タールとミーチャ
第三章 フリーダム
第109話 「タールとミーチャ」
ナカミツ族の里。
未だに現れない羅刹種、夕食で里内の責任者のゴルゾフさんとルカルスさん、それに俺のパーティメンバー、ドリアードのレミとアラモーナで鍋をつつきながら話をする。
「羅刹種がなかなか来ないな、それはつまり集まるのに苦労してると言うことか」
俺達は外に見張りを交代でして、それぞれの部族で少ない家を分け合って寝たりしている。
風呂だけの家もあるけど、それは共同で使う。
飯は今日のように家の外で鍋などが多い。
俺の家はパーティーメンバーにレミアとラモーナ。
寝る時間はそれぞれになる。
ちなみにラモーナも今回は全て人族の生活に合わせてくれている。
もちろん寝れないし、食事もほとんど食べてない。
え〜と、ゴルゾフさんの言葉だったな。
「東狙いかも知れんでござるよ。 最初に東のドリアードを全員で探す…… でも、見つかりっこないから結局はここに来る」
「……それでレミアもついでに見つけちゃうって感じ? だったらやっぱりレミアが1番危険なのかな?」
「その時は誰狙いとか言ってる時間はないんじゃない? それにここでどっちとか言える訳がない」
確かに…… ここに入ったらめちゃ乱戦…… 俺は得意だけど。
「それで、今日の伝達は?」
早馬での伝達。
今日はきっとザッカーさん達の情報。
「やっぱりデルマ城に集まってるってさ。 続々と、って言ってたから俺達の予想より多そうだよ」
ラザノフを見て言った。
「やはりそれほど大事ってことでござるな。 だが、こちらも同じ。 裏の世界のような未来では上位亜人は生きていけないでござる」
そう…… 裏と違って上位亜人がそれぞれの国に散らばっている。
当然、所属している国のために動く上位亜人も多いだろう。
「リュウ、この戦いが終わっても、また私に会いに来てくれる?」
一生懸命につゆを啜ってたラモーナが俺を見て言った。
「ごめん、ラモーナ。 俺にはレミアとミナリって子が嫁予定で居るんだ。 だからラモ……」
ラモーナは全てを聞く前に消えた、そして気配は上に行ってしまった……
スッとレミアも消えて追いかける……
前にも聞かれたけど…… あんな素敵な人に会いたいと言われたら普通は嬉しいよね⁈
「大将、モテるのもいいことばかりじゃねぇな」
ミナリとのことを表面的には喜んでくれたシータが言った。
「俺だってモテたのに……」
ポンタは何故かシータとドムフにはモテ太と言われていたな。
「これが終わればお前は下級貴族になるんだろ、そうなればお前の魔力狙いで女も寄ってくるさ」
ナラサージュ出身で直接、防衛にあたるのは俺とポンタだけ。
しかもポンタはこの若さで兵団長と同等の強さを王子達の前で見せているし、俺の兵団にも所属している。
「ゴクン…… そ、そうなのかな〜、モテ、モ、モテるんだろかな〜」
呂律が回ってないぞ……
絶対にモテたことないな……
「モテ太、お前は怪我が多い。 今回は気を引き締めるでござるぞ」
「無理だな。 コイツは顔もアソコもだらしないし、おまけに小ちゃい」
「ガハハハ〜、そう言うなリュウ。 小さいのはモテ太のせいじゃない」
何だっけ、コイツの爺さん?
性豪爺さんの遺伝?
「そう言えばモテ太、お前の爺さん、多分、生きてるぞ」
悔しかったのかちょっと潤んだ目をしたモテ太が喰いついた。
「ほ、本当? そ、それは俺が…… リュウ、出来ればその爺さんは俺にやらせてくれ」
キリッとした表情……
泣きべそ描いてたほうが似合いだぞ。
「いいけど身内だぞ」
「身内? そんな訳がない。 ただ女を気持ちいい道具として扱ってただけ。 俺はそう言うのを許したことがない!」
モテたことないからな。
でも、考えは分かる。
「まぁ、まだ先の話さ。 マクニール、マンデミータ、ボリモス、こいつ等とは戦いが続くからな」
ポンタは俺をジッと見て頷いた。
さぁ、そろそろアドレナリンが爆発しそうですよ、羅刹種さん。
ーーーーー
昨日の夜、ナナミルが帰って来なかった。
朝起きて色々と悩む……
ラムツェルやハルロックに言った方がいいの……
トントンっとドアを叩く音。
ナナミル! っと思って開けると、そこにはラムツェルとハルロックが居た。
「早く飯を食べに行こう。 もう時間がないぞ」
え……っと思って時計を見ると、もう皆んなが集まる時間の少し前だった。
そう…… 私はナナミルの帰りを待って、ほとんど寝ていないのだ……
「ナナミルは?」
ハッ…… 何て答えればいいの……
「す、少し前に行ったみたい……」
しかし、この嘘は直ぐにバレてしまう。
大広間にナナミルが居たのだ……
何故かナナミルの身体をベタベタと触りながら寄り添うゴルソリ……
そして…… 無気力なナナミル。
怒りの頂点に達するハルロックとラムツェル、そして私!
