自由とは
第一章 旅立ち(最終話)
第二十九話 「自由とは」
何時間飛んだのだろうか……
何も考える事が出来ず、ただボーっと飛んでいた。
何処をどう通って今、海の上を飛んでいるのかさえ覚えてない。
しっかりしないと……
これからやりたいのは、シスターとローチェの確認。
会えるか分からないけど、戦争が始まってしまったのでひと目見れたら嬉しい。
それと太陽の動きの確認。
この星も太陽は東から登り、西へ落ちていく。
なので、なるべく太陽の下を進んで太陽を追いかけて行けばいい。
そして後ろから太陽が登るのを確認して行けば、裏に着けるはず……
もっといい方法があるかもしれないけど、俺の頭ではこれ以上の方法は浮かばない。
そして出発は俺達が過ごした、最果ての孤児院から出発したい。
もう1つの候補はリリカと行った島だったけど、また胸を引き裂かれそうなので止めといた。
一応、高く飛んでいるけどそれほど気にしてない。
どうせ俺を追いかけれるようなスピードで飛べる人族はいないはず……
俺のジェットは70キロ以上出ていると思う。
小さい翼の人型が70キロもスピードが出るとは思えない。
そう言えば、ソマルさんが面白い話をしていた……
ソマルさんの興味深い話(4)
亜人にも飛べる種族はいるらしい。
そして俺も会った事があるけど、獣人にも鳥人族という種族がいる。
前世の話で、50キロの体重の人間が飛ぶには10メートル以上の翼が必要になるらしい。
しかし、この世界の飛べる種族の翼は驚くほど小さい。
俺が会った鳥人女もせいぜい3メートルほどの翼だった。
ソマルさんが言うには物理的に飛べるはずがねぇ、という事だが、実際に飛んでいる。
では何故飛べるのか。
ソマルさんの見解は、翼から魔力が出てるから飛べる、だった。
小さい翼で飛ぶにはそれしか考えられないらしい。
俺の見解はもっと単純。
飛んでいるから飛べる、だ。
その後、俺のジェットに仕組みを説明すると、「リュウは天才だな」と言っていた。
その次の日もちょっと言いかたを変えてジェットの仕組みを説明すると、小さな声で「天才だな」と言ってくれた。
そして次の日も少し言いかたを変えて説明すると、「しつけぇ!」と言われた。
俺は学習した…… 2回までは言ってくれる、と。
そんな事を思い出していると、左手に港町が見えた。
この港町は9か月前、俺が王都を出発して最初に通過した港町…… 俺はどんだけボーっと飛んでいたんだ……
ただ今現在の時間は分からない。
朝早くにローチェかシスターが、野菜を取りに外の小屋に出るのでその時間までには着いていたい。
新しい孤児院の上空には夜が明けかけた頃に着いた。
戦争が再開されたのでどうしてもひと目皆んなを見ておきたかったのだ。
でも見れるかどうかは運次第。
今だって俺を見て不思議がっている人だっているかもしれない。
長居は出来ない。
30分くらい待っただろうか、院の中からローチェが出て来た。
でも俺は上空高くにいる、見つけられる訳なんてない。 ……と思っていると、ローチェは直ぐに俺を見つけた。
流石、年季の入ったストーカー!
