタールで冒険者になり、仕事をしています。 ラザノフは他の冒険者達とリヒッモーという花を採りに行ってますよ」
「リヒッモーなら里の近くにあるぞ。 持っていけば良かったなぁ、ガッハハハ〜」
枯れなければね……
「俺は配達の仕事でこの近くまで来たので寄らせてもらいました。 ガルフさんに聞きたいこともあって……」
と、リュックから寝ぼけたラリィを出す。
「なっ! 吸血族の赤ちゃん!」
いや、確かに小さいけど、絶対赤ちゃんには見えないぞ!
「お兄ちゃん、この人達、誰だの?」
「ラザノフの両親にお兄ちゃんだよ。 ここはラザノフが育った里なんだ」
呆気にとられる皆さん……
でも、ラリィの前では話は出来ない。
「サラノフさん、この子に何か食べさせてもらえますか? ずっと腹を空かせてて……」
「え、ああ、いいわよ。 あっちに行こうか? 名前は?」
「ラリィだの」
「ラリィダノちゃんね、あっちで食べよう」
サラノフさんがチラッとコチラを見たので、俺の意図は伝わったか⁈
でも、名前は間違えているけど。
ラリィが居なくなったので、俺は渓谷で歩いていた辺りから今日までを話した……
途中、サラノフさんも戻ってきた。
長老が口を開く。
「う〜ん、ハーフじゃとはな、難しい問題を持って来おった」
「それでリュウは親父に何を頼みたんだ?」
「さっきも言ったように母親は里に戻ったと思われます。 その母親に元旦那が亡くなったこと、ラリィは俺とラザノフで預かっていることを伝えて欲しいです」
母親自身が向かいに来なくても、身寄りがあれば教えてくれるだろう。
「少し時間がかかりそうだな…… 吸血族は上位亜人の中でも特殊でな…… 間違いなく無かったことにしているだろうからな」
絶滅に1番近い種族ってやつか……
「そうですね…… とにかくラリィは何処で暮らしてたかも分からないので身寄りが居ても返す事も出来ません。 本人も可哀想だし、なるべく早く帰してあげたいと思ってます」
「そうだな…… 分かった。 出来る限りの事はしよう」
「そうね…… ところでラザノフはあの子を可愛がってる?」
「そうですね。 他の冒険者と一緒の依頼で子連れで行くって駄々こねてましたよ」
「ぶははは、笑える奴だ」
「ふふ、ラザノフにも帰って来いって伝えてね」
「はい、必ず…… ところで長老かガルフさんに聞きたいんですけど、吸血族のソナーの出し方や影への入り方なんて知らないですか?」
「フォ〜? フォフォフォの知らん!」
ひと月程で進化している……
「ブォッホン、ワシも知らん。 だがそれも探ってみよう」
ありがたい。 でも時間はかかるはず……
ラリィが居るなら拠点が必要かも知れない。
例えばこの里のように安心出来る場所が……
次の日は兵団に人達と試合稽古をしたり、ムジカや小さい子達と遊んだりした。
だけど昼間は当然、ラリィは家の中にしか居られない……
可哀想な特性を遺伝してしまった…… どうにかならないのか?
そして夕方、しっかり夕飯を頂いて、お礼を言ってから里を後にした。
帰りはひたすら海岸線を飛んで行く。
その理由は道が分かりやすい事と、ラリィの飛行訓練をしたいから。
海岸は海風があるので、適当な崖から砂浜まで着地の訓練をする。
海風は海から陸に向かい風が吹くので、風を掴み易く止まり易い。
砂浜なので、転んでも大怪我はないのがいい。
もちろん俺が補助しながら低い位置から始めた……
飛ぶ能力の中で1番大切なのは着地の能力。
着地の失敗は即、死や大袈裟を意味する。
理想はどんな体勢でもどんなにスピードが出ていても、しっかり止まれるのが理想。
俺と兄もジェットの練習は着地をメインに練習していた。
ラリィも同じように進めていく。
ーーーーー
結局、プユスタールに帰って来たのは出発から6日かかってしまった。
あの宿にラザノフは居るのか、、、?
