か、可愛すぎるぅ
第二章 成り上がり
第三十話 「か、可愛すぎるぅ」
ポツンと見えた白い砂浜。
あれから1日。
魔力を回復させるためにボートで休憩しながらも、何とか陸を見つける事が出来た。
上空から見えた陸はひたすら森。
広大で豊かそうな森が広がっている……
そんな中、俺が降りたのは小さな砂浜。
奥には深い森が広がっている。
ここはリーブルか、それともレイモンの獣人国か……
それより、これからどうするかを考える……
今は夕方、もう少し暗くなってから飛び回って街を探すか。
それとも疲れているので、此処でサンダーを発動して魚を捕って食べ、明日ゆっくりと動き出すか。
ピカッと空が光り、時間差でドゴーンっと爆音が響く。
この砂浜から少し沖に行くと、大きな岩場があるのでジェットでその辺りを見回り、気絶している魚を3尾捕って下処理だけしておく。
結局俺は、ゆっくりこの世界を調べる事にした。
ここがリーブルかレイモンかは分からない。
でも、焦る必要は全くない。
明日からゆっくり調べよう。
魚を持って森に入って行くと直ぐに、丁度いい広さの場所がある。
とりあえずここに、小屋を作る事にする。
俺の出来る土を使った魔術は、土の盾しか知らない。
なので体内でその魔力を作り、水の魔力も混ぜてみる…… そして盾を出すと、ベチャベチャな土の盾だった。 ……クナイで整える。
次はもう少し水の量を減らして盾を出す、などと盾を出しては壁を作りを繰り返し、4面の壁が出来た。
今回は天井なしの小屋、これで完成とする。
出入りはジェットを使って上から入る。
……と、さっきから小動物が見てる気配がするけど、辺りには誰も何もない。
小屋が完成したので、焚き火をして魚を焼く。
その間に長椅子も作っておく。
最初はベチャベチャな盾だったのが、改良されて粘土の塊を出せるようになっている。
ジェットの炎で椅子の土を固めながら、小動物の気配のする方に目をやる。
虫…… 沢山。 鳥…… 5羽。 後は特になし。
でも気配はあるんだ…… 害は全く無さそうだけど。
もしかしたら、消えるという亜人のスキルかも。
気にしてもしょうがない。
焼けた魚を食べよう。
1尾は頭からバリボリと食べる。
しかし骨が多くて鋭い。
次は骨を避けて食べよう。
でも…… ハァ、やっぱり気になる。
「今日は此処に泊まらせてもらいます。 明日は出て行くので、今日だけ失礼します」
何かいるのは間違いないので、一応筋は通しておく。
そして2尾目の魚に手を伸ばした時に、その人は現れた。
「それは美味しいのですか?」
心地よい声、女の人だ……
でも恥ずかしがり屋さんなので、まともに顔は見ずに椅子に座ることを勧めた。
「美味しいですよ」
と言い、もう一度椅子に座ることを勧めた。
見えるのは、シルクのような素材の綺麗なスカート。
そのスカートが椅子に座った。
もう1尾の魚をその人に渡す。
チラッと見えた手は、透き通るような綺麗な手だった。
「これはどうやって食べるのですか? ふふ、やっぱり頭から丸ごとですね」
見られてるじゃん! まぁ知ってたけど。
「骨は鋭いから食べない方がいいですよ。 ちょっと見てて」
と言って、背中からかぶりついた俺は、チラッとその人を見た途端に、雷に撃たれたように動けなくなった。
う、美しい……!
艶のある鮮やかな緑の髪の毛に青い瞳。 白くきめ細やかな肌に小さな顔…… え〜と、何だっけ?
「リュウと申します」
とりあえず自己紹介してみた。
「ドリアードのレミアと申します」
ドリアード? 亜人の種族か。
消えるスキルは、俺が知ってるスキルの中でも最高のスキルだ。
でも敵に回したら最悪のスキル……
「レミアさんは上位亜人なんですか?」
「いえ、私は森を護る者です」
ちなみに俺はこの人を直視してない。
また雷に撃たれるのはヤダし…… でも森を護る者って何?
「そうですか。 そりゃあ、凄い!」
大袈裟に分かっているフリをする。
「リュウさんは、何方からいらしたのですか?」
いらした? ……まつしたの聞き間違いだろう。
何方から松下のですか? ……魚の事か。
「この魚は松下のではありません。 俺が捕ったので俺の魚です」
レミアさんは不思議そうな顔で俺を見る……
ドッカーンっと俺は雷に撃たれて、また固まった。
か、可愛いすぎるぅ。
「ふふ、何方からいらっしゃられたのですか?」
いらっしゃられた…… イラッとするほどシャレているって意味か?
俺のことじゃないよな…… 俺は1週間も逃げ場のない太陽の光を浴びて、今はチョコボールのように真っ黒に日焼けしてる。
いや、それがリーブルではお洒落なのか……?
「確かにレイモンではお洒落さんで有名でした! でもレミアさん、ここはリーブルですよね?」
「え、は、はい。 ここはリーブルですよ」
やはり着いていた。 海の滝を超えた〜!
その後、レミアさんに色々聞いたけど、レミアさんも、それほど詳しくはないみたい……
でも、戦争はしてない事、3種の人族が混ざり合って暮らしている事は知っていた。
「レミアさん。 ドリアードって種族なんですか?」
「いいえ、森を護る者です。 私達はリーブルに3人しかいません」
つまり人族ですらない人なのか?
