この眼と二刀流
第一章 旅立ち
第三話 「この眼と二刀流」
ここは最果ての孤児院。
孤児院を出て右側が南になり、砂漠が広がっている。
潰れかけの家もチラホラあるが人は住んでない。
左は西側、やはり潰れかけの家も多いけどまだ人が住んでいる家もある。
その人達以外の住民はもっと西側へと引っ越して行った。
後ろには海がある。
しかし砂漠化の影響は海にも広がり、この辺りの海は死海で魚などは捕れない。
一応、畑があり、痩せた野菜が収穫出来るけどそれがいつまで続くかは分からない。
孤児院の生活は朝起きて畑の砂取りから始まる。
風で舞う砂を防御する柵はあるけど、それでも砂は入り込んでくる。
畑に行かない連中は教会の掃除や朝食作りをする。
っと言っても、朝食は殆どない。
この孤児院は最南端にあるため、物資が届くのは月に2度だけ、後は自分達で何とかするしかない。
元々、数年後には取り潰す孤児院なので俺を最後に新しく入ってくる子もいない。
俺が1番年下で、次が兄のルークと唯一の女の子のマシェリ、兄の一つ上にグレイト、後はもっと年上でケビン、アギル、プロマトン、シセと8名の孤児がいる。
そしてシスターは先月から1人になった。
なかなか野菜に出会わないスープと、小さい俺でも少ないと思うパンを食べた後は教会でのお祈り……何を祈っているか知らないけど腹減った。
その後はシスターに頼まれ事でもされない限り、自由時間となる。
この孤児院はマシェリ以外は皆男なので、海岸の近くの大きな木の前で、皆んなで集まり剣術の試合をしている。
俺はもうすぐ5歳だけど、流石に皆んな3年以上歳上なので体格負けしてしまう。
なので前世で爺さんに習ってた月花流古武術の稽古をしている。
基本は身体の柔らかさとバランス、そして身体の端にある部位の強化、つまり柔軟に体幹、指先の強化トレーニングを基本練習とし、後は素振りなど1人で出来る事をやっている。
今日は基本練習後に投石術をやる。
古武術……江戸時代中期から続くこの武術は無手で剣士と戦う技が幾つもある。
投石術もその一つ。
投石と言っても月花流は何でも投げる。近くに転がっている物なら石でも木でも何だったら犬の糞でも投げる。
無手だけに全てが武器、という考えなのだ。
ちなみに新撰組の副隊長、土方歳三も若い頃の喧嘩で石などを投げていたらしい。
俺は今日も1人で自主練。
別に皆んなの近くでやる必要性は全く感じないけど、兄が結構心配性なので近くでやっている。
兄達は試合稽古。
今は兄とグレイトで試合をしている。
はっきり言ってグレイトは病弱で運動神経も余り良くない。 ……つまり弱い。
逆に兄は運動神経も良く、戦いにおけるセンスがある。
グレイトだけでなくもっと年上の子にだって勝っているのをよく見る。
しかし、歳下に負けたのが悔しかったのか、グレイトは俺に勝負を持ちかけてきた。
「また1人でわけ分からない事してる、って言うかリュウはいつも孤独に練習してるよな。」
俺の練習方法は特殊だ……、今すぐ強くなる練習ではない。
「俺達はどーせ戦争に行かなくちゃならねーんだ、死なねーように俺が鍛えてやる」
1番弱いグレイトが? とは言わない。
何も言わず立ち上がり、木刀を持つだけだ。
兄がしつこく「ダメだ、まだリュウは5歳にもなってないんだ」と言っていたけど、グレイトが「手加減するから」と言い、試合をする事になった。
俺はまだ5歳になってない。
でも前世では小学生チャンピオンだった。
俺の身体は前世の身体より優秀、若干の不安があるのが貧乏な環境とこの眼……。
フーっと一息つき、対峙するグレイトを見る。
背は俺より頭一つ以上大きいが、客観的に、もう俺の方が木刀を持つ立ち姿のバランスが良いはず……。
グレイトの荒い息づかいも、左側で波打つ海も、心配そうに見る兄の顔も、クッキリと見える。
眼球がブレてるのが分かる。こうなると決まって後から頭痛が襲ってくる。そうなる前に終わらせる!
