特性
第二章 成り上がり
第三十八話 「特性」
ここは渓谷。
切り立つ崖の中腹辺りに道がある。
しかし、雨で泥濘んだ道を走らせた馬車が滑り落ちていた。
生き残りはラリィという4歳の女の子だけ。
俺1人ではないのでラザノフと相談する。
ーーーーー
ラリィを抱えてラザノフのいる道まで、スゥーっと上がって行く。
上の道まで着くと、山側で待機していたラザノフが驚いた様子で尋ねてくる。
「リュウ、その子は?」
「下で1人だけ生き残ってた。 ラザノフ、下に遺体が5体あるんだ。 どうしたらいい?」
「そうでござるなぁ、出来れば焼いて埋めたいでござるよ。 魔獣に食われるかも知れないし」
焼くにも埋めるにも時間がかかる。
大体、人なんか焼きたくないよ……
でも俺しか出来ない仕事……
「ふぅ、分かった。 時間がかかるけど行ってくる。 2人で待ってて」
しかし、ラザノフにラリィを渡そうとすると、ギュッとしがみつき「ラリィも行く!」と言った。
確かに父ちゃんを焼けばこの子にとって本当に父ちゃんとの最後。
「ラザノフ、この渓谷を抜けるのにあとどのくらいの時間がかかる?」
「う〜んでござる、夜遅くまでかかると思う」
やっぱり、ござるの使いどころが変!
でも、それだと埋めたり焼いたりしてたら今日は抜けられない。
「皆んなで下に行こう。 馬も死んでるから焼けば食べれるかもしれない。 ラザノフは手伝ってくれ」
「おっほ〜でござる〜、了〜解!」
……ワザとやってるな。
先ずはラリィを父ちゃんの側まで連れて行き、その後にラザノフをおぶって降りて行く。
ここで分かった事が1つ。
ラザノフをおぶっても、上下移動は難しくない。
でも横移動するのは難しい。
川岸まで降りて、やる事は……
ラザノフにクナイを渡し遺体を埋める穴を掘ってもらう。
俺はその間に、さっき見回った時に見つけた丁度いいスペースに小屋を作る。
レミアと出会った砂浜の奥に1度作っているので、そこまでは時間はかからないだろう。
ラリィの事はラザノフの位置からも俺の位置からも見えるので、気にかけながら作業する。
しかし、俺が小屋を作っている時にラリィが来たので、ラリィにも手伝ってもらいながら(邪魔されながら?)、小屋を作り上げた。
先に作った小窓から顔を出して見るラリィは、か、可愛いすぎるぅ! ……ってコレ、久しぶり!
あ〜、レミアに会いたくなっちゃったな〜。
って言うか、俺の今後の人生であの人に会える日は来るの?
ラザノフの所に行くとラザノフも作業を終えて全ての遺体を各穴に置いてあったので、後は俺が焼くだけ……
ラザノフは気が効くのか、遺体の穴には工夫がしてあった。
奴隷夫婦? の穴、奴隷商? の男2人の狭い穴、少し離れてラリィの父ちゃんの穴……
とりあえずラザノフにはラリィの相手をしてもらい、ラリィの父ちゃんから焼き始めた……
最後の奴隷商を焼き始めた時、ラザノフが現れた。
「ラリィは寝たでござるよ」
「そう…… まぁ、後で色々話そう。 その前にラザノフにはやってもらいたい事がある」
「そうでござるな…… それでやってもらいたい事とは?」
俺が頼んだのはラリィの父ちゃんの骨の保管と、馬から食べれる部位の調達だった。
ーーーーー
小屋から屋根だけ延長して、その下で焚き火……
馬の足の部位を焼いている……
「今日は1日中、雨だったでござるなぁ」
「ああ、でも今日だけでもないけどね」
「確かに…… 雨が多いでござるなぁ」
ラリィは小屋で寝ている。
あの子にとって、今日は激動の1日。
明日から少し、気にかけてあげなければ……
「リュウ、ラリィは吸血族でござるぞ」
吸血族! でも違う。
「ラザノフ、ラリィの父ちゃんを見ただろ、ラリィはハーフだよ」
「本物の父ちゃんなら、そうでござる。 でもあれだけ特性を受け継いでいるハーフは珍しい。 ラリィの父親は吸血族だと思うでござる」
それからラザノフに、ラリィから聞いた家族の話を聞かせた。
「そ、そんな…… それなら本物の父親……」
「俺もラザノフと同じことを考えたよ。 でも結婚期間中のど真ん中に里に帰って、子作りしてまた人間の旦那の元に帰るなんて、吸血族的にも、夫婦的にも考えられない」
「確かに……いや、吸血族だからこそ、絶対にあり得ない。 ……ござる」
ござるは忘れたけど、気になるな………
「絶対に、とは?」
「リュウ、吸血族について少し話そう……」
ラザノフはそう言って、吸血族について話し始めた。
吸血族…… 男190センチ、女175センチの平均身長で美形が多い。
他に似たようなスキルがない、"影入り" という珍しいスキルを持つ。
もう1つのスキルは、"ソナー" というスキル。
また特性にも珍しいものが並ぶ。
何と言っても有名なのは吸血能力だろう。
血を吸っても、誰かに与えても、回復薬など比べ物にならない程、回復する。
この能力がのちに事件を引き起こす……
飛行能力も高く、休憩なしで6時間飛行出来る。
他にはネガティブな特性で、太陽を苦手とする。
その特性に伴い、スキル "影入り" があると言われている。
また、よく寝る種族としても有名らしい。
「スキルについて、もう少し詳しく説明して」
「じゃあ、影入りから。 吸血族は太陽が苦手なので、誰かの影に入ることが出来る。 ただ最初に影に入った者と契約したことになり、他の影には入れないでござる。 通常、吸血族はブラッドドックという犬型の魔獣と契約して昼間に移動するでござるよ」
「何でその犬なの?」
「犬じゃない、犬型の魔獣でござるよ。 ブラッドドックは長寿の吸血族と同じくらいの寿命を持っている。 そして強く賢い犬だからでござるよ」
やっぱり、犬じゃん!
