王都
第一章 旅立ち
第十四話 「王都」
蓮撃のフィニッシュの型は2つ出来た。
でも、脚への攻撃が絡むため、木刀ではフィニッシュになる前に耐えられてしまう。
真剣勝負の時だけのフィニッシュの型だ。
出来れば、木刀の時にも通用するフィニッシュの型も作りたい。
その型には、虎峰を入れたいけど…… 虎峰は保留中。
チラッと後ろの木を見る。
今日はローチェが久しぶりに木の下にいる。
でも、最近ローチェはふと浮かない顔をする時がある。
引っ越しも決まり、病院に行く日も決まった、なのに浮かない顔をするのはズバリ、病院が怖いからに違いない。
ローチェの隣に腰を下ろす。
ローチェは皆んなで試合をした場所を見ながら話し出した。
「ここでリュウを見るのもあと少し。 私ね、ここで初めてリュウを見た日の事を、今もハッキリ覚えているよ」
「何年前になる?」
「え〜と、8年前。 凄いよ私。 8年もリュウを見てたなんて!」
何か、ストーカー歴みたいだ。
「俺だけじゃないでしょ。 にいちゃんもいたしケビンもアギルもいた。 後は俺も忘れた」
「ふふ〜、マシェリは?」
「忘れるわけないでしょ。 俺はここで生まれてるから、最初は本当の姉ちゃんだと思ってたし」
「うん…… 会いたいね」
「何か、不安とかあるの? 例えば病院とか」
「別にないよ。 今はリュウが取ってきてくれた薬のおかげで、体調がいいんだ〜」
嬉しそうな顔をする。
薬を取ってきて良かった……
引っ越し当日。
ケビンが馬車を借りてきてくれた。
皆んなの荷物を荷台に乗せて出発する。
ケビンとシスターは前、俺とローチェは荷台に乗り込み進む。
馬車に揺られながら色々と考える。
これから住むのはログハウスのような作りの家だと言う。
その家から王都までは徒歩で2時間。
つまりローチェは入院じゃなければ、徒歩で王都の病院に通うことになる。
もちろん俺も付き添うつもりだ。
病院の予約は2日後、兄の優秀さがわかる。
何でも兄の所属する第2魔術師団の隊員の人が、貴族が通う病院を紹介してくれたらしい。
なので明後日は、病院の前に兄とその隊員の人と会う約束をしている。
兄とは裏の世界で会う約束だったけど、事情が変わったので仕方ない。
問題はその隊員の人が貴族という事だ。
リチャードの話ではかなり高い地位らしく、失礼のないよう念を押された。
でも俺は存在自体が失礼な奴なので、自信がない。
隣に座るローチェに任せる事も考えたけど、ローチェも喋りが上手い方とは思えない。
やはり俺が挨拶するしかない。
……少し練習するか。
「初めましてルークの弟のリュウと申します」
ローチェは???だったけど!!!に変わった。
「は、初めまして、ローチェと申します」
「この度は病院を紹介してくださり、ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」
「ハハハ、確かに良く言われますが、自分ではそうは思っておりません」
ローチェは???からずっと???だった。
「ちょっと、何言われた事になってるのよ!」
「何か、礼儀正しい好青年だって言うから……」
「誰が? だいたい確かに良く言われますって、私は1回も言われてるの聞いた事ないよ!」
皆んな口に出さないだけ……
「ハハハ、確かに僕は謙虚です。 えっ、結婚? 僕はまだ13歳なので……」
「誰が謙虚? それに、なんでプロポーズまでされてるのよ! バカ!」
ヤバい……
今まで築いてきた、知性溢れるイケメン兄ちゃん像が崩れてしまう。
……いや、まだ大丈夫か。
その日は暗くなるまで走り、暗くなってからは馬を休めながら一夜を過ごした。
その時にケビンが王都に売っているある物、について俺に教えてくれた。
ある物とは、回復薬である。
回復薬は怪我を治す回復薬、体力を回復する回復薬、魔力を回復する回復薬があり、それぞれ普通回復薬と高回復薬がある。
効き目は人それぞれで、使って調べるしかない。
と言っても回復薬は高価なため、ケビンは使ったことはないそうだ。
……でも、この情報の価値は高い。
俺の魔力量でどうやって海の滝の先を越えるか?