ラザノフは居た。
大袈裟にラリィとの再会を喜ぶラザノフだが、俺との再会は素っ気なかった。
そんなラザノフが話す。
「リュウ、実はこれから拙者は討伐の依頼で数日帰って来れない。 宿は5日分の宿賃は払ってあるでござるが……」
「討伐…… 凄いじゃんラザノフ。 俺の依頼料も入るはずだから、足りない宿賃は俺が払っておくよ」
「何日かかるか分からないので、頼むでござる」
ラザノフによると、今回の討伐は、最初の依頼で出会った人のパーティーから、助っ人で来て欲しいと頼まれたらしい。
助っ人だとポイントは全く入らないけど、報酬はかなりの額を貰えるようだ。
「それで、里で話は通してきたでござるな」
「うん、時間はかかるかもって言ってた。 そうだ、サラノフさんが帰って来いってさ」
「ええぇ! そ、そんな…… い、嫌でござる、嫌でござる〜ぅ!」
俺を見つめて言うなよ……
ちょっとだけ可愛く見えるぞ……
「遊びに帰って来いって意味だと思うよ。 だいたいまだ里を出たばっかりじゃん」
「そ、そうでござるよな、ガハハ、良かった」
満足そうに笑うラザノフ。
やっぱり全然可愛くない。
「皆んな元気だったでござるか?」
「ああ、元気だったよ。 って言うかまだひと月しか経ってないけどね」
「そうでござるな…… でも色々あったから遠く感じるでござる。 気軽に遊びに帰れる距離じゃあない。 リュウの飛ぶ能力は、本当に羨ましいでござるよ」
俺も土竜族の能力を羨ましいと思う、でも土竜族から羨ましいと思われるとは思ってなかった。
飛ぶ、は、無詠唱だから出来た魔術。
実は使ってないからラザノフは知らないけど、口から魔術なんてものもある。
それと、この眼。
やけに高性能だけど昔の大魔術師?が継承させてる眼ではないはず、ソマルさんは魔法陣がないから大丈夫、と言っていた。
でも、もしその眼なら短命とも言っていたので、その眼ではないことを祈ろう。
「まぁ、ラザノフの留守が長いなら、俺は1日仕事か、ラリィを連れて行ける仕事でもしてるよ」
「拙者も1日仕事ばかりしてたでござるぞ」
「何してたの? 報酬は?」
「荷物運びをやってたでござるよ、報酬は1日、60トア」
赤字じゃん! でも、元々は100トアの仕事か。
「よく5日分も宿賃を払えたね」
「討伐報酬の半分の700トアを前借りしたでござるよ」
半分で700だと全部で…… とにかく討伐はいっぱい貰えると覚えておこう。
討伐ウハウハで覚えれば忘れないはず。
「じゃあ、ラザノフが居るうちにギルドに報告に行って来ようかな」
「そうでござるな…… でも拙者はあと1時間もすれば出るでござるよ」
「まぁ仕方ないね、買い物して帰って来るからラリィを少し留守番させといて」
お金が入ったら今日は美味しいものでも食べに行こう。
という事でギルドへ……
冒険者ギルド。
1階は、受付や相談スペースで椅子やテーブルが並ぶ。
1階の職員は、若干女が多い。
皆、制服をビシッと決めているからか?美形が多い気がする。
そしてこの人はラザノフが言うように、本当に綺麗な人だ。
カミラさんが先に口を開いた。
「今回は私1人で違約金を払うから、次からの依頼を頑張ってね」
そして面倒くさい女でもある。
「全く信用がないね。 ふぅ」
と言って、村長からもらったサインとコインを渡す。
「えっ、ちょ…… これ……」
えっ、ちょ、これ、を考察してみる。
えっ、ちょ、は、エッチよ、だろう。
でも俺のことではない。
身に覚えが全くないからだ。
俺をエッチと言っていいのはただ1人、リリカだけだ。 ……レミアも許す!
これ、は、コインのことだろう。
大方、村長からもらったコインが、村長自身のキンのタマにでも見えたのだろう。 ……良くあることだ。
「貴方は本当に…… 何者? 竜族と一緒に旅して、里に泊まれる人間なんて、聞いたことがないわ……」
「え〜と、人から言われることでもいい? なんか知性溢れるイケメン兄ちゃんって、誰か言ってた」
厳密には、今後ラリィに言わす予定。
「プフフフフ、変な子ね。 危ない雰囲気とのギャップでクラクラきちゃうわ、ふふ」
久しぶりに危ない雰囲気って言われたな……
それにしても恥ずかしい…… 早くラリィに言ってもらわなくては。
「それでカミラさん、報酬なんだけど…… 今日貰える?」
「えっ、それは無理ね。 今から確認作業したり、事務手続きとかで…… そうね、通常なら明後日に振り込まれると思うわよ」
マ、マジで…… 予定ではラリィの服を買って、美味しいものでも食べに行こうと思ってたのに……
もう13トアしか無いのに……
「何で? お金ない?」
「うん、ちょっとね…… じゃあ前借りしてくれる?」
「えっ、ごめんなさい、それも規定で駄目なの」
「えっ、だってラザノフは前借りしたって」
「前借り? ラザノフ君はどこで前借りしたの?」
「此処じゃないなら分からない。 何か、討伐の助っ人をするって言ってたけど」
「助っ人…… それならそのパーティーの人に前借りしたのね。 でも流石ラザノフ君、信頼が厚いのね」
もしかしたら、ラザノフ込みで討伐の依頼を受けたのかも知れない。
だから報酬の分け前も多かった⁈
でも、明後日までラリィと2人で13トアか……
「前借りは駄目でも、今日明日の夕飯くらいは奢るわよ。 元々、違約金を払う気でいたし、貴方達のことも少しは知りたいから」
「それはいいや…… 俺にはがっついた妹みたいな奴が居るし」
「遠慮しないで。 あの子も連れて来なさい」
「ありがとう、じゃあ明日の夕飯だけお願いします」
「ふふ、いいわよ。 久しぶりの男の人との食事。お洒落しよおっと」
そう言えばあの時も1人で食事してたな……
モテそうなのに今は恋人が居ないのか?
「ごめん、それは遠慮して。 もう1人の女は奴隷服しか持ってないから格差が生まれる」
「えっ…… そ、そうね、出来ればその辺りも聞きたいわ」
でも土竜族の里で、お古のポンチョは貰ってきた。
羽織れば翼が隠れるので街中でも目立たない。
さぁ、2階に行って依頼を見るか。
出来れば俺は、単独討伐がしたい!