勢いよくツカツカとゴルソリに近づいた時に途中で止められた。
「ラムツェル、スザク、もう時間だ。 色々とあるだろうが先に集合場所の玄関まで行っててくれ」
止めたのは第2のナインレット隊長だった。
隊長自身がゴルソリに近づいて何か言ってるけど…… 何かを変えるには難しい。
それはきっと私達でも同じ……
私達は飛翔族のおもちゃだから。
チレイラの森へ行く途中でも、私の頭から朝の光景が離れなかった。
あの気持ち悪いゴルソリに触られて諦めたように無気力なナナミル……
ウグッ…… 勝手に流れる涙が止まらない……
早く、早くこの任務を終わらせたい。
チレイラの森に着いた私達は、少数のグループに別れてソナーでドリアードの居場所を調べる。
そして、それほどの時間をかけずにあっさりとドリアードは見つかった。 ……しかも2体!
その後も詳しくソナーを使う飛翔族、私は赤目の能力があるので基本ナインレット隊長の側で護衛をしている。
だから聞こえたナインレット隊長達の会話。
「ドリアードが2体、あの崖の中の空間に居る。 だが他の人族も50人以上が居る。 どう思う?」
「さっき俺の部隊で入り口に居る不気味な5人にサンダーをぶち当ててやろうと思ったけど、何故か魔術が発動しなかった」
これは罠?
でも…… さっさと終わらせて帰りたい、もう飛翔族とは関わりたくない。
「5人を突破するのは簡単だ。 だが中でソナーを使いながらドリアードを探して、その間に戦闘をするとなるとこちらの被害も甚大になる可能性がある」
罠ならそうかも…… でもハルロックにはチャンス。
もしナナミルがここに居れば、私は全力でハルロックとナナミルが脱走するのを手伝うだろう。
「ナインレット隊長、それは慎重すぎないっすか?」
「ドリアードが2体、中途半端に突撃して失敗したら次はもっと難しくなる」
そうでしょうね……
対策されると厄介…… でも2人にはチャンス。
ーーーーー
少し前。
入り口前で待ちぼうけの5人が色めき出す。
「お〜、凄え〜、本当に来た」
ドムが見つけたのは飛んでる集団の羅刹種。
「37、38…… 40人居るぜ、リュウ」
ギルも目が良さそうだな。
直ぐにパンクンに里内に知らせに行ってもらう。
羅刹種はバラバラになってソナーで探している…… そしてこの辺りを探した羅刹種が慌てて飛んで行った。
見つかっちゃった、レミアちゃんとラモーナちゃん。
「ハハ、40人か…… どう思う、リュウ」
「俺達は舐められてる、奴等にね」
「どうするよ、リュウ!」
「皆殺しにする! ゾーンに入れ、皆んな!」
「おお!!」
気持ち良く合ったな。
「お、おでもセリフほしい〜!」
……乗り遅れたやつ、1名。
俺達の座る入り口は、雨対策なのか1段上がっている。
後ろは崖が連なっていて、前には深くない森…… つまり所々に数本の木が固まって生えてる、比較的見通しの良い場所だ。
崖の後ろには弓を隠し持つ猿人が待機、前方の森が深くなっている所からはナカミツ族がまばらに待機している。
そのナカミツの変な動きから、一瞬だけ暗くなった空が再び快晴の空になった。
……魔術を消した⁈
集まった羅刹種、配列は後ろに5人、指揮官か、話をしている。
その前に10人、更に前に12、3人のグループに別れている。
突撃隊は前の12、3人のグループで、後ろの10人は魔術発動部隊、後ろの話してる5人は指揮官、って感じ?
