ハーフの呪い
第一章 旅立ち(亜人国編)
第二十三話 「ハーフの呪い」
メジャーリーグのピッチャーが、肘を壊して手術をした。
復帰まで1年半。
それでも彼は腐らずに、毎日リハビリメニューをこなしていった。
一度リセットした筋肉は、中々元には戻らない。
プロの世界において1日休むと取り戻すのに3日かかるという言説。
でも本当か?
そのピッチャーは見事に復帰した。
1年以上も筋肉を使わず、リセットされてしまったはずなのに、彼は怪我をする前より速いスピードボールが投げれるようになっていた。
この例は彼だけではない。
多くのピッチャーが怪我の前より、優れた投球が出来るようになった。
もちろん中には、そうならなかった人もいるけど……
では何故1年以上も休んでて、復帰してからそれほど時間がかからずに活躍出来たのか?
それがリセットだと思う。
リセットは怪我でもしないと怖くて出来ない。
だって1日休んだだけで、取り戻すのに3日かかると言われてる世界だ。
でもリセットして、正しい方法でまた作り直すと、今までより優れた筋肉が手に入る。
これはある程度、証明されたと言っていい。
そして大事なのは俺の事だ。
全治に3ヶ月もかかるという。
回復薬だって飲んだのに!
ベニラムの病院でそう言われた。
小さな頃から続けてきた稽古も、激しい動きは制限される。
これをリセット出来るチャンスとでも思っていなければやってられないのだ……
と言う事で、朝夕の稽古は家の庭で柔軟と体幹トレーニングだけしている。
リリカも付き合ってくれてるけど、もうあの広場にはリリカは連れて行けないだろう。
言っても反対されそうだけど……
3ヶ月だと7月になってしまう。
季節的にはいいけど、タダで飯を食わせてもらう訳にはいかない。
なのでリリカの学校の送り迎えはベニラムまでしてあげて、ソマルさんの手伝いも雑用程度だけどしている。
そんなソマルさんの手伝い中に、俺にとって重要な話があった。
それはこの星の過去の話だ。
この星がスペルティと言う事も初めて知ったけど、この星の過去の話は興味ある。
ソマルさんの興味深い話(3)
この星に人族が誕生したのは、一般には15000年前と言われている。
だけど当然、文献などは残ってない。
文献などがチラホラ残り始めたのが、約千年前。
その前に残るのが、昔話に説話や神話などだ。
人伝にひっそりと何千年も伝わってきたけど、本物の話と証明出来る話があると言う。
それがこの星に伝わる神話だ。
今から6000年前、この星の生態系の頂点に君臨していたのは魔族だった。
亜人はその魔族の親戚と言われたが、能力は魔族よりだいぶ劣った。
人間は亜人の使用人として使え、魔族からすれば奴隷レベルの存在だったと言う。
その頃の獣人は誕生したばかりだったようで、森での生活を好んでいたようだ。
そんな魔族は破壊的な思想を持った民族で、森で獣人狩りを行ったり、遊び半分で亜人や人間を殺めるのは日常茶飯事、やりたい放題だった。
しかし、そんな魔族が大魔道士3名を含む人族連合の前に滅びる。 ……と、言うより魔獣にされた。
大魔道士については諸説あり、それぞれの人族間で自分達の種族だったという話が、都合よく伝わっている。
ちなみに魔術を発動する詠唱も、大魔道士の1人が作ったとされている。
問題はここから。
何と、この大魔道士達は後世に自分達が魔改造したそれぞれのパーツを残したのだ。
1人は眼を、1人は耳を、1人は鼻を残した。
仕組みとしては大魔道士の死後、ランダムで次に生まれる者に継承される。
また、その継承した者が死ぬと次に生まれてくる者へと継承される仕組みになり、それが今日まで続いていると言う。
このシステムは眼、耳、鼻を持っていれば誰でも継承してしまい、今現在、誰が持っているかは分からない。
もしかしたら、動物や魚に継承しているのかも知れない。
俺はこの時点で、嫌な予感がしています……
その特徴を教えてもらった。
眼 良く見える。 短命。
鼻 犬の数倍の嗅覚。 匂い過ぎるので口呼吸。
耳 数キロ先の会話も聞こえる。 ただ聞こえ過ぎるので気が狂う人が殆ど。 短命。
こうして見ると、残した意味が分からない……
何でこんなの残したの?
「ソマルさん…… 俺のこの眼は本当に良く見えるんだ…… もしかして、コレ?」
違うと言ってくれ〜。
「俺が騎士団に所属していた亜人国の首都、ギザマイルにいた頃の話だ…… 歩兵隊に所属していた男の村に、鼻を継承した女が居た。 その男の話ではその女の鼻の穴を覗くと、魔法陣が描かれていたらしい。 リュウの眼にはねぇ。 ただの良く見える眼、ってだけだ」
ありがとう〜、僕の為の神さま。
「ふぅ、よかった。 でもその女の人は?」
「分からねぇが、臭い、臭い、言ってたらしいぞ。 何度も自分の屁で気絶してたようだ」
何故残した!