「影に入って、何も制約はないの?」
「聞いたことはないでござるな…… ただ無限の暗闇が広がり、そこで寝てるとは聞いたけど…… でもラリィが本当にハーフなら、スキルを継承している確率は40%しかないでござるよ」
つまりスキルを継承してなかった時点で、ハーフが確定する。
「どうやって影に入るの?」
「そこまでは知らんでござ〜るよ。 今度父者に聞いとくでござる」
……と言うと、いつになるか分からないという事。
「ソナーについても聞いていい?」
「ソナーは1度スキャンした相手が前方数キロにいた場合、何処にいるか分かるでござる」
「スキャンの仕方は? 前方数キロって、正確には何キロ?」
「そこまでは知らんでご〜ざるよ。 今度母者に聞いとくでござる」
「…………」
調べる術は今はない、って事か……
「最後の質問。 吸血族の子供はいつ頃から飛べるか分かる?」
「分からん!」
だよね……
ラリィは飛べない。
わざわざ奴隷服に切り込みが入っているのは、ラリィが飛べないと奴隷商が知っていたから。
もしくは父親が奴隷商に教えたか。
もし飛べればラリィだけでも逃げる事は出来たはず。
「ラザノフは吸血族の里って知ってる? ラリィの母ちゃんは、多分そこにいる」
この質問にラザノフの顔が強張った。
「知ってるけど、部外者には教えられないでござる」
「俺は部外者でも、ラリィは部外者じゃあない。 そしてラリィを保護した俺も部外者じゃなくなる」
「リュウ…… 吸血族を襲った事件について教えよう。 今から150年前、吸血族の特性の "吸血" を奪おうとした山賊や盗賊グループに、吸血族の里は襲われたでござる」
「吸血族の血ってそんなに凄いの?」
「高回復薬の約3倍の効き目、と言われてるでござる。 その血を求め襲われた吸血族は、今も絶滅に1番近い上位亜人と言われている。 その絶滅に1番近い種族の女が、人間と結婚するなんて考えられない、あり得ない話でござるよ。 そこにどれほどの愛があったのか、それは知らんでござるが終わった事ならそっとしておきたい」
「そんなのは上位亜人の都合だろ! 俺はラリィの1番良い形にするべきだと言ってるんだ!」
ハーフな境遇、母ちゃん蒸発、父ちゃんと一緒に奴隷、父ちゃん目の前で死亡、不幸すぎるだろ。
「そ、それは…… わ、分かったでござる。 それも里に帰った時に相談するでござる」
「でもそうなると時間がかかるな…… ラリィ次第だけど、それまでは俺達で面倒見よう」
ちなみに俺は無一文な男だ!
「それだと朝や夕方の稽古は、少なくとも量は減るでござるな」
「何言ってるの? 俺はここだけの話、ラリィの父ちゃんに頭にきた事がある。 何故、飛行能力を教えなかった? 危険があるのは分かっていたはずだ。 吸血族に似ている以上、これからもアイツは危険と隣り合わせかもしれない、だからなるべく早く飛ぶ事を教えたいんだ」
ラザノフは思う。
意外とリュウは人に教えるのが上手い。
褒めてくれるし、褒められたいと思う人間性も持っている。
だからいつもより頑張れるのだ……
ラザノフは深く頷いた。
肉が焼けたので、食べてみる……
美味い!
