海の滝
第一章 旅立ち
第十話 「海の滝」
遂に兄が去り、この孤児院には3人しかいなくなった。
だけど休戦中なので、この孤児院出身の人達がよく遊びに帰って来るので、まだ3人の寂しさは感じない。
ローチェは今は体調が良いようだ。
2人だけなので体調が悪くなると、凄く心配になる。
今はいつもの場所で座って見ている。
虎峰の研究。 ……とその前に。
「ローチェ、俺はあっちの木に行くからね」
「何で? ここでも良いよ」
「この木はローチェの木だろ」
「ふふ、誰の木でもないよ」
「ここ見て」
俺が指した場所には、ローチェとナイフで削った痕がある。
「なっ、ローチェの木だろ、傷つけれない」
「ふふ、削ってる時点で傷つけてるけどね」
まぁ…… 確かに。
でも少し嬉しそうだ。
他の木に移動して虎峰研究。
前回、地(土)の魔力を針のように細長く作り、それを打ち込むと木に入り込む事は出来た。
孤峰は発勁と同じなら、俺の虎峰も木の中で爆発させればいいのか?
それなら火の魔力を使い………
と、遅くなり寒くならないうちに今日はやめておく。
次の日は蓮撃の練習。
蓮撃は120パターンまで増えている。
これ以上は必要ない。
組み合わせ次第で無限に蓮撃は続いていく。
今は何とか5セットまで続けれるようになっている。
今日は早目に稽古を終えて、先日兄と話した事をローチェに伝える。
丁度、ローチェもあの日の兄と同じ場所に座っている。
俺もあの日と同じ場所に腰を下ろす。
そしてローチェに裏の世界がある事。
俺は戦争には行かずにその地を目指す事を告げた。
「だからローチェも一緒に行かない?」
「どうやって?」
「飛んで行くよ。 見てただろ」
「フハハ、バレてたんだ。 面白かったね、ルークが鼻水を撒き散らした時……。 リュウが大笑いしてらから私達もつられちゃったよ」
「あの時も見てたのかよ」
「見てたよ。 ずっと…… 何年も」
ローチェの過去を俺は知らない。
だけどシスターは知っている。
やっぱり気になる……
「ローチェは何で俺に付いてきたの?」
「分からない。 でもお兄ちゃんと同じ歳だから? かな」
俺の予想のハズレっぷりよ……
逆に兄の予想通りじゃん。
「それでどうする?」
「うん。 行きたい。 連れてって」
ローチェの安心できる笑顔…… ホッとする。
「それで俺は下調べとして海の滝に行ってくるよ。心配しないで」
「うん、どのくらいかかるの?」
「分からない。 でも2、3日はかかるかもね」
「そんなに…… 気をつけてね」
ーーーーー
午前零時。
こっそりと孤児院を抜ける。
一応、置き手紙は置いてきた。
内容は "取りに行きたい物があります。 2、3日かかるので心配しないでください" と書いた。
持ち物はナイフと腰袋だけ。
魔術練習をする場所まで歩いて行き、そこから飛ぶ。
帰りの方向が分からなくならないように、星の位置を確認しておく。 でも間違えても、敢えて南側に間違えれば砂漠しかないので問題はない。
海面から10メートル位のところを飛んで行く。
何時間かかるかわからないけど、ひたすら飛ぶ。
暇なのでここで兄から聞いた色々な話をしよう。
先ずグレイトの事。
グレイトは王都の孤児院に移動したけど、病院には半年待ってやっと通えるようになった。
しかし、行ったその日に緊急入院。
それから2ヶ月、グレイトは亡くなった。
ローチェも、病院の予約だけでもしといた方がいいかも知れない。
後は父さんの事。
今は休戦中だけど、前回の休戦は兄が産まれる1年前から俺が産まれる半年前まで、3年半続いた。
この戦争は200年続くけど、結構休戦や停戦を挟むらしい。
つまり兄は運良く、2歳半まで両親と過ごす事が出来た。
無詠唱がある事が分かっていた訳ではない。
最初は普通に詠唱をして父さんに習っていたようだ。
でも兄が詠唱なしで魔術を出したので、父さんはとても驚いた様子だったという。
その後、兄は将来にかけ、なるべく無詠唱を隠すことを父さんから進言される。
兄はその教えを守り、そして俺にもその教えを伝えている。
……と言っても俺は詠唱は一つも知らないので、無詠唱をするな、と言われたら魔術は使えなくなる。
でも俺はジェット以外の魔術は殆ど使わないけど……。
まぁ、なるべくはなるべく、絶対ではない。
辺りがほんのり明るくなってきた。
今の時期は5時を過ぎる頃に明るくなる。
なので今は5時くらいか。
しっかり明るくなると、下に魚が跳ねているのが見えた。
という事は、この辺りまで来ると死海ではない、という事だ。
でも、ここまでは魚を捕りに来れないけど……。
ーーーーー
俺の前世の母さんは、白バイ隊員だった。
つまり父さんとは職場結婚。
休みの日には、デッカいバイクによく乗せてもらった。
俺はいつも景色とスピードメーターを見ていた。
今は何キロだろう? と、スピードが変わるたびにスピードメーターを覗き込んだ。
なのでジェットのスピードは72、3キロくらいに感じる。
あってるかどうかは分からないけど、そんなに外れてもないはずだ。
ちなみに母さんはここだけの話、スピード違反を繰り返していた。
捕まらなければ有り、らしい。
ぶっちゃけ白バイ隊員なんてそんなもん。
でも、俺はそんなお堅くない母さんが好きだった。
明るくなってから7、8時間は経っただろうか。
不思議な光景が前に広がっている。
地平線のような線が2本。
近づくと1本は雨雲で何処までも横に広がっている。
そして、雨雲の下に海の滝があった。
もう1本は雨雲の手前、50メートルのところに下から水が噴き出している。
こちらも雨雲と同じように何処までも横に続いている。
余りに不思議な自然なので、潜ってみる。
下から噴き出している場所から、陸側は分からないくらい深い、でも滝側は浅く、2メートルほど。
もう一度、深く潜ってみる。
光の魔術とジェットを使い、噴き出しの横をどんどん潜っていく。
耳抜きをしながら潜るけど、下は何処までも暗黒の闇。
諦めて噴き出しに乗ると、凄い勢いで戻って来れた。
途中、海老がチラッと見えたので後で取ろう。
さて、ここで発表がある。
魔力がない!