ローチェも俺もしばらく見つめ合っていた…… でもローチェは急に院の中に入って行く。
そして直ぐにシスターやフロム、カイも…… ん⁈
新しい子供がいる⁈
院には子供が増えていた。
合計4人の小さな子供達、やっぱりシスター1人じゃなくてよかった。
シスターとローチェはずっと俺を見てる。
俺も2人を見る、ただそれだけ。
手を振ったり、大きな声で呼んだりは出来ない。
多分、俺は死んだことになっているから……
流石にこの眼でも2人の表情までは分からない。
でも元気そうなのは確認出来た。
軽く手を振り、これが本当の長い別れ。
それでも、少し晴れやかな気持ちで俺は南へと歩を進めた。
南の孤児院には昼頃に着いた。
どうしても癖で魔術を練習した場所で降りてしまう。
でも、この場所は懐かしい。
兄に魔術を教わったり、魔術ありの試合をした場所……
兄には会えないけど兄は優秀な男だ。
きっと裏の世界、リーブルで待っていれば会える。
歩いてローチェの木がある場所まで来た。
ローチェの木…… あと数ヶ月もすれば倒れそうなくらい、傾いている……
ここでやりたかった事がある。
先ずは傾きかけたローチェの木から、枝を数本取っておく。
そしてローチェと名前を彫っていた場所を削っておく。
これでこの木はローチェの木ではない。
心置きなく倒れてくれ。
そして俺達が暮らした孤児院……って、3分の1は砂に埋もれてる!
だけど中は風は遮ってくれる…… 魔力は余りないので、ここで万全の状態にしてから出て行こう。
夕方の稽古。
久しぶりの1人での稽古だ……
今日は基本練習の後に、刀を持っての蓮撃をしてみる。
ー蓮撃ー
1セット目
刀だと、何とも言えない扱いやすさがある。 しっくりくる⁈ ような。
以降、10セットを超える。
11セット目
体力もまだいける。 頭の回転も余裕がある。 しかし左腕の筋力が悲鳴をあげたので、ここで止めておく。
これは仕方ない。
骨折してた腕だし、まだ完全には筋力が戻ってない。
そして刀の長さも違うので重さが違う。
これからは少し左腕を意識して、バランスよく筋肉を付けていこう。
ふぅ、ちょっと休憩してから素潜りで何分潜っていられるか計っておく。
この先、俺は海に堕ちるかもしれない。
でも、ソマルさん達にお礼はしてないし、兄やシスターとの約束もある。
だから、ただ溺れるなんて出来ない。
ギリギリまで足掻くために、潜っていられる時間を知っておく。
潜る……
久しぶりの死海。
どうして砂漠化しているのかは知らないけど、海まで砂に埋もれてるのは改めて思うと恐ろしい。
どうにか砂漠化を止める方法はないのか?
一瞬、兄を思ってしまった。
俺では絶対無理!
でも兄なら出来るかも……
戦争なんて連れてかないで、兄を含めて研究チームを作れば砂漠化も止まり、戦争をする理由もなくなるのでは⁈
……でも俺は人間国が嫌いだ。
平和になる前に王族は潰したい……
ハッ、また悪のリュウが顔を出した……
たまに出てくるな…… でも俺は貴族も王族も嫌いだ。
なんて事を考えながら潜っていると、何と15分も潜っていられた。
孤児院に戻って食事をする。
今日はこれが1食目、でも全然お腹が減らない。
考えないようにしてても動いてなければあの時のリリカが目に浮かぶ。
最後のサヨナラを言い合った時のリリカの瞳が、胸を締め付ける。
リリカ…… 今頃泣いてなければいいな……
次の日は太陽が通る位置を注視しながら、まったりと過ごした。
食料が減るのは怖いけど、優先するのは魔力。
完全に回復してから出発する。
夜中の3時…… いよいよ出発する。
海面から10メートルほどの高さを飛んで行く。
暗い時間ではいつも思う。 ……月より近い星が、更に近づいていると。
このままならぶつかると思うんだけど……
今更失敗したと思う。
ソマルさんなら何か知っていたはず…… 何故聞かなかったのだろう。
でも、誰も何も言ってなかったからぶつかりはしないのだろう。
朝方になり下の海面には魚が跳ねているのが見える。
前回、海の滝まで12時間ちょっとで残り魔力は2割弱。
予定では夕方頃に海の滝に着いて、海で海老や魚を捕って、それを食べて早めに就寝する。
そして次の日の朝、魔力が回復しているのを見て出発する。
この方法が出来るのは、ソマルさんが作ってくれたボートがあるから。 本当に感謝しかない。
そろそろ着く頃…… っと思っている時、ずっと前の方にバシッと伸びた雨雲が見えた。
更に近づいて行くと雨雲の手前に下から水が吹き出し、盛り上がっているのも見える。 ……やはり前回と同じ。
後は下を注視しながら進むと、たまに大きな魚影も見える……
雨雲が近いので雲を動かしてくる。
そこからはいつもと同じ。 上空を冷やして摩擦で雷を作る…… そして大きな魚影が見えた時、サンダーを発動させた。
陸側にプカプカとボートを浮かばせている……
滝側は滝に一直線だけど、陸側にボートを浮かばせていれば下から水が噴き出て盛り上がっているところを乗り越えることはない。
後は朝までゆっくり休むだけ……
さっき捕った魚を焼く。
塩だけ持ってきたので、塩を振って食べながら考える……
このボートは予想以上に使える…… でもここからが本番。
裸一貫で飛んで来て、亜人国の王様にまでなった奴が、帰るのが怖いとまで言った道のり。
舐めている訳ではないけど、余裕で越えてやる!
