過去の栄光
第三章 フリーダム
第104話 「過去の栄光」
リズーン国、王都カラカイッサム。
ミリージョリン城はリーブルでは比較的新しいお城の部類に入る。
そんなお城のパーティー会場で踊る俺……
実は……
ビジョンの森に爺さんに会いに来た帰りに、兄の住むカラカイッサムに寄ったのだが……
急遽に歓迎会というパーティーを開いてくれたトゥルフ王子、余計なお世話とハッキリ言えないところが俺も貴族化してきたと言うことか。
そんなトゥルフ王子とは防衛に関して話をしている。
内容はミザリーを守る防衛拠点はカラカイッサムではなく、フラワンリブラと言う街。
街全体が城壁で囲まれて更に貴族街にも城壁がある。
トゥルフ王子やルークの防衛計画は、ミザリーをお城の横にある地下牢に閉じ込めて入り口には誰も配置しない。
“入るなら入りなさい” っと言うスタイルで羅刹種を向かい入れる。
ただし牢屋内にはリズーン国の腕利きの兵団員を配置、狭い空間で羅刹種と戦う。
城壁には弓隊や魔術師隊を隠れるように配備。
牢屋の近くの兵舎には兵団員も待機して、羅刹種が牢屋に入ったあとは入り口を死守する。
牢屋の中での戦いが劣勢になった場合はミザリーだけが通れる幅の通路でお城の地下へと逃げてもらう。
そして入り口を抑えた皆で、牢屋の中の羅刹種を駆除する。
っと、リズーンの防衛に関しては工事も含めて進んでいる。
リズーンと違いナラサージュの対応は遅れている。
フラワンリプラと言う街は、羅刹種が来るであろう数週間前には全ての住民を他の都市に移すようだけど、ナラサージュでそんなことをすると暴動が起きそうだ。
考えたのは、いつかレミアの指輪を取りに行った洞窟。
入り口で眠り薬などを焚かれても、あそこなら中が広いので余程焚かれない限りは中には回らない。
っとは言え、未だ最終決定ではない。
とりあえず、のこれからの予定。
帰ってから数日後には、ゼウスさん達と体術の試合をする。
その試合に新たにポンタと ジルザルさんが加わった。
ジルザルさんは人間だけど兵団長なのでポンタと良い勝負かも知れない。
ちなみにポンタも俺もパミヤも、一応は人間だ。
学校を卒業。
お世話になった人達にプレゼントをあげたい。
特にポルカ先生とミナリにはしっかりお礼を言わなきゃ……
4月、氷竜族の里から北のドリアードを探しに行く。
ドリアードの自称守り人の猿人とゾフさん達が接触を試みたけど、過去のしがらみもあり上手くいってないらしい。
なので余り刺激しないように、俺とレミア含めて少人数で交渉したいようだ。
「フノウ様…… 次は是非、私と踊って頂けませんか?」
パーティーと言っても急遽なので、今までで一番人が少ないと言ってもいいくらい。
リズーンの貴族を紹介してもらいながら、暇を見ては踊ったりの繰り返し。
「いいですよ。 ……ん⁈ 何処かで会ったかな?」
珍しい獣人の貴族…… 見たことあるような……
「ふふ、ありませんよ。 でも私の姉が学校の大会でフノウ様を見かけていたようですよ。 ……ふふ、結婚したいって言ってました」
獣人も亜人も簡単には人間とは結婚出来ない。
思いっきり冗談だろう。
「お姉さん…… あっ、もしかして決勝でユーリス姫を破った人かな? 背の高い」
この子は高くはない。
ネコ科からの獣人の女の子は可愛い子が多いけど、この子も猫顔で可愛い。 ……きっと小さな頃は天使のように可愛かったに違いない。
「そうです。 ……ふふ、申し遅れました、私はリリアムと申します」
ゆったりとした曲調の音楽がずっと流れてる。
ずっと踊り続けてる人も居るので、よっぽど踊りが好きなのだろう。
リリアムと踊り、そして曲が終わる。
……が、次の曲まで話の続きをする。
「今回の防衛で私もフォルマップル国に潜入する予定なのですよ」
こんな幼い子が……?
そう思ったのを感じたのかリリアムは理由を話した。
「私達の種族の特性は鳥の目を借りることが出来ます。 なので見張り役にはうってつけなのですよ」
鳥の目を借りる? よく分からないけど凄い感じはする。
「君はいくつなの?」
「ふふ、来年にこの街、カラカイッサムの学校へ通う予定ですよ」
今は15歳ってことか。
「来年は学校休んでフォルマップルに潜入するの?」
「はい。 姉もそうですよ」
姉妹で……?
「君は学生で、そんなリスキーなことをリズーンはさせるってこと?」
「えっ……? わ、私達は今回の任務に最適な能力を待っております……」
他の国だから関係ないとは言えない。
俺はこの子の名前だって覚えてしまったのだから……
リリアムだよな…… あってる?
「フォルマップルに平民として潜入するのは危険だよ。 そんな危険なことを学生にさせるんだ。 ルークも何を考えてるんだか……」
ルークは先日、トゥルフ王子からユーリスとの縁談を持ち込まれたらしい。 断る術はないのでユキナのことで悩んでる。
しかし……
そんなことより命のかかることを優先するべきだ。
内政干渉になるのでトゥルフ王子には言わないけど、ナラサージュで同じことをするなら俺は王子にブチ切れてるかも知れない。
「危険を感じたらいち早く逃げるんだよ。 それが問題になるなら俺がここに来て話をするからさ」
リリアムは俯いて少し俺に体を寄せた。
少し体温が高い⁈
「お、お兄様なら、う、嬉しいです」
獣人が裏より少ないリーブル。
亜人より種族としての結びつきが大きい。
だけどその貴重な若い未成年の女に危険な仕事をさせるのは、やっぱり納得はいかない。
バレれば速攻で拷問死させられる。
……ハッ! ザッカーさん達はイの一番に前回と同じくジーンライネに潜入してる。
その意味はきっと炙り出し。
街に間者が潜んでいることが知られれば、真っ先に疑われるのは新しく街に入って来たやつ。
簡単な任務ではない、そう思ったからこそ優秀なザッカーさんはイの一番にジーンライネに向かったのだ。
「お姉さんの名前は?」
「ラークラマです」
「そう。 ……お姉さんにも気をつけるよう言っておいて」
とりあえずこんな感じで滞りなくパーティーは終わったが……
帰り道、ルークと話す。
「今日紹介してもらった貴族達は覚えておけよ」
土の魔力の第一人者のルーツがあるとかないとか、自分の領土がどうとか……
興味ないから名前なんて覚えれないよ。
だいたい名前なんて覚えたら母さんに失礼だ。 ……え〜と、母さんの名はミーナ、もう忘れないぞ。
「そんなことよりフォルマップルに未成年を潜伏させるなんてどう言うことだよ」
「……珍しく同じ子と連続で踊ってるかと思ったが、そんな話をしてたのか。 ……あの子の父親も姉も兵団所属、父親は副団長で本人も家族も強くそれを望んでいる。 色々な立場やしがらみがあって俺にそれを否定することは出来ないんだ」
なるほどね……
貴族として、って考えで娘を危険に晒すのか。
「三人一組のパーティーで、1人はもしもの時を想定して逃げ道の確保など、なるべくリスクを減らすようにはしてるが…… 完全に安全にはならないよ……」
俺には安全を祈るしか出来ないようだ……
すれ違う人は立ち止まって軽く会釈をしてくれる。
カラカイッサムは貴族街などはなく、誰が貴族か平民かは分からないけど、今日の俺とルークは正装なのでひと目で分かるのだろう。
「普段は平民、貴族の境はなし?」
「一応、貴族バッチをしなきゃいけない。 でも、してない人も多いよ」
強制ではないってことか。
「空から見るとこの街の作りが計算されてるって分かるぞ。 城を中心に円を描くように建物が建てられている。 そして中を突っ切る運河が流通を支えてるんだ」
饒舌だな。
アシスト馬車の話はさせないほうが良さそうだ。
「ユーリスと結婚するの?」
一瞬だけルークは止まった。
「ユーリス姫がまだリュウに惚れてること、ユキナの問題…… 近いうちに3人で話したい」
「俺は加わらなくて大丈夫?」
「リュウは好きな人と結ばれてほしい」
ドキドキしちゃう…… あ、あの人ですよね!