さぁ、どうする……
羅刹種はきっとこの倍は居る。
空を飛ぶ能力を今回は隠すか?
それとも……
「あっ、羅刹種、戻ってる……」
後ろの指揮官が前のグループに合流したと思ったら、帰りやがった……
「ハハ、明日、大部隊だね」
罠がバレたって感じか。
「我慢できるとはね、いい指揮官だ」
羅刹種は自信過剰なところがある。
裏のレイモンではノマノーラからやって来て亜人国の王様になってるし、フォルマップル国を乗っ取っているところからも自信過剰になるのは分かるけど…… この指揮官はしっかりと状況を把握しているようだ。
まっ、ゼウスさんが言うように明日だな。
注 ちなみに俺のハリケーンラン改を出すことは可能だ。
だけど、羅刹種グループに乗っ取られるだろう。
だからナカミツ族には全ての大魔術を消すように指示している。
ーーーーー
デルマ城に帰って来た私達は、待っていたレスター総大将に報告。
その報告を重く見たレスター総大将は第1、4、6グループが帰って来た後で、全体会議をすると言った。
そして第1、4、6グループが夜中に帰って来てからの全体会議。
レスター総大将がドリアードが2体と、それを守っているかも知れない50人以上の人族の話をした。
ガレットが話す。
「クッ! 俺達の今日は全くの無駄足だったな。 それで、どうする、レスター」
2人は同じ歳のライバル関係と聞いている。
とてもお互いを嫌っているとも……
「今日は休んで明日の朝に全員で総攻撃。 明日は俺も出て指揮をする」
もう少ししたら日の出る時間だ。
「第5は?」
「第5の位置は遠い。 待っていたら何日待つか分からん」
ここでチラッとガレットが私を見た……
気持ち悪い男……
「クッ、それなら俺の側に赤目をよこせ」
……えっ。
「何を言っている? スザクは俺の隊の隊員だ、勝手なことを言うな」
ナインレット隊長……
でも…… ガレットは私まで狙ってる。
「レスター! それなら俺達、1、4、6は加わらん、それでいいな!」
また始まった……
もうダメ…… 死にたい……
「お前にその権限はない! 第1がボイコットするなら勝手にしろ、帰って報告するだけだ。 第4、第6はどうする!」
手を挙げたのは第6のアーモン隊長。
「第6は出ますよ、ただ大事な仕事はこの後なので補佐でお願いしたい」
先鋒隊は複雑な気持ちのまま来ている人も居ると聞いた。
家族と別れてこの星で何もない状態から300年後を目指すのだ、1番嫌な仕事かも知れない。
「もちろんだ。 ……第4は?」
吐き気の出る男、No.2のゴルソリ。
ガレットとこの男の声を聞くのも嫌!
「え〜とぉ、出ます、出ま……」
「ゴルソリ!!」
ガレットの一括!
ガレットが自分の隊に居るナナミルを見てる……
「ゴクリ…… あっ、だ、第4も待機、第5が合流するまで待機する」
……もう止めて!
私達のアイドルは貴方達のおもちゃじゃない!
