蓮撃
第一章 旅立ち
第四話 「蓮撃」
先日、買い物から帰ったルナシスターが、ローチェと言う女の子を保護してきた。
何処にも行くところがなく、木の下で涙を流しながら座っていたらしい。
このローチェと言う女の子、なぜか俺に付いてくる。
俺の一つ下で年齢が近いせいか、ストーカーばりに付いて来る。
と言っても喋らない。
気を使って話しかけても「うん」とか「知らない」しか言わない。
兄の話では戦争で何らかの形で両親を亡くし、心に傷を負っているのでは……と言う話だが、本当の事はシスターも含め誰も知らない。
どうせ付いて行くなら兄をお勧めしたい。
兄は明るい金髪でブルーの瞳、正義感の強い真っ直ぐな優しい眼をして、まさに王子様って感じ。
俺はブラウンの髪に今は濃い茶色の瞳、目元は鋭く冷たそう、とよく言われる。
まさにダークな王子様って感じ。
この目を好きと言ってくれる人もいるけど、それは身内枠のシスターとマシェリだけ。
とにかく兄は優しく面倒見も良い。
俺に付いてくるよりはローチェの立ち直りも早い気がする。
いつものように柔軟から体幹、指先の強化トレーニングをする。
柔軟は関節の逆側にも可動域を広げるように反っていく。
これは急には可動域は広がらないので、何年もかけて少しづつ広げるイメージで反っていくのだ。
指先の強化は足の指、手の指と強化していく。
古武術において指先は握力よりも大切とされていた。
事実、爺さんは自分の体重の倍はある相手に対し、指先一本を袖に引っ掛け相手を振り回し引き込み、次の技へと繋げていた。
また、この全ての基本練習は怪我を予防している。
バランスの良い柔らかい身体はどんなスポーツでも大切な資質となり、怪我もしにくい。
そして怪我の1番しやすい箇所として指先を挙げる指導者も少なくない。
さて、二刀流。
二刀流は剣道の試合で少しだけ見た事がある。
だけど利き腕ではない方の竹刀は短く、防御専用って感じで試合をしていた。
俺は俺の二刀流にする。
利き腕ではない方の木刀の長さはこれから練習の中で決めていけばいい。
今は7部目くらいにに削ってある。
だけどこの二刀流……、器用さと瞬時の頭の回転、何より練習量が必要となる。
今は無駄が多く、はっきり言って一刀で戦った方が強い。でもその現実に何処まで惑わされずこだわる事が出来るか……。
目を瞑り、二刀を操る自分をイメージする。
同じ動きだけを何度もイメージする……。
目を開け、今のイメージを再現。
客観的には見れないけど、スムーズに動けているかは分かる。
流れるように動けるまで何度も繰り返す。
練習中、木の下で座りながら俺を見てるローチェ。
兄達は相変わらず実戦している。
今この孤児院には、年長でアギルとプロマトン、その下から順にケビン、グレイト、マシェリに兄、俺、ローチェといる。
だけど先日からグレイトが体調を崩して俺と入れ替わるように病気の子が入る部屋に行った。
なんだかんだで長いので少し心配だ。
心配と言えばローチェの事も心配だ。
でもなんで俺に付いて来るのかは分かる。
ローチェ
黒髪のショートヘアー、地味目の顔立ちも大人になったら美人になるかも⁈
誰とも余り話さないけど俺とマシェリ、シスターとは最近少しづつ話すようにはなってきた。
リュウ
一見冷たく見えるけど内に秘めた優しさは隠せない。
歳上だらけのこの院でも、剣術の腕前はピカイチさん。
鋭い瞳の奥には包み込むような包容力がチラチラ見えている。
俺の予想。 多分、間違いない。
ちなみに兄の予想は、ローチェに俺と同じ歳の兄がいたから、だった。
でもそんな単純ではないはず。
まぁいい。いつかローチェの口から誰かに話してくれるのを待とう。
焦らずに……。
兄から聞いた話によると、亜人は北の亜人国にいてスキルを持っていて強いらしい。(スキルって何?)
獣人は東の獣人国にいて強いらしい。
何でも3種の人族の中で1番素早いんだって。
人間は西に住んで3種の人族の中で1番弱い。
兄が言うには人間は特別なセールスポイントがない! ドドーン残念!
そんな弱っちい人間の俺は、昨日興奮して眠れなくなるくらいに考えた。
そして出した答えが蓮撃だ。
蓮撃 古武術での技、体術である。
蓮撃とは相手に反撃の隙を与えず連続で攻撃する技。つまり一度蓮撃を発動したら、相手は防御に徹するしかない。そしてやがて削られ力尽きるという技。
何故、蓮撃か? それは二刀流だから。
体術の場合、拳や脚、肘や頭など、あらゆる部位で連続で攻撃する。
しかし剣の場合は捌かれ、流されたらその時点で蓮撃は終わり、それを蓮撃とは呼べない。
でも俺は二刀流だ。捌かれ、流される事も想定して技を作れば良い。二刀流ならイケる!
蓮撃の特徴としては3手以内に必ず急所への攻撃が入る。無闇に相手がダメージを負う覚悟で突っ込んで来れなくする為だ。
作り方は簡単、3以内の数字を5つ並べる。
今回は 2 3 1 2 3 にする。
最初の2は2手目に急所の意味。次は3手目に急所への攻撃、次は1手目、次は2手目、最後に3手目に急所へ攻撃する。
もし全て防がれたとしても、また3以内の数字を適当に5つ並べるだけだ。
ただ決まりが有り、必ず最初は2から始まる。理由は知らない。
早速、二刀流での蓮撃を練っていく。
発動条件を加味した上での一刀目、自分の体勢、相手の体勢を読んで急所への二刀目。これで1パターン。
当面の目標は100パターン。
パターンの組み合わせでセットは無限に増えていく。
ちなみに蓮撃に必要な資質は無理な体勢でもしなやかに動ける身体の柔らかさ、それを支え繋げるバランスの良さ。
前世から手を抜かずにやってきた柔軟と体幹が生きてくる。
そんな事をしていると兄がやって来た。
「また何か新しい事してんの?」
兄も俺と一緒に基本練習はやるようになった。
「まぁね、必殺技を作ってる」
「マジ?もう出来たの?」
「まさか、これは10年くらいかけて作り込むやつ」
「じゅ、10年⁈」
「そう、10年。 でも10年後には俺はこの世界で1番強くなってるかもよ」
「………」
ルークは思う。
必殺技なくてもなってそうだ、と……。