次の日の朝、魔力もほぼ回復してるので出発する。
これから先は魔力頼り、ひたすら飛ぶだけ。
前回来た時に進んだのは雨雲の下で、体が濡れて体力を消耗した、なので今回は雨雲の上を行く。
雨雲の上まで来た…… 圧倒される景色。
きっと渡った人は雲の上を通ったのだろう。
今すぐ戻って兄を探しこの事を伝えたいけど、兄なら直ぐに雨雲の上に来るだろう………
ひたすら飛ぶ。
俺が持っている魔力の回復薬はナッソーさんに貰った2本を含め、全部で16本。
それと体力の回復薬が2本。
シスターに頼めばもっと回復薬を買ってくれただろうけど経済的な負担をかけたくなかった。
理由は2つ。
1つは、あそこは正規の孤児院ではないので補助金も余り出ていないし、戦争が始まり兄達がするはずの援助も出来ているか分からない。
もう1つの理由が、飛んで来た人は翼で飛んで来た、という事実。
人型の短い翼で長く飛べるとは思えない。 ソマルさんだって「数時間だろう」と言っていた。
それなら体力を回復する回復薬を大量に飲んで渡ったという事。
でも寝なければ回復薬を飲んでも倒れる。
それならスピードが速くて体力はほぼ使わない俺は、余裕で裏に行ける可能性だってある。
余裕があればリリカを迎えに行こうかな……
夜になり回復薬を飲む。
前回、回復薬を飲んだ時は3割しか回復しなかった。
今回はもう少し回復してほしい…… と思っていても、やはり今回も3割しか回復しなかった。
……という事で、もう1本飲んでおく。
夜はいい。
昼間は凄い景色だけど、慣れれば飽きるし暑すぎる。
でも夜は涼しく、星空が恐ろしく綺麗だ。
でも…… ポツンと1人ではとても寂しい。
リリカ…… もしリリカが後ろに居てこの景色を2人で見ていたなら、俺はどんなに幸せだったろう……
星を見ながらリリカと…… いや、もうやめよう。
女々しい俺は、リリカに「一緒に行こう」と「待っていてくれ」を言いたかった。
でも直ぐに死ぬかも知れないから、言えなかった……
だからリリカに「待っているから」と言って欲しかったのだ。
でもリリカは「新しい恋をして普通に暮らしていく」みたいな事を言っていた。
もう現実をみよう。
俺とリリカは別れ、それぞれの道を歩んでいる。
これでリリカを想うのは最後。
新しい出発だ。
次の日の夜になる。
朝に回復薬を3本、そして今も2本飲んだ……
これで回復薬は残り9本。…
この道を翼で飛んで来たのは信じられない……
しかも150年前に来た人は、この道をまた帰ったという情報まである。 確実に化け物だ!
多分、亜人だろうけど…… 亜人と言えばリリカ……
リリカ…… もしリリカが後ろに居て、この景色を2人で見ていたな…… って、またやってるよ俺!