結局、今日のメンバーにレスター総大将と第6グループを加えて行くことになった。
帰って来ないナナミル…… ナナミルの帰りを待つハルロックとラムツェルとチルピンまで私の部屋で待っている。
「誰も来ないね……」
寂しそうにラムツェルが言った。
そう、この部屋の人は誰も居ない。
ミーチャは西のドリアードを探しに行ってるし、ジャネルタさんは『お勤めに行ってくるね……』っと言って出て行った。
「ラムツェル、俺はナナミルを取り返しに行く! 出来れば……付き合ってくれ」
ラムツェルは固まって動かない。
多分…… 色々と考えていると思う。
私が話す。
「ハルロック、この作戦はあと1週間もすれば終わる。 今、ガレット達と揉めたらラムツェルもハルロックも殺されると思う」
虫ケラと同じ感覚でしかない、羅刹種にとっての私達。
ただ自分達のリスクを軽減するためだけに生きてる存在の私達。
死んだって性奴隷にしたって、心なんて傷まない。
「でも、ナナミルは助けを求めているんだ」
「うん…… 私だって助けれるなら助けたい…… わ、私も行くよ……」
「ぼ、僕も行く」
チルピンまで……
私はこの目でガレットを何度でも止めてやる。
例えこの目が燃え尽きても……
「俺は…… チャンスがあるならあの場所と思ってた。 もし本当にあの場所が罠ならば、ハルロックとナナミルが脱走出来るかも知れない」
それは私も思った。
でも、ナナミルは……
「実は俺も思ったんだ。 でも、明日はナナミルは居ないだろ、だからどうすることも出来ないんだ」
「いや…… 明日ドリアードを奪えれば明後日には俺達の星に帰るだろう、その場合は俺達は人間族の区域に引っ越す。 皆んな一緒だ、俺はハルロック、お前とナナミルと別れたくないんだ」
ハーフだから詳しく教えてもらえないけど、帰りが遅くなればなるほど帰るのが難しくなるらしい。
今も少しずつ、この星とノマノーラは離れて行っているのだ。
「明日、ドリアードを奪えなかったら?」
その可能性は低い気がする。
空を飛べる種で、スペルティで1番速く飛べるのは飛翔族、とマクニール様が言っていた。
「その時は間違いなく総員で総攻撃だろう。 そうなればどさくさで2人が逃げても追いかけるやつは居ない」
そうね…… ハーフ2人とドリアード2人、比べもしないかもね……
黙り込んだハルロック…… しばらく沈黙の時間が流れたが、『我慢するよ』っとハルロックは項垂れた……
今考えるとタールとミーチャ、遠いけど西のドリアード担当で良かったね……
ーーーーー
僕の名前はタール、僕が初めて預けられた家の、トバルお爺さんが付けてくれた名です。
ミーチャの名前も同じ、トバルお爺さんが付けてくれました。
当初はトバルお爺さんが本当のお爺さんだと僕もミーチャも思っていて、ミーチャと僕は兄弟と思っていました。
トバルお爺さんはとても優しくて、毎日、僕とミーチャは笑っていたと思います。
しかし……
トバルお爺さんの体の調子が悪くなり入院、僕達は他の家族に預けられることとなりました。
僕とミーチャ、共に6歳だったと思います。
次の家庭で僕達は、今、来ている任務のために産まれた子と知りました。
奥様と旦那様、そして教えてくれたヤーマン様、ヤーマン様も奪取隊としてスペルティという星に行くことが決まっているそうです。
最初のうちは何事もなく過ぎました。
僕達を預かることでもらえるお金が目当ての奥様、朝とお昼ご飯は抜きの時が多かったけど、夕食はちゃんと食べさせてもらえました。
分け隔てのない旦那様。
もしかしたら旦那様が居たからご飯を食べさせてもらえたのかも知れません。
そのくらいヤーマン様と僕達を差別しない、正義感の強い旦那様でした。
ヤーマン様はとても嫉妬深い人でした。
特にヤーマン様と僕達が同じ扱いをされるのが嫌だったのでしょう、次第に僕達に暴力を振るうようになりました。
僕はそれでも良かったのです。
トバルお爺さんを思って涙が止まらなくなることがあっても、我慢出来たから……
「その傷はヤーマンがやったのか?」
旦那様に気づかれるほどの傷を負った夜、僕は嘘をつくべきか迷ってしまい黙ってしまいました。
そして何かを悟った旦那様がヤーマン様と奥様を激しく叱ったのです……
そこから大きく変わりました。
見える場所ではなく、見えない場所、主にお腹などを強く殴ったヤーマン様、そして奥様。
僕達はお腹の痛みで、夕食まで食べれない状態の時もありました。
お風呂でのことです。
僕の体の傷を見て泣いてしまったミーチャ。
そのミーチャもアザだらけだったので、僕も泣いてしまったのです。
そして…… その泣き声で旦那様に気づかれて、ヤーマン様と奥様は酷く怒られました。
しかし……
もう面倒を見たくないと、奥様とヤーマン様が言って僕達は次の家庭に預けられることとなりました。
僕とミーチャ11歳の時です。
本当の地獄とはこの家庭なのかも知れません。
次の家庭は母子家庭。
ハッシューナ奥様は息子、シド様を激愛する72歳、シド様は44歳、旦那様は数年前に他界したそうです。
この辺りでしょうか? ラムツェルさんと会ったのは。
ラムツェルさん達は5人で養護施設で暮らしていると聞きました。
僕もその方がいいなと思ったけど、ラムツェルさんが言うには良くないようです。
そうです、いい人も居たのです。
トバルお爺さんとか旦那様とか……
預けられた3組目の家庭。
この2人の気が触れていました。
夜な夜な僕達2人を裸にしてイタズラした後に親子で愛し合う、という変態。
それでも我慢出来れば良かったのですが……
ある日、僕は本当に気持ち悪くて吐いてしまったのです。
そこからイタズラに暴力まで加わりました。
僕のせいでミーチャにまで……
僕が守らなきゃいけないミーチャにまで、いつもいつも僕のせいで、僕が我慢してれば前の家庭に残れたのに、僕のせいで……
僕の命なんていらない。
僕はミーチャが生きてればいい。
僕が今度こそ守る!