「正直言っていいかな……?」
あ、あの人のことを聞かれちゃうのか?
「いいよ。 ……でもまだ何もしてないぜ」
「はっ? ……俺はユーリス姫との縁談話を聞いた時に、凄く嬉しい気持ちもあったんだ」
キ、キスとか、いつかするんだろうから練習が必要だな…… ラリィだと怒るからリコ…… 噛みつかれて口がなくな…… え?
「どう言うこと?」
「俺はユーリス姫を1年以上前のゴールタールのパーティーで見かけているんだ」
ユーリスが花嫁修行中の時か。
「その時に衝撃的に美しい人と思った。 そしてパーティーでも接して……」
ギガッデス討伐では仲良かったよな……
「好きになったってこと?」
「違う、俺はユキナが好きだ。 ……でも、ユーリス姫は素敵な人だと思ってる」
ふ〜ん、でもレミアはチョー素敵なんだぜ。
「まぁ、その手の話は苦手。 でもユーリスって俺のこと好きなのかな? ……何も感じないけどな」
ミナリは感じる。
「そうなのか? ……まぁ、レミアさんの出現で分かりやすい2人を見てれば、諦めようと思うのかもな」
俺達って分かりやすいのか?
く、悔しいからもっと分かりやすくなってやる〜!
こんな道中を経てルークの家に到着した俺達。
ルークの家。
お城から近くの上級貴族が多く住むエリアにある豪華な屋敷。
入るとロビーがあって、使用人が案内してくれる。
ホテルみたいな居心地の家。
そのロビーで爺さんに聞く。
「悪いね、爺さん。 留守番とお守り」
爺さんにはパーティー中のレミアとミザリーの護衛を任せた。
「それよりワシに何を聞きたいのじゃ」
「他の国に流れた仲間達のこと」
「…………」
爺さんとミザリーに会いに行った俺とレミアは、爺さんとミザリーをサンカルムに招待することを決めた。
もちろん、この話次第では取り止めるけど。
「ワシ等は全員で9人居た、もちろん300年も前の話じゃ」
爺さんはそう言ってミザリー担当以外の羅刹種のことを話し始めた。
北に飛んだ3人。
ヒラニ 目立たないのが目立った。
近くに居ても気づかない、そんな男じゃ。
タルタルソー スを付けたくて仕方なかった過去のワシを、責めんでやってくれ……
謎の男 300年も前の話じゃ、名前なんて覚えておらん。
東に飛んだ3人。
マクニール 先鋒隊のリーダー。
頭が良く行動力もある男じゃった。
ボリモス 女好きな男、ちょっと可愛い子を見ると直ぐに死ねると言っていた。
謎の男 名前は忘れたが、マクニールの腰巾着のような男じゃったな。
「覚えておるのはこんな感じじゃ」
ポンタのお爺さん、ボリモスで確定じゃね⁈
「爺さんは他に誰が生きてると思う?」
ルークが真面目に聞く……
俺はタルタルソーのことを思っていた……
爺さんに責めてやろうかと思ったけど、ルークが真面目なのでやめた。
「リュウが1人殺った。 ワシは多分、もう残っておらんと思う」
平均寿命が300年、元気な人はあと30年は生きると言う。
だけど流石にもう残ってないだろう。
ソースはレミア。
レミアが東の森から居なくなってもまだレミアを探しに来てない。
5人も残っているなら探し当ててもおかしくない時間は経っている。
「つまり勝負は10月に入ってから?」
「残っておっても1人か2人。 北のドリアードだけでも水面下で居場所を分かっておれば問題ないんじゃ」
あとは80人でレミアやミザリーをソナーで探しまくるってことだろうな。
「北のドリアードを見つけて移動させることって出来るかな?」
ルークが俺を見て言った。
スッと肩にレミアが触れて、ルーク達が見えなくなった。
逆に消えていたミザリーが見えて首を振る…… そしてレミアの手が肩から離れた。
ボアっと景色が変わってルーク達が見えた。 ……そう、レミアとミザリーはこの屋敷の中でも姿を見せてない。
「それは無理みたいだよ」
人と関わってない北のドリアード、どんな人だろう。
「まぁ、4月に探しに行く約束だから会って来るよ。 それまで爺さんとミザリーには悪いけど、ウチでゆっくりしてくれ」
サンカルムはミザリーのテリトリー。
ただミザリーは基本的にはビジョンの森を出ないタイプのドリアードらしい。
逆にレミアは活発に動き回るタイプ、やはり若いからなのか?
