上位亜人
第一章 旅立ち(亜人国編)
第二十六話 「上位亜人」
この辺りで1番小さな島。
直径では4キロくらい、ほぼ岩場で砂浜は俺達の降りた20メートルほどだけ。
島の中は木々が生い茂る無人島。
今日はリリカと最初で最後のデートになるので、暗くなるまで遊ぶ予定でいる。
そして、暗くなったらそこから5時間かけて帰る。
6月の夜中の空はまだ寒いので、俺もリリカも初めから水着を着てる。
俺の水着は新しい孤児院に引っ越した時に買った物、でもあれから急激に背が伸びたので少し小さい、後で捨てよう。
リリカの水着は、ピッタリした短パンに丈の短いピッタリとしたTシャツみたいなやつ。
ハッキリ言って露出度は低い。
でもピッタリしてるので胸の膨らみはよく分かる。
一応手を合わせ、拝んでおく。 南無〜。
「プハ、何やってるの? ダントツ2号君」
「1号…… アイツがいけないんだ。 今度会ったらアイツの股間に虎鉄を打つって言っといて」
「止めてあげてよ、吹っ飛ぶやつでしょ」
俺の頭にスケベを浸透させた罪はデカイ。
「違う、内部で爆発するやつ」
「怖いよ〜。 リュウがスケベになっても良いよ。 少し他の男子よりエッチな事に興味なさすぎだと思ってたし……」
他の男子はどれだけスケベな視線でリリカを見ているんだ……
「剣のことくらい私に興味あればな〜。 ムフフ、止めてよ〜、エッチなリュウ」
何を想像されちゃってるの⁈
「それより腹減ったね。 何か食べれるやつを取ってくるからリリカは焚き火でもしといて」
「いきなり現実に戻さないで! もう…… でも確かにお腹空いたね、わかった、火をつけとく」
リリカの属性は火と風と水なので、正に安心焚き火属性。
海に潜り、食べれるものを探す…… 貝類は豊富にある、とりあえず数個取っておく。
何個か貝を取って海を上がると、丁度、燃やす木を抱えたリリカが笑顔で寄ってきた。
「ねえリュウ、私ね、向こうで大きな木の実がなってるの見つけちゃった。 後でジェットで取ろうよ」
「わかった。 貝を食べたら見に行こう」
午前中はそんな感じで、島を探索したり、リリカに泳ぎを教えたりして過ごした。
そしてお昼近くなったので魚を捕る。
上空を冷やし雷雲を作る…… 10分以上かかるけど、雲の中に光が見える。
そして、ドーンとカミナリを堕とす。
そしてカミナリが堕ちた辺りをジェットで見回ると、魚が数匹プカプカと気絶しているので、大きめの魚を2尾ほど捕まえる
ちなみにサンダーは魔力をやたら使う。
多分、雷雲を維持したままサンダーを数発打つと、俺の魔力は尽きるだろう。
前世での俺の面倒は主に爺ちゃんが見ていた。
共働きの両親だったので、小さな頃から俺の相手は爺ちゃんだった。
その爺ちゃんの趣味が魚釣り。
俺は釣りを好きにはならなかったけど、捌いて食べるのは大好きだった。
コツッと魚の脳をクナイで突いて、息の根を止めておく。
ウロコを取り頭を落とす。 そこから腹を切り込みワタを取ってリリカに渡す。
リリカはジャブジャブと海で捌いた魚を洗う。
そして洗った魚を3枚に下ろす。
今回は1キロ程度の魚で所要時間は10分。
1尾は3枚に下ろさないで、塩を振って焼く。
下ろした方も塩を振り、木に吊るしておく。
後は焼けるのを待つだけ…… だけど、リリカが近い。
「リリカ、近くない?」
「中々出てこないね、ダントツ2号…… あっ、これは普通に恋人の距離です」
呼ぶぞ!