試合が始まると、予想通りグレイトは体格差に物を言わせ突っ込んでくる。
甘い……左に回り込み交わしながら胴打ち バスッと当たったけどそのまま突っ込まれ倒された。
だが、覆い被される前に起き上がり、その途中にグレイトの足元へ木刀を振る。
ゴンッとくるぶし辺りに当たってグレイトはピョンピョンと跳ね上がり、痛がった。
試合が止められ、とりあえずは勝利。
しかし俺は予想通り頭痛に襲われ、その場に蹲った。
頭痛、吐き気、熱くなるような眼の痛み……、意識がボヤける……。
ーーーーー
気づいた時は、病気の子が入れられる部屋のベッドで寝かされていた。兄とシスターが両脇にいる。
この眼の異変にはずっと前から気づいていた。
動く物へ視点が勝手に合う。
つまり外など動く物が多い場合、眼球がブレ、情報を処理しきれない頭が痛くなる。
この世界の眼は皆んなそうだと思っていたけど、違うようだ。
対処法はある、今まではちゃんと対処してきた。
前世での剣道での試合前、相手を見ていないようで見ている視線の預け方がある。
眼球がブレる前にそうすればゆっくりと情報を処理して頭が痛くなる事もなくなっていた。
しかし今日は久しぶりの試合で興奮したのか、視線を自由にしてしまった。 ……でも、何なのこの眼?
「リュウ、大丈夫なのか?」
兄が心配そうに覗き込む。
「うん、まだ全身がジンジンする感じだけど、大丈夫」
この世界の病気は怖い。
いくら孤児院でまともな薬がないと言っても、孤児の仲間達が風邪のような症状の病気であっさり亡くなっているのを何度も見てきた。
「リュウ〜ッ うわぁぁ〜」
シスター……、その反応だと俺死ぬでしょ。
シスターはルナと言う名前。
一時、俺の母親だと思った事があるけど違うみたい。 ……でも何らかの繋がりはありそう。
何故かと言うとたまに俺にだけ自分の残したパンをそっとくれる時がある。
何より愛情を感じる。
「リュウは……、大丈夫?」
この子はこの院、唯一の女の子、マシェリ。
流石女の子というか、1番小さい俺を本当の兄弟のように可愛がってくれている。
「……うぅ」
シスターは何も答えずに、マシェリが持ってきた濡れたタオルを俺の額にかけた。
いや……小さく うぅ と言っていた。しかもサヨナラ前のように泣いていた。
どうやらシスターの中では確定してるようだ。
前世では12年、今世では僅か4年。
振り返ると思い出が全くない。
寂しい人生だった……
もし、今度生まれる変わるなら、せめて2食はお腹いっぱいに食べれる世界がいい。
希望はイタリア、パスタもピザも好き。
それかアフリカの部族。
裸でライオンを追いかけたい。楽しそ〜。
ーーーーー
あれから俺の眼の病気はよく分からない変化を見せている。
俺の瞳の色は兄と同じブルーだったけど、瞳の中心の茶色い部分が徐々に大きくなり、ブルーだった部分は目縁に追いやられ、今では俺の瞳の色は茶色へと変化した。
これにより動く物にすぐ視点が合うようになった。
但し動く物が多い場合は今まで通り、吐き気と頭痛に襲われる。でも眼自体の痛みはなくなった。
この眼……、かなりの高性能だ。
先日も掃除をサボってシスターに叱られてる時、視界の中にケビンが見えた。
俺の眼はしっかりとシスターの童顔を見つめている。だけどケビンもしっかり見えてしまう。
ケビンは鼻をほじくっている……。よっぽど取りにくいのか凄い顔で必死でほじくっている。そしてタラ〜っと鼻血が出た。
瞬間、ブフッとシスターの顔を見ながら吹いてしまった。もちろんその後はたんまりとシスターに叱られたのは言うまでもない。
ただ厄介な事ばかりではない。
歳上だらけのこの院で、たまにだけど剣術の試合で勝てる事がある。
それはこの眼のおかげだ。
ある日の素振り中、兄がおもむろに話しかけてきた。
「リュウ、素振りだけでリュウのバランスの良さが分かるよ。でも何でリュウは木刀を右手前で持つの?」
ハッとした……。
俺は前世での慣れで疑いもせず右手前で木刀を持っていた。
今世での俺の利き腕は左だ。
剣道では左利きの人も右手前にさせられると小耳に挟んだ事はある。でも今やっているのは本気の剣術。
前世で慣れた右手前がいいか、それともこれから良くなりそうな左手前がいいか……。
その時、ふと思い浮かんだのは……
―――二刀流―――
前世では右で慣れ、今世は左利き。何よりこの眼との相性も抜群に良さそう。
「にいちゃん、俺これから剣を二つ持つよ!」
これが俺の二刀流の始まりだった。