俺とレミアが氷竜族の里に行くまでの期間は爺さんに、ポンタとシータ、ラザノフやドムフと、少し羅刹種との戦い方を教えてあげてほしいと頼んでる。
「ああ、ワシも孫と過ごすなんて夢にも思わなんだぞ。 もう思い残すことはないな……」
「リュウ!」
「何、ルーク?」
「手を合わせて合掌するな」
成仏しろよ、爺さん。
ーーーーー
次の日の朝、稽古後にサンカルムまで飛ぶ。
今回ルークの家に寄った理由の1つ、補助具を俺は2つ受け取った。
1つは俺用で小回りとスピードが上がるやつ、とルークには注文した。
もう1つはポンタ用で、練習すれば飛び回れるようになるって補助具。
それとラリィの日焼け止めクリーム試作品3号。
ちょっとだけ成分の比率を変えて、更に何とかのハッパのネバネバを入れたとか言ってた。
帰り道、昼間でも堂々と飛べるのは俺も爺さんもドリアードのスキルで消えてるから。
これならいつもより早く帰れる。
ちなみに俺の補助具は爺さんの飛ぶスピードより若干速い。
ただ小回りは微妙、練習が必要か。
サンカルムに着いてからの爺さんとミザリーの暮らし。
貴族街の俺の家に2人とも泊まってもらい、爺さんは夕方の稽古でラザノフ達と合流して羅刹種対策をしてもらう。
基本的にミザリーはレミアと同じように消えててもらう。
こんな感じで過ごして3日目、明日は鬼神のゼウスさん達との体術の試合。
会場は王族の剣術練習の稽古場。
夕食。
爺さんやドムフが居るので、いつもより多くの料理が並ぶ。
(注) ミザリーは水だけだけど、別にイジメをしている訳ではありません。
「リュウ、其方が明日戦うのは竜族とは本当か?」
「そうだよ、爺さん。 リュウさん、俺もリュウさんに勝てる目ってあるかな?」
俺に聞く質問じゃないな。
「なっ…… りゅ、竜族に体術で勝つじゃと?」
「俺には2つの必殺技がある、魔術のね。 それを使えば勝つ目も出てくる。 ……んでドムフの質問だけど、充分勝てる目はあると思うよ」
上手く戦えばだけど。
「マ、マジで? って言うか、リュウさんの必殺技、1つはゴルゾフ隊長を吹っ飛ばしたやつでしょ? もう1つは?」
「強力過ぎだから使えない必殺技。 内部で爆発するから後遺症とかやばそうだから使えないんだ」
「ちょっと待てリュウ。 そ、その必殺技2つとも、ワ、ワシに教えてくれ」
爺さんも戦いに参加だからな……
まぁ、そう思って皆んなとの実戦稽古をしてもらってるんだけど。
「ルークでさえコピー出来ない技。 1つは風の魔力を26以上、1つは火の魔力を24使ってるよ」
「ワ、ワシの倍以上の魔力……」
ポルカ先生が言ってたように俺達は奇跡の兄弟。
スキルを三代まで継承させる確率は…… 数学苦手だから分かんないと言っていた。
「そうか…… まぁ、ワシが居なくてもミザリーはルークが守ってくれる……」
寂しそうな爺さんの前には沢山の料理。
寂しそうなミザリーの前には水だけ(修行僧ではありません)。
「ポンタやシータはどう?」
「色々アドバイスをしながらやっとるよ。 シータには初めから盾を持つことを勧めた。 ……明日はポンタも出るんじゃろ」
「出るよ。 この国の兵団長と1回戦で戦う」
「そうか、体術魔術勝負なら人間では可哀想じゃの〜」
ポンタが有利過ぎるか?
「それでもジルザルさんは兵団長、いい勝負になる。 ……はず」
「まあ10月に響くような大きな怪我だかはせんでくれよ」
その辺りは審判として参加するシータも充分分かっている。
つまり明日は負けを宣告されるのが早くなるので、なるべく相手の攻撃を受けない戦い方が出来る俺とゼウスさんが有利のはず。
「分かっているよ。 まぁ応援でもしててよ」
「はい、私達もしていますね、ふふ、リュウさん」
レミアちゃん…… あ〜、2人きりになりたい……
ちなみに爺さんは参加しない。
いくら羅刹種で昔の神童でも、人間の年齢にしたら90は超えてる。 実戦稽古相手のシータやポンタにも反撃は当てないようにしてもらっている。
それでも毎日、俺は爺さんに疲れをとるマッサージを風呂上がりにしてあげている。
本人も体力の低下を感じているのか、さっきのようにルークに任せれば自分は必要ない、みたいなことを言うようになっている。
ミザリーの不安気な表情は、若かりし頃からロナインを見てきた歴史からか。
次の日。
王族の稽古場まで歩く俺と爺さんとドムフ、消えてるドリアード2人。
この時間にゾロゾロ歩いてる人が多いな〜っと思っていたら声をかけられた。
「リュウ、久しぶりだな」
見ると懐かしい顔、オルキンだ。
オルキン ユーリスの学校内での護衛。 俺の2個上。 友達にサーラと婚約したやつがいる。
「ああ、久しぶり。 どこ行くの?」
「道場だよ。 今日の試合の実況を頼まれたんだ…… リュウ、人間代表として頑張って…… いや、アイツだけには負けるな!」
大会の時のユーリス絡みのフォルマップルとのいざこざで、オルキンはポンタに恨みがあるのかも。
「ポンタか…… って言うか、誰にも負けねぇし!」
ポンタは片手でオーケー。
「ハハ、頼もしいな。 とにかくよろしくな」
学生の時より角が取れた? それとも俺の貴族に対しての角が取れたのか。
とにかくオルキンは走って行った。
王族専用の道場。
普通の道場と同じく板張りの床や壁、だけど少し広い。
入り口から1番奥に、戦う俺達の休憩スペースがあり、入り口側が観客達のスペースとなる。
王族が最前列で観戦してその後に護衛達、上級貴族などの顔が見える。
1番前の端っこにテーブルと椅子が置かれてオルキン…… と、何故かチチッパーが座っている。
チチッパー 第二王子の息子で現在7歳。 オブラートに包むと小太りでいつも何かを食べている。 ……え、包まないと? ……デブだ!
ただ動くとセンスある動きだった。
今でもわしゃわしゃと集まってくる人々、でも狭いので全員は道場に入れない。
本日は日曜なので学校の友達も来ると言っていた。
だけどミナリやポルカ先生は下級貴族なので、多分、道場に入れないはず。
長方形で普通の道場より一回り大きなこの道場、奥に参加選手が集まる。
「ジルザルさん、急遽の参戦、ありがとうございます」
「いや、俺もリュウのパーティーの人間には興味がある。 皆んな無詠唱なんて凄いよな」
俺、ルーク、ポンタ、正規のメンバーは無詠唱だ。
「そうですね。 ジルザルさんに1つアドバイス、アイツに近づく時は注意を」
「ちょ、リュウ! 何でバラすんだよ」
俺は必死で魔術名を思い出そうとしていた……
ブンブンするやつは…… 忘れた。
近づくと氷が出てくるのは…… 何とかサンクス?
「ポンタ、お前が俺に当たる時は、もう一度お前に恐怖を味合わせてやる」
ポンタは見る見る泣きそうになる……
「ガハハ〜、リュウはポンタにはいじめっ子になるでござるな〜、笑えるけど」
アンタも同罪。
「それでもワシはポンタとシータのために呼ばれたと聞いておるぞ」
泣きそうな顔で俺を見るポンタ、もう泣いておしまい!
「ハハ、それより1回戦はどうする?」
相談して順番を決める……
キャプトマン王子とオルキンが俺達に近づき声をかけてくる。
「鬼族のビーカルさん、それに鬼神? のゼウスさん、サンカルムにようこそ。 本日は楽しませて頂きますよ」
キャプトマン王子が上位亜人のゼウスさん達に声をかけた。
ちなみに今日戦うそれぞれのメンバーに、過去の出会いや出来事など事細かな情報を王族の使いが聞きに来ている。
「満足される戦いをお見せしましょう」
ビーカルさんが言った。
この後の1回戦で、このビーカルさんとラザノフが戦う。
あの時に負けたと言っていたラザノフ。
あれから4年近く経ったが俺もラザノフも成長期にどれだけ成長したかを証明したい。
「さぁ、1回戦はラザノフ対ビーカル。 資料によると4年前にストリートで戦った2人、その時はビーカル選手の優勢だったようです。 鬼族に対して2度は負けれないぞラザノフ、頑張れ!」
オルキンはラザノフを知ってると言うか、友達って言ってもおかしくない関係だからか…… 贔屓が過ぎるぞ!