「ふふ、私達が人に姿を見せるのは、珍しい事なのですよ」
「何で人の前に姿を見せないんですか?」
「私達を食すると、不老不死になる…… と人族の間では言われています。 でも間違っているのですよ、ふふふ」
不老不死…… にはなれなくても、何かしらの恩恵はありそうな口ぶり。
「食べたらどうなるんですか?」
「ふふ、そうですね、病気にならなくなります。 それに怪我も治りますよ。 食べますか?」
病気にならなくて怪我が治るなら、寿命を全うできる。
重い病気の人に近い関係の人は、その人を助けるためにドリアードを狙うかも。
「今はお腹空いてないです。 それより何で俺の前に姿を見せてくれたんですか?」
「ふふ、分かりません。 貴方が変人だったから、かも知れません」
へ、へんじ〜ん! いや、変わった人と言いたかったのだろう。
それに変態と言われるよりは、まだマシだ。
褒め言葉と受け取っておこう。
「そうですか。 変人やってて良かったです」
「っぷふふふ」
カミナリに撃たれたように、俺は動けなくなった。
笑顔が可愛いすぎる。
俺は会話の最中、何度カミナリに撃たれるんだ……
ドリアードとは…… 神木から生まれ、森を護る者。
ドリアードが生きている限りは、神木を通して森に栄養が行き渡り、正常な生態系が保たれる、豊かな森。
しかしドリアードが亡くなれば、徐々に木々は枯れ始め、長い年月が経つと砂漠と化す。
もしかしたら、レイモンの砂漠化にドリアードが関係してる?
まぁ、今はそれよりレミアさんの事を知りたい。
「レミアさんは幾つなんですか?」
予想は、19歳です、ふふふ。
「70歳です、ふふふ」
「……………」
冷静になれ、俺。
とりあえず、ふふふは合っていた。
凄いぞ、俺。
「リュウさんはお幾つなのですか? ふふ」
70歳に対して14歳では、もう俺はお孫さんだろ。
「秘密です、ふふふ」
「ダメです、それは私の口癖です。 ふふふ」
「すいません。 秘密です、ハハハ」
「ふふふ」
「ハハハ」
「ダメです、ハハハ」
「秘密です、ふふふ」
……この人、まだ帰らないのだろうか?
俺はもう眠い。
「レミアさん、もう遅いので送って行きますよ」
「気になさらないで下さい、私に家はありません。 ……それではお休みなさい」
と言うと、レミアさんは消えた。
小屋に入り横になる。
小屋の中はベッドも作ってある。
フゥー、疲れた。
もうまともに1週間寝てない。
ギリギリだったけど、海の滝を越えることが出来た。
いつ以来のまともな睡眠なのだろう……
そうだ、ソマルさん家だ…… 向こうは今、何時頃だろう? リリカは元気かな……
途中、小動物の気配がしたが、俺は久しぶりにがっつり寝た。
朝、目が覚めるとレミアさんがいた。
何で? と思い、レミアさんを見ると……
ドッカーンと、朝から雷に撃たれてしまう。
何で朝からそんなに可愛いんだ!
「えっ、何で? いつからそこにいたの?」
「ふふ、ずっといましたよ。 っぷふ、リュウさんのヨダレ、川のように流れてましたよ」
か、可愛いすぎるぅ。 ……ん、ヨダレ?
下を見ると、ヨダレが溜まってた。
でも川にはならない、なっても溜池くらいだ。
ドリアードって暇なんだな……
まぁ、いい。
まだ聞きたいこともある。
外に出ようとして、ふと思う。
この人はどうやって、小屋の中に入ってきたんだと……
出入り口は作ってないので、上から降りてくるしかないはず。
「レミアさんは、もしかして飛べるんですか?」
「はい。 でも、余り早く動けないのですよ。 ふふ」
消えるスキルに、飛べるスキル……最強じゃん。
多分、他にも強力なスキルを持っているのだろう。
でも人間の俺が知ることは、この人の危険に直結するので聞かない方がいいだろう。
聞けば簡単に教えてくれそうだけど……
俺は毎朝、夜が明ける前に起きる。
孤児院が早い起床だったので、その前に稽古を終わらせるには早く起きるしかなかったのだ。
今は季節問わず、癖で夜が明ける前に起きる。
小さく白い砂浜で身体を動かす。
レミアさんは何が面白いのか、興味深く俺の動きを見ている。 ……きゃ、きゃわいいすぎるぅ。
……でも、不思議なこの人とも、もうすぐお別れ。
村か町の場所を教えてもらおう。
「レミアさん、この辺りに村か町はないですか?」
「近くはないですけど…… ありますよ」
「高いところから、場所を教えてくれますか?」
「ふふ、連れてってください」
レミアさんは飛べると言うより、浮遊する感じだ。
なので動きが非常に遅い。
まぁ、普段も遅いけど。
『失礼』とレミアさんを抱える。 ……軽い!
そして高く上がると、レミアさんは俺から離れた。
ここで俺の心情に違和感…… 離れないで!
「彼方の方角には小さな村があります。 少し遠いです。 此方の方角には街があるのですが、とても遠いですよ」
南の方角が村、北が遠くて街か……
俺は南の孤児院出身で暑いところが大好きだ。
でもソマルさん家に泊まってて、寒い北も大好きになった。
そしてついでにリリカまで、大好きになってしまった。
ん〜、何方に行こう?
「レミアさん、おススメとかない?」
「私は近くまでしか行った事がないので……」
レミアさんは…… 森を彷徨うだけの人生?
「レミアさんは、普段は他のドリアードの2人と、話とか遊んだりとかしてるんですか?」
「……遠くにいるので、会ったことはないです」
ヤバい気がする。
これ以上、踏み込んだらいけない気が。
「ふふ、リュウさん。 私とお友達になって下さい」
「俺で良ければ!」
ヤバい…… ノータイムで応えてしまった。
これも、ドリアードのスキルか⁈
踏み込んだらいけない気がしても、レミアさんは……
か、可愛いすぎるぅ。