夕方、ビジョンの森に着いた第5グループ。
そこからいくらソナーを使ってもドリアードは見つからない。
そこから範囲を広げて探すと……
ビジョンの森の近くにドリアードと思われる影がソナーにヒット。
丁度、朝日が昇り始めた時間だった。
そこからバンバンとソナーを使って調べたのは隊長含めて飛翔族の5人。
その報告。
閉鎖型の街で入るには審査がいるが、3人分の審査書はマクニール様からもらっている。
街にあるのは平民街と貴族街、上から見ると壁の道だらけの街に見える。
貴族街には小さなお城もあってその横にある地下への入り口から地下にドリアードの影がある。
「とにかく俺とミベル、ファラザンの3人で街を偵察して来る。 他はこの森で待機していろ」
ホッ…… 1日中、飛び回っていたので休憩はありがたい。
「ミーチャ、あそこの木陰で休もう。 僕の肩に寄りかかって寝ていいからね」
「……うん。 ありがとう」
最近は良くお礼を言わられる。
そんなに優しくないし、迷惑ばかりかけているのに……
昼間の暖かい陽気。
ミーチャだけでなく、僕も寝た……
「ミーチャ、早く帰らないと怒られるよ」
「だってヤーマン様が意地悪するし叩くんだよ」
それは知ってる…… 僕だって叩かれているのだから。
でも…… 遅くなったら奥様にまで叩かれる。
「ふふ、じゃあさ、タールがさぁ、大きくなったら私を守ってよ」
「い、今だって守るよ!」
「ふふ、だってタールは私より泣き虫じゃ〜ん」
そ、そうだけど…… 僕はミーチャのお兄ちゃんだから……
「そんな困った顔しないで。 いいよ、帰ろ、お兄ちゃん」
トバルお爺さんのところで暮らしている時は、ミーチャは僕をお兄ちゃんと呼んでいた。
ミーチャ、僕が絶……
コツン、ガンッ、っと頭に衝撃があって眠りから覚めた。
「いつまで寝てんだこのガキ! もう隊長が帰って来たぞ! ほら、そっちも」
っと、ミーチャを蹴ろうとしたので僕が庇って蹴られた。
起きたミーチャが驚いている……
「い、行こうか」
不思議そうな顔で僕を見るミーチャ。
「う、うん。 ……ありがとう」
またお礼なんか言ってる。
「や、約束しただろ、僕が守るって」
少し驚いた表情のミーチャ。
でも、久しぶりの笑顔で……
「うん」
っと言ってくれた。
隊長達が得た街の様子。
地下は牢屋と判明した。
ドリアードが何かしらの犯罪を犯した可能性。
ただ人不足のため、牢屋の見張りは少ない。
「貴族街には入れなかったが、夜にドリアードを奪取する」
違和感がある……
ドリアードの犯罪で牢屋に入れるだろうか? この森を守っているのに……
見張りが少ない理由も、考えられない。
この星ではドリアードは重要ではないのだろうか……
「俺とミベル、ファラザン、ゴーマ、ロクロウ以外が突撃、俺達は空から入り口を見張り、場合によっては大魔術を発動させる」
ソナーで調べてた5人。
飛翔族の他の5人の補佐を僕達がすれば良いらしい。
夜に決行。
僕達はこの後に人間族の住むエリアに移されると聞いた。
ラムツェルさん達も人間族のエリアと言っていたので、僕達はラッキーだ。
そして深夜1時。
不思議なことに牢屋の地下の入り口には誰も居ない。
見張りが少ないとは聞いたけど…… 誰も居ないのはおかしい。
でも……
僕が何かを言える立場ではない。
それにこれが終われば僕達は自由だ。
ーー ーー
「大将、本当に良かったのか?」
フラワンリブラの貴族街にあるお城の一室。
俺、ルークは西のドリアード防衛の大将だ。
「ええ。 たった3人を取り押さえても仕方ない。 それより最終局面です、兵士の引き締めをお願いします」
「ああ、それは任せろ」
この人はリズーン国の第1騎士団のショーザッタ隊長。
リズーンでは有名な人だ。
「それで、どんなやつでした?」