「僕もい〜い? 僕ね、速く走るのはね、苦手だけどね、早く食べるのはね、得意なんだよ。 このお菓子もね、見てて…… モグモグ、モグモグ、ア〜、ほらね、もう無いよ」
「…………し、試合開始です」
チチッパー…… 相変わらずマイペースなやつ。
ラザノフ対ビーカル(解説リュウ)。
2メートルを超えたラザノフよりデカいビーカル、気になるのは鬼族のスキルだ。
試合が始まると静かにパンチを主体に打ち合う両者、それがどんどんヒートアップしてくる。
豪快に打ち合う2人、巨漢同士の殴り合いは迫力がある! ……が、一発一発の破壊力はラザノフが優っている。
……と、ここでビーカルさんが一回り大きくなる、鬼族のスキルか⁈
迫力の殴り合いで血が吹き飛ぶ。
パワーでは互角になってもやはりラザノフが有利に見える、そう思った瞬間、ビーカルさんのツノがビューンと伸びてラザノフの左肩を貫いた!
しかし、全く動じないラザノフが左肩に刺さってるツノを掴んで強引にビーカルさんの頭を引き寄せる!
そして、打ち下ろした右ストレートをビーカルさんの額に当てた!
ズドン、っと重そうな音は意識を失うほどの一撃!
ラザノフは強いと思っていたけど恐ろしいほど成長してる!
ラザノフの圧勝!
ズドンズドンとニコニコで走ってくるラザノフ、スエメルさんの横に滑るように座った。
スエメルさんも満足そうだけど、ハッとして高回復薬を渡した。
でも…… ラザノフは高回復薬を飲まないみたいだ。
ラザノフが高回復薬を飲まない理由は決勝戦、その前に飲みたいのだろう。
つまり、ラザノフは決勝に行く気だ!
次の試合は俺とパミヤちゃん、解説は引き続き俺。
「次の試合はパミヤ対リュウ。 パミヤはサンカルムの学校へ通う剣術クラスの特待生。 かなり強い後輩と聞いてます。 一方リュウは未だに謎多き人物、突如このサンカルムに竜族、ラザノフと現れてギルドの武闘大会で有名になりました。 まぁ、彼のことで話すのことは多いので今回はこの辺で…… チチッパー君、君はリュウに剣術を習うんだよね?」
「……あのね、僕は王族なのにね、リュウ先生はお菓子とか持ってると怒るんだよ。 お菓子はね、甘いやつ」
「大丈夫、私も歳上だけど何回も怒られてるから」
何を慰めてるんだか。
試合が始まる。
パミヤは左足を前に出してリズムをとり、やや開き気味にファイティングポーズをとる、まるでタイのキックボクサーみたいなスタイル。
が、攻めて来ない……
それならと俺が前に出ると、パミヤは過剰に後ろに下がった。
前回のパミヤとの戦いで、俺はウインドカッターを使い、パミヤはその後しばらくは足の痛みが酷かったと言っていた。
なのでウインドカッターを警戒してるのだろう。
小声で話す。
「魔術は使わないから攻めて来い」
えっ、って顔のパミヤ、しかし理解したのか攻めてくる。
ローからミドル、ローからハイのコンビネーションなど、本当にキックボクサーのような攻撃。
軽くローを返すとジャンプ一番交わしてあびせ蹴りなど蹴り技が上手い。
見ている観客からパミヤの連続技に感嘆の声もあがる……
が…… やはりウエイトが違う。
俺とラザノフのウエイトより差がある俺とパミヤのウエイト、一発が軽い。
軽く返すパンチやキックをパミヤは上手く交わすが、攻めてる時はどうか?
パミヤのミドルを交わさずに受けて、その足をとっての投げ!
足を離さずに道場の床に叩きつけた。
受け身をとったパミヤだが、まだ足は離してない。
パミヤも腹筋を使っての蹴りなどもがくが、俺の指力、握力は常人の比ではない。
参ったを言う間も与えずに、2度目の投げ!
バンっと床に叩きつけられたパミヤ、同時に観客から悲鳴もあがる。
一度目よりも受け身が甘かったパミヤ、恐怖の目になる。
が…… ここでシータが試合を止めた。
キャ〜っと喜ぶ女の人、知ってる顔が多い。
さっさと戻って何事もなかったように座る。
「リュウ君、結婚してとか好きとか言われてなかった?」
「いや、ここまで聞こえたでござるぞ」
「ふぅ、2人とも余裕だね。 ラザノフ、次は俺とやる?」
急に黙った2人、スエメルさんがゴクリと喉を鳴らす……
「まだ分からん。 拙者はこの戦いをリベンジマッチと想定しているからな。 出来ればリュウとは決勝で会いたい」
それだとラザノフはゼウスさんと戦いたいのか。
面白い戦いだと思うけど、お互いに無傷では終わらないはず。
「まぁ次の試合を見てみようぜ、ドムフだって舐めたもんじゃないぜ」
さっき受けたミドルがドムフの蹴りなら、俺は今頃夢の中だろう。
「さぁ次の試合に移りたいが…… 黄色い声援が止みません。 チチッパー君、君の先生は昔からモテるんだよ」
「僕ね、ラリィちゃんが好き。 ラリィちゃん1人でいいの」
お〜っ、チチッパーのカッコいいところ見つけた。
……って言うか、オルキンは余計なことを言うな!
「さぁ落ち着いたところで次の試合、ゼウス対ドムフ。 ゼウス選手は鬼族の中でも希少な鬼神とのこと、まだ広まってない新しい種族と言うことか? 対するドムフ選手は氷竜族。 なかなかのイケメンでリュウの家に居候しています」
「僕ね、学校に入ったら弁当2つママに作ってもらうんだ。 ……大きいやつ」
「そ、それは楽しみだね……」
オルキン…… 苦労してるな。
ドムフ対ゼウスさんの試合が始まる。
予想通りスピードで圧倒して攻め込むゼウスさん、ただドムフは防御を固めて隙を伺う。
防御をすり抜けて当たるゼウスさんのパンチ、でもやはりウエイト差が大きくドムフに致命傷を与えられない。
カッ、っと左右の額の目が開く!
バスン! バスン! っと、さっきまでとは違う音でドムフを削る!
ドムフの防御が追いつかない!
何発もいいパンチが当たり、ふらっとしたドムフに審判のシータが覗き込む。
が、止める間もなくドムフの懐に潜り込んだゼウスさんが……
決めにきたゼウスさんの掌底が当たったのは間違いない。
ただドムフは更に踏み込んでゼウスさんの頭を抱えたのだ!
掌底を喰らって一瞬、体が浮いたドムフだが、ゼウスさんの頭を抱えているので踏ん張れた。
そこからすかさずドムフの膝蹴り! 膝蹴り、連続の膝蹴り!