中々、新しい出発が出来ないな…… 俺。
また次の日の夜。
全然着く気配がないんですけど? もしかして裏の世界って、誰かの妄想?
回復薬はとっくに半分を切った。 これで戻るという選択はなくなり、死ぬまで進むしかなくなった。
改めて思う。
リリカとローチェを背負っては来れなかったと。
飛ぶのには魔力を使うけど、体力はそんなに使わない。
でも人を背負うと体力も使う。
誰かを背負って行けるような、そんな甘い道のりではない。
実際、今俺は回復薬を尽きた後の事を考えている。
俺の死も近い⁈
夜中に孤児院を出てからもうすぐ5日。
回復薬はもう残り1本。
そろそろ決めておこう…… 回復薬が尽きたら魔力がなくなる直前に保存食を全て食べる。
そして魔力が1割を切ったらリュックを捨てる。
俺の命の刀も悔しいけど捨てる……
そして魔力が尽きる直前に海に潜る。
そこからは体力が尽きるまで頑張って、魔力を回復。
そして魔力が回復したら進むを繰り返す……
幸い体力を回復する回復薬が2本あるのと、俺は海の中でも15分も息継ぎなしでいられる。
もう殆ど魚みたいなもんだ。
足掻くだけ足掻いてやる!
太陽が後ろから登ってきた……
方向的にはそれほど間違ってないはず……
回復薬がなくなり、魔力ももうすぐ1割を切りそうだ。
でも、やっぱりリュックを捨てるのはギリギリにしよう……
なるべく高く飛び、魔力を抑えるように手からのジェットはなるべく出さない。
保存食を食べながら泣きそうな気分で飛んでいる時に、それは見えた。
前の方、遠くに雨雲がない!
残りが殆どない魔力でそこまで急ぐ……
同じ…… 出発した海の滝と全く同じ景色。
雨雲も、滝も、下から噴き出て盛り上がっているところも……!
そう考えながらも俺は、ボートを膨らまして陸側に置いて、速攻で寝た……。
ーーーーー
暑さで目が覚めたけど、まだ日が高い…… 昼頃?
それでも凄くスッキリしているし、魔力も思ったより回復してる。
多分、魔力が枯渇状態だったので少しの睡眠でもスポンジが水を吸うように魔力を吸収していったのかも⁈
そして思ったより体力がなかったことを、今気づく。
睡眠とは、とても身体に必要な行為と改めて認識した。
ふぅ、朝は後ろから太陽が登ってきた……
つまり此処は東になるはず。
西の海の滝から、東の海の滝まで飛んで来たという事は、もう少し飛べばリーブルの東に着けるのでは……
いや…… ここが東ならば、獣人国の可能性の方が高い⁈
まぁ、それはいい。
今は体をスッキリしたい。
ボートの中は汗でヌルヌルだ…… コレはヨダレか⁈
俺は全裸になり、風呂(海)に飛び込んだ。
気ん持ちいい〜。 魚がいっぱいいる!
魚を追いかけジェットを使い深く潜る…… そして空気を吸いに海面を目指す……
海面がキラキラしてとても綺麗だ。
そのままジェットで10メートルくらい飛び出して、ジェットを解除する。
ドボーンとまた海の中に戻る。
海の中では、金の玉を海面に打ちつけてもがいている俺がいた…… この年でやっとパンツがこの為にある事を知った。
散々遊んだあとボートに戻り大の字で寝転がる。
ー自由ー
兄やシスターが言っていた自由が確かにあった。
そう、自由とは全裸、全裸とは自由!
今度、シスターと兄に会ったら自信を持ってそう言おう! ……いや、待て。
それだと兄まで全裸になってしまう。
それはちょっと…… 気持ち悪いよな。
そんな事を考えながら、俺はまた眠りについた……
これで一章は終わりとなります。
ー自由ー
を見つけたので、本当はこの物語は終わりなのですが、自由は全裸ではないので、、、
まだ、続きます!