堂々と昼間の空を集団で飛んでいるので色んなところから報告があった。
しかも街にまで偵察に来てるし。
「普通すぎて良く分からん。 ルークの弟を見た時は衝撃的だったけどな」
前にリュウが俺の家に寄った時に、お城でのパーティーでショーザッタ団長にリュウを紹介した。
もちろんリュウは有名だったので、ショーザッタ団長も知ってはいたらしいけど驚いたようだ。
魅了される眼にしなやかな動き…… 娘が居たら結婚させたいと思ったらしい。
ちなみに男でもいいなら28になる息子がフリーらしい。
「目撃情報からほぼ相手は20名。 コチラは35名で対処します」
多少は広げた通路、ただ本当は55人が戦えるスペースなどない。
俺が指示したのは25名、だけど羅刹種とほぼ同じ人数であることで却下された。
乱戦が確定している牢屋内での戦闘。
間違いなく羅刹種は全滅出来るけど、こちらの犠牲も出るはず……
「やはりルーク、大将が矢面に立つ必要なんてないんじゃないか?」
俺自身も牢屋内で戦う。
「総大将が一番危険なところ、群を抜いて危険な場所で戦うんだ。 俺だって兄としての意地がありますよ」
リュウは入り口の前で羅刹種、ほぼ全員の相手をする。
クレイジーとしか思えない。
「個人戦2位だった男も一緒らしいな」
鬼族の新種と言う鬼神、スピードと得体の知れない瞬発力は、リュウでさえ苦労していた。
ここは20人くらいじゃミザリーさんを奪えない。
ノマノーラに行った爺さんとの約束は、俺が必ず守る!
夜。
ミザリーさんの牢屋の部屋に来た。
俺はこの後にミザリーさんの部屋より前の牢屋で相手を迎え打つ予定だ。
「爺さん行っちゃったね」
「うん…… 私の命の中で、あの人はとても大きな存在だったわ……」
妖精としか接さないドリアード……
そう考えればミザリーさんの中で爺さんが大きな存在だったのも頷ける。
「ふふ、貴方はロナインの若い頃に似ているわ。 お父さん…… ロナインの息子さんもロナインに似てたのかしら?」
「自分が小さな頃に亡くなったので、覚えてないですね……」
3歳になる前だった。
色々と教えてもらったことはまだ覚えてるのに、顔がぼやけて思い出せない。
「……そう言ってたわね、リュウ君が。 ロナインを許してあげてね……」
爺さんに酷いことを言ったと聞いた。
父さんを殺したのは爺さんのせい、みたいな……
「流れに逆らえない人も居る、でもその人は悪い人ではないのかも知れない。 爺さんは危険を承知で流れに逆らって正義を貫こうとした男、俺は尊敬してますよ」
もちろんリュウもそうだろう。
だが…… リュウは戦いにおいて無慈悲な男、『羅刹種は全員、皆殺しにするよ』っと言った時の冷たい空気感はゾッとした。
アイツは強い上に手段を選ばない、確実に皆殺しをする…… そんな予感さえする。
爺さんの気持ちを考えると俺は “流れに逆らえなかっただけ“ の、羅刹種にはノマノーラに帰ってほしいと思ってる。
そこからきっと爺さんが導いてくれると思うから……
ーー ーー
罠…… 疑り深く生きてきた僕とミーチャだから、初めから違和感を感じていた。
夜になって牢屋の入り口に飛んだ僕達、第5グループ。
ぽっかりと空いた穴は数段の階段がある。
「ここでハーフ5人が待機、外から人族を入れるな」
僕はミーチャの手を引いて列の前の方にいる。
一瞬、後ろの方が安全かと思ったけど、もう後ろで待つ人は決まってしまった。
「ここからは戦闘になる。 ハーフは補佐と突撃隊に分かれろ」
補佐をするには魔術を多く知らないと出来ない。
僕とミーチャはまだあまり多くの魔術を習っていない……
突撃隊になった僕とミーチャ、他の3人のハーフは補佐に回った。
大きな足音が響く地下通路、それでも前から人がやってくる気配はない。
何の苦労もなく鉄格子があるところまで来た、この鉄格子を破壊出来るのか?