しかし…… 鼻から血が吹き出して、その一瞬だけドムフの動きが止まった。
バチーンっと吹っ飛ばされたのはドムフ!
見るとゼウスさんの真ん中の額の目が血を流して開いている。
「勝負あり!」
シータの声で試合が終わる。
肩で息をして血だらけのゼウスさん。
思わぬ苦戦で真ん中の目まで使ってしまった感は否めない。
それにしてもドムフ…… 強かった。
倒れてるドムフに高回復薬を飲ます……
次の試合の後はこの道場にテーブルを持ち込んでの昼食。
王族の手配で料理が運ばれる手筈になっている。
きっと会場には入れないミナリとポルカ先生を身内枠として側にいさせよう。
入り口から外に出ようとする間に、キャプトマン王子の嫁軍団に声をかけられた。
「リュウ様、頑張ってくださいね」
ヤモモさん…… スモモ、大きくなった?
「どうする? この中に貴方と結婚したい女の子が居るみたいよ」
ターミナさん…… アホか。
「ターミナさんの優勝予想は誰ですか?」
話を変えてみる。
「もちろん貴方よ」
少し照れた感じでターミナさんが言った。 ……珍しい姿だ。
「ありがとうございます、頑張りますね」
話を区切って終わらせるが……
その後もセシルさんやコーサやミラーに話しかけられて中々外に出れなかった。
もう試合が始まってるよ……
ジルザルVSポンタ、解説はリュウが居ないので拙者が行う。
試合が始まるとポンタが下がりながら氷の矢を飛ばす。 ……が簡単に避けられる。
この試合、ポンタが不利に思う。
理由は道場なのでポンタの得意なランザマイノールは使えない、スペースが足りないのだ。
それに火系の魔術、観客方向への魔術など、制約が多い。
コールドサイクスはリュウにバラされたし……
が、観客を背にして連発の氷の矢!
避けるジルザル殿の隙を見て近づいたポンタの右ストレートがヒットする!
しかし、ジルザル殿も応戦、殴り合いでは自力に勝るジルザル殿が押す……
ドカーンっと吹っ飛んだのはジルザル殿。
ポンタのコールドサイクスが上手く当たった⁈
いや…… 完全には当たってなかったか、ジルザル殿が起き上がる。
今ので決めてほしかった。
もう一歩踏み出す勇気……
そう、あれはスエメルが氷竜族の里に行ってしまう前の日のことだった……
「ラザノフ〜、泣くなよ〜、なっ、また遊んでやるから」
あの頃のスエメルは男まさりで、実際に同じ年くらいの男より強かった。
「スエメル〜、行かないだよ〜」
あの頃の僕ちゃんは僕ちゃんだった。
「行かないでよ、でしょ。 ……本当に泣き虫なんだから」
「じゃあ、大きくなったら結婚してくれる?」
何が『じゃあ』なのかは聞かないでくれ。
まだ拙者は小さいんだ、仕方ないでござる。
「何でそうなるか分からないけど分かったよ〜。 アタシが20歳になったら里に向かいに来な」
「わ〜い、わ〜い。 皆んなに言ってくるね」
こうして逃げ場をなくして攻め続けた拙者、小さいながらもナイス判断だった。
そう…… 一歩踏み出す勇気が大事……
って、ポンタが倒れてるじゃん!
「勝負あり!」
み、見てなかった……
外に出た俺は道場の周りを探すと、人気のない裏手の方から数人の女の人と2人の男とすれ違った。
視線が不自然だったので気になったが……
ミナリとポルカ先生はその先に居た。
綺麗な服が2人とも汚れてる……
近づくとミナリは涙を溜めた。
「何か、意地悪された?」
貴族制度とは意地悪制度と言っても過言ではない。
「ふふ、大丈夫。 ね、先生」
「うん、気にしないで。 それより1回戦の勝利、おめでとう」
「気になるんだけど」
俺を気にいる女の人は多い、それは俺も認める。
けど、成り上がりなのでアンチも多いのだ、特に男達。
最近は王子達に認められてるのが認知されてアンチ自体が大人しくなったと思ってたけど、立場の弱い2人にその歪みが向かってしまったか。
「食事だけどこっちに来ない? 身内枠で」
「え…… 向こう側?」
「そう、道場の奥」
奥は出場選手にスエメルさん、クラルさんとラリィに爺さん、レミアとミザリーがその奥で消えている。
「よ、汚れてるからいいわ」
ポルカ先生のドレス…… 俺がプレゼントしたやつだ。
「大丈夫」
っと言って2人を抱えた。
そしてジェットをスケートのように使って自分の家に向かった。
元々、王族エリアの端にある俺の家、ジェットを使って走れば5分で着く。
降ろしてレミアの部屋へ……
「ちょっとミナリ、離れて」
しがみついて降ろせない。
「離れたくない……」
元気で明るいミナリがまた泣き顔……
仕方ない、そのままレミアの部屋に連れて来た。
レミアの部屋 俺の部屋の隣。
バッチリ仕切り壁が作られて、おまけに入り口のドアまで新設してある。
「ドレスなら沢山あるから好きなやつに着替えて」
「これって…… レミアさんの……」
ミナリ…… また涙を溜めて……
「俺が買ったけどまだ着てないやつも多いんだ。 小さいサイズもあるからポルカ先生も着てみて」
「だ、だめよ。 人の服を勝手に……」
「大丈夫、そんなので怒るような子じゃないから」
レミアはチョ〜おおらかな人。
理由を話せば喜んでさえくれる。
「でも、勝手には無理だよ、リュウ君」
「じゃあ、ちょっと待ってて」
ダッシュで戻ってレミアに聞いてくる。
そっとトイレにレミアを呼び出して、理由を言って借りる了承を得る予定。
ものの5分で道場。
道場ではまだテーブルが置かれてる最中。
料理もまだ運ばれてない。
「リュウ…… 負けちゃったぞ!」
ポンタ…… 回復薬を飲んだのか無傷に見える。
「相手はこの国の兵団長、それとも俺とそんだけ戦いたかったって言うなら最後に相手してやるよ。 まぁ、回復薬はもう効かないだろうけどな」
「や、やる訳ねぇだろ! リュウなんか負けちまえ!」
「ガハハハ〜、またいじめられてるでござるな〜、ポンタ」
追い打ちをかけるから泣きそうになるんだと思う。
いや…… ポンタは泣いた。
「見てなかったから後で反省会をしよう。 ラザノフ、ポンタの勝つ目はあった?」
「…………」
ラザノフも見てなかったのか?