その答えがあったのだ……。
王都へ続く街道を右の脇道にそれ、緩やかな坂を登って行く。
川が流れて、大きい畑が幾つもある。
作物を育てるのに適した土壌なのか。
30分も走ったか? 馬車が止まった。
馬車を降りるとリチャードが待っていてくれた。
リチャードの後ろに見える家が、引っ越し先の家だろう。
丸太を組み合わせ作ったような大きな家。
木の階段を5段だけ登ると玄関がある。
リチャードに案内され中へ。
一階は大きなリビングに風呂、トイレ、キッチンとあり、二階には部屋が6部屋もある。
これからはそれぞれ1人部屋なので、もうヨダレを寝小便と間違われる事もない。 つまり垂れ放題。
庭もあるので今まで通り畑にして、作物を育てる事も可能だろう。
何処にその価値があったのかは俺にはわからない。
でも、奴等に殺された人達、ローチェのように家族を引き裂かれた人の無念を少しでも晴らせてよかった。
その上、こんな素敵な家まで手に入った。
俺の手は血で汚れ、それは一生消えないけど、そんなのはどうでも良い。
ローチェが笑ってくれるなら、こんな手はいくら汚したっていいのだ……
その日の夕食時に、明日はシスターも一緒に病院に付き添う事を聞いた。
シスターは初めからそのつもりでいたようで、何より兄に久しぶりに会いたいようだ。
なので貴族への挨拶はシスターがする。
多分、これで俺がプロポーズされる事もないだろう。
次の日。
王都へと続く道を3人で歩く。
ローチェがいるのでゆっくりと進む。
王都はドジャパレスという街名らしいが、覚えづらいので王都でいいや。
何処からかパンの焼ける匂いとともに、俺達は王都へと入っていた。
この道をずっと行った先にはお城も見える。
お城の名前はノース・ブリッジ?、バリッジ・何たらと言い、初代王のノース・何たら様が建てたと、今シスターが言ってた。
教えてもらっても、2分後には忘れているだろう。
中心に進むにつれ活気が出てきた。
道の横のお店も出店みたいのから、段々ちゃんとしたお店へと変わっている。
すれ違う人は、心なしオシャレに見える。
と言うか…… 俺達は田舎者丸出しだ!
キョロキョロした目元、匂いに釣られヨダレでも出そうな口元(俺だけかも)、良くその服でここまで来たね、と言われそうなボロい服。
は、恥ずかしい…… と思ったのはシスターも同じだったようだ。
「服を買って着替えましょう」と言ってきた。
でも元々貴族に会うので、服は買うつもりだったみたいだ。
俺達は少し背伸びをし、高級そうな服屋に入った。
ローチェ 白いワンピースに黄色いカーディガンをチョイスした。
『お嬢様みたいで可愛いね』と言うと、満面の笑みを見せてくれた。
リュウ ジーパンのようなズボンに白いシャツ、そしてローチェが自分のカーディガンの色違い(紺色)を持ってきてくれた。
『王子様がお忍びで街に来たみたいだね』、とは言われなかった。
シスター 何か、買ってた。
シスターの扱いが雑と言われようと、俺に女の服など分からない。
ー新しい服ー
その後、一旦待ち合わせ場所の噴水前まで行って、まだ時間があるのでシスターは教会、俺達は街を回って見る事にした。
俺とローチェはそのまま城の方に進んだ。
しかし途中から城門があり、この奥には貴族だけが入れる街が広がっている。
もしかしたら、この奥の街を事をジャパスレ? とか何とかと言うのかも知れない。
その後は人伝に、回復薬を売る店まで行って店主に色々聞いてみた。
体力を回復する回復薬。
簡単に言うと、マラソンで疲れて止まった人に飲ませると、また走り出せる。
ただ飲む前に走った距離の5分の1程度の距離しか走れないらしい。
値段は普通が3ルガー、高回復で6ルガー。
でも、これは俺には関係ない。
魔力を回復する回復薬。
人の魔力量により回復具合が異なる。
余り魔力のない人なら、普通回復薬を飲めば満タン。
逆に魔力が多い人は、余り回復しない。
結局、飲んで調べるのが正確。
値段は高く普通で10ルガー、高回復で30ルガーもする。
怪我の回復薬もあるが、時間がないので聞かなかった。
それにしても魔力の回復薬の高さにびっくりした。
リチャードの給料が240ルガーと言っていた。