「リュウ、私を見て……」
リリカは目を閉じている……
「まだ眠くなるには早ぇ。 まだ飯も食ってねぇんだぞ。 by ソマル」
「キャハハ、パパは出て来ないで。 もう! あの人呼んでよ! ダントツな人!」
「わかった。 リ、リリカちゃは〜ん、ひ、日陰で寝なよ。 ゴキュリ…… な、何もしないから」
「プハハ〜、それは1号! リアルに気持ち悪いから! ……もう、付き合ってない人とキスしてたくせに!」
「何それ? 誰の事?」
「え… だってキスしたことがあるって……」
「ああ、飼ってた犬のタローとね」
人とはありません。
「何で、そんなのカウントしてるのよ! もう、あの時凄くショックだったんだから…… でも人とはないんだ…… プフフ、じゃあ許してあげる。 でもそれじゃあリュウも、やり方とか分からないよね」
ところが分かるのだ。
「分かるよ。 教えようか」
「うん……」
リリカは再び目を閉じた…… が、開いた。
「い、一応どうやるか聞いていい?」
「何で? 別に唇をペロペロ舐めるだけだよ。 タローで1分くらいだったから、2分くらいか……?」
「どうしてそこまでタローを信頼してるのよ! もういい! リュウ、目を閉じなさい」
こうして、リュウことダントツ2号のファーストキスは、リ、リリカちゃは〜んに奪われた。
タローの嘘つき!
良く焼けた魚を食べる。
味付けは塩だけだけど、うんまい!
貝も頂く…… 味付けはソマルさんのお酒に醤油のような調味料。 うんまい…… 身も美味いけど、貝の出汁が効いてて、汁がめちゃ美味い。
と、美味しい昼飯を食べていると、海からボートが近づいてきた…… どうやら上陸して来るようだ。
ボートには3人の男、上半身裸で皆んな逆三角形の見事な筋肉。
下は民族衣装のような派手な長めの短パン。
上陸してきたのは3人の男で、2人は30歳くらい、もう1人は17、8歳くらい。
手首辺りから規則的に吸盤のような丸い斑点が、上腕部辺りまで幾つもついている。
砂浜までボートを乗り上げた男の1人が俺達に声をかける。
「我等の島の近くでサンダーを使ったのはお前達か? 他の仲間はどうした?」
「俺だけど、何か迷惑かけた?」
「…… 朝方にも怪しい人影が空にあったと報告がある。 お前達はどうやってこの島に来た?」
やっぱり空は逃げ場がないし目立つ。
ジェット自体はそんなに音はしないけど、静かな朝方なら音も聞こえたのかも……
「それも俺、何か迷惑かけた?」
「お前バカにしてんのか! リーファスさんを舐めるんだったら俺が許さねぇ! チッ、いい女連れやがって…… クソッ」
1番若い奴が、俺に向かって言った。
「俺はリーファスさんだっけ? その人に聞いている。 関係ない奴が口を挟むな」
「クッ、この中位が!」
厳密には、下位でござりまする。
今にも飛びかかって来そうな若い男。
しかし、リーファスと呼ばれた男が割って入る。
「本当に2人でサンダーを発動したのか? まぁいい。 我等の島の近づく怪しい奴を排除するのが島の掟だ。 特にお前は上位亜人にも怯まない……怪しい男だ」
上位亜人か…… ソマルさんの話ではチート級の強い種族もいると言う。
この人達の、あの腕についてる吸盤は要注意。
「私達は、海水浴に来ただけです。 迷惑もかけてないです!」
「お姉さんかな? ムフフフ、スタイルいいねぇ。 俺も中位亜人でも良かったかも……」
リリカ…… モテすぎだろ。
「バカ言うな、エテルナ! ライミットの誇りを忘れるな。 ……とにかくここから早く去ってくれ」
まぁ、掟なら仕方ないか。
別に飛んで去っても問題なさそうだし……
「いや、待て。 まだ話はまだ終わってない。 リーファス、男の事情聴取を事細かく聞いといてくれ。 女は別の場所で俺とエテルナで聞く」
リリカをネト〜って感じで見てた、ずっと黙っていた男……
リーファスは…… 困った様子だけど、仲間の暴挙を正すまではしないか……
「お姉さん、ほらあっちに行こう。 ねっ、ねっ、何もしないから」
出てきた、3号!