……しかし、鍵がかかってない。
この地点で皆んなが罠であることを自覚したと思う。
そして…… 後ろからの悲鳴で確信する!
「マズい! 引き返して逃げるぞ!」
その言葉の途中、前にあった牢屋から飛び出して来た人族……
後ろからは仲間が悲鳴とともにこっちに走ってくる。
この時に僕は分かったんだ……
ソナーで敵が潜んでいることを知っていた隊長のマーナリーグと他4人。
僕達を囮に、重要ではないドリアード奪取を頑張ったと報告するだろう。
僕達は味方にも裏切られていたのだ……
挟み撃ちに遭っても飛翔族の魔術は少しずつ相手を蹴散らす。
僕達は魔術を放つ飛翔族の補佐、必死に前からの攻撃を盾で防ぐ!
しかし、入り口付近からはとめどなく敵が入り込んで来る。
乱戦。
飛翔族はもう適当に魔術を打っているのか、敵味方関係なく魔術が当たっている。
入り口から流れて来た仲間がどんどん倒れてる…… でも、横のミーチャを助けるためには外に出なければいけない。
盾で防いで剣を振る!
……何で僕はこんなことをしているのだろう?
ガスッ、ガスッ、っと腕と耳に激痛が疾る。
更に太腿に裂けるような痛み!
ミ、ミーチャ……
痛みに泣きそうになるけどミーチャにそんな姿は見せられない。
ミーチャだって血が……
ミーチャ、危ない!
……ドスッと肩に突き刺さった剣。
だけど…… 最後に抱きしめるようにミーチャを庇えて良かった……
……目の前のミーチャが何か言っている⁈
傷だらけのミーチャが言ったのは『ありがとう……』、僕にはそう聞こえたんだ。
その言葉を聞いた時、ミーチャとの思い出が走馬灯のように頭を駆け抜けた。
トバルお爺さんに連れられて、歩けるようになったばかりの僕とミーチャはいつも公園で遊んでいた。
トバルお爺さんの僕達を見る目が優しくて、小さな僕達はいつも笑っていた……
ヤーマン様に僕達の境遇を聞いた夜、それは僕達が兄弟ではないと分かった夜でもあった。
それでも変わらない…… ミーチャと僕はいつまでも兄弟以上の関係だから……
横にいるミーチャは、きっといつまでも僕の横に居てくれると信じてるから……
僕に魔術や槍が襲う……
もう痛みはない…… ごめん、ミーチャ…… ズズっとミーチャの体を滑るように、僕は倒れた……
が……
ミーチャは倒れた僕を覆い被さるように庇う…… そ、それだけはダメだ!
ブスッ、ブスッとミーチャに槍が刺さる…… 僕を弱い視線で見るミーチャ。
……そうじゃない、僕がミーチャを……
ーー ーー
ふぅ。
やはり乱戦すぎてまともに動けなかった。
特に羅刹種の爆発する石には、被害者も多数出た。
その中で1人の羅刹種ではない男を助けた。
詠唱をしていたやつが他にも居たので今回は羅刹種だけが来た訳じゃなさそう。
この男…… と言うにはあまりに幼い。
12歳くらい? まぁ、痩せ型だけど前回の爺さんと同じくらいだろう。
ーー ーー
目が覚めた時はベッドの上だった……
目の前には1人の清潔そうな凛々しい人、誰だろう?
後ろに屈強そう…… ハッ! ここはスペルティ!
「俺は西のドリアード防衛の大将のサーファレイ・ルークだ。 お前は羅刹種では…… お前は飛翔族ではないな」
羅刹種……?
あっ!
「ミーチャは! ミーチャ、ミーチャはどこですか!」
驚いたように目をして……
やがて目を伏せたサーファレイさん……
「生き残ったのは君だけだ。 済まん……」
え…… ミーチャ?
「ゔわああぁあ〜! 僕を殺してくれ〜!! 僕を、僕を殺せ〜!!」
その後、取り乱して泣いた。
でも、自らを口の中を狙ったアイスアローは、サーファレイさんと部屋に居る人達に止められた……