高回復薬が30ルガー。 たった4本で給料の半分。
親指程度の入れ物でかなりの高級品だ……。
お昼も近づいてきたので、噴水前でシスターと再合流。
昼食を摂る。
入ったお店は、噴水の近くのオープンテラスのある、イタリアンレストランのような作りのお店。
出てきた料理もパン生地を薄く伸ばして色々な食材を乗せて焼く、ピザのような料理。
この世界にも、こんな料理がある事を生まれて初めて知る、リュウなのであった(朝ドラ終わり風)。
お腹も満たされ後は噴水前で待つだけ。
そう言えば、シスターは何しに教会に行ったのだろう。
「シスター、もしかして王都の孤児院とかも見てきたの?」
「うん…… 見てきた。 凄く子供達がいたけど今は休戦中で、それでも少ないそうよ……」
マシェリのように、休戦中親が帰って来てる子もいるのだろう。
俺達の院は最南だったため、物資は最悪になかったけど、狭くはなかった。
「それでね、あの家を孤児院として使えないか、聞いて来たの」
めちゃ行動が早いな……この人。
「で、何だって?」
「うん、前向きに考えてもらえるみたい。 今度視察に来るって」
俺とローチェが去ったらシスターは1人。
新しく子供が入って来るなら、少し安心する。
「リュウ!」
聞き覚えのある声。
振り返ると兄がいた。
1年と数ヶ月振りの兄、一緒にいるのは若い女の人と若くない男の人。
兄 大人になり背が伸びた。 精悍な顔つきになり、正義の味方感が強まった。
名前を付けろと言うならば……
ルーク 正義 か ルーク 種人
ハーフから抜け出せない兄……
若い女の人 20代前半の綺麗な人。
少し気の強そうな雰囲気。
俺は、よく笑うふんわりした優しそうな女性がタイプ。 なのでプロポーズは諦めてもらおう。
男の人 オッさん。
男の人の扱いが雑と言われようが、俺に男を語る趣味はない。
ー何の変哲もない普通のオッさんー
シスターが貴族向けのよく分からない挨拶をして、病院を紹介してくれたお礼を言う。
俺達も自己紹介して病院のお礼を言った。
女の人達も自己紹介してくれた。
女の人は上級貴族で、スティルリー・エルメナさん。
貴族は苗字がある事を生まれて初めて知る、リュウなのであった。
男の人はオッさんでいいや。
男の人の扱いが雑と言われようが、名前が長い。
俺は覚えが悪いんだ。
ー何の変哲もない中級のオッさんー
この2人は、兄と同じ第2魔術師団の隊員で、病院はエルメナさんが紹介してくれた。
オッさんはエルメナさんの護衛だろう。
そんなエルメナさんは、俺を観察するような視線で見てくる…… やっぱりプロポーズ、されちゃう?
と言うのは冗談で、本当は俺の魔力が目的だろう。
争奪戦まであったという兄の魔力。
兄弟なら、弟も魔力が高いと思うのは当然のこと。
やはり、話しかけられる。
「貴方は魔術師になりませんの?」
「ええ。 兄と違い、そういう資質に恵まれなかったもので」
「それでも貴方からは、ただならぬオーラのようなものを感じますわ」
「オーラ?ですか… 分かりませんが兄から剣術は少しだけ…… ただ魔術師の兄にさえ勝ったことはありません」
「ウフ、ルークは騎士団でも噂になるくらい強いの。 貴方も精進していけば騎士団にだって入れるでしょう。 良ければ紹介しますよ」
結構です!と心の中で即答した。
「ありがとうございます。 その時が来れば……」
「……来ますよ、きっと」
この人は鋭い。
平民では入れない騎士団に、初めて会った俺を紹介しようとするとは……
それでも兄に好感を抱いているのは分かった。
貴族の中でも上手くやっているようで、安心した。
兄達がローチェを連れて貴族街に行ったので、俺とシスターは、さっきの店でお茶を飲みながら待つ事にした。
俺はシスターに聞きたい事がある。
「シスターは俺とにいちゃんを産んだ人?」
シスターはこの質問で慌てる様子はない。
「貴方は本当にマイペースね…… 今更? 遅すぎない? ルークにも聞かなかったなんて信じられない」
「でも、どっちでもシスターはシスターだからね。 育てた親に代わりない」
「ふふふ、リュウの癖に…… 貴方達を産んだのは、私のお姉さんよ」
そんな感じと思ってた。