まさかここで無くなるとは思わなかった。
この先に裏の世界があるのに、もう俺の魔力は2割しか残ってない。
つまり、俺は帰れない!
まぁ、5割を切った時点で続行を選んだのは自分。
やれる事はやろう。
先ず滝を調べると、滝の長さは200メートルくらい? 下に行くとミストと上から落ちる雨でびしょ濡れになる。
そのまま奥へ進んでみる。
もしかしたら直ぐに裏の世界はあるかも……
しかし、1時間飛んでも前に裏の世界は見えなかった。
急いで戻って来て、滝側の崖にひっついた海老を数匹取ったところで俺の魔力は尽きた。
今は夕方。
夕陽が綺麗だ。
俺は陸側の海に浮いている。
滝側は滝に一直線だけど、陸側の海は驚くほど静かだ。 ……でもそれがちょっと不気味。
このまま夜を明かせば、魔力は回復しているはず。
ちょっと怖いけど、プカプカ浮いていよう。
海老にナイフをブッ刺し、少し回復した魔力でジェットを出し、コンガリ海老を焼く。
焼いている時に決意する。 殻ごとバリボリ食ってやると……、俺はそれくらい腹が減っている。
しっかり焼けた海老を食す、うんまい!
すっかり暗くなって結構、時間が経った。
さっき腹が満たされたので凄く眠い。
今は何時だろう?
ザーッと大雨のような滝の音だけ聞こえる。
真っ暗な世界と美しい星達に圧倒される。
……やっぱり見えないというのは怖い。
俺が素潜りでどんどん潜る時間を伸ばせているのは、あの海が死海でサメなどの大きい魚の恐怖がない事と、この眼が海の中でもしっかり見えるからだ。
今は怖くて仕方ない。
きっと、もう俺の周りにはサメやシャチがいるかも…… ヒィーッ!
ハァ、でも兄は俺なら裏の世界に行けるって言ってたけど、この魔力では無理だ。
魔力は年と共に増えるとか?
それとも鍛えれば増える?
兄が言ったように、魔力について少しだけ勉強しよう、少しだけ。
それにしても地球から見た月のような星が綺麗だ。
間違いなく月より大きく近い。
あの、星には…人族は…いるの……
俺は寝た。
下からの悍ましい気配に俺は飛び起きた。
正に飛び起きたのか、空にいる。
下を見ると大きな魚影が数匹…… こわっ!
冷静になれ。
俺の魔力は…… さ、3割しか戻ってない〜の〜。
冷静になれ。
下から噴き出している場所からだいぶ離れている。
あそこは多分、大きい魚は寄ってこない。
もう少し休んで、明るくなったらまた海老を取り、出発しよう。
俺は恐怖のプカプカタイム中。
変な汗が出てくる。
この汗は臭いはず、俺は絶対に不味い。
俺だったら臭い俺は食わない! …臭くなくても食わない。
朝、海老を取ってから出発する。
何とか恐怖のプカプカタイムは過ぎたけど、この魔力量では帰れない。
どうにか死海まで行けば、デカい魚の恐怖はなくなる。
頑張って飛ぼう。
結局帰って来たのは、次の日の昼過ぎになっていた。
魔術を練習する場所で降り、とぼとぼと歩く。
本当に疲れた。
死ぬかも知れなかった。
それでも今回色んな事を知れた。
そして、圧倒される凄い自然だった。
でも、まだ終わってない。
この後は多分、恐怖の説教タイムだ。
シスターは仁王立ちで待ち受けていた。
心なし目元が腫れてるのは、泣いていたのか。
凄い剣幕で叱るシスター。
何故か小さな頃にしたイタズラの事まで叱り出した。
終いには兄がやった事まで俺に叱ってる。
「ちょっと聞いてるの!」
「うん、ごめんシスター…… そんな事より海老を取ってきたんだ。 シスターとローチェで食べて」
海老は2匹残ってる。
ローチェは少し体調が悪いらしく、横になっている。
「す、凄い大きな海老…… もしかして私のために取って来てくれたの?」
一瞬、反応が遅れた。
「違うのね! それより、そんな事よりってどうゆう事よ!」
シスターの説教は続く……。
ローチェは横になっていたけど起きていた。
「お帰り、リュウ」
「ただいま、大丈夫?」
「うん、大丈夫。 危険はなかった?」
「ないよ。 行く前に言ったでしょ」
「うん。 それで何か分かったの?」
「まぁ、色々ね。 でも1番分かったのは俺が馬鹿で無鉄砲だって事」
流石に兄も、ナイフと腰袋だけで海の滝まで行ったとは思わないだろう。
「ふふ、今更? でもリュウは馬鹿じゃないよ。 少し頭が弱いだけ」
「その言い方のほうがすんごく傷つくから! 馬鹿でいいよ。 普通に頭のいいほうの馬鹿で」
「フハハ、何言ってんの〜。 訳わからな〜い」
大丈夫そうだ。
直ぐに良くなるだろう。