「リュウ、1つ頼みがあるでござる」
『何?』と聞こうとした時に、ラリィの『父ちゃ〜ん!』という悲鳴が聞こえた。
ラザノフがすぐラリィの元へ行く……
俺は普通に肉を食べ続ける…… 人生最悪の日だ、そりゃあ、うなされるだろう。
しばらくすると、ラザノフがラリィを抱いて連れてきた。
泣き顔だけど、手枷やらがない……
『お兄ちゃん……』と、泣きべそを描きながら手を伸ばすラリィを抱っこする。
ラザノフが続きを話す。
「さっきの頼みとはクナイを譲って欲しい。 凄い切れ味で感動したでござる」
クナイで手枷や首枷を切ったか……
あの粗悪な鉄ならば、クナイでも充分切れたのだろう。
「いいよ。 散々世話になってるしね。 おまけにもう1本持ってきな」
と言って、もう1本クナイを渡す。
「あ、ありがとう、リュウ。 初めて見た時から欲しいと思ってたでござるよ。 でも何で2本も?」
「2本持って戦うとカッコいいからね。 ござるとはクナイ、クナイとは忍者、忍者とは自由、自由とは全裸、全裸にはコート! と裏の世界では言われているからね」
「ふ、深いでござるな〜。 裏の世界ではコートの下は皆んな全裸なんでござるな!」
「想像は自由 (んなわけねぇだろ) だね」
ラザノフは満足そうに頷いた。
ラリィを抱っこしていて思う…… 軽いと。
土竜族の里の、丁度ムジカと同じ年のはずなのに、ラリィはムジカより小さく軽い。
土竜族も吸血族も成人の平均身長は変わらない。
でももう4歳で差がついている…… やっぱり人間の父ちゃんの影響か⁈
ラリィに肉を分け与えていると、ラリィの首元に切り傷が……
「ラザノフ君、これは何だね?」
ラリィの首元の傷を指す。
「ラリィね、痛くて泣いちゃったの。 でもラザ兄が首輪を取ってくれただの」
と言って、ニコッと笑った。
しかし、ラザノフは焦り顔。
「済まん、ラリィ。 ラザ兄が、ラザ兄が下手くそなばっかりあに〜、兄だけに」
絶対反省してないだろ。
「ふぅ、んで? どうすればこの傷、治るの?」
ラザノフは?? っとした顔の後、ハッとする。
「他の人の血を舐めれば、その程度なら直ぐでござる」
「ラリィ、ラザ兄かリュウ兄の血を少しだけ舐めてくれる? 必要なことだけど出来る?」
いつの間にかラザノフが、ラザ兄になってたから、俺はリュウ兄と呼ばれたくなった。
「リュウ兄? お兄ちゃんはお兄ちゃんだの。 お兄ちゃんのにする」
まぁ、別にこだわりはない。
クナイで腕にスッと傷を付ける。
そして出てきた血をラリィに舐めてもらった。
が…… 一向に傷は治らなかった。
これでラリィはハーフ確定となった。
しかし、この特性を受け継いでいなかったのは痛い。
今後、ラリィが大怪我をしても血さえ与えれば高回復薬の3倍の回復をする特性で、飛行訓練でも多少の無理が出来たかも知れないのに……
「ハーフ…… 確定でござるな……」
「ああ、でもこれで俺とラリィは血で繋がった。 ラリィ、今日父ちゃんとは別れたけど、俺とお前は今日から兄弟だ」
ラリィは一瞬寂しそうな顔をしたけど、それでも俺を見る目は嬉しそうに見えた。
「ズルッ、ズルいでござるぅ。 ラリィ、ラザ兄の血も舐めて、舐めてでござる〜!」
「ヤダ」
やっぱり……
はっきりと断ったな。
「それよりラザノフ、アレ渡せば」
「ん? あ、おお。 そうでござるな」
ラザノフは、さっき集めたラリィの父ちゃんの骨の入った箱を、ラリィに渡した
リーブルでは一般的には土葬が多いらしい。
棺に入れて土に埋葬する。
しかし、貴族や上位亜人は火葬する。
それは上位亜人には死しても尚、不思議な能力があり、その能力を狙った墓あらしが多かったからだと、ラザノフは言った。
ちなみに土竜族は族長なら里にお墓を建てるが、その他は近くの海に散骨する。
「ラリィ、その箱には父ちゃんの骨が入っている。いつかお墓を建ててもいいし、ラリィが住む街の近くの海に撒くのもいいでござるよ」
ラリィは尊敬の眼差しでラザノフを見た……
ラザノフはその眼差しを受け、俺を見てニヤッとした。
え〜と、何勝ち誇ってるの?
それに、それは俺が…… まぁいいか。
しばらく、ラリィも加わる旅になりそうだ。




