華はどこ?
第二章 成り上がり
第三十四話 「華はどこ?」
俺が泊まる家はガルフさん宅。
大きな古民家で風情がある。
部屋はルカルスさんが使っていた部屋。
ルカルスさんはもう結婚してこの家にはいない。
ちなみに年齢は36歳。
まだ夕食には時間があるので、俺は木刀を製作する。
クナイを並べて、それぞれの切れ味を確かめながら木を削っていく。
やはりあとの方に作ったクナイの切れ味がいい。
……ソマルさんの作ったクナイは別格、手に持った感覚がもう違ってる。
「リュウ、ちょっといいでござるか」
ラザノフの声……
夕食かと思ったけど違うみたい。
入ってもらう。
ラザノフは木の削りカスを気にすることなく、ドカッと座った。
「リュウはこれからどうする予定でござるか?」
「それを聞きたいんだ。 俺がする仕事はあるのか? とか、おススメの街なんかも聞きたいな」
「街は父者が知ってると思うでござる。 仕事は冒険者なんてどうでござるか?」
冒険者! ……レイモンで少しだけ聞いたことがある。
何でも魔獣を討伐したり…… あと何するの?
「ラザノフは冒険者って何するか知ってんの?」
「何でもするでござるよ。 子守から討伐、護衛や大工の手伝いとか配達、珍しいのはおばさまのデートの相手、なんてのもあるらしいでござるよ」
おばさまのデート相手して金貰うのか?
「リーブルって変だね」
「いや、デートは本当に珍しいケースでござるよ。 ……と言っても、拙者の知識は全て人に聞いた話。 自由なリュウが羨ましいでござるよ」
ラザノフも例に漏れず、不憫な上位亜人なのか⁈
「ラザノフは里からは出られないの?」
「母者は拙者を産む時、女の子を願った。 上位亜人は1人だけ男で、あとは女の子がベストでござるから…… 次男は余り必要のない子なんでござるよ……」
え〜と、そんな答えが出る質問だった?
「それならラザノフも多少は自由に出来るんじゃないの? いらない次男なんでしょ」
「そ、そうでござるな! ……そうでござるかな⁈」
夕食は土竜族料理。
豪快な見た目に、豪快な味と量。
でも嫌いではない味。
色々な話をしながら食事をしていく。
その中で特に気になったのが、上位亜人の出産。
土竜族の寿命は200年以上あるという長寿。
それでも子供は3人産むのが限界だと言う。
その理由はスキル。
スキルが強力な為、難産になるのが当たり前、出産には2週間かかることも……
なので上位亜人は出産出来る年齢や何人産めるかなど、明確に決められている。
サラノフさんは20歳の時に長女ティアノフを産み(現在は飛竜族に嫁いで、飛竜族の里で暮らしている)その後、ルカルスさんとラザノフを産んだ。
サラノフさんの年齢は72歳(見た目は40代)。
3人共に年齢が充分に離れている。
もしスキルが出産を難産にさせるなら奇跡的かは知らないけど、スキルをたまたま継承してしまった俺と兄の出産は、母親にとって苦しい出産だったろう。
はっきり言えば母親が死んだのは、俺と兄のせいとも言える。
特になぜ母さんは俺を産もうとしたのか?
本人がいない今、それを知る術はない。
でも、もしかしたらシスターが知ってるかも知れない。
いつか帰ったら聞いてみよう……
「リュウ、其方のスキルは何個あるでござるか?」
「俺のスキルは1つだけど……」
「1つって、どれがスキルなんでござるくわぁ」
出た〜、くわぁ!
「ガルフさんに聞きたい。 俺のスキルは無詠唱なんですが、無詠唱の亜人の種族はリーブルに残ってますか?」
「ちょ、ちょっと待つでござるよ。 空飛ぶスキルと吹っ飛ばすスキルは?」
「アレはオリジナル魔術だよ。 無詠唱だから出来るオリジナル」
「す、凄いでござるな…… お兄さんも出来るでござるか?」
「空飛ぶのは足から魔術を出すんだ、でもにいちゃんは足からは出なかった。 でも手からは出たから何とか空には行けたよ。 吹っ飛ばす魔術は教えてないし教えるつもりもない。 それだけ時間と労力がかかっている技なんだ」
忘れたけど、7、8年かかってる?
「えっ? リュウが考えたでござるか?」
「空飛ぶ魔術は遊びの延長だったかな…… 吹っ飛ばすやつは必死で必殺技を考えたし、驚くほど時間がかかってるんだよ」
ここでサラノフさんが口を挟む
「ふふ、ラザノフ、リュウ君に質問してばっかりね」
ハッとしてラザノフは、済まんでござると言った。
そしてガルフさんが俺の質問に答える。
「ワシも余り詳しくは知らん。 もう長老が生まれた時には絶滅していたからな。 ただ無詠唱の他にも強力なスキルが複数あったらしいぞ」
凄そうな種族だな…… 絶対強いだろ。
まぁ、リーブルにも歴史に詳しい人はいるだろう。
そのうち分かる気がする……
木刀が出来上がったのでラザノフと試合をする。
土竜族の兵団に招かれての試合なので、この前ルカルスさんと試合した時より観客が多い。
他の種族が里に滞在して、しかもルカルスさんに認められるほどの実力がある、と兵団でも噂になっていたらしい。
ラザノフとは体術で少しだけど戦っている。
その時は恐ろしく強く感じたけどこれは剣術の試合。
いくら土竜族が強くても小さな頃からの努力はこの世界で1番だと自負している。
絶対に負けない!