「ハハ、充分、勝てたと思うよ。 それより俺達の試合の分析もしてくれ」
ゼウスさんが言った。
「じゃあ、最後にそれぞれの試合の反省会をしよう」
話を区切ってレミアの近くへ……
そっと呼び出したけど…… ゼウスさんはきっと気配に気づいてる……
トイレに入ってレミアに説明する。
レミアはミナリと会ってるし、ポルカ先生のことも話したことがあるので知っている。
快くレミアの了承を得たので戻る。
家まで急いで戻って2人の元へ。
王族と顔を合わせて食事することになるかも知れないので、2人にはしっかりとしたドレスを選んでもらった。
「もう、2人で寝てるの……?」
ミナリの質問。
「何言ってるの、女神様と一緒に寝るわけないじゃん」
人族になっても15歳…… 数年はおあずけ状態……
「それより、さっきみたいなことは普段からあるの?」
「下級貴族の宿命ね。 それに貴方は目立つでしょ、その貴方と仲良くしてれば妬まれるわ」
敵は外だけに居るわけじゃないってことか。
「奴等からの嫌がらせはどうなの?」
「貴方は上級貴族よ、その約束を中級貴族が破るわけないでしょ。 ……まあ貴方は身分関係なしに怖いけど」
今、思い出しても怒りが込み上げる。
日常的にポルカ先生を叩きやがって……
「ミナリは大丈夫?」
「全然大丈夫。 学校でもリュウ君が居ないときは嫌がらせをしてくる人も居るんだよ」
「まぁ…… 想像はつくけど。 あまりに酷いときは言いなよ」
「うん…… でも女の嫌がらせだから…… それにもう直ぐ卒業だし」
平民ではなくなったことで貴族の子は堂々と告白してくるようになった。
平民のときはサーラとかリシファさんとか少なかったのに。
まぁ、ミナリも貴族だけど。
「リュウ君、今日は怪我をしないように頑張ってね。 それともう直ぐ卒業なんだから休んじゃダメよ」
「今日はジャンセル先生は?」
「補習の生徒の相手をしているわ。 問題児は何処にでもいるものね」
「だね。 普通にやってれば出来ると思うんだけどね」
「その言葉、本当?」
「いや…… ジャンセルで」
プフッとポルカ先生が吹いたところで道場に戻ることにする。
道場内で昼食を食べれるのは、王族と出場者の関係者だけ。
他は外で炊き出しをしている。
流石に王族が用意したという豪華な食事を食す。
その後のティータイムで王族が話し出す。
王族の第二王子、カージナルが俺に話しかける。
「リュウは上位亜人の知り合いが多いな」
王族にだけは俺の出生は言ってある。
リズーンの貴族の次男で、ナラサージュの貴族の養子になったと言う設定があるので協力してもらう必要があったからだ。
「竜族だけですよ。 鬼族には襲われただけだし」
「ハハ、そうだったね。 それにしてもラザノフ、見事に逆転したな」
ゼウスさんがラザノフを見て言った。
ちなみにゼウスさんは高回復薬を飲んだ。
その理由は、真ん中の目のスキルは発動することで傷つくので、回復させればまた発動出来る。
しかし、回復薬は一度目しか効かないので、実質もう1回だけ、1日に最大2回のスキルと言うことになる。
「リベンジマッチ、ゼウス殿、次は拙者とやろう!」
この2人にやられてるラザノフ、体術ではウエイトを含めてラザノフ有利とみた。
「ハハ、済まん。 俺もリベンジがしたい。 リュウ、やろう!」
なるほど…… ラザノフと違い、あっさりと高回復薬を飲んだと思っていたけど…… よっぽど大会の負けが悔しかったのか。
「ああ、やろう!」
こうして準決勝の試合の組み合わせが決まった。
第一試合に俺対ゼウスさん、第二試合にラザノフ対ジルザルさん。
少しの昼休みの後に試合をする。
「さぁ、午後からの第一試合はリュウ対ゼウス。 やはりストリートでも戦ったことのある2人、その時はゼウス選手が優勢だったとのことです。 それから3年。 リュウ、ラザノフはリベンジを果たしたぞ、お前も続け〜!」
「僕ね、動くの嫌いだけど食べるの好きなんだよ、知ってる?」
「う…… うん、見れば分かるよ」
オルキン…… 失礼なこと言ってるぞ!
試合が始まる。
ゆっくりと探るようにパンチを出し合うが、当然、当たらない。
徐々に激しさを増す打ち合い、額の両端の目が開いても互角の打ち合いが出来るのは、口から魔術を織り交ぜてるからだろう。
試合が動いたのは口から魔術のファイヤースネーク、大きく避けたゼウスさんに隙が出来たのだ!
このチャンスは逃さない! っとばかりに虎峰を胸に打つ!
……が、片足を一歩下げて裏拳で弾いたゼウスさん。
前回の戦いがあるので対策されてたか⁈
カッと目が開いたと思う暇もなく、俺は道場の壁にぶち当たって倒れた。
シーンとした道場、ドムフは数秒は持ったのに俺は速攻で鼻血が吹き出る。
……が、早く立ち上がった。
試合を止められると思ったけど大丈夫だったのは、早く立ち上がったからだろう。
何故ゼウスさんが詰めてこなかったのかは分かる、虎峰の連発が怖かったのだ。
でも、俺としては助かった。
詰めて来られたらシータが止めてたかも知れないから……
もう瞬間移動のスキルはない。
ここからは互角!
ラザノフは思う。
今の場面、ゼウス殿の掌底がリュウの胸を襲った。 ……が、リュウは咄嗟に掌底と自分の胸の間に右手を挟んだ。
それで威力を半減してなければ、リュウは立てなかっただろう。
近づいて打ち合う2人、だけどダメージを受けたリュウにいつものキレはない。
しかし、リュウは強引にさっきと同じ形で虎峰!
これは悪手! っと思った通りにゼウス殿はさっきと同じに半身の裏拳で弾く。
そして掌底!
……が、リュウも真似するように半身の裏拳で弾いた。
流れるように掌底返し!
スッパーンっという音から打ったのは虎峰と分かる。
技を真似たり、破られた技を同じように使いワナを張るのはリュウの得意技だ。
壁にぶつかって倒れるのも同じ、早く立ち上がるのも同じだが…… ゼウス殿の血は口からガハッと流れた。
「ストップ!」
っと言ってシータが止めたが…… 心配そうに覗き込んだのはリュウのほう。
「大将、鼻血が止まらねえ」
壁に当たった時にぶつかったか。
ゲリールをかける暇もなかった⁈
「もう止まるから大丈夫。 ってか俺の負け?」
「いや、向こうのダメージもデカい。 この試合を続けるとマズい気がする。 だから俺の判断で引き分けとする」
リュウにとっては不運、チャンスな場面ではあった。
しかし、リュウも掌底を喰らってあれだけ吹っ飛んだ、ダメージはあるはず。
そしてゼウス殿も虎峰をまともに喰らった、タフな鬼族でも次は……
「ゼウスさんはそれでいい?」
「ああ…… だけど不完全燃焼だなぁ」
確かに…… ゼウス殿は王族に強さをアピールしなきゃいけないが、もう充分かも……
「じゃあ、ゼウスさんの勝ち上がりでいいよ」
「いや、もう回復薬がない俺はここまでにしとくよ」
リュウの評価は王族の中ですこぶる高い。
フォルマップルからの脱走劇はザッカー殿達により、大袈裟に王族に伝わった。
ダンジョン攻略にケガを押してのギルドの武闘大会の個人戦の優勝、人間が王の国だけにリュウはこの国の誇りだろう。
そのリュウと引き分けならゼウス殿も防衛に加わることになるはず。
決勝はリュウ対拙者、お互いに手の内を知ってる者同士の戦い。
「さぁ、次の試合はサンカルムのジルザル兵団長とラザノフ。 土竜族、ラザノフはスキルを使わずにここまで勝ち上がって来ました。 一方、ジルザル兵団長は無詠唱の変なやつを見事に撃破、変なやつはその後に泣いております。 チチッパー君、男の子が泣いちゃったんだけど、どう思う?」
ポンタへの恨み、俺以上。
「僕ね〜、甘いもの食べればいいと思う。 だってラリィちゃんも甘いもの好きだもん」
「それなら変なやつ……」
言いかけて止めたのはラザノフがギロッと睨んだから。
何故かラザノフに慕って素直なポンタ、コンビを組むことも多いのであまり過ぎるとラザノフに怒られることになる。
さて、ラザノフ対ジルザルさん。
ラザノフ相手では当然の如くヒットアンドウェイで試合を運ぶジルザルさん。
……が、珍しくガードを固めて圧をかけるラザノフ。
そして隅に追いやり右フック!