ナンテコタ…… デテキタァヨ、シャンゴウ。
「お姉さんじゃないです。 恋人です」
「そんなのいいから、あっちに行こ!」
3号、癖つえ〜。
リリカは何気に俺の後ろに回っている。
守られる者としてのセンスが高い。
更に下がるよう、後ろに手を回し合図する。
エテルナはリリカを追うように、俺の横を不用心に通る。
ガッと手首を掴み、今回は遠くに投げるように一本背負い。
エテルナは空中で腕の吸盤から、ムチのような物を数本地面に出して、綺麗に立った。
「このクッソ中位がぁ! もう許さねぇ!」
と言っても、1つのスキルは分かったぞ。
更にリリカが下がる合図を送る。
「ダメだ、エテルナ! ライミットの誇りを汚すような事をするな!」
「いや、上位亜人が舐められている! 少し痛い目に合わせるのもライミットの役目だ」
「ギャロック! 勝手な事を言うな!」
「リーファスにはわからねえよ! 俺とエテルナの気持ちなんか!」
「クッ…… お前達だって、俺の気持ちはわからねえよ……」
何のことを言ってるんだ?
「どうでもいいけど、海に戻ってから仲間の気持ちを考えようぜ。 そうしよう。 ほらエテルナ、帰れ」
「こんのぉちゅういぃ〜!」
ブチ切れたエテルナの両腕から、何十本ものムチが伸びてくる。
後ろにジャンプしながら、右手からジェットを出して対応する。 ジェットから抜けてくるムチは、クナイでぶった斬る。
斬られたり燃やされたムチは、腕の吸盤に戻り、紫色の斑点に変わった……
劣勢と見ると、ギャロックとか言う奴が俺の右へ回り込む。
女連れに2体1とは、何がライミットの誇りだ!
2人を相手にしてからは、盾をメインに防御していく。 ……でも防戦一方なのも事実。
リリカは更に後ろに下がり、今は大きな岩陰に隠れている。
前回パッツァンとの戦いでは、リリカが近かった事もあり、パッツァンにリリカは狙われた。
なので今回の動きなのだろうけど、リリカ以外なら負けもあった相手。
庇いながらで防げる量じゃない。
このまま防いでいても意味ないので、リリカを抱えて逃げるか…… と思い始めた時、俺の視界に海の上に立って進んでいる人が見えた。
そして戦ってないリーファスも気づいて、大声で仲間達に伝える。
「サランだ! お前達、サランが来た!」
ピタッと攻撃が止み、皆んなサランと呼ばれた人物に注目する。
海の上を足を動かさずに、スーっと動いている……
サランは女…… 上はサラシ、下は短いスカートで男達のズボンと同じ柄。
男達の斑点は手首から上腕までだけど、サランは手首から肩まで斑点があり、足も膝下から足首まで斑点がある。
サランが上陸してくる。
やはり足からムチを海の中に出していたのか、ムチが足の吸盤に収まり、斑点に変わった。
サランは不機嫌そうな顔で、リーファスに近寄る。
「漁に行って、こんな所で中位イジメ?」
「サ、サラン違うんだ。 その男が怪しかったから話を聞いてただけだ」
「バカ言わないで! ハンドウィップが見えてたわよ…… リーファスは嘘つきね」
「や、止めろって言ったんだ。 でも2人が……」
フンッて感じで、サランはエテルナに近寄る。
エテルナはサランが来ても、ピクリとも動かない。
サランはエテルナの斑点が紫色になっているのに気づき、そこを触る。
「エテルナ…… プハハッ、やられてるじゃない。 だっさあ〜い」
サラン…… 細長い垂れ目の女だけど、いい女の雰囲気。 ……見た目25歳くらいか。
「ギャロック、エテルナを連れて漁に戻りな!」
「お、俺は?」
「話を聞くに決まっているでしょう? そこのカップルもいいかしら」
この女に誰も逆らわない。
ライミット族は女の立場が高い種族……?
「ふ、船を持ってかれたら俺の帰りは……」
「泳げば良いでしょう?」
近くの島とはいえ、結構離れてる。
俺がジェットを使わないで泳いだら、5時間ってところか。
「そこの少年もいいかしら? あら、いい男…… タイプだわ」
中々わかってる人だ…… 決していい男と言われたから言ってる訳じゃない!