ゆっくり息を吐き出し、薄く目を開ける。
今日も視点を合わせなくても色々と見える…… 軒先のハチ、不思議そうに俺の二刀を見るルカルスさん、里の外にはこの時期に見られる、背の高い雲が広がっている……
徐々にラザノフに視点を合わす。
ラザノフは最初に戦った時のように、土竜族の1つのスキル、土竜族化している。
やっぱり鬼瓦や大魔神のような見た目。
ボッ、ボッ、っと空気を切り裂き突きが飛んでくる。 それを捌く……
ルカルスさんに似ている……
でも違うのは、ノーモーションだけど息遣いで突きが来るのが読めることか……
突きに合わせ低く踏み込み、左をラザノフの脛へバチーン、と当てた。
ラザノフは動じず槍を振る。
スウェイしながら下がる。
ラザノフの動きに変化はない…… しかし今のは絶対痛かったはず!
チラッとラザノフの顔色を見ると…… 鬼瓦みたいだから分からない!
ラザノフは思う…… 脛が痛い!
クソッ、当たる気がしない。
こんな感覚は初めて…… 全てを見透かされている?
静かに佇むリュウの姿に感動すら覚える……
もう一度、同じく突きに合わせ脛に左を振る。
しかしラザノフは大きく下がって避けた……
予想通り、やっぱり痛かったな……
でもその1歩が命取りになる!
ー蓮撃ー
1セット目 訳が分からないような顔をして…… 嘘つきました! 鬼瓦だから分かりません!
2セット目 必死で捌き続ける、鬼瓦ラザノフ。 でもまだ反撃のタイミングを計ってる?
3セット目 ラザノフは集中して捌くことにしたようだ。 でも息が荒い。
4セット目 手の甲に当たってからは連続でヒット。 でも参ったをしなかったのでルカルスさんに目配せして、止めてもらった。
完勝!
その後、兵団の槍術4位も撃破して終わる。
ーーーーー
その日の夕食時、ラザノフに質問攻めに合う。
「あの技の仕組みを教えてくれでござる!」
何かちょっと偉そうだな……
「アレは一度発動すると、永遠に捌くしか出来ないように作った技」
「そ、そんな! なら弱点はないでござるか!」
それを威張って俺に聞くか?
「多分、沢山ある。 先ず捌く相手より俺の方が疲れる。 捌き続ければ俺がそのうち倒れるよ。 後は自分で探して」
「えっ、あ、ああ。 ありがとうでござる」
ガルフさんも口を挟む。
「裏で剣術を習っていたな。 裏にはどんな流派がある?」
「自分が知ってるのは2つだけ。 ライザ流と陰火流です。 ちなみに俺は孤児なので、全てが我流です」
「ほう…… 凄いな。 でも陰火はこっちでも聞いたことがあるぞ」
マジか! それなら昔は大陸が繋がってた?
「二本持って戦うのも自分で考えたの?」
サラノフさんが聞いてきた。
「そうですね。 でもここ2、3年ですよ。 しっくりきてると感じるのは」
いつかローチェが変わったと言っていた。
その辺りから二刀流が自分のモノに感じだした。
「リュウ、拙者も一緒に稽古するでござる。 それで、その……、アドバイスとかあれば言ってくれ」
「えっ、ああ、別にいいよ」
ラザノフは柔軟な男だ。
年下で人間の俺にアドバイスを求める柔らかさがある。
次の日からラザノフと一緒に稽古に出かけた。
ラザノフは上半身は柔らかいけど下半身は硬い。
そして体幹は悪くないけど、体幹持久力はない。
更に、握力は凄いけど指先だけなら俺の方が強い。
もう少し指先も意識した方が良い。
と、アドバイスした。
ラザノフは俺との稽古の後に兵団の稽古、それが終われば狩りや山菜採りなど兵団のメンバーと出かけている。
俺は女の人達と畑仕事をしたり、8歳以下の子供達と遊んだりしている。
子供達とは鬼ごっこや隠れんぼと、昭和が香る遊びをしているけど子供達が1番喜ぶのは空を飛ぶことだ。
子供を抱えて高くまで飛ぶ。
最初は怖がる子供も最後は空の美しさに感動して、また空へ連れて行ってとせがむ。
そんな子供の1人に明らかに土竜族とは肌の色が違うムジカと言う女の子がいる。
サラノフさんに聞いたところ……
竜族は血が濃くなりすぎないように、婚姻前の若い娘を他の竜族の里へ行かす事がある。
もちろん強制ではないけど、同じ里に年の合った相手がいなければ他里へ行く娘も多い。
氷竜族のムジカの母もそうだった。
しかし生まれる子がどちらになるかは分からない。
ムジカの兄は土竜族、ムジカは氷竜族として生まれてきた。
その場合の決まりもあり、ムジカは6歳になったら氷竜族の里の親戚に預けられ、育てられる。
つまり4歳のムジカはあと2年で、親元を離れて氷竜族の里へ行かなければならない。
その事を聞いてから、俺はムジカを特別に可愛がった。
元々、気付けば足元で抱っこされるのを待っている可愛い子だ。
6歳になって氷竜族の里に行っても元気で笑っていて欲しい。
稽古帰りラザノフと並んで帰る。
思えば…… ローチェから始まり、短い間だったけどそれでも濃い恋愛関係にもなったリリカ。
そしてこの星で1番綺麗可愛いのは誰だ? 大会で優勝したレミア(僕調べ)。
俺の隣にはいつも華があった。
チラッと隣を見ると、大あくびをしているラザノフが…… ハァ〜。
別にいいけどさ……
「リュウはいつから稽古をしてるでござるか?」
「体が動けるようになってからだよ。 俺はバカだしこれしか出来ないからね」
そう、これしか出来ないって事でローチェを救えた。
そしてパッツァンからリリカも守れた。
この先だって俺にとって大切な人を救えるかもしれない。