ガードごと粉砕の一撃に、シータが慌てて止めようとするが間に合わない。
次の一撃を顔面に喰らったジルザルさんは、前のめりに倒れた……
「しょ、勝負あり、大将、回復薬!」
慌ててるシータ、俺は回復薬を飲んだので持ってないんですけど……
誰かが飲ませて意識はあるジルザルさん。
でも、寝かせておく。
「済まんでござる、ジルザル殿……」
「いや…… たった2発だけだった…… この戦い、化け物が揃ってる……」
青鬼のビーカルさんでさえ竜族2人と俺とゼウスさんとは1枚実力が違う。 ……まぁ、ドムフはハマった感があるけど。
人間のジルザルさんがよくあの変なやつに勝てたものだ。
「リュウ、本気でいかせてもらうぞ、あの時以来な」
「え〜と、俺がラザノフにストーカーされて襲われちゃった時?」
「……初めて会った時と言ってくれ」
リーブルはこんな強いやつばかりなのか! って思ったものだ。
「俺も本気で行くさ……」
冷静に分析すれば分が悪いか?
まぁ、勝ち方はある!
「決勝戦はラザノフ対リュウ、親友同士の対戦。 今、2人は何か話してましたがチチッパー君、印象に残る友達の言葉ってある? 私は卒業の時に友人から『オルキンと友達で良かった』って言われたんだ」
その友達がサーラの結婚相手なら、オルキンもこの戦いに参加させれば良かった。
「あのね、僕ね、この前『チチッパーは太っちょ』って言われたんだ〜。 それで帰ってからママに『太っちょ』って何? って聞いたら『太ってるって意味よ』って聞いたけど、その時は分からないからダメージがゼロだったんだ。 ……凄い?」
オルキンは、コク、コクと小さく二度頷いた。
チチッパーは独特の世界観があるよな……
さて、目の前のラザノフ、舐めているのか土竜化はしていない。
試合が始まり、仕込んでいたウォーターカッターを使う!
ドヒューンとラザノフに絡まるがラザノフは踏ん張る。
が、ジェットを使って詰めている俺の膝蹴りがラザノフの顎辺りにヒット! 巨漢でも勢いよく倒れる。
得てしてのマウントポジション、膝でガッチリとラザノフの腕は押さえて……
バンッと腹筋を使って返されたのは、あの姿のパワーだから…… ラザノフの土竜化。
何故、初めから土竜化しなかったのは知らないけど、今の攻撃でだってラザノフを削っている。
その証拠に口から血が流れ、肩で呼吸をしてる。
虎峰を仕込みながらチラッとシータを見る。
そしてこの行為がラザノフを焦らせる。
まだ全然大丈夫アピールで無策で突っ込んでくるラザノフ、ブンっと振られた右フックを交わして虎峰!
スッパーンっといつもの音はしたけど、ラザノフは直前に腕をくの字にしてカバー。
数メートルは滑るように下がったけど倒れずにいる。
ただダメージはあるはず……
また虎峰を仕込みながらシータを見つめてラザノフを見る…… が、今回は焦って突っ込んで来ない。
つまらんやつ……
もう一度シータを見てラザノフを指してみた……
ラザノフはシータを見て首を振る、が、俺も同時に首を振ってみた……
またもや引っかかって突っ込んで来るラザノフ、右フックを交わして虎峰!
が…… また腕をくの字にしてカバー、おまけに反対の手で俺の手首を捕まれた。
スッパーンと音がして俺まで引きずられる。
そして勢いそのままにラザノフの一本背負い!
俺はこの時、策士策に溺れるとはこのことだな、と冷静に分析した。 ……その策士は俺だけど。
まぁいい、土の盾で…… ってこんな一瞬じゃ魔力は集まらない!
バキッと床の板が折れるほどの衝撃!
だけどクッション代わりになったのは俺に運があった。
未だに俺の手首を離さないラザノフ……
手首返しを行いつつ、反対の手をラザノフに近づけた。
ラザノフは焦って自ら手を離す、虎峰が怖いのだ。
労せず手首は解放されたけど背中と首の痛みはある。
だけどラザノフを見れば本当に試合を止めた方がいい、っと思えるくらいに肩で息をして疲弊してる。
虎峰2発だ…… ラザノフの右腕から肩甲骨に抜けてダメージがあると見た。
突っ込んで行くとやはり左からパンチをしてきた! 予想通りに潜り込むように交わして鉤突き! ドスンッと脇腹にめり込む一撃!
グムンッと変な声を出したラザノフだが、右手で俺を捕まえようとする。
その手を裏拳で払って中腰のラザノフの顔に左ハイキック!
パーンっといい音で決まったと思っていた俺の軸足を、偶然かは分からないけどラザノフの右手が触れた。
ガシッと掴まれて宙吊り状態になるが、腹筋を使って反対の足でも攻撃…… が、その足もラザノフの左手が掴んだ!
なるほど…… 痛んだ右手では掴んでられないから左手で掴みにきたのか。
この状態はマズい!
ジェットで噴かすがお構いなしにラザノフは俺を床に叩きつけて更にプロレス技のジャイアントスイングで俺をグルグルと回してから吹っ飛ばした!