「後ろの彼女も…… 綺麗な子ね。 エテルナ! 貴方の評判は最悪なものになるわね」
何のことを言っているかは分からないけど、エテルナは淡々とボートを押している。
「話をするのは構わない。 でもその前にあのムチの射程距離と、もう1つのスキルを教えてくれ」
素直に応じなければ、リリカは後ろにいてもらう。
「ムチの射程は人それぞれね。 だいたいは10メートル前後。 私は13メートルよ。 スキルはそうね、
ムチを受ければ分かるけど、痺れるわ。 ただ即効性はないから、何発も受けなければ大丈夫」
一応、距離を測りながら戦っていたけど、エテルナの射程は8メートルくらいかも。
それ以上離れようとすると、前へ出てきていた。
それにしても強力なスキルだ、1発でももらったらもう負けが確定してしまう。
まぁ、これ以上疑っていても仕方ない。
サランは戦いを止めてくれたのだから……
リリカに合図して、サランとリーファスに近づく。
「貴方…… 凄い傷跡ね…… それに…… 無傷なの? ギャロックとエテルナに囲まれて……」
「最初にエテルナがスキルを見せてくれたからね。 それよりサランさん、止めてくれてありがとう」
あのままなら、昼間なのに飛んで逃げるしかなかった。
「いえ、それはいいわ。 それより貴方達から見たリーファス達を教えて」
サランは、ギロッとリーファスを睨めつけた。
別に上位亜人の掟なら仕方ない。
だから大人しく去ろうとしたのに、ギャロックとエテルナはリリカを俺から離して取り調べをしようとした。
その意味が分からなかったので、ケンカになったとサランに伝えた。
「リーファス、間違いない?」
「…… ああ」
「そう…… アイツ等を庇う訳じゃないけど……」
と、サランは切りだし、ライミットの内情を教えてくれた。
ライミット族は女が族長の、女上位の種族。
ライミットの特徴であるムチも、女の方が沢山出すことが出来る。
そんなライミットだが、近年女が少ない。
女1人に対して、男が2人。
女が少なければ、ライミットの衰退、絶滅に繋がる。
だけど今問題になっているのは、ライミットの余った男達の事だ。
結婚する相手がいなければ、この小さな島で1人寂しく年老いていくしかない。
なので近年のライミットは島を抜ける男達が絶えない、とサランは言った。
「きっとギャロックもエテルナも、島を出る覚悟でいるはずよ」
つまり、ライミットの誇りを捨てるのか。
でも奴等…… リリカに何するつもりだったんだ。
「リーファスさんは相手はいるの?」
この質問に鈍感な俺でも分かる、気まずい雰囲気が流れた。
「リーファス、もう帰って……」
リーファスは悲しそうな瞳でサランを見て、ゆっくり海に入って行った。
「リーファスの相手は、一応私よ……」
一応の理由をサランは教えてくれた。
今のライミットの危機に族長は、女1人に対して2人の夫を持つよう指令した。
しかし女達がこの指令に反発。
特に夫婦からの反発は大きく、族長も指令を取り下げた。
その代わりの指令が、女は2人目の子は他の男との子を産む、であった。
その意味は大きく、例え兄弟であっても父親が違えば、血が薄まり、また子を作る事も出来る。
絶滅を回避するライミットの最後の策、と言ってもいいだろう。
女達も渋々ながらも、この指令を受け入れる。
「リーファスと2人目の子を産むわ。 でも私が愛しているのは、幼馴染のシースタックだけ……」
薄々は上位亜人は不憫な人達と、ソマルさんから話を聞いて感じていた……
でも実際会ってみると、不憫この上ないな……
「それでも、好きな人と結ばれるのは幸せですよ」
リリカが言った。
「私達はもうすぐ別れます。 いくら愛しても、結ばれる事はないのです……」
不思議そうな顔をしていたサランが俺を見る。
「俺は人間です。 それに大切な人達との約束で裏の世界に行くんです」
「貴方は…… 飛べる亜人とのハーフなのね…… そう…… エテルナ達が悪いことをしたわね。 きっと幸せそうに見えた貴方達に嫉妬したのね」
今は本当に幸せを感じる。
リリカと一緒にいると楽しくて仕方ない。
「お詫びと言ったらなんだけど、彼女が隠れていた先から砂利になってるの。 探せば翡翠が取れると思うわ。 昨日までの台風で、質の良い翡翠が見つかるかもね」
とサランは言い残し、リーファスを追うように海へと帰った。
初めての上位亜人との交流。
裏の世界でも交流がたっぷりある事を、この時の俺はまだ知らない。