「でも貴方達を育てたのは私。 特に貴方は産まれた時から。 私のおっぱいだって飲ませてあげようとしたのよ。 拒否されたけど」
出ないでしょ! それにそんな記憶はない
あるのは、牛に似た人に強引に飲まされたような……
って言うか話が逸れてる。
「シスターは、裏に行く事も全て知ってるんでしょ」
俺はローチェの薬を取りに行くのに、片道300キロを1日で行って帰って来た。
知らないはずがない。
「知っているわ。 貴方自身が開発した魔術で、もう貴方を縛るものは何もないわ……」
と、言いつつそんな寂しそうな顔をする。
でも、これで全て分かった。
俺が自由に生きて行ける未来に導く事を、兄は母さんと約束したと言っていた。
そこにシスターもいた。
そして同じように母さんと約束したのだろう。
でもそれだとシスターは、俺達の幸せを最優先にして来たことになる。
シスターが言う、縛るものにシスターが入るよ……
数時間後、兄とローチェが帰って来た。
エルメナさんとオッさんはいない。
兄は少し時間をもらったようだ。 夕食を奢ってくれると言う。
でも先にローチェの容体を聞く。
ローチェの容体はそれほど悪くはなかった。
その理由として、病気の早い段階で貴重なフォーリスの花を煎じて飲んでいた事が大きい。
ローチェは若く、病気の進行も早かったけど、薬の効き目も早かったと兄は言った。
病院では週に3回、フォーリスの花の成分が入った点滴を打ち、体内に入れるようだ。
病気の治り次第で、回数は減ってくる。
何はともあれ良かった。
でも、裏の世界に行くことは少し遅れそうだ。 ……と言っても、裏の世界はこっちの世界より色々と発展しているだろう。
医療もきっと発展しているはず……
夕食。
ガーリックを効かせたステーキに、彩り鮮やかなサラダ、野菜に会う事も容易いスープ、そして固くないパンを食べた。
こんな美味しい物がこの世界にもある事を、生まれて初めて知った、リュウなのであった。
兄と会えてテンション高めのシスターが兄と話す。
「良かったね、上司に恵まれて。 ふふ ローチェの病院代は、後で払うね」
「それはいい。 手紙にも書いたけど、ローチェは俺の妹でもある。 収入のある兄が払うのは当たり前の事だよ」
「……でも、今は貴方達とリュウのおかげでお金はあるの。 私にとってもローチェは娘なのよ」
ローチェは嬉しそうに俺を見て、その後じわっと涙が浮かんだ。
「シスター、先まで見ると俺のしてあげれる事は少ない。 せめて払わせてくれない?」
シスターはそれ以上、何も言わなかった。
やっぱり兄はカッコいい。
帰り道、兄と並んで歩く。
「リュウ、大きくなったな」
並んで歩くと前ほどの背の開きがない。
兄は173センチと言っていたので、10センチ低いくらい?
「それにどんだけ強くなってるのか、想像もつかないよ」
獣人の事か……
でも、アイツ等は子供だと思って舐めていた。
「でも、相変わらず無鉄砲すぎる。 皆んなに心配かけるな」
「うん、分かった」
兄は何故だか、フゥーとため息を吐いた。
コイツ、絶対分かってない! とでも言いたげだな。
その後、兄は下町の端っこまで送ってくれ、最後に俺に『帰ったら読め』と手紙を渡してくれた。
兄と別れ、孤児院までの帰り道。
ローチェが嬉しそうに話し出す。
「ルークってカッコいいね」
「俺のにいちゃんだからな」
「ふふ、私のお兄ちゃんでもあるんだよ」
さっきのローチェは嬉しそうだった。
「でも、下のお兄ちゃんが1番カッコいいんじゃない」
「どうして? プロポーズされなかったじゃん」
「人がいたから……」
「いなくてもされてないよ!」
そうかな〜。
家に帰ってきてから、早速、兄にもらった手紙を開く。
「ずっとリュウが知りたがっていた刀? の情報を掴んだので手紙を書いた」
と有り、亜人国の地図が描いてある紙に赤く印がある。
印まではここから800キロ。
亜人国、カサブラル領、コサルス村。
「この印のところにリュウの持つ刀を作った職人がいるそうだ。 もし行く気なら陸からは行くな。 国境を越えもし見つかったら問題になる。 行くなら見つかりにくい海から迂回して行け」
と書いてあった。
リチャードやケビンに情報を集めて欲しいと頼んでから何年経ったのか。
本当に兄は優秀だ。