ドカンっと衝撃があったのは覚えてる……
「スエメルお婆ちゃん、またラザノフお爺ちゃんが英雄リュウに勝った話をするんだよ」
「ふふ、そうね、ラザノフももうボケてるから私も1日7回はその話を聞くわ」
「ボケすぎだよね〜、ラザノフお爺ちゃん」
「でも、あの時のラザノフはカッコよかったな……」
「過去の栄光だね、スエメルお婆ちゃん」
「……ウ、リュウ!」
誰かが叫ぶその声で、俺は気が付いた。
気を失ってラザノフがボケちゃう夢を見てた⁈
久しぶりの敗北……
「大丈夫か、リュウ?」
キャプトマン王子……
「ふぅ…… ええ、見事にやられました」
「いや、竜族を体術で圧倒していたのだ、人間族として誇らしいぞ」
圧倒しても最後は負けてるし……
ラザノフは……
ラザノフはスエメルさんの近くで横になっていた、歩いて近づく。
「まだ回復薬を飲んでないの?」
ラザノフは試合前にも飲んでない。
「直ぐに飲んだでござる…… だけど肩の下辺りの痛みが抜けんでござるよ」
「それに少し気持ち悪いって……」
スエメルさんが付け足した。
「虎峰2発、あれは防いでるようで、完全には防げてない。 まだ痛いなら病院に行くのもありだと思うよ」
「ああ…… 反省会が終わったら病院に行ってみるでござるよ。 ……リュウ、何故3発目の虎峰を打たなかった?」
「風の魔力が足りなかったからだよ」
本当はこれ以上はマズいと思ったから。
ラザノフは敵じゃない。
「そ、そうでござるか。 じゃあ、拙者の勝ちでいいでござるよな?」
「何言ってんの? 俺は死んだんだぜ」
記憶が少しでも抜けるのは、眠り以外では恐ろしい。
本当は俺は死んで、ここは天国で、俺に都合の良い世界なんじゃないかって思えてくる。
……って言うか、ミナリとポルカ先生の落ち込みが凄くて気まずいな。
俺に近寄らないのは自分より立場の高い女達が入り口付近で俺を心配しているからだろう。
入り口付近まで来て、心配をかけたお詫びと集まってくれたお礼を言った。
これで人々の観戦は終わり。
反省会。
この後にキャプトマン王子から夕食会へ招待された。
この身内枠に座っていた下級貴族のポルカ先生やミナリも参加する、もちろんミザリーとレミアも含めて。
先に王子への離宮に向かった一行。
レミアとミザリーも事情の知っているキャプトマン王子家族の前では姿を見せて参加出来る。
……っと言うことで、参加した人だけで短い反省会をする。
「じゃあ、チャチャっとやって王子の離宮に行こうぜ」
まだ夕方だけど、凄くお腹が空いてる。
「じゃあ、1人目、変なやつから。 俺は見てなかったけどラザノフは何かある?」
「リュウ! 俺はポンタだ!」
すっかりポンタが板についてきたな。
「……ちょっとだけ考えごとをしてて、見てなかったでござる」
「ハハ、何を考えてたの?」
「……昔のスエメルとの思い出でござる…… グヘヘ」
「じゃあ、まとめると、“昔の思い出にも負けちゃった変な僕” でいい?」
「フハハハ、いい。 腹も減ったしそれでいい」
ガクッと項垂れるポンタ、でも無詠唱という最強のピースを上手く使えなかったのだから仕方ない。
「次はビーカルさん。 ポンタ、何かある?」
「えっ…… その…… ラザノフ君が強かった」
それはビーカルさんにじゃねえ。
「俺はビーカルさんのスキルは知らなかったけど、ラザノフは知ってたの?」
「もちろん知ってたでござるよ」
「それじゃあ、あのスキルを見せ技にしてパンチで仕留める、なんてどうかな?」
「ハハ、それでも足りない、見事に3年前から逆転したな、ラザノフ」
ゼウスさんに言われて嬉しそうなラザノフ…… 確かに体術ではこの世界のトップクラスに居るかも。
「じゃあビーカルさんは、“スキルの使い方とあの日に帰りたい……” だ」
「ハハ、帰ってもラザノフの成長には追いつかないさ、だってビーカルはおじさんだから」
「ゼウス! ザヴァに悪さしてるって報告するぞ!」
仲間割れしたところで次。
「次はパミヤ。 俺が感じたのはパワー不足」
「それとパミヤちゃんは地味でござるな」
「ハハ、ミリアの方が目立ってるね」
「それじゃあパミヤは、“地味なパワー不足キャラを改善しましょう” だ」
「ちょ…… それだけですか?」
「……まだいいじゃん、俺なんか名前も変な僕なんだぜ」
慰め合う2人……
ただ、この戦いでは俺に対して見事な攻撃を仕掛けた男として、兵団長をあそこまで追い詰めた男として2人の評価が王族の中で上がって、最終的には2人とも下級貴族となることになる。
つまりこの戦いで1番得したのは2人と言うことになる。
「次、2回戦負けからはジルザルさん。 ラザノフとポンタ、戦ったけど何かある?」
「拙者は特にはないでござる」
そりゃそうか…… 追い詰めて2回殴っただけだからな。
「絶妙なタイミングで魔術を出されてしまいました。 強かったです」
ジルザルさんは魔術を使って勝ったのか……
「じゃあ、これからは“ジルザルなタイミングにやられた変な僕” でどう?」
「ガッハハハ〜、そりゃあいい」
ビーカルさん…… ラザノフに圧倒されてからの落ち込みから復活したか⁈
「また俺になっちゃうじゃん!」
ワッハハ、っと皆んな笑ったので次。
「次はゼウスさん。 ラザノフ」
「ああ。 拙者はリュウとやる時は同じ仕掛けを気にする。 つまり虎峰を裏拳で交わした場面、リュウは同じ仕掛けをしてきた、これはリュウの罠の仕掛けに多いパターンでござる」
流石に俺と最も戦っている男、特徴まで把握されてる。
「うん…… 嫌な予感はしたよ。 あの時もそうだったからね。 でもチャンスでもあったから止まらなかったんだ」
ゼウスさんが言ったあの時とは、最初に戦った時に俺が繰り出した一本背負いだろう。
一本背負いを頭部への掌底で破られた俺は、もう一度同じ一本背負いを仕掛けて投げることに成功してる。
「じゃあゼウスさんは、“走り出したら止まらない欲望男” だ」
ビーカルさんが大笑いしてるので次。
「俺だけど何かある?」
「ラザノフの時はふざけすぎと思ったぞ」
大笑いで涙が出てるビーカルさんが言った。
「でも、悪リュウが出てくるよりはふざけリュウの方がいいでござるよ。 悪リュウはタチが悪い」
「じゃあ俺は、“新種の竜族、ザ、ふざけリュウ” でいい?」
「ハハ、ふざけて負けちゃったけどそれでいい」
……痛いところを突く。
「じゃあ最後は優勝のラザノフ、強かった」
ラザノフの照れ笑い…… 可愛くない。
「あの場面、何故ラザノフは両足を取りに行ったんだ?」
確かに片足で充分な気もする。
「多分、右肩が外れてるでござる…… だから左で取りに行ったでござるよ」
脱臼?
「まだ外れてるの?」
「この後に病院に行くでござるよ」
それでもあの動き、竜族のタフさよ。
「じゃあ、最後にラザノフには何かある、ポンタ?」
「う〜ん。 痛みの怪物ラザノフ君、なんてどう?」
「分かった。 ラザノフはポンタの言う通り、“痛みの変態、僕ラザノフ” になりました」
リュウ〜! っとラザノフが怒ったところでふざけリュウによる短い反省会は終わり。
こうして仲間内での体術の大会は終わった。
そして大会を見ていた王族から、ゼウスさん達の防衛の参加が認められた。