「魔族って、完全に滅びたの?」
「まぁな、だが人型の魔獣はいるぞ」
「強いんだ…… パッツァンとどっちが強い?」
「人型で強い種は、恐ろしく強いぞ。 頭さえ良ければまた魔族に支配されてもおかしくねぇ」
マジか…… 会ったら秒で逃げよっと。
ーーーーー
ある日の午後。
リリカを迎えに行った俺は、1人の少女に声をかけられた。
「あの〜、リリカさんの親戚の方ですよね」
設定ではそうです。
ソマルさんの妹と、誰か適当な人間の男との子供、つまりハーフ設定。
「私はリリカさんの1つ年下のミシルと言います。あの、私もハーフなんです」
ミシルと名乗った少女は、自分もハーフだと言った……
ミシルは生まれてから6年間は、父の母国、亜人国で暮らしていた。
しかし母親のお母さん、ミシルから言うとお婆さんが倒れて亡くなってからは、寝たきりだったお爺さんの世話をする為に、母と人間国に帰ることになる。
しかし2年後、母が他界。
戦時中という事もあり、王都の孤児院に預けられていた。
それから数年……
戦争が休戦になってから数日、ようやく亜人の父が人間国入り出来るようになり、迎えに来てくれたのだとミシルは話した。
「お爺さんはどうなったの?」
「遠い親戚の方が…… 私は孤児院に預けられたので、後は分かりません……」
「ミシルはこれからどうするの?」
「ハーフは20歳までしかこの国にいられないじゃないですか…… だから20歳になったら、人間国に戻ると思います」
そんなルールがあるのか、知らなかった。
でもハーフはこの国では生きるのは辛い。
ハーフは亜人との子供を産めないので、まだ人間の方が恋愛対象になりやすい。
強制的に人間として生きて、それでも人間国ではハーフ扱いされる。
幸い、ミシルは亜人っぽい顔つきではなく、おっとりとした顔つきだ。
人間となら子供も産めるので恋愛対象にもなるだろう。
「学校では、イジメとかない?」
あ…… 余計なことを聞いてしまった。
イジメられてても助けられないのに……
「だ、大丈夫です。 人間より優しい人が多い気がします。 でもやっぱり距離は感じますね……」
それは俺も感じた。
でも人間は200年も戦争してるんだ、皆の心が疲弊して人に優しく出来なくなっても仕方ない。
距離は…… だから1人で下校してるのか?
「リュウ……」
お帰り、と言う間もなく、リリカは俺の腕は掴み歩いた。
どんどん離れるミシルを見た時、一瞬ローチェと被った。
リリカの腕を振り払う。
一瞬リリカが唇を噛んだのが見えた。
ミシルの所まで戻る……
「また、話しかけてくれる?」
「えっ、でも……」
ミシルは足早に去るリリカの方を見る……
「大丈夫、約束ね」
ミシルは戸惑いながらも、コクリと頷いた。
リリカには直ぐに追いついたけど、リリカが涙を流していたので話しかけれなくなった。
そのままトコトコと歩くこと1時間……
リリカには泣いて欲しくないと思っているのに泣かせてしまった。
理由は全くわからないけど、俺が悪いのだろう。
謝っておくか……
「リリカ、悪かったね……」
「…… 別にリュウは悪くない、私がヤキモチを焼いただけ。 でもリュウはやっぱり人間の子が好きなんだね」
「何を言ってるのか分からないけど俺は別に誰でもいい。 種族に全くこだわりはないよ。 人間だってやな奴なら嫌うし、獣人だっていい奴なら好きになる。 でもまだ獣人のいい奴には会ってないけど…… リリカの家族は皆んな好きだよ。 家族に近い感覚がある」
「そ、そう。 でも私の好きは家族としてじゃ、ないからね」
「こんなに嬉しい事はない。 リリカは俺の初恋の相手だからね。 でも俺は亜人のスキルを継承した。 だからハーフ扱いなんじゃない? だったら俺は亜人とは子供が出来ない」
「あの…… 嘘、…… 本当?」
「何が?」
「初恋の相手が私って…… 言ったよね」
「うん」
リリカは呆然として歩き出した。
リリカが本当に望んでいたかは分からないけど、恋が実っても俺達には先がない。
リリカは今、やっと現実が分かったのかも……
それからの数日にリリカの変わった様子はない。
ただ少しだけ笑顔が多くなった気がする。
ミシルにはあれから会えてない。
ちょっと空き時間に探しているけど、会えてない。
そんな日の帰り道。
リリカはこの前の話をしてきた。
「この前さ、リュウはスキルを継承したからハーフと同じって言ってたでしょ。 だからあれから色々な先生にハーフについて聞いてきたのね……」
と切り出し、説明してくれた。
人間は獣人とも亜人とも、子供を授かることが出来る。
しかし、亜人は獣人との子供は出来ない。
厳密には過去には亜人と獣人の子が居た例はあるが、そのハーフの繁殖能力は全くなかった。
人間と亜人のハーフも、人間と獣人のハーフも特殊な遺伝子を持ち、人間としか子供を授かることが出来ない。
また生まれたハーフ&ハーフ(ピザじゃないよ)は通常の人間の遺伝子に近くなるため、亜人とも獣人とも再び子を授かることが出来る。
「何かね、専門家の間では、ハーフの呪いって言われてるみたい。 でもリュウはハーフじゃないんだよね。 だったらクォーター以降って事でしょ。 だったら大丈夫」
クォーターって言うのか…… 誰だ、ピザを頼んだのは!
「でもスキルは?」
「スキルはね、関係ないって」
つまりハーフだけ特殊って訳か……
それはそれでハーフが、ミシルが可哀想に思える。
「リリカさ、明日ミシルを連れてきてくれない? 話の途中だったからさ……」
「ご、ごめんなさい。 でもさ、リュウの好きになった子ってヤキモチ焼きだよね、キャハハ」
「それは忘れて」
「ムリ!」
ハァ、言わなきゃよかった。
でもリリカは俺の気持ちを聞いても踏み込んで来ない。
ソマルさん達の気持ちも分かっているし、俺の骨折が治り次第、リーブルに行くのも知っている。
このまま仲の良い兄弟のような関係で旅立とう。




